説明

配線回路基板

【課題】クロストークおよび放射性ノイズが発生することを抑制しつつ、特性インピーダンスの低下を抑制することが可能な配線回路基板を提供する。
【解決手段】複数の配線パターン3が形成されたベース絶縁層1の面(以下、第1の面と呼ぶ)と反対側の面(以下、第2の面と呼ぶ)上にグランド層(接地層)5を形成する。次に、複数の配線パターン3を覆うようにベース絶縁層1の第1の面上に、例えばエポキシを含む樹脂からなるカバー絶縁層6aを形成する。また、グランド層5を覆うようにベース絶縁層1の第2の面上に、例えばエポキシを含む樹脂からなるカバー絶縁層6bを形成する。続いて、カバー絶縁層6a上に、例えば10〜30の比誘電率を有する高誘電率絶縁層7を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の電子機器に用いられる配線回路基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、種々の電気機器または電子機器に配線回路基板(プリント配線基板)が用いられている。電気機器および電子機器の小型化および軽量化を実現するために、配線回路基板上の配線パターンは高密度化されるとともに、小型化および高密度化された配線回路基板上に搭載されている。
【0003】
近年、上記のように、配線回路基板の高密度化が進展されているとともに、扱う信号も高周波のデジタル信号となってきている。その結果、隣接する配線パターンへのデジタル信号の漏れ込み(クロストーク)、または放射性ノイズが発生する場合がある。
【0004】
そこで、配線回路基板における絶縁体の両面に導電膜をそれぞれ形成することによって、上記のクロストークおよび放射性ノイズが発生することを抑制する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−87627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の配線回路基板においては、配線パターンと絶縁体上に形成された導電膜との間での結合容量が増大してしまう。その結果、特性インピーダンスが大幅に低下し、デジタル信号の伝送効率が低下する。
【0006】
本発明の目的は、クロストークおよび放射性ノイズが発生することを抑制しつつ、特性インピーダンスの低下を抑制することが可能な配線回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)本発明に係る配線回路基板は、一面および他面を有するベース絶縁層と、ベース絶縁層の一面上に形成される導体パターンと、導体パターンを覆うようにベース絶縁層の一面上に形成される保護層と、ベース絶縁層の他面上に形成される接地層とを備え、保護層上に10以上30以下の比誘電率を有する高誘電率絶縁層をさらに備えたものである。
【0008】
本発明に係る配線回路基板においては、ベース絶縁層の一面上に導体パターンが形成される。上記導体パターンを覆うように保護層がベース絶縁層の一面上に形成される。一方、ベース絶縁層の他面上に接地層が形成される。そして、上記保護層上に10以上30以下の比誘電率を有する高誘電率絶縁層が形成される。
【0009】
このような構成により、隣接する導体パターンへの信号の漏れ込み(クロストーク)、および放射性ノイズの発生を抑制しつつ、特性インピーダンスの低下を抑制することが可能となる。したがって、デジタル信号の伝送効率が低下することを防止できる。
【0010】
(2)高誘電率絶縁層は、樹脂および高誘電率物質を含んでもよい。この場合、高誘電率を有する絶縁層を容易に作製することが可能となる。
【0011】
(3)高誘電率絶縁層は、樹脂内に高誘電率物質を分散させることにより形成されてもよい。
【0012】
この場合、上記樹脂内に分散させる高誘電率物質の量により、高誘電率絶縁層の比誘電率を制御することが可能となる。
【0013】
(4)高誘電率物質は、チタン酸バリウムを含んでもよい。この場合、チタン酸バリウムを用いることにより高誘電率物質の低コスト化を図ることができる。
【0014】
(5)導体パターンは、デジタル信号を伝送してもよい。この場合、導体パターンによりデジタル信号が伝送される場合でも、隣接する導体パターンへの信号の漏れ込み(クロストーク)、および放射性ノイズの発生を抑制しつつ、特性インピーダンスの低下を確実に抑制することが可能となる。したがって、デジタル信号の伝送効率が低下することを確実に防止できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る配線回路基板によれば、クロストークおよび放射性ノイズが発生することを抑制しつつ、特性インピーダンスの低下を抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の一実施の形態に係る配線回路基板について図面を参照しながら説明する。なお、本実施の形態に係る配線回路基板は、フレキシブル配線回路基板である。
