説明

還元剤供給装置およびその制御方法

【課題】
尿素水溶液の固化に起因した還元剤噴射弁の詰まりを未然に防止する。
【解決手段】
内燃機関において生成した排気ガス中のNOXを還元する還元剤としての尿素水溶液を圧送するための圧送ポンプと、圧送ポンプによって圧送される尿素水溶液を供給するための還元剤供給通路と、還元剤供給通路によって供給された尿素水溶液を排気ガス中に噴射するための還元剤噴射弁と、を備えた還元剤供給装置等であって、内燃機関の停止後において、圧送ポンプが、還元剤供給通路および還元剤噴射弁に対し、さらに尿素水溶液を充填した後、吸引して回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、還元剤供給装置およびその制御方法に関する。特に、内燃機関の停止後において、還元剤噴射弁内に還元剤が残留した場合であっても、還元剤噴射弁内において還元剤が固化することを効果的に抑制でき、ひいては、還元剤噴射弁の目詰まりを効果的に抑制できる還元剤供給装置およびその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両に搭載される内燃機関の排気ガス中には、窒素酸化物(以下、「NOX」と称する。)や微粒子状物質(以下、「PM」と称する。)が含まれている。
このうち、NOXを還元して排気ガスを浄化するための装置として尿素SCRシステムがある。尿素SCRシステムは、圧送ポンプによって貯蔵タンク内から汲み上げた還元剤としての尿素水溶液を還元剤噴射弁から排気管内に供給するための還元剤供給装置と、アンモニアを吸着可能な排気浄化触媒の一種であるSCR触媒とを備えて構成される。かかる尿素SCRシステムでは、尿素水溶液の分解により生成されるアンモニアをSCR触媒に吸着させ、排気ガス中のNOXをSCR触媒中でアンモニアと反応させて、排気ガスを浄化する。
【0003】
一方、PMを捕集して排気ガスを浄化するための装置としてディーゼルパティキュレートフィルタ(以下、「DPF」と称する。)がある。DPFは、内燃機関の排気管に配設され、排気ガスが当該DPFを通過する際に排気ガス中のPMを捕集する。DPFを備えた排気浄化システムでは、DPFの目詰まりを防止するために、DPFの温度を500℃〜600℃程度に上昇させてDPFに堆積したPMを強制的に燃焼させる強制再生制御が適時に行われる。
近年、排気ガスの浄化基準が高められていることに伴い、DPF及びSCR触媒の両方を備えた排気浄化システムが増えてきている。
【0004】
ところで、尿素SCRシステムにおいては、内燃機関が停止した際に還元剤供給経路に残存する尿素水溶液を回収するよう一般的に構成されている(例えば、特許文献1を参照)。これにより、尿素水溶液が還元剤供給経路に存在したまま凍結し、還元剤供給経路に詰まりが生じるのを避けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−215891号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された排気浄化システムでは、内燃機関の停止後に還元剤噴射弁内の尿素水溶液が温められ、その後に冷却する過程で尿素水溶液が固化してしまい、その結果、内燃機関の始動時に、尿素水溶液の供給が阻害され、排気浄化効率が低下してしまうという問題があった。
【0007】
具体的に説明すると、排気浄化システムでは、内燃機関の停止時に、還元剤供給装置に充填されていた尿素水溶液を貯蔵タンクに回収するパージ処理が一般に行われるものの、貯蔵タンク及び還元剤噴射弁を接続する還元剤通路等の構造上、還元剤供給装置内に充填された尿素水溶液を完全に貯蔵タンクに回収し切れない場合がある。
一方、内燃機関の停止とともに還元剤噴射弁の放熱機能である冷却水の循環等は停止するため、還元剤噴射弁の温度は上昇する。そうすると、上述の還元剤噴射弁内に残留した尿素水溶液中の水分が気化により抜けていき、その濃度は上昇する。その後、排気管や周囲の温度が下がるにつれて、尿素水溶液の温度は下がるが、通常の濃度に比べ高い濃度となっているため、固化する温度も上がり、残留尿素水溶液が固化してしまい還元剤噴射弁に詰まりが発生してしまうおそれがある。
尿素水溶液の濃度は通常およそ32.5%に調整されており、この場合尿素水溶液の固化する温度はおよそ−11℃である。その濃度が当該パーセンテージを超えて高くなると、尿素水溶液の固化する温度は高くなる傾向にある。(図8参照)したがって高温により水分が抜けて濃度が高くなった還元剤噴射弁内の残留尿素水溶液は、温度が下がった時に固化しやすく、内燃機関の再始動時において当該還元剤噴射弁の噴射が阻害される可能性がある。
