説明

部分加水分解アセチル化グルコマンナン及びその製造方法

【課題】部分加水分解アセチル化グルコマンナン及びその製造方法を提供する。
【解決手段】アセチル化グルコマンナンを、酸性触媒を含有する水−有機溶媒からなる混合溶媒中で加熱することにより、部分的に加水分解する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、部分加水分解アセチル化グルコマンナン及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新たな用途の開発を可能とする新規素材料の研究開発がなされてきた。中でも糖質素材は、環境に優しく、再生使用が可能であり、また優れた生体適合性を有する等の観点から、いわゆる機能性糖質素材として広く研究が行われるようになってきた(例えば非特許文献1参照)。
【0003】
かかる糖質素材の1つとしての多糖類のうち、特にD−グルコースとD−マンノースを主要糖成分とするグルコマンナンの高純度精製品が開発され(特許文献1参照)、それを用いた新素材研究もいくつかなされ、優れた性質を有することが知られている(特許文献2参照)。
【0004】
従って、環境に優しく、再生使用が可能であり、また優れた生体適合性を有するグルコマンナンを出発材料として、これらの性質を保持しつつ、さらに従来の知見からは全く予想もできない優れた性質を併せ持つ新規素材を作り出すことが強く要望されている。
【特許文献1】特開昭63−185345
【特許文献2】特開2003−147123
【非特許文献1】井上國世 監修、「機能性糖質素材の開発と食品への応用」シーエムシー出版、2005年8月
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、任意の割合で部分加水分解されたアセチル化グルコマンナン及びその製造方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は以上説明した要望に応えるべく鋭意研究した結果、アセチル化グルコマンナンを出発として、任意の割合でアセチル基を加水分解して水酸基とする方法を見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明は、任意の割合で部分的に加水分解されたアセチル化グルコマンナンに関する。また本発明は、アセチル基含有率が、0〜100モル%の任意の程度部分加水分解されたアセチル化グルコマンナンに関する。
【0008】
さらには本発明に係る製造方法は、アセチル化グルコマンナンを、酸性触媒を含有する水−有機溶媒からなる混合溶媒中で加熱することにより、部分的に加水分解することを特徴とする、部分加水分解アセチル化グルコマンナンの製造方法に関する。また本発明に係る製造方法は、前記アセチル化グルコマンナンが、グルコマンナンを無水酢酸及び塩化亜鉛を含む酢酸中で加熱還流して完全にアセチル化して得られる完全アセチル化グルコマンナンであることを特徴とする。また本発明に係る製造方法は、前記酸性触媒が硫酸であることを特徴とする。また本発明に係る製造方法は、前記有機溶媒が、酢酸又は酢酸とトルエンの混合溶媒であることを特徴とする。また本発明にかかる製造方法は、前記加熱が、40〜70℃の範囲であることを特徴とする。
【0009】
さらに本発明は、部分加水分解アセチル化グルコマンナンに医薬物を含ませることからなる徐放性医薬製剤に関する。また本発明は、前記部分加水分解アセチル化グルコマンナンがフィルム状、粒状、タブレット状である徐放性医薬製剤に関する。
【0010】
さらに本発明は、超臨界液体中で、部分加水分解アセチル化グルコマンナンと医薬物とを混合することにより、部分加水分解アセチル化グルコマンナンに医薬物を含ませることを特徴とする徐放性医薬製剤の製造方法に関する。また本発明は、超臨界二酸化炭素中で、部分加水分解アセチル化グルコマンナンと医薬物とを混合することにより、部分加水分解アセチル化グルコマンナンに医薬物を含ませることを特徴とする徐放性医薬製剤の製造方法に関する。
