説明

配管防食用埋設電極の寸法推定方法及び装置

【課題】配管防食用電極の寸法を、土壌抵抗率を測定することなく高精度で推定可能とする。
【解決手段】地中に埋設した配管防食用電極(Mg電極)20と、該配管防食用電極20から所定距離Lだけ離して配置した補助電極22の間に電流を流し、前記配管防食用電極20直上の地表面に配設した第1の照合電極26と、該第1の照合電極26から所定距離g離れた地表面に配設した第2の照合電極28に生じる地表面電位、及び、前記第2の照合電極28における目的とする交流の管対地電位Vを測定し、前記2つの照合電極26、28に生じる地表面電位の電位差ΔVと前記管対地電位Vから、土壌抵抗率ρを含まない所定の式を用いて、前記配管防食用電極20の有効寸法を計算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配管防食用埋設電極の寸法推定方法及び装置に係り、特に配管防食用マグネシウム電極の寸法を、土壌抵抗率を測定することなく高精度で推定することが可能な、配管防食用埋設電極の寸法推定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に埋設した配管を防食する技術の一つに、埋設管とMg(マグネシウム合金)電極間の固有電位差を利用して埋設管に防食電流を与える流電陽極法がある。この流電陽極法では、Mg電極が電流の流出により消耗するので、定期的に交換する必要がある。そのため、埋設したMg電極の大きさ(消耗量)を測定する技術として、Mg電極の電気量容量や残存容量からMg電極の消耗度や残存機能日数を知る技術が、特許文献1や2で提案されている。しかしながら、その精度は高くなく、精度の高い寸法推定技術が求められていた。
【0003】
また、Mg電極は、中性土壌中では表面に安定な酸化マグネシウムの皮膜が生成するため、防食対象となる炭素鋼電位よりも貴な電位となり、防食性能を発揮しない。そのため、Mg電極は通常ベントナイトと石膏、および芒硝等を混合したバックフィルと呼ばれる物質で覆われている。このバックフィルの抵抗率は土壌抵抗率と異なるため、土壌抵抗率を用いた従来法ではMg電極の寸法推定精度を低下させる原因となっていた。
【0004】
一方、接地電極などの接地抵抗を求めることは広く行われており、接地抵抗Rは、図1に示す如く、電位補助電極14と接地電極10との距離をg、接地電極10に流れる電流をI、土壌抵抗率をρ、接地電極10を半球と仮定しその有効半径をr、電流補助電極12と接地電極10との間隔をLとすると、次式で示される(非特許文献1参照)。
【数1】

【0005】
(1)式を変形すると接地電極10の有効半径rが求められる。
【数2】

【0006】
ここから、有効半径rを計算し、埋設前の有効半径r0と比較することで消耗量を推測することが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6−294770号公報
【特許文献2】特許第3214778号公報
【特許文献3】特開2002−131347号公報
【特許文献4】特開2002−131348号公報
【特許文献5】特開2002−131350号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】川瀬太郎監修、高橋健彦著 図解接地技術入門,オーム社 143〜145頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、この方法であると、土壌抵抗率ρを別途計測する技術を用いなければならない。土壌抵抗率は通常土壌杖と呼ばれる杖を土壌中に突き刺し、先端に設置された二つの電極間の抵抗から土壌抵抗率を測定する必要がある。
【0010】
しかし、礫の多い土壌など土壌抵抗率の測定が難しい箇所があり、土壌抵抗率を測定せずにMg電極の寸法を推測する方法が求められていた。
【0011】
この他にも接地抵抗を測定する方法として、特許文献3〜5などの方法が知られているが、やはり土壌抵抗率ρを別途計測する必要があった。
【0012】
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、配管防食用埋設電極の寸法を、土壌抵抗率を測定することなく高精度で推定可能とすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、地中に埋設した配管防食用電極と、該配管防食用電極から所定距離Lだけ離して配置した補助電極の間に電流を流し、前記配管防食用電極直上の地表面に配設した第1の照合電極と、該第1の照合電極から所定距離g離れた地表面に配設した第2の照合電極に生じる地表面電位、及び、前記第2の照合電極における目的とする交流の管対地電位Vを測定し、前記2つの照合電極に生じる地表面電位の電位差ΔVと前記管対地電位Vから、土壌抵抗率ρを含まない所定の式を用いて、前記配管防食用電極の有効寸法を計算することにより、前記課題を解決したものである。
【0014】
ここで、前記配管防食用電極を球と仮定し、その有効半径rを次式
【数3】