【0008】
そこで、本発明の発明者はこのような問題に鑑みて、尿素水溶液が内燃機関の停止後に固化しないよう、内燃機関の停止後において、圧送ポンプが、還元剤供給通路および還元剤噴射弁に対し、さらに尿素水溶液を充填した後、吸引して回収することにより、このような問題を解決できることを見出し、本発明を完成させたものである。
すなわち、本発明は、尿素水溶液の固化を未然に防止でき、ひいては、還元剤噴射弁の目詰まりを効果的に抑制できる還元剤供給装置およびその制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、内燃機関において生成した排気ガス中のNOXを還元する還元剤としての尿素水溶液を圧送するための圧送ポンプと、圧送ポンプによって圧送される尿素水溶液を供給するための還元剤供給通路と、還元剤供給通路によって供給された尿素水溶液を排気ガス中に噴射するための還元剤噴射弁と、を備えた還元剤供給装置であって、内燃機関の停止後において、圧送ポンプが、還元剤供給通路および前記還元剤噴射弁に対し、さらに尿素水溶液を充填した後、吸引して回収することを特徴とする還元剤供給装置が提供され、上述した課題を解決することができる。
【0010】
このように、内燃機関の停止後に還元剤供給通路および還元剤噴射弁に対し、さらに尿素水溶液を充填し、吸引して回収することにより、還元剤噴射弁の熱を効果的に回収できる。したがって、還元剤噴射弁内に残留した尿素水溶液が高温になるのを避けることができるので、尿素水溶液の固化を未然に防止でき、ひいては、還元剤噴射弁の目詰まりを効果的に抑制できる。
【0011】
また、本発明を構成するに当たり、内燃機関の停止後において、還元剤噴射弁内の尿素水溶液が固化するおそれがある場合に、圧送ポンプが、還元剤供給通路および還元剤噴射弁に対し、さらに尿素水溶液を充填した後、吸引して回収することが好ましい。
これにより、固化するおそれがあるときのみ当該充填、回収の操作を行うことができ、エネルギーの節約となる。
【0012】
また、本発明を構成するに当たり、還元剤噴射弁が排気ガス中の排気微粒子を捕集するDPFの排気下流側に配置されている還元剤供給装置であって、
尿素水溶液が固化するおそれがある場合とは、DPFの強制再生が開始後終了するまでの間、または当該終了後所定期間内に内燃機関が停止した場合とすることが好ましい。
このように、DPFの強制再生中およびその終了後の所定期間は、DPFの下流にある還元剤噴射弁は高温にさらされ、内燃機関停止後においては、その冷却機能が有効に働かず、固化する可能性が高いと判断できる。したがって、本判断基準の採用により、尿素水溶液の固化を確実に回避できる。
【0013】
また、本発明を構成するに当たり、尿素水溶液が固化するおそれがある場合とは、還元剤噴射弁の温度が閾値より高い場合、または還元剤噴射弁の温度が閾値より高くなると予想される場合とすることが好ましい。
還元剤噴射弁内の尿素水溶液が固化するか否かは、還元剤噴射弁の温度に依存するので、還元剤噴射弁の温度に基づいて判断することにより、尿素水溶液の固化を確実に回避できる。
【0014】
また、本発明を構成するに当たり、尿素水溶液を充填した後、吸引して回収する操作を複数回繰り返すことが好ましい。
複数回繰り返すことにより、還元剤噴射弁の熱をさらに確実に奪い、尿素水溶液の固化を回避できる。
【0015】
また、本発明の別の態様は、内燃機関において生成した排気ガス中のNOXを還元する還元剤としての尿素水溶液を圧送するための圧送ポンプと、圧送ポンプによって圧送される前記尿素水溶液を供給するための還元剤供給通路と、還元剤供給通路によって供給された尿素水溶液を前記排気ガス中に噴射するための還元剤噴射弁と、を備えた還元剤噴射方法であって、内燃機関の停止後において、圧送ポンプにより、還元剤供給通路および還元剤噴射弁に対し、さらに尿素水溶液を充填した後、吸引して回収する工程を有することを特徴とする還元剤供給装置の制御方法である。
このように、内燃機関の停止後に還元剤供給通路および還元剤噴射弁に対し、さらに尿素水溶液を充填し、吸引して回収することにより、還元剤噴射弁の熱を効果的に回収できる。したがって、還元剤噴射弁内に残留した尿素水溶液が高温になるのを避けることができるので、尿素水溶液の固化を未然に防止でき、ひいては、還元剤噴射弁の目詰まりを効果的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態に係る排気浄化システムの構成例を示す全体図である。
