説明

部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法

【課題】ガス絶縁開閉装置(GIS)、変圧器、電動機、電力用ケーブル等の高電圧電力機器の故障の予兆である部分放電信号に対して、電源の位相情報及び部分放電信号のサイズ情報が得られない場合でも実行できて、電源位相を特定でき、異なる部分放電測定機に対しても同じ神経網エンジンを個々に再訓練することなく用いることができる、部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法を提供する。
【解決手段】部分放電測定機で測定された前記部分放電信号を用いて、Φ:Φn−1:Nグラフを生成するステップと、Φ:Φn−1:Nグラフの右下面を左上方に移動するステップと、位相相関和を抽出するステップと、位相無関和を抽出するステップと、位相相関和と位相無関和を神経網エンジンの入力ベクトルとして入力するステップと、を含んでなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力分野における高電圧機器の、部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法に係り、特に、印加電圧の電源位相情報を用いないので、現場における部分放電測定時に、電力トランス(Power Transformer;以下、PTという)や分圧器などから電源位相信号を取り込みにくい状態でも部分放電を測定することができ、測定のための準備時刻を減らし、測定費用を節減できることはもちろん、放電原因に対する高信頼度の推論結果を得ることができ、
部分放電信号の大きさ情報を用いずに神経網エンジンの入力ベクトルを抽出するので、増幅器や信号減衰器の特性が異なる種々の部分放電測定装置でも、同じ神経網エンジンを再訓練なしに使用することができ、
複数個の電源相が同時に存在する電力機器において、位相無関和と位相相関和を用いて、部分放電が発生する部位の電源相が検出でき、部分放電の位置追跡が容易であるので、電力機器の異常に対する事後措置に有利な特徴を有している、
部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガス絶縁開閉装置(Gas Insulated Switchgear;以下、GISという)、ガス絶縁変圧器、油入変圧器、回転機器、ガス絶縁送電線、電力用ケーブルなどの高電圧電力機器では、故障の前兆として極超短波(UHF)、超音波又はその他のタイプの部分放電が発生することになるが、このように高電圧電力機器において部分放電が発生すると、部分放電測定装置は部分放電を測定し、このように測定された部分放電信号を分析して、部分放電の表れ方(タイプ及び/又はパターン)を判定し、電力機器の劣化状態を診断することにより、電力機器における故障の徴候を事前に診断することができる。
【0003】
以下、図1及び図2を参照して、一般的な極超短波部分部分放電測定装置について説明する。
【0004】
図1に示すように、上記のようなガス絶縁開閉装置(GIS)、変圧器、電動機、電力用ケーブル等の各種高電圧電力機器100において、高電圧電力機器100に電源110が供給され、内部異常がある場合、異常の徴候として部分放電(局所的な放電)が発生する。
【0005】
その際、高電圧電力機器100に装着された部分放電センサ120は、部分放電信号を検出し、これらの信号を極超短波部分放電測定機130に送って分析に供する。
【0006】
既存の分析方法では、電源110の位相情報が必須であるので、電力トランス(Power Transformer;以下、PTという)及び分圧器140を用いて、印加電圧位相情報を部分放電測定機130に提供している。
【0007】
極超短波部分放電測定機130では、図2に示すように、部分放電信号210(図中では211、212、213)と高電圧電力機器100の印加電圧信号200から、部分放電信号210の発生時刻220(図中ではtn−1、t、tn+1)、部分放電信号の大きさ(サイズ)230(図中では電圧値Vn−1、V、Vn+1)、部分放電発生時における該当機器の印加電圧200の位相240(図中ではΦn−1、Φ、Φn+1)を含む部分放電信号に関する基本情報が得られる。
【0008】
ここで図2において横軸(時刻t)と縦軸(電圧V)は各々、相対値で表わしてある。
即ち、電源110の電圧の周期(例えば、商用電源で周波数が50Hzの場合、20m秒)を横軸(時刻t)のスケール1.0とし、さらにこれを位相Φのスケール360度としてある。
【0009】
