説明

部分耕耘直播装置

【課題】部分耕耘直播装置で乾田直播作業を行った後に、水稲の種子の播種床を形成すべく掘削した耕起溝に雨水が排水されずに溜まり、この雨水に水稲の種子が長時間浸漬されて酸欠状態となり、当該種子が発芽する直前に腐ってしまうといった不具合が発生することを回避する。
【解決手段】耕起溝Dを形成する複数本の耕耘爪21のうち、少なくとも2本の耕耘爪21の横刃部先端を耕耘軸22の軸方向に左右外向きに取り付ける一方、その他複数本の耕耘爪21の横歯部b先端を耕耘軸22の軸方向に左右内向きに取り付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不耕起状態の圃場を部分的に耕起して播種や施肥を行う部分耕耘直播装置に備える耕耘爪に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、不耕起状態の圃場を部分的に耕耘して播種や施肥を行う部分耕耘直播装置は、トラクタ等の機体後部に備える昇降リンク機構を介して昇降可能に連結されると共に、当該部分耕耘直播装置は昇降リンク機構のトップリンク及びロアリンクに連結した耕耘ユニットと、この耕耘ユニットから後方に突出するツールバーに平行リンク機構を介して昇降自在に連結した施肥播種ユニットから構成されている。
【0003】
そして、耕耘ユニットは、機体側からPTO動力が入力されるギヤケース、該ギヤケースから左右に突出する筒フレーム、該筒フレームの左右両端から下方に突出するサイドフレーム、左右のサイドフレーム間に回動可能に支承した耕耘軸(爪軸)、及び該耕耘軸の軸方向に所定の間隔を存して設けた複数の耕耘部を備えると共に、これらの耕耘部に不耕起状態の圃場を耕耘する耕耘爪と該耕耘爪の両側方及び上方を覆うカバーとを設け、更に
前記耕耘爪を耕耘用の作溝爪と、この作溝爪より長寸で、且つ先端の掘削作用面において圃場の耕耘とカバー内に溜まる土の掻き取りを行う掻取爪とで構成し、当該カバーの内壁に付着する土の抵抗によって動力損失が発生することを軽減させる部分耕耘直播装置が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2000−139104号公報(第2−3頁、図1−図3)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そして、上述した部分耕耘直播装置による水稲の乾田直播作業においては、先ず耕耘ユニットに備える耕耘爪によって不耕起状態の圃場面を掘削して耕起溝を形成すると共に、前記耕耘爪の後方に放擲される土塊をカバーにより捕集して耕起溝上に播種床を形成し、次いで耕耘ユニットの後方に配置した播種ユニットに備える溝切り刃によって前記播種床に播種溝を形成した後、この播種溝に繰出装置を介して種子タンク内の水稲の種子を供給しながら播種し、更に当該播種ユニットに備える覆土板によって播種溝を覆土すると共に該播種溝の上部を鎮圧ローラでもって押圧整地していた。
【0005】
しかし、上述の如く乾田直播作業を行った後に強い雨が降った場合は、水稲の種子の播種床を形成すべく掘削した耕起溝に雨水が排水されずに溜まり、この雨水に水稲の種子が長時間浸漬されると酸欠状態となって、発芽する直前の当該種子が腐ってしまうといった重大な不具合が発生する虞があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決することを目的としたものであって、耕耘軸の軸方向に所定の播種条間を存して複数本の耕耘爪を放射状に取り付け、該耕耘爪を回転駆動させることにより不耕起状態の圃場に耕起溝を形成し、且つ前記耕耘爪の後方に放擲される土塊を捕集して耕起溝上に播種床を形成する耕耘ユニットと、該耕耘ユニットの後方に、前記播種床に播種溝を形成する溝切り刃と、前記播種溝に種子タンク内の種子を繰り出して播種する繰出装置と、種子を播種した後の播種溝に覆土する覆土板と、前記播種溝の上部を押圧整地する鎮圧ローラを備える播種ユニットを配置した部分耕耘直播装置において、前記耕起溝を形成する複数本の耕耘爪は、耕耘軸への取り付け基部から連続的に形成される縦刃部と、該縦刃部の先端を一側に折り曲げ形成した横刃部とを有し、且つ当該複数本の耕耘爪を、横歯部先端を耕耘軸の軸方向に左右内向きに取り付けたものと、横刃部先端を耕耘軸の軸方向に左右外向きに取り付けたものとで構成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、耕耘軸の軸方向に所定の播種条間を存して複数本の耕耘爪を放射状に取り付け、これら耕耘爪を回転駆動させることにより不耕起状態の圃場に耕