【図2】排気浄化システムの制御方法について説明するためのタイミングチャートである。
【図3】排気浄化システムの制御方法について説明するためのフローチャートである。
【図4】排気浄化システムの制御方法について説明するためのフローチャートである。
【図5】排気浄化システムの制御方法について説明するためのフローチャートである。
【図6】排気浄化システムの制御方法について説明するためのフローチャートである。
【図7】排気浄化システムの制御方法について説明するためのタイミングチャートである。
【図8】尿素水溶液の濃度と固化温度T0の関係を表したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明にかかる還元剤供給装置およびその制御方法に関する実施形態について、具体的に説明する。
ただし、以下の実施形態は、本発明の一態様を示すものであってこの発明を限定するものではなく、本発明の範囲内で任意に変更することができる。
なお、各図において同符号を付してあるものは同一の部材ないし部分を示しており、適宜説明が省略されている。
【0018】
1.排気浄化システム
(1)全体構成
図1は、本実施形態にかかる還元剤供給装置40を含む排気浄化システム(以下、単に「システム」と称する場合がある。)10の全体構成を示している。
このシステム10は、DPF22及びSCR触媒24を有する排気浄化ユニット20と、還元剤噴射弁43を含む還元剤供給装置40と、DPF22の強制再生制御や還元剤供給装置40の動作制御を行う制御装置60とを主たる要素として備えている。
かかるシステム10は、排気ガス中のPMをDPF22によって捕集し、かつ、還元剤としての尿素水溶液を用いて排気ガス中のNOXをSCR触媒24中で選択的に浄化するための装置として構成されたものである。
【0019】
(2)排気浄化ユニット
排気浄化ユニット20は、酸化触媒21と、DPF22と、SCR触媒24とを排気上流側から順次に備えている。
この排気浄化ユニット20の構成要素のうち、酸化触媒21は、内燃機関5でのポスト噴射等によって排気管11内に供給された未燃燃料を酸化し、酸化熱を発生させる。これにより、DPF22に流入する排気ガスを昇温させてDPF22を加熱することができる。酸化触媒21は、公知のもの、例えば、アルミナに白金を担持させたものに所定量のセリウム等の希土類元素を添加したものを用いることができる。
【0020】
また、DPF22は、排気ガスがDPF22を通過する際に排気ガス中のPMを捕集する。図1に示すシステム10では、DPF22がSCR触媒24よりも排気上流側に配設されており、PMがSCR触媒24に付着するおそれがない。DPF22は、公知のもの、例えば、セラミック材料から構成されたハニカム構造のフィルタを用いることができる。
【0021】
また、SCR触媒24は、還元剤噴射弁43によって排気ガス中に噴射される尿素水溶液の分解により生成されるアンモニアを吸着し、流入する排気ガス中のNOXを還元する。SCR触媒24は、例えば、アンモニアの吸着機能を有し、かつ、NOXを選択的に還元可能なゼオライト系の還元触媒が用いることができる。
【0022】
以上説明した排気浄化ユニット20は、DPF22の前後にそれぞれ圧力センサ51、52を備え、SCR触媒24の前後にそれぞれ温度センサ53、54を備えている。また、SCR触媒24の排気下流側にはNOXセンサ55を備えている。さらに、排気浄化ユニットの周囲には外気温度を検出する外気温度センサが配置されている。
これらセンサのセンサ値は制御装置60に送られて、それぞれの位置での圧力や温度、NOX濃度が検出される。
なお、演算によって推定可能であるならば、これらセンサは省略可能である。例えば、還元剤噴射弁43の温度Tudvを計測するためには、還元剤噴射弁に温度センサを装着しても良いが、近傍に配置された温度センサ等から推定することとしてもよい。
【0023】
また、以上説明した排気浄化ユニット20は、排気管11の第1屈曲部23aから分岐して、還元剤噴射弁43を固定するための接続管12を備えている。この接続管12を介して、排気ガスの流れ方向と略一致する方向に、還元剤噴射弁43から尿素水溶液が噴射される。
したがって、排気管11に還元剤噴射弁43を直接固定する場合と比較して、排気管11や排気ガス等から還元剤噴射弁43への熱を伝わり難くすることができる。
