説明

配線基板の洗浄方法、発光装置の製造方法

【課題】 電極がパターニングされた基板上に存在する異物(汚染)を有効に除去することができる配線基板の洗浄方法、発光装置の製造方法を提案する。
【解決手段】 基板20上に電極23が配置された配線基板70を洗浄する方法であって、電極23上の異物をエッチング液を用いて除去する。エッチング液としては、アルカリエッチング液を用いることができる。エッチング液としては、例えば、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等を含む水溶液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に透明電極が配置された配線基板を洗浄する方法、及びこれを用いた発光装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機エレクトロルミネッセンス(以下、有機ELと称する。)装置は、薄膜を積層した構造を有する自発光型の高速応答性表示素子を備えるため、軽くて動画対応に優れた表示パネルを形成でき、近年ではFPD(Flat Panel Display)等の表示パネルとして、非常に注目されている。
その代表的な製造方法としては、ITO(インジウム−スズ酸化物)等の透明陽極を所望の形状にパターニングし、更に透明陽極上に蒸着法を用いて有機材料を積層成膜し、その後に陰極を形成する方法が知られている。
【0003】
このようなFPDデバイスの製造工程や、マイクロプロセッサー、メモリー等の半導体デバイスの製造工程では、ガラスやシリコン等の基板表面に微細な回路パターン等を形成するため、基板表面に存在する微量な異物(汚染)を除去することが必要となる。このため、非特許文献1等に開示されるように、基板表面をアンモニア洗浄やアンモニア過水洗浄することにより、異物を除去する方法が用いられている。
【非特許文献1】伴保隆、「シリコンLSIと化学」、社団法人日本化学会編、1993.10.10、 p220-p226
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、有機EL表示パネルの製造工程において、ITO等から形成される電極をパターニングした基板(以下、ITO基板と称する)をアンモニア水溶液等のアルカリ性溶液により洗浄したとしても、ITO基板上の異物を有効に除去することができないことが、発明者により確認された。ITO基板上の異物としては、ITO基板を分割切断した際に発生した基板の欠片や、油汚れ等である。
このような異物がITO基板上に存在すると、製造された有機EL表示パネルの発光素子では、低電圧において過剰な電流が流れたり、ダークスポットと呼ばれる非発光領域等が発生したりして、発光素子の効率低下や寿命低下が発生するという問題がある。
【0005】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、電極がパターニングされた基板上に存在する異物(汚染)を有効に除去することができる配線基板の洗浄方法、発光装置の製造方法を提案することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る配線基板の洗浄方法、発光装置の製造方法では、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
第1の発明は、基板上に電極が配置された配線基板を洗浄する方法であって、前記電極上の異物を、エッチング液を用いて除去するようにした。
この発明によれば、配線基板を洗浄して配線上に付着した異物を取り除く際に、アンモニア洗浄やアンモニア過水洗浄では除去できなかった異物であっても、効率よく除去することが可能となる。これにより、配線上に発光層を含む有機機能層を良好に形成されるので、有機機能層(発光層)のダークスポットの発生防止や、有機機能層の長寿命化を実現することが可能となる。
エッチング液としては、アルカリエッチング液を用いることができる。具体的には、例えば、前記エッチング液として、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化リチウム、又は水酸化カルシウムを含む水溶液等を用いることができる。
【0007】