起溝を形成し、且つ前記耕耘爪の後方に放擲される土塊を捕集して耕起溝上に播種床を形成する耕耘ユニットと、この耕耘ユニットの後方に、前記播種床に播種溝を形成する溝切り刃と、前記播種溝に種子タンク内の種子を繰り出して播種する繰出装置と、種子を播種した後の播種溝に覆土する覆土板と、前記播種溝の上部を押圧整地する鎮圧ローラを備える播種ユニットを配置した部分耕耘直播装置において、前記耕起溝を形成する複数本の耕耘爪は、耕耘軸への取り付け基部から連続的に形成される縦刃部と、該縦刃部の先端を一側に折り曲げ形成した横刃部とを有し、且つ当該複数本の耕耘爪を、横歯部先端を耕耘軸の軸方向に左右内向きに取り付けたものと、横刃部先端を耕耘軸の軸方向に左右外向きに取り付けたものとで構成したことによって、これら横歯部先端を耕耘軸の軸方向に左右内向きに取り付けた耕耘爪により所望幅の耕起溝が形成されると共に、横刃部先端を耕耘軸の軸方向に左右外向きに取り付けた耕耘爪によって、前記耕起溝の両側面から底部両端にかけて凹陥部が形成され、次いでこの凹陥部から土壌の亀裂が派生する。したがって、乾田直播作業を行った後に強い雨が降った場合、種子の播種床を形成すべく掘削した耕起溝に溜まろうとする雨水を、前記凹陥部から派生した土壌の亀裂部分に浸透させながら排水することができるようになり、従来のように、種子が雨水に長時間浸漬され酸欠状態となって、発芽する直前で腐ってしまうといった重大な不具合が発生することを回避できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
次に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1及び図2は、トラクタ等の機体後部に備える昇降リンク機構を介して連結される部分耕耘直播装置11の側面図及び平面図であって、当該部分耕耘直播装置11は、前記昇降リンク機構に着脱可能に連結される耕耘ユニット12と、この耕耘ユニット12から後方に突出するツールバー13に、ホルダ14及び平行リンク機構15を介して昇降可能に連結した播種ユニット16を備えている。
【0009】
耕耘ユニット12は、トラクタ等の機体側からPTO動力が入力されるギヤケース17と、このギヤケース17の左右の両側には、耕耘ユニット12の横伝動筒を兼ねる筒状アーム18L,18Rとを備え、左側筒状アーム18Lの外端(左端側)には伝動ケースであるチェンケース19、一方右側筒状アーム18Rの外端(右端側)には図示しないサイドプレートを固設すると共に、チェンケース19とサイドプレートの間に所定の播種条間を存して、複数本の耕耘爪21を放射状に螺設してなる耕耘軸22を回転可能に支承した、所謂サイドドライブ方式の伝動機構を採用している。そして、耕耘ユニット12の後方には、耕深調節用の尾輪23をツールバー13に支持している。
【0010】
また、播種ユニット16は、稲や麦等の種子を収容する種子タンク24と、この種子タンク24内の種子を播種溝に向け繰り出して播種する繰出装置25と、播種溝形成用の溝切り刃26、更に種子を播種した後の播種溝に覆土する覆土板27、播種溝の上部を押圧する鎮圧ローラ28及び接地輪29を備えている。
【0011】
更に詳しくは、上述したギヤケース17に入力されたPTO動力が、チェーンケース19を介して耕耘軸22に伝動され、この耕耘軸22の軸方向に所定の播種条間を存して放射状に螺設した複数本の耕耘爪21を、部分耕耘直播装置11が牽引されるトラクタ等の車輪と同一の回転方向(正転)に正回転駆動(図中A矢印方向)させることによって、不耕起状態の圃場Sにおいて、種子の播種位置のみを部分耕起することができるようになっている。
【0012】
そして、耕耘軸22に放射状に螺設される複数本の耕耘爪21は、側面視において、その取り付け基部Bから連続的に形成される外周方向に湾曲した形状の縦刃部aと、この縦刃部a先端を耕耘軸22の回転方向に対して左または右側方に折り曲げ形成した横刃部bを有し、且つ該横刃部bの上面側には、土塊をすくい上げて放擲する作用面である図示しないすくい面を備えており、図3に示すように、これら複数本の耕耘爪21のうち、少なくとも2本の耕耘爪21の横歯部b先端を耕耘軸22の軸方向に左右外向きに螺設する(取り付ける)一方、その他複数本の耕耘爪21の横歯部b先端を耕耘軸22の軸方向に左右内向きに螺設し、このように耕耘軸22に対して放射状に螺設した複数本の耕耘爪21を正回転駆動させることによって、図3及び図4に示す幅狭(約50mm幅)な耕起溝Dを形成することができるようになっている。
【0013】