【0024】
(3)強制再生手段
ここで、本実施形態のシステム10は、DPF22の強制再生制御を行うための強制再生手段を備える。DPF22を500℃〜600℃程度に昇温させ、DPF22に堆積したPMを強制的に燃焼させるためである。
本実施形態では、内燃機関5でのポスト噴射等によって排気管11内に未燃燃料を供給する燃料噴射弁(図示せず)と、燃料噴射弁からの燃料噴射量や噴射タイミング等、燃料噴射弁の制御を指示するための制御装置60の制御部と、未燃燃料を酸化して酸化熱を発生させる酸化触媒21とが、強制再生手段を構成する。
【0025】
なお、強制再生手段は上記例に限られず、排気ガスを500℃〜600℃程度に昇温させることができるものであればよい。例えば、ポスト噴射に拠らずに酸化触媒21に未燃燃料を供給する装置を利用して強制再生手段を構成してもよい。また、バーナや電熱線等の加熱装置を備え、直接DPF22を加熱するようにしてもよい。
【0026】
(4)還元剤供給装置
また、還元剤供給装置40は、尿素水溶液を貯蔵する貯蔵タンク41と、圧送ポンプ42と、還元剤噴射弁43とを主たる要素として備えている。
このうち、貯蔵タンク41及び圧送ポンプ42が第1の還元剤供給通路44によって接続され、圧送ポンプ42及び還元剤噴射弁43が第2の還元剤供給通路45によって接続されている。この第2の還元剤供給通路45には圧力センサ56が設けられており、センサ値が制御装置60に送信され、第2の還元剤供給通路45内の圧力が検出される。
また、第2の供給通路45及び貯蔵タンク41が第3の還元剤供給通路46によって接続されており、これにより、第2の還元剤供給経路45に供給された余剰の尿素水溶液を、貯蔵タンク41に戻すことができる。
【0027】
また、この還元剤供給装置40は、尿素水溶液の流路を、貯蔵タンク41から還元剤噴射弁43へ向かう順方向から、還元剤噴射弁43から貯蔵タンク41へ向かう逆方向に切り換える機能を持ったリバーティングバルブ47を備えている。
【0028】
(4)−1 圧送ポンプ
この還元剤供給装置40の構成要素のうち、圧送ポンプ42は、内燃機関5の駆動時においては、第2の還元剤供給経路45内の圧力が所定値で維持されるように、貯蔵タンク41内の尿素水溶液を汲み上げて還元剤噴射弁43に圧送する。
一方内燃機関5の停止時においては、圧送ポンプ42は、第1の還元剤供給経路に残存する尿素水溶液を回収するよう作動する(以下パージ処理という)。
当該パージ処理を終了した後、圧送ポンプ42は、第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43に対し、尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収するように機能する。この尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収する操作回数は1回のみと限るものではなく、複数回繰り返してもよい。その回数は実機による試験等によって前もって所定回数を定めてもよいし、還元剤噴射弁43の温度等をフィードバックすることにより、その都度決めても良い。
この尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に回収する操作により、相対的に温度の低い尿素水溶液により、還元剤噴射弁43の熱を奪い、冷却をすることができる。
これらパージ処理開始時や、尿素水溶液の充填開始時や、吸引開始時に必要な尿素水溶液の流路切り換えはリバーティングバルブ47によりなされる。
圧送ポンプ42は代表的には電動式ポンプが用いられる。
【0029】
(4)−2 還元剤噴射弁
また、還元剤噴射弁43は、内燃機関5の駆動時においては、制御装置60から出力される制御信号によって還元剤噴射弁43が開かれたときに、尿素水溶液を排気管11中に噴射する。還元剤噴射弁43としては、例えばDUTY制御によって開弁のON−OFFが制御されるON−OFF弁が用いられる。
一方、内燃機関5の停止時において、還元剤噴射弁43は、パージ処理や、その後尿素水溶液を第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43に対して充填および回収するために、適宜、開状態もしくは閉状態をとる。