第2の発明は、基板上に第1電極を形成する工程と、前記第1電極上に有機機能層を形成する工程と、前記有機機能層上に第2電極を形成する工程と、を有する発光装置の製造方法において、前記第1電極上に前記有機機能層を形成するに先立って、前記第1電極上の異物を除去する方法として、第1の発明の配線基板の洗浄方法を用いるようにした。
この発明によれば、配線基板上に有機機能層を形成するに先立って、配線基板をエッチング液により洗浄するので、配線上の異物が効果的に除去される。これにより、有機機能層(発光層)のダークスポットの発生防止や、有機機能層の長寿命化を実現できるので、高品質、長寿命の発光装置を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の配線基板の洗浄方法、発光装置の製造方法の実施形態について図を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係る有機EL装置の配線構造を示す模式図である。
有機EL装置(発光装置)1は、スイッチング素子として薄膜トランジスタ(Thin Film Transistor、以下では、TFTと略記する)を用いたアクティブマトリクス方式の有機EL装置である。なお、以下に示す各図においては、各層や各部材を図面上で認識可能な程度の大きさとするため、各層や各部材ごとに縮尺を異ならせてある。
【0009】
有機EL装置1は、複数の走査線101と、各走査線101に対して直角に交差する方向に延びる複数の信号線102と、各信号線102に並列に延びる複数の電源線103とがそれぞれ配線された構成を有すると共に、走査線101と信号線102の各交点付近に、画素領域Xが設けられている。
【0010】
信号線102には、シフトレジスタ、レベルシフタ、ビデオライン及びアナログスイッチを備えるデータ線駆動回路100が接続されている。また、走査線101には、シフトレジスタ及びレベルシフタを備える走査線駆動回路80が接続されている。
更に、画素領域Xの各々には、走査線101を介して走査信号がゲート電極に供給されるスイッチング用TFT112と、このスイッチング用TFT112を介して信号線102から共有される画素信号を保持する保持容量113と、該保持容量113によって保持された画素信号がゲート電極に供給される駆動用TFT123と、この駆動用TFT123を介して電源線103に電気的に接続したときに該電源線103から駆動電流が流れ込む陽極23と、この陽極23と陰極50との間に挟み込まれた発光機能層110とが設けられている。
発光機能層(有機機能層)110は、有機エレクトロルミネッセンス素子に相当するものであり、陽極23及び陰極50から注入される正孔と電子が結合することで、発光現象が生じるようになっている。
【0011】
この有機EL装置1によれば、走査線101が駆動されてスイッチング用TFT112がオン状態になると、そのときの信号線102の電位が保持容量113に保持され、該保持容量113の状態に応じて、駆動用TFT123のオン・オフ状態が決まる。そして、駆動用TFT123のチャネルを介して、電源線103から陽極23に電流が流れ、更に発光機能層110を介して陰極50に電流が流れる。発光機能層110は、これを流れる電流量に応じて発光する。そこで、発光はそれぞれ陽極23毎にオン・オフを制御されるから、陽極23は画素電極となっている。
【0012】
次に、本実施形態の有機EL装置1の具体的な態様を、図2及び図3を参照して説明する。図2は有機EL装置1の構成を模式的に示す平面図、図3は図2の表示領域R、G、Bの側断面の一部を示す図である。
【0013】
図2に示すように、有機EL装置1は、電気絶縁性を備える基板20と、当該基板20よりも小さいサイズの封止基板30と、が対向配置された構成となっている。基板20と封止基板30との間には、封止樹脂層40(図3参照)が配置されており、両基板20,30を貼り合わせて接着させた構成となっている。
【0014】
基板20上には、スイッチング用TFT(不図示)に接続された陽極23が基板20上にマトリックス状に配置されてなる画素電極領域(不図示)と、画素電極領域の周囲に配置されると共に各陽極23に接続される電源線103(図1参照)と、少なくとも画素電極領域上に位置する平面視ほぼ矩形の画素部3(図中一点鎖線枠内)とが形成されている。