なお、前記極超短波部分放電測定機130内の信号取得回路には、上述の基本情報を得るための様々な種類の増幅器、信号減衰器、及び検出装置に加えて、信号分類のための神経網エンジン(Neural Network Engine)が設けられており、前記部分放電センサ120から入力される部分放電信号210を分析することができる。
【0010】
このような部分放電信号210の分析から、部分放電の発生有無、部分放電の原因、及び高電圧電力機器100の劣化状態を診断することができる。
【0011】
前記極超短波部分放電測定機130の神経網エンジンは、入力ベクトルとして、実測されたままで加工されていない部分放電信号、あるいは、部分放電信号から変換(加工)されたPRPS(Phase Resolved Pulse Sequence)またはPRPD(Phase Resolved Partial Discharge)から抽出した各種の変数を用いる。
【0012】
これらの変数の例としては、位相分解された放電パルスの特性数値、放電信号の大きさ、または歪度や尖度のような様々な統計的変数がある。
このような変数からなる入力ベクトルは、上述のように、放電信号を発生する高電圧電力機器に対する印加電圧位相情報及び放電信号を直接・間接的に用いることから得られていた。
【0013】
例えば特許文献1には、上述のような、電力機器の部分放電の強度情報とその検出時刻、及び電源電圧の位相情報に基いて電力機器の絶縁異常を検出する技術が開示されている。
【特許文献1】特開2001−183411
【0014】
しかしながら、高電圧電力機器100からの部分放電信号を、携帯型部分放電測定機を用いて測定する場合、高電圧電力機器100に印加される電圧の電源位相情報が簡単に提供されないことがある。
【0015】
即ち、印加電圧200の位相情報または部分放電の発生した位置における電源相が分からないとき、部分放電測定機130は、部分放電測定機130自身の電源位相が、高電圧電力機器100に印加される電圧の位相と同じであると仮定して測定を行うが、この場合、既存の神経網エンジンは誤った放電原因を推論してしまう恐れがあり、その結果、ユーザが適切な措置を取りにくくなるという問題があった。
【0016】
また、オンラインに設置され、印加電圧位相情報を常時取得することができる部分放電測定システムの場合であっても、3相一括型GISや変圧器、3相電動機のように、数個の電源相が同時に存在する高電圧電力機器100に対して、該高電圧電力機器に印加されるそれぞれの電源相によって仕分けた部分放電データのグループによって神経網エンジンを訓練しなければ、正確な推論結果を導き出すことが難しいという問題があった。
【0017】
また、放電信号の大きさを神経網エンジンの入力ベクトルとして用いる場合、同じ放電源であっても、センサの感度、放電源の距離、信号取得装置の特性によって様々な大きさの放電信号が得られるので、様々な大きさの放電信号を用いて神経網エンジンを訓練しなければならないという問題があった。
【0018】
特に、放電信号取得装置内に存在する各種の増幅器の利得が変動すると、同じ放電信号について測定された信号の大きさが変わることがあるため、これを勘案して、神経網エンジンを個々の放電信号取得装置ごとに再訓練しなければならないという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたもので、その目的は、測定された部分放電信号から神経網エンジンを用いて自動的に部分放電を起こす原因を推定し、そのような部分放電を徴候とする、ガス絶縁開閉装置(GIS)、変圧器、電動機、電力用ケーブルのような高電圧電力機器の故障を防ぐことができる、部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法を提供することにある。
【0020】
また、本発明の他の目的は、高電圧電力機器に印加される電源の位相情報が得られない状況でも、部分放電の原因を推論できることはもちろん、高電圧電力機器が数個の電源の相を用いる際に、放電の発生した箇所に印加される電源の相を推定できる、部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法を提供することにある。
【0021】
