説明

遺伝子発現を誘導するための組成物および方法

【課題】低酸素関連疾病と関連する虚血損傷を治療または予防するための組成物および方法の提供。
【解決手段】DNA結合タンパク質のDNA結合ドメインおよび転写活性化能力を持つタンパク質ドメインを含む、キメラトランスアクティベータータンパク質をコードする組換え核酸分子。哺乳動物細胞内に感染および/またはトランスフェクトし、そして生物学的に活性なキメラトランスアクティベータータンパク質の発現を持続する能力を持つ、組換えウイルスおよび非ウイルスベクター。また、生物学的に活性なキメラトランスアクティベータータンパク質を発現する能力を持つ、宿主細胞系および非ヒトトランスジェニック動物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は遺伝子発現を誘導するための組成物および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
虚血性心臓疾患は、心筋が適切な血液供給を受けず、そしてしたがって必要なレベルの酸素および栄養素が欠乏する際、発生する。虚血は、通常、心筋への血流を提供する冠状動脈の遮断を引き起こす、アテローム性硬化症の結果である。
虚血性心臓疾患は、心臓内の、有益である可能性がある特定の適応応答を生じる可能性がある。これらの応答の中には:1)遮断された冠状動脈の周りに側副(collateral)循環形成を導く、血管形成性増殖因子およびその受容体発現の増加;2)O2を必要としない代謝経路を活性化させる手段としての、解糖酵素発現の増加;および3)虚血組織を死から保護することが可能である、熱ショックタンパク質の発現がある。
【0003】
これらの応答の少なくともいくつかは、複雑な酸素感受機構に制御されるようであり、該機構は最終的に、本適応に関与する必須遺伝子の発現を調節する転写因子の活性化を導く。この遺伝子発現の改変は、通常、病気の心臓に運動などの負担がかかったときにのみ発生する、低酸素症にのみ応答して発生するため、心臓病患者は、通常、この内因性保証機構から大きな利益は受けない。そのため、いくつかの慣用療法は、虚血に対する心臓の天然の治療応答を補足することを試みている。
【0004】
例えば、こうした治療は、薬理学的療法、冠状動脈バイパス手術およびバルーン血管形成術などの技術を用いた経皮血管再生を含む。標準的な薬理学的療法は、心筋への血液供給を増加させるか、または心筋の酸素および栄養素に対する要求を減少させることかどちらかを伴う戦略に基礎を置く。
【0005】
心筋層への血液供給の増加は、カルシウムチャンネル遮断剤またはニトログリセリンなどの剤により達成される。これらの剤は、動脈壁の平滑筋弛緩を引き起こすことにより、病気の動脈の直径を増加させると考えられる。心筋の酸素および栄養素に対する要求の減少は、心臓に対する血流力学的負荷を減少させる剤、例えば動脈拡張剤、または既定の血流力学的負荷に対する心臓の収縮反応を減少させるもの、例えばベータ−アドレナリン受容体アンタゴニストのどちらかにより達成される。
【0006】
虚血性心臓疾患の外科的治療は、戦略的に置かれたバイパス移植片(通常、伏在静脈または内部乳房動脈移植片)での病気の動脈部分のバイパスに基づく。経皮血管再生は、病気の冠状動脈の狭窄を減少させるカテーテルの使用に基づく。これらの戦略はすべて、虚血症状の出現の数を減少させ、または該出現を根絶するために用いられるが、すべてさまざまな限界を有する。
【0007】
より最近、虚血に対する心臓の天然応答をさらに増大するのに、タンパク質または遺伝子治療を介した血管形成性因子または熱ショックタンパク質の搬送が、提唱されてきている。実際、多様な刊行物により、心臓疾患の治療または予防のための遺伝子搬送の使用が議論されてきている。例えば、Mazurら,“Coronary Restenosis and Gene Therapy”, Molecular and Cellular Pharmacology 21:104−111(1994);French, B.A.“Gene Transfer and Cardiovascular Disorders”Herz. 18(4):222−229(1993);Williams,“Prospects for Gene Therapy of Ischemic Heart Disease”, Am. J. Med. Sci. 306:129−136(1993);SchneiderおよびFrench“The Advent of Adenovirus:Gene Therapy for Cardiovascular Disease”Circulation 88:1937−42(1993)を参照されたい。“Adenovirus−Mediated Gene Transfer to Cardiac and Vascular Smooth Muscle”と題された国際特許出願第PCT/US93/11133号は、心臓血管平滑筋の機能を制御するためのアデノウイルス(adenovirus)媒介遺伝子運搬の使用を報告している。
【0008】
したがって、当技術分野には、虚血関連細胞において有益な低酸素症誘導性遺伝子発現を誘導するための組成物および方法に対する必要性が存在する。さらに、生物学的に活性がある哺乳動物転写因子の持続直接発現により活性化される多様な潜在的に有益な遺伝子の効率的な発現を可能にする、新規ベクター組成物に対する必要性が存在する。本発明はこれらの必要性を満たし、そして関連する利点もまた提供する。
【発明の開示】
【0009】
発明の概要
本発明は、哺乳動物低酸素症誘導性因子タンパク質であるDNA結合タンパク質のDNA結合ドメイン、および転写活性化タンパク質の機能的な転写活性化ドメインを含む、キメラトランス活性化因子をコードする組換え核酸分子を提供する。
【0010】
したがって、本発明の作成において、我々は血管疾患に関連した虚血治療のための代替アプローチとして、低酸素症に対する適応応答を利用しようと求めた。我々は、遺伝子治療を介した修飾HIF−1α転写因子の投与が、潜在的に有益な多様な遺伝子の発現を誘導し、そして究極的に虚血組織の新規血管新生を導く可能性があると考えた。我々は、HIF−1α由来のDNA結合およびダイマー化ドメインおよび単純疱疹ウイルス(herpes simplex virus)VP16タンパク質由来のトランス活性化ドメインからなる、HIF−1αの構成的な活性化型を生成した。本修飾転写因子の標的遺伝子となる可能性があるものの中に、内皮細胞特異的分裂促進物質および血管形成の強力な刺激物質であるVEGFがある。
【0011】
本発明のHIF−1α/VP16ハイブリッド転写因子のin vitro解析により、HeLaおよびC6細胞において、VEGFまたはEPOプロモーターのいずれかの転写調節下でのルシフェラーゼ・レポーター構築物の活性化と共に、内因性VEGF遺伝子発現の上方制御が誘導と独立していることが立証された。HIF−1α/VP16をコードするプラスミドの外因性投与が、側副血管形成を亢進することが可能であるという仮説を試験し、そしてまた血管形成療法としてのHIF−1α/VP16の効力をVEGFのものと比較するため、ウサギ後肢虚血モデルで実験を行った。これらの研究結果により、転写因子をコードするDNAの投与は、組織虚血に対する実行可能な治療戦略を代表する可能性があることが示唆される。
【0012】
本発明はまた、哺乳動物細胞において、生物学的に活性があるキメラヒト・ウイルストランス活性化タンパク質を感染させおよび/またはトランスフェクションし、そして発現を持続することが可能な組換えウイルスおよび非ウイルスベクターも提供する。
【0013】
本発明はさらに、組換えプラスミドベクター(pcDNA3/HIF/VP16/Afl2)を提供する。
【0014】
別の態様において、本発明は組換えプラスミド発現ベクター(pcDNA3/HIF/VP16/RI)を提供する。
【0015】
さらに別の態様において、本発明は、pcDNA3/HIF/VP16/Afl2またはpcDNA3/HIF/VP16/RIでトランスフェクションした哺乳動物細胞および細胞株を提供する。
【0016】
さらに別の態様において、本発明は、持続したレベルで、生物学的に活性があるキメラヒト・ウイルストランス活性化タンパク質を発現することが可能な組換え哺乳動物細胞株を提供する。
【0017】
本発明はまた、持続したレベルで、生物学的に活性があるキメラヒト・ウイルストランス活性化タンパク質を発現しそして分泌することが可能な組換え哺乳動物宿主細胞株も提供する。
【0018】
さらに別の態様において、本発明は、DNA結合タンパク質のDNA結合ドメイン、ここでDNA結合タンパク質は哺乳動物低酸素症誘導性因子1α(HIF−1α)タンパク質である、をアミノ末端に、そして転写活性化タンパク質の機能的な転写活性化ドメイン、ここで前記転写活性化タンパク質はHSV VP16である、をカルボキシ末端に含む、融合タンパク質を提供する。
【0019】
本発明はさらに、DNA結合タンパク質のDNA結合ドメイン、ここで前記DNA結合タンパク質は哺乳動物低酸素症誘導性因子1α(HIF−1α)タンパク質である、および転写活性化タンパク質の機能的な転写活性化ドメイン、ここで前記転写活性化タンパク質はHSV VP16である、を含む、キメラトランス活性化因子をコードする組換えDNAを発現する、非ヒトトランスジェニック哺乳動物を提供する。
【0020】
さらに別の態様において、本発明は、低酸素症誘導性遺伝子の発現を増加させるための方法を提供する。
【0021】
さらに別の態様において、本発明は、酸素正常条件下で、生物学的に活性があるHIF−1αの持続発現を提供するための方法を提供する。
【0022】
本発明はまた、患者における低酸素症関連組織損傷を治療する/予防する/調節するための方法も提供する。
【0023】
本発明はさらに、個体の細胞に、生物学的に活性があるキメラヒト・ウイルストランス活性化タンパク質を提供するための方法であって、個体の細胞にトランスフェクションし、そして生物学的に活性があるキメラヒト・ウイルストランス活性化タンパク質発現を持続するのに有効な量のpcDNA3/HIF/VP16/RIまたはpcDNA3/HIF/VP16/Afl2を、該細胞に導入することを含む、前記方法を提供する。
【0024】
本発明のさらなる特徴および利点は、以下の詳細な説明と共に請求項から明らかになるであろう。
【0025】
本明細書に引用されるすべての特許出願、特許、および参考文献は、本明細書に完全に援用される。矛盾または不一致の場合、定義を含む本明細書中の説明が優先する。
【0026】
発明の詳細な説明
低酸素症(O2要求が供給を上回る状態)は遺伝子発現の強力な調節要因である。低酸素症に対する生理学的応答には、赤血球生成の亢進(Jelkman,
Physiol. Rev. 72:449−489(1992))、虚血組織における新規血管新生(Whiteら, Circ. Res. 71:1490−1500(1992))および解糖に基づく代謝へのスイッチ(Wolfeら, Eur. J. Biochem. 135:405−412(1983))が含まれる。これらの適応応答は、O2搬送を増加させるか、またはO2を必要としない代替代謝経路を活性化するかどちらかである。これらの過程に関与する遺伝子産物には、例えば:(i)赤血球生成の主要な制御因子であり、そしてしたがって血液O2運搬能力の主要な決定要素であるエリスロポエチンをコードするEPO(Jiangら, J. Biol. Chem. 271(30):17771−78(1996));(ii)血管形成の主要な制御因子であり、そしてしたがって組織灌流の主要な決定要素である、血管内皮増殖因子をコードする、VEGF(Levyら, J. Biol. Chem. 270:13333(1995);Liuら, Circ. Res. 77:638(1995);Forsytheら, Mol. Cell. Biol. 16:4604(1996));(iii)O2の非存在下でATP生成の代謝経路を提供する解糖酵素、アルドラーゼ1、エノラーゼ1、乳酸デヒドロゲナーゼA、ホスホフルクトキナーゼL、およびホスホグリセリン酸キナーゼ1をそれぞれコードする、ALDA、ENO1、LDHA、PFKL、およびPGK1(Firthら, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 91:6496(1994);Firthら, J. Biol. Chem. 270:21021(1995);Semenzaら, J. Biol. Chem. 269:23757(1994));(iv)それぞれが血管作動性分子である一酸化炭素および一酸化窒素の合成を担う、ヘムオキシゲナーゼ1および誘導性一酸化窒素シンターゼをコードする、HO1およびiNOS(Leeら, J. Biol. Chem. 272:5375;Melilloら, J. Exp. Med. 182:1683(1995))が含まれる。
【0027】
これらの応答の重要な媒介因子は、DNA結合の低酸素症誘導性因子タンパク質を含む転写複合体と、その同系のDNA認識部位である低酸素症誘導性遺伝子のプロモーター/エンハンサー領域内に位置する低酸素症応答要素(HRE)との相互作用である。HREは低酸素症誘導性因子タンパク質結合部位(コア配列として5’−CGTG−3’を含む)と共に、機能に必要なさらなるDNA配列からなり、それはある要素では第二の結合部位を含む。
【0028】
HIF−1は、2つのサブユニット:(i)構成的に発現されるベータ(β)サブユニット(他の関連する転写因子と共有されている)および(ii)低酸素症条件の間のみ高レベルのアルファサブユニットが検出されるように、翻訳後機構により蓄積が制御されている、アルファ(α)サブユニット(例えば、HIF−1αの最近のアフィニティー精製および分子クローニングを記載する、WO 96/39426、国際出願第PCT/US96/10251号を参照されたい)からなるヘテロ二量体タンパク質である。どちらのサブユニットも、転写因子の塩基性へリックス・ループ・へリックス(bHLH)・PASファミリーのメンバーである。これらのドメインはDNA結合およびダイマー化を制御する。トランス活性化ドメインは、タンパク質のC末端に存在すると考えられる。
【0029】
HIF−1β(ARNT)は、高レベルで構成的に発現される一方、HIF−1αの細胞内蓄積はO2濃度に感受性であり、低酸素症の間のみ高レベルで検出される。本観察からは、O2濃度がセンサータンパク質により検出され、そして複雑な情報伝達機構を通じHIF−1αサブユニットの安定化が導かれるという、標的遺伝子活性化の機構の提唱につながった。その後、HIF−1αは、HIF−1βと複合体を形成することが可能になり、そして標的遺伝子のプロモーター/エンハンサー内のHRE部位に選択的に結合する。この応答を与えるのに関与するHIF−1αタンパク質の領域は、トランス活性化に関与する領域と一致すると考えられる。
【0030】
低酸素症に応答したHIF−1の活性化の誘導は、HIF−1αタンパク質の安定化を介して起こると考えられる。この応答に関与するHIF−1αの領域は、タンパク質のC末端に位置決定されており、そしてトランス活性化ドメインと重なる。例えば、Jiangら, J. Biol. Chem. 271(30):17771−78(1996)は、アミノ酸390で切除されている(truncated)HIF−1αはトランス活性化活性を失うが、DNA結合能力を保持し、そして酸素正常および低酸素条件下両方で高レベルのタンパク質を示すことを示した。本結果により、トランス活性化ドメインと共に、酸素正常で不安定さを与える領域もタンパク質のC末端側に存在することが示唆された。Pughら, J. Biol. Chem. 272(17):11205−14(1997)は、関与する領域をさらに、2つの領域、アミノ酸549−582および775−826に位置決定した。
【0031】
1つの態様において、本発明は、DNAと結合しおよびHIF−1β(ARNT)とダイマー化するのに十分なHIF−1αタンパク質のドメインおよび転写活性化が可能なタンパク質ドメインとを含む、生物学的に活性があるキメラトランス活性化タンパク質をコードする核酸分子を提供する。
【0032】