また、画素部3は、中央部分の表示領域4(図中二点鎖線枠内)と、表示領域4の周囲に配置されたダミー領域5(一点鎖線及び二点鎖線の間の領域)とに区画されている。
【0015】
表示領域4には、それぞれ陽極23を有する表示領域R、G、Bが離間して配置されている。また、表示領域4の図中両側には、走査線駆動回路80が配置されている。この走査線駆動回路80はダミー領域5の下側に位置して設けられている。
更に、表示領域4の図中上側には、検査回路90が配置されている。この検査回路90はダミー領域5の下側に位置して設けられている。この検査回路90は、有機EL装置1の作動状況を検査するための回路であって、例えば検査結果を外部に出力する不図示の検査情報出力手段を備え、製造途中や出荷時の装置の品質、欠陥の検査を行うことができるように構成されている。
【0016】
走査線駆動回路80及び検査回路90の駆動電圧は、所定の電源部から電源線103を駆動用TFT123(図3参照)に印加されようになっている。また、これら走査線駆動回路80及び検査回路90への駆動制御信号や駆動電圧は、有機EL装置1の作動制御を司る所定のメインドライバ等から印加されるようになっている。なお、この場合の駆動制御信号とは、走査線駆動回路80及び検査回路90が信号を出力する際の制御に関連するメインドライバなどからの指令信号である。
【0017】
図3に示すように、有機EL装置1は、基板20と封止基板30とが封止樹脂層40によって貼り合わされて構成されている。
基板20としては透明基板が採用され、封止基板30としては金属製基板が採用される。これにより、有機EL装置1は、発光機能層110における有機EL層(発光素子)60を発光させ、当該発光光を基板20に透過させて出射する、所謂ボトムエミッション型の有機EL装置となる。
【0018】
基板20としては、無アルカリガラスを材料とするガラス基板が採用される。そして、基板20の表面には、不図示の下地絶縁膜を介して駆動用TFT123が形成され、更に、当該駆動用TFT123を埋設するように層間絶縁層21が形成されている。
【0019】
基板20上に形成された駆動用TFT123は、陽極23を駆動するための駆動用スイッチング素子として機能するものである。駆動用TFT123は、公知のTFT製造技術を用いることにより形成されており、不純物がドーピングされたシリコン膜、ゲート電極、ゲート絶縁膜等が積層された部材である。更に、駆動用TFT123は、表示領域R、G、Bの位置に対応して設けられており、後述するように陽極23に各々接続している。
【0020】
層間絶縁層21は、透明性樹脂材料からなることが好ましく、また、加工性が良好な材料からなることが好ましい。例えば、熱硬化樹脂の一種であるエポキシ樹脂やアクリル樹脂等を採用することが好ましい。
また、層間絶縁層21においては、陽極23との界面が高精度に平坦化されていることが好ましく、平坦化を達成するために複数の工程を経て積層形成された構成でもよい。
また、層間絶縁層21には駆動用TFT123と陽極23の位置に応じてコンタクトホールが形成されており、当該コンタクトホールには陽極23と接続する接続配線が埋設される。
なお、層間絶縁層21によって被覆される各種回路部には、走査線駆動回路80、検査回路90、及びそれらを接続して駆動するための駆動電圧動通部や、駆動制御信号導通部等が含まれている。
【0021】
陽極23(電極、第1電極)は、透明電極材料によって構成され、印加された電圧によって、正孔を発光層60に向けて注入するものであり、仕事関数が高く導電性を有している。
陽極23を形成するための材料としては、例えば、金属酸化物が挙げられるが、インジウム錫酸化物(ITO)、もしくは、金属酸化物に亜鉛(Zn)を含有した材料、例えば、酸化インジウム・酸化亜鉛系アモルファス透明導電膜(Indium Zinc Oxide、IZO/アイ・ゼット・オー:登録商標)を採用できる。
なお、透明電極材料に限るものではなく、トップエミッション型の有機EL装置の場合には、特に光透過性を備えた材料を採用する必要はなく、好適な材料であればよい。
そして、陽極23は、は、層間絶縁層21に形成されたコンタクトホールの接続配線を介して、駆動用TFT123と接続する。
なお、基板20上に、駆動用TFT123、層間絶縁層21、陽極23が形成された状体のものを、ITO基板70と称する。
【0022】