すなわち、尿素水溶液を第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43に対して充填するときには、還元剤噴射弁43を開状態として、第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43の内部に存在する気体を外部に排出させて、還元剤噴射弁43まで充填させる。また、充填が完了したときには、尿素水溶液が排気管11に排出しないよう還元剤噴射弁43を閉状態とする。この際、還元剤噴射弁43の熱を十分尿素水溶液が吸収するよう還元剤噴射弁43を所定時間閉状態としてもよい。次に充填した尿素水溶液回収するために再び還元剤噴射弁43を開状態とする。回収が完了した後、還元剤噴射弁43は閉状態とされる。
【0030】
このような還元剤噴射弁43を構成する電子部分や樹脂部分等は比較的熱に弱く、その耐熱温度Tlimは140℃〜150℃程度である一方、通常運転時における排気ガス温度は、200℃〜300℃程度である。
そのため、この還元剤供給装置40は、還元剤噴射弁43のハウジングに設けられた冷却水通路35と、内燃機関5の冷却水通路33から分岐して冷却水通路35に連通する冷却水循環通路33・34と、冷却水循環通路33・34を流れる冷却水の流量を調節する冷却水流量制御弁31・32とを備えている。
これにより、内燃機関5の冷却水を還元剤噴射弁43の冷却水通路35に循環させ、還元剤噴射弁43の温度を70℃〜80℃程度に保ち、還元剤噴射弁43の熱損傷を防止することができる。
また、還元剤噴射弁43からの尿素水溶液の噴射に伴って、貯蔵タンク41内の相対的に低温である尿素水溶液が還元剤噴射弁43に圧送されるために、このような尿素水溶液への熱移動によっても、還元剤噴射弁43の放熱が促される。
【0031】
このような、上述の冷却水の循環や、尿素水溶液への熱移動による還元剤噴射弁43の放熱能力は、特に、内燃機関5の運転中において発揮される。
内燃機関5の運転中に冷却水が循環し、また、内燃機関5の運転中に還元剤噴射弁43へ尿素水溶液が圧送されるためである。
【0032】
(5)制御装置
制御装置60は、公知の構成からなるマイクロコンピュータを中心に構成されている。
また、制御装置60は、各圧力センサや各温度センサをはじめとして、機関回転数Neを検出する回転数センサ、車両の車速Vを検出する車速センサ、アクセルペダルの操作量Accを検出するアクセルセンサ、ブレーキペダルの操作量Brkを検出するブレーキセンサ等の各種センサ信号が読込み可能に構成されている。
さらに、制御装置60には、各部での演算結果や検出結果を記憶するための図示しないRAM(Random Access Memory)が備えられている。
【0033】
制御装置60は、内燃機関5の運転中にあっては、第2の供給経路45内の圧力が所定値で維持されるように圧送ポンプ42の駆動を制御するとともに、機関回転数NeやSCR触媒の排気下流側に設けられたNOXセンサ55のセンサ値等に基づいて、還元剤噴射弁43の駆動を制御する。
また、制御装置60は、内燃機関5の停止時にパージ処理の実行を指示する。具体的には、尿素水溶液の流路を順方向から逆方向に切り換えるための信号を、リバーティングバルブ47に対して出力するとともに、還元剤噴射弁43を開弁させて圧送ポンプ42を駆動させるための信号を、圧送ポンプ42及び還元剤噴射弁43に対して出力する。
さらにパージ処理を終了した後、第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43に対し、尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収するようリバーティングバルブ47や圧送ポンプ42及び還元剤噴射弁43に対して出力する。
なお、内燃機関5の停止後においても、制御装置60は本実施形態のシステム10において必要な機能が動作可能なように構成されている。
【0034】
制御装置60は、直接または間接的に、還元剤噴射弁温度Tudvの検出が可能なように構成されている。すなわち、還元剤噴射弁に温度センサが装着されている場合にはそのセンサ信号を読み取り、また還元剤噴射弁には温度センサは無いが、その近傍に温度センサがある場合にはそのセンサ信号を基に還元剤噴射弁温度Tudvを算出するよう構成することができる。さらに、温度センサが近傍に無い場合でも、還元剤噴射弁の上流、下流に配置された温度センサや、内燃機関の燃焼の状況や、DPFの強制再生の状況等から還元剤噴射弁温度Tudvを算出するよう構成することもできる。
【0035】
