説明

遺伝子導入動物およびその使用

本発明は細胞周期のセンサーとして作用するプロモーター(たとえばE2F1プロモーター)によって推進されるレポーター遺伝子であるルシフェラーゼを発現している遺伝子導入動物を提供する。ルシフェラーゼ基質であるルシフェリンは代謝される際に光を放射し、その光は哺乳類組織を通して伝達される。したがって、本発明の遺伝子導入動物モデルは、適当な可視化条件下で、癌細胞の特徴である主な細胞周期活性の場所のモニタリングを可能にする。これらの遺伝子導入動物は、癌に対する予防措置を試験するためおよび新しい治療法を試験するためのin vivoモデルとして有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願へのクロスリファレンス
本通常特許出願は、現在放棄済みである2002年10月4日出願の特許文献1の優先権の利益を主張する。
【0002】
本発明はヒト癌の動物モデルのin vivoモニタリングのための遺伝子導入動物の用途に関する。その遺伝子導入動物は潜在的な予防措置および治療法(therapeutic modality)を試験するために、および、癌の原因物質を決定するために、有用である。
【背景技術】
【0003】
腫瘍形成の分子機構の研究は、組織特異的または一般レベルで、さまざまな遺伝子を過剰発現したりしなかったりすることが可能である動物の使用によって近年大幅に促進されている(生殖細胞系改変)。しかしながら、動物モデルは従来、全身腫瘍組織量の定量が困難であり、また治療法候補の効果を評価するためのエンドポイントとして腫瘍増殖量または動物生存率のいずれかを必要とするため、扱いにくかった。小さい腫瘍または届きにくい場所にある腫瘍は触診によって診断未確定のままとなる可能性があり、さらにノギス計測ができない可能性がある。
【0004】
長年にわたって、この困難を克服するための新しい画像処理法が開発されてきている。小型化された画像処理装置およびレポータープローブが開発されており、疾患の動物モデルを研究する能力を改善している。これらの技術を、in vivo腫瘍発生、細胞の個別の集団に対する治療薬の効果、または特定の分子を連続的にモニタリングするために用いることができる。動物モデルにおける深部癌およびその転移の検出およびモニタリングのために、さまざまな非侵襲的高分解能画像処理法が現在利用可能である。その中に、陽電子放射断層撮影法(PET)、磁気共鳴画像法(MRI)およびコンピュータ断層撮影法(CT)がある。
【0005】
PETは代謝画像処理法を利用する癌の評価のための診断法である。現在、これらの研究の大部分はグルコースアナログである18F−FDGを用いて実施されており、18F−FDGは大部分の腫瘍に多量に蓄積されることが示されている。18F−FDG PETは、癌の診断、病期判定、および治療後評価に用いられる。しかしPETは、かなりのインフラ設備(サイクロトロン、支援する放射化学実験室スペース、通常は2基のPETスキャナ、および相当数の支援スタッフ)を用いた、時間がかかる技術および相当な専門知識および訓練を必要とする、費用のかかる試験とみなされている。陽電子標識放射性医薬の短命性のために、病院を拠点とするサイクロトロンから離れた場所への標識リガンドの配布はまだ18F−標識化合物に限られる。18Fの半減期は110分であり、これは18F−標識製品の発送を可能にするのに必要なだけの長さである。これらの理由のため、実験的治療法評価における多数の動物の分析には、この方法は扱いにくくかつ費用がかかりすぎる。
【0006】
MRIおよびCTは動物の体内構造を表示するために主に用いられる。構造MRI技術は核磁気共鳴から開発された。MRIは(CATスキャンとは異なり)X線を用いない非侵襲的画像処理技術である。その処理は強力な磁場を身体に通すことを含む。MRIスキャナは、異なる組織中に異なる濃度で存在する特定の分子からの放射を検出することができる。体構造間の流動的なコントラストを次いで視覚化することができる。目的の組織間に顕著なコントラストがある断面像が作成される。MRIは、達成できる解剖構造の非常に詳細な像のために、画像処理技術として用いられている。しかし、MRIは放射性同位体を必要としないが、高価な装置および時間のかかるデータの分析が必要であり、そのためMRIは動物モデルの高処理量分析には決して適さない。
【0007】
より近年、ホタルの発光酵素であるルシフェラーゼのin vivo発現を基礎とする生物発光画像処理が、移植された腫瘍のおよび非常に特異的な型の癌の非侵襲的検出に用いられている。移植された腫瘍は、しかし、これらの腫瘍の組織像はヒト疾患のものとは類似していないため、ヒト腫瘍形成の部分的モデルでしかない。さらに、これらの腫瘍モデルは前臨床試験において予測的でなかったため、これらの腫瘍の生物学はヒト疾患を再現しない可能性がある。特定の生物発光腫瘍モデルは、それ自身の本質として、動物モデルにおける多数の異なる型の癌の一般的試験のための手法としては有用性が限られている。
【0008】
したがって、本分野では、迅速で、経済的でかつ特異的な態様で、多数の新生物全体の異なる側面(たとえば、腫瘍感受性および発生、薬物または外部の原因現象に対する反応、など)を時間の関数としてモニタリングすることができる技術の必要性がある。本発明は本分野におけるこの長年の必要および要望を実現する。
【特許文献1】米国特許仮出願第60/416,001号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
動物を屠殺する必要無しに動物モデルにおいて癌進行をモニタリングすることの従来技術における困難を克服することが本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的を達するために、本発明は、細胞周期のセンサーとして作用するプロモーター(たとえば、E2F1プロモーター)によって動かされるレポーター遺伝子であるルシフェラーゼを発現している遺伝子導入動物を提供する。ルシフェラーゼ基質であるルシフェリンは代謝された際に光を放出する。光は哺乳類組織を通じて伝えられる。したがって、本発明は、癌細胞の特徴である主な細胞周期活性の場所を、適当な視覚化条件下で報告することを可能にする。そのような遺伝子導入動物はEluxと名付けられている。