また、本発明のさらに他の目的は、神経網エンジンの入力ベクトルとして部分放電信号サイズ情報を用いないので、データ取得回路の増幅器や信号減衰器の特性が異なる部分放電測定装置で測定された部分放電信号の解析においても、同じ神経網エンジンを個々に再訓練することなく用いることができる、部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的を達成するために、本発明の一実施の形態に係る部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法は、GIS、変圧器、電力用ケーブル、及び回転機器を含む高電圧電力機器で発生する部分放電信号の原因を自動的に推論する、多層パーセプトロン(Perceptron)構造及びセルフオーガナイゼーションマップ(Self Organization Map)を含む種類の神経網エンジンに用いられる入力ベクトル生成方法であって、部分放電測定装置により測定された前記放電信号を用いて、Φ:Φn−1:Nグラフを生成するステップと、前記Φ:Φn−1:Nグラフの右下面を左上面に変換するステップと、前記神経網エンジンの入力ベクトルとして用いるべき位相相関和を抽出するステップと、前記神経網エンジンの入力ベクトルとして用いるべき位相無関和を抽出するステップと、前記位相相関和と位相無関和を前記神経網エンジンの入力ベクトルとして入力するステップと、を含むことを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、前記放電信号から求めた位相相関和及び、これをそれぞれ120°、240°を含む位相だけシフトさせた位相相関和を、前記神経網エンジンの部分放電原因の訓練データから発生した参照位相無関和の模様(パターン)と比較して、前記放電信号が発生した箇所に印加された電源の相を見つけるステップをさらに含んでなることが好ましい。
【0024】
また、本発明は、前記放電信号から求めた位相相関和及び、これをそれぞれ120°、240°を含む位相だけシフトさせた位相相関和を、前記神経網エンジンの部分放電原因の訓練データから発生した参照位相無関和に乗じて積を求め;この積を積分し;積分面積が最大となる位相相関和を、放電信号が発生した箇所の正確な電源相を示す位相無関和として選ぶステップをさらに含んでなることが好ましい。
【0025】
また、本発明は、放電信号から求めた位相相関和及び、これをそれぞれ120°、240°を含む位相だけシフトさせ、前記神経網エンジンの部分放電原因の訓練データから発生した参照位相無関和の模様を有する位相相関和との相互相関を求めて、放電信号が発生した箇所に印加された電圧の電源の相を見つけるステップをさらに含んでなることが好ましい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、神経網エンジンの入力として位相無関和を用いることにより、高電圧機器の印加電圧の位相情報を用いる必要がないので、そのような位相信号を得るためのPT及び分圧器が不要になり、測定準備のための努力とコストを節減できることはもちろん、部分放電原因に対して相対的に高信頼度の、自動分類による推論結果を得ることができる。
【0027】
また、神経網エンジンの入力として部分放電信号サイズに関する情報を含まないので、内部の増幅器や信号減衰器の特性が異なる複数の部分放電測定装置に対しても、個々に再訓練することなく同じ神経網エンジンを用いることができる。
【0028】
特に、数個の電源位相が同時に存在する電力機器において、位相無関和と位相相関和を用いて、部分放電が発生する位置の印加電圧の電源位相がわかり、部分放電が発生した電源位相の位置追跡が容易であるので、電力機器における異常の修復についてより多くの機会が与えられるという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本発明の好ましい実施の形態を、添付図面に基づき詳細に説明する。図面中、同一の構成要素には、同一の参照部号を付するものとする。
【実施例】
【0030】
本発明に係る部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法について説明すると、下記の通りである。
【0031】
本発明では、部分放電信号から、放電信号の信号の大きさ(サイズ)及び印加電圧の位相情報が含まれていない入力ベクトルを抽出した後に、これを用いた神経網エンジンを通じて、高電圧電力機器に印加される電圧の位相情報がない状況においても部分放電の原因を自動的に推論できるようにする。
それだけでなく、上記の入力ベクトルが放電信号の大きさに関する情報を含んでいないので、放電信号の大きさを考慮して神経網エンジンを訓練する必要がなく、かつ、高電圧電力機器に複数の電源相の電圧が印加される場合に、推論された部分放電の原因として、位相情報の含まれた入力ベクトルを生成し、部分放電の発生する位置における印加電圧の電源の相を分析できる。