別の態様において、関連するDNA結合性の低酸素症誘導性因子タンパク質はEPAS1である。EPAS1は内皮PAS−1と称されるPASドメイン転写因子である。Tianら, Genes Dev. 11:72(1997)。EPAS1はHIF−1αと48%の同一性および転写因子のbHLH/PASドメインファミリーの他のメンバーとより低い類似性を共有する(EPAS1ヒト配列GenBank寄託番号第U81984号;マウス配列GenBank寄託番号第U81983号)。HIF−1α同様、EPAS1は、元来EPO遺伝子から単離され、そしてHREコア配列を含むDNA要素に結合し、そして該要素からの転写を活性化する。EPAS1はまた、標的遺伝子の転写活性化前にARNTとヘテロ二量体性複合体を形成する。
【0033】
ヒトおよびネズミEPAS1は、HIF−1αと広い一次アミノ酸配列同一性を共有する(48%)。2つのタンパク質の間の配列保存性は、bHLH(85%)、PAS−A(68%)、およびPAS−B(73%)領域で最も高い。配列同一性の第二の領域は、EPAS1およびHIF−1αタンパク質の極C末端に現れる。mHIF−1α内のこの保存領域は、低酸素症応答ドメインを含むことが示されてきている(Liら, J. Biol. Chem. 271(35):21262−67(1996))。EPAS1およびHIF−1αの間の高度の配列類似性により、これらが共通の生理学的機能を共有することが示唆される。低酸素条件は、HIF−1αがHREコア配列を含む標的遺伝子をトランス活性化する能力を刺激する。EPAS1の活性もまた、低酸素条件下で増殖する細胞で亢進され、EPAS1がHIF−1αと同一の制御影響にさらされる可能性があることが示唆される。
【0034】
本発明のさらに別の態様において、転写因子としての、DNA結合性の低酸素症誘導性因子タンパク質はHLFである。HLFはHIF−1α様因子と称されるbHLH−PASタンパク質である。Emaら, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 94:4273(1997)。HLFは計算分子量が97kDaである、874アミノ酸の新規ポリペプチドである(GenBank寄託番号第D89787号)。配列比較により、該アミノ酸配列は、bHLH(83.9%)およびPAS(66.5%)モチーフを含むアミノ末端側(aa1−344)でHIF−1αと著しい類似性を有し、その後、中程度の類似性を持つ配列が続く(36.4%、aa345−559)。C末端側半分の配列のほとんどは、本タンパク質およびHIF−1αの間で多様である一方、極C末端で注目される配列類似性の小部分(63%、aa824−874)が見出された。DNA認識に関与するbHLH領域の塩基性アミノ酸が、HLFおよびHIF−1αで完全に保存されていることは、これらの因子が、同一でなくても非常に類似の制御DNA配列を認識することを示唆する。実験により、HLFおよびHIF−1αの両方がARNTと一緒になって、同様の親和性でVEGFおよびEPO HRE配列に結合することが示された。
【0035】
別の態様において、本発明のキメラトランス活性化タンパク質は、非哺乳動物低酸素症誘導性因子タンパク質のドメインを含む。当業者に認識されるであろうように、低酸素症に対する適応応答は、進化の間中、非常に保存されてきた可能性がある。したがって、低酸素症誘導性因子タンパク質は、非哺乳動物脊椎動物および非脊椎動物、例えば昆虫を含む多様な種で出現することが期待されるであろう。例えば、ショウジョウバエ(Drosophila)由来のSima塩基性へリックス・ループ・へリックスPASタンパク質および哺乳動物HIF−1αタンパク質の間の機能的な類似性を報告する、Baconら, Biochem. Biophys. Res. Comm., 249:811−816(1998)を参照されたい。
【0036】
非哺乳動物低酸素症誘導性因子タンパク質の核酸およびアミノ酸配列は、当業者により、多様な技術により、例えば、本明細書に引用される配列のすべてまたは一部を用いたクロスハイブリダイゼーションまたは増幅により、得ることが可能である。ひとたび、候補低酸素症誘導性因子タンパク質をコードする配列が決定されたら、HREに結合し、そしてHIF−1βとダイマー化するのに十分なタンパク質の部分の位置を、例えば、ヒトHIF−1αタンパク質内のこれらのドメインの位置決定に用いたのと同じ種類の技術を用い、決定してもよい。本発明の組成物および方法に有用な、非哺乳動物低酸素症誘導性因子タンパク質の適切なドメインはまた、合成により産生しても、または既知の哺乳動物低酸素症誘導性因子タンパク質をコードするDNAの部位特異的操作により産生してもよい。また、多様な哺乳動物および非哺乳動物低酸素症誘導性因子タンパク質の間で共通な配列モチーフがあれば、おそらくいかなる種でも天然には発生しないであろうが、本発明の方法および組成物に有用なドメインを生じるであろうコンセンサス配列を示唆するであろう。本明細書に例証されるヒトHIF−1αタンパク質ドメインに対し、こうした非哺乳動物低酸素症誘導性因子タンパク質ドメインを置換するために必要とされるのは、これらがHREと結合し、そしてHIF−1β(ARNT)とダイマー化するのが可能なことのみである。
【0037】
したがって、低酸素症誘導性因子タンパク質を、C末端(トランス活性化)ドメインを除去し、そしてそれを強力なトランス活性化配列と置換することにより修飾することが提案される。この修飾は、該タンパク質がβ/ARNTサブユニットとダイマー化する、または特定のDNA配列(例えばHRE)と結合する能力を変化させてはならないが、該低酸素症誘導性因子タンパク質を、潜在的に治療力がある遺伝子(例えば、VEGF、EPO、ホスホグリセリン酸キナーゼ、およびそれらに匹敵するもの)の構成的な誘導因子に変換してもよい。
【0038】
低酸素症誘導性因子タンパク質のC末端(またはトランス活性化)領域の、例えば、単純疱疹ウイルス(HSV)VP16または酵母転写因子GAL4およびGCN4などの転写活性化タンパク質由来の強力なトランス活性化ドメインでの置換を、酸素正常条件下で該タンパク質を安定化し、そして強力で構成的な転写活性化を提供するために設計した。遺伝子治療を介した、本タンパク質の患者の細胞への投与は、冠状動脈疾患、末梢血管疾患並びに、四肢の虚血性疾患による慢性虚血に対する、効果的な治療または予防法であるはずである。
【0039】
本出願において、目的は、低酸素症誘導性因子タンパク質、例えばHIF−1α、EPAS1およびHLFが低酸素症誘導性遺伝子、例えばVEGFおよびそれに匹敵するものの発現を誘導し、側副血管増殖の促進を通じ、症状の改善を生じる能力である。
【0040】
例えば、HIF−1αサブユニットは、酸素正常条件中、不安定であるが、正常酸素レベル下で培養される細胞中の本サブユニットの過剰発現により、通常、低酸素症により誘導される遺伝子の発現を誘導することが可能である。これにより、有用な遺伝子治療戦略は、組換えプラスミドまたはウイルスベクターを用い、in vivoで虚血心臓において高レベルのHIF−1αサブユニットを発現するものである可能性があることが示唆される。代替戦略は、HIF−1αサブユニットを修飾して、もはや酸素正常条件により不安定化されず、したがって、特に治療されている患者が実際には虚血でない場合も、より強力であるようにするものであろう。
【0041】
低酸素症誘導性因子タンパク質を、酸素正常条件下で安定化し、そして強力で構成的な転写活性化を提供するため、HIF−1α由来のDNA結合およびダイマー化ドメイン並びに単純疱疹ウイルス(HSV)VP16タンパク質由来のトランス活性化ドメインからなるハイブリッド/キメラ融合タンパク質を構築した。遺伝子治療を介した、本ハイブリッド/キメラの患者の細胞への投与は、理論的には、通常、低酸素症に応答し、上方制御される遺伝子(すなわち、VEGFおよびそれに匹敵するもの)の発現を誘導するであろう。
【0042】
あるいは、生物学的に活性があるキメラトランス活性化タンパク質、例えばHIF−1α由来のDNA結合およびダイマー化ドメイン並びにヒトNFκBタンパク質由来のトランス活性化ドメインを含むタンパク質も、同様の結果を生じると期待される。
【0043】
「低酸素症」は、O2要求が供給を上回る状態を意味する。
【0044】
「低酸素症誘導性遺伝子」は、配列内に、低酸素症細胞における転写活性化を媒介する、1つまたはそれ以上の低酸素症応答要素(HRE;結合部位)を含む遺伝子を意味する。
【0045】
低酸素症誘導性因子は、その発現が低酸素症条件下で上方制御され、遺伝子内の低酸素症応答要素コア配列を認識し、そして該配列に結合し、そしてそれによりこうした遺伝子を活性化するDNA結合タンパク質/転写因子を意味する。
【0046】
低酸素症関連障害には、例えば、虚血性心臓疾患、末梢血管疾患、四肢の虚血性疾患、およびそれらに匹敵するものが含まれる。
【0047】
「核酸」(ポリヌクレオチドとも呼ばれる)という用語は、RNAと共に一本鎖および二本鎖DNA、cDNAおよびオリゴヌクレオチドを含む。
【0048】
核酸はまた、例えばHIF−1α、EPAS1、またはHLF配列由来の、センスおよびアンチセンスオリゴヌクレオチド配列を含む、単離核酸配列も含む。HIF−1α、EPAS1、またはHLF由来配列はまた、プロモーター、エンハンサー、応答要素、シグナル配列、ポリアデニル化配列、およびそれらに匹敵するものを含む、異種性配列と結合させてもよい。本明細書において、「単離」という句は、天然に発生しない形であるポリヌクレオチドを意味する。ポリヌクレオチドを単離する1つの手段は、当業者に周知の方法を用い、天然または人工的に設計されたDNAプローブで、ヒト組織特異的ライブラリーを探査する(probe)ことである。ヒトHIF−1α遺伝子、EPAS1、またはHLF遺伝子由来のDNAプローブは、本目的に特に有用である。本発明のポリペプチドをコードするDNAおよびcDNA分子を用い、以下により詳細に記載される方法により、ヒト、哺乳動物、または他の動物供給源から、相補的ゲノムDNA、cDNAまたはRNAを得ても、またはcDNAまたはゲノムライブラリーをスクリーニングすることにより、関連するcDNAまたはゲノムクローンを単離してもよい。
【0049】
さらに、該核酸を修飾し、安定性、可溶性、結合親和性、および特異性を改変してもよい。例えば、本発明由来の配列はさらに、ヌクレアーゼ耐性ホスホロチオエート、ホスホロアミデート、およびメチルホスホネート誘導体や、さらには、Nielsenら, Science, 254:1497(1991)に記載されるような、塩基をアミノ酸骨格に結合することにより形成される「タンパク質核酸(PNA)」を含んでもよい。該核酸は、α−アノマー・ヌクレオチドの連結により、またはメチルもしくはエチルホスホトリエステルまたはアルキルホスホロアミデート連結の形成により、誘導体化してもよい。さらに、本発明の核酸配列はまた、直接または間接的に、検出可能なシグナルを提供することが可能な標識で修飾してもよい。典型的な標識には、放射性同位体、蛍光分子、ビオチン、およびそれらに匹敵するものが含まれる。
【0050】
一般的に、本発明にしたがった核酸操作は、例えば、Sambrookら, Molecular Cloning, A Laboratory Manual 第二版(ニューヨーク州コールドスプリングハーバー、1989)、またはAusubelら, Current Protocols in Molecular Biology(Greene Assoc.,Wiley Interscience,ニューヨーク州ニューヨーク,1992)に開示されるような、当業者に周知の方法を用いる。
【0051】
本発明はまた、ヒトHIF−1α、EPAS1、またはHLFをコードする核酸とは異なるが、同一の表現型、すなわちそれぞれ、実質的に同一のアミノ酸配列を有する核酸も含む。表現型が類似である核酸はまた、「機能的に同等である核酸」とも称される。本明細書において、「機能的に同等である核酸」という句は、本明細書に開示される核酸と、同一のまたは実質的に同一のタンパク質産物を、実質的に同一の方式で産生するよう機能するであろう、わずかでそして重大でない配列変動により特徴付けられる核酸を含む。特に、機能的に同等である核酸は、本明細書に開示されるものと同一である、または保存的アミノ酸変動を有するタンパク質をコードする。例えば、保存的変動には、非極性残基の別の非極性残基での置換、または荷電残基の同様に荷電されている残基での置換が含まれる。これらの変動には、当業者により、タンパク質の三次構造を実質的に改変しないものと認識されるものが含まれる。
【0052】
構造遺伝子は、タンパク質、ポリペプチドまたはその断片をコードするDNA部分を含み、そして転写開始を指示する5’配列を除く、遺伝子部分である。構造遺伝子は、通常細胞に見られるものであってもよく、または異種性遺伝子と呼ばれるものである場合、導入される細胞部位に通常見られないものであってもよい。異種性遺伝子は、全体的にまたは部分的に、細菌ゲノムまたはエピソーム、真核、核またはプラスミドDNA、cDNA、ウイルスDNAまたは化学的に合成されたDNAを含む、当業者に知られるいかなる供給源由来であってもよい。構造遺伝子は、コードまたは非翻訳領域のどちらにおいても、発現産物の生物学的活性もしくは化学構造、発現速度または発現調節方式に影響を与える可能性がある、1つまたはそれ以上の修飾を含んでもよい。こうした修飾には、限定されるわけではないが、1つまたはそれ以上のヌクレオチドの突然変異、挿入、欠失および置換が含まれる。構造遺伝子は、中断されないコード配列を構成してもよいし、または適切なスプライス連結部(splice junction)が結合している1つまたはそれ以上のイントロンを含んでもよい。構造遺伝子は、天然に存在するかまたは合成の、複数の供給源由来の部分の複合物であってもよい。構造遺伝子はまた、融合タンパク質をコードしてもよい。構造遺伝子/トランス活性化因子複合体を含む組換えDNA分子の導入は、構造遺伝子およびトランス活性化因子が各々、異なる供給源または種由来である構築物を含むことが意図される。
【0053】
真核転写因子は、しばしば、別個のそして独立したDNA結合および転写活性化ドメインからなる(MitchellおよびTjian, Science 245:371−378(1989))。ドメインが独立していることにより、異種性タンパク質のDNA結合および活性化ドメインからなる機能的な融合タンパク質の生成が可能になってきている。lexA DNA結合タンパク質および酵母転写因子GAL4の活性化ドメインからなるキメラ真核制御タンパク質が、BrentおよびPtashneにより構築された(Nature 312:612−615(1985))。融合タンパク質の使用は、転写活性化因子として作用するいくつかの種類のタンパク質ドメインを同定してきている。これらのドメインはアミノ酸類似性をほとんど持たないが、しばしば非常に酸性(GAL4およびGNC4の場合のように)、グルタミン・リッチ(Sp1の場合のように)、またはプロリン・リッチ(NF1の場合のように、MaおよびPtashne, Cell 51:113−119(1987);CoureyおよびTjian(1988);Mermondら, Cell 58:741−753(1989))のいずれかであるとして特徴付けられる。
【0054】
最も効果的な、既知の活性化ドメインの1つは、単純疱疹ウイルス(HSV)ビリオンタンパク質16(VP16;Sadowskiら, Nature 335:563−564(1988);Triezenbergら, Genes & Dev. 2:718−729(1988))のカルボキシル末端100アミノ酸に含まれる。VP16は、Vmw65またはアルファ−遺伝子トランス誘導因子としても知られるHSVの構造タンパク質で、ICPOおよびICP4に対するものを含む、該ウイルスの極初期プロモーターの転写を活性化する(Campbellら, J. Mol. Biol. 180:1−19(1984);KristieおよびRoizman, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 81:4065−4069(1984);Pelletら, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 82:5870−5874(1985))。VP16は、いわゆるTAATGARAT要素を含むプロモーターを特異的に活性化するが、該特異性は、VP16のアミノ末端ドメインと複合体を形成する細胞性DNA結合タンパク質により与えられる(McKnightら, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 84:7061−7065(1987);Prestonら, Cell 52:425−434(1988))。