即ち、上述の如く横歯部b先端を耕耘軸22の軸方向に左右内向きに取り付けた複数本の耕耘爪21により所望幅の耕起溝Dが形成されると共に、横歯部b先端を耕耘軸22の軸方向に左右外向きに取り付けた少なくとも2本の耕耘爪21によって、当該耕起溝Dの両側面から底部両端にかけて凹陥部E,Eが形成され、次いで横刃部bの上面側に備えるすくい面の放擲作用によりこの凹陥部E,Eから土壌の亀裂C,Cが派生する。したがって、乾田直播作業を行った後に強い雨が降った場合、種子の播種床を形成すべく掘削した耕起溝Dに溜まろうとする雨水を、前記凹陥部E,Eから派生した土壌の亀裂C,C部分に浸透させながら排水することができるようになり、従来のように、種子が雨水に長時間浸漬され酸欠状態となって、発芽する直前で腐ってしまうといった重大な不具合が発生することを回避できる。
【0014】
また、上述した耕耘爪21の上方を覆う円弧状に形成したロータリカバー31の後端には、支点Pを回動中心として図中G矢印方向に上下回動可能なリヤカバー32を設けている。このリヤカバー32は、ロータリカバー31に設けた支持部材31aに連結するロッド33を介して上下高さ位置(回動高さ位置)を調節することができる構成になっている。
【0015】
そして、正回転駆動する耕耘爪21により耕起破砕された土塊の大部分は耕耘爪21の後方に放擲されるので、その土塊を効率よく捕集して耕起溝D上に適切な播種床F(図3及び図4参照)を形成すべく、耕耘爪21の後方側を覆う整地体34を、ボルト35とナット36を用いてリヤカバー32の下面側から固定できるように構成している。
【0016】
更に、整地体34は、リヤカバー32の上下方向(図1に示すH矢印方向)に二点鎖線で示す如く進退調節することができ、上述した図中G矢印方向のリヤカバー32の上下回動による高さ位置調節を併用することによって、不耕起状態の圃場Sにおける雑草の生育具合や土質に応じた適切な播種床Fを形成することができるようになっている。
【0017】
即ち、整地体34を、図4に示すように、耕耘爪21の後方側を覆ってその後端側が徐々に狭くなるコの字の土塊捕集形状とし、更に当該整地体34の側面視形状34aを図1に示す如く下側が広幅となるように形成することによって、耕耘爪21の後方に放擲される土塊の飛散を抑制しながら当該土塊を効果的に捕集して適切な播種床Fを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】部分耕耘直播装置の側面図。
【図2】部分耕耘直播装置の一部省略平面図。
【図3】図1におけるN矢視図。
【図4】図1におけるH矢視図。
【符号の説明】
【0019】
11 部分耕耘直播装置
12 耕耘ユニット
16 播種ユニット
21 耕耘爪
22 耕耘軸
24 種子タンク
25 繰出装置
26 溝切り刃
27 覆土板
28 鎮圧ローラ
a 縦刃部
b 横刃部
D 耕起溝
F 播種床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
耕耘軸(22)の軸方向に所定の播種条間を存して複数本の耕耘爪(21)を放射状に取り付け、該耕耘爪(21)を回転駆動させることにより不耕起状態の圃場に耕起溝(D)を形成し、且つ前記耕耘爪(21)の後方に放擲される土塊を捕集して耕起溝(D)上に播種床(F)を形成する耕耘ユニット(12)と、該耕耘ユニット(12)の後方に、前記播種床(F)に播種溝を形成する溝切り刃(26)と、前記播種溝に種子タンク(24)内の種子を繰り出して播種する繰出装置(25)と、種子を播種した後の播種溝に覆土する覆土板(27)と、前記播種溝の上部を押圧整地する鎮圧ローラ(28)を備える播種ユニット(16)を配置した部分耕耘直播装置(11)において、前記耕起溝(D)を形成する複数本の耕耘爪(21)は、耕耘軸(22)への取り付け基部から連続的に形成される縦刃部(a)と、該縦刃部(a)の先端を一側に折り曲げ形成した横刃部(b)とを有し、且つ当該複数本の耕耘爪(21)を、横歯部(b)先端を耕耘軸(22)の軸方向に左右内向きに取り付けたものと、横刃部(b)先端を耕耘軸(22)の軸方向に左右外向きに取り付けたものとで構成したことを特徴とする部分耕耘直播装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−20427(P2007−20427A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−203744(P2005−203744)
【出願日】平成17年7月13日(2005.7.13)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】