【0011】
下記の実験は、Eluxマウスの有用性の原理の証明としてPDGF主導性の乏突起膠腫(PDGF-driven oligodendrogliomas)およびPDGF受容体阻害因子を用いた。これは遺伝子導入モデルであるため、どこかで腫瘍を生じる遺伝子導入またはノックアウトマウスのための読み出しとして役立つであろう。Eluxが細胞周期を感知する能力は、異系交配によって任意の他の動物に伝達することができる。Eluxを、癌を生じる固有の能力(たとえば、遺伝子導入、ノックアウト、トリ白血病ウイルス感受性)を持つさまざまな動物モデルと異系交配することは、それらの腫瘍の容易なモニタリングを可能にする。代替的に、Elux 癌モデルは発癌性化合物の使用によって作製することができる。このように、Eluxは癌発生をモニタリングするための貴重な道具であり、完全な多細胞生物における制御されていない細胞増殖の、高感度で、定量的で、かつリアルタイムの時間空間的分析を可能にする。これは抗腫瘍療法候補の試験および有効な治療計画の迅速な最適化を促進する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明は、基質の代謝に際して光を生じることができるタンパク質をコードするレポーター遺伝子に調節可能に結合した細胞周期感受性プロモーター配列の1つ以上のコピーを含む融合構造を発現している非ヒト遺伝子導入動物を提供する。これらの遺伝子導入動物の中で発生した腫瘍は、そのレポーター遺伝子のアップレギュレートされた発現を有し、さらに、適当な条件下でその腫瘍は光を発する。上昇した細胞周期活性は腫瘍形成における一般的性質である;したがって、レポーター発現を推進するための、細胞周期にアップレギュレートされるプロモーターの使用は、一般的に有用であり、特定の型の癌だけでなくほとんどすべての型の癌のモニタリングを可能にする。
【0013】
本発明は動物のいずれか1種に限られず、任意の適当な非ヒト哺乳類種を提供する。たとえば、マウスが遺伝子導入動物を作製するために好ましい哺乳類種である一方、モルモット、ウサギ、ブタ、ヒツジ、などを含む他の非限定的な例もまた適当に用いることができる。遺伝子導入動物の選択は、予想される腫瘍から生じる光が組織を横断して検出が起こりうる表面に到達する能力によってのみ制限される。
【0014】
組み換えDNA分子は、転写および翻訳調節情報を有するヌクレオチド配列を含みおよびそのような配列がタンパク質をコードするヌクレオチド配列と繋がっている場合、タンパク質を発現する能力があるといわれる。調節DNA配列およびタンパク質をコードするDNA配列は遺伝子発現を可能にするように結合している。一般的に遺伝子発現のために必要な調節領域は、プロモーター領域、および、RNAに転写された際にタンパク質合成の開始を合図するDNA配列を含む。そのような領域は通常、転写および翻訳の開始に関与する5'−非コード配列を含む。プロモーター領域はDNA配列と、そのプロモーターがそのDNA配列の転写を実行させることができる場合、調節可能に結合している。
【0015】
本発明において遺伝子導入動物は、1個以上の細胞が組み換えDNA分子を受け取った動物を示す。この分子がその動物の染色体に組み込まれることが非常に好ましいが、本発明はまた、酵母人工染色体(Jakobovits et al., 2000)のような染色体外で複製するDNA配列の用途も包含する。遺伝子導入動物を作製するには、組み換え構造または導入遺伝子を胚へ導入するための当業者に既知である任意の方法、たとえばマイクロインジェクション、細胞銃、トランスフェクション、リポソーム融合、などを用いることができる(たとえば、Wall et al., 1997を参照)。
【0016】
遺伝子導入動物を作製する最も幅広く用いられおよび好ましい方法は、受精卵の雄性前核へDNA分子を注入することを含むマイクロインジェクションである(Brinster et al, 1981)。組み換え構造/導入遺伝子を哺乳類およびその生殖細胞へ導入する方法は、最初はマウスで開発された。これらの方法は後に、家畜種を含むより大きな動物での使用に取り入れられた。接合子の細胞質へのDNAのマイクロインジェクションはまた、遺伝子導入動物を作製するために用いることができる。受精した卵母細胞の段階での組み換え DNA 分子 の導入は、導入された遺伝子が遺伝子導入動物のすべての細胞に存在するようになることを確実にする。導入された遺伝子はまた、遺伝子導入創始動物の生殖細胞にも存在するようになるため、その創始動物のすべての子孫がその導入遺伝子をすべての細胞に持つことになる。遺伝子をより後の胚形成期に導入することは、創始動物の一部の体細胞にその導入遺伝子が存在しない結果となる可能性があるが、そのような動物の導入された遺伝子が遺伝した子孫は、すべての生殖細胞および体細胞にその遺伝子を持つことになる。
【0017】
本発明の一実施形態では、E2F1遺伝子の細胞周期感受性プロモーター領域が細胞周期レポーターを作製するのに用いられる(図2A)。そのような選択の背景および説明は下記で考察する。本発明の別の実施形態では、細胞周期レポーター融合体は、レポーター遺伝子多量体または他のcis作用性調節配列の単量体とライゲーションすることによって得ることができる。これらの調節配列は、細胞周期活性について特異的アップレギュレーションを示さなければならず、および適当な条件下で光放射が可視化に十分なほど強力になるように、レポーター遺伝子の十分な産生を推進することができなければならない。
【0018】