【0017】
(1)配線パターンの形成方法
配線パターンの形成方法としては、一般的なセミアディティブ法が用いられる。
【0018】
図1は、セミアディティブ法による配線パターンの形成方法の一例を示す模式的工程断面図である。
【0019】
図1(a)に示すように、例えばポリイミドフィルムからなるベース絶縁層1を用意する。なお、エポキシ樹脂、アクリル樹脂またはブチラール樹脂からなるベース絶縁層1を用いてもよい。また、ベース絶縁層1の比誘電率は、例えば約3.2〜4.0である。
【0020】
次に、図1(b)に示すように、ベース絶縁層1上にスパッタリングまたは無電解めっきによって金属薄膜2を形成する。なお、この金属薄膜2は、例えばニッケル(Ni)−クロム(Cr)からなる層と、銅(Cu)からなる層との積層膜からなる。
【0021】
次いで、図1(c)に示すように、金属薄膜2上にドライフィルムレジスト等を用いて、後工程で形成される後述の配線パターンとは逆パターンのめっきレジスト4を形成する。
【0022】
その後、図1(d)に示すように、金属薄膜2におけるめっきレジスト4が形成されていない表面に、電解銅めっきにより配線パターン3を形成する。
【0023】
続いて、図1(e)に示すように、めっきレジスト4を剥離等により除去する。
【0024】
次に、図1(f)に示すように、配線パターン3下の領域を除いて金属薄膜2の銅からなる層を化学エッチングにより除去する。なお、この化学エッチング用のエッチング液としては、過酸化水素と硫酸との混合液を用いることができる。
【0025】
その後、配線パターン3下の領域を除いて金属薄膜2のニッケル−クロムからなる層を化学エッチングにより除去する。なお、この化学エッチング用のエッチング液としては、塩酸と硫酸との混合液を用いることができる。
【0026】
以上の通り、セミアディティブ法によりベース絶縁層1上に複数の配線パターン3が形成される。本実施の形態では、各配線パターン3は、高周波のデジタル信号を伝送する。
【0027】
(2)配線パターン形成後の工程
続いて、本実施の形態においてセミアディティブ法によりベース絶縁層1上に複数の配線パターン3が形成された後の工程について説明する。
【0028】
図2は、ベース絶縁層1上に複数の配線パターン3が形成された後の工程を示す模式的断面図である。なお、図2および後述の図3においては、ベース絶縁層1と配線パターン3との間に形成された金属薄膜2については、その図示を省略している。なお、図2(c)の下段に示す配線回路基板10の上面図のA−A線断面図が、図2(c)の上段の断面図となる。
【0029】
図2(a)に示すように、複数の配線パターン3が形成されたベース絶縁層1の面(以下、第1の面と呼ぶ)と反対側の面(以下、第2の面と呼ぶ)上にグランド層(接地層)5を形成する。
【0030】
次に、図2(b)に示すように、複数の配線パターン3を覆うようにベース絶縁層1の第1の面上に、例えばエポキシを含む樹脂からなるカバー絶縁層6aを形成する。また、グランド層5を覆うようにベース絶縁層1の第2の面上に、例えばエポキシを含む樹脂からなるカバー絶縁層6bを形成する。なお、カバー絶縁層6a,6bの比誘電率は、例えば約3.2〜4.0である。
【0031】
続いて、図2(c)の上段に示すように、カバー絶縁層6a上に、例えば10〜30の比誘電率を有する高誘電率絶縁層7を形成する。これにより、本実施の形態に係る配線回路基板10が完成される。
【0032】
高誘電率絶縁層7は、例えばポリイミドまたはエポキシからなる樹脂内にチタン酸バリウム等の高誘電率物質を分散させてなるものである。高誘電率絶縁層7の比誘電率は、上記樹脂内に分散させる高誘電率物質の量により制御することが可能である。
【0033】
また、高誘電率絶縁層7の厚さは、10〜50μmであることが好ましく、15〜30μmであることがより好ましい。
【0034】
そして、高誘電率絶縁層7の幅は、ベース絶縁層1の第1の面上の一方の側辺に最も近い位置に形成される配線パターン3から他方の側辺に最も近い位置に形成される配線パターン3までの領域を覆うような値になるよう設定することが好ましい。また、高誘電率絶縁層7の長さは、各配線パターン3の長さよりも大きく設定することが好ましい。
【0035】
高誘電率絶縁層7の形成方法としては、スクリーン印刷法、露光・現像処理法またはディスペンサーによる塗布形成法を用いることができる。
【0036】
(3)本実施の形態における効果
