説明

配線基板

【課題】
導電性微粒子分散液を用いて配線を形成する際に、基板に対する配線の密着性および配線の細線化を両立した配線基板を提供する。
【解決手段】
基板上に導電性微粒子分散液(1)を吐出して配線パターンを形成する配線基板において、前記基板と前記導電性微粒子分散液(1)との間に中間層(4)を設け、該中間層(4)に、前記導電性微粒子分散液(1)に含まれる界面活性剤(3)と対のイオン性を持つ官能基を備えた界面活性剤(6)を含有させ、さらに前記中間層(4)表面に含フッ素化合物を有する撥液層(8)を設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性微粒子分散液を用いて金属配線が形成された配線基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基板上に回路配線を形成する手段としては、例えばフォトリソグラフィー法が知られている。この方法は、スピンコートや蒸着等によって導電膜を形成した基板上に感光性レジストを塗布し、回路配線パターンを施したフォトマスクを介してレジスト膜に紫外光を照射してレジストパターンを形成し、レジストパターンを介して導電膜にエッチングを施した後、レジストを除去することによって回路配線を形成するものである。
【0003】
これに対して、近年、数ナノメートルオーダーの粒径を有する導電性微粒子が分散した導電性微粒子分散液をインクジェット法によって吐出し、加熱処理、あるいは光処理等を行うことによって導電性微粒子同士を融着させ、金属配線を形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。この方法によれば、基板上に直接、所望の回路配線パターンが形成でき、フォトレジスト、フォトマスク等が不要となるため、フォトリソグラフィー法に比べて配線基板をオンデマンドで製造するのに好適であった。
【0004】
またインクジェット法を用いた配線基板の製造技術において、導電性微粒子分散液に対して、基板表面の撥液性を制御することが一般的である(例えば、特許文献2参照)。これは、基板上に吐出された液滴の濡れ広がりや断線を防ぐためであり、基板に対する導電性微粒子分散液の接触角を30°以上60°以下に制御することによって、所望の形状の配線を形成していた。
【0005】
また、基板の撥液性を制御する方法の例としては次の方法が挙げられる。すなわち、基板表面に紫外線、あるいは酸素プラズマを照射することにより、基板表面に水酸基を形成する。次に、フルオロアルキルシランのような含フッ素化合物中に浸漬してエトキシ基(OCH)あるいはメトキシ基(OCHCH)を基板表面の水酸基と水素結合させた後、脱水縮合することによって、フルオロカーボン(CF)を有する単分子膜を基板表面に形成させるものである。また、上記フルオロアルキルシランの例として、下記化合物1の1、1、2、2−パーフルオロヘキシルトリメトキシシランおよび化合物2の1、1、2、2−パーフルオロヘキシルトリエトキシシラン等がヒドラス化学(株)より市販されている。この方法において、紫外線、あるいは酸素プラズマの照射条件(照射出力および照射時間)を変化させることにより、所望の撥液性を得ることができる。
【0006】
【化1】

【0007】
【化2】

【0008】
従来から、基板に対する金属配線の密着性を向上させる方法が検討され、この方法として、基板上に配線との密着性を向上するための中間層を形成するものがあった(例えば、特許文献3参照)。
【0009】
また、基板上に多孔性シリカ微粒子、アルミナ、アルミナ水和物から構成される分散液の受容層を1μm程度の厚みで形成する方法があった(例えば、特許文献4参照)。この方法は、微小な空隙に導電性微粒子分散液を吸収させることによって密着性を得ようとするものであった。
【0010】
一般に、導電性微粒子分散液には、数ナノメートルオーダーの粒径を有する導電性微粒子を分散媒中に安定して分散させるために界面活性剤が用いられていた。界面活性剤としては、アミノ基等の金属に対する親和性基を有するカチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤または両性界面活性剤が挙げられる(例えば、特許文献5参照)。導電性微粒子分散液は、これらの界面活性剤が、微粒子を荷電させることによる導電性微粒子間の静電気的反発力、あるいは界面活性剤の立体障害によって、安定した分散系を形成するものであった。
【0011】
【特許文献1】特開平10−204350号公報
【0012】
【特許文献2】特開2003−080694号公報
【0013】
【特許文献3】特開2003−315813号公報
【0014】
【特許文献4】特開2004−6578号公報
【0015】
