説明

避雷器の劣化診断装置、及び劣化診断方法

【課題】避雷器の劣化を簡便かつ確実に把握できるようにする。
【解決手段】電源装置9から供給される電流に基づき高電圧パルス発生装置2に発生させた直流パルスを、劣化診断の対象となる避雷器32の高圧側に電気的に接続される高圧側端子11と避雷器32の低圧側に電気的に接続される低圧側端子12との間に印加し、直流パルスに対する避雷器32の応答として高圧側端子11と低圧側端子12との間に生じる電圧を測定し、直流パルスに対する避雷器32の応答として高圧側端子11と低圧側端子12との間を流れる電流を測定し、測定した電圧の時間変化、及び測定した電流の時間変化に基づき避雷器32の劣化の度合いを判定するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、避雷器の劣化診断装置、及び劣化診断方法に関し、とくに簡便かつ確実に劣化診断を行えるようにするための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
高圧送電線が架設される送電線鉄塔などに設けられる避雷器(避雷碍子、マルチホーン等)は、気密不良等による吸湿や雷サージ等の電気的なストレスによって時間の経過とともに劣化し、絶縁耐力が低下するなど避雷器としての機能が低下する。そのため、電力会社等においては、避雷器の劣化診断が随時行われている。また劣化診断については、作業効率の向上や診断精度の向上を図るべく様々な診断手法が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、非直線抵抗素子を容器内に収容してなる避雷器を通過する電流を計測し、この電流に含まれている避雷器端子電圧と同相の抵抗分電流を用いて非直線抵抗素子の劣化診断を行う方法が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、避雷器の架台の近傍あるいは架台に設けた電界センサにより系統電圧を検出し、漏れ電流検出波形及び電圧検出波形をフーリエ変換して各次数の高調波成分及び位相を求め、検出波形の近似波形をそれぞれ求め、近似波形を微分することでキャンセル用の近似波形を求め、近似波形の位相合わせを行い、近似波形の基本波成分のレベルを合わせ、漏れ電流の近似波形からキャンセル用の近似波形を減じて抵抗分電流を求めることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭64−45078号公報
【特許文献2】特開平11−2652号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、例えば、高圧線鉄塔等に設置されている避雷碍子やマルチホーン(以下、避雷碍子と総称する。)のように電力線に直接接続されていない避雷器にあっては、(1)地上からの劣化診断が困難である、(2)重量物である試験電圧発生装置を運搬できない、(3)試験装置の電源確保が困難である、といった理由から、通常は外観点検や絶縁抵抗測定といった従来手法により劣化診断を行っている。
【0007】
ここで避雷器の劣化の進行速度は一定ではなく、ひとたび劣化が始まると加速度的に劣化が進行する。そのため、劣化診断に際しては、劣化の初期段階を早期に把握することが重要である。しかし外観点検や絶縁抵抗測定等による診断で異常と判断される場合は既に劣化が大きく進行している場合であることが多く、外観点検や絶縁抵抗測定等による診断では劣化の初期段階を見逃してしまう可能性がある。
【0008】
また劣化の進行は設置条件(気象、海岸部等)に左右されやすく、避雷器ごとに劣化の進行の度合いに大きな個体差があることも少なくない。そのため、個々の避雷器の劣化の進行度合いに拘わらず、安全をとって設備更新時期に一律に避雷器を新品に交換するといった無駄の多い運用も行われている。また設備更新時期を交換の契機とする場合は劣化が大きく進んだ避雷器を更新時期まで使用し続けてしまう可能性がある。
【0009】