【0011】
さらに本発明は、部分加水分解アセチル化グルコマンナンを含有する食品、食品添加物に関する。
【0012】
さらに本発明は、部分加水分解アセチル化グルコマンナンを含有する生分解性成形体材料、及び生分解性成形体に関する。
【0013】
さらに、本発明は、部分加水分解アセチル化グルコマンナンを含有する粘度調整剤に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の製造方法を用いることにより、任意の割合で部分加水分解されたアセチル化グルコマンナンを得ることができる。得られる部分加水分解グルコマンナンは、加水分解の割合に依存して、溶媒への溶解性、熱力学的性質、医薬品との親和性、成形性、機械的性質、生分解性、生体内安定性を自在に調整することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
(グルコマンナン)
本発明でグルコマンナンとは、D−グルコースとD−マンノースがほぼ1:1.6〜2のモル比でβ−1、4結合した天然高分子多糖類を意味する。D−グルコースとD−マンノースのそれぞれの環には2個の2級水酸基と1個の1級水酸基の合計3個の水酸基が存在する。天然由来のグルコマンナンは種々の起源のものがあるが、本発明においては起源についえは制限はない。好ましくはコンニャクマンナンが挙げられる。このコンニャクマンナンとしては、例えば特開昭63−185345に記載されているようにこんにゃくの原料となる製粉を水に溶解し、アルコールなどで精製することにより得られるものを用いてもよいし、市販の精製品(例えば清水化学(株)製、プロポール)をそのまま使用してもよい。コンニャクマンナンは毒性が全くなく、安全性に優れている。
【0016】
また本発明ではグルコマンナンは、上で説明した天然由来のグルコマンナンには限定されず、D−グルコースとD−マンノースの任意の比で人工的に結合させて得た合成グルコマンナンも含む。
【0017】
本発明のグルコマンナンの分子量としては50万以上のものが好ましく、より好ましくは100万〜200万の範囲である。以下説明する通り、得られる部分加水分解アセチル化グルコマンナンの使用目的に応じて適宜選択することが可能である。
【0018】
(アセチル化グルコマンナン)
本発明において、グルコマンナンに存在する水酸基のすべてがアセチル化されたグルコマンナンを完全アセチル化グルコマンナンという。通常公知の方法によりグルコマンナンのすべての水酸基をアセチル化することができる(例えば特開2003−147123)。
【0019】
また、上で説明した水酸基の一部分のみがアセチル化されたグルコマンナンを部分加水分解アセチル化グルコマンナンという。ここで、水酸基の数と、アセチル基の数の比を部分加水分解の割合(以下「DS」とする。)とし以下の式で与えられる。
DS(モル%)=100x(水酸基の数)/(水酸基の数+アセチル基の数)
具体的には、完全アセチル化グルコマンナンのDSは0%であり、完全に加水分解されたアセチル化グルコマンナンのDSは100%である。
【0020】
本発明にかかる部分加水分解アセチル化グルコマンナンは、DSが0と100%の間の任意の値が可能である。また本発明にかかる部分加水分解アセチル化グルコマンナンのアセチル化されている水酸基の位置については制限はなくグルコマンナン分子全体に存在する水酸基とアセチル基とのモル比を意味する。
【0021】
部分加水分解アセチル化グルコマンナンのDS値の測定は、通常の高分子物質の化学的、物理的分析方法を適用することにより容易にかつ正確に行うことができる。具体的には、核磁気共鳴吸収スペクトル(H−、13C−NMR)や赤外線共鳴吸収スペクトル(水酸基、エステル基)の物理的測定方法や、水酸基やエステル基の化学的分析方法が適用可能である。また、熱的安定性を知るには熱分析方法(TG)も適用可能である。
【0022】