【0032】
本発明は、正確な部分放電原因を推論するための神経網エンジンの入力ベクトルを生成するためのものである。
【0033】
図2に示すような、上述の部分放電信号に関する基本情報のうち、部分放電信号210(図中では211、212、213)のサイズ230(図中では電圧値Vn−1、V、Vn+1)は、極小値から極大値を取りうるので規格化することが難しく、部分放電信号サイズ230を入力ベクトルとして採用すると様々な値(図中ではVn−1、V、Vn+1)に対して個別に神経網エンジンを訓練しなければならないことになる。
【0034】
そこで本発明では、部分放電信号サイズ230を使わず、また、印加電圧200の電源相情報も使わずに、神経網エンジンの入力ベクトルを生成する。
【0035】
入力ベクトルを作成するために、先ず、部分放電発生時に、放電時印加電圧位相(Φ)240を用いて、図3ないし図6に示すように、Φn:Φn−1:Nの可視化方法により放電パターンを作る。
【0036】
前記Φ:Φn−1:Nの可視化方法は、連続して放電が発生した時点で高電圧電力機器に印加された電圧の関係を表す。
【0037】
即ち、高電圧電力機器に連続する放電信号が発生すると、図3に示すように、電圧位相の0°から360°までをK個に分割した後、X軸を先行放電信号発生時の印加電圧位相と定義し、Y軸は、後行放電信号発生時の印加電圧位相として定義する。
【0038】
例えば、図2に示すように、3個の連続する放電信号210(図2の中では、211、212、213)があると仮定したら、最初の2個の放電信号における、先行放電信号211の印加電圧位相Φn−1が、i(1≦i≦K)番目の位相に該当し、後行放電信号212の印加電圧位相Φnが、j(1≦j≦K)番目の位相に該当するとき、図4のように、初期値が0と設定された2次元グラフの(i,j)の値Pijに1が足される。
【0039】
同様にして、図2の3個の部分放電信号のうち、2番目に連続する部分放電信号212、213における、先行部分放電信号212の仮位相Φが、j(1≦j≦K)番目の位相に該当し、後行部分放電信号213の仮位相Φn+1が、j’(1≦j’≦K)番目の位相に該当するとき、初期値が0と設定された2次元グラフの(j,j’)の値Pjj’に1が足され、これにより、図5のように、Φn:Φn−1:Nの可視化方法で連続する放電信号の相が表される。
【0040】
このような方法により、与えられた時間Tの間に測定される放電信号のΦn:Φn−1:Nのパターンは、図6のように表され、図6では、各座標値は、連続して生成される部分放電信号の個数を表す色相値600で表示しており、ここで、X軸及びY軸は共に位相軸であるので、0°から360°の範囲内で規格化されている。
【0041】
一方、このようなΦn:Φn−1:N可視化方法による放電パターンの位相は、放電原因の形態によって異なり、部分放電原因別に分類可能な入力ベクトルの生成を十分に行うことができる。
【0042】
位相情報が除かれた入力ベクトルを得るために、図5を変形させた。
【0043】
図5の右下面500を垂直移動させ、図7のようにΦn:Φn−1:Nの上側700に位置させると、新たな放電パターン710が得られ、これを、変形Φn:Φn−1:Nの可視化方法と呼ぶ。
【0044】
変形Φn:Φn−1:Nグラフにおいて、X’軸をシフトしながら、Y軸方向に放電回数を合算すると、与えられたΦn−1で発生した放電回数が得られるが、この合算は、位相情報を有しているので、本発明では、これを位相相関和(Phase Dependent Sum;PDS)と呼ぶことにする。
【0045】
位相相関和720のi番目の項PDSは、次式で表される。
【数1】

【0046】
次に、 図7において、Y軸をシフトしながら、X’軸方向に合算を行うと、合算された各点は、Φn軸及びΦn−1軸上において、特定の位相でなく、異なる位相に該当する放電回数を合算した値となるので、位相情報のない新たなグラフ730が得られる。これを、本発明では、位相無関和(Phase Independent Sum;PIS)と呼ぶことにする。
【0047】
位相無関和730のj番目の項PISは、次式で表される。
【数2】

【0048】
図8は、図6の実際放電信号に対するΦn:Φn−1:Nタイプを変形Φn:Φn−1:Nの可視化法800で表し、位相相関和810及び位相無関和820を抽出した例である。
前記位相相関和810と位相無関和820は、放電回数と関連した変数として常に正数である。
【0049】