尚、送電線鉄塔から避雷器を地上に降ろし、試験電圧発生装置を接続して漏洩電流を測定して劣化診断を行うことも考えられるが、避雷器の価格に対して送電線鉄塔から避雷器を地上に降ろすのに要する工費は極めて大きく、必ずしも現実的な方法であるとはいえない。
【0010】
本発明はこれらの課題に鑑みてなされたもので、簡便かつ確実に劣化診断を行うことが可能な避雷器の劣化診断装置、及び劣化診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明のうちの一つは、劣化診断の対象となる避雷器の高圧側に電気的に接続される高圧側端子、前記避雷器の低圧側に電気的に接続される低圧側端子、電源装置から供給される電流に基づき、前記高圧側端子と前記低圧側端子との間に印加される高電圧の直流パルスを生成する、高電圧パルス発生装置、前記直流パルスに対する前記避雷器の応答として前記高圧側端子と前記低圧側端子との間に生じる電圧を測定する、電圧測定部、前記直流パルスに対する前記避雷器の応答として前記高圧側端子と前記低圧側端子との間を流れる電流を測定する、電流測定部、及び、前記電圧測定部により測定される電圧の時間変化、及び前記電流測定部により測定される電流の時間変化を取得し、取得した前記電圧の時間変化及び前記電流の時間変化に基づき前記避雷器の劣化の度合いを判定する制御装置を備えることとする。
【0012】
本発明の劣化診断装置は、電源装置から供給される電流に基づき高電圧の直流パルスを生成し、直流パルスに対する避雷器の応答として取得される、電圧の時間変化及び電流の時間変化に基づき避雷器の劣化の度合いを判定する。このように本発明の劣化診断装置は、連続的な電流を用いず、直流パルスのみによって劣化診断を行うので、電源装置として小型軽量のものを用いることができる。そのため、例えば、送電線鉄塔に設けられている避雷器の近傍に劣化診断装置を持ち込んで避雷器の劣化診断を行うことができ、送電線鉄塔からの避雷器の上げ下ろしなどを行うことなく、簡便かつ確実に避雷器の劣化診断を行うことができる。
【0013】
また本発明の劣化診断装置は、直流パルスに対する避雷器の応答として取得される電圧の時間変化及び電流の時間変化とに基づき避雷器の劣化の度合いを判定するので、外観検査等による場合に比べ、避雷器の劣化の度合いを精確に判定することができる。そのため、劣化が進行して事故につながる可能性のある避雷器の早期発見が可能となり、事故の発生を未然に防ぐことができる。
【0014】
また劣化が進行していない避雷器を不必要に交換する必要がなく、設備投資や交換にかかる工賃等の運用コストを抑えることができる。また所定地域内の避雷器に不良が出始めたことをもって所定地域内の避雷器の全面交換を行うといった柔軟な設備運用も可能になる。
【0015】
本発明のうちの他の一つは、上記劣化診断装置であって、劣化が進行していない避雷器について取得した前記電圧の時間変化と前記電流の時間変化とを記憶する記憶装置を備え、前記制御装置は、劣化診断の対象である避雷器について取得した前記電圧の時間変化及び前記電流の時間変化との比率と、前記記憶装置が記憶している劣化が進行していない避雷器の前記電圧の時間変化と前記電流の時間変化の比率とを比較することにより、劣化診断の対象である避雷器の劣化の度合いを判定することとする。
【0016】
本発明によれば、直流パルスに対する避雷器の応答として取得される電圧の時間変化及び電流の時間変化との比率から把握される、避雷器の抵抗成分に基づき避雷器の劣化の度合いを判定するので、外観検査等による場合に比べて避雷器の劣化の度合いを精確に判定することができる。そのため、劣化が進行し事故につながるような避雷器を早期に発見することができ、事故の発生を未然に防ぐことができる。
【0017】
本発明のうちの他の一つは、上記劣化診断装置であって、前記高電圧パルス発生装置は、前記低電圧電源から供給される電流が通電される一次側コイル、及び前記一次側コイルと電磁的に結合される二次側コイルを有する昇圧器を備えることとする。
【0018】
高電圧パルス発生装置は、このように低電圧電源から供給される電流が通電される一次側コイルと一次側コイルと電磁的に結合される二次側コイルを有する昇圧器を用いて容易に構成することができる。