【0055】
本発明は、DNA結合タンパク質の機能的な部分および転写活性化タンパク質の機能的な部分を含む、新規ハイブリッド/キメラトランス活性化タンパク質を提供する。本発明のハイブリッド/キメラトランス活性化タンパク質は、低酸素症応答要素(HRE)を含む低酸素症誘導性遺伝子発現の特異的な活性化、それによる非常に高いレベルの遺伝子発現の達成を含む、多様な利点を提供する。本発明のハイブリッド/キメラトランス活性化タンパク質は、脊椎動物細胞を含む真核細胞由来の天然発生転写トランス活性化タンパク質またはタンパク質のドメイン、ウイルストランス活性化タンパク質、あるいは脊椎動物細胞で機能することが可能であり、そして脊椎動物プロモーターからの転写を刺激することが可能な、いかなる合成アミノ酸配列も含んでもよい。こうしたトランス活性化タンパク質の例には、限定されるわけではないが、Mullerらに同定されたリンパ系特異的転写因子(Nature 336:544−551(1988))、fosタンパク質(Lucibelloら, Oncogene 3:43−52(1988));v−junタンパク質(Bosら, Cell 52:705−712(1988));因子EF−C(Ostapchukら, Mol. Cell. Biol. 9:2787−2797(1989));HIV−1 tatタンパク質(Aryaら, Science 229:69−73(1985))、パピローマウイルス(papillomavirus)E2タンパク質(Lambertら, J. Virol. 63:3151−3154(1989))、アデノウイルスE1Aタンパク質(FlintおよびShenk, Ann. Rev. Genet.(1989)に概説される)、熱ショック因子(HSF1およびHSF2)(Rabindranら, PNAS 88:6906−6910(1991));p53タンパク質(Levine, Cell 88:323−331(1997)、KoおよびPrives, Genes Dev. 10:1054−1072(1996));Sp1(Kadonagaら, Cell 51:1079−1090(1987));AP1(Leeら, Nature 325:368−372(1987));CTF/NF1(Mermodら, Cell 58:741−753(1989))、E2F1(Neumanら, Gene 173:163−169(1996));HAP1(Pfeiferら, Cell 56:291−301(1989));HAP2(Pinkhamら, Mol. Cell. Biol. 7:578−585(1987));MCM1(Passmoreら, J. Mol. Biol. 204:593−606(1988));PHO2(SengstagおよびHinnen, NAR 15:233−246(1987));およびGAL11(Suzukiら, Mol. Cell. Biol. 8:4901−4999(1988))が含まれる。本発明の好ましい態様において、トランス活性化タンパク質は単純疱疹ウイルスVP16(Sadowskiら, Nature 335:563−564(1988);Triezenbergら, Genes and Dev. 2:718−729(1988))、NFκB(SchmitzおよびBaeuerle,EMBO J. 10:3805−3817(1991);Schmitzら, J. Biol. Chem. 269:25613−25620(1994);およびSchmitzら, J. Biol. Chem. 270:15576−15584(1995))、および酵母活性化因子GAL4およびGCN4である。
【0056】
もちろん、当業者は、本発明の組成物および方法に有用な転写活性化ドメインもまた、合成でも、すなわち既知の天然発生タンパク質内に含まれない配列に基づいてもよいことを理解するであろう。例えば、転写活性化は、本質的に柔軟な過程であり、特定の構造または立体特異的タンパク質接触に対する必要性はあるとしてもわずかであることを解説する、PollockおよびGilman, PNAS 94:13388−13389(1997)を参照されたい。該文献はまた、転写活性化因子として機能することが可能な多様な異なる分子を概説し、該分子には短ペプチドモチーフ(8アミノ酸であるほど小さい)、単純な両親媒性らせんおよび転写活性化に関係がないタンパク質の突然変異ドメインでさえ含まれる。
【0057】
本発明にしたがい、DNA結合タンパク質およびトランス活性化タンパク質をコードするDNA配列を、各々の、それぞれ結合およびトランス活性化特性を保持するよう、結合させる。本発明の多様な態様において、トランス活性化タンパク質、または転写活性化が可能なその部分をコードするDNAを、前記DNA結合タンパク質の機能を完全には混乱させない遺伝子座でDNAに挿入してもよい。DNA結合タンパク質または転写トランス活性化タンパク質の機能に必要でない領域は、他のより機能的に適切な分子の部分より突然変異に対する感受性が低いと推定され、マップされる突然変異解析と共にマップされる突然変異を欠く領域の同定を含む、当業者に知られるいかなる方法により、同定してもよい。Maniatis(Molecular Cloning:A Laboratory Manual(ニューヨーク州コールドスプリングハーバー、Cold Spring Harbor Laboratory(1989)))に示されるものを含む、分子生物学の標準的な技術を用い、適切な組換え構築物を産生してもよい。
【0058】
キメラトランス活性化タンパク質をコードする組換えDNA構築物は、適切なプロモーターおよび/または他の発現調節配列の調節下に置いても(すなわち該配列に機能可能であるように連結しても)よい。トランス活性化タンパク質が構成的に活性があるプロモーター配列の調節下に置かれることが望ましい可能性があるが、前記トランス活性化タンパク質はまた、メタロチオネインプロモーター(Brinsterら, Nature 296:39−42(1982))または組織特異的プロモーターなどの誘導性プロモーターの調節下に置いてもよい。本発明にしたがい用いてもよいプロモーター配列には、限定されるわけではないが、SV40初期プロモーター領域(BenoistおよびChambon, Nature 290:304−310(1981))、ラウス肉腫ウイルス(Rous sarcoma virus)の末端反復配列(long terminal repeat)に含まれるプロモーター(Yamamotoら, Cell 22:787−797(1980))、ヘルペス・チミジンキナーゼプロモーター(Wagnerら, Proc. Natl. Acad. Sci., U.S.A. 78:144−1445(1981))、ヒトサイトメガロウイルス(cytomegalovirus)(CMV)極初期プロモーター/エンハンサー(Boshartら, Cell 41:521−530(1985))、および組織特異性を示し、そしてトランスジェニック動物で利用されてきている以下の動物転写調節領域:膵臓腺房(acinar)細胞で活性があるエラスターゼI遺伝子調節領域(Swiftら, Cell 38:639−646(1984);Ornitzら,Cold Spring Harbor Symp. Quant. Biol. 50:399−409(1986);MacDonald, Hepatology 7:425−515(1987));膵臓ベータ細胞で活性があるインスリン遺伝子調節領域(Hanahan, Nature 315:115−122(1985))、リンパ系細胞で活性がある免疫グロブリン遺伝子調節領域(Grosschedlら, Cell 38:647−658(1984);Adamesら, Nature 318:533−538(1985);Alexanderら, Mol. Cell. Biol. 7:1436−1444(1987))、精巣、乳房、リンパ系およびマスト細胞で活性があるマウス乳癌ウイルス調節領域(Lederら, Cell 45:485−495(1986))、肝臓で活性があるアルブミン遺伝子調節領域(Pinkertら, Genes and Devel. 1:268−276(1987))、肝臓で活性があるアルファ−フェトプロテイン遺伝子調節領域(Krumlaufら, Mol. Cell. Biol. 5:1639−1648(1985);Hammerら, Science 235:53−58(1987));肝臓で活性があるアルファ1−アンチトリプシン遺伝子調節領域(Kelseyら, Genes and Devel. 1:161−171(1987))、赤血球系細胞で活性があるベータ−グロビン遺伝子調節領域(Mogramら, Nature 315:338−340(1985);Kolliasら, Cell 46:89−94(1986));脳の乏突起神経膠細胞(oligodendrocyte cell)で活性があるミエリン塩基性タンパク質遺伝子調節領域(Readheadら, Cell 48:703−712(1987));骨格筋で活性があるミオシン軽鎖−2遺伝子調節領域(Sani, Nature 314:283−286(1985))、および視床下部で活性がある性腺刺激ホルモン放出ホルモン遺伝子調節領域(Masonら, Science 234:1372−1378(1986))が含まれる。特に関心となるのは、どちらも心筋で活性がある、α−ミオシン重鎖遺伝子(Subramanianら, J. Biol. Chem. 266:24613−24620(1991))およびミオシン軽鎖−2プロモーター(Hendersonら, J. Biol. Chem. 264:18142−18148(1989)およびRuoqian−Shenら,Mol. Cell. Biol. 11:1676−1685(1991))である。
【0059】
本発明の1つの好ましい特定の態様において、キメラトランス活性化タンパク質は、実施例1および図1に示される方法にしたがい構築される、pcDNA3/HIF/VP16/Afl2にコードされる。本発明の別の好ましい特定の態様において、キメラトランス活性化タンパク質は、VP16部分がHIF−1αコード領域のコドン530の後に挿入されている以外はpcDNA3/HIF/VP16/Afl2と同一である、pcDNA3/HIF/VP16/RIにコードされる。
【0060】
本発明にしたがい、本発明のハイブリッド/キメラトランス活性化タンパク質を利用し、低酸素症応答要素(HRE)を含む遺伝子の発現を特異的に制御してもよい。これらのHREはキメラトランス活性化タンパク質の骨格として使用されるDNA結合タンパク質により認識されそして結合される核酸配列に一致する。
【0061】
一般的に、本発明のキメラトランス活性化タンパク質を用い、目的の遺伝子の発現を選択的に調節してもよい。例えば、そして限定ではなく、本発明のキメラトランス活性化タンパク質を構成的なプロモーターの調節下においてもよく、そして、例えば細胞培養またはトランスジェニック動物において、特定の遺伝子産物を大量に産生するのが望ましい場合、低酸素症応答要素(HRE)と結合させた目的の遺伝子の発現を構成的に増加させるのに用いてもよい。あるいは、トランス活性化タンパク質を組織特異的プロモータの調節下に置き、目的の遺伝子が特定の組織で発現するようにしてもよい。本発明の別の態様において、キメラトランス活性化機能は誘導性であり、それゆえ、低酸素症応答要素(HRE)を介した、目的の遺伝子の発現を、選択的に増加しまたは減少することが可能である。条件付きのそして誘導性導入遺伝子の概説には、Fishman, Circ. Res., 82:837−844(1988)およびFishman, Trends Cardiovasc. Med., 5:211−217(1995)を参照されたい。
【0062】
キメラトランス活性化タンパク質は、該キメラタンパク質のDNA結合タンパク質骨格により認識されるDNA配列に相同な応答要素に特異的に結合する、有益な特性を有する。
【0063】
ベクター:ベクターの例は、ウイルス、例えばアデノウイルス、アデノ関連ウイルス(AAV)、レンチウイルス(lentiviruses)、ヘルペスウイルス、陽性鎖RNAウイルス、ワクシニアウイルス(vaccinia viruses)、バキュロウイルス(baculoviruses)およびレトロウイルス(retroviruses)、バクテリオファージ、コスミド、プラスミド、真菌ベクター、および多様な真核および原核宿主での発現に関し記載されてきている、当技術分野で典型的に用いられる他の組換え媒体(vehicle)であり、そして遺伝子治療と共に単純なタンパク質発現に用いてもよい。
【0064】
ポリヌクレオチド/導入遺伝子は、当業者に周知の方法を用い、ベクターゲノムに挿入する。例えば、挿入物およびベクターDNAを、適切な条件下で、制限酵素と接触させ、各分子上に、互いに対を作り、そしてリガーゼで共につなぐことが可能な相補的末端を生成してもよい。あるいは、合成核酸リンカーを、制限処理されたポリヌクレオチドの末端に連結してもよい。これらの合成リンカーは、ベクターDNAの特定の制限部位に対応する核酸配列を含む。さらに、終止コドンおよび適切な制限部位を含むオリゴヌクレオチドを、例えば、以下のいくつかまたはすべてを含むベクターに挿入するため連結してもよい:選択可能マーカー遺伝子、例えば哺乳動物細胞での安定または一過性トランスフェクタントの選択のためのネオマイシン遺伝子;高レベル転写のためのヒトCMV極初期遺伝子由来のエンハンサー/プロモーター配列;mRNA安定性のためのSV40由来の転写終結およびRNAプロセシングシグナル;適切なエピソーム複製のためのSV40ポリオーマ複製起点およびColE1;多用途マルチクローニング部位;並びにセンスおよびアンチセンスRNAのin vitro転写のためのT7およびSP6 RNAプロモーター。他の手段が当業者に周知であり、そして利用可能である。
【0065】
当業者は、ベクターからの発現が望ましい場合、ポリヌクレオチド/導入遺伝子が、発現調節配列に、機能可能であるよう連結されることを認識するであろう。ポリヌクレオチドを機能可能であるように連結してもよい、プロモーターおよびクローニング部位を両方含むベクターは、当業者に周知である。こうしたベクターは、in vitroまたはin vivoでRNAを転写することが可能であり、そしてStratagene(カリフォルニア州ラホヤ)およびPromega Biotech(ウィスコンシン州マディソン)などの供給源から商業的に入手可能である。発現および/またはin vitro転写を最適化するため、クローンの5’および/または3’非翻訳部分を除去し、該部分に付加し、または該部分を改変し、転写または翻訳レベルどちらかで、発現に干渉しまたは発現を減少させる可能性がある、余分で、潜在的に不適切な代替翻訳開始コドンまたは他の配列を除去することが必要である可能性がある。あるいは、コンセンサスリボソーム結合部位を開始コドンのすぐ5’に挿入し、発現を亢進してもよい。同様に、転写を亢進するため、同一のアミノ酸をコードする代替コドンで、ヒトHIF−1α、EPAS1またはHLFポリペプチドのコード配列を置換してもよい(例えば、宿主細胞のコドン優先性(preference)を採用してもよい、G−Cリッチドメインの存在を減少させてもよい、およびそれらに匹敵するもの)。
【0066】
ヒトHIF−1α、EPAS1およびHLFまたは別の低酸素症誘導性因子タンパク質をコードする本発明のポリヌクレオチドの調製を、当業者に知られる方法を用い、個々の細胞内に搬送するため、適切なベクターに取り込んでもよい。例えば、FinkelおよびEpstein, FASEB J. 9:843−851(1995);Feldmanら, Cardiovascular Res. 32:194−207(1996)を参照されたい。
【0067】