このように、本実施の形態においては、配線パターン3を覆うように形成されたカバー絶縁層6a上に高誘電率絶縁層7を形成することによって、隣接する配線パターン3へのデジタル信号の漏れ込み(クロストーク)、および放射性ノイズの発生を抑制しつつ、特性インピーダンスの低下を抑制することが可能となる。
【0037】
(4)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。
【0038】
上記実施の形態では、配線パターン3が導体パターンの例であり、カバー絶縁層6aが保護層の例であり、グランド層5が接地層の例である。なお、請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する他の種々の要素を用いることもできる。
【実施例】
【0039】
以下、本発明における実施例および比較例について説明する。
【0040】
(a)実施例
本実施例では、上記実施の形態に基づいて配線回路基板10を製造した。なお、本実施例における配線回路基板10の詳細は次の通りである。
【0041】
比誘電率3.3のポリイミド中に比誘電率3300のチタン酸バリウムを30体積%分散させることによって得られる比誘電率16の高誘電率絶縁層7を、スクリーン印刷法によりカバー絶縁層6a上に形成した。この高誘電率絶縁層7の厚さは20μmとし、幅および長さはそれぞれ10mmおよび20mmとした。また、配線パターン3の特性インピーダンスの値は50Ωである。
【0042】
そして、TDR(Time Domain Reflectometry)法により、図示しないコネクタの入力端子部から出力端子部において特性インピーダンスの値を測定した。その結果、特性インピーダンスは、高誘電率絶縁層7を形成しない場合(50Ω)に比べ、3Ωしか低下しなかった。
【0043】
(b)比較例
図3は、比較例の配線回路基板の構成を示す模式的断面図である。
【0044】
図3に示すように、本比較例に係る配線回路基板20の構成が上記実施例の配線回路基板10の構成と異なる点は、高誘電率絶縁層7の代わりに、カバー絶縁層6a上に、厚さ10μmの銀ペースト層8を形成した点である。
【0045】
上記実施例と同様に、TDR法により、図示しないコネクタの入力端子部から出力端子部において特性インピーダンスの値を測定した。その結果、特性インピーダンスは、銀ペースト層8を形成しない場合(50Ω)に比べ、30Ωも低下した。
【0046】
(c)評価
上記実施例および比較例から、カバー絶縁層6a上に高誘電率絶縁層7を形成することによって、特性インピーダンスが低下することが十分に抑制されることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、種々の電気機器または電子機器等に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】セミアディティブ法による配線パターンの形成方法の一例を示す模式的工程断面図である。
【図2】ベース絶縁層上に複数の配線パターンが形成された後の工程を示す模式的断面図である。
【図3】比較例の配線回路基板の構成を示す模式的断面図である。
【符号の説明】
【0049】
1 ベース絶縁層
2 金属薄膜
3 配線パターン
4 めっきレジスト
5 グランド層
6a,6b カバー絶縁層
7 高誘電率絶縁層
10 配線回路基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一面および他面を有するベース絶縁層と、
前記ベース絶縁層の一面上に形成される導体パターンと、
前記導体パターンを覆うように前記ベース絶縁層の一面上に形成される保護層と、
前記ベース絶縁層の他面上に形成される接地層とを備え、
前記保護層上に10以上30以下の比誘電率を有する高誘電率絶縁層をさらに備えたことを特徴とする配線回路基板。
【請求項2】
前記高誘電率絶縁層は、樹脂および高誘電率物質を含むことを特徴とする請求項1記載の配線回路基板。
【請求項3】
前記高誘電率絶縁層は、前記樹脂内に前記高誘電率物質を分散させることにより形成されることを特徴とする請求項2記載の配線回路基板。
【請求項4】
前記高誘電率物質は、チタン酸バリウムを含むことを特徴とする請求項2または3記載の配線回路基板。
【請求項5】
前記導体パターンは、デジタル信号を伝送することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の配線回路基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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