説明

遺伝子組換え動物の組織又は分泌物が混入しているか否かを判別する方法

【課題】被判別試料に遺伝子組換え動物の組織又は分泌物が混入しているか否かを簡便、迅速、且つ低コストで判別できる方法などを提供する。
【解決手段】被判別試料からDNAを抽出する工程と、抽出したDNAから、組換え遺伝子の標的配列由来のプライマーセットを使用するLAMP法により組換え遺伝子を増幅する工程と、増幅したDNAを検出する工程と、を含む方法である。なお、判別の対象となる組換え遺伝子が、例えばホウレンソウ由来不飽和脂肪酸生合成遺伝子(FAD2)である場合には、配列番号1から配列番号4に示す塩基配列からなる4つのプライマーによって構成されるプライマーセットが使用できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、食品等の被判別試料に遺伝子組換え動物の組織又は分泌物が混入しているか否かを判別する方法であって、特に、被判別試料に含まれる組換え遺伝子を当該組換え遺伝子の標的配列由来のプライマーセットを使用するLAMP法によって判別する方法に関する。また、この発明は、前記方法に使用するプライマーセット及び当該プライマーセットを含む判別キットに関する。
【背景技術】
【0002】
耐農薬、耐病害虫等の特性を付与する遺伝子を組換えたダイズ、トウモロコシ等の遺伝子組換え植物(以下、GM植物と省略する。)は、すでに研究開発の段階を終え、法の規制の下、各国において流通している。
【0003】
近年、科学技術の発展により、GM植物のみならず、高い機能性を付与する遺伝子を組換えた遺伝子組換え動物(以下、GM動物と省略する。) についても研究がなされており、一部の動物においては、実用化を目指した研究も進められている。このようなGM動物の一例として、ホウレンソウの不飽和脂肪酸生合成遺伝子(以下、FAD2遺伝子と省略する。)を組換え、生体内でその遺伝子機能が発現することが証明されたブタも作出されている(非特許文献1を参照)。
【0004】
一方、消費者の安全意識から、特に我が国では、このような遺伝子組換え体(以下、GM体)は敬遠される傾向が強い。そのため、食品の原材料又は食品そのものがGM体であるか否か、あるいはGM体を含んでいるか否か、の表示は食品衛生法及びJAS法に基づき義務化されており、消費者に対してGM体混入の有無に関する情報をより迅速、かつ高精度に情報を提供する必要が求められている。
【0005】
さて、現在、このようなGM体が混入しているか否かの判別又はGM体と非GM体との判別には、(独)農林水産消費技術センター作成の「組換えDNA技術応用食品の検査方法」に従って、ポリメラーゼ連鎖反応法(以下、PCR法と省略する。) が使用されている (非特許文献2を参照) 。
【0006】
ここで、PCR法とは、被判別試料からフェノール・クロロフォルム法や市販のDNA抽出キットによってゲノムDNAを分離し、当該ゲノムDNAを含む反応液に、組換え遺伝子に特異的なプライマー、DNA合成酵素、デオキシヌクレオチド三リン酸(dNTPs)、反応バッファー等を添加し、遺伝子増幅装置(PCR装置)を使用するPCR反応によって標的配列を増幅したのち、当該増幅の有無をアガロースゲル電気泳動によって確認することにより、判別する方法である。
【0007】
しかし、PCR法には次のような問題点があった。まず、正確な結果を得るためには、ある程度の熟練と煩雑な操作を必要とするとの問題点があった。また、複雑な温度制御を行うためのPCR装置や電気泳動装置などの高価な機器を必要とするため、日々の検査に使用するには高コストであるとの問題点があった。さらに、判別が完了するまでには約10時間程度必要であり、結果が迅速に得られないとの問題点があった。加えて、PCR法は感度が不十分であり、判別ミスを犯す可能性があるとの問題点もあった。
【0008】
一方、PCR法の問題点を解決する方法の一つとして、Loop-mediated isothermal amplification 法(以下、LAMP法と省略する。) が開発されている。LAMP法は、少なくとも4種類のDNAプライマーを使用して、等温で特定の塩基配列を増幅反応する方法であり、PCR法と比べて特異性の高い遺伝子増幅を行うことができることが知られている(特許文献1を参照)。ただ、LAMP法は、細菌やウィルスの検出等には使用されてはいるものの、GM体の判別には使用されていなかった。
【特許文献1】国際特許公開 WO 00/28082号パンフレット
