説明

配向制御したCo酸化物多結晶体の製法

【課題】結晶配向を制御したセラミックスの製法の提供。このように結晶配向制御されたセラミックスは電気抵抗に異方性を持ち、熱電変換セラミックスとして利用することができる。
【解決手段】拡散による結晶粒間の変形の緩和が生じうる温度と歪み速度を選定することにより大歪み加工を達成した。即ち、不整合結晶構造を持つCo酸化物から成る多結晶を800℃以上から該結晶の融点の30℃下の温度までの温度範囲にて1.0×10−5〜1.0×10−3−1の歪み速度で圧縮加工を行うことにより、この多結晶の(001)面上ですべり変形を生じさせることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、結晶配向制御により製造されたセラミックスの製法に関し、より詳細には、(001)面内のすべり変形が生じ塑性変形した不整合結晶構造を持つCo酸化物の製法に関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックスは一般にパイエルスポテンシャルが高く、多結晶体の塑性変形に必要な独立すべり系の数が十分に確保できないために、塑性変形を目的として大きな力を加えても塑性変形を生ずることなく破壊するのが通常である。それゆえセラミックスには金属材料と異なり塑性加工による配向制御技術は存在しなかった。
一方、熱電変換セラミックスの性能指数を配向制御により増大させるために、成形体を一軸加圧しながら原料の一部を部分溶融させ、そして徐冷する方法が提示されている(特許文献1)。また、針状や板状等の異方形状粉末を成形体中に相対的に高い配向度で存在させ、この異方形状粉末をテンプレートまたは反応性テンプレートとして用いて酸化物の成長および/または合成ならびにその焼結を行い、配向を整えることも行われている。スラリー状態での圧延の有用性も提示されている(非特許文献2)。
なお、本発明者らは一般式Bi2-xPbxSr3-yYyCo2O9-δで表されるセラミックスが熱電特性を有することを報告している(非特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特開2001-19544 (特許第3089301号)
【特許文献2】特開2003-282965
【特許文献3】J. Phys. D: Appl. Phys. 34 (2001) 1017-1024
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のセラミックスの結晶配向制御技術は、再結晶によって所望の結晶が得られる物質系や組成のみに適用が限定されていたり、異方形状粉末の作製やスラリー化など複雑な工程を必要とする等の難点があった。
金属材料では、圧延などの塑性加工技術により大きな塑性変形を加えて結晶配向を整える多様な集合組織制御技術が確立されているが、セラミックスにおいても、結晶性の材料を特定の結晶面に沿ったすべり、即ち結晶すべり変形により、大きく塑性変形させることができれば、結晶の配向を整えることができると考えられる。
本発明は、セラミックスの結晶配向を制御する方法及び結晶配向制御により製造されたセラミックスを提供することを目的とする。このように結晶配向制御されたセラミックスは異方性を持ち、熱電変換セラミックスの場合には、電気抵抗が低い方向を利用することにより、性能指数の向上した熱電変換セラミックスとして利用することができる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明が対象とする不整合結晶構造(misfit structure)を持つCo酸化物(層状の結晶構造を有するセラミックス)では、(001)面内に最隣接原子間距離の短い方向があり、融点に近い温度まで昇温すればパイエルスポテンシャルを乗り越えて完全転位を活動させることができる。この場合、(001)面内には独立なすべり系が2つしか存在しないので、多結晶体を大きく変形させることは困難である。
本発明においては、拡散による結晶粒間の変形の緩和が生じうる温度と歪み速度を選定することにより大歪み加工を達成することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