(ここで、dは前記配管防食用電極の埋設深さ、dは前記補助電極の埋設深さ)
により計算することができる。
【0015】
あるいは、前記配管防食用電極を棒状と仮定し、その初期長さをl、初期半径をrとするとき、あらかじめ測定で求めた有効半径rから、その腐食量xを次式
【数4】

をxについて解くことにより求めることができる。
【0016】
又、前記補助電極を、地表面に接する半球と仮定し、前記配管防食用電極の有効半径rを次式
【数5】

(ここで、dは前記配管防食用電極の埋設深さ、dは前記補助電極の埋設深さ)
により計算することができる。
【0017】
ここで、前記交流の周波数を1mHzから1kHzの間、好ましくは10mHzから500Hzの間とすることができる。
【0018】
本発明は、又、地中に埋設した配管防食用電極と、該配管防食用電極から所定距離Lだけ離して配置した補助電極の間に電流を流す手段と、前記配管防食用電極直上の地表面に配設した第1の照合電極と、該第1の照合電極から所定距離g離れた地表面に配設した第2の照合電極に生じる地表面電位、及び、前記第2の照合電極における目的とする交流の管対地電位Vを測定する手段と、前記2つの照合電極に生じる地表面電位の電位差ΔVと前記管対地電位Vから、土壌抵抗率ρを含まない所定の式を用いて、前記配管防食用電極の有効寸法を計算する手段と、を備えたことを特徴とする配管防食用埋設電極の寸法推定装置を提供するものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、配管防食用埋設電極の寸法を、土壌抵抗率を測定することなく高精度で推定することができる。従って、礫の多い土壌など土壌抵抗率の測定が難しい箇所であっても、配管防食用埋設電極の寸法を高精度で推定することが可能となる。
【0020】
又、Mg電極の周囲のバックフィルの厚さがMg電極から照合電極までの距離と比較して十分小さい場合には、従来法と比較してMg電極の寸法推定精度が高くなる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】従来の電位降下法による接地抵抗の測定を示す模式図
【図2】本発明の電位差法によるMg電極の寸法推定の概要を示す図
【図3】同じく実験例を示す平面図
【図4】同じく従来の電位降下法及び本発明の電位差法における側面図
【図5】同じくインピーダンス法における側面図
【図6】インピーダンス法による測定例を示す図
【図7】従来法及び本発明法による測定結果を比較して示す図
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下図面を参照して、本発明を詳細に説明する。
【0023】
埋設管と接地電極との間に例えば商業周波数以外の目的とする交流信号電圧を印加する電源と、損傷部に流れる電流によって形成される電位差を計測する電位差法を用いた本発明の第1実施形態であるMg電極接触抵抗測定装置を図2に示す。図において、20は配管防食用(埋設)電極に対応するMg電極、22は補助(電流)電極、24は、前記Mg電極20と補助電極22の間に電流を流すためのファンクションジェネレータ、26は、前記Mg電極20直上の地表面に配設した第1の照合電極、28は、該第1の照合電極26から所定距離gだけ離れた地表面に配設した第2の照合電極、30は、出力電流Ioutを測定するためのシャント抵抗、32はオシロスコープ、34はコンテナである。
【0024】
ここでMg電極20を球として仮定し、その有効半径をr1、地表面からMg電極20の埋設深さをd1とする。地表面に現れる電位V(x,y)は、地表面のある一点を基準とし、埋設管(例えば鋼管)の管軸方向をx、水平方向で管軸方向と垂直な方向をy、Mg電極20に流れる電流をI、土壌抵抗率をρとすると、無限遠を基準とする相対的なポテンシャルから次式で表わされる。
【数6】

【0025】
従って、第1の照合電極26の地表電位差V(0)は、(3)式でx=y=0とおいて、次式で表わされる。
【数7】

【0026】
このとき第2の照合電極28の地表面電位V(g)は、照合電極間の距離gを用い、(3)式でx=g、y=0とおいて、次式で表わされる。
【数8】

【0027】
従って、二つの照合電極26、28間の電位差ΔV1(=V(0)−V(g))は、次式で与えられる。
【数9】

【0028】
一方、補助電極22から出る電流による第1の照合電極26の電位は、補助電極22が深さd2にあると仮定すると、補助電極22からは出る電流を対象とするため、(3)式でx=L、y=0、d=dとおいて次式で表わされる。
【数10】