【非特許文献1】佐伯ら(Saeki et al.,)、「遺伝子組換えブタにおけるホウレンソウのΔ12脂肪酸不飽和化酵素遺伝子の機能的発現(Functional expression of a Δ12 fatty acid desaturase gene from spinach in transgenic pigs)」、米国科学アカデミー紀要( Proc. Natl. Acad. Sci. USA.)、アメリカ合衆国、科学アカデミー(National Academy of Sciences)、2004年4月27日、第101巻、p.6361-6366
【非特許文献2】JAS分析試験ハンドブック「遺伝子組換え食品検査・分析マニュアル」、独立行政法人農林水産消費技術センター、インターネット<URL; http://www.maff.go.jp/sogo_shokuryo/jas/manual00.htm >
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明は、被判別試料に遺伝子組換え動物の組織又は分泌物が混入しているか否かを簡便、迅速、且つ低コストに判別できる方法を提供することを課題とする。また、この方法に使用するプライマーセット及び判別キットを提供することも発明の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、発明者らは鋭意検討を重ねることにより、LAMP法を利用することによって、被判別試料に遺伝子組換え動物の組織又は分泌物が混入しているか否かを簡便、迅速、且つ低コストで判別できることを見出した。
【0011】
すなわち、この発明は、被判別試料に遺伝子組換え動物の組織又は分泌物が混入しているか否かを判別する方法であって、被判別試料からDNAを抽出する工程と、抽出したDNAから、組換え遺伝子の標的配列由来のプライマーセットを使用するLAMP法により組換え遺伝子を増幅する工程と、増幅したDNAを検出する工程と、を含む方法である。ここで、組換え遺伝子としては、例えば、FAD2遺伝子を例示することができ、プライマーセットとしては、FAD2遺伝子の特定領域に由来するとともに、配列番号1〜4に示す塩基配列からなる4つのプライマーから構成されるものを例示することができる。また、この発明は前記プライマーセット及びこれを含む判別キットをも含んでいる。
【発明の効果】
【0012】
この発明で使用されるLAMP法は、PCR法が複雑な温度操作を必要とするのとは対照的に、増幅工程での温度調節が不要であり、一定温度(等温)で増幅反応を行う。そのため、GM動物の組織又は分泌物が混入しているか否かの判別、並びにそれらと非GM動物の判別を簡便、迅速、且つ低コストで行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
この発明は、被判別試料に遺伝子組換え動物の組織又は分泌物が混入しているか否かを判別する方法であって、被判別試料からDNAを抽出する工程と、抽出したDNAから、組換え遺伝子の標的配列由来のプライマーセットを使用するLAMP法により組換え遺伝子を増幅する工程と、増幅したDNAを検出する工程と、を含む方法である。また、この発明は前記プライマーセット及びこれを含む判別キットでもある。
【0014】
(判別の対象)
判別の対象(被判別試料)としては、動物の組織や分泌物が混入している可能性のある食品等である。ここで、動物としては、遺伝子組換え可能な動物であれば特に限定することなく対象とすることができるが、食品への混入の有無を判別するという発明の目的を考えると、家畜である牛、豚、羊、鶏、ダチョウ等が例示でき、その前段階である組換え実験への応用を考えればマウス、ラットなどの実験動物が例示できる。また、前記組織としては、動物の組織であれば特に限定することなく対象とすることができるが、これについても同じく発明の目的から、筋肉組織、脂肪組織、内臓組織等が例示できる。さらに、分泌物についても同じように、特に限定することなく対象とすることができるが、同一の理由から、牛乳などが例示できる。加えて、組換え遺伝子としては、栄養・食味向上に関係する遺伝子、耐病性に関係する遺伝子など特に限定することなく対象とすることができるが、具体的には、前記FAD2などが例示できる。
【0015】
(DNAの抽出)
被判別試料からのDNAの抽出は、有機溶媒、酵素、界面活性剤、アルカリ、熱による処理など、公知の方法の中から適宜選択できる。また、必要に応じて、フェノールクロロロホルム処理、エタノール沈殿などにより、抽出したDNAを精製してもよい。