制御装置60は、DPFの強制再生を制御する機能を有している。DPF22の前後に設けられた圧力センサ51、52から求められる差圧に基づいて、PMの堆積量Vpmを推定する。そして、推定PM堆積量Vpmが所定の閾値Vpm0を超えたときに、DPF22の強制再生が必要であると判定し、強制再生手段に対して、強制再生を実行するための信号を送信する。
【0036】
3.制御方法
以下タイミングチャートとフローチャートを用いて本制御装置によって実行可能な制御方法の具体例について説明する。
【0037】
図2、図7は、DPF22の強制再生中に内燃機関の停止を検知した場合について説明するためのタイミングチャートであり、DPF下流排気温度Tdpfや、還元剤噴射弁温度Tudvや還元剤噴射弁43内の尿素水溶液の固化温度T0の変化等を示す。
図3、図4、図5、図6は、内燃機関の停止を検知した後の制御装置60における演算処理のフローチャートを示している。
【0038】
図3は基本的な制御方法の例を示すフローチャートである。まず、ステップS1において、制御装置60が内燃機関の停止を検知すると、ステップS2に進みパージ処理を実施するよう指示を出す。その後、第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43に対し、尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収するよう指示を出し、ステップS4に進み、所定回数を超えたかを確認し、超えていなければ、再びステップS3に戻る。したがって当該充填した後、吸引して回収する操作を所定回数繰り返すことになる。このパージ処理後の操作を行うことにより、高温となった還元剤噴射弁を相対的に温度の低い尿素水溶液で冷却し、尿素水溶液の濃度上昇を抑え、内燃機関停止後の冷却の過程における還元剤噴射弁内の尿素水溶液の固化を未然に防ぐことができる。
【0039】
図2のt1においてDPF22の強制再生が開始するとDPF下流排気温度Tdpfは強制再生による再生熱により上昇する。強制再生が行われない状況下におけるDPF下流排気温度Tdpfは、通常200〜300℃程度であるが、強制再生が開始されると、DPF下流排気温度Tdpfは、は500℃〜600℃程度に達する。
これにともなって還元剤噴射弁温度Tudvも上昇するが、内燃機関5が駆動中においては、還元剤噴射弁43のハウジングの冷却水通路35にエンジン冷却水が循環し、また、貯蔵タンク41内の相対的に低温である尿素水溶液が還元剤噴射弁43に圧送されるので、還元剤噴射弁温度Tudvは一定温度以上がらず、新たな尿素水溶液も供給されるので、濃度の上昇も少なく、還元剤噴射弁43内の尿素水溶液の固化温度T0の変化は少ない。
【0040】
ここで図4のステップS11において、制御装置60が内燃機関の停止を検知すると、ステップS12に進みパージ処理を実施するよう指示を出す。パージ処理が終了すると、ステップS13で還元剤噴射弁内の尿素水溶液に固化のおそれがあるか否かが判定される。
判定方法の具体例については図5及び図6に基づいて後述する。
おそれがない場合には本ルーチンを終了する。またおそれがある場合にはステップS14へ進み、第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43に対し、尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収するよう指示を出す。この操作の後再びステップS13に戻り、固化のおそれがなくなるまでこれが繰り返される。
【0041】
図2に戻り、固化条件成立の判定について詳細に説明する。t2の時点で内燃機関が停止したことを検知すると、パージ処理が実施される、その時点でのその後の各温度変化の推定を図2中に一点鎖線で示す。DPF22排気下流側温度Tdpfが徐々に低下していく一方、内燃機関5の冷却水の循環が停止するため還元剤噴射弁43の放熱能力が有効に発揮されなくなる。そうすると、t2の時点以降、DPF22排気下流側温度Tdpfが高温である中で、還元剤噴射弁温度Tudvは上昇し、新たな尿素水溶液は供給されないので、還元剤噴射弁43内の尿素水溶液の濃度は高くなり、尿素水溶液の固化温度T0も上昇すると推定される。