そして、ITO基板(配線基板)70の表面、すなわち、陽極23が形成された層間絶縁層21の表面には、SiO等の親液性材料を主体とする親液性制御層62と、アクリル樹脂やポリイミド樹脂等からなるバンク層(隔壁)70と、発光機能層110とが配置される。
陽極23の間には、その回りを取り囲むようにバンク層64が2次元的に配置される。また、陽極23の上層には、発光機能層110が形成される。すなわち、複数の発光機能層110がバンク層64によって仕切られる構成となっている。
陽極23の上層に形成される発光機能層110は、陽極23と陰極50に挟まれる多層構造を備えており、陽極23側から順に、正孔輸送層66、発光層60を順に形成されたものである。
【0023】
正孔輸送層66は、導電性高分子材料の一つであり、陽極23の正孔を発光層60に注入するための正孔輸送層66を構成するものであり、その膜厚は、30nmに形成されている。このような正孔輸送層66を形成する材料としては、特に3,4−ポリエチレンジオシチオフェン/ポリスチレンスルフォン酸(PEDOT/PSS)の分散液、すなわち、分散媒としてのポリスチレンスルフォン酸に3,4−ポリエチレンジオキシチオフェンを分散させ、さらにこれを水に分散させた分散液が好適に用いられる。なお、正孔輸送層66の形成材料としては、前記のものに限定されることなく種々のものが使用可能である。例えば、ポリスチレン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセチレンやその誘導体などを、適宜な分散媒、例えば前記のポリスチレンスルフォン酸に分散させたものなどが使用可能である。
【0024】
発光層60は、発光機能層110を構成するものであり、陽極23から正孔輸送層66を経て注入された正孔と、陰極50からの注入された電子とが結合して蛍光を発生させるようになっている。
このような発光層60を形成するための材料としては、蛍光あるいは燐光を発光することが可能な公知の発光材料を用いることができる。具体的には、ポリフルオレン誘導体(PF)、(ポリ)パラフェニレンビニレン誘導体(PPV)、ポリフェニレン誘導体(PP)、ポリパラフェニレン誘導体(PPP)、ポリビニルカルバゾール(PVK)、ポリチオフェン誘導体、ポリメチルフェニルシラン(PMPS)などのポリシラン系などが好適に用いられる。また、これらの高分子材料に、ペリレン系色素、クマリン系色素、ローダミン系色素などの高分子系材料、例えば、ルブレン、ペリレン、9,10-ジフェニルアントラセン、テトラフェニルブタジエン、ナイルレッド、クマリン6、キナクリドン等の材料をドープして用いることもできる。
また、本実施形態の有機EL装置1は、カラー表示を行うべく構成されている。即ち、光の三原色R、G、Bに対応する表示領域R、G、B毎に各発光層60が、それぞれ三原色に対応して形成され、発光層60R,60G,60Bを構成している。
【0025】
なお、発光層60の表面に、電子注入/輸送層を設けた構成を採用してもよい。電子注入/輸送層は、発光層60に電子を注入する役割を果たすものであり、この形成材料としては、特に限定されることなく、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアンスラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体等が例示される。
なお、電子注入/輸送層は、光透過性を有する程度の膜厚であることが好ましい。このようにすれば陰極50によって反射する発光光が遮蔽されることがなく、発光強度の低下を防止できる。
【0026】
また、陰極50(第2電極)は、表示領域4及びダミー領域5の総面積より広い面積を備え、それぞれを覆うように形成されている。陰極50は、陽極23の対向電極として、電子を発光層60に注入する機能を備える。
陰極50を形成する材料としては、例えばカルシウム金属又はカルシウムを主成分とする合金を発光層60側に積層して第1の陰極層とし、その上層にアルミニウム又はアルミニウムを主成分とする合金、もしくは銀又は銀−マグネシウム合金などを積層して第2の陰極層とした積層体を採用できる。なお、第2の陰極層は第1の陰極層を覆って、酸素や水分などとの化学反応から保護すると共に、陰極50の導電性を高めるために設けられる。従って、陰極50は化学的に安定で仕事関数が低く電気抵抗が低い材料を用いる場合には、単層構造でもよく、また金属材料に限るものではない。