【0016】
(LAMP法)
LAMP法は、被判別試料から抽出したDNAに、少なくとも4種類のプライマーからなるプライマーセットと、鎖置換型DNA合成酵素と、基質と、反応バッファーなどを混合し、鎖置換反応を利用して熱変性することなく一定温度(65℃付近)でインキュベートさせることによって、組換え遺伝子の全部又は一部分である特定の塩基配列(以下、標的配列と呼ぶ。)を増幅する方法である。なお、LAMP法のより詳しい内容については、以下に概説する。
【0017】
まず、前記プライマーセットは、標的配列の前後の塩基配列に基づいて設計され、標的配列の近傍にある内部プライマーと(Inner Primer)と、その外側にある外部プライマー(Outer Primer)に大きく分類することができる。
【0018】
ここで、標的配列の3'末端から当該ポリヌクレオチド鎖の3'末端方向に向かって、第1の任意配列をF1c、第2の任意配列をF2c、第3の任意配列をF3cとして選択し、標的配列の5'末端から当該ポリヌクレオチド鎖の5'末端方向に向かって順に第4の任意配列をB1、第5の任意配列をB2、第6の任意配列をB3としてそれぞれ選択し、F1c、F2c、F3cの相補配列をそれぞれF1、F2、F3と呼び、B1、B2、B3の相補配列をB1c、B2c、B3cと名付ける。
【0019】
そして、このように塩基配列を選択して名付けると、内部プライマーとは、5'末端側からF1cとF2とをこの並び順で含む塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、FIPと呼ぶ。)、及び5'末端側からB1cとB2とをこの並び順で含む塩基配列を有するオリゴヌクレオチド(以下、BIPと呼ぶ)のことである。ここで、F1c及びB1cは、後述する増幅生成物がループを形成する部分であり、このループは新たな相補鎖合成の起点となる部分である。そして、内部プライマー上のF2、B2は、被判別試料から抽出したDNAや増幅生成物からなる鋳型に特異的にアニールして相補鎖合成の起点となる部分である。また、外部プライマーは、F3及びB3を含むオリゴヌクレオチドであり、被判別試料から抽出したDNAや増幅生成物からなる鋳型に特異的にアニールして相補鎖合成の起点となる。
【0020】
なお、内部プライマー及び外部プライマーは、標的配列又はその相補鎖及びその前後の配列が分っていれば、例えば、WEBブラウザ上で操作可能なLAMPプライマー設計支援ソフト(Primer Explorer V2: http://primerexplorer.jp/v manual/index.html) などを利用して、自動的に設計することができる。また、このようにして設計されたプライマーから構成されるプライマーセットを「標的配列由来のプライマーセット」と呼ぶ。なお、設計したプライマーセットを構成する各プライマーは、公知の手段、例えば、PerkinElmer社製の自動DNA合成装置等により合成できる。
【0021】
つぎに、前記鎖置換型DNA合成酵素とは、鋳型DNAに相補的な DNA鎖を合成していく過程で、伸長方向に2本鎖領域があった場合その鎖を解離しながら、相補鎖を合成するDNA合成酵素のことである。このような鎖置換型DNA合成酵素としては、Bst DNAポリメラーゼのラージフラグメント、Bca(exo-)DNAポリメラーゼ、大腸菌DNAポリメラーゼIのクレノーフラグメント等が例示できる。また、前記基質とは、増幅生成物の基質となるdNTPsのことである。
【0022】
このようなプライマーセット、鎖置換型DNA合成酵素、基質などを検出対象由来のDNAと混合したのち、一定温度でインキュベートすると、次のようにして標的配列の増幅反応が進む。
【0023】
2本鎖DNAは、その由来にかかわらず65℃付近では動的平衡状態にあって、各DNA鎖が互いにつかず離れずの状態を保っている。そのため、プライマーが2本鎖DNAの相補的な部分にアニールし、そこから鎖置換型DNA合成酵素によって伸長すると、プライマーがアニールしなかった方のDNA鎖は分離して一本鎖状態になる。
【0024】
したがって、インキュベーション中、内部プライマーがアニールして核酸合成反応が進行すると、それと同時に外部プライマーを起点とする核酸合成反応も進行して鎖置換反応が起こる。
【0025】