図9は、一般の多層神経網エンジンの一例であり、図9に示すように、一般の多層神経網エンジンの構成は、測定した放電信号から抽出した入力ベクトル900と、パーセプトロンのような判断のためのニューロン(演算子)で構成された1次層910ないしN次層920と、電力機器の部分放電原因を表示する神経網エンジンの出力ベクトル940を演算する出力層930と、各層を連結するシナプス950(図9の中では、951、952、953)とを含んでなる。
【0050】
上記のような多層神経網エンジンの入力ベクトルとして位相無関和820を用いると、印加電圧の位相情報を用いていないので、部分放電信号測定装置における印加電圧位相情報が得られているか否かによらず、比較的正確な部分放電原因が推論可能である。
【0051】
また、上述のような神経網エンジンの入力ベクトルとしての位相無関和820及び位相相関和810は、放電信号サイズに関する情報が含まれていないので、特定の信号取得装置において測定された放電信号を用いて訓練された神経網エンジンを再訓練なしに、異なる信号増幅特性を有する部分放電信号取得装置からの部分放電信号に対して、適用することが可能である。
【0052】
さらに、入力ベクトルとして位相相関和810と位相無関和820を共に使用する神経網エンジンは、位相情報が取得可能な場合、位相無関和820のみを用いた神経網エンジンよりもさらに多くの放電情報を用いるので、位相無関和820のみを用いた神経網エンジンに比べてやや高い認識率が得られる。
しかし、入力ベクトルとして位相無関和820のみを使用する神経網エンジンは、高電圧電力機器から位相情報が取得可能な場合、位相無関和が位相情報を使用していないので、良好な分類能力を示す。
【0053】
また、位相相関和810と位相無関和820を用いると、複数の相の電源が印加された高電圧電力機器において、放電が発生した位置の電源位相に対する別途の情報がなくても、放電発生箇所に印加されている電源の相を類推することができる。
【0054】
例えば、R、G、B相が同時に印加されている三相一括型GISにおいて、G相に部分放電が発生し、R相電源に同期した部分放電測定装置を用いて、放電信号を測定する場合を説明すると次の通りである。
【0055】
先ず、図10のように、放電信号から位相相関和1000と位相無関和をそれぞれ抽出した後、放電信号の位相無関和を用いた神経網エンジンを通じて放電原因を推論する。
【0056】
次に、推論された放電原因に対して、神経網エンジン訓練の際に使用した参照位相無関和1030を、放電信号から求めた位相相関和1000及び、これをそれぞれ120°、240°ずつ位相をシフトさせた位相相関和1010、1020の模様(パターン)と比較する。
【0057】
この場合、参照位相無関和1030と最も類似しているのは、120°位相シフトした位相相関和1010であり、従って、部分放電測定装置が同期したR相よりも位相が120°遅れたG相において部分放電が発生したことが分かる。
このような方法によって、部分放電発生位置の印加電源の相が分かる。
【0058】
その際、測定信号の位相相関和1000と、これをそれぞれ120°、240°ずつ位相シフトさせた位相相関和1010、1020の、参照位相無関和1030に対する類似性を数値で示す方法としては、様々なものがあるが、その中、最も簡単な方法は2つの位相相関和を乗じる方法である。この方法によれば、2位相相関和の模様が似ている程、積の積分値(位相相関和積の曲線に対する面積)が大きくなる。
【0059】
上述の例において、図10において、位相無関和1000、1010、1020の各々と参照位相無関和1030との積を積分した面積1040、1050、1060が最大となる120°位相シフトし位相相関和1050が、参照位相無関和1030と最も類似した位相無関和となる。
また、相互相関などの方法によっても位相を類推することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】一般の極超短波部分放電測定装置の設置状態を示す構成図である。
【図2】一般の極超短波部分放電測定装置で測定された部分放電信号の情報を表す部分放電信号の例示図である。
【図3】初期化されたΦn:Φn−1:Nグラフである。
【図4】連続した2個の部分放電信号がある場合のΦn:Φn−1:Nの可視化方法による放電タイプを示す例示図である。
【図5】連続した3個の部分放電信号がある場合のΦn:Φn−1:Nの可視化方法による放電タイプを示す例示図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る部分放電原因自動推論用の神経網回路の入力ベクトル生成方法を説明するための、Φn:Φn−1:Nの可視化方法で表された部分放電信号を示す例示図である。