【0027】
そして、陰極50の表面には、封止樹脂層40及び封止基板30が配置される。
封止樹脂層40は、基板20と封止基板30を接着して貼り合わせるものである。また、封止樹脂層40は、発光層60等への酸素及び水分の侵入を防止する機能や、陰極50を構成する無機材料と不安定なバンク層64との界面の接着性を向上して陰極50の剥離を防止する機能も有する。
封止樹脂層40の具体的な材料としては、親油性で低吸水性を有する高分子材料が好適に採用される。例えば、熱硬化性を有するアクリル系、エポキシ系、ウレタン系、ポリオレフィン系等の樹脂材料が採用される。また、硬化剤と、モノマー/オリゴマー樹脂材料とを混合させて硬化させる、2液硬化性の樹脂材料を採用してもよい。
【0028】
封止基板30としては、金属製基板が採用される。具体的には、封止基板30は、鉄−ニッケル合金や鉄−ニッケル−コバルト合金からなり、コバール、42ニッケルアロイ、及び36ニッケルアロイのうちのいずれかを採用することが好ましい。
【0029】
このような構成を有する有機EL装置1においては、電源線103(図1参照)から駆動電流が発光機能層110の陽極23に流れ込むと、陽極23と陰極50の間に電位差が生じ、陽極23の正孔が発光層60に注入され、陰極50の電子が発光層60に注入されるので、発光層60に注入された正孔と電子とが結合することにより、発光層60は発光する。そして、発光層60の発光光は、基板20を透過して表示領域4へ出射される。
【0030】
次に、本実施形態に係る有機EL装置1の製造方法の一例について、図4を参照して説明する。図4に示す各断面図は、図2中のA−B線の断面図に対応した図である。
【0031】
まず、図4(a)に示すように、基板20上に駆動用TFT123及び層間絶縁層21を形成し、更に、駆動用TFT123、層間絶縁層21が形成された基板20の全面を覆うように、陽極23となる透明導電膜が形成される。そして、この透明導電膜をパターニングすることにより、層間絶縁層21のコンタクトホールの接続配線を介して、陽極23と駆動用TFT123が導通される。
これにより、ITO基板70が形成される。
【0032】
次に、ITO基板70を必要に応じて、複数に分割(ダイシング)する。この際、ITO基板70の表面には、ダイシング処理時に発生するITO基板70の欠け(チッピング)が付着してしまう。また、同時に、作業者等が触れることにより、ITO基板70の表面に油類等が付着してしまう。
このため、ダイシング処理後には、ITO基板70の洗浄を行われる。具体的には、TMAH(水酸化テトラメチルアンモニウム)水溶液を用いて、ITO基板70の表面を洗浄する。なお、本実施形態では、ITO基板70がアクティブマトリックス方式のITO基板であるため、TMAHを用いて洗浄を行っている。すなわち、ITO基板70には、駆動用TFT123が形成されているため、カリウムイオンが発生する洗浄方法を避ける必要がある。駆動用TFT123に存在する酸化膜がカリウムイオンに触れることにより、絶縁性が低下してしまうからである。
したがって、ITO基板70がパッシブマトリックス方式の場合には、KOH(水酸化カリウム)水溶液を用いることも可能である。
また、水酸化リチウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、二酸化第二鉄水溶液を用いてもよい。
【0033】
次いで、図4(b)に示すように、陽極23及び層間絶縁層21上に絶縁層である親液性制御層62を形成する。なお、陽極23においては、一部が開口する態様にて親液性制御層62が形成され、開口部分においては陽極23からの正孔移動が可能とされている。
逆に、開口部分以外では親液性制御層62が正孔移動遮蔽層となって正孔移動が生じないものとされる。
【0034】
そして、図4(c)に示すように、親液性制御層62を覆うようにバンク層64を形成する。
具体的なバンク層64の形成方法としては、例えばアクリル樹脂、ポリイミド樹脂などのレジストを溶媒に溶解したものを、スピンコート法、ディップコート法などの各種塗布法により塗布して有機質層を形成する。更に、有機質層をフォトリソグラフィ技術、エッチング技術を用いてパターニングし、有機質層に開口を形成することにより、バンク層64を形成する。更に、バンク層64の表面には、親液性を示す領域と、撥液性を示す領域とが形成される。