これにより、内部プライマーを起点とする新しいDNA鎖は、鋳型である標的配列から分離するとともに、内部プライマー由来の5'末端側で自己ループ構造を形成する。なお、内部プライマー(FIP及びBIP)と外部プライマー(F3及びB3)が、標的配列のそれぞれの両端にあるため、自己ループは標的配列の両端で形成され、自分自身を鋳型とするとともにDNA合成起点ともなる3'末端を有するダンベル型構造が形成される。
【0026】
また、形成されたダンベル型構造のループ部分の塩基配列は、3'末端側のループの一本鎖部分に内部プライマーが相補的にアニールし合成起点を与えるので、ループ構造を有する中間産物が連続的に内部プライマーの鋳型として機能し、核酸合成が行われる。なかでも、ループ構造を複数有する中間産物は、複数の核酸合成反応が同時多発的に進行する鋳型となり、鎖置換反応によってまた新たなループ構造を有する中間産物を生成させる。
【0027】
このようにして、プライマーのアニール、核酸の合成反応、合成された核酸の剥離を繰り返すことにより、同一鎖上に標的配列を繰り返し含む構造を持った様々な大きさの増幅産物が生成する。このような増幅産物を電気泳動すると、大きさの異なるDNAがラダー状に並んだ電気泳動像を得ることができる。
【0028】
なお、LAMP法の詳細、具体的には反応液の内容量、反応温度、反応精度を向上する方法等については、前記特許文献1、その権利者である栄研化学株式会社のホームページ(URL: http://loopamp.eiken.co.jp/)等にその詳細が記載されている。
【0029】
また、LAMP法においては、内部プライマーと外部プライマーに加えて、ループプライマー(Loop Primer)を使用することもできる。ループプライマーは、ダンベル構造の5'末端側のループの一本鎖部分の塩基配列に相補的な塩基配列を持つプライマーであり、これを使用することにより、核酸合成の起点が増え、反応時間が短縮して反応精度が向上する。なお、ループプライマーの塩基配列は、ダンベル構造の5'末端側のループの1本鎖部分の塩基配列に相補的でありさえすれば、標的配列又はその相補鎖から選んでもよく、他の配列から選んでもよい。またループプライマーは1種類でも2種類でもよい。
【0030】
(FAD2遺伝子及びそのプライマーセット)
ホウレンソウ由来不飽和脂肪酸生合成遺伝子(FAD2遺伝子)は、前記非特許文献1に記載されているように、ホウレンソウから取得されたオレイン酸をリノール酸に変換する酵素の遺伝子であり、その全塩基配列は配列番号5に示すとおりである。また、下記の配列番号1〜4に示す塩基配列からなる4種類のプライマーセットは、FAD2遺伝子の特定領域(856番から1171番の315bp)を特異的に増幅可能するために、前記設計支援ソフトによって設計したプライマーである。なお、配列番号1〜4に示す塩基配列を有するプライマーは、それぞれLAMP法プライマーセットにおけるF3(配列番号1、5’-TCGTTAGTGGCTTTTGGGC-3’)、B3(配列番号2、5’-GATGGCACCTGGCTCTGA-3’)、FIP(配列番号3、5’-TCACAACAAGCAATGGACCCCCCCTTGCAGCTGCCAAAGG-3’)、BIP(配列番号4、5’-CCCTAACCAACTCTCCACGCCCACACACACGACTTCCTTCC-3’)の各プライマーに該当する。
【0031】
(増幅産物の検出)
LAMP法では、増幅反応の進行に従って遊離するピロリン酸と反応液中に存在するマグネシウムイオンとが反応してピロリン酸マグネシウムを形成し、反応液が白濁する。そのため、この白濁を観察することにより増幅産物の有無を判断できる。ピロリン酸マグネシウムの白濁の確認には、目視による簡易検出法と、650nmにおける濁度をリアルタイムに測定するリアルタイム濁度測定装置(例えば、LA-200F、テラメックス社製)による検出法とがある。
【0032】
また、この他にも、公知の方法、例えば、反応液をそのままアガロース電気泳動に掛けても容易に増幅を検出できる。この場合には、前記のように、塩基長の異なる多数のバンドがラダー状に連なった電気泳動像が得られる。さらに、増幅された遺伝子配列を特異的に認識する標識オリゴヌクレオチドを使用しても検出できるし、エチジウムブロマイドやSYBR Green(Molecular Probes 社製)などを利用すれば、目視により検出できる。
【0033】
以下、実施例によりこの発明をさらに具体的に説明するが、この発明の特許請求の範囲はこれらの実施例によって如何なる意味においても限定されるものではない。
【実施例1】