以下説明する本発明にかかる製造方法による加水分解反応は数時間を要する反応であり、適当な時間間隔で反応の進行を追跡することは容易である。かかる追跡により加水分解の割合い(DS)と反応時間との関係が容易に得られ、特定の反応条件下で、反応時間を選択することにより容易に任意のDS値を有する部分加水分解アセチル化グルコマンナンを得ることができる。
【0023】
(アセチル化グルコマンナンの部分加水分解反応)
本発明にかかる部分加水分解アセチル化グルコマンナンの製造方法は、完全にアセチル化されたグルコマンナンを、酸性触媒を含有する水−有機溶媒からなる混合溶媒中で加熱することにより、部分的に加水分解することを特徴とする。
【0024】
ここで使用する原料であるアセチル化グルコマンナンは、完全にアセチル化されていることが好ましいが、ある割合ですでに加水分解されたアセチル化グルコマンナンを用いることも可能である。加水分解反応をより正確に制御するために上で説明した測定方法により、出発物質のDS値をあらかじめ測定しておくことも好ましい。完全にアセチル化されたグルコマンナンは、例えばグルコマンナンを無水酢酸及び塩化亜鉛を含む酢酸中で加熱還流して得ることができる。
【0025】
本発明において使用する加水分解用触媒は酸性触媒である。以下説明する反応溶媒に溶解する酸であれば特に制限はなく、通常加水分解反応で使用される公知の酸触媒を好ましく使用することができる。例えば無機酸として、硫酸、塩酸、陽イオン交換樹脂が挙げられるが、特に硫酸の使用が好ましい。また有機酸としては、特にGM−Acの溶解性を考慮すると酢酸の使用が好ましい。酸触媒の使用量についても特に制限はなく、好ましいDS値、反応溶媒、反応温度によい適宜選択することが可能である。具体的には硫酸の場合、溶媒中で2〜15重量%の範囲が好ましい。
【0026】
本発明の製造方法においては溶媒の選択は重要である。特に水と混合して使用する有機溶媒の選択は重要である。原料であるアセチル化グルコマンナンは、DS値により有機溶媒の易溶であったり、水に易溶であったりする。従って水と混合して使用する有機溶媒は、水と相溶性であり、かつアセチル化グルコマンナンを溶解することが好ましい。
【0027】
本発明においては、かかる有機溶媒として酢酸を使用することが好ましい。この場合加水分解溶媒は水−酢酸混合溶媒となる。また水と酢酸の混合比の選択も重要であるが、望ましいDS値と加水分解反応温度とから適宜選択することが可能である。本発明においては、水−酢酸混合溶媒中の水は、3〜20重量%の範囲であることが好ましい。
【0028】
さらに本発明においては、有機溶媒として酢酸とトルエンを使用することが好ましい。この場合加水分解溶媒は水−酢酸−トルエン混合溶媒となる。また水と酢酸とトルエンとの混合比の選択も重要であるが、望ましいDS値と加水分解反応温度とから適宜選択することが可能である。本発明においては、水−酢酸−トルエン混合溶媒中の酢酸とトルエンの混合比は温度60℃の3成分系相互溶解度を考慮し、水を1とした場合、酢酸は19〜56重量%、またトルエンは68〜0.4重量%の範囲であることが好ましい。
【0029】
さらに本発明において加水分解反応の温度は、特に制限はないが、上で説明した溶媒、触媒を用いる倍には40〜70℃の範囲であることが好ましい。温度は低すぎる場合には加水分解版応の進行が非常に遅く、また温度が高すぎると得られる部分加水分解アセチル化グルコマンナンのDS値がばらつく結果となる。
【0030】
加水分解反応は、通常の冷却装置と加熱装置を備えた反応容器で行うことができる。反応中穏やかに攪拌できる攪拌装置を備えることが好ましい。反応は溶媒と触媒を加えた後、原料であるアセチル化グルコマンナンを溶解し、反応温度を設定した後所定に時間攪拌を続けることで行う。反応の進行は、反応混合物から分析用試料を抜き出し、上で説明した種々の方法で追跡することができる。
【0031】
(徐放性医薬製剤)