【0035】
次いで、図4(d)に示すように、バンク層64の開口、すなわち陽極23上に、正孔輸送層66及び発光層60を形成する。
正孔輸送層形成工程では、例えばインクジェット法等の液滴吐出法や、スピンコート法などにより、正孔輸送層材料を陽極23上に塗布し、その後、乾燥処理および熱処理を行い、正孔輸送層66を形成する。
また、発光層形成工程では、例えばインクジェット法により、発光層形成材料を正孔輸送層66上に吐出し、その後、乾燥処理および熱処理を行うことにより、発光層60を形成する。
【0036】
次いで、図4(e)に示すように、陰極50の形成を行う。例えば、イオンプレーティング法等の物理気相成長法により陰極形成材料を成膜して、陰極50とする。このとき、陰極50は、発光層60及びバンク層64の上面を覆うのはもちろん、バンク層64の外側部を形成する壁面についても、これを覆った状態となるように形成する。
【0037】
そして、最後に、基板20と封止基板30の貼り合わせを行う。
ここでは、まず、基板20上に形成した陰極50の面上に、陰極50を覆う様に封止樹脂層40を配置した後、減圧雰囲気下において封止基板30を封止樹脂層40上に配置し接着することによって行う。
この様に減圧雰囲気下で接着を行うことにより、封止樹脂層40と基板20との間、もしくは、封止樹脂層40と封止基板30との間に気泡が入るのを防止できる。このため、気泡を介して発光層60に酸素及び水分が侵入することを防止し、発光層60の発光特性や寿命が低下するのを抑制できる。なお、封止樹脂層40の硬化(接着)は基板20をホットプレートにより60℃に加熱することで行う。
【0038】
上述した有機EL装置1は、その製造工程において、ITO基板70の陽極23上に発光機能層110を形成するに先立ってITO基板70を、TMAHやKOH等のエッチング液により洗浄しているので、陽極23上の異物が効果的に除去されている。したがって、発光機能層110へのダークスポットの発生防止や、発光機能層110の長寿命化を実現することができる。
【0039】
ここで、図5は、ITO基板70の洗浄後の表面拡大図であって、図5(a)はKOH洗浄を施したもの、図5(b)はアンモニア洗浄を施したものである。また、図6は、ITO基板70の洗浄方法の効果を比較する図である。なお、ここでは、パッシブマトリックス方式のITO基板70を用いている。
図5(a)に示すように、ITO基板70にKOH洗浄を施した場合には、その表面から異物(チッピング、油汚れ)が良好に除去されていることが確認できる。一方、図5(b)に示すように、従来例であるアンモニア洗浄では、ITO基板70の表面に異物が残存していることが確認できる。このように、KOH洗浄は、ITO基板70上の異物の除去に優れている。
更に、ITO基板70の洗浄方法として、スピン洗浄、HNO3洗浄、RCA洗浄、防塵テープによる洗浄、ブラシ洗浄を施し、それぞれの結果を比較した。図6に示すように、KOH洗浄以外の方法では、ITO基板70上に付着した異物(チッピング、油汚れ)は良好に除去されていないことが確認できる。
このように、KOH洗浄は、従来の洗浄方法に比べて、ITO基板70上の異物を良好に除去することができる。
【0040】
図7は、有機EL装置1の発光機能層110に電圧を付加した際に流れる電流を計測した実験結果を示す図である。
有機EL装置1の陽極23と発光機能層110との間に異物が存在する場合、すなわち、ITO基板70の洗浄が不十分な場合には、発光機能層110に低電圧を付加した際に、リーク電流が発生してしまう。異物を介して電流が流れてしまうからと考えられる。
図7に示すように、ITO基板70にKOH洗浄を施した場合には、低電圧(5V以下)では、電流は殆ど流れていないことが確認できる。一方、ITO基板70にアンモニア洗浄を施した場合には、3V付近において、電流(リーク電流)が流れていることが確認できる。
このように、KOH洗浄は、ITO基板70上の異物の除去に優れていることが確認できる。そして、リーク電流が発生した部分がダークスポットになるため、ITO基板70にKOH洗浄を施した場合には、ダークスポットのない有機EL装置1を形成することができる。