【0034】
(1)遺伝子組換えブタ肉と市場に流通しているブタ肉との判別
遺伝子組換えブタ肉と、既に市場流通しているブタ肉との判別が可能であるか試みた。具体的には、Saekiら(前記の非特許文献1を参照)によって作出されたFAD2遺伝子組換えブタ肉(以下、GMブタ肉と省略する。) の筋肉組織、脂肪組織および肝臓組織と、和歌山県内の小売店より購入した国内産ブタ肉(以下、非GMブタ肉と省略する。)の筋肉との判別を、FAD2遺伝子の検出に基づいて試みた。
【0035】
(1a)ゲノムDNAの調整
GMブタ肉及び非GMブタ肉から、DNA抽出キット(DNeasy(商標) Tissue kit 、QIAGEN社製)を使用して、両ブタ肉組織からゲノムDNAを抽出した。なお、ゲノムDNAの抽出の可否は、ミトコンドリアDNAのチトクロームb遺伝子を標的とするプライマーセットを使用するLAMP法を合わせて行うことによって確認した。
【0036】
(1b)LAMP法による遺伝子増幅
LAMP法による遺伝子増幅は、Loopamp DNA増幅試薬キット(栄研化学社製)及び配列番号1〜4に示す塩基配列のプライマーセットを使用して、添付の説明書に記載のプロトコール「マスターミックスの調整」及び「増幅手順」に沿って行った。なお、増幅反応は、反応装置としてLoopamp リアルタイム濁度測定装置(LA-200F、テラメックス社製)を使用して、反応温度64℃、反応時間60分間で行った。
【0037】
また、チトクロームb遺伝子由来のLAMP法用プライマーとしては、C-F3(配列番号6、5'-GTCCTGCCCTGACGACAA-3')、C-B3(配列番号7、5'-GGTTTGGCCTAGGTTGTTGG-3')、C- FIP(配列番号8、5'-GCCCCCTCAGATTCATTCTACGAGGAGCTACGGTCATCACAA-3')、C-BIP(配列番号9、5'-AGCGTCGGCATGTAGAGGGCTTCTTAGCACACTCCCAACG-3')の各プライマーからなるプライマーセットを使用し、配列番号1〜4に示す塩基配列のプライマーセットを使用する場合と同様にして増幅反応を行った。
【0038】
なお、配列番号1〜4、及び配列番号6〜9に示すプライマーは、前記のLAMPプライマー設計支援ソフトによって設計し、自動DNA合成装置(PerkinElmer社製)により合成した。
【0039】
(1c)増幅産物の検出
まず、チトクロームbによるDNA抽出の確認、及びFAD2遺伝子の検出を行った。その結果、チトクロームb由来のプライマーセットを使用した場合には、どちらのブタ肉に由来する反応液においても、反応液の白濁が確認できた。また、FAD2遺伝子由来のプライマーセットを使用した場合には、非GMブタ肉由来の反応液では白濁が確認できなかった。
【0040】
また、確認のため、各反応液を2%アガロースゲル上で電気泳動して、アガロースゲルをエチジウムブロマイド溶液で30分間染色したのち、紫外線光照射による発光を観察した。その結果の電気泳動写真を図1に示す。
【0041】
その結果、図1に示すように、チトクロームb遺伝子由来のプライマーセット(配列番号6〜9)を使用した場合には、LAMP法による遺伝子の増幅が認められた(4〜6レーンを参照)。このことからも被検出試料からDNAが抽出できたことが確認できた。また、FAD2遺伝子由来のプライマーセット(配列番号1〜4)を使用した場合には、GMブタ筋肉、GMブタ肝臓(それぞれ1、2レーンを参照)では、遺伝子の増幅が認められたものの、非GMブタ筋肉(レーン3を参照)では、遺伝子の増幅が見られなかった。なお、図1中のMはDNAウェイトマーカーである。
【0042】
以上の結果から、配列番号1〜4のプライマーを使用した場合には、LAMP法によってGMブタ肉と非GMブタ肉とを判別できることが確認できた。
【実施例2】
【0043】
(2)組換え動物の分泌物の判別
組織のみならず、乳などの分泌物についても、GM動物由来のものと非GM動物由来のものとの判別が可能であるか試みた。具体的には、前記GMブタにおいて、乳を採取することが不可能であったため、近畿大学生物理工学部において作出されたFAD2遺伝子組換えマウス(以下、GMマウスと省略する。)の乳(以下、GM乳)を使用して、GM乳と非GM乳との判別を試みた。
【0044】
(2a)ゲノムDNAの調整