【0029】
一方、第2の照合電極28の地表面電位V(g)’は、次式で表わされる。
【数11】

【0030】
従って、二つの照合電極26、28間の電位差ΔV2(=V(0)’−V(g)’)は次式で与えられる。
【数12】

【0031】
従って二つの照合電極26、28に生じる電位差はΔV1とΔV2を合わせて次式のように表される。
【数13】

【0032】
一方、有効半径r1で埋設深さd1のMg電極20に電流Iが流れているとき、gがLよりも十分小さい場合、Mg電極20近傍の抵抗から、第2の照合電極28で測定した交流の管対地電位Vpは次式で表わされる。
【数14】

【0033】
これを電流Iについて整理すると次式が得られる。
【数15】

【0034】
この(12)式を(10)式に代入すると次式が得られる。
【数16】

【0035】
従って、Mg電極20の有効半径r1は次式で示される。
【数17】

【0036】
このようにして有効半径r1を計算することで、土壌抵抗率ρを測定することなく、Mg電極20の大きさを推定することができる。
【0037】
又、Mg電極20の初期形状を棒状と仮定し、その長さをl0、半径をr0、とすると抵抗RMgは次式で表わされる。
【数18】

【0038】
長さl0、半径r0は既知の値であり、腐食が全ての方向で均一(x)と仮定すると、長さはl0−2x、半径はr0−xとなる。Mg電極20の有効半径r1は(14)式から求められているから、(15)式は(16)式に表される。
【数19】

【0039】
(16)式の右側からρ/2πを消去すると次式が成立する。
【数20】

【0040】
有効半径r1は計算で求めているから、(17)式をxについて解けば、Mg電極20の長さ(l0−2x)、半径(r0−x)を求めることができる。
【0041】
あるいは、補助電極22を、地表面に接する有効半径がr2の半球と仮定しても良い。補助電極22から出る電流Iによるポテンシャルから、第1の照合電極26の電位V(0)’は、前出(7)式でd=0とおいて、表面積が球の半分であるから抵抗が2倍となり、次式で表わされる。
【数21】

【0042】
一方、第2の照合電極28の地表面電位V(g)’は、前出(8)式でd=0とおいて次式で表わされる。
【数22】

【0043】
従って、二つの照合電極26、28間の電位差ΔV2(=V(0)’−V(g)’)は次式で与えられる。
【数23】

【0044】
よって、二つの照合電極26、28間に生じる電位差は、前出(6)式で表わされるΔV1と、(20)式で表わされるΔV2を合わせて次式のように表される。
【数24】

【0045】
一方、有効半径r1のMg電極20に電流Iが流れているとき、第2の照合電極28で測定した交流の管対地電位をVpとすると次式が成立する。
【数25】

【0046】
これを電流Iについて整理すると次式が得られる。
【数26】

【0047】
この(23)式を(21)式に代入すると次式が得られる。
【数27】

【0048】
従って、有効半径r1は次式で示される。
【数28】

【0049】
このようにして有効半径r1を計算することで、土壌抵抗率ρを測定することなく、Mg電極20の大きさを推定することができる。
【0050】
なお、測定周波数は1mHzから1kHzの間、好ましくは10mHzから500Hzで、商業周波数である50Hzと60Hzの整数倍以外の周波数であることが好ましい。
【0051】
1mHz以下であると測定時間が長くなり、1kHz以上はノイズの影響を受けやすい。
【0052】
電位差法を用いた本発明法の検証を行うため、プラスチック製のコンテナ34に土壌を入れて、従来の電位降下法及びインピーダンス法と本発明法の比較を行った。
【0053】
実験状況を図3(平面図)及び図4(電位降下法と本発明法の側面図)、図5(インピーダンス法の側面図)に示す。図4において、36は、Mg電極の接地抵抗を下げ、Mg電極の溶解を容易にするため電極周囲に充填する、石膏、芒硝、ベントナイト等のバックフィルであり、図5において、40は、例えば、制御コンピュータ、周波数応答アナライザ、データ解析用コンピュータを組合せた交流インピーダンス測定装置である。インピーダンス法では、腐食は電気化学反応であるため、コンデンサと抵抗から成る電気回路の等価回路と考えて、周波数応答アナライザ(FRA)により微小な交流信号を印加し、その応答信号から電気回路としてのインピーダンスを測定する。
【0054】
インピーダンス法は電圧50mV、電位降下法、本発明法は電圧10Vで測定を行った。電位降下法、本発明法は0.1Hzの周波数で測定した。
【0055】
Mg電極20は、土壌抵抗率ρ=40000Ωcmの土壌中に埋めた。Mg電極20は有効半径が3種類の球を用いた。
【0056】
インピーダンス法と電位降下法は、まず、Mg電極20の接地抵抗を求め、土壌の抵抗率ρから有効半径を計算した。
【0057】
インピーダンス法による測定例を図6に、各法の測定値から計算したMg電極の有効半径を図7に示す。
【0058】
インピーダンス法は、土壌抵抗が大きく制御電圧を越えてしまい測定できない条件があった。また、試料1での実際のMg電極半径との解離が大きい。電位降下法は実際のMg電極半径との差が大きい。これらに対して、本発明法は、精度良くMg電極半径を求めることができた。
【0059】
なお、前記実施形態においては、配管防食用電極としてMg(マグネシウム合金)が用いられていたが、配管防食用電極の材質はこれに限定されず、例えばアルミニウムや亜鉛であっても良い。
【符号の説明】
【0060】
20…Mg(マグネシウム合金)電極
22…補助電極
24…ファンクションジェネレータ
26、28…照合電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中に埋設した配管防食用電極と、該配管防食用電極から所定距離Lだけ離して配置した補助電極の間に電流を流し、
前記配管防食用電極直上の地表面に配設した第1の照合電極と、該第1の照合電極から所定距離g離れた地表面に配設した第2の照合電極に生じる地表面電位、及び、前記第2の照合電極における目的とする交流の管対地電位Vを測定し、
前記2つの照合電極に生じる地表面電位の電位差ΔVと前記管対地電位Vから、土壌抵抗率ρを含まない所定の式を用いて、前記配管防食用電極の有効寸法を計算することを特徴とする配管防食用埋設電極の寸法推定方法。
【請求項2】
前記配管防食用電極を球と仮定し、その有効半径rを次式
【数29】