【特許文献5】特開2004−39379号公報
【0016】
【非特許文献1】日経エレクトロニクス 2002年6月17日号 第77頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
フォトリソグラフィー法はスパッタ装置や露光装置等の大掛かりな設備と多くの工程を必要とし、また材料使用効率も悪いため、大量生産には適しているが、多品種少量生産には向かないという問題があった。
【0018】
また、従来の方法においては、基板表面に含フッ素化合物を付与して撥液性を持たせるため、基板に対する導電性微粒子分散液および導電性微粒子の密着力を低下させていた。
【0019】
また、基板上に配線との密着性を向上するための中間層を形成する方法においては、中間層にマンガン、クロム、ニッケル、チタン等の導電性微粒子分散液を用いているため、配線パターンと同様に中間層もインクジェット法によってパターンを形成しなければならず、工程が煩雑であった。
【0020】
さらに、微小な空隙に導電性微粒子分散液を吸収させることによって密着性を得ようとして基板表面に微小な空隙を形成すると、基板に導電性微粒子分散液に対する撥液性を付与したとしても、毛管現象によって、基板鉛直方向だけでなく、基板水平方向に濡れ広がりやすくなり、配線を形成する手段として好適ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0021】
基板と、該基板上に形成される中間層と、該中間層上に導電性微粒子分散液から形成される金属配線を有する配線基板において、前記中間層は導電性微粒子分散液に含まれる界面活性剤に対して、対となるイオン性を有する官能基を備えた界面活性剤を含んでなることを特徴とする。
【0022】
また、前記中間層は、バインダー樹脂と無機微粒子と界面活性剤の混合物を有することを特徴とする。
【0023】
また、前記中間層は、表面に含フッ素化合物からなる撥液層が形成してなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、基板上に中間層と導電性微粒子の周囲に吸着した対のイオンを有する界面活性剤間の静電気的な吸着によって、基板と導電性微粒子の密着性を向上させることができる。また中間層にバインダー樹脂を用いることにより、基板と中間層の密着性を得ることができる。また、含フッ素化合物により基板上に形成した中間層表面の撥液性を制御することによって、金属配線の密着性と細線化の両立した配線基板の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明を実施例により説明する。
【0026】
図1は、本発明の特徴である密着機構を示した模式図である。図1は中間層4上に導電性微粒子分散液1が吐出された状態を示すものである。中間層4には無機微粒子5およびその周囲に吸着した無機微粒子界面活性剤6が含有されている。一方、導電性微粒子分散液1には、導電性微粒子2およびその周囲に吸着した導電性微粒子界面活性剤3が含有されている。ここで、無機微粒子界面活性剤6と導電性微粒子界面活性剤3が対となるイオンを有している場合、導電性微粒子2には上述した導電性微粒子界面活性剤3の静電的な作用により、中間層4に対して吸着する作用が働き、導電性微粒子2と無機微粒子5が2種の界面活性剤3,6を介して密着した構造を形成する。すなわち、導電性微粒子2は、静電的な吸着作用が存在しない場合よりも中間層4の表面に緻密な膜構造を形成することになり、この結果、金属配線と基板7の密着性が向上するものである。
【0027】
さらに、該中間層4の表面に含フッ素化合物を含む撥液層8を設けることによって、導電性微粒子2と中間層4において吸着反応が起こりながら、導電性微粒子分散液1の濡れ広がりを防ぐような撥液性を付与することが可能となる。したがって、上述の方法によれば、金属配線の密着性向上と細線化を両立することができる。
【0028】
次に、本発明に係る配線基板を形成するための最良の形態を説明する。
【0029】
図2は、本実施形態に係る配線形成工程を示した図である。図2に示す工程(A)〜(D)は、基板7上に中間層4を形成した後、中間層4表面に撥液層8を形成し、その表面にインクジェットヘッド9を用いて導電性微粒子分散液1を塗布して金属配線パターンを形成するものである。
【0030】
以下に本実施例における配線基板の製造に用いる材料および装置について説明する。
[1]基板7
基板7は、用いられる電子機器の要求を満たしていればリジッドでもフレキシブルでも特に限定はないが、導電性微粒子分散液1に含有される導電性微粒子2が融着するときの加熱温度に耐えることが必要であるため、200〜300℃程度の耐熱性を有することが望ましい。このため、基板7の材料としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ガラス、セラミックス、シリコンウェハまたは金属等が望ましい。