【0019】
本発明のうちの他の一つは、上記劣化診断装置であって、前記高電圧パルス発生装置による前記直流パルスの印加、及び前記制御装置による前記判定の実行を指示するための入力装置と、前記判定の結果を表示する表示装置とを備えることとする。
【0020】
このような入力装置及び表示装置を劣化診断装置に設けることで、試験員等が劣化診断装置を避雷器の設置現場に持ち込んで診断を行う際は劣化診断装置を容易に操作することができる。
【0021】
本発明のうちの他の一つは、上記劣化診断装置であって、前記電源装置は、可搬型の一次電池又は可搬型の二次蓄電池であることとする。
【0022】
高電圧の直流パルスを発生する高電圧パルス発生装置に電流を供給する電源装置としては、このように可搬型の一次電池又は可搬型の二次蓄電池等の低電圧かつ小型のものを用いることができる。そのため、可搬性に優れた劣化診断装置を実現することができる。
【0023】
その他、本願が開示する課題、及びその解決方法は、発明を実施するための形態の欄、及び図面により明らかにされる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、簡便かつ確実に劣化診断を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】劣化診断装置1の構成を説明する図である。
【図2】高電圧直流パルス発生装置2の詳細を示す図である。
【図3】避雷器32の劣化診断を行っている様子を示す図である。
【図4】劣化診断処理S400を説明するフローチャートである。
【図5】発生電圧の時間変化、直流電流の時間変化、及び漏洩電流の時間変化を示す図である。
【図6】正常な(劣化が進行していない)避雷器32について劣化診断処理S400を実施した場合の発生電圧及び漏洩電流の時間変化を示す図である。
【図7】劣化が進行したについて劣化診断処理S400を実施した場合の発生電圧及び漏洩電流の時間変化を示す図である。
【図8】避雷器32の電気的な特性を示す等価回路である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の一実施形態につき詳細に説明する。
【0027】
図1に本発明の一実施形態として説明する、避雷器の劣化診断装置(以下、劣化診断装置1と称する。)の構成を示している。同図に示すように、劣化診断装置1は、高電圧直流パルス発生装置2、制御装置3、直流電流供給装置4、A/Dコンバータ(以下、ADC5(電圧測定部)と称する。)、記憶装置6、入力装置7、表示装置8、電源装置9、高圧側端子11、及び接地端子12(低圧側端子)等を備える。
【0028】
図2に高電圧直流パルス発生装置2の詳細(図1の拡大図)を示している。同図に示すように、高電圧直流パルス発生装置2は、一次側コイル211、一次側コイル211と電磁的に結合された二次側コイル212、並びに一次側コイル211と二次側コイル212との間に介在される鉄芯等の磁性材料からなるコア材213を有する昇圧器21(変圧器)、二次側コイル212の端子間に接続され二次側コイル212に発生する電圧を制限し後述する発生電圧の測定に際して二次側コイル212の電圧を分圧する分圧抵抗22、及び一次側コイル211の接地端子12側の端子と二次側コイル212の接地端子12側の端子との間に接続される計器用直流変流器(以下、DCT23(電流測定部)と称する。)を備える。
【0029】
昇圧器21は、一次側コイル211に印加される低電圧(例えば数V〜数10V程度)の急変に基づき二次側コイル212に数万V〜数十万Vの高電圧の直流パルスを生じさせる。この昇圧器21としては、例えば、自動車のエンジンに用いられるイグニッションコイルを用いることができる。
【0030】
図1に示す制御装置3は、直流電流供給装置4が高電圧直流パルス発生装置2に供給する電流の制御、ADC5から供給される計測値(後述する発生電圧、及び漏洩電流)に基づく避雷器の劣化診断に関する処理などを行う。制御装置3は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等を用いて構成される。