正常な発生を確実にするためおよび組織恒常性を保護するため、増殖促進性および増殖阻害性遺伝子の組が細胞増殖および分化を厳重に調節する。その遺伝子における変化は、細胞形質転換および腫瘍形成につながりうる。変化が腫瘍形成に大きな役割を果たす2つの種類の遺伝子がある。第1の種類の遺伝子は、最初にレトロウイルスの研究において同定された発癌遺伝子である。これらの遺伝子の細胞対応物である、正常細胞増殖を促進する癌原遺伝子がある;しかし点突然変異によって活性化されるかまたは過剰発現するように誘導された場合、これらの遺伝子は優性に腫瘍形成を促進することができる。遺伝子の第2の種類は、細胞増殖を抑制する腫瘍抑制因子遺伝子であり、それらの突然変異または機能不活性化は腫瘍形成に寄与する。発癌遺伝子とは異なり、腫瘍抑制因子遺伝子は、活性の消失には療法の対立遺伝子の不活性化を必要とするため、劣性に作用する。さまざまなヒト固形腫瘍からの研究は、これらの2つの種類の遺伝子の協奏的活性が腫瘍発生および進行の根底にあることを示唆する。
【0019】
発癌遺伝子および腫瘍抑制因子遺伝子の両方を含む多数の遺伝子変化が癌と結びついている。ポジティブおよびネガティブ増殖調節シグナルの両方が、E2Fという細胞転写因子の転写活性を調節することによって、細胞周期のG1期の間に高度に調節された方法で作用する(DeGregori, 2002)(図1)。E2Fの活性化は、DNA複製が起こるように不可逆的に細胞運命を決定するのに十分であるため、E2Fは正常および腫瘍細胞の両方において細胞増殖の調節に決定的である。実際、E2F転写因子の活性化は、大部分のヒト悪性神経膠腫の悪性進行における鍵となる現象であるように見える。
【0020】
E2Fは、細胞分裂に必須である細胞遺伝子の転写調節のレベルに作用する。その中には、細胞周期調節因子(たとえばサイクリンE、サイクリンA、Cdc2、Cdc25A、網膜芽腫タンパク質(pRB)およびE2F1)、ヌクレオチド生合成に関与する酵素(たとえばジヒドロ葉酸還元酵素、チミジル酸合成酵素およびチミジンキナーゼ)およびDNA複製機構の主要成分(Cdc6、ORC1およびミニ染色体維持タンパク質)がある。E2Fファミリーのメンバーの1つであるE2F−1転写因子の活性の調節は、正常な細胞増殖調節の維持のために決定的に重要である。E2F1の発癌能力は、それが細胞増殖をポジティブに調節するいくつかのタンパク質をアップレギュレートする能力と関係づけられている。E2F−1の調節は少なくとも2つのレベルで達成される;翻訳後にRbのようなタンパク質と結合することによって、および転写的に。一例として、E2F1のRNAレベルはG1/S期境界で約15倍上昇する。
【0021】
本発明の実施形態のうちの1つでは、使用されるレポーター遺伝子はホタルルシフェラーゼ酵素である。ルシフェラーゼはその基質ルシフェリンの酸化の際に光を放出する酵素である。ルシフェラーゼ活性はin vivoで相対的に不安定であるため、ホタルルシフェラーゼ遺伝子(luc)は非常に多用途のレポーターを提供する。ルシフェラーゼmRNA量の減少は、数時間にわたるルシフェラーゼ活性の低下によって反映される。その発光は、その発現を調節する任意の調節配列の活性についてのレポーターとして作用するluc発現に関する測定法として、in vitro細胞研究に幅広く用いられている。低光量カメラは生物発光をリアルタイムで、および、生きた細胞および生物中において高感度で検出することができるため、ルシフェラーゼはレポーターとして特に有用である(Langridge et al., 1994)。
【0022】
本発明の別の実施形態は、ルシフェラーゼ酵素の改変型、異なる種に由来するルシフェラーゼ酵素、または動物組織を横断することができる光をそれ自体が発することができる任意の他のタンパク質、または適当な基質を供給した際に動物組織を横断することができる光を発することができる任意の酵素を組み込むことができる。そのようなタンパク質をコードする遺伝子は、本発明の細胞周期レポーター融合構造の一部として用いることができる。具体的には、本発明のレポータータンパク質は、シグナル減衰は放出される光の波長および放出する細胞の周囲の組織の特性に依存するという事実によって制限される。一般的に、青緑光(400〜590nm)は強く減衰される一方、赤ないし近赤外光(590〜800nm)が受ける減衰はずっと少ない。大部分の型のルシフェラーゼは青ないし黄緑の波長に発光ピークを有するが、発光スペクトルは十分広いため、組織の非常に深くに達する赤の波長(>600nm)にも相当な発光がある。マウスのような小型げっ歯類には、これは動物全体にわたるシグナル検出を可能にする。
【0023】
in vivoの光検出の限界は、生物発光レポーターの種類、動物の周囲の生理機構、および非常に重要なことに、光源の深さに依存する。皮下腫瘍は数百個の腫瘍細胞の下に検出することができる。典型的には、高感度電荷結合素子(CCD)カメラを用いて、動物の中の生物発光細胞は、細胞の数および位置に応じて、深さ1〜3cmから観察することができる。組織を通って伝搬する際の光子の散乱が、動物の体表上で検出される画像の空間分解能を制限する。概略で、表面上のスポットサイズまたは分解能は、表面の下の光源の深さにおおよそ等しい。物理に基づく拡散モデルを用いて、空間分解能においてミリメートルレベルに迫る改良を達成することができる。冷却付き科学グレードCCDアレイについては、シグナル検出の究極の限界は、画像撮影後のCCD画素読み取りに伴う読みノイズによって定められ、それはおよそ画素当たり数光子程度である(Honigman et al., 2001)。一部の場合には、動物の体表上の、毛皮、皮膚、またはおそらく汚染物の燐光が原因で動物から来る追加のバックグラウンド光が存在しうる。典型的には、このバックグラウンド光は低レベルであり、および深い低レベルの生物発光源の画像に対して悪影響しかない。多くの場合にはこの型のバックグラウンド光は適当な光学フィルターの使用を通じて除去することができる。
【0024】