即ち、本発明は、不整合結晶構造を持つCo酸化物から成る多結晶を800℃以上から該結晶の融点の30℃下の温度までの温度範囲にて1.0×10−5〜1.0×10−3−1の歪み速度で圧縮加工を行うことから成り、該Co酸化物が、[CaCoO3-x]1-yCoO2-z(式中、x=0.2〜0、y=0.4〜0、z=0.2〜0)、[(Ca1-xSr xCoO3-y]1-zCoO2-w(式中、x=0.2〜0、y=0.2〜0、z=0.4〜0、w=0.2〜0)又は[(Ca(Co、Cu)2−x4−y]0.63-zCoO2-w(式中、x=-0.1〜0.1、y=0.3〜0、z=-0.1〜0.1、w=0.2〜0)である、Co酸化物多結晶体の製法である。
この圧縮加工は、単軸圧縮加工、平面ひずみ圧縮加工、圧延、押出加工等の塑性加工法を用いてもよい。
この不整合結晶構造を持つCo酸化物に、更に、800℃以上から該結晶の融点の30℃下の温度までの温度範囲にて12〜50時間の焼鈍を加えてもよい。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、配向方向がランダムな結晶粒から成る多結晶のセラミックスを塑性変形することにより、配向を一定方向にそろえたセラミックスを提供することを可能にした。
本発明の不整合結晶構造を持つCo酸化物は、高温加工によって塑性変形が進行し、緻密化と集合組織形成が実現され、その結果、熱電特性が向上した。
また、本発明の材料は、700℃近傍まで使用できる高温用熱電変換材料として、化石燃料熱電変換発電機はもとより、工場やゴミ焼却場等における燃焼で生じ従来廃棄されてきた熱を直接電気エネルギーに変換するエネルギー供給装置に利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】Bi1.5Pb0.5Sr1.7Y0.5Co2O9-δの結晶構造を示す図である。図中、上下方向(結晶のc軸方向)を法線とする原子面が(001)面である。
【図2】製造例1で作成した多結晶の回折パターンを示す図である。
【図3】製造例1で作成した多結晶の断面写真(SEM)である。
【図4】参考例1で高温単軸圧縮加工を行った結晶の回折パターンを示す図である。
【図5】参考例1で高温単軸圧縮加工を行った結晶の正極点図を示す図である。同心円状の曲線は外側から順に平均極密度が1,2,3,4,5,6倍の極密度が存在する位置を示す。
【図6】参考例1で高温単軸圧縮加工を行った結晶の断面写真(SEM)である。図の縦方向が圧縮加工方向である。
【図7】参考例2で高温単軸圧縮加工を行った結晶の密度変化を示す図である。縦軸は密度(g/cm2)を示し、横軸は歪み量を示す。
【図8】参考例2で高温単軸圧縮加工を行った結晶の正極点図を示す図である。
【図9】参考例2で高温単軸圧縮加工を行った結晶の抵抗率を示す図である。
【図10】参考例4で高温平面ひずみ圧縮加工を行った結晶の回折パターンを示す図である。
【図11】参考例4で高温平面ひずみ圧縮加工を行った結晶の正極点図を示す図である。同心円状の曲線は外側から順に平均極密度が1,2,3,4,5,6,7倍の極密度が存在する位置を示す。
【図12】実施例1で高温単軸圧縮加工を行った結晶の正極点図を示す図である。
【図13】実施例2で高温単軸圧縮加工を行った結晶の正極点図を示す図である。
【図14】実施例2で作成した結晶の電気抵抗測定結果を示す図である。
【図15】実施例2で作成した結晶の電気抵抗測定結果を示す図である。
【図16】参考例2で作成したBi1.5Pb0.5Sr1.7Y0.5Co2O9-δ(右図)と実施例1で作成した[(Ca0.9Sr0.1)2 CoO3]0.62CoO2と実施例2で作成した[Ca2CoO3]0.62CoO2(左図)の結晶構造を示す図である。
【図17】製造例3で作成した多結晶のX線回折パターンを示す図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の高配向性多結晶体セラミックスは、不整合結晶構造を持つCo酸化物である。