【0031】
直流電流供給装置4は、制御装置3の指示に応じて高電圧直流パルス発生装置2の昇圧器21の一次側コイル211に直流電流を供給する。直流電流供給装置4は、例えば、指定された定電流を供給する定電流回路(定電流源)を用いて構成される。
【0032】
ADC5は、分圧抵抗22のタップ221と接地端子12との間に印加される電圧値(以下、発生電圧と称する。)をデジタル値に変換して制御装置3に入力する。またADC5は、DCT23によって検出された電流(以下、漏洩電流と称する。)をデジタル値に変換して制御装置3に入力する。尚、発生電圧は、計器用変圧器(VT(Voltage Transformer))によって測定するようにしてもよい。
【0033】
記憶装置6は、揮発性又は不揮発性の半導体素子、磁気光学素子等を用いて構成される。記憶装置6には、制御装置3によって利用(実行)されるプログラムやデータが格納される。
【0034】
入力装置7は、ユーザの操作入力を受け付けるユーザインタフェースであり、操作ボタン、タッチパネル、キーボード等である。入力装置7は、図示しないI/Oデバイス等を介して制御装置3に接続している。
【0035】
表示装置8は、ユーザに視覚的な情報を提供するユーザインタフェースであり、例えば、液晶パネルや有機ELパネル等である。表示装置8は、図示しないI/Oデバイス等を介して制御装置3に接続している。
【0036】
電源装置9は、例えば、可搬型の一次電池又は可搬型の(軽量な)二次電池であり、直流電流供給装置4に直流の電力を供給する。また電源装置9は、制御装置3、ADC5、記憶装置6等の劣化診断装置1が備えるハードウエアに駆動電力を供給する。電源装置9は、例えば、リチウムイオン系、リチウムポリマー系、ニッケルカドミウム系、及びニッケル水素系の電池(一次電池又は二次電池)、鉛蓄電池等である。
【0037】
高圧側端子11は、昇圧器21の二次側コイル212の高圧側の端子に接続している。高圧側端子11の近傍には、絶縁用の高圧ポリマーブッシング10が設けられている。接地端子12は、昇圧器21の一次側コイル211の低圧側の端子、二次側コイル212の低圧側の端子、及びADC5の接地側端子に電気的に接続されている。
【0038】
次に、以上に説明した構成からなる劣化診断装置1を用いた診断方法について説明する。
【0039】
図3に劣化診断装置1を用い、高圧送電線30が架設された送電線鉄塔31の所定位置に設けられた避雷器32の劣化診断を行っている様子を示している。
【0040】
同図に示すように、避雷器32の劣化診断に際しては、試験員40が避雷器32の取り付け位置の近傍に劣化診断装置1を持ち込み、劣化診断装置1の高圧側端子11を避雷器32の高圧側の端子321(例えば避雷碍子の放電ギャップ部)に接続し、劣化診断装置1の接地端子12を避雷器32の低圧側の端子322(例えば避雷碍子の送電線鉄塔31の接続部)に接続する。
【0041】
尚、これら端子間の接続は、例えば、プローブを備えたレントゲンケーブル等のケーブル33,34を用いて行う。また劣化診断に際しては、避雷器32の高圧側の端子32と試験員40との間に安全な距離が確保されるようにして行う。
【0042】
端子間の接続が完了すると、次に試験員40は劣化診断装置1の入力装置7を操作して、劣化診断装置1の劣化診断機能に関する処理(以下、劣化診断処理S400と称する。)を起動する。
【0043】
図4は劣化診断処理S400を説明するフローチャートである。以下、同図とともに劣化診断処理S400について説明する。
【0044】
同図に示すように、劣化診断装置1の制御装置3は、入力装置7に対して劣化診断の開始操作が行われたか否かをリアルタイムに監視している(S411)。
【0045】
上記開始操作が行われたことを検知すると(S411:YES)、制御装置3は、ADC5から入力される計測値のリアルタイムな取得及び取得した計測値の記録装置6への記録を開始する(S412)。また制御装置3は、直流電流供給装置4を制御し、高電圧直流パルス発生装置2の一次側コイル211への直流電流の供給を開始する(S413)。