生物発光画像法(Bhaumik and Gambhir,2002; Hardy et al., 2001)は、腫瘍発生の迅速および非侵襲的な測定を可能にする。同一の動物からの連続画像は、終点だけでなく実験全体を通じての時間的および空間的情報を可能にする。分解能はMRIまたはPETについてよりも低いが、しかし生物発光は、操作が単純であり、画像を取得するのが速く(1分未満)、数個体の動物を同時に分析することができ、および基質のルシフェリンは毒性でなくおよび免疫反応を誘導しないためルシフェリンからは動物に害が無いので、高処理量画像処理により適している。動物はガス麻酔から良好に回復するため、動物を繰り返し供試することができる。さらに、ルシフェラーゼ遺伝子は標的細胞と共に増殖する。したがって、外的シグナルは腫瘍−細胞負荷に比例し(数logにわたって)、および細胞集団が増殖するにつれて低下しない。
【0025】
本発明の遺伝子導入動物は、対応する非遺伝子導入動物と同じく、癌に対して感受性でない。したがって、本発明の遺伝子導入動物は化合物または外的損傷の発癌性を評価するのに用いることができる。さらに、既知の発癌性化合物,ウイルスまたは処理を本発明の遺伝子導入動物に適用することによって、特定の癌モデルを作製することができる。細胞周期レポーター遺伝子導入動物は、他の癌の動物モデルと異系交配することができる。本発明の遺伝子導入非ヒト動物を異系交配および同系交配することによって、導入遺伝子についてヘテロ接合またはホモ接合となる可能性があり、または二遺伝子導入(2個の異なる導入遺伝子を持つ)となりうる。この実施形態では、記載の適当な条件下で、体内の活発に増殖している場所で光を生じる内在的性質を持つ、癌になりやすい動物を作製することができる。これに関連して、そのような異系交配が可能ないくつかの型の動物癌モデルが報告されている。それらは、組織限定性であるかまたはそうでない、1個以上の発癌遺伝子を過剰発現する遺伝子導入動物を含む。別のもう1つの癌モデルは、1個以上の腫瘍抑制因子遺伝子が相同組み換えによって不活性化されたノックアウト動物を含む。さらに別のもう1つの型の動物癌モデルが、その動物モデルのすべての細胞,または特定の部分群を、ALV−A(TVA)に対するトリ細胞表面受容体を組織限定的にまたは非限定的に発現している遺伝子導入動物の作製を通じて、高力価A群トリ白血病ウイルス(ALV−A)による感染に対して感受性にすることによって作製されている。ALV−Aは、発現された際に腫瘍を生じやすくさせる外来遺伝子を含むように改変されている。上記の通り作製された、細胞周期レポーター遺伝子を持つ癌動物モデルは、(1)発癌遺伝子および変異腫瘍抑制因子遺伝子の発癌性を評価する;(2)発癌遺伝子間、および発癌遺伝子と腫瘍抑制因子遺伝子の間の、腫瘍形成における協調効果を測定する;(3)前癌病変、腫瘍浸潤および転移を含む、腫瘍発生の順序を研究する;(4)発癌物質候補を試験するためのバイオアッセイ系として役立つ、および(5)抗癌物質候補を試験するためのバイオアッセイ系として役立つ:ことに用いることができる。
【0026】
本発明に記載の遺伝子導入動物は、癌に対する予防措置を試験するため、および化学療法、放射線療法、免疫療法および遺伝子療法を含む新しい治療法を試験するためのin vivoモデルを提供する。さらに、本発明の遺伝子導入動物(およびそれに由来する細胞)はまた、腫瘍の増殖、播種、または転移を減少させるように作用する抗腫瘍物質といった抗腫瘍治療薬、および、新しい腫瘍の形成を阻害するように作用する化学予防剤を同定するのに用いることができる。上述の用途のすべてまたは一部は光放射を通じて細胞周期活性をレポートする能力を有しない動物癌モデルから得ることができる一方、生物発光の追加能力は、癌モデルのそのような用途を大幅に円滑化する。統計的に意味のある結果を得るために必要な対象動物ははるかに少数であり、および得られたデータは機能情報を明らかにするので動物試験を改良することができる。さらに、試験を最小限の疾患状態で実施することができるので、被験動物に対するストレスを劇的に減少させることができる。
【0027】
下記の実施例は本発明のさまざまな実施形態を説明する目的で与えられ、およびいかなる形でも本発明を制限することは意図されない。本実施例は、ここに記載される方法、手順、処理、分子、および特定の化合物と共に、好ましい実施形態を現在代表する。本発明は、対象を実施するためおよび記載の目的および利点、およびここに内在の対象、目的および利点を得るためによく適合させられていることを、当業者は容易に理解する。そこでの変化および請求項の範囲によって定義された通りの本発明の精神に包含される他の用途は当業者に認識される。
【実施例】
【0028】
実施例1
Elux遺伝子導入マウスの作製
Eluxレポーター導入遺伝子は、David Johnson(MD Anderson Cancer Center)から入手したE2F1プロモーターの、ホタルルシフェラーゼとのライゲーションによって、図2に図解する通り構築された。使用したE2F1プロモーターは、転写部位の上流208ヌクレオチドおよび下流66塩基を含む。その配列は、E2F1のためのいくつかの結合部位および転写因子P1のための結合部位を含む。これをEcoRlおよびStu1を用いて消化し、対応する制限酵素を用いて消化したホタルルシフェラーゼをコードする遺伝子とライゲーションした。これらの断片をDNAリガーゼとインキュベートし、およびE. coliを形質転換するのに使用した。そのプラスミドDNAを次いで精製し、および配列分析によって特徴づけた。この分析は、E2F1プロモーター中に、図2に示された公表された配列と相対して配列中の変化を結果として生じた点突然変異を示した。その示された突然変異は既知のどの転写因子についても結合部位に影響せず、およびしたがってこの構造の活性に影響を与えないと考えられた。その構造を次いで、細胞周期が進む細胞におけるルシフェラーゼの発現を促進する能力について試験しおよび確認した。
【0029】
実施例2
神経膠腫動物モデルとしてのElux遺伝子導入マウスの使用