「不整合結晶構造」とは、CoO電子伝導層を含む複数の層の積層で構成されるCo酸化物はc軸方向に層が積み重なり、それと垂直方向にaおよびb軸があり、b軸方向のCoO層の格子定数とこの層と上と下で接する他の層の格子定数の比が無理数である構造を意味する。ただし、総ての層のa軸方向の格子定数は等しい。
このセラミックスは、層状結晶構造を有し、シュルツの反射法で測定した正極点図における極密度の最大値が、平均極密度の10倍以上である。この層状結晶構造とは、例えば図1に示すようにCoO層からなる第1副格子と、CoOとは異なる層からなる第2副格子が所定の周期で堆積した構造をいう。
不整合結晶構造は、X線回折法で確認できるが、中性子線解析によりより精確に確認することができる。
また、組成はEDX測定法により確認することができ、より精確には湿式分析で確認できるが、酸素量の決定はいずれの方法を用いても一般には困難である。
【0010】
この不整合結晶構造を持つCo酸化物は、[CaCoO3-x]1-yCoO2-z(式中、x=0.2〜0、y=0.4〜0、z=0.2〜0)、[(Ca1-xSr xCoO3-y]1-zCoO2-w(式中、x=0.2〜0、y=0.2〜0、z=0.4〜0、w=0.2〜0)又は[(Ca(Co、Cu)2−x4−y]0.63-zCoO2-w(式中、x=-0.1〜0.1、y=0.3〜0、z=-0.1〜0.1、w=0.2〜0)であるが、本発明の実施上、[(Ca1-xSr xCoO3-y]1-zCoO2-w(式中、x=0.2〜0、y=0.2〜0、z=0.4〜0、w=0.2〜0)及び [CaCoO3-x]1-yCoO2-z(式中、x=0.2〜0、y=0.4〜0、z=0.2〜0)が重要である。
【0011】
「多結晶」は、サイズは約1〜10μm程度の上記の多数の単結晶が様々な方向をもって集合したものである。この多結晶はこの組成の粉末を集合させて燒結することにより得ることができる。
【0012】
「圧縮加工」は、対象となる物体に圧縮力を加えて形状を変える塑性加工法である。
本願発明の"不整合結晶構造を持つCo酸化物の多結晶体"に圧縮加工を施すと、このCo酸化物多結晶体を構成し様々な方向を向いた結晶粒の(001)面上ですべり変形が生じる。すべり変形によって、多結晶体の圧縮方向の長さが減少する塑性変形が生ずる。このすべり変形の結果、各結晶の(001)面が圧縮面に平行になる位置まで回転する。すなわち、多結晶体を構成する結晶粒の(001)面の法線方向が、圧縮加工を加えた方向と一致するように結晶が回転する。
【0013】
「単軸圧縮加工」は、一軸の圧縮力を作用させる塑性加工法である。
「平面ひずみ圧縮加工」は、一軸の圧縮力を作用させる際、対象となる物体における圧縮力と直交する方向への変形のうち、一方向への変形を阻止し、残る一方向のみへの変形を許す圧縮加工法である。
この圧縮加工の温度は800℃以上から該結晶の融点の30℃下の温度までの温度範囲である。結晶の融点の30℃下の温度とは、この結晶の融点に近く、結晶が固体状態である温度を示す。なお、結晶の融点は、熱分析により測定する。
この圧縮加工の歪み速度は、圧縮速度を被圧縮物の高さで除したものをいい、1.0×10−5〜1.0×10−3−1、好ましくは2.0×10−5〜8.0×10−5−1である。歪み速度が1.0×10−5−1以下では、十分な歪みを与えるのに多大な時間がかかるだけでなく、主たる変形機構が結晶すべり変形から拡散クリープに変化し、結晶配向が十分整わない多結晶体となり、歪み速度が1.0×10−4−1以上では、すべり系の不足を緩和するための拡散の寄与が不足する。
【0014】
焼鈍は、結晶すべり変形の際に増殖した転位等の格子欠陥の除去のために行い、800℃以上から該結晶の融点の30℃下の温度までの温度範囲で加熱する。加工後に焼鈍を施すことにより、転位等の回復が生じ、電気抵抗をさらに低減させることができる。
【実施例】
【0015】
以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