[2]中間層4に用いられる材料
中間層4における塗料の基本組成は、バインダー樹脂、無機微粒子5および無機微粒子界面活性剤6を有してなる。それぞれの組成については後述するが、中間層4を塗布する方法としては、塗料の粘度を適宜調整することにより、スピンコート、バーコートまたはギャップコート等、各種塗布方法を採用することができる。
[2−1]バインダー樹脂
用いられるバインダー樹脂として、導電性微粒子分散液1に含有される導電性微粒子2が融着するときの加熱温度に耐えることが必要であるため、200〜300℃程度の耐熱性を有することが望ましい。したがって、これに適する樹脂としてはポリイミドやポリアミドイミド等が望ましい。
[2−2]無機微粒子5
本発明における無機微粒子5は、後述の無機微粒子界面活性剤6の担持体としての作用をなすものである。使用することができる無機微粒子5としては、シリカやアルミナ等が挙げられる。
[2−3]界面活性剤
本発明において、最も重要となる材料が界面活性剤である。一般的に界面活性剤の種類としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤があるが、本発明においては、イオン性を有していることが望ましく、すなわち、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤または両性界面活性剤を使用することが望ましい。
【0031】
すなわち、導電性微粒子分散液1にカチオン性の導電性微粒子界面活性剤3を含有させる場合、中間層4にはアニオン性の無機微粒子界面活性剤6を含有させることによって、所望の機能を得ることができる。あるいは、導電性微粒子分散液1にアニオン性の導電性微粒子界面活性剤3を含有させる場合、中間層4にはカチオン性の無機微粒子界面活性剤6を含有させることにより、所望の機能を得ることができる。あるいは、中間層4に両性界面活性剤であるを無機微粒子界面活性剤6を含有させる場合、中間層4のpHを調整することによって、導電性微粒子分散液1に対しては、アニオン性およびカチオン性どちらの導電性微粒子界面活性剤3を用いることができる。
[3]導電性微粒子分散液1
導電性微粒子分散液1は、導電性微粒子2、導電性微粒子界面活性剤3および分散媒を有してなる。導電性微粒子2としては、金、銀、銅、ニッケル、パラジウムまたはインジウム錫酸化物等、導電性を有する金属を用いることができる。
【0032】
分散媒としては、上記の導電性微粒子2を分散できるものであれば特に限定されず、水以外に、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン等の炭化水素系化合物を用いることができる。また、導電性微粒子分散液1の粘度および表面張力等の物性は、使用するインクジェットヘッドの特性に合わせて適宜調整することが望ましい。
[4]含フッ素化合物
含フッ素化合物は基板7表面の撥液性を制御する目的で使用するものである。上述のようにインクジェット法による配線形成工程において、基板7の撥液性が適切でない場合、液滴の凝集や断線が生じる可能性がある。したがって、基板7に対する溶液の接触角は30°以上60°以下に制御することが望ましい。
【0033】
含フッ素化合物材料を基板7に付与する形態としては、前記バインダー樹脂、界面活性剤および無機微粒子からなる塗料に、含フッ素化合物を混入させて基板7上に塗布する形態と、基板7上に前記塗料を塗布した後に、塗料表面に含フッ素化合物の分子膜を形成する形態のいずれも採用することができる。
[5]インクジェット記録装置
図4に、インクジェット記録装置の概略を示す。図4において、筐体11の上部にXステージ12およびZステージ13を介してヘッドベース15が配置され、その上に1個、あるいは複数個のインクジェットヘッド9が搭載される。インクジェットヘッド9には、溶液タンク16から溶液供給管17を介して導電性微粒子分散液1が供給される。また、インクジェットヘッド9のノズル面と対向してYステージ13が設けられ、その上に本発明である基板7を設置する構成となっている。本例においては、ヘッドベース15が図中におけるX方向に移動し、基板7が図中のY方向に移動できる機構が備わっており、基板7に任意の配線パターンを描画することができる構成となっている。
【0034】
次に、本発明の実験例を説明する。
【0035】
ポリイミドワニス〔ピーアイ技研(株)製Q−IP−GWK−119〕62重量部に、表面にシラノール基が付与されたシリカ微粒子〔日本アエロジル(株)製アエロジル200〕0.3重量部と、両性界面活性剤〔花王(株)製ホモゲノールL−95〕0.2重量部と、γ−ブチロラクトン30重量部と、トリグライム7.5重量部とを加えて攪拌した。