1つの態様において、本発明は、薬学的に許容しうるキャリアーおよび生物学的に活性があるキメラトランス活性化タンパク質を発現することが可能な核酸分子を含む組成物を提供する。該核酸分子にコードされるキメラトランス活性化タンパク質には、低酸素症誘導性因子タンパク質由来のDNA結合ドメインおよび転写活性化が可能なタンパク質ドメインが含まれる。こうしたドメインは、天然発生または合成いずれかの転写活性化分子由来であってもよい。該組成物内の核酸分子は、in vivoまたはin vitroで細胞内への搬送に適切な型である。多様なこうした型が、当業者に周知である。本明細書に示される解説を与えられたなら、当業者は、投与部位および経路並びに発現の望ましいレベルおよび期間などの要因に応じ、多様なベクターおよび他の発現/搬送要素から選択することが可能である。
【0068】
裸のDNA−裸のプラスミドDNAを、例えば、組織への直接注入により、筋肉細胞内に導入してもよい(Wolffら, Science 247:1465(1989))。
【0069】
DNA・脂質複合体−脂質キャリアーを裸のDNA(例えばプラスミドDNA)と結合させ、細胞膜を通じた輸送を容易にしてもよい。陽イオン性、陰イオン性、または中性脂質をこの目的に用いてもよい。しかし、陽イオン性脂質は、一般的に負荷電を有するDNAとよりよく結合することが示されてきているため、陽イオン性脂質が好ましい。陽イオン性脂質はまた、プラスミドDNAの細胞内搬送を媒介することも示されてきている(FelgnerおよびRingold, Nature 337:387(1989))。陽イオン性脂質・プラスミド複合体のマウスへの静脈内注射は、肺での発現を生じることが示されてきている(Brighamら, Am. J. Med. Sci. 298:278(1989))。Osakaら, J. Pharm. Sci. 85(6):612−618(1996);Sanら, Human Gene Therapy 4:781−788(1993);Seniorら, Biochemica et Biophysica Acta 1070:173−179(1991);KabanovおよびKabanov, Bioconjugate Chem. 6:7−20(1995);Remyら, Bioconjugate Chem. 5:647−654(1994);Behr, J−P., Bioconjugate Chem. 5:382−389(1994);Behrら, Proc. Natl. Acad. Sci., USA 86:6982−6986(1989);およびWymanら, Biochem. 36:3008−3017(1997)も参照されたい。
【0070】
陽イオン性脂質は、一般の当業者に知られる。代表的な陽イオン性脂質には、例えば、その開示が本明細書に援用される、米国特許第5,283,185号;およびPCT/US95/16174(WO 96/18372)に開示されるものが含まれる。好ましい態様において、陽イオン性脂質はWO 96/18372に開示されるN4−スペルミン・コレステロール・カルバメート(GL−67)である。
【0071】
アデノウイルス−導入遺伝子搬送のためのアデノウイルスに基づくベクターは当業者に周知であり、そして商業的に入手してもまたは標準的な分子生物学的方法により構築してもよい。運搬する外因性遺伝子を含む組換えアデノウイルスベクターは、一般的に、アデノウイルス2型(Ad2)およびアデノウイルス5型(Ad5)由来である。これらはまた、他の非オンコジーン性血清型由来であってもよい。例えば、本明細書に援用される、Horowitz,“Adenoviridae and their Replication”VIROROGY,第二版中,Fieldsら監修,Raven Press Ltd.,ニューヨーク,1990を参照されたい。
【0072】
本発明のアデノウイルスベクターは、複製が不可能であり、最低限のウイルス遺伝子しか発現せず、そして標的細胞において導入遺伝子を発現することが可能である。アデノウイルスベクターは、一般的に、E1領域遺伝子の欠失により、複製不全にされている。複製不全ベクターは、E1機能を発現するヒト胚腎臓細胞株である293細胞株(ATCC CRL 1573)で産生することが可能である。欠失E1領域を、アデノウイルスまたは非アデノウイルスプロモーターの調節下にある目的の導入遺伝子で置き換えてもよい。導入遺伝子はまた、アデノウイルスゲノムの他の領域に置いてもよい。複製不全アデノウイルスベクター産生の概説には、やはり本明細書に援用される、Grahamら,“Adenovirus−based Expression Vectors and Recombinant Vaccines”VACCINES: NEW APPROACHES to IMMUNOLOGICAL PROBLEMS中 pp363−390,Ellis監修,Butterworth−Heinemann,ボストン,(1992)を参照されたい。
【0073】
当業者はまた、アデノウイルスの他の非必須領域を欠失させ、またはウイルスゲノム内で再配置し、本発明にしたがった導入遺伝子の搬送に適したアデノウイルスベクターを提供してもよいことにも気づく。例えば、本明細書に援用されるPCT/US93/11667(WO 94/12649)および米国特許第5,670,488号は、E1およびE3領域のある程度またはすべてを欠失させてもよく、そしてE4の非必須読み枠(ORF)もまた欠失させてもよいことを開示する。他の代表的なアデノウイルスベクターは、例えば、本明細書に援用される、Richら, Human Gene Therapy 4:461(1993);Brodyら, Ann. NY Acad. Sci. 716:90(1994);Wilson, N. Eng. J. Med. 334:1185(1996);Crystal, Science 270:404(1995);O’Nealら, Hum. Mol. Genet. 3:1497(1994);およびGrahamら、上記に開示される。本発明の好ましい態様において、アデノウイルスベクターは、E1欠失Ad2に基づくベクターである。
【0074】
本発明のアデノウイルスベクターにおいて、ポリヌクレオチド/導入遺伝子は、発現調節配列、例えば導入遺伝子の発現を指示するプロモーターに、機能可能であるように連結されている。本明細書において、「機能可能であるように連結されている」という句は、ポリヌクレオチド/導入遺伝子とヌクレオチドの制御およびエフェクター配列、例えばプロモーター、エンハンサー、転写および翻訳終止部位、および他のシグナル配列との、機能的な関係を指す。例えば、ポリヌクレオチドのプロモーターへの機能可能である連結は、DNAの転写が、プロモーターを特異的に認識しそして該プロモーターに結合するRNAポリメラーゼにより、該プロモーターから開始され、そしてここで該プロモーターがポリヌクレオチドからのRNAの転写を指示するような、ポリヌクレオチドおよびプロモーターとの間の物理的および機能的関係を指す。
【0075】
プロモーター領域は、RNAポリメラーゼ認識、結合および転写開始に十分な特定の配列を含む。さらに、プロモーター領域は、RNAポリメラーゼの認識、結合および転写開始活性を調節する配列を含む。こうした配列は、シス作用であってもよく、またはトランス作用因子に反応してもよい。制御の性質に応じ、プロモーターは構成的であっても、または制御されていてもよい。プロモーターの例は、SP6、T4、T7、SV40初期プロモーター、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、マウス乳癌ウイルス(MMTV)ステロイド誘導性プロモーター、モロニーネズミ白血病ウイルス(Moloney murine leukemia virus)(MMLV)プロモーター、ホスホグリセリン酸キナーゼ(PGK)プロモーター、およびそれらに匹敵するものである。あるいは、プロモーターは内因性アデノウイルスプロモーター、例えばE1aプロモーターまたはAd2主要後期プロモーター(MLP)であってもよい。同様に、一般の当業者は、内因性または異種性ポリA付加シグナルを利用し、アデノウイルスベクターを構築してもよい。
【0076】
本明細書において、「プロモーター」は、転写開始を指示する、構造遺伝子の5’端のヌクレオチド配列を指す。プロモーター配列は、下流遺伝子の発現を操縦するのに必要であるが、常に十分であるわけではない。一般的に、真核プロモーターには、転写開始部位(CAP部位)の約10−30bp 5’のコンセンサス5’TATAボックスに相同な、特徴的なDNA配列が含まれる。別のプロモーター構成要素、CAATボックスは、しばしばTATAボックスの約30−70bp 5’に見られる。
【0077】
本明細書において、「エンハンサー」は、近傍の遺伝子に関する位置および方向に比較的独立した方式で、転写効率を増加させるようである、真核プロモーター配列要素を指す(KhouryおよびGruss(1983)Cell 33:313−314)。エンハンサー配列が、真核遺伝子の上流、内部または下流で機能する能力は、これらを古典的なプロモーター要素とは区別する。
【0078】
本発明のウイルスおよび非ウイルスベクターは、ポリヌクレオチド/導入遺伝子の標的細胞への運搬に有用である。標的細胞は、in vitroであってもin vivoであってもよい。本発明のベクターのin vitroでの使用により、ポリヌクレオチド/導入遺伝子の培養細胞への運搬が可能になり、そして該使用は、ポリヌクレオチド/導入遺伝子産物の組換え産生に有用である。in vitro法はまた、ex vivo遺伝子治療法にも有用であり、この中で、導入遺伝子をin vitroで細胞に導入し、そして該細胞をその後、個体に移植する。当業者は、こうした技術を使用する際、導入遺伝子を新たに単離された細胞または培養細胞に導入してもよいことを認識するであろう。さらに、導入遺伝子含有細胞は、導入遺伝子の導入直後に移植しても、または移植前に培養してもよい。
【0079】
本発明のベクターは、虚血および他の低酸素症関連障害の予防または治療に有用な、多様なex vivo遺伝子治療法に使用を見出す。例えば、培養心筋細胞の心筋傷組織への移植は心不全を予防することが可能であると報告されてきている(Ren−Ke Liら, Ann. Thorac. Surg. 62:654−661(1996))。また、多様な組み合わせの増殖因子が非心臓系列細胞の心臓発生を誘導することが可能であることも報告されてきている(PCT/US97/14229を参照されたい)。本明細書に含まれる解説を与えられれば、当業者は、本発明にしたがったキメラトランス活性化タンパク質を発現することが可能な核酸分子を、in vivo移植前に標的細胞に導入すると、少なくとも2つの点で細胞治療法に対しさらなる利点を提供する可能性があることを理解するであろう。第一に、細胞は発現構築物の運搬媒体として作用することが可能であり、その結果、細胞が移植される、体のいかなる領域においても、キメラトランス活性化タンパク質の部位特異的搬送が行われる。第二に、移植細胞におけるキメラトランス活性化タンパク質の発現は、移植後に存在する可能性があるいかなる低酸素状態にも該細胞がより容易に適応することを可能にすることにより、および/または移植領域で血管発達を刺激することにより、移植後の該細胞の生存を促進することが可能である。
【0080】
本発明のベクターを、ポリヌクレオチド/導入遺伝子をin vivoで細胞に搬送するのに使用すること、例えば、低酸素症関連障害、例えば虚血性心臓疾患の場合、HIF−1αがない、不充分なまたは機能していない細胞に搬送するのに使用することは、多様な障害の治療に有用である。したがって、さらなる態様において、本発明は、本発明にしたがった生物学的に活性があるキメラトランス活性化タンパク質を、発現に適した型(例えば発現調節配列に機能可能であるように連結されている)で含む組成物の有効量を、投与することにより、こうした発現増加が望ましい患者の標的細胞における低酸素症誘導性遺伝子の発現を増加させるための方法を提供する。「有効量」は、生物学的に活性があるキメラトランス活性化タンパク質の、低酸素症関連障害に関連する症状の1つまたはそれ以上を軽減するのに十分なレベルおよび期間での発現を生じる量を指す。こうした方法は、HIF−1αおよび低酸素症誘導性遺伝子の、低酸素および酸素正常条件下の組織での発現を増加させまたは持続するのに有用である。
【0081】
関連する態様において、本発明は、生物学的に活性があるキメラトランス活性化タンパク質の発現が望ましい細胞に、本発明の核酸分子の有効量をin vivoまたはex vivo投与することにより、患者における低酸素症関連組織損傷を治療し、減少させおよび/または予防するための方法を提供する。低酸素症関連組織損傷の治療および/または予防は、組織の以前の虚血領域への灌流の増加を含む、多様な生理学的効果により明らかになる可能性がある。本発明の方法は、冠状動脈疾患および重大な四肢虚血を含む末梢血管疾患などの疾患の治療に使用を見出す。
【0082】
本発明の組成物のin vivo投与は、筋内、静脈内、鼻腔内、皮下、挿管、洗浄(lavage)および動脈内搬送を含む、多様な経路により達成してもよい。こうした方法は当業者に周知である。同様に、投与すべき組成物の正確な有効量は、当業者により、投与すべき組成物の特定の構成要素、投与経路、および治療される患者の年齢、体重、疾患の度合いおよび肉体的状態などの要因を考慮し、決定することが可能である。
【0083】
本発明により、やはり提供されるのは、HIF−1α、EPAS1、HLFポリペプチドおよび他の低酸素症誘導性因子タンパク質のドメインをコードするポリヌクレオチドを含む、細菌細胞、酵母細胞、両生類細胞、昆虫細胞、哺乳動物細胞、および他の動物細胞での発現に適応したベクターである。さらに、該ベクターは、その発現を可能にするように、ポリヌクレオチドに対し位置する、細菌、酵母、両生類、哺乳動物または動物細胞におけるポリヌクレオチド発現に必要な制御要素を含む。
ここに用いられている、「発現」とは、ポリヌクレオチドがmRNAに転写され、ペプチド、ポリペプチドまたはタンパク質に翻訳されるプロセスをさす。ポリペプチドがゲノムDNAから誘導される場合、適当な真核生物宿主を選択すると、発現には、mRNAのスプライシングも含まれるであろう。発現に必要な調節エレメントには、RNAポリメラーゼと結合するためのプロモーター配列、およびリボソーム結合用転写開始配列が含まれる。例えば、細菌発現ベクターには、lacプロモーターのようなプロモーターならびに転写開始用シャイン−ダルカルノ配列および開始コドンAUGが含まれる(Sambrookら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual、第二版、ColdSpringHarbor,NY,1989;またはAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology,Greene Assoc.,Wiley Interscience,NY,NY、1992)。同様に、真核生物発現ベクターには、異種または同種のRNAポリメラーゼII用プロモーター、下流ポリアデニル化シグナル、開始コドンAUG、およびリボソーム分離用終止コドンが含まれる。そのようなベクターは、市販されているか、またはこの技術分野で周知の方法、例えば一般にベクターを構築するための上記の方法、に記載された配列で組み立てることができる。発現ベクターは、本発明のハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ポリペプチドを発現する細胞を作成するために有用である。
【0084】
本発明は、本発明のハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ポリペプチドを組換え発現する形質転換された宿主細胞を提供する。本発明の宿主細胞を、哺乳動物または非哺乳動物の低酸素−誘導因子タンパク質のDNA結合ドメインおよび転写アクティベータータンパク質の機能的転写アクティベータードメインを含む、キメラトランスアクティベーターをコードする組換え核酸分子で形質転換した。例として、哺乳動物細胞内での発現に適合したプラスミドを含む哺乳動物細胞があげられる。プラスミドは、哺乳動物または非哺乳動物の低酸素−誘導因子タンパク質のDNA結合ドメインおよび転写アクティベータータンパク質の機能的転写アクティベータードメインをコードするポリヌクレオチド、ならびに本発明のハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ポリペプチドの発現に必要な調節エレメントを含む。