下記の実施例は、生殖細胞系改変または体細胞遺伝子導入技術といった遺伝的に定義済みの腫瘍モデルにおいて、腫瘍の形成をモニタリングするのにElux遺伝子導入マウスを用いることができることを実証する。
【0030】
遺伝子導入マウス、またはターゲッティング欠失、条件的ノックアウト、および誘導系を持つマウスといった、腫瘍形成の生殖細胞系改変モデルを、Elux遺伝子導入バックグラウンドへ異系交配によって導入することができる。これらのモデルが腫瘍を形成する場合、Rb経路の調節解除は、Elux導入遺伝子の発現として同定され、および生物発光によって検出可能である。これは、治療的および遺伝的介入に反応した腫瘍の存在および活性の非侵襲的モニタリングを可能にする。
【0031】
体細胞遺伝子導入モデルにおけるEluxの使用の実例として、発明者らはElux導入遺伝子を持つマウスにおいて神経膠腫を作製した。Elux遺伝子導入系統をNtv−a遺伝子導入マウス系統と交配した。これらの二重に遺伝子導入されたマウスを次いで、出生時にRCAS−PDGFに感染させた。マウスに、RCAS−PDGFウイルスに感染しおよびそれを産生するニワトリ線維芽細胞株であるDF−1細胞10個を含む1ミリリットルを頭蓋内注射した。このベクターはenv遺伝子の下流の、ウイルス遺伝子をスプライシングで切り出すメッセージ上のLTRから発現されるPDGF Bコード領域をコードする。注射は、針の先端が頭蓋底にちょうど触れるまで、脳室のすぐ前部の線条体を通した。ウイルス産生細胞は、マウス脳の実質の内部で数日だけ生存し、この期間にそれらはウイルスを産生し、およびRCASに対する受容体tv−aを発現している隣接する細胞を感染させた。マウスをその後、体重減少、嗜眠、および大頭症を含む、頭蓋内症状の兆候の発生について観察した。これらのマウスをルシフェラーゼの発現について、ルシフェリンの静脈注射および下記に詳細に考察するCCDカメラを用いた生物発光に関する画像処理によって分析した。
【0032】
実施例3
腫瘍のIn vivo画像処理
動物は適切な用量計算のために取り込み期間の前に体重測定した。Dルシフェリン(Xenogen、XR−1001)の新しい無菌溶液を下記の用量で調製した;D−ルシフェリン150mg/kgを含む正常生理食塩水3ml/kg。溶液は0.22μmシリンジフィルターを通す濾過によって滅菌した。個別の用量を各動物について体重に基づき滅菌インシュリンシリンジへ吸引した。注射の前には、個別のシリンジは暗所に保存した。すべての手順の間、D−ルシフェリンは遮光した。
【0033】
吸入麻酔器をIVISのガス給気ホースと接続した。ガス給気セレクタを「ガス入」位置に合わせた。操作者の混合ガスの吸入を排除するため、および動物の麻酔薬への過剰曝露を避けるため、排気ホースは中央真空系に接続しなければならず、およびバルブは器内空気の低流速能動吸引のために開けておかなければならない。試験全体に十分な酸素およびイソフルランの量について吸入麻酔器を点検すべきである。器内の黒い敷紙は個々の動物を入れる前に新しいものに交換した。吸入マニホルドの鼻カップは各 動物の曝露の前に70%アルコールで清掃した。IVISシステムは取扱説明書に従って初期設定すべきであり、およびステージはマウス用には既定ポジションB、またはラット用にはDへ移動した。加温ステージの温度は37℃となるようにチェックすべきである。
【0034】
酸素流量は流量1l/分に合わせて設定した。誘導室および取り込み室の排気口は開いているべきであり、イソフルラン投与セレクタはポジション4に位置すべきである。麻酔の誘導のためには、動物を誘導室に入れ、一般的活動性および呼吸速度をモニタリングした。呼吸は1/秒より遅くてはならない。麻酔の深さは侵害刺激に対する反応によって調節する。計算された用量の準備したシリンジを用いてD−ルシフェリンの静脈内ボーラス注射を実施した。後眼窩洞静脈が雌マウスおよび体重15g未満の幼若動物で用いられる。陰茎背静脈が雄で用いられる。代替的に、尾静脈を両性で用いることができるが、しかし遅い注射速度を必要とする(50μl/分)。単回投与容量限界は120μlである。動物を取り込み室に入れた。鼻は吸入マニホルドカップに密に収めるべきである。同一の手順を第二の動物を用いて繰り返した。イソフルランエバポレータセレクタは、麻酔を維持するために試験を通じてポジション2に合わせた。吸入麻酔マニホルドの使用されていない排気口は、器内への麻酔ガス混合物の漏出を減少させるためにゴム栓で栓をした。
【0035】
生物発光取り込みはIVIS(登録商標)画像処理システム(Xenogen)に従って実施した。生物発光の取り込みの時間は、5秒間から20分間まで変動することができる。時間は、トランスフェクションされた細胞の発光の事前のin vitro特徴づけおよび現在の試験から得られた発光シグナルの強度に基づいて、経験的に選択された。1つの試験の中の一連の実験についての取り込み時間は、結果の比較を可能にするために固定された。器内での動物の位置は、生物発光取り込みの前に撮る普通の写真上で取り込み開始時に調節される。容器の扉は取り込みの全期間にわたって施錠しなければならない。したがって、実験を通じて動物の状態をモニタリングする他の方法は無かった。全身にわたる生物発光シグナル分布のより良い評価のために、各動物をそれぞれの画像処理期間中に腹臥位および仰臥位(または右側/左側)で撮影した。d−ルシフェリンは生物体内で速やかな生物学的および化学的分解を受けるため(生体内半減期10分)、画像処理期間の全所要時間は、2回の取り込み(腹臥/仰臥または左/右)を含め、40分間を超えなかった。ルシフェラーゼを発現している組織における分解はより高い可能性があり、およびルシフェラーゼ発現のレベルに依存する。
【0036】