【0046】
試験電流の供給開始後、制御装置3は、試験電流の電流値が安定するまで(電流値が一定値に落ち着くまで)所定時間(通常は数秒程度)待機する(S414)。そして所定時間が経過すると(S414:YES)、制御装置3は一次側コイル211の通電を急停止させる(S415)。
【0047】
その後、制御装置3は所定時間(通常は数秒程度)待機し(S416)、所定時間が経過すると(S416:YES)、計測値の取得及び記憶を停止する(S417)。
【0048】
続いて制御装置3は、取得した計測値に基づき劣化診断を行い(S418)、診断結果を表示装置8に表示する(S419)。
【0049】
図5に劣化診断処理S400を実施した際に分圧抵抗22の分圧境界から引き出されたタップ221と接地端子12との間に印加される電圧(発生電圧)の時間変化、高電圧直流パルス発生装置2の一次側コイル211への直流電流の時間変化、及びDCT23によって検出される電流(漏洩電流)の時間変化を示している。
【0050】
同図に示すように、一次側コイル211への通電を開始(S412)した後(以下、通電を開始した時刻をT1と称する。)、一次側コイル211を流れる直流電流は徐々に増加し、予め設定された電流値(以下、試験電流と称する。)に達したところで直流電流は安定する(以下、この時刻をT2とする。)。
【0051】
尚、T1からT2までの間は一次側コイル211を流れる電流値が変化するため、相互誘導によって高電圧直流パルス発生装置2の二次側コイル212に電圧が生じる。またT1からT2までの間は分圧抵抗22には殆ど電流が流れず、二次側コイル212を流れる電流は殆ど検出されない。また時刻T2にて直流電流が安定する際は、一次側コイル211を流れる直流電流値の時間変化率が変わるため、逆方向(+方向)に若干の電圧が検出されている。
【0052】
図4に戻り、一次側コイル211への直流電流の通電が急停止されると(S415)(以下、この時刻をT3とする。)、一次側コイル211を流れる電流値が急激に減少し、相互誘導により一次側コイル212に高電圧が発生する(以下、このときに発生する高電圧の最大値を試験電圧と称する。)。そしてこの高電圧によって避雷器32に電流が流れ、この電流(漏洩電流)がDCT23によって検出される。
【0053】
図6に、正常な(劣化が進行していない)避雷器32について劣化診断処理S400を実施した場合における、発生電圧及び漏洩電流の時間変化を示している。また図7に、劣化が進行した避雷器32について劣化診断処理S400を実施した場合における、発生電圧及び漏洩電流の時間変化(実線)を示している。尚、比較のため、図6に示した発生電圧及び漏洩電流の時間変化についても図7に破線で示している。
【0054】
ここで避雷器32の電気的な特性が、図8に示すような、抵抗成分Rと容量成分Cとを並列接続した等価回路によって近似されるとすれば、図6及び図7における発生電圧及び漏洩電流の時間変化は、次のように理解できる。
【0055】
即ち、まず時刻T3において避雷器32に試験電圧が印加されると避雷器32の容量成分Cに電荷が蓄積され、所定時間(T4−T3)が経過すると容量成分Cには殆ど電流は流れず、電流は抵抗成分Rのみを流れ、電圧と電流の比率k1=v1/i1は一定となる。
【0056】
また図7の場合は、図6と同様、所定時間(T4−T3)が経過すると容量成分Cには電流が殆ど流れず、電流は抵抗成分Rのみを流れて電圧と電流の比率k2=v2/i2は一定となる。
【0057】
しかし図7では、避雷器32の劣化の進行によって抵抗成分Rが減少しているため、正常な避雷器32に比べて電圧と電流の比率k2が小さくなる。つまりこのように劣化の度合いに応じて比率k2の値が変化するので、正常な(劣化が進行していない)避雷器32について劣化診断処理S400の結果(発生電圧及び漏洩電流の時間変化)として求められる比率k1と、診断対象となる避雷器32の劣化診断処理S400の結果として求められる比率k2とを比較することで、避雷器32の劣化の度合い(良否判断)を診断することができる。