【0085】
適当な宿主細胞には、細菌、古細菌、真菌、特に酵母、植物細胞、昆虫細胞および動物細胞、特に哺乳動物細胞が含まれる。特に興味あるのは、大腸菌、枯草菌、Saccharomyces cerevisiae、SF9細胞、C129細胞、293細胞、ニューロスポラ、およびCHO細胞、COS細胞、HeLa細胞、および不朽化した哺乳動物骨髄細胞系およびリンパ細胞系が含まれる。好ましい複製システムには、M13、ColE1、SV40、バキュロウイルス、ラムダ、アデノウイルス、人工染色体等が含まれる。多数の転写開始領域および終止調節領域が単離され、様々な宿主内での異種タンパク質の転写および翻訳に有用であることが示された。これらの領域の例、単離方法、マニピュレーション法等は、この技術分野で既知である。適当な発現条件下では、宿主細胞を、本発明のハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)タンパク質を組み換え生産する源として用いることができる。
【0086】
また、本発明のハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ポリペプチドをコードする核酸(ポリヌクレオチド)を、組換えによってレシピエント細胞のゲノム内に組込ませることもできる。また、特に多能性細胞内では、非相同組換えまたは相同組換えによる内因性遺伝子の欠損の様な別の組換えに基づく方法を、用いることもできる。
【0087】
標的細胞または宿主細胞への本発明のベクターの標的化は、ベクターに標的化分子を連結させることによって、成し遂げることができる。標的化分子は、興味ある細胞または組織型に特異的であり、例えば、リガンド、抗体、糖、レセプター、またはその他の結合分子を含む、任意の薬剤である。標的化ベクターは、本発明のベクターを、低酸素関連疾病の治療に特に有用にする能力を持つ。
【0088】
本発明のベクターによる標的細胞または宿主細胞へのポリヌクレオチド/トランスジーンのトランスファーを、標的細胞または宿主細胞でのポリヌクレオチド/トランスジーンの生成レベルを測定することによって、評価することができる。標的細胞または宿主細胞内でのポリヌクレオチド/トランスジーンの生成レベルは、本発明のベクターによるポリヌクレオチド/トランスジーンのトランスファー効率と直接的に関係する。
【0089】
ポリヌクレオチド/トランスジーンの発現は、とりわけ、免疫学的アッセイ、組織化学的アッセイおよび活性アッセイを含むこの技術分野で既知の様々な方法によって、モニターすることができる。サンプル内のハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ポリペプチドのインビトロでの検出に有用な免疫学的方法には、検出可能抗体を用いるイムノアッセイが含まれる。そのようなイムノアッセイには、例えば、この技術分野で周知の、ELISA、Pandex微量蛍光測定アッセイ、凝集アッセイ、フローサイトメトリー、血清診断アッセイおよび免疫組織化学染色法が含まれる。この技術分野で周知の様々な手段によって、抗体を検出可能にすることができる。例えば、検出可能マーカーを、抗体に直接または間接的に付けることができる。有用なマーカーには、例えば、放射性核種、酵素、蛍光源、色原体および化学ルミネセンス標識が含まれる。
【0090】
インビボでの画像診断法用では、検出可能抗体を、患者、組織または細胞に投与し、そして、ポリヌクレオチド/トランスジーン生成物への抗体の結合を、この技術分野で周知の画像診断技術によって検出することができる。適当な画像診断薬剤は、既知であり、例えば、111In、99mTc、51Cr等のようなγ線放射放射性核種、ならびに合衆国特許第4,647,447号に記載の常磁性金属イオンが含まれる。放射性核種は、γシンチレーション光度計、陽電子射出断層撮影、シングルフォトンエミッションコンピューター断層撮影およびγ線カメラ全身画像診断による、組織の画像診断を可能にし、これに対して、常磁性金属イオンは磁気共鳴画像診断による可視化を可能にする。
【0091】
本発明は、本発明の核酸によってコードされる、単離されたハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ペプチド、ポリペプチド(類)および/またはタンパク質(類)を、提供する。ここに用いられている、用語「単離された」は、細胞成分および/またはインビボでの天然環境で通常関連する混入物を含まないタンパク質分子を意味する。本発明のポリペプチドおよび/またはタンパク質には、任意の天然発生のアレレ変異体、ならびにその組換え型、を含む。本発明のポリペプチドを、当業者らに周知の様々な方法を用いて、単離することができる。
【0092】
本発明の融合タンパク質の単離精製に利用できる方法には、沈殿、ゲルろ過、ならびに分子ふるい、イオン交換および、例えばHIF−1α、EPAS1−またはHLF−特異的抗体およびリガンドを用いたアフィニティークロマトグラフィーを含むクロマトグラフ法が含まれる。その他の周知の方法は、Deutscherら、Guide to Protein Purification:Methods in Enzymoloty、第182巻、Academic Press、1990、に記載されている。精製された本発明のポリペプチドを組換え系内で生成させる場合、組換え発現ベクターは、さらなるアミノ末端またはカルボキシ末端アミノ酸をコードするさらなる配列を含み、これらの追加アミノ酸は、固定化抗体を用いるイムノアフィニティー精製用または固定化リガンドを用いるアフィニティ精製用の「タグ」として働くであろう。
【0093】
本発明のハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ポリペプチド(類)を調製する手段の例としては、細菌細胞、酵母細胞、両生類細胞(例えば卵母細胞)、昆虫細胞(例えばショウジョウバエ)または哺乳動物細胞のような、適当な宿主細胞内で、この技術分野で周知の方法を用いて、本発明のポリヌクレオチドを発現し、そして発現したポリペプチドを回収し、再び周知の方法を用いることである。本発明のポリペプチドを、ここにさらに詳細に記載する方法に従って、発現ベクターで形質転換された細胞から直接単離することができる。本発明のハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ポリペプチド、生物学的に活性なフラグメントおよびその機能的等価物を、化学合成によって作成することもできる。ここに用いられているように、「生物学的に活性なフラグメント」とは、活性タンパク質に組み立てることのできるポリペプチドの任意の部分をさす。合成ポリペプチドは、Applied Biosystems,Inc.,Model 430Aまたは431A自動ペプチドシンセサイザー(Foster City,CA)を製造者らによって提供された化学に従って用いることによって、作成することができる。
【0094】
以下の語句「組換えで発現した/生成した」、「精製した」または「実質上純粋」を伴う、本発明の核酸、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ペプチドまたはタンパク質の修飾には、人の手によってそのような形に作成された核酸、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ペプチドまたはタンパク質が含まれ、従ってインビボでの天然の細胞環境から分離される。この様なヒトの介入の結果として、本発明の組換え核酸、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ペプチドおよびタンパク質は、選択された薬剤または化合物の同定のような関連する天然発生分子が有用ででない場合に、有用である。
【0095】
本発明は、キメラトランスアクティベータータンパク質をコードするトランス遺伝子を持つ非ヒト−トランスジェニック動物を提供する。このトランスジェニック動物は、さらに、低酸素応答エレメント(HREs)(hypoxia responsive elements) の制御下の興味ある遺伝子を含むことができる。本発明の様々な実施態様では、トランスアクティベータータンパク質は、興味ある遺伝子の発現を本質的に強化することができる。代わりに、トランスアクティベータータンパク質は、ある条件下、例えば、制限するつもりはないが、誘導によって、興味ある遺伝子の発現を強化することができるだけである。本発明の組換えDNA分子を、本技術分野で既知のトランスジェニック動物を作成するための任意の方法を用いて、非ヒト−動物のゲノム内に導入することができた。
【0096】
本発明は、本発明のハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ポリペプチドをコードする核酸を発現する能力を持つトランスジェニック非ヒト−哺乳動物を提供する。
【0097】
また、本発明のハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ポリペプチドをコードする核酸を発現する能力を持つトランスジェニック非ヒト−哺乳動物が提供され、その結果、トランスジェニック哺乳動物は正常な活性を失うような変異を受けた。
【0098】
また、本発明は、本発明のハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ポリペプチドをコードする核酸と相補的なアンチセンス核酸を含むゲノムを持つトランスジェニック非ヒト−哺乳動物を提供し、その結果、ゲノムは本発明の融合ポリペプチドをコードするmRNAに相補的なアンチセンスmRNAに転写されるように配置され、アンチセンス核酸は前記核酸とハイブリダイズし、それによってその翻訳を減少させる。さらに、ポリヌクレオチドは、誘発性プロモーターおよび/または組織特異的調節エレメントを含むことができ、その結果、発現を誘発するか、または特定の細胞の型に限定することができる。非ヒト−トランスジェニック哺乳動物の例として、トランスジェニック−ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウサギ、ラットおよびマウスがあげられる。組織特異性−決定エレメントの例としては、メタロチオネインプロモーターおよびT17プロモーターがあげられる。
【0099】
本発明のポリペプチドの生理学的行動に関する役割を解明する動物モデルシステムを、ポリペプチドの発現を様々な技術を用いて変化させたトランスジェニック動物を作り出すことによって、作成する。そのような技術の例としては、ミクロインジェクション、レトロウイルス感染または当業者らに周知のその他の手段によって、適当な受精胎児細胞に本発明の融合ポリペプチドをコードする正常または変異型核酸を挿入し、トランスジェニック動物を作り出すことが含まれる。例えば、Carverら、Bio/Technology,11,1263−1270、1993;Carverら、Cytotechnology,9,77−84、1992;Clarkら、Bio/Technology,7,487−492、1989;Simonsら、Bio/Technology,6,179−183、1988;Swansonら、Bio/Technology,10,557−559、1992;Velanderら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89,12003−12007、1992;Hammerら、Nature,315,680−683、1985;Krimpenfortら、Bio/Technology,9,844−847、1991;Ebertら、Bio/Technology,9,835−838、1991;Simonsら、Nature,328,530−532、1987;Pittiusら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85,5874−5878、1988;Greenbergら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88.8327−8331、1991;Whitelawら、Transg.Res.,1,3−13、1991;Gordonら、Bio/Technology,5,1183−1187、1987;Grosveldら、Cell,51,975−985、1987;Brinsterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,88,478−482、1991;Brinsterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,85,836−840、1988;Brinsterら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,4438−4442、1985;Al−Shawiら、Mol.Cell Biol.,10(3),1192−1198、1990;Van Der Puttenら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA,82,6148−6152,1985;Thompsonら、Cell,56,313−321、1989;Gordonら、Science,214,1244−1246、1981;および、Hoganら、Manipulating the Mouse Embryo:A Laboratory Manual(Cold Spring Harbor Laboratory、1986)を参照のこと。
【0100】
その他の技術、トランスジェニック動物内の天然遺伝子座と変異体または正常型のこれらの遺伝子の相同組換えを用いると、本発明のポリペプチドの発現の調節またはその構造を変化させることができる(Capecchiら、Science,244,1288、1989;Zimmerら、Nature,338,150、1989を参照のこと)。相同組換え技術は、この技術分野で周知である。相同組換えは、天然(内因性)遺伝子を組換えまたは変異遺伝子で置換し、天然(内因性)タンパク質を発現できないが、例えば、結果として本発明の融合ポリペプチドの発現を変化させる変異タンパク質を発現することができる、動物を作り出す。
【0101】
相同組換えとは対照的に、ミクロインジェクションは、宿主遺伝子を除去することなく、遺伝子を宿主ゲノムに加える。ミクロインジェクションは、内因性および外因性の両ポリペプチドを発現する能力を持つトランスジェニック動物を作り出すことができる。誘発性プロモーターを、核酸のコード領域に連結して、トランス遺伝子の発現を調節する手段を提供することもできる。組織−特異的調節エレメントを、コード領域に連結すると、トランス遺伝子の組織特異的発現を可能にすることができる。トランスジェニック動物モデルシステムは、インビボでのリガンド同定用の化合物;例えば、ポリペプチド応答を活性化するか、あるいは阻害する、アゴニストまたはアンタゴニスト;のスクリーニングに有用である。
【0102】
さらに、本発明は、受容可能なキャリヤーおよび任意の単離精製されたハイブリッド/キメラトランスアクティベーター(融合)ポリペプチド、その活性フラグメント、または精製された成熟タンパク質およびその活性フラグメントを、単独または互いに組み合わせて、含む組成物を提供する。これらのポリペプチドまたはタンパク質は、組換え誘導されるか、化学的に合成されるか、または精製されうる。ここに用いられている、用語「受容可能なキャリヤー」は、リン酸塩バッファー溶液、水および油/水または水/油エマルジョンのようなエマルジョンおよび様々な型の湿潤剤のような、任意の標準的製剤キャリヤーを包含する。
【0103】
ここに用いられている、用語「有効量」とは、個体細胞内で生物学的に活性なキメラヒト−ウイルストランスアクティベータータンパク質を持続的に生成することによって、欠乏を和らげる量を指す。低酸素関連疾病、例えば虚血性心疾患、末梢血管疾病、虚血性肢疾患等、と関連する症状の緩和によって、個体内での生物学的に活性なキメラヒト−ウイルストランスアクティベータータンパク質の持続的な生成を、評価することができる。当業者らは、本発明の方法に用いられるベクターの正確な有効量を、例えば、年齢、体重、疾病の範囲および個体の状態の個体差を考慮して、決定することができる。