以下の実施例でX線回折は、半自動ディフラクトメーター(マックサイエンス社製)を用いて、α=0度(板材面法線方向)〜75度の範囲で測定を行い、得られた回折強度より正極点図を得た。測定方法は、Schulz反射法であり、CuKα線、管電圧40kV、管電流30mAで行った。
また、組織写真は走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて行った。未加工の焼結体の試料はダイアモンドカッターで薄く切り取ってからその表面を、加工済みの試料は試験片の圧縮面に対して垂直な面を観察した。
電気抵抗は、試料に電極を取り付けた後、銀ペーストで銅線を試料に接続し、四端子法で測定した。測定の手順は、作製した試料をデュアー瓶(OXFORD製)にセットし、油回転ポンプで真空を引き、その状態で液体窒素を媒体として約80Kから340Kまでの上昇時に、電流を10mA印加した時(加工材は100mA)の電圧値を1Kの温度間隔でGP−IB制御のもと測定した。温度は銅―コンスタンタン熱電対を用いて測定した。
【0016】
製造例1
Bi2O3(純度99.9%、和光純薬工業(株))、PbO2(純度97%、ナカライデスク(株))、Sr2O3(純度99.9%、添川理化学(株))、Y2O3(純度99.9%、和光純薬工業(株)) およびCo3O4(純度99.9%、添川理化学(株))、をモル比を45:30:51:15:40として総重量15g程度になるように秤量し、メノウ乳鉢を使用して、メタノールを用いて湿式混合を行った。混合時間は1時間30分であった。
次に、この混合物を、メノウ製のボールミルとミリング機(SPEX社製CertiPrep)を用いて60分間乾式混合を行った。
次に、試料をアルミナボートに入れて、マッフル炉で790℃で12時間の仮焼を行った。
仮焼の終了した試料は粒成長しているために、メノウ乳鉢を用いて乾燥粉砕することによって粉末を微細化させた。
得られた粉末を、直径約11mm、高さ約4mmの円柱に成形し、アルミナボート内に入れて、空気中でマッフル炉で840℃で24時間焼成した。
得られた結晶は、組成がBi1.5Pb0.5Sr1.7Y0.5Co2O9-δの不整合結晶構造を持つCo酸化物であり、約1〜10μm程度の結晶粒が集合した多結晶であった。そのX線回折パターンを図2に、結晶の断面写真(SEM)を図3に示す。この結晶の融点は930℃であった。
【0017】
参考例1
製造例1で作製した試料を、2tオートグラフ(島津製作所製)を使用して、円柱の軸方向に直角にマグネシアプレートで挟んで、赤外線イメージ炉で加熱した。温度が840℃まで上昇する間、熱電対を用いて試料の温度を測定した。目標温度に達しても治具の熱膨張が続くので収まるまで約70分間、温度を保持した。
温度保持後、2tオートグラフで試料の円柱の軸方向に沿ってクロスヘッドスピード一定(5.0×10-3mm/min、歪み速度2.0×10-5s-1に相当する。)で圧縮することにより、高温単軸圧縮加工を行った。結果を表1に示す。
【表1】

得られた試験片の円柱の軸に垂直面の回折パターンとその正極点図を図4及び図5に示す。回折パターンにおいて30度付近に飛びぬけて大きなピークが確認できたのでこのピークの正極点図をとり、Imaxを測定した。この正極点図から、(001)面が圧縮面に平行に配向し、(001)面の法線回りに様々な角度回転していることが分かる。
得られた試験片の円柱の軸に平行方向の断面写真(SEM)を図6に示す。この写真から圧縮方向(図の縦方向)に垂直な方向と平行な方向とで結晶粒の寸法が異なっており、圧縮方向に塑性変形が生じたことがわかる。
【0018】
参考例2
最終歪が0.47、0.9、1.27、1.87となるよう参考例1と同様の操作を行った。その密度を図7に示し、正極点図を図8に示し、抵抗率を図9に示す。
図7の密度変化から、歪みが0.9付近まで密度が単調に増大し、焼結体が緻密化していることがわかる。この段階までが従来技術で採用されているホットプレスの工程である。本技術では、加工条件を上記のように設定することにより、さらに圧縮を継続し、最大で真歪み1.87までの塑性加工を達成した。この時製品にはクラックなどは認められず、健全材であることが確認できた。