(ここで、dは前記配管防食用電極の埋設深さ、dは前記補助電極の埋設深さ)
により計算することを特徴とする請求項1に記載の配管防食用埋設電極の寸法推定方法。
【請求項3】
前記配管防食用電極を棒状と仮定し、その初期長さをl、初期半径をrとするとき、あらかじめ測定で求めた有効半径rから、その腐食量xを次式
【数30】


をxについて解くことにより求めることを特徴とする請求項1に記載の配管防食用埋設電極の寸法推定方法。
【請求項4】
前記補助電極を、地表面に接する半球と仮定し、前記配管防食用電極の有効半径rを次式
【数31】


(ここで、dは前記配管防食用電極の埋設深さ、dは前記補助電極の埋設深さ)
により計算することを特徴とする請求項1に記載の配管防食用埋設電極の寸法推定方法。
【請求項5】
前記交流の周波数が1mHzから1kHzの間、好ましくは10mHzから500Hzの間であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の配管防食用埋設電極の寸法推定方法。
【請求項6】
地中に埋設した配管防食用電極と、該配管防食用電極から所定距離Lだけ離して配置した補助電極の間に電流を流す手段と、
前記配管防食用電極直上の地表面に配設した第1の照合電極と、該第1の照合電極から所定距離g離れた地表面に配設した第2の照合電極に生じる地表面電位、及び、前記第2の照合電極における目的とする交流の管対地電位Vを測定する手段と、
前記2つの照合電極に生じる地表面電位の電位差ΔVと前記管対地電位Vから、土壌抵抗率ρを含まない所定の式を用いて、前記配管防食用電極の有効寸法を計算する手段と、
を備えたことを特徴とする配管防食用埋設電極の寸法推定装置。
【請求項7】
前記配管防食用電極を球と仮定し、その有効半径rを次式
【数32】


(ここで、dは前記配管防食用電極の埋設深さ、dは前記補助電極の埋設深さ)
により計算することを特徴とする請求項6に記載の配管防食用埋設電極の寸法推定装置。
【請求項8】
前記配管防食用電極を棒状と仮定し、その初期長さをl、初期半径をrとするとき、あらかじめ測定で求めた有効半径rから、その腐食量xを次式
【数33】


をxについて解くことにより求めることを特徴とする請求項6に記載の配管防食用埋設電極の寸法推定装置。
【請求項9】
前記補助電極を、地表面に接する半球と仮定し、前記配管防食用電極の有効半径rを次式
【数34】


(ここで、dは前記配管防食用電極の埋設深さ、dは前記補助電極の埋設深さ)
により計算することを特徴とする請求項6に記載の配管防食用埋設電極の寸法推定装置。
【請求項10】
前記交流の周波数が1mHzから1kHzの間、好ましくは10mHzから500Hzの間であることを特徴とする請求項6乃至9のいずれかに記載の配管防食用埋設電極の寸法推定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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