【0104】
さらに、本発明は、低酸素関連疾患の患者の細胞に、生物学的に活性なキメラヒト−ウイルストランスアクティベータータンパク質を提供する方法であって、関連する転写因子がその中で欠落しているか、不充分か、または機能しない細胞内に、生物的に活性なキメラヒト−ウイルストランスアクティベータータンパク質の発現を感染させ持続させるのに有効な量の本発明のベクターを、そのような個体内に導入することを含む、前記の方法を提供する。本発明のベクターを、ベクターおよび医薬として許容しうるキャリヤーを含む医薬組成物として、標的細胞に配達することができる。当業者らに周知の方法、例えば、静脈内、筋肉内、鼻腔内、皮下、挿管法、洗浄等によって、ベクターを標的細胞に配達することができる。
【0105】
従って、本発明は、生物学的に活性な哺乳動物転写因子の発現に次いで、一連の潜在性有益遺伝子の発現を誘導する代替法を提供する。
【0106】
HIF−1αを、HeLa細胞cDNAからPCRによってクローン化し、発現ベクターpcDNA3(Clontech,Palo Alto,CA;Invitrogen,San Diego,CA)内に挿入した。このプラスミドでは、遺伝子発現は、CMVプロモーターによって制御されている。配列決定により構築物の構造を確認した後、EPOプロモーター/エンハンサーまたはVEGFプロモーターのいずれかによってルシフェラーゼ遺伝子の転写を調節するレポータープラスミドと共にコトランスフェクションすることによって、HeLaおよび293細胞内で試験した。HIF−1α活性の誘導は、CoClまたはデスフェリオキサミン(desferrioxamine)のいずれかで、細胞を処理することによって、成し遂げられ、両者は低酸素と類似のメカニズムでHIF−1α活性を誘導することが知られている。このアッセイでは、HIF−1αタンパク質が真に活性であることが確認された。
【0107】
2つのHIF−1α/VP16ハイブリッドを構築し、第一のハイブリッドは、HIF−1αのアミノ酸390で、第二はアミノ酸530で切除した。次に、HSV VP16(アミノ酸413−490)のトランス活性化ドメインを下流に結合した。これらのタンパク質を、上記の方法に従って、EP0−ルシフェラーゼまたはVEGF−ルシフェラーゼレポータープラスミドのいずれかと共に、HeLaおよび293細胞内にコトランスフェクションすることによって試験した。結果は、両細胞系内では、ハイブリッドでコトランスフェクトされた細胞内で認められたルシフェラーゼ遺伝子発現のレベルは、CoClまたはデスフェリオキサミンによる誘導に晒した場合でさえ、HIF−1αで得られたそれより(20−100Xほど)高い。この結果は、ハイブリッドタンパク質が真に活性であり、VP16ドメインは、誘導されない場合(例えば酸素正常状態条件下)でさえ、強いトランスアクティベーション活性を供与することを、暗に示している。このことは、これらのハイブリッド/キメラ融合タンパク質が低酸素心臓疾患の実行可能な治療法であることを示唆している。
【0108】
さらに、本発明は、以下の実施例によって説明され、これら実施例は、決してさらなる制限として解釈されるべきでない。この明細書全体で引用されたすべての参考文献の内容は、ここに参照として採用される。
【0109】
実施例
実施例1:ハイブリッド/キメラ構築物
HIF−1αからのDNA結合ドメインおよびダイマー化(dimerization)ドメインならびに単純ヘルペスウイルスVP16からのトランス活性化ドメイン(図1)からなるハイブリッド転写因子(pcDNA3/HIP.VP−16.Afl2)を構築し、低酸素に対する生理学的適応に通常含まれる遺伝子の強く本質的な活性化を提供する。以下に記載した方法に従って、我々は、インビトロでのVEGF遺伝子発現およびウサギ後脚虚血モデルでの新生血管形成への、このHIF−1α/VP16転写因子の影響について分析した。
【0110】
組換えプラスミド
全長(aal−826)のHIF−1α遺伝子を、配列番号1および2に示したプライマーを用いてHela細胞cDNAライブラリー(Clontech)からPCR(Advanage cDNA PCR Kit,Clontech,Palo Alto,CA)によって単離し、発現ベクターpcDNA3(Invitrogen,Carlsbad,CA)のKpnIおよびXbaI部位の間に挿入した。このプラスミドでは、遺伝子発現は、シトメガロウイルス(CMV)即時型早期エンハンサー/プロモーターによって調節される。HIF−1α/VP−16ハイブリッドを、aa390(Afl2部位)でHIF−1αを切除し、次いでHSV VP−16下流のトランス活性化ドメインを連結することによって構築した。Afl2およびXbaI末端を持つVP16フラグメント(aa413−490)を、Ventポリメラーゼ(New England Biolabs,Beverly,MA)および配列番号3および4に示したプライマーを用いて、PCRにより増幅し、このフラグメントをpcDNA3/HIF−1α構築物の適当な部位にクローン化した。関連する構築物(pcDNA3/HIF/VP−16/R1)は、EcoRIでの部分消化によりaa530でHIF−1αを切除することによって、作成された。PCRによって生成した全配列の完全性を、Applied Biosystems 377 DNA Sequencerを用いたDNAシークエンシングによって確認した。全クローニングマニュピュレーションを、標準法(Sambrook,Jら、Molecular Cloning,A Laboratory Manual、第二版、Cold Spring Harbor,NY、1989)に従って行った。制限酵素およびDNA修飾酵素は、New England BiolabsまたはLife Technologies,Inc.(Gaithersburg,MD)のいずれかから得られ、製造者らの明細書に従って用いられた。プラスミドDNAsをQiagen(Chatsworth,CA)から得たキットで精製した。ヒトVEGF165(phVEFG165)を発現するプラスミド構築物については、以前に記載されている(Tsurumiら、Circulation,96,II−382−II−388、1977)。ルシフェラーゼレポータープラスミド(EPO−lucおよびVEGF−luc)は、Dr.H.Franklin Bunn(Brigham and Women’s Hospital,Harvard Medical School)から提供して頂いた。
【0111】
一過性トランスフェクション
HeLa細胞を、10%のウシ胎児血清(FBS;JRH Biosciences,Lenexa,KS)を添加したDulbeccoのイーグル修飾培地−高グルコース(DME;Irvine Scientific,Santa Ana,CA)内で増殖させた。ルシフェラーゼレポーター実験用に、HelA細胞(3x10細胞/60mM皿)を、リン酸カルシウムProFectionキット(Promega,Madison,WI)を製造者らの使用説明書に従って用いて、トランスフェクトした。二重の皿を、それぞれ5μgのプラスミド[HIF−1α構築物およびEPO−luc(Blanchard,K.L.ら、Mol.Cell Biol.,12,5373−85、1992)またはVEGF−luc(Levy,A.P.ら、J.Biol.Chem.,270,13333−40、1995)レポーターのいずれか、ならびにpCMVβ(Clonetech)]でトランスフェクトした。トランスフェクション後24時間で、1セットの皿を100μMデスフェリオキサミン(desferrioxamine)で誘導した。細胞を誘導後18時間で集菌し、ルシフェラーゼ活性をアッセイした(Promega)。また、個々のサンプル内のβ−ガラクトシダーゼ活性を、Galacto−Lightキット(Tropix,Bedford,MA)を用いて定量し、これらの値を用いて、トランスフェクション効率の対照として、ルシフェラーゼ活性を標準化した。
【0112】
実施例2:インビトロでのHIF−1αおよびHIF−1α/VP16キメラ/ハイブリッド構築物の活性
HIF−1α/VP16ハイブリッド構築物を、レポータープラスミドと共に293またはHeLa細胞のいずれかへコトランスフェクションすることによって、遺伝子発現を活性化する能力について、試験した(それぞれ図3および4)。これらの実験に用いられたレポータープラスミドは、エリスロポイエチンエンハンサー/プロモーター(Blanchard,K.L.ら、Mol.Cell Biol.,12,5373−85、1992)またはVEGFプロモーター(Levy,A.P.ら、J.Biol.Chem.,270,13333−40、1995)のいずれかの転写調節下で、ルシフェラーゼ遺伝子を含んでいた(図3−5では、pcDNA3/HIF/VP16.Afl2およびpcDNA3/HIF/VP16.R1を、それぞれ”HIF−4/VP−16.AflII”および”HI−4/VP−16.R1”と示している)。
【0113】
トランスフェクションの前に、細胞を、1x10(239)または2.5x10(HeLa)細胞/皿の密度で、6cmの皿に塗布した。HIF−1αまたはHIF−1α/VP16発現プラスミド、およびEPOエンハンサー/プロモーターまたはVEGFプロモーターのいずれかを含むルシフェラーゼレポータープラスミドで、細胞をコトランスフェクトした。
【0114】
トランスフェクションは、それぞれ5μgのHIF−1α/VP16発現構築物およびレポータープラスミド/皿を用い、ProFectionTMキット(Promega,Madison,WI)を用いたリン酸カルシウム沈殿によって行われた。トランスフェクション24時間後、100μg/ml CoCl または100μg/mlデスフェリオキサミンのいずれかを含む新鮮培地を加えることによって、細胞を誘導した。誘導16時間後、細胞を収集し、ルシフェラーゼアッセイキット(Promega)を製造者らの説明書に従って用いて、ルシフェラーゼ活性を測定した。
【0115】
HIF−1活性の誘導は、デスフェリオキサミン、鉄キレーターで処理することによって刺激され、これは低酸素症と類似の機構で作用する。HIF−1α/VP−16ハイブリッド転写因子で予想されたように、ルシフェラーゼ発現は構成的であり、デスフェリオキサミン誘導に依存しなかった。非誘導細胞およびデスフェリオキサミン処理細胞でのルシフェラーゼ発現も有意に違わなかった。これとは対照的に、全長のHIF−1α構築物でトランスフェクトされた細胞内のルシフェラーゼ活性は、デスフェリオキサミンでの処理後、4−5倍に増加した。さらに、非誘導細胞内でHIF−1α/VP16ハイブリッドによって達成された転写活性化は、全長のHIFαでトランスフェクトされたデスフェリオキサミン処理細胞内で認められたそれより、10−20倍高かった。全体では、HIF−1αで活性化されたルシフェラーゼ発現レベルは、HeLa細胞内の内因性HIF−1活性に帰因するバックグラウンドレベルより非常に高くはなかった。図6に示すように、以下の研究でこれらの知見を確認した。
図6(左)は、EPO3’エンハンサー−プロモーター−ルシフェラーゼレポーター構築物を用いて生成したルシフェラーゼ活性を示している。図6(右)は、VEGFプロモーター−ルシフェラーゼレポーター構築物を用いて生成したルシフェラーゼ活性を示している。
【0116】
実施例3:HIF−1α/VP16ハイブリッド構築物に応答するVEGFの生成
HIF−1α/VP16ハイブリッドが内因性VEGF遺伝子の発現を活性化する能力を持つか否かを決定するために、これら構築物をHeLa細胞内にトランスフェクトし、VEGFをELISAでアッセイした。トランスフェクション前、HeLa細胞を、6cm皿に5x10細胞/皿の密度で塗布した。細胞を10μgのHIP−1α/VP16ハイブリッドプラスミドDNAでトランスフェクトした。トランスフェクションの24時間後、二重プレート内の細胞は、対照(誘導せず)か、または100μg/mlのデスフェリオキサミンを含む新規の培地を加えることによって誘導するかのいずれかであった。誘導40時間後、培養液を収集し、ELISA(QuantikineTM、R&D Systems,Minneapolis,MN)を製造者らの指示書に従って用いることによって、VEGFについてアッセイした。
【0117】
このアッセイからの結果(図5)は、ハイブリッドHIF−1α/VP16/AflII構築物(HIF−1αのアミノ酸390で切除)は、誘導されない場合でさえ、VEGFの発現を活性化する能力を持つことを、示している。しかしながら、HIF−1α/VP16/AflII−トランスフェクト細胞からの培地内のVEGFの濃度は、誘導を伴って、mock−トランスフェクト細胞またはHIF−1α−トランスフェクト細胞内で認められたそれより高くなかった。このことから、多分、最大プラトーレベルは、HeLa細胞内に存在する内因性のHIF−1αによって達成されることを、示唆している。しかしながら、重要な所見は、このレベルが、誘導されていないHIF−1α/VP16/AflIIハイブリッドでも達成することができる、と言うことである。
【0118】
同じ結果は、第二のハイブリッド構築物HIF−1α/VP16/R1(HIF−1αのアミノ酸530で切除)では達成されないが、この構築物は、ルシフェラーゼレポーターアッセイで活性であった。さらなるインビトロでの分析から、2つの構築物の間の活性の明らかな差が確認された。特に、ルシフェラーゼレポーター構築物の転写活性化ならびにHeLa細胞およびHep3B細胞の内因性VEGFおよびEPO遺伝子発現のアップレギュレーションに関しては両方とも、HIF−1α/Vp16/Afl2構築物(HIF−1αのアミノ酸390で切除)は、より長いHIF−1α/VP16/R1構築物より活性である。この活性の違いは、酸素正常常態化で不安定になると報告されているHIF−1αの「酸素依存性ドメイン」の部分のより長い構築物の存在によるらしい(Huangら、PNAS,95,7987−7992、1998を参照のこと)。
【0119】
VEGF生成のさらなる分析では、HeLa細胞(3x10細胞/60mM皿)を、Opti−MEM培地(Life Technologies,Inc.,)中のリポフェクタミン(Life Technologies,Inc.,3.7μg DNA、14μlのリポフェクタミン)で、17時間トランスフェクトした。7時間後、1セットの皿を100μMのデスフェリオキサミンで処理した。誘導42時間後、培養液を収集し、細胞を250μlの溶解バッファー[0.5% NP−40、1mM EDTA、50mM Tris(pH8.0)、120mM NaCl、100μM PMSF、0.1U/mlアプロチニン(Aprotinin) 、1μMペファブロック(Pefabloc)、5μg/mlロイペプチン(Leupeptin)]内で溶解した。VEGF濃度を、上記の方法に従ってアッセイし、全細胞タンパク質を、Bio−Rad(Hercules,CA)タンパク質アッセイを用いて分析した。ELISA値を、全細胞タンパク質に対して標準化した。
【0120】
ラットC6グリオーム細胞(American Type Culture Collection,Rockvile,MD)を、トランスフェクション3日前に12穴培養プレート上に接種し、10% FBS(Sigma,St.Louis,MO)を添加したDME(Life Technologies,Inc.)で培養した。トランスフェクションは、本質的には、以前に記載された方法(Lee,E.R.ら、Hum.Gene Ther.,7,1701−1717、1996)に従って、成し遂げられた。簡単に言えば、プラスミドDNAを同容量のカチオン脂質GL#67と複合させると、最終濃度80:20μM(DNA:脂質)となった。脂質/DNA複合体(400μl/穴、おおよそ5x10細胞/穴)を、Opti−MEM培地内の細胞に加え、5時間インキュベートした。次いで、複合体を除去し、細胞をDME+10%FBSに戻した。トランスフェクションの24時間後、デスフェリオキサミン(100μM)を含むかまたは含まない新鮮培地(1ml/穴)で、培地を置き換えた。24時間後、培養液を、VEGF生成分析用に収集し、細胞を500μlの細胞溶解バッファー内で溶解した。VEGF生成は、マウスVEGF(R&D Systems)について特異的なELISAキットを用いてアッセイされ、値は全細胞タンパク質に標準化された。