シュルツの反射法により定めた(001)極点図(図8)における極密度の最大値は、加工前には1.0であるが歪み量の増大とともに11.7まで増大し、高い配向が実現された。
電気抵抗は、図9に示す様に、真歪み1.87までの加工によって、歪み量(ε)の増大と共に単調に低下している。また、平面歪み圧縮で製造された素材は真歪み1.87までの加工材よりも低い比抵抗を示している。さらに、本方法で作成された素材の電気抵抗は、高温域でも低い値を維持している。
【0019】
参考例3
参考例2で圧縮加工した試料(歪み1.87のもの)をマッフル炉により空気中840℃で24時間焼鈍処理を行った。その抵抗率を図9に示す。焼鈍により電気抵抗がさらに低減し、最高で二十分の一まで低下した。すなわち、本発明の配向制御技術によって高配向化を実現することにより、熱電特性の性能指数が20倍と飛躍的に向上した。
【0020】
参考例4
単軸圧縮で用いたマグネシアプレートを幅5mmの短冊状に切り取り、それを製造例1で作製した試料の円柱の軸方向から垂直にあてがって加圧することにより、高温平面ひずみ圧縮加工を行った。
参考例1と同様に、840℃にて2tオートグラフで試料の円柱の軸方向に沿ってクロスヘッドスピード一定(5.0×10-3mm/min、歪み速度2.0×10-5s-1に相当する。)で圧縮することにより、高温平面ひずみ圧縮加工を行った。結果を表2に示す。
【表2】

【0021】
また、得られた試験片の円柱の軸に垂直面の回折パターンとその正極点図を図10及び図11に示す。参考例1(高温単軸圧縮加工)の正極点図(図5)においては、(001)面が揃っているが、その方向は揃っていなかったが、本実施例(高温平面ひずみ圧縮加工)においては、正極点図から、(001)面が面法線に対して同心円状には分布しておらず、この面が圧縮面に平行に配向しているだけでなく、特定の方向に揃っていることを示しており、平面ひずみ圧縮によって面と方向を揃えることができたと考えられる。つまり単結晶に近い組織の方向性を持った材料ができたと考えられ、優れた熱電特性を持つと考えられる。
【0022】
製造例2
CaCO3(和光純薬工業(株)製、純度99.9%)、Co3O4(レアメタリック株式会社製、純度99.9%)、SrCO3(和光純薬工業(株)製、純度99.9%)の原料粉末を[(Ca0.9Sr0.1)2 CoO3]0.62CoO2になるよう秤量し、湿式混合後920℃で12時間仮焼きした。仮焼き後粉砕して粉末化した後一辺が6mmの立方体形状にプレス成形し、920℃で24時間焼結した。さらに酸素雰囲気中700℃で12時間最終焼鈍を行った。この結晶の融点は1350〜1400℃であった。
【0023】
実施例1
製造例2で作製した試料を、2tオートグラフ(島津製作所製)を使用して、角柱の軸方向に直角にマグネシアプレートで挟んで、赤外線イメージ炉で加熱した。温度が880℃まで上昇する間、熱電対を用いて試料の温度を測定した。目標温度に達しても治具の熱膨張が続くので収まるまで約70分間、温度を保持した。
温度保持後、2tオートグラフで試料の角柱の軸方向に沿ってクロスヘッドスピード一定(2.0×10-2mm/min、歪み速度5.5×10-5s-1に相当する。)で真歪み−1.14まで圧縮することにより、高温単軸圧縮加工を行った。この試料について計測した(001)正極点図を図12に示す。投影面は圧縮面、平均極密度を1としている。図の中心、すなわち圧縮面法線位置に最大極密度が12を越える高い極密度の集積が確認される。また、同心円状に極密度の集積が広がっている。この結果は参考例2と同様である。
【0024】
製造例3
[Ca2CoO3]0.62CoO2粉末(セイミケミカル株式会社製)を用いて直径11mm高さ5mmの円柱状母材をプレス成形で作成した後、920℃で24時間焼結した。
【0025】
実施例2
製造例3で作製した試料を、2tオートグラフ(島津製作所製)を使用して、円柱の軸方向に直角にマグネシアプレートで挟んで、赤外線イメージ炉で加熱した。温度が920℃まで上昇する間、熱電対を用いて試料の温度を測定した。目標温度に達しても治具の熱膨張が続くので、収まるまで約70分間、温度を保持した。