画像処理期間の後に、マウスを容器から取り出し、および、ケージ内移動、毛繕い、餌/水摂取を含む活動の正常パターンへの復帰として評価した意識の完全な回復までモニタリングした。回復期間中、動物は床材チップの無い加温した表面上に保持された。回復期間が1時間より長く続く場合、動物は神経学的兆候について評価しおよび安楽死を考慮した。動物の取り出し後、黒い敷き紙は交換すべきであり、容器は、Clidox溶液を用いて注意深く徹底的に清掃し、塩素に誘発される装置の腐食を避けるために拭いて乾かし、および後で撮影される動物の密閉されたIVIS容器内での塩素蒸気による中毒を防ぐために換気すべきである。
【0037】
実施例4
脳腫瘍を持つマウスにおけるElux導入遺伝子活性
脳腫瘍を持つマウスにおけるElux導入遺伝子の活性を図3Aに示す。四肢、鼻、および尾における活性は、マウスの毛皮に覆われていない部分から放射される熱が原因であった。脳腫瘍はRCAS/tv−a系を用いてNtv−a導入遺伝子によるPDGFのCNS前駆体への出生後遺伝子導入によって、上記で説明した通りに作製された。これらの腫瘍の組織像は高度乏突起膠腫のものであった。第一のマウスは脳腫瘍を有し、Eluxについて遺伝子導入されていた。脳腫瘍からのシグナルは容易に見ることができる。第二のマウスは大きい脳腫瘍を有したがElu−/−である。微弱なシグナルは、高められた代謝による腫瘍からの増大した熱が原因である可能性が高かった。第三および第四のマウスはElux+/+であったが脳腫瘍を有しなかった。これらのデータは、腫瘍の存在をin vivoでこの系を用いて検出することができること、および腫瘍におけるRb経路の活性を非侵襲的に測定することができ、個々のマウスが抗腫瘍療法に関する試験についてそれ自身の対照として働くことを可能にすることを実証する。神経膠腫の組織学的分析のために、Eluxマウスから組織を回収した。図3Bは、正常脳との相対的な頭蓋内ルシフェラーゼ活性を示す。
【0038】
この方法を用いることによって、腫瘍細胞の空間的分布を示すリアルタイム機能データを、疾患過程の間に複数回取得することができる。したがって、単一の動物を長期にわたって追跡することができ、サンプル間変動を除去しおよび統計解析を改善することができる。疾患の程度およびタイミングを完全な生きた動物においてモニタリングすることができるため、この手法は、何週間も疾患の進行を追跡する能力によって、初期腫瘍増殖動力学および治療への反応の研究を可能にする。この手法はまた、腫瘍負荷の最小である時点での疾患のコントロールに向けた治療法の迅速な最適化を可能にする。さらに、再発および転移のパターンを追跡することができ、それは治療法、併用療法、および投与経路の選択を導くのに役立ちうる。
【0039】
実施例5
Rb活性に対するEluxレポーター構造の反応
Rb経路の活性に対するレポーター構造の反応を下記の通り検討した。最初に、Rbの活性は細胞増殖に反応することが知られており、および集密の細胞は、対数増殖期における細胞がそうであるよりも大幅に低いE2F1活性を有する。したがって、集密の細胞は、生物発光によって測定されたルシフェラーゼ発現について、対数増殖期の細胞と比較した。Rbの活性に対するElux導入遺伝子の反応を評価するための第二の方法は、Rbの機能を遮断するSV40ラージT抗原の断片(T121)を用いることであった。tv−aを発現しているElux遺伝子導入細胞を、T121を発現しているRCASベクターに感染させ、その後に生物発光を測定した。いくつかの創始株を試験し、すべての創始株が、Rb活性に対して何らかの反応を示した細胞を生じた。
【0040】
細胞培養は、本分野で既知である標準的手順を用いて、さまざまなElux遺伝子導入マウス系統から得た。さまざまなElux遺伝子導入マウス系統に由来する一次脳細胞の細胞培養を、導入遺伝子活性について分析した。細胞は血清飢餓としたかまたは12%のウシ胎仔血清を含む培養中で非同調的に増殖させ、およびルシフェラーゼ活性をモニタリングした。これらの細胞株のルシフェラーゼ活性の上昇は、細胞周期の進行の機能としての、E2F1推進プロモーターの誘導を示す(表1)。さらに、ポリオーマウイルスラージT抗原の断片であってRb機能を遮断しそれによってE2F1プロモーターを活性化するT121の発現ベクターを用いて細胞をトランスフェクションした。
【表1】

【0041】
実施例6
長期にわたる腫瘍増殖モニタリング
マウスはルシフェラーゼ活性について定型的におよび連続的に検査することができる。マウスは長い間にしばしば腫瘍を生じ、および最初の画像は顕著な量の生物発光を示さない可能性がある。これらのマウスはその後、いったん腫瘍の存在が確立されたら、頻回に撮影することができる(図4)。これらの腫瘍の発生の時間的経過を完了することができる。この光産生の時間依存的増加は、細胞当たりを基礎とした腫瘍増殖能および腫瘍の全体的大きさの合計を表す。
【0042】
実施例7
小さい腫瘍病変の同定
Xenogen画像処理システムの感度および可塑性は、非常に小さい腫瘍を検出するための調整を可能にする。神経膠腫の検出に関して大きさについての正確な限界は不明である。しかし、図5Aでは検出限界近くの病変の識別が示されている。そのマウスは屠殺され、そして脳全体が分析された。図5Bに示す非常に小さい神経膠腫だけが見つかった(赤矢印で示す)。この病変はMRI画像処理法によってではほぼ確実に検出不能である。したがって、Eluxシステムは、MRIといった従来の画像処理法よりも小さい病変を検出することができる。
【0043】
実施例8
治療的有効性のモニタリングにおけるEluxマウスの使用
光産生はRbの活性に比例する。これは、癌を推進する多数の経路の直接的または間接的作用である。さらに、この経路は大部分の重度癌で乱される。したがって、Elux活性は、抗癌剤の治療効果についての代理としてこの経路の活性の読み値になりうる。これに関連して、原理の証明として、PDGF主導性神経膠腫を使用し、およびPDGF受容体キナーゼの阻害因子であるPTK787で処理した。PDGFシグナル伝達は神経膠腫からの高いEluxシグナル伝達をElux遺伝子導入マウスにおいて生じたためにこの組み合わせを選択し、およびPTK787は膠細胞構造中でPDGFシグナル伝達の作用を逆転させることができたことが実証された。Ntv−aおよびEluxについて2遺伝子導入されたマウスを、上記の通り、RCAS−PDGFを用いて感染させた。これらのマウスを、Elux生物発光スクリーニングによって、腫瘍形成についてスクリーニングした。神経膠腫を有すると同定されたマウスは、次いで25mg/kgのPTK787を用いて毎日の腹腔内注射によって処理した。生物発光を用いた毎日の画像処理は、24〜36時間での50%損失を伴う、光放射の相当な減少を示した(図6)。