本発明に係る徐放性医薬製剤は、種々の公知の医薬物を本発明の部分加水分解アセチル化グルコマンナンに含ませたことを特徴とする。ここで徐放性医薬物には特に制限はなく徐放性医薬物として公知のタンパクやその他バイオ医薬品が含まれる。さらに徐放性医薬物の含有量についても特に制限はなく、必要な放出量と放出プロフィールに応じて適宜選択することができる。徐放性の制御は、徐放性医薬物の化学的、物理的性質に応じて、徐放医薬物と部分加水分解アセチル化グルコマンナンとの望ましい親和性を得るために適宜好ましいDS値を有する本発明の部分加水分解アセチル化グルコマンナンを選択することができる。具体的には含ませる医薬物の親水性、疎水性の程度により、また医薬物の剤形により適宜好ましいDS値のものを選択することができる。この結果、種々の投与方法において、当該医薬物が投与される部位(環境)で、好ましい放出速度で徐放されることとなる。
【0032】
また、徐放性医薬製剤を含む本発明の部分加水分解アセチル化グルコマンナンの状態には特に制限はなく、粉状、粒状、フィルム状、板状、タブレット状、カプセル状で使用可能であり、投与方法により適宜選択することができる。かかる種々の形状の部分加水分解アセチル化グルコマンナンは、通常公知の成形方法、製剤方法を用いることにより調製することができる。
【0033】
また本発明においては部分加水分解アセチル化グルコマンナンに他の添加剤を加えて使用することが可能である。具体的には他の添加剤には、pH調整剤、粘度調整剤が含まれる。
【0034】
本発明において徐放性医薬製剤の調製は、部分加水分解アセチル化グルコマンナンに徐放医薬物を含ませる方法は特に制限はないが、適当な溶媒中で、部分加水分解アセチル化グルコマンナンの適当な成形体と溶媒に溶解させた徐放性医薬製剤を接触させることにより、部分加水分解アセチル化グルコマンナン中に含浸させる方法が好ましい。かかる溶媒は、部分加水分解アセチル化グルコマンナンは溶解せず徐放性医薬物を溶解するものであれば特に制限はなく、例えば、種々の状態の有機溶媒、無機溶媒が挙げられる。具体的には水、エタノール、超臨界二酸化炭素が挙げられる。
【0035】
特に本発明においては超臨界状態の溶媒、例えば二酸化炭素の使用が好ましい。超臨界状態の二酸化炭素は公知の方法、装置を用いて準備することができる。かかる超臨界状態二酸化炭素中で、適当な剤形に成形した部分加水分解アセチル化グルコマンナン(例えばフィルム)と、溶解した徐放性医薬物を接触させることで徐放性医薬物を部分加水分解アセチル化グルコマンナンに含ませることができる。徐放性医薬物の含有量は、超臨界状態の溶媒の種類、圧力、温度、接触時間を適宜選択することで決めることができる。
【0036】
反応が終了した後は、超臨界状態の溶媒を除くことで、徐放性医薬製剤を得ることができる。
【0037】
(部分加水分解アセチル化グルコマンナンを含有する、食品、食品添加物、化粧品(以下「食品等」とする。))
本発明にかかる食品等は、部分加水分解アセチル化グルコマンナンを含む種々の食品、飲料、動物用飼料、食品添加物、動物飼料添加剤、栄養剤、栄養補給剤、化粧品を含む。種々のDS値を有する部分加水分解アセチル化グルコマンナンは、望ましい範囲の親水性、疎水性、粘性、熱物性、機械物性等を与えることができ、かかる性質に基づき新規な食品等を与えることができる。
【0038】
本発明にかかる食品等は、通常公知の食品等の製造装置、製造方法を用いて得ることができる。その際、好ましい範囲のDS値を有する部分加水分解アセチル化グルコマンナンを適当量添加することができる。製造方法により、食品等内での部分加水分解アセチル化グルコマンナンの種々の混合状態にすることができる。
【0039】
(生分解性成形材料、成形体)
本発明にかかる生分解性成形材料は、部分加水分解アセチル化グルコマンナンを含む成形材料、若しくは他の成形材料との混合物であって、優れた生分解性を有するものである。また、生分解性は、種々のDS値を有する部分加水分解アセチル化グルコマンナンを選択することにより、望ましい生分解速度の範囲に調整することができる。また他の成形材料としては、特に制限はなく、部分加水分解アセチル化グルコマンナンと混合可能な従来公知の成形材料を含む。
【0040】