【0121】
HeLa細胞およびC6細胞の両方で、HIF−1α/VP16ハイブリッド構築物は、デスフェリオキサミン処理をしない場合にもVEGF生成を有意に強化した。HeLa細胞内では、HIF−1α/VP16−トランスフェクト細胞内のFEGF生成は、デスフェリオキサミンによってさらに強化されたが、C6細胞内では、差は認められなかった。VEGF発現のバックグラウンドレベルは、C6細胞内よりHeLa細胞内の方がより高かった。VEGF発現の大きさへのHIF−1α/VP16ハイブリッドの影響は、C6細胞内でより大きく認められた(デスフェリオキサミンで処理された、トランスフェクトされていない細胞またはHIF−1α−トランスフェクト細胞より5倍高かった)。HeLa細胞では、非誘導HIF−1α/VP16−トランスフェクト細胞内でのVEGF生成は、デスフェリオキサミンに晒されたトランスフェクトされていない細胞内のそれと似通っていた。しかしながら、両細胞系共、非誘導のHIF−1α/VP16−トランスフェクト細胞内で生成されたVEGFの絶対量(2.3pg/μgタンパク質もまた、同一であった。これらの結果は、内因性HIF−1αタンパク質および/またはHIF−1α活性のデスフェリオキサミン誘導レベルは、C6細胞内よりHeLa細胞内でより大きいことを示唆しており、このことは、種特異的または細胞型特異的差異によって説明できる。とりわけ、ヒト転写因子に基づくHIF−1α/Vp16ハイブリッドは、ラットVEGF遺伝子を活性化することができ、このことは、種を越えてHREsが保存されることを示唆している。ラットVEGF遺伝子の5’−フランキング領域の配列分析は、いくつかの潜在的HREsを明らかにし、これらの内の一つの位置は、ラットとヒト遺伝子の間で保存されている。このエレメントは、ラットとヒトのVEGF遺伝子で同一な28bp領域内に位置している。
【0122】
実施例4:ウサギ後脚虚血モデル内のHIF−1α/Vp16ハイブリッド転写因子の分析
A.血清VEGFレベル
HIF−1α/VP16ハイブリッド遺伝子(pHIF−1α/VP16)またはヒトVEGF165(phVEGF165)のいずれかをコードするむき出しのプラスミドDNAを、大腿動脈をてき出して後脚虚血を誘導した、ウサギの中央内転筋および半膜様筋肉内に注射することによって、投与した。血清VEGFレベルを、ヒトVEGFに対して調製したELISAアッセイによってアッセイした。従って、HIF−1α/VP16−処理グループに適用したようなこのアッセイは、ウサギの内因性タンパク質がこれらの動物内で生成される程、定量的ではない。しかしながら、VEGF発現の反応速度論および持続性を、グループ内で比較することはできる。処理前、血清VEGFレベルはほとんど検出できず、それぞれのグループで類似していた。しかしながら、投与3日後、VEGFレベルは、phVEGF165−トランスフェクト動物では10.5(±3.9)pg/mlに、HIF−1α/VP−16処理グループでは26.3(±4.6)pg/mlに、増加した。処理5日後、pHIF−1α/VP−16処理動物内のVEGFレベルは未だ高く、徐々に減少していた(14.9±3.0pg/ml)。対照的に、5日後、phVEGF165処理動物では、血清VEGFを検出できなかった。対照(pCMVβ−処理)グループでは、処理前、または処理3日後および5日後のいずれでも、VEGFは検出されなかった。VEGFタンパク質レベルは5日迄に減少したが、両方のトランスジーン発現は、RT−PCRで分析したところ、投与14日後迄、持続した。
【0123】
B.赤血球の測定
phVEGF165−pHIF−1α/VP16での処理前(10日)および処理後30日(40日)ならびに対照グループの赤血球数、ヘマトクリット値およびヘモグロビン値を、下の表1に示している。処理前または処理後のいずれでも、3グループ間で赤血球数およびヘモグロビンに差はなかった。ヘマトクリットはpHIF−1α/VP16−処理動物内で増加する様に思われたが、同様の増加が対照グループ内にも認められ、この結果が、HIF−1α/VP16ハイブリッド転写因子の発現によるものでなかったことを示唆している。
【0124】
C.ウシ後脚の血圧
虚血誘導10日後(プラスミド注射直前)、ウシ血圧比(虚血/正常脚)は、3グループ間で類似していた(phVEGF165 =0.45±0.01、pHIF−1α/VP16=0.44±0.02、対照=0.45±0.03;P=NS)。40日迄(トランスフェクション後30日)、血圧比は、3グループ間で改良した。しかしながら、pHIF−1α/VP16処理動物の血圧比(0.93±0.02)は、phVEGF165を受けた動物の血圧比(0.82±0.03)または対照グループのそれ(0.69±0.02)より有意に高かった(P<0.01)。40日の血圧比は、phVEGF165−処理グループで対照より高かった(P<0.01)。
【0125】
D.血管内ドップラーガイドワイヤ測定
虚血脚内の静止血流および最大血流(パパベリン−刺激)は、10日では、3グループ間で類似していた。しかしながら、40日では、静止血流およびパパベリン刺激最大血流は、pHIF−1α/VP16−トランスフェクトグループ(それぞれ41.6±3.1ml/分および111.2±5.7ml/分)およびphVEGF165トランスフェクトグループ(それぞれ42.2±3.9ml/分および88.7±7.4ml/分)では、対照グループのそれ(それぞれ28.7±1.5ml/分および65.3±3.8ml/分)より有意に高かった。静止血流は、pHIF−1α/VP16およびphVEGF165−処理ウサギ間では類似していた(40日)が、最大血流は、phVEGF165処理グループよりpHIF−1α/Vp16でトランスフェクトした動物の方が、有意に高かった(p<0.05)。非虚血脚内の静止血流および最大血流は、10日ならびに40日共、3グル−プ間で類似していた。
【0126】
E.側副血管発達へのHIF−1α/VP16およびVEGF165の影響
大腿中央の血管造影視覚型の側副血管の定量分析は、血管密度を測定することによって成し遂げられた。処理前(10日)の基準線では、phVEGF165、pHIF−1α/VP16および対照グループ間の血管造影スコアに有意の差はなかった(それぞれ0.38±0.03、0.42±0.01、0.41±0.02、P=NS)。40日まで、pHIF−1α/VP16−処理ウサギ(0.61±0.01)およびphVEGF165−処理ウサギ(0.58±0.03)の血管造影スコアは、対照グループのそれ(0.51±0.05)より有意に高かった。40日では、pHIF−1α/VP16−処理およびphVEGF165処理グループ間の血管造影スコアに、統計上有意な差はなかった。pHIF−1α/VP16およびphVEGF165を受けた動物内で認められる血管造影スコアの増加を説明する主な知見は、いわゆる中央帯の側副血管の強化であった。
【0127】
さらに、虚血後脚の血管再生への筋肉内HIF−1α/VP16およびVEGF遺伝子治療の効果を評価するために、虚血脚の大腿中央筋を、40日に組織学的に試験した。pHIF−1α/VP16処理グループ(255±13/mm)およびphVEGF165処理グループ(210±10/mm)の筋肉内で認められた毛細血管密度は、対照グループのそれ(150±4/mm)より有意に高かった。さらに、毛細血管密度は、phVEGF165 処理動物より、pHIFα/VP16でトランスフェクトした動物で高かった(p<0.05)。さらに、pHIF−1α/VP16およびphVEGF165処理ウサギの毛細血管/筋肉繊維比(それぞれ、0.88±0.06および0.75±0.03)は、対照(0.58±0.03、結果は示していない)より有意に高かった。明らかな筋壊死の光学顕微鏡的徴候はいずれのグループでも認められなかった。
【0128】
医療へのかかわり
インビトロおよびインビボでHIF−1α/VP16ハイブリッド因子によってVEGF遺伝子発現が活性化されることから、VP16活性化ドメインが試験した細胞型(ヒト頸部上皮、ラットグリオーム、ウサギ骨格筋)内のHIF−1標的遺伝子の発現に必要とされるアクセサリー因子と相互作用するであろうと、考えられる。従って、遺伝子治療によるHIF−1α/VP16ハイブリッドの投与は、血管障害に関連する虚血への有効な治療法であることが分かる。この適用では、HIF−1α/VP16は、VEGFを含む様々な遺伝子をアップレギュレートすることができる。治療による恩恵は、血管形成の刺激の結果としてのみならず、血管拡張および嫌気代謝のアップレギュレーションのような、低い酸素圧へのさらなるHIF−1仲介局所適応を通してでも、達成することができる。成長因子および/または血管形成を強化するそれらをコードする遺伝子の投与は、慣用の血管再生技術が適さない場合の組織虚血の治療として、有用であることができる。
【0129】
インビボではVEGF165と相関してHIF−1α/VP16で認められる潜在能力の強化は、いくつかの因子によるものであろう。第一に、HIF−1α/VP16によって促進されるVEGFの発現レベルは、VEGF165プラスミドで達成されたそれを越えるように見えた。さらに、VEGF発現は、phVEGF165を与えられた動物より、pHIF−1α/VP16処理動物で、より長く持続するように思われた。なぜなら、投与5日後、血清VEGFは、後者のグループではなく、前者のグループで認められたからである。
【0130】
F.方法
筋肉内遺伝子のトランスファー
29のウサギを用いて、後脚虚血への筋肉内遺伝子治療の効果について研究した。全プロトコールは、St.Elizabeth’s Institutional Animal Care and Use Commiteeによって承認されている。雄のニュージーランド白ウサギ(4.0−4.3kg)(Pine Acre Rabbitry,Norton,MA)に、キシラジン(2mg/kg)を前投与した後、ケタミン(50mg/kg)およびアセプロマジン(0.8mg/kg)の混合物で麻酔をかけた。手術方法は、前記の通りである(Takeshita,S.ら、Am.J.Physiol.,93,662−670、1994a)。簡単に言えば、大腿動脈を、外腸骨動脈からの分岐のその中央に近い源から伏在静脈と膝窩動脈に分かれる末梢部まで、完全に剔出した。手術後、全動物を、綿密にモニターした。無痛剤(0.25mg/kgの酒石酸レボファノール、Hoffmann−La Roche Inc.,Nutley,NJ)を、1日間、皮下投与した。また、予防的に抗生物質(エンロフロキサシン、Bayer Corporation,Shawnee Mission,KA)を、手術後、合計5日間、皮下投与した。
【0131】
ウサギをカテーテル法実験室に戻した後、10日間隔で、術後回復について考慮した。基準線測定完成後、プラスミドDNAまたはベヒクルのみ(標準生理食塩水)を、小さな皮膚切開を通して3mlのシリンジおよび25ゲージの針を用いて、主な3つの大腿筋の別の4部位に、直接注射した。個々の注射で、中央にある大きい筋肉(2部位)、内転筋(1部位)および半膜様筋(1部位)に、針の先を、典型的には3−5mmの深さで挿入した。筋肉注射についての詳細な方法は、前記の通りである(Tsurumiら、Circulation,94,3281−3289、1996)。この技術を用いて、500μgのpHIF−1α/Vp16(n=11)、500μgのphVEGF165(n=10)、または500μgのpCMVβ(n=8)を投与した。125μg/0.5mlの標準生理食塩水を、個々の動物当たり全体で500μg/2.0mlを、それぞれ4部位に注射した。4部位への注射が完了した後、皮膚を4−0ナイロン縫合糸で閉じた。
【0132】
血清VEGFのイムノアッセイ
それぞれのグループから最初に6匹のウサギについて、プラスミドトランスフェクション処理の直前ならびに処理後3および5日に、血液サンプルを、23ゲージの針を用いて、ウサギの耳の中心動脈から採血した。血液サンプルを、4℃で30分間保存し、次いで、3,000rpmで15分間、遠心分離した。ELISA(R&D Systems)によるVEGFアッセイを行うまでは、血清を−80℃に凍結した。血清VEGFの検出の最低限界は9.0pg/mlであった。アッセイは、それぞれのサンプルについて、二重に行った。観察者内での変化率は、8%以下であった。
【0133】
赤血球、ヘマトクリット、およびヘモグロビンの測定
血液サンプルを、ウサギの耳の中心動脈から、23ゲージの針を用いて、処理直前(10日)および屠殺日(40日)に、採血した。赤血球、ヘマトクリットおよびヘモグロビンを、市販の自動検出器(Sysmex alpha,Sysmex Corporation,Long Groove,IL)で測定した。
【0134】
ウシ血圧比
ウシ血圧比を、ドップラーフローメーター[Model1050;Parks
Medical Electoronics.Aloha,(OR)]を用いて、処理直前(10日)ならびに治療開始後1ヶ月(40日)に、両方の後脚で測定した。個々の場合、麻酔下で、ウサギの後脚の毛を剃りきれいにした。トップラープローブを用いて、後脛骨動脈のパルスを同定し、後脚の心収縮期血圧を、標準的技術を用いて測定した(Takeshita,S.ら、Am.J.Physiol.,93,662−670、1994a)。ウシの血圧比は、虚血脚の心収縮期血圧と正常な脚のそれの比率として、それぞれのウサギ毎に定義した。
【0135】
インビボでのドップラーフロー測定
前記の方法(Bauters.C.ら、Am.J.Physiol.,267,H1263−H1271、1994)に従って、0.018/ドップラーガイドワイヤー(Cardiometrics,Inc.,Mountain View,CA)を用いて、選択的腸骨内血液造影前10日および40日に、インビボで血流量を測定した。虚血脚の代わりとなる腸骨内動脈の隣接セグメントへの共通の腸骨動脈の源に、ワイヤーチップを位置付けた。スペクトルピーク速度の時間平均(APV)(time average of the spectral peak velocity) を静止状態で記録し、最大APVを2mgのパパベリン(Sigma,St.Louis,MO)のボーラス注射の後記録した。
【0136】
ドップラー誘導血流(QD)を、QD=(πd/4)(0.5xAPV)(式中、dはベッセル直径であり、APVはスペクトルピーク速度の時間平均である)として、計算した。腸骨動脈の管腔直径は、インビボで以前に確認された自動エッジ検出システムでの血管造影によって測定された。血管直径を、ドップラーサンプル容量の部位(ワイヤーチップに5mmの距離)で測定した。断面積領域を、環状内腔と仮定して計算した。平均速度を、ベッセルを横切る時間平均化放物線状速度プロフィールと仮定することによって、0.5xAPVで評価した。この様式で計算されたドップラー誘導血流は、インビトロおよびインビボの両方で電磁フローメーターによって測定された血流測定との相関で示された(Tsurumiら、Circulation,94,3281−3290、1996)。2mgのパパベリンは、管の直径に影響を与えなかった(Ku,D.D.ら、Am.J.Physiol.,265,H586−H592、1993)ので、直径測定値を用いて静止および最大血流の両方を計算した。
【0137】
選択的血管造影法
選択的腸骨内血管造影は、前記の方法(Takeshita,S.ら、Am.J.Physiol.,93,662−670、1994a)に従って、成し遂げられた。カテーテルのチップを、第7腰椎と第一仙椎との間の空間レベルで、腸骨内動脈内に配置した。全5mlの非イオン性対照培地(Isovue−370;Squibb Diagnostics,New Branswick,NJ)を、腸骨内動脈に配置した3F摂取カテーテル(Tracker−18;Target Therapeutics,Fremont,CA)を通して、流速1ml/sで、自動血管造影インジェクターで注入した。次いで、虚血腔脚の一連の像を、105mmスポットフィルム上に、1秒当たり1フィルムの割合で少なくとも10秒間、記録した。血管造影完了後、カテーテルを除去し、傷を閉じた。
【0138】