【0058】
尚、記憶装置6に過去の避雷器32について行った劣化診断処理S400の結果をデータベースとして蓄積しておき、蓄積しておいた結果と診断対象の避雷器32の劣化診断処理S400の結果とを比較することで、過去の診断結果に基づき診断対象の避雷器32の劣化の度合いを推定することもできる。
【0059】
昇圧器21の二次側コイル212に発生する電圧値は、一次側コイル211に通電する電流値を制御することにより可変することができる。そのため、一次側コイル211に通電する電流値を適切に制御することで、本実施形態の劣化診断装置1は様々な電圧階級の避雷器32の劣化診断に柔軟に適用することができる。
【0060】
以上に説明したように、本実施形態の劣化診断装置1は、電源装置9から供給される電流に基づき高電圧の直流パルスを生成し、直流パルスに対する避雷器32の応答として取得される、電圧の時間変化及び電流の時間変化に基づき避雷器32の劣化の度合いを判定する。このように、本実施形態の劣化診断装置1は、連続的な電流を用いず、直流パルスのみによって劣化診断を行うので、電源装置9として、可搬型の一次電池や可搬型の二次電池等の小型軽量のものを用いることができる。そのため、例えば、送電線鉄塔31に設けられている避雷器32の近傍に劣化診断装置1を持ち込んで避雷器32の劣化診断を行うことが可能となり、送電線鉄塔31からの避雷器32の上げ下ろしなどを行うことなく、簡便かつ確実に避雷器32の劣化診断を行うことができる。
【0061】
また本実施形態の劣化診断装置1は、直流パルスに対する避雷器32の応答として取得される電圧の時間変化及び電流の時間変化とに基づき避雷器32の劣化の度合いを判定するので、外観検査等による場合に比べて避雷器32の劣化の度合いを精確に判定することができる。従って、例えば劣化が進行し事故につながるような避雷器32の早期発見が可能となり、線路事故等の発生を未然に防ぐことができる。
【0062】
また劣化が進行していない避雷器を不必要に交換する必要がなくなり、設備投資や交換にかかる工賃等の運用コストを抑えることができる。また所定地域内の避雷器に不良が出始めたことをもって所定地域内の避雷器の全面交換を行うといった柔軟な設備運用も可能となる。
【0063】
また本実施形態の劣化診断装置1は、直流パルスに対する避雷器32の応答として取得される電圧の時間変化及び電流の時間変化との比率から把握される、避雷器32の抵抗成分Rに基づき避雷器32の劣化の度合いを判定するので、外観検査等による場合に比べて避雷器32の劣化の度合いを精確に判定することができる。
【0064】
また前述したように、高電圧パルス発生装置2は、例えば、電源装置9から供給される電流が通電される一次側コイル211、及び一次側コイル211と電磁的に結合される二次側コイル212を有する昇圧器21を用いて容易に構成することができる。また昇圧器21として自動車のイグニッションコイル等を用いることで、小型軽量かつ安価な高電圧パルス発生装置を容易に実現することができる。
【0065】
さらに劣化診断装置1に入力装置7や表示装置8を設けることで、試験員40等が劣化診断装置1を避雷器32の設置現場に持ち込んで診断を行う際は、試験員40等が劣化診断装置1を容易に操作することができる。
【0066】
尚、以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。
【0067】
例えば、前述した昇圧器21に代えて、コッククロフトウォルトン回路(CW回路(CW:Cockroft Walton))などの他の種類の高電圧発生装置を用いて高電圧を発生させるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 劣化診断装置
2 高電圧直流パルス発生装置
21 昇圧器
211 一次側コイル
212 二次側コイル
213 コア材
22 分圧抵抗
23 DCT
3 制御装置