温度保持後、2tオートグラフで試料の円柱の軸方向に沿ってクロスヘッドスピード一定(2.0×10-2mm/min、歪み速度6.7×10-5s-1に相当する。)で真歪み−1.01まで圧縮することにより、高温単軸圧縮加工を行った。この試料について計測した(001)正極点図を図13に示す。投影面は圧縮面、平均極密度を1としている。図の中心、すなわち圧縮面法線位置に最大極密度が17を越える高い極密度の集積が確認される。また、同心円状に極密度の集積が広がっている。この結果は参考例2及び実施例1と同様で、電導面が圧縮面に平行に頻度高く配向していることを示している。
実施例2の電気抵抗を、試料に電極を取り付けた後、銀ペーストで銅線を試料に接続し、四端子法で測定した。その結果を図14と図15に示す。
図14は[Ca2CoO3]0.62CoO2の比抵抗の測定結果を、比較のため、図9に示したBi1.5Pb0.5Sr1.7Y0.5Co2O9-δの結果の中で比抵抗値が低い、-1.87加工材と平面歪み圧縮材の結果ともに示したものである。[Ca2CoO3]0.62CoO2については加熱時と冷却時の結果を示してある。配向が制御された[Ca2CoO3]0.62CoO2はBi1.5Pb0.5Sr1.7Y0.5Co2O9-δの数分の一となる、低い電気比抵抗値を1000Kまで示している。図15は[Ca2CoO3]0.62CoO2の結果を拡大して示したものである。電気比抵抗は最小で2mΩcm以下に達している。
【0026】
いずれもミスフィット構造を持つ層状酸化物である参考例2(Bi-Sr-Co-O)及び実施例1と実施例2(Ca-Co-O)の結晶構造を図16に示す。
図17はX線回折により [Ca2CoO3]0.62CoO2の結晶構造を確かめた結果である。[(Ca0.9Sr0.1)2 CoO3]0.62CoO2は[Ca2CoO3]0.62CoO2のCaをSrで一部置換した材料であるので、結晶構造は[Ca2CoO3]0.62CoO2と同じである。参考例2ではCoO2層間に4層の絶縁体層、実施例1及び実施例2ではCoO2層間に3層の絶縁体層が存在している違いはあるが、いずれについても本手法による結晶配向制御が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不整合結晶構造を持つCo酸化物から成る多結晶を800℃以上から該結晶の融点の30℃下の温度までの温度範囲にて1.0×10−5〜1.0×10−3−1の歪み速度で圧縮加工を行うことから成り、該Co酸化物が、[CaCoO3-x]1-yCoO2-z(式中、x=0.2〜0、y=0.4〜0、z=0.2〜0)、[(Ca1-xSr xCoO3-y]1-zCoO2-w(式中、x=0.2〜0、y=0.2〜0、z=0.4〜0、w=0.2〜0)又は[(Ca(Co、Cu)2−x4−y]0.63-zCoO2-w(式中、x=-0.1〜0.1、y=0.3〜0、z=-0.1〜0.1、w=0.2〜0)である、Co酸化物多結晶体の製法。
【請求項2】
前記圧縮加工が単軸圧縮加工である請求項1に記載の製法。
【請求項3】
前記圧縮加工が平面ひずみ圧縮加工である請求項1に記載の製法。
【請求項4】
更に、800℃以上から該結晶の融点の30℃下の温度までの温度範囲にて12〜50時間の焼鈍を加えることから成る請求項1〜3のいずれか一項に記載の製法。

【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図3】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−63906(P2013−63906A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−254066(P2012−254066)
【出願日】平成24年11月20日(2012.11.20)
【分割の表示】特願2007−524581(P2007−524581)の分割
【原出願日】平成18年7月4日(2006.7.4)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】