そして、冷却の過程で、還元剤噴射弁温度Tudvが当該上昇した固化温度T0を下回ると推定される場合には、還元剤噴射弁43内の尿素水溶液は固化のおそれがあると判定される。図2においてはt3の時点で、還元剤噴射弁温度Tudvが固化温度T0を下回り、還元剤噴射弁43内の尿素水溶液が固化し始めると推定される。したがって、還元剤噴射弁43内の尿素水溶液が固化のおそれありとの判定になり(図4のステップS13)、第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43に対し、尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収するよう指示が出される(図4のステップS14)。
【0042】
一方、図7には、尿素水溶液を充填した後吸引して貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収する操作を繰り返した後のt2′の時点において、その後の各温度変化について推定した結果を一点鎖線で示している。これによると、図2と異なり、尿素水溶液の固化温度T0は、還元剤噴射弁温度Tudvを超えることはなく、尿素水溶液の固化のおそれはなくなったと推定される。
したがって、図4のフローチャートにおいては、これ以上当該尿素水溶液の充填、吸引の操作を実施せず(図4のステップS13で NOに進む)本ルーチンを終了する。
【0043】
図5は図4に対して具体的な固化条件成立判定方法の一つを含んだ制御方法の例に関するフローチャートを示す。
ステップS21において、制御装置60が、内燃機関の停止を検知すると、ステップS22に進みパージ処理を実施するよう指示を出す。その後、ステップS23に進み、DPF22の強制再生中または、強制再生後所定期間内か否かが判定される。DPF22の強制再生中または、強制再生後所定期間である場合にはステップS24に進み、第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43に対し、尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収するよう指示を出し、ステップS23に戻る。また、DPF22の強制再生中でも強制再生後所定期間でもない場合には本ルーチンを終了する。したがって、DPF22の強制再生後所定期間がすぎるまで尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収するよう指示が出される。
尚、尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収する操作を、DPF22の強制再生後所定期間がすぎるまでではなく、所定回数を決め、その所定回数繰り返すとしてもよい。
【0044】
さらに図6は図5とは別の具体的な固化条件成立判定方法の一つを含んだ制御方法の例に関するフローチャートを示す。
ステップS31において、制御装置60が内燃機関の停止を検知すると、ステップS32に進みパージ処理を実施するよう指示を出す。その後、ステップS33に進み、還元剤噴射弁温度Tudvが閾値Tsより高いか否かが判定される。還元剤噴射弁温度Tudvが閾値Ts以上の場合にはステップS34に進み、第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43に対し、尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収するよう指示を出し、ステップS33に戻る。還元剤噴射弁温度Tudvが閾値Tsよりも低い場合には、本ルーチンを終了する。したがって、還元剤噴射弁温度Tudvが閾値Tsよりも低くなるまで、当該尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収する指示が出される。
指示が取り消された後は、その時点で当該操作を停止するのではなく、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収した後、当該操作を終了するのが好ましい。
尚、尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収する操作を、還元剤噴射弁温度Tudvが閾値温度Tsよりも低くなるまでではなく、所定回数を決め、その所定回数繰り返すとしてもよい。
ここで、判定に使う還元剤噴射弁温度Tudvは、その時点での温度としてもよいし、その後到達すると推定される温度としてもよい。また、図2、図7に示すような還元剤噴射弁到達最高温度Tudvmaxとしてもよい。
尚、閾値温度Tsはおよそ100℃程度である。
【0045】