側副血管発達の定量的血管造影分析は、5mm離れた間隔で列に並べられた2.5mm直径の円からなるグリッドの重塁を用いて行われた。この重塁は、4s血管造影図の中央大腿領域上に置かれた。中央大腿領域内のグリッド腱画の総数、ならびに対比混濁化(contrast-opacified)動脈と交差する腱画の総数を、単一盲検様式でカウントした。血管造影スコアを、それぞれのフィルムについて、混濁化動脈と交差するグリッド腱画を、中央大腿のグリッド腱画の総数で割った比率として、計算した。
【0139】
毛細管密度
血管密度を、虚血後脚から採取した光学顕微鏡切片を用いて、毛細血管レベルで評価した。組織検体は、動物屠殺時に、虚血脚の内転筋および半膜様筋からの横切片として得られた。筋肉サンプルを、OCT化合物(Miles,Elkhart,IN)内に包埋し、液体窒素でスナップ凍結し、5μm厚の切片に切断した。前記の方法(Ziada,A.M.ら、Cardiovasc.Res.,18,724−732、1984)に従って、組織切片をインドキシル−テトラゾリウム法でアルカリホスファターゼで染色して毛細血管内皮細胞を検出し、次いで、エオシンで対抗染色した。2つの筋肉からの全体で20の異なる領域を無作為に選択し、毛細血管および筋細繊維の数を20x対物レンズ下でカウントした。次に、毛細血管密度(毛細血管/mm)および毛細血管−対−筋細繊維の比率を測定した。
【0140】
実施例5:HIF−1α/VP16組換えアデノウイルス
むき出しのDNAの代わりとして、以下に記載する方法に従って、HIF−1αに基づく遺伝子構築物を持つアデノウイルスベクターを構築した。
【0141】
2つのHIF−1α/VP16ハイブリッドを、プレウイルスプラスミドベクター(CMVプロモーター、SV40pA、p1X−;いわゆる「エンプティーベクター」(EV)、R.Dollから得られた)内にクローン化した。上記のように、これらの2つのハイブリッドタンパク質は、HIF−1αからのDNA−結合ドメインおよびダイマー化ドメイン(最初は、HIF−1αのaa390のAF111部位で切除され;第二は、aa530のEcoRI部位で切除されている)ならびに単純ヘルペスVP−16タンパク質からのトランス活性化ドメインを含んでいる。
【0142】
シャトルベクターEV/HIF−1α/VP−16.Af111を、BstB1で直線化し、シャトルベクターEV/HIF−1α/VP16.R1をBamH1で直線化した。個々のベクターの15μgのDNAを4時間消化し、次いで、フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿によって二度精製した。ペレットを50μlの0.1xTEに再懸濁し、トランスフェクションに用いた(トランスフェクション前、2μlの個々の消化DNAをゲル上で走行させた)。
【0143】
ウイルス骨格DNAの調製
5μgのAd2CMVBgal−6 DNAをPshA1およびSnaB1で、37℃で24時間消化し、反応物の1/10を0.8%アガロース/TBEゲル上に走行させ、消化の完全性をチェックした。残りの反応物をトランスフェクションに用いた。
【0144】
Ad2CMVBgal−6骨格は、合衆国特許第5,707,618号(ここに参照としてその全体を採用される)の実施例に記載のベクターのそれとほぼ同一であるが、ベクターの欠損E1部分内へ挿入されたB−gal遺伝子を含んでいた。特に、このベクターは、AdE1に関して欠損があり、E4配列は、34077のDlaI部位から35597のTaqI部位まで欠損している。33178から34082迄のORF6配列をE4領域に挿入した。SV40早期ポリA配列を、ORF6に隣接して挿入し、そうすることによって、ORF6遺伝子からL5(繊維)配列内への読み通しもまた妨害される。プロテインIXを、その元来の位置からBamH1フラグメントとしてのE4欠損領域内のウイルスゲノム内に再配置する。プロテインIXフラグメントは、それ自身プロモーターを含み、いずれの方向でもベクター内にクローン化することができる。構築物は前記の合衆国特許第5,707,618号の図3に示されている。
【0145】
トランスフェクション
以下に示すように、Promegaの”Profection−Calcium Phosphate Transfection Kit”からの標準プロトコールを用いて、トランスフェクションを行った。
第1日: 60mm皿上に293細胞を1x10/皿で塗布し、37℃/5%COで24時間インキュベートする。
第2日:
1.トランスフェクション4時間前、細胞からの培地を除き、それを4.5mlの新しい増殖培地に置き換える。
2.DNAおよびCaCl混合物
【表1】

を1.5mlのエッペンドルフチューブ内に調製し、穏やかに混合する。混合物を、室温に15ー30分間、放置する。
3.300μlの2xHBSでDNA−CaClを沈殿させ、RTで0.5−2時間インキュベートする。次いで、沈殿させたDNAを細胞に加え、16−17時間インキュベートする。
第3日: 培地を交換する。
第5日: 60mm皿から100mmの皿に細胞をスプリットする。
第7日: 細胞を100mmの皿から150mmの皿にスプリットする。
第9日: それぞれのトランスフェクションから5プラークをピックアップする。
第11日: EV+RIから12のさらなるプラークを、EV+Af111から10のさらなるプラークをピックアップする。250μlの増殖培地中でプラークを凍結解凍を3回繰り返し、−20℃に保存した。
【0146】
組換えアデノウイルスの最初のスクリーニング
1.感染
第1日: 細胞を24穴プレートに1.4x10細胞/穴で塗布する。
第2日: 200μlのそれぞれのプラーク、37℃/5%COで2時間、細胞を感染させ(約40−50%の集密度)、次いで、800μlの増殖培地を加える。細胞をインキュベーター内に置き、CPEが起こるまで、増殖させる。
第4日: CPEが進んだとき、それぞれのプレートの一つの穴を集菌する。
第5日: EV+Af111の10の穴から、およびEV+RIの13の穴からCPE細胞を洗浄除去する。
第8日: 残ったCPE細胞を洗浄除去する。
【0147】
CPE細胞溶解物を3回凍結/解凍する。
【0148】
2.CPE細胞溶解物からのウイスルDNAの調製
250μlのCPE
250μlの2xプロテイナーゼK溶解バッファー
40μlの10mg/mlプロテイナーゼK
細胞を37℃で3時間インキュベートし、フェノール/クロロホルムで2回抽出した。サンプルを、20℃ O/N、エタノールで沈殿させ、ペレットを25μlのddHO内に再懸濁した(溶解バッファー:40mM EDTA、40mM Tris−HCl、pH8、2%SDS)。
【0149】
3.ウイルスDNA消化
25μlのDNAを制限酵素BcII、50℃ O/Nで消化し、次いで、0.8%アガロース/TBEゲル上で分離した。全プラークは、真の組換え体であった。バックグラウンドはなかった。HIF−1α/VP16アデノウイルスベクターと共に含まれるアデノウイルス配列の概要を図7に示す。このベクターは、Ad2CMVBgal−6骨格とほぼ同一であったが、B−gal遺伝子は、HIF−1α/VP16ハイブリッド構築物で置き換えられていた。
【0150】
実施例6: HIF−1α/NFκBハイブリッドトランスアクティベーター
実験1に記載の技術と類似の技術を用いて、我々は、HIF−1αからのDNA結合ドメインおよびダイマー化ドメインならびにNF−κBからのトランス活性化ドメインを含むキメラトランスアクティベータータンパク質をコードする核酸配列を構築した。特に、NFκBのp65サブユニットの活性化ドメインをコードするDNAフラグメント(Schmitz,M.L.およびBaeuerle,P.A.、1991、EMBO J.,10.3805−3817;Schmitz,M.L.ら、1994、J.Biol.Chem.,269,25613−25630;Schmitz,M.L.ら、1995、J.Biol.Chem.,270,15576−15584)を、HeLa細胞cDNAライブラリー(Clontech)からのDNA配列のPCR増幅(advantage cDNA PCRキット、Clotech)によって、作成した。次いで、DNAフラグメントを、pcDNA3/HIF−1α発現ベクターのAfl2とXbaI部位の間に挿入した。この構築物(pHIF−α/NF−κB)は、それ故、HIF−1αのaa1−390およびHF−κB p65サブユニットのaa407−551からなる。PCRによって生成した配列の完全性を、DNAシークエンシングによって確認した。
【0151】
最初のインビトロでの発現は、HIF−1α/NF−κBハイブリッドの能力を上昇させるために行われ、HeLa細胞内の内因性VEGF遺伝子の発現を活性化した。実施例3に記載した方法と類似の方法を用いて、pHIF−1α/NF−κB構築物を、pHIF−1α/VP16構築物と共に、pHIF−1α(全長、野生型HIF−1α遺伝子)を対照として、平衡にHeLa細胞のプレート内に二重にトランスフェクトした。トランスフェクション24時間後、HIF−1α活性を誘導するために、1セットのプレートをデスフェリオキサミンに晒し、その他のセットは、処理しないままに置いた。培養液は、ELISA(R&Dシステム)によるVEGFアッセイのために、誘導48時間後に集菌した。図8上図に示すように、pHIF−1α/NF−κB構築物は、本質的に活性であるらしい、即ち、非誘導細胞内で検出されたVEGFレベルは、比較的高く、誘導されたmock−トランスフェクト細胞のそれと等しかった。しかしながら、pHIF−1α/NF−κB構築物でトランスフェクトされた細胞内のVEGF発現の全体レベルは、pHIF−1α/VP16でトランスフェクトされた細胞内で認められたそれほど高くはなかった。
【0152】
類似の実験が、Hep3B細胞内へのトランスフェクション後、pHIF−1α/NF−κBによるエリトロポイエチン(EPO)遺伝子発現のアップレギュレーションを評価するために、行われた。VEGFと共に、pHIF−1α/NF−κBでの細胞のトランスフェクションは、結果として非誘導下でも内因性EPOを発現したが、そのEPOレベルは、pHIF−1α/VP16でトランスフェクトされた細胞内で認められたそれより低い(図8下図)。
【0153】
本発明は開示された実施態様に関連して記載されているが、様々な修飾を、本発明の精神から離れることなく作り出すことができることを理解すべきである。従って、本発明は、請求の範囲によってのみ制限される。
【0154】
参考文献
【表2】

【表3】

【図面の簡単な説明】
【0155】
【図1】図1は、ハイブリッド構築物pcDNA3/HIF/VP16/Afl2の制限マップを示す。
【図2】図2は、ハイブリッド構築物pcDNA3/HIF/VP16/RIの制限マップを示す。
【図3】図3は、HIF−1α/VP16ハイブリッド構築物が、293細胞において、EPOまたはVEGF遺伝子発現を活性化する能力を試験したアッセイ結果を示す。
【図4】図4は、HIF−1α/VP16ハイブリッド構築物が、HeLa細胞において、EPOまたはVEGF遺伝子発現を活性化する能力を試験したアッセイ結果を示す。
【図5】図5は、HIF−1α/VP16ハイブリッド構築物が、HeLa細胞において、内因性VEGF遺伝子発現を活性化する能力を試験したアッセイ結果を示す。
【図6】図6は、HIF−1α/VP16ハイブリッド構築物が、293細胞において、EPO(左)またはVEGF(右)遺伝子発現を活性化する能力を試験した結果を示す。
【図7】図7は、HIF−1α/VP16ハイブリッドアデノウイルスベクターに含まれるアデノウイルス配列の図式を示す。
【図8】図8は、HIF−1α/NFκB構築物が、HeLa細胞において内因性VEGF遺伝子発現(上)を、そしてHep3B細胞において、内因性EPO遺伝子発現(下)を活性化する能力を試験したアッセイ結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)低酸素症誘導性因子タンパク質のDNA結合ドメイン;および
(b)転写活性化が可能なタンパク質ドメイン
を含む、生物学的に活性があるキメラトランス活性化タンパク質をコードする核酸分子。
【請求項2】
低酸素症誘導性因子タンパク質がHIF−1αである、請求項1の核酸分子。
【請求項3】
HIF−1αのDNA結合ドメインが最初のアミノ酸からAfl2部位までのアミノ酸残基を含む、請求項2の核酸分子。
【請求項4】
転写活性化が可能なタンパク質ドメインが:HSV VP16;NFκB;熱ショック因子;p53;fos;v−jun;因子EF−C;HIV tat;HPV E2;Ad E1A;Sp1;AP1;CTF/NF1;E2F1;HAP1;HAP2;MCM1;PHO2;GAL4;GCN4;およびGAL11からなる群より選択されるタンパク質由来である、請求項1の核酸分子。
【請求項5】
低酸素症誘導性因子タンパク質がヒト低酸素症誘導性因子HIF−1αである、請求項4の核酸分子。
【請求項6】
低酸素症誘導性因子タンパク質がHIF−1αであり、そして転写活性化が可能なタンパク質ドメインがHSV VP16由来の転写活性化ドメインである、請求項1の核酸分子。
【請求項7】
HIF−1αのDNA結合ドメインが最初のアミノ酸からAfl2部位までのアミノ酸残基を含む、請求項6の核酸分子。
【請求項8】
低酸素症誘導性因子タンパク質がHIF−1αであり、そして転写活性化が可能なタンパク質ドメインがNFκB由来の転写活性化ドメインである、請求項1の核酸分子。
【請求項9】
HIF−1αのDNA結合ドメインが最初のアミノ酸からAfl2部位までのアミノ酸残基を含む、請求項8の核酸分子。
【請求項10】
低酸素症誘導性因子タンパク質がヒト低酸素症誘導性因子である、請求項1の核酸分子。
【請求項11】
低酸素症誘導性因子タンパク質がヒトHIF−1αである、請求項1の核酸分子。
【請求項12】
発現調節配列に、機能可能であるように連結されている、請求項1−11のいずれか1つの核酸分子を含む、発現ベクター。
【請求項13】
発現調節配列が誘導性プロモーターを含む、請求項12の発現ベクター。
【請求項14】
発現ベクターがpcDNA3/HIF/VP16/Afl2である、請求項12の発現ベクター。
【請求項15】
ベクターがアデノウイルスベクターである、請求項12の発現ベクター。
【請求項16】
請求項12−15のいずれか1つの発現ベクターを含む単離された宿主細胞。
【請求項17】
請求項1−11のいずれか1つの核酸分子にコードされる、生物学的に活性があるキメラトランス活性化タンパク質。
【請求項18】
請求項12−15のいずれか1つの発現ベクターおよび薬学的に許容しうるキャリアーを含む、薬剤組成物。
【請求項19】
請求項12−15のいずれか一項に記載の発現ベクターを含む、低酸素症誘導性遺伝子の標的細胞における発現を増加させるための薬剤。
【請求項20】
請求項12−15のいずれか一項に記載の発現ベクターを含む、酸素正常条件下で細胞における生物学的に活性があるHIF−1αの持続発現を提供するための薬剤。
【請求項21】
請求項12−15のいずれか一項に記載の発現ベクターを含む、低酸素症関連障害を有する哺乳類患者における虚血性組織損傷を減少させるための薬剤。
【請求項22】
請求項1−11のいずれか一項に記載の核酸分子を含む、酸素正常条件下で細胞における生物学的に活性があるHIF−1αの持続発現を提供するための薬剤であって、前記核酸分子が前記細胞におけるその発現を指示する発現調節配列に、機能可能であるように連結されている、前記薬剤。
【請求項23】
請求項1−11のいずれか一項に記載の核酸分子を含む、低酸素症関連障害を有する哺乳類患者における虚血性組織損傷を減少させるための薬剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−195555(P2007−195555A)
【公開日】平成19年8月9日(2007.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−40987(P2007−40987)
【出願日】平成19年2月21日(2007.2.21)
【分割の表示】特願2000−523345(P2000−523345)の分割
【原出願日】平成10年12月4日(1998.12.4)
【出願人】(391018536)ジェンザイム・コーポレーション (13)
【氏名又は名称原語表記】GENZYME CORPORATION
【Fターム(参考)】