【0036】
上記で得た塗料を、ポリイミドフィルム〔宇部興産(株)製ユーピレックス〕上にバーコータを用いて塗布した後、電気炉に入れて、140℃で30分間、次いで230℃で1時間の条件で加熱処理を行い、厚さ5μmの中間層を得た。さらに、この基板に酸素プラズマを照射して親液処理を行った。その後、直ちに、1、1、2、2−パーフルオロオクチルトリメトキシシラン0.2重量%溶液(溶媒は、住友スリーエム(株)製フロリナートPF−5060)に5分間浸漬し、150℃にて15分間乾燥させることによってフルオロアルキル基を有する単分子膜を形成した。この基板表面と純水との接触角は140°であり、後述の導電性微粒子分散液との接触角は30°であった。
【0037】
上記で得た基板上に、水を主溶媒とし、界面活性剤としてカチオン性高分子である下記化合物3に示すポリエチレンイミンのプロピオン酸塩を含有した銀微粒子分散液をインクジェットヘッド〔リコープリンティングシステムズ(株)製GEN3E2〕を、図4に示すインクジェット記録装置に搭載して、図3に示す配線パターンを描画した。
【0038】
上記のごとく配線描画を行った後、電気炉に入れて150℃で30分間、次いで300℃で30分間の条件で導電性微粒子の加熱処理を行ったところ、配線厚み2μm、配線幅100μm、比抵抗が10μΩ・cmの配線を得た。この配線パターンの密着力試験として、テープ剥離試験を行ったところ、全く剥がれずに良好な密着力を示した。
【0039】
すなわち、本実施例において、導電性微粒子分散液に含有されたカチオン性界面活性剤が、両イオン性界面活性剤ホモゲノールL−95のアニオン部に吸着することにより、基板表面と導電性微粒子分散液の界面に密着層が形成され、かつ導電性微粒子の密な構造が形成されたため、基板と金属配線の密着力が向上した。
【0040】
【化3】

【0041】
[比較例1]
上記実験例1における界面活性剤〔花王(株)製ホモゲノールL−95〕の代わりに、無機微粒子の分散剤として、撥液性を有するパーフルオロポリエーテル鎖とバインダー樹脂に対して相溶性のあるベンゼン環部位を有する下記化合物4を用いる以外は、実施例1と全く同様の配線製造方法を用いて配線を形成し、実施例1と同様のテープ剥離試験を行ったところ、配線が簡単に基板から剥がれ、良好な密着性を得ることができなかった。
【0042】
【化4】

【0043】
[比較例2]
上記実施例1における銀微粒子分散液の代わりに、テトラデカンを主溶媒とし、ドデシルアミンを界面活性剤とする銀微粒子分散液を用いる以外は、実施例1と全く同様の配線製造方法を用いて銀配線を形成し、実験例1と同様のテープ剥離試験を行ったところ、簡単に配線が基板から剥がれ、良好な密着性を得ることができなかった。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【図1】導電性微粒子密着機構を示す模式図。
【図2】配線基板の製造工程を示す模式図。
【図3】配線パターンを示す模式図。
【図4】配線の描画に使用したインクジェット記録装置を示す模式図。
【符号の説明】
【0045】
1 導電性微粒子分散液
2 導電性微粒子
3 導電性微粒子界面活性剤
4 中間層
5 無機微粒子
6 無機微粒子界面活性剤
7 基板
8 撥液層
9 インクジェットヘッド
10 配線パターン
11 筐体
12 Xステージ
13 Yステージ
14 Zステージ
15 ヘッドベース
16 溶液タンク
17 溶液供給管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に形成される中間層と、該中間層上に導電性微粒子分散液から形成される金属配線を有する配線基板において、前記中間層は導電性微粒子分散液に含まれる界面活性剤に対して、対となるイオン性を有する官能基を備えた界面活性剤を含んでなることを特徴とする配線基板。
【請求項2】
前記中間層は、バインダー樹脂と無機微粒子と界面活性剤の混合物を有することを特徴とする請求項1記載の配線基板。
【請求項3】
前記中間層は、表面に含フッ素化合物からなる撥液層が形成してなることを特徴とする請求項1記載の配線基板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−203055(P2006−203055A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−14235(P2005−14235)
【出願日】平成17年1月21日(2005.1.21)
【出願人】(302057199)リコープリンティングシステムズ株式会社 (1,130)
【Fターム(参考)】