サンプルとして使用したマウスは、非GMマウス、GMマウスともにICR系統のマウスであり、近畿大学生物理工学部内で飼育した20週齢マウスである。また、乳の採取は、マウスをジエチルエーテルにより気絶させ、乳房から手作業で行った。なお、これらの作業は全て滅菌済みゴム手袋を着用して行った。また、両マウスの乳からのDNA抽出は、DNA抽出キット(DNeasy(登録商標) Tissue kit、QIAGEN社製)を使用して、同抽出キット付属のプロトコールに記載の「血液からのDNA抽出法」に基づいて行った。
【0045】
(2b)LAMP法による遺伝子増幅とその検出
LAMP法による遺伝子増幅及び増幅産物の検出は、配列番号1〜4に示すプライマーセットを使用して前記(1b)と同様にして行った。その結果である電気泳動写真を図2に示す。なお、この図において、MilkレーンはGMマウスの乳による結果を示しており、この図からも明らかなように、GM体由来の乳ではLAMP反応によってDNAの増幅が認められた。また、非GMマウスの乳を使用した場合については、増幅産物が認められなかったため、その記載を省略している。
【0046】
以上の結果から、配列番号1〜4に示すプライマーセットを使用するLAMP反応によって、GM体由来の分泌物と非GM体由来の分泌物を判別できることが確認できた。
【実施例3】
【0047】
(3)非GM体に混入したGM体の検出、及びPCR法との比較
GMブタ肉の非GMブタ肉に対する混入率(%)を100(全てGMブタ肉)、50、25、20、10及び1%と変化させ、GMブタ肉の混入が検出できるかを試みた。なお、サンプルにはブタの筋肉を使用した。また、非GM乳に対するGM乳の混入率(%)を100(全てGM乳)、50、25、20、10及び1%と変化させ、GM乳の混入を検出できるかを試みた。なお、ゲノムDNAの調整、LAMP法による遺伝子増幅、増幅産物の検出は実施例1と同様の条件で行った。
【0048】
これと合わせて、LAMP法による検出感度と従来法であるPCR法と検出感度を比較した。すなわち、LAMP法によるFAD2遺伝子の検出下限と、PCR法による同遺伝子の検出下限とを比較した。なお、PCR反応は以下の条件で行った。
【0049】
まず、PCR用プライマーには、FAD2領域の334〜1175bp (840bp)の両端に特異的なプライマー、具体的には、フォワードプライマー(配列番号10、5’-TGATTTCACCATTGCGTTCC-3’)と、リバースプライマー(配列番号11、5’-ACCAAGGCTATAAAGCCAAT-3)を使用した。また、ゲノムDNAは、実施例1と同様の方法で抽出したDNAを使用した。
【0050】
また、反応溶液は、前記の方法で抽出したDNA溶液1μLと、DNA合成酵素(Ex Taq(登録商標)、タカラバイオ社製) 0.2μLと、dNTP mixture 1.25μLと、緩衝液1.25μLと、フォワードプライマー 0.5μLと、リバースプライマー 0.5μLと、超純水 8.3μLとを混合したものを使用した。
【0051】
さらに、PCR反応は、PCR装置としてサーマルサイクラー(PTC-100 Programmable Thermal Controller、MJ Research社製)を使用して、95℃、10分でホットスタートし、95℃、30秒の変性工程、60℃、30秒のアニーリング工程、72℃、45秒の伸張工程からなる反応サイクルを計30サイクル行ったのち、72℃で10分間放置し、その後4℃で保存した。
【0052】
その結果を図3から図5に示す。図3にはGMブタ肉、図4にはGM乳についてのLAMP法による電気泳動像をそれぞれ示している。これらの図からも明らかなように、LAMP法ではいずれの混入率であっても明確にDNAの増幅が確認できた。これに対して、PCR法の場合には、その電気泳動像である図5からも明らかなように、GMブタ筋肉については1%の混入率でも約840bp付近に明確なバンドが確認できるが、GM乳については100%の混入率でもかすかに確認できるだけであり、目視による混入率の検出限界は約25%程度であった。
【0053】
以上の結果から、LAMP法による検出感度は、PCR法のそれと比較して極めて高いことが明確に確認できた。
【0054】