【0044】
Eluxマウスが前臨床治験で有用であるためには、再現性があることを要する。さらに、これらの腫瘍の大部分は大きさが異なるため、治療効果の読み値は治療されている腫瘍の大きさに依存してはならない。したがって、発明者らは、PDGF誘導性神経膠腫を持ちさまざまな光出力を有する数個体のマウスを、PTK787を用いて処理した。生物発光出力は処理中に毎日定量した。4個体の一連のマウスについて、光産生の相対的減少は比率的に同様であったことが見出された。これは、処理に伴う時間にわたって、本質的に平行な反応を示している対数グラフ、または同様のパーセント減少を示しているパーセントグラフによって示される(図7)。
【0045】
下記の参考文献が引用された:
【参考文献】
【0046】


【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1はE2F1の活性化または抑制に寄与する細胞シグナルの組、およびElux遺伝子導入マウスを作成するのに用いたルシフェラーゼレポーター構造の構成を示す。E2F−1プロモーターは細胞増殖反応中にはE2F依存性のネガティブ制御下にあり、G0およびG1初期にはE2F部位を通じて転写抑制されている。Rb関連p130タンパク質(Rb2)を含むE2FDNA結合複合体の存在は、E2F−1遺伝子抑制と相関し、およびp130の過剰発現はE2F−1プロモーターからの転写を阻害する。D型サイクリン依存性キナーゼ活性は、E2F媒介性抑制を除去することによってE2F−1プロモーターを特異的に活性化するが、cdk4およびcdk6阻害因子p16(CDKN2、MTS1、INK4)の同時発現によって阻害される。これらは少なくとも1個の発癌遺伝子(サイクリンD1)およびいくつかの潜在的な腫瘍抑制因子遺伝子を含む調節ネットワークによって、細胞周期の進行中にE2F−1遺伝子発現を調節する。
【図2】図2A〜BはElux導入遺伝子の特徴づけを示す。図2AはElux導入遺伝子の略図を示す。図2Bは、公表されたE2F1プロモーター配列と比較した、Eluxプロモーターの中のE2F1プロモーターの配列分析を示す。
【図3】図3A〜Bは、脳腫瘍を持つマウスにおけるElux導入遺伝子の活性を示す。図3A:すべてのマウスは、Xenogenシステムを用いた画像処理の前にルシフェリンを注射された。四肢、鼻、および尾における活性は、マウスの毛皮に覆われていない部分から放射される熱が原因であった。脳腫瘍はRCAS/tv−a系を用いてNtv−a導入遺伝子によるPDGFのCNS前駆体への出生後遺伝子導入によって作製された。これらの腫瘍の組織像は高度乏突起膠腫のものであった。第一のマウスは脳腫瘍を有し、Eluxについて遺伝子導入されていた。脳腫瘍からのシグナルは容易に見ることができる。第二のマウスは大きい脳腫瘍を有したがElu−/−である。微弱なシグナルは、高められた代謝による腫瘍からの増大した熱が原因である可能性が高かった。第三および第四のマウスはElux+/+であったが脳腫瘍を有しなかった。これらのデータは、腫瘍の存在をin vivoでこの系を用いて検出することができること、および腫瘍におけるRb経路の活性を非侵襲的に測定することができ、個々のマウスが抗腫瘍療法に関する試験についてそれ自身の対照として働くことを可能にすることを実証する。図3B:正常脳との相対的な頭蓋内ルシフェラーゼ活性を示す、マウスの体内にある神経膠腫の組織学的分析。
【図4】図4は長期にわたる腫瘍の増殖のモニタリングを示す。マウスはルシフェラーゼ活性について定型的におよび連続的に検査した。マウスは長い間にしばしば腫瘍を生じ、および最初の画像は顕著な量の生物発光を示さない可能性がある。これらのマウスはその後、いったん腫瘍の存在が確立されたら、頻回に撮影することができる。これらの腫瘍の発生の時間的経過を完了することができる。この光産生の時間依存的増加は、細胞当たりを基礎とした腫瘍増殖能および腫瘍の全体的大きさの合計を表す。隣の図は、6週齢での最初の画像から開始する、マウスにおける生物発光の連続的増加をプロットする。
【図5】図5A〜Bは小さい病変の同定を示す。検出限界に近い病変が同定され(図5A)およびそのマウスは屠殺された。脳全体を分析し、ここに示す非常に小さい神経膠腫だけが見つかった(図5Bに赤矢印で示す)。
【図6】図6は治療有効性のモニタリングにおけるEluxマウスの用途を示す。Ntv−aおよびEluxについて2遺伝子導入されたマウスを、RCAS−PDGFを用いて感染させた。これらのマウスを、Elux生物発光スクリーニングによって、腫瘍形成についてスクリーニングした。神経膠腫を有すると同定されたマウスは、次いで25mg/kgのPTK787(Novartis)(PDGF受容体キナーゼの阻害因子)を用いて毎日の腹腔内注射によって処理した。生物発光を用いた毎日の画像処理は、24〜36時間での50%損失を伴う、光放射の相当な減少を示した。
【図7】図7は、治療効果の読み値は、治療される腫瘍の大きさに依存しないことを示す。PDGF誘導性神経膠腫を持ちさまざまな光出力を有する数個体のマウスを、PTK787を用いて処理した。生物発光出力は処理中に毎日定量した。対数およびパーセントグラフは、処理に伴う時間にわたって、光放出の減少の本質的に平行な反応を示した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基質を代謝する際に光を生じることができるタンパク質をコードするレポーター遺伝子を発現しており、該レポーター遺伝子が細胞周期の進行によって活性化されるプロモーターに調節可能に結合していることを特徴とする非ヒト遺伝子導入動物。