本発明にかかる成形体は、本発明の成形材料を成形して得られる成形体を意味する。食品等は、通常公知の食品等の製造装置、製造方法を用いて得ることができる。その成形には使用の目的に応じて、従来公知の成形方法、成形装置を使用することができる。具体的には、食品等の包装材、建築用材、機械部品用材、電気・電子部品用材、室内装飾用材、農業用材、園芸用材、土木用材等であって、生分解性が求められる材料が挙げられる。
【0041】
(粘度調整剤、分散物安定剤)
本発明の部分加水分解アセチル化グルコマンナンを加えることにより種々の溶液の粘度を調整することができる。すなわち、本発明の部分加水分解アセチル化グルコマンナンは種々のDS値を有することから、かかるDS値に応じて溶液中の溶媒や溶解物質との親和性を任意に調整することが可能となる。
【0042】
具体的には、種々のコーティング剤の粘度調整や、食品、飲料の粘度調整に使用可能である。
【0043】
また本発明の部分加水分解アセチル化グルコマンナンを加えることにより種々の分散溶液の分散性を安定化することができる。すなわち、本発明の部分加水分解アセチル化グルコマンナンは種々のDS値を有することから、かかるDS値に応じて溶液中の溶媒や溶解物質との親和性を任意に調整することが可能となる。
【0044】
以下本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明がこれらの実施例に制限されることはない。
【実施例】
【0045】
(実施例1) 完全アセチル化グルコマンナン
グルコマンナン(清水化学株式会社製、製品名プロポールKW)1gを、水150mlに混合して溶解した。得られた溶液に2−プロパノール200mlを加えて沈殿させ沈殿物を分離した。得られた沈殿物を酢酸100ml中に混合して酢酸を含浸させた。酢酸を含浸させた沈殿物に塩化亜鉛0.2gと無水酢酸60mlとを加え、攪拌しつつ80℃で2時間還流してアセチル化を行った。反応終了後粘凋な反応溶液に水400mlを加えて再沈殿させた。沈殿を分離して水400mlと混合して攪拌洗浄した。さらに洗浄した沈殿を2−プロパノール100mlと混合して攪拌洗浄して濾過分離した。得られた沈殿を24時間真空乾燥した。乾燥した沈殿をアセトン250mlに溶解し、不溶物を濾過して除き、濾液に水2500mlを加えて再沈殿させた。得られた沈殿を濾過して分離し、真空乾燥して完全にアセチル化されたグルコマンナンを1.6g得た。
【0046】
得られたアセチル化グルコマンナン(以下「GM−Ac」とする。)の、H−NMR、13C−NMR、及びIRスペクトル分析から、ほぼ完全に水酸基がアセチル化されていることが分かった。図1には、得られたアセチル化グルコマンナンの、H−NMRスペクトルを示す。GM−Acは3.5〜5.5ppm付近にグルコシド環のプロトン(7個)によるシグナルと、2.0ppm付近にアセチル基によるメチルプロトン(9個)を有することが分かる。これらのシグナルの積分値による強度比が7:9であることから、全ての水酸基アセチル化されていることが分かる。また図2には同様の条件で得られたアセチル化グルコマンナンの13C−NMRスペクトルを示す。H−NMRスペクトルから得られた結果と一致する。これらのスペクトルから定量的にアセチル化の程度を推定することが可能となる。また図3には得られたアセチル化グルコマンナンのIRスペクトルを示す。3600cm−1付近のブロードなOH基による吸収が完全に消失し、1715cm−1付近のアセチル基による強い吸収が新たに出現した。この結果からも全ての水酸基アセチル化されていることが分かる。
【0047】
(実施例2) 完全アセチル化グルコマンナンの加水分解
実施例1で得られた完全アセチル化グルコマンナン1gを、300mlの丸底ガラスフラスコに入れ、30.0mlの酢酸で溶解した。得られた溶液に3.9mlの水と、下表1にまとめた有機溶媒を19.1ml加えた。さらに96%硫酸約0.06g(完全アセチル化グルコマンナンに対して5.7重量%)加えた。静かに攪拌しつつ下表1にまとめた反応温度、反応時間で反応させた。
【0048】