本実施形態の排気浄化システム及び排気浄化システムの制御方法によれば、内燃機関の停止を検知したときに、第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43に対し、尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収することにより、尿素水溶液の固化を未然に防ぐことができる。また、内燃機関の停止を検知したときに、その後の冷却の過程で還元剤噴射弁43内の残留尿素水溶液の固化のおそれがあるか否かを判断し、固化のおそれがある間は、第2の還元剤供給通路45および還元剤噴射弁43に対し、尿素水溶液を充填した後、吸引して、貯蔵タンク41内に尿素水溶液を回収することにより、尿素水溶液の固化を未然に防ぐことができる。したがって、尿素水溶液の固化による排気浄化効率の低下を防止することができる。
【符号の説明】
【0046】
5:内燃機関、10:排気浄化システム(システム)、11:排気管、12:接続管、20:排気浄化ユニット、20a・20b:フランジ部、21:酸化触媒、22:ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)、23a・23b:屈曲部、24:SCR触媒、31・32:冷却水循環バルブ、33・34:冷却水循環通路、40:還元剤供給装置、41:貯蔵タンク、42:圧送ポンプ、43:還元剤噴射弁、44:第1の還元剤供給通路、45:第2の還元剤供給通路、46:第3の還元剤供給通路、51・52:圧力センサ、53・54:温度センサ、55:NOXセンサ、56:圧力センサ、60:制御装置、



【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関において生成した排気ガス中のNOXを還元する還元剤としての尿素水溶液を圧送するための圧送ポンプと、
前記圧送ポンプによって圧送される前記尿素水溶液を供給するための還元剤供給通路と、
前記還元剤供給通路によって供給された前記尿素水溶液を前記排気ガス中に噴射するための還元剤噴射弁と、
を備えた還元剤供給装置であって、
前記内燃機関の停止後において、前記圧送ポンプが、前記還元剤供給通路および前記還元剤噴射弁に対し、さらに前記尿素水溶液を充填した後、吸引して回収することを特徴とする還元剤供給装置。
【請求項2】
前記内燃機関の停止後において、前記還元剤噴射弁内の尿素水溶液が固化するおそれがある場合に、前記圧送ポンプが、前記還元剤供給通路および前記還元剤噴射弁に対し、さらに前記尿素水溶液を充填した後、吸引して回収することを特徴とする請求項1に記載の還元剤供給装置。
【請求項3】
前記還元剤噴射弁が前記排気ガス中の排気微粒子を捕集するDPFの排気下流側に配置されている還元剤供給装置であって、
前記尿素水溶液が固化するおそれがある場合とは、前記DPFの強制再生が開始後終了するまでの間、または当該終了後所定期間内に前記内燃機関が停止した場合であることを特徴とする請求項2に記載の還元剤供給装置。
【請求項4】
前記尿素水溶液が固化するおそれがある場合とは、前記還元剤噴射弁の温度が閾値より高い場合、または前記還元剤噴射弁の温度が閾値より高くなると予想される場合であることを特徴とする請求項2に記載の還元剤供給装置。
【請求項5】
前記尿素水溶液を充填した後、吸引して回収する操作を複数回繰り返すことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の還元剤供給装置。
【請求項6】
内燃機関において生成した排気ガス中のNOXを還元する還元剤としての尿素水溶液を圧送するための圧送ポンプと、前記圧送ポンプによって圧送される前記尿素水溶液を供給するための還元剤供給通路と、前記還元剤供給通路によって供給された前記尿素水溶液を前記排気ガス中に噴射するための還元剤噴射弁と、
を備えた還元剤噴射方法であって、
前記内燃機関の停止後において、前記圧送ポンプにより、前記還元剤供給通路および前記還元剤噴射弁に対し、さらに前記尿素水溶液を充填した後、吸引して回収する工程
を有することを特徴とする還元剤供給装置の制御方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−137041(P2012−137041A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290436(P2010−290436)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000003333)ボッシュ株式会社 (510)
【Fターム(参考)】