実施例1〜3の結果から、配列番号1〜4に示す塩基配列からなるDNAプライマーによって構成されるプライマーセットを使用するLAMP法により、組換え動物由来の組織及び分泌物と非組換え動物由来のものとの判別ができること、その感度が従来からあるPCR法よりも高いこと、が確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】チトクロームb遺伝子又はFAD2遺伝子由来のプライマーセットを使用して、GMブタ肉及び非GMブタ肉から抽出したDNAをLAMP法により遺伝子増幅した結果を示す電気泳動写真である。M:100 bp Ladder Marker、1: GMブタ筋肉(FAD2)、2: GMブタ肝臓(FAD2)、3: 非GMブタ筋肉(FAD2)、4: GMブタ筋肉(チトクロームb)、5:GMブタ肝臓(チトクロームb)、6: 非GMブタ筋肉(チトクロームb)
【図2】FAD2遺伝子由来のプライマーセットを使用して、GM乳から抽出したDNAを LAMP法により遺伝子増幅した結果を示す電気泳動写真である。M: 100 bp Ladder Marker、Milk: GM乳
【図3】GMブタ肉の非GMブタ肉に対する混入率(%)が異なる被判別試料を、LAMP法により遺伝子増幅した結果を示す電気泳動写真である。M: 100bp DNA Ladder Marker、1: 筋肉1%, 2: 筋肉10%, 3: 筋肉20%, 4: 筋肉25%, 5: 筋肉50%, 6: 筋肉100%
【図4】GM乳の非GM乳に対する混入率(%) が異なる被判別試料を、LAMP法により遺伝子増幅した結果を示す電気泳動写真である。M: 100bp DNA Ladder Marker、1: Milk 1%, 2: Milk 10%, 3: Milk 20%, 4: Milk 25%, 5: Milk 50%, 6: Milk 100%
【図5】GM乳の非GM乳に対する混入率(%)、GMブタ肉の非GMブタ肉に対する混入率(%) が異なる被判別試料を、PCR法により遺伝子増幅した結果を示す電気泳動写真である。M: 100bp DNA Ladder Marker、1: Milk 1%, 2: Milk 10%, 3: Milk 20%, 4: Milk 25%, 5: Milk 50%, 6: Milk 100%, 7: 筋肉1%, 8: 筋肉10%, 9: 筋肉20%, 10: 筋肉25%, 11: 筋肉50%, 12: 筋肉100%

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被判別試料に遺伝子組換え動物の組織又は分泌物が混入しているか否かを判別する方法であって、
被判別試料からDNAを抽出する工程と、
抽出したDNAから、組換え遺伝子の標的配列由来のプライマーセットを使用するLAMP法により組換え遺伝子を増幅する工程と、
増幅したDNAを検出する工程と、
を含む方法。
【請求項2】
組換え遺伝子が、ホウレンソウ由来不飽和脂肪酸生合成遺伝子である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
プライマーセットが、配列番号1から配列番号4に示す塩基配列からなる4つのプライマーによって構成される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
被判別試料にホウレンソウ由来不飽和脂肪酸生合成遺伝子が含まれるのか否かをLAMP法によって判別するための、ホウレンソウ由来不飽和脂肪酸生合成遺伝子由来のプライマーセット。
【請求項5】
配列番号1から配列番号4に示す塩基配列からなる4つのプライマーによって構成される請求項4に記載のプライマーセット。
【請求項6】
被判別試料にホウレンソウ由来不飽和脂肪酸生合成遺伝子が含まれるか否かをLAMP法によって判別するための、請求項4又は請求項5に記載のプライマーセットを含む判別キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−181435(P2007−181435A)
【公開日】平成19年7月19日(2007.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−2504(P2006−2504)
【出願日】平成18年1月10日(2006.1.10)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2005年9月12日 日本植物工場学会・日本農業気象学会・日本生物環境調節学会・農業情報学会・農業機械学会・農業施設学会・生態工学会 発行の「農業環境工学関連7学会2005年合同大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(000125347)学校法人近畿大学 (389)
【Fターム(参考)】