反応終了後、反応容器を氷浴に浸して急冷した反応溶液を、下表1に示された水又はアセトンに滴下して生成物を沈殿させた。沈殿を濾過して分離し、真空乾燥した。収量は表1にまとめた。得られた部分アセチル化グルコマンナンのDS値は、H−NMRスペクトル又はIRスペクトルの測定結果から計算して求めることができる。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

ここでGM−Acは、完全アセチル化グルコマンナンを意味する。
【0051】
反応条件を選択することにより種々のDS値を有する部分アセチル化グルコマンナンを得ることができることが分かる。また、得られた部分アセチル化グルコマンナンのDS値に依存して水溶性化、非水溶性化を判別可能であり、ほぼDS値が50%で非水溶性から水溶性に変化することが分かる。
【0052】
各反応時間における部分アセチル化グルコマンナンの熱分析の結果を次表2にまとめた。またTG及びDSC熱分析測定結果を図4、5にそれぞれ示した。
【0053】
【表3】

【0054】
この結果から、GPC測定より分子量低下が確認され図4に示されるようにTG測定より熱分解開始温度が低温度側にシフトしている。これは酸触媒による加水分解で得られた生成物は数千程度の低分子量体であると考えられる。また、図5に示されるようにDSC曲線より得られた生成物は加水分解が進むとガラス転移温度は高温度側にシフトするがGMと同様にガラス転移が確認されなかった。
【0055】
(実施例3) 徐放性医薬製剤
(1)基質の調製
以下の方法でグルコマンナン、部分アセチル化グルコマンナン、完全アセチル化グルコマンナンから医薬物含浸用の基質を調製した。
【0056】
グルコマンナンを1g、精製後純水の溶解しシャーレ(半径6cm)に展開させて厚さ0.05mmのシート形状とし、これを2cmx2cmの形状に切り出した。同様に完全アセチル化グルコマナンは1.5gをアセトン200mlに溶解し、シャーレ(半径6cm)に展開させて厚さ0.05mmのシート形状とし、これを2cmx2cmの形状に切り出した。部分アセチル化グルコマンナンは、DS値に基づいて、水、アセトン、またはそれらの混合溶媒を使用して同様に調製した。
【0057】
(2)含浸医薬物、含浸方法、含浸装置
含浸医薬物として、低分子合成医薬品で解熱、鎮痛、消炎作用のあるイブプロフェン(IB)を用いた(吉冨ファインケミカル(株)製)。
【0058】
含浸には2つの装置を使用した。サファイア可視窓付きセル(耐圧硝子工業(株)製)で、内容積約28ml、最高使用温度・圧力200℃・300MPaの反応装置であって、温度は恒温槽で制御した。また流通式超臨界装置のセルは内容積約100ml、最高温度・圧力400℃・40MPaの装置であり、温度はヒーターで制御した。
【0059】
含浸は次の方法で行い条件と結果を表3にまとめた。セル内に基質とIBをそれぞれ所定の量を入れ、所定の圧力まで二酸化炭素を導入した。一定速度で攪拌しながら所定の温度・圧力で24時間含浸させた。後セルを冷却し二酸化炭素をゆっくり排出した。含浸された基質を取り出し、ソックスレー抽出器をメタノールを抽出溶媒として用いて約2時間基質表面に付着したIBを洗浄した。基質を取り出し40℃で真空乾燥した。
【0060】
得られたIB含浸グルコマンナン、IB含浸完全アセチル化グルコマンナン、IB含浸部分アセチル化グルコマンナンのそれぞれのIR吸収スペクトルを図4に示した。図4から、IBに帰属される2900cm−1、1200cm−1の吸収に着目すると、グルコマンナンでは上の含浸条件では含浸がほとんど起こってないことが分かる。一方完全アセチル化グルコマンナンでは明らかに含浸されていることが分かる。また、部分アセチル化グルコマンナンではDS値に依存して含浸の程度が変わることが分かる。
【0061】
さらに、完全アセチル化グルコマンナンに対してエントレーナとして水、エタノールを添加して同様に超臨界二酸化炭素中で含浸を行った。水を添加した場合の重量増加率を表3に示した。
【0062】