【0041】
なお、上述した有機EL装置1の実施形態では、ボトムエミッション型を例にして説明したが、本発明はこれに限定されることなく、トップエミッション型にも、また、両側に発光光を出射するタイプのものにも適用可能である。
また、アクティブマトリックス型を例にして説明したが、本発明はこれに限定されることなく、パッシブマトリックス型にも適用可能である。
【0042】
また、本実施形態では、発光装置として、有機EL装置1の例を示したが、本発明はこれに限定されることなく、基本的に電極が基板の表面に設けられるものであれば、どのような形態の発光装置にも適用可能である。
【0043】
次に、上述した有機EL装置1を表示部として有する電子機器について、図8を参照して説明する。
図8(a)は、携帯電話の一例を示した斜視図である。図8(a)において、携帯電話1000は、上述した有機EL装置1を用いた表示部1001を備える。
図8(b)は、腕時計型電子機器の一例を示した斜視図である。図8(b)において、時計1100は、上述した有機EL装置1を用いた表示部1101を備える。
図8(c)は、ワープロ、パソコンなどの携帯型情報処理装置の一例を示した斜視図である。図8(c)において、情報処理装置1200は、キーボードなどの入力部1201、上述した有機EL装置1を用いた表示部1202、情報処理装置本体(筐体)1203を備える。
図8(d)は、薄型大画面テレビの一例を示した斜視図である。図8(d)において、薄型大画面テレビ1300は、薄型大画面テレビ本体(筐体)1302、スピーカーなどの音声出力部1304、上記有機EL装置1からなる表示部1306を備える。
【0044】
このように、図8に示す電子機器1000,1100,1200,1300は、上記有機EL装置1を備えているので、表示部1001,1101,1206,1306の長寿命化が図られたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本実施形態に係る有機EL装置1の配線構造を示す模式図である。
【図2】有機EL装置1の構成を示す模式図である。
【図3】図2のA−B線に沿う断面図である。
【図4】有機EL装置1の製造方法を工程順に示す図である。
【図5】ITO基板70の洗浄後の表面拡大図である。
【図6】ITO基板70の洗浄方法の効果を比較する図である。
【図7】発光機能層110に流れる電流を計測した結果を示す図である。
【図8】電子機器を示す図である。
【符号の説明】
【0046】
1…有機EL装置(発光装置)、 20…基板、 23…陽極(電極、第1電極)、 50…陰極(第2電極)、 70…ITO基板(配線基板)、 110…発光機能層(有機機能層)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に電極が配置された配線基板を洗浄する方法であって、
前記電極上の異物を、エッチング液を用いて除去することを特徴とする配線基板の洗浄方法。
【請求項2】
前記エッチング液は、アルカリエッチング液であることを特徴とする請求項1に記載の配線基板の洗浄方法。
【請求項3】
前記エッチング液は、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化リチウム、又は水酸化カルシウムを含むことを特徴とする請求項2に記載の配線基板の洗浄方法。
【請求項4】
基板上に第1電極を形成する工程と、
前記第1電極上に有機機能層を形成する工程と、
前記有機機能層上に第2電極を形成する工程と、
を有する発光装置の製造方法において、
前記第1電極上に前記有機機能層を形成するに先立って、前記第1電極上の異物を除去する方法として、請求項1から請求項3のうちいずれか一項に記載の配線基板の洗浄方法を用いることを特徴とする発光装置の製造方法。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−253053(P2006−253053A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−70494(P2005−70494)
【出願日】平成17年3月14日(2005.3.14)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】