4 直流電流供給装置
5 ADC
6 記憶装置
7 入力装置
8 表示装置
9 電源装置
10 高圧ポリマーブッシング
11 高圧側端子
12 接地端子
31 送電線鉄塔
40 試験員

【特許請求の範囲】
【請求項1】
劣化診断の対象となる避雷器の高圧側に電気的に接続される高圧側端子、
前記避雷器の低圧側に電気的に接続される低圧側端子、
電源装置から供給される電流に基づき、前記高圧側端子と前記低圧側端子との間に印加される高電圧の直流パルスを生成する、高電圧パルス発生装置、
前記直流パルスに対する前記避雷器の応答として前記高圧側端子と前記低圧側端子との間に生じる電圧を測定する、電圧測定部、
前記直流パルスに対する前記避雷器の応答として前記高圧側端子と前記低圧側端子との間を流れる電流を測定する、電流測定部、及び、
前記電圧測定部により測定される電圧の時間変化、及び前記電流測定部により測定される電流の時間変化を取得し、取得した前記電圧の時間変化及び前記電流の時間変化に基づき前記避雷器の劣化の度合いを判定する、制御装置
を備えることを特徴とする避雷器の劣化診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載の避雷器の劣化診断装置であって、
劣化が進行していない避雷器について取得した前記電圧の時間変化と前記電流の時間変化とを記憶する記憶装置を備え、
前記制御装置は、劣化診断の対象である避雷器について取得した前記電圧の時間変化及び前記電流の時間変化との比率と、前記記憶装置が記憶している劣化が進行していない避雷器の前記電圧の時間変化と前記電流の時間変化の比率とを比較することにより、劣化診断の対象である避雷器の劣化の度合いを判定する
ことを特徴とする避雷器の劣化診断装置。
【請求項3】
請求項1に記載の避雷器の劣化診断装置であって、
前記高電圧パルス発生装置は、前記低電圧電源から供給される電流が通電される一次側コイル、及び前記一次側コイルと電磁的に結合される二次側コイルを有する昇圧器を備える
ことを特徴とする避雷器の劣化診断装置。
【請求項4】
請求項1に記載の避雷器の劣化診断装置であって、
前記高電圧パルス発生装置による前記直流パルスの印加、及び前記制御装置による前記判定の実行を指示するための入力装置と、前記判定の結果を表示する表示装置とを備える
ことを特徴とする避雷器の劣化診断装置。
【請求項5】
請求項1に記載の避雷器の劣化診断装置であって、
前記電源装置は、可搬型の一次電池又は可搬型の二次蓄電池である
ことを特徴とする避雷器の劣化診断装置。
【請求項6】
避雷器の劣化診断方法であって、
電源装置から供給される電流に基づき高電圧パルス発生装置に発生させた直流パルスを、劣化診断の対象となる避雷器の高圧側に電気的に接続される高圧側端子と前記避雷器の低圧側に電気的に接続される低圧側端子との間に印加し、
前記直流パルスに対する前記避雷器の応答として前記高圧側端子と前記低圧側端子との間に生じる電圧を測定し、
前記直流パルスに対する前記避雷器の応答として前記高圧側端子と前記低圧側端子との間を流れる電流を測定し、
測定した前記電圧の時間変化、及び測定した前記電流の時間変化に基づき前記避雷器の劣化の度合いを判定する
ことを特徴とする避雷器の劣化診断方法。
【請求項7】
請求項6に記載の避雷器の劣化診断方法であって、
劣化診断の対象である避雷器について取得した前記電圧の時間変化及び前記電流の時間変化との比率と、劣化が進行していない避雷器の前記電圧の時間変化と前記電流の時間変化の比率とを比較することにより、劣化診断の対象である避雷器の劣化の度合いを判定する
ことを特徴とする避雷器の劣化診断方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−93191(P2012−93191A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−240027(P2010−240027)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】