【表4】

【0063】
エタノールを添加しても大きな重量変化は見られなかったが、水を添加した場合著しい重量増加が見られた。特に水を1ml添加した場合、1.4重量%の増加が見られた。これは、水を添加することでIBの溶解度が高くなり、二酸化炭素中でより分散して含浸しやすくなったからと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により、部分加水分解されたアセチル化グルコマンナンを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1は、実施例1で得られたアセチル化グルコマンナンの、H−NMRスペクトルを示す。
【図2】図2は、実施例1で得られたアセチル化グルコマンナンの、13C−NMRスペクトルを示す。ここで縦軸は加水分解時間を示す。
【図3】図3は、実施例1で得られたアセチル化グルコマンナンのIRスペクトルを示す。
【図4】図4は、種々の反応条件で得られたアセチル化グルコマンナンのTG測定結果を示す。
【図5】図5は、種々の反応条件で得られたアセチル化グルコマンナンのDSC測定結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
部分加水分解アセチル化グルコマンナン。
【請求項2】
アセチル基含有率が、0〜100モル%である、請求項1に記載の部分加水分解アセチル化グルコマンナン。
【請求項3】
アセチル化グルコマンナンを、酸性触媒を含有する水−有機溶媒からなる混合溶媒中で加熱することにより、部分的に加水分解することを特徴とする、部分加水分解アセチル化グルコマンナンの製造方法。
【請求項4】
前記アセチル化グルコマンナンが、グルコマンナンを無水酢酸及び塩化亜鉛を含む酢酸中で加熱還流して完全にアセチル化して得られる完全アセチル化グルコマンナンであることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記酸性触媒が硫酸であることを特徴とする、請求項3及び4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒が、酢酸又は酢酸とトルエンの混合溶媒であることを特徴とする、請求項3〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記加熱が、40〜70℃の範囲であることを特徴とする、請求項3〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
部分加水分解アセチル化グルコマンナンに医薬物を含ませることからなる、徐放性医薬製剤。
【請求項9】
前記部分加水分解アセチル化グルコマンナンがフィルム形状である、請求項8に記載の徐放性医薬製剤。
【請求項10】
超臨界二酸化炭素中で、部分加水分解アセチル化グルコマンナンと医薬物とを混合することにより、部分加水分解アセチル化グルコマンナンに医薬物を含ませることを特徴とする、徐放性医薬製剤の製造方法。
【請求項11】
部分加水分解アセチル化グルコマンナンを含有する食品。
【請求項12】
部分加水分解アセチル化グルコマンナンを含有する食品添加物。
【請求項13】
部分加水分解アセチル化グルコマンナンを含有する生分解性成形体材料。
【請求項14】
部分加水分解アセチル化グルコマンナンを含有する生分解性成形体。
【請求項15】
部分加水分解アセチル化グルコマンナンを含有する粘度調整剤。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−131691(P2007−131691A)
【公開日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−324384(P2005−324384)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【出願人】(899000057)学校法人日本大学 (650)
【Fターム(参考)】