【図7】位相相関和と位相無関和の抽出方法の概念を説明するための概念図である。
【図8】位相相関和と位相無関和の抽出方法を示す例示図である。
【図9】一般の多層神経網回路を示す例示図である。
【図10】本発明の一実施の形態に係る位相相関和を用いた放電発生位置の電源相判別法に対する例示図である。
【符号の説明】
【0061】
100 高電圧電力機器
110 高電圧電力機器への印加電源
120 部分放電センサ
130 部分放電測定機
140 電源位相測定用のPT/分圧器
200 高電圧電力機器への印加電圧
210、211、212、213 部分放電信号
220 部分放電信号の発生時刻
230 部分放電信号の大きさ(サイズ)
240 部分放電発生時の印加電圧の位相
500 可視化パターンの右下の三角形部分
510 可視化パターンの左上の三角形部分
600 部分放電発生信号の対の個数を表す色相値
700 可視化パターンの左上の三角形部分の上側に、接して置かれた三角形部分
710、800 変形可視化パターン
720、810 位相相関和
730、820 位相無関和
900 入力ベクトル
910 1次層
920 N次層
930 出力層
940 出力ベクトル
950、951、952、953 シナプス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガス絶縁開閉装置(以下GISという)、変圧器、電力用ケーブル、及び回転機器を含む高電圧電力機器で発生する部分放電信号の原因を自動的に推論する、多層パーセプトロン構造及びセルフオーガナイゼーションマップを含む種類の神経網エンジンに用いられる入力ベクトル生成方法において、
部分放電測定機で測定された前記放電信号を用いて、Φ:Φn−1:Nグラフを生成するステップと、
前記Φ:Φn−1:Nグラフの右下面を左上方に変換するステップと、
前記神経網エンジンの入力ベクトルとして用いるべき位相相関和を抽出するステップと、
前記神経網エンジンの入力ベクトルとして用いるべき位相無関和を抽出するステップと、
前記位相相関和と位相無関和を前記神経網エンジンの入力ベクトルとして入力するステップと、を含んでなることを特徴とする、部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法。
【請求項2】
前記放電信号から求めた位相相関和及び、これをそれぞれ120°、240°を含む位相だけシフトさせた位相相関和を、前記神経網エンジンの訓練データから発生した参照位相無関和の模様(パターン)と比較して、前記放電信号が発生した箇所に印加された電源の相として、参照位相相関和に最も類似した、前記位相シフトされた位相相関和を判断するステップをさらに含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法。
【請求項3】
前記放電信号から求めた位相相関和及び、これをそれぞれ120°、240°を含む位相だけシフトさせた位相相関和を、前記神経網エンジンの訓練データから発生した参照位相無関和に乗じて積を求め;この積を積分し;積分面積が最大となる位相相関和を、参照位相無関和と最も類似した位相無関和として選び、参照位相相関和と最も類似した位相シフトされた位相相関和を、放電信号が発生した箇所に印加された電源の相として判断するステップをさらに含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法。
【請求項4】
前記放電信号から求めた位相相関和及び、これをそれぞれ120°、240°を含む位相だけシフトさせ、参照位相相関和の模様を有する位相相関和との相互相関を求め;この相互相関の大きさが最も大きい位相を、前記放電信号が発生する箇所に印加された電源の相として判断するステップをさらに含んでなることを特徴とする、請求項1に記載の部分放電原因自動推論用の神経網の入力ベクトル生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2007−124880(P2007−124880A)
【公開日】平成19年5月17日(2007.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−27771(P2006−27771)
【出願日】平成18年2月3日(2006.2.3)
【出願人】(595069594)韓国電力公社 (10)
【氏名又は名称原語表記】KOREA ELECTRIC POWER CORPORATION
【Fターム(参考)】