【請求項2】
前記動物がマウスであることを特徴とする請求項1記載の遺伝子導入動物。
【請求項3】
前記レポーター遺伝子が、ルシフェラーゼタンパク質をコードすることを特徴とする請求項1記載の遺伝子導入動物。
【請求項4】
前記プロモーターがE2F1プロモーターであることを特徴とする請求項1記載の遺伝子導入動物。
【請求項5】
発癌遺伝子または突然変異腫瘍抑制因子遺伝子の発癌性を評価する方法であって:
基質を代謝する際に光を生じることができるタンパク質をコードするレポーター遺伝子を発現しており該レポーター遺伝子が細胞周期の進行によって活性化されるプロモーターに調節可能に結合している非ヒト遺伝子導入動物を構築する;
前記遺伝子導入動物を、前記発癌遺伝子または突然変異腫瘍抑制因子遺伝子によって引き起こされる腫瘍形成に対して感受性である別の動物と異系交配し、それによって腫瘍感受性動物を作製する;
前記腫瘍感受性動物の細胞から放出される光放射のレベルを、前記発癌遺伝子または突然変異腫瘍抑制因子遺伝子を発現していない対照動物から放出されるものと比較し、ここで光放射のレベルの上昇は前記発癌遺伝子または突然変異腫瘍抑制因子遺伝子が腫瘍原性を有することを示唆する;工程を含む方法。
【請求項6】
前記の別の動物が、前記発癌遺伝子または突然変異腫瘍抑制因子遺伝子を発現している非ヒト遺伝子導入動物、前記発癌遺伝子または突然変異腫瘍抑制因子遺伝子を欠く非ヒトノックアウト動物、および前記発癌遺伝子または突然変異腫瘍抑制因子遺伝子に感染した非遺伝子導入動物より成る群から選択されることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記レポーター遺伝子が、ルシフェラーゼタンパク質をコードすることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項8】
前記プロモーターがE2F1プロモーターであることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項9】
前記遺伝子導入動物が遺伝子導入マウスであることを特徴とする請求項5記載の方法。
【請求項10】
発癌物質候補の腫瘍原性を評価する方法であって:
基質を代謝する際に光を生じることができるタンパク質をコードするレポーター遺伝子を発現しており該レポーター遺伝子が細胞周期の進行によって活性化されるプロモーターに調節可能に結合している非ヒト遺伝子導入動物を構築する;
前記遺伝子導入動物を前記発癌物質候補で処理しそれによって処理済み遺伝子導入動物を作製する;
前記処理済み遺伝子導入動物から放出される光放射のレベルを測定し、ここで未処理対照動物から放射されるものと比較した光放射のレベルの上昇は前記発癌物質候補が腫瘍原性を有することを示す;工程を含む方法。
【請求項11】
前記レポーター遺伝子が、ルシフェラーゼタンパク質をコードすることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項12】
前記プロモーターがE2F1プロモーターであることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項13】
前記遺伝子導入動物が遺伝子導入マウスであることを特徴とする請求項10記載の方法。
【請求項14】
抗癌物質または治療法の抗腫瘍作用を評価する方法であって、
基質を代謝する際に光を生じることができるタンパク質をコードするレポーター遺伝子を発現しており該レポーター遺伝子が細胞周期の進行によって活性化されるプロモーターに調節可能に結合している非ヒト遺伝子導入動物を構築する;
前記遺伝子導入動物において腫瘍形成を誘導する;
前記抗癌物質または治療法を用いて前記遺伝子導入動物を処理し、それによって処理済み遺伝子導入動物を作製する;
前記処理済み遺伝子導入動物から放出される光のレベルを測定し、ここで未処理対照動物から放射されるものと比較した光放射のレベルの低下は前記抗癌物質または治療法の抗腫瘍作用を示す;工程を含む方法。
【請求項15】
前記レポーター遺伝子が、ルシフェラーゼタンパク質をコードすることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項16】
前記プロモーターがE2F1プロモーターであることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項17】
前記遺伝子導入動物が遺伝子導入マウスであることを特徴とする請求項14記載の方法。
【請求項18】
ルシフェラーゼタンパク質をコードするレポーター遺伝子を発現しており、該レポーター遺伝子が細胞周期の進行によって活性化されるプロモーターに調節可能に結合していることを特徴とする非ヒト遺伝子導入動物。
【請求項19】
前記動物がマウスであることを特徴とする請求項18記載の遺伝子導入動物。
【請求項20】
前記プロモーターがE2F1プロモーターであることを特徴とする請求項18記載の遺伝子導入動物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−501852(P2006−501852A)
【公表日】平成18年1月19日(2006.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−543397(P2004−543397)
【出願日】平成15年10月3日(2003.10.3)
【国際出願番号】PCT/US2003/031614
【国際公開番号】WO2004/033640
【国際公開日】平成16年4月22日(2004.4.22)
【出願人】(500544004)スローン−ケッタリング インスティトゥート フォー カンサー リサーチ (2)
【Fターム(参考)】