説明

配電系統の電圧制御装置

【課題】配電系統に分散電源が連結されることで、LRTやSVRによるタップ切替えには、高速な演算装置や多数の電圧センサ及び検出電圧の送信手段を必要としている。
【解決手段】配電線の仮想負荷中心点より下流側に第2の電圧・電流計測器を設ける。この計測器と負荷中心点までの線路インピーダンスZ1,計測器による計測情報V1,I1と、LRTやSVRの二次側近辺に設置された第1の電圧・電流計測器による計測情報V0,I0と負荷中心点までの線路インピーダンスZ0、及び重み係数α用いて次式により負荷中心点の推定電圧Vを算出する。
V=|{(1−α)V0+αV1}−{(1−α)Z00−αZ11}|

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電系統の電圧制御装置に係わり、特に、配電系統の電圧分布を管理範囲内に収めるようにした電圧制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
配電系統の電圧制御方式として、配電用変電所における負荷時タップ切替変圧器(以下LRTという)や配電線上の自動電圧調整器(以下SVRという)等が存在し、自端情報である電圧・電流計測値に基づいてタップ位置を算出し、算出値に応じてタップ位置を決定する方式が多く採用されている。
【0003】
SVRやLRTでは、SVRやLRTの設置点より端末側に負荷中心点と呼ばれる目標点を定め、自端における電圧・電流計測値を用いて負荷中心点における電圧値を推定し、その電圧値が適正範囲に収まるように変圧器タップの位置制御を行っている。
【0004】
近年、配電系統に、太陽光発電で代表される多くの分散電源が接続されることから、自端の電圧・電流計測値に基づいて算出する中心点電圧の利用のみでは誤差電圧が大きくなって電圧の管理範囲内から逸脱し適切なタップ選択ができない虞が生じている。これを防止するための電圧制御方式として、特許文献1や特許文献2などが公知となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−65788
【特許文献2】特開2004−56931
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、配電系統全体の電圧を最適に制御するという観点から、潮流計算シミュレーションと遺伝的アルゴリズムによる最適化を行って最適制御するという手法を提案している。この特許文献1の手法は、配電系統全体を把握するために多数の計測器や多くの演算資源を常時必要とし、電圧管理システムとして信頼性の高い計測ネットワークと高速な演算装置が必要となる問題点を有している。
【0007】
特許文献2では、SVR管轄化の多数の位置に電圧センサを設置し、各部の電圧分布とSVRの1タップの電圧幅を勘案しながら線路電圧を管理値内に制御することを提案している。この特許文献2でも、多数の電圧センサや検出電圧の送信手段を必要としている。
【0008】
そこで、本発明が目的とするとこは、部品点数を少なくし、且つ電圧管理範囲を逸脱することなく精度くタップ切替を可能とする配電系統の電圧制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、負荷時タップ切替変圧器や自動電圧調整器の二次側近辺の配電線に設置された第1の電圧・電流計測器による計測情報V0,I0と、この電圧・電流計測器の設置点の下流に設けられる仮想の負荷中心点まで線路インピーダンス
0を用いての算出電圧に応じてタップ切替え制御を行うものにおいて、
前記仮想の負荷中心点より配電線の下流側に第2の電圧・電流計測器を設け、この電圧・電流計測器による検出情報V1,I1と負荷中心点より第2の電圧・電流計測器設置点までの線路インピーダンスZ1を用いて次式で負荷中心点の推定電圧Vを算出し、算出された推定電圧と予め設定された基準電圧との差電圧でタップの切替え制御を行うことをすることを特徴としたものである。
V=|{(1−α)V0+αV1}−{(1−α)Z00−αZ11}|
ただし、αは重み係数
また、本発明は、前記算出された負荷中心点の推定電圧Vの誤差が最小となるよう重み係数αと線路インピーダンスZ0,Z1を求めることを特徴としたものである。
【0010】
さらに本発明は、重み係数αと線路インピーダンスZ0,Z1および前記算出された負荷中心点の推定電圧Vの目標値に、配電線の多様な負荷パターンに対して配電線の系統全体潮流のシミュレーション後の最適値を用いることを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のとおり、本発明によれば、従来機器二次側の電圧・電流の他に、仮想の負荷中心点よりも下流任意点の電圧・電流情報と3つのパラメータを用いた簡単な情報で負荷中心点の電圧を推定し、その推定値と基準電圧との偏差に基づいてタップ切替え制御を行うものである。
これによって、簡単な制御装置によって、「軽負荷」,「重負荷+発電」に関係なく
負荷中心点の電圧が推定でき、管理範囲電圧を逸脱することなく精度良くタップの切替え制御が可能となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態を示す構成図。
【図2】本発明の制御装置の構成図。
【図3】本発明の制御フロー図。
【図4】シミュレーションによる比較図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、本発明の実施例を示す配電線の部分系統図である。1は配電線、2は配電線に設置された自動電圧調整器(或いは負荷時タップ切替変圧器)で、その内部,もしくは二次側隣接して電圧・電流計測器3を設置し、自端の電圧・電流を計測する。4は電圧・電流計測器3の設置点よりも下流の配電線1に位置する仮想的な負荷中心点、5は電圧・電流計測器で、この計測器5は負荷中心点4よりもさらに下流側の配電線1上に設けられる。なお、この電圧・電流計測器5は改めて設置しなくとも、配電線の任意点に設置される開閉器に内蔵の計測器を利用してもよいことは勿論である。
【0014】
6は通信装置で、電圧・電流計測器5によって検出された電圧・電流は通信装置6を介して制御装置10に送信される。制御装置10は、電圧・電流計測器3で計測した電圧V0,I0と、電圧・電流計測器5で計測した電圧V1,I1を入力して負荷中心点4の電圧推定値Vを演算する。
【0015】
図2は、制御装置10の概略の機能構成図を示したもので、電圧の推定値Vは推定電圧演算部11で(1)式に基づいて算出する。
V=|{(1−α)V0+αV1}−{(1−α)Z00−αZ11}|……(1)
ここで、Z0は自動電圧調整器2から負荷中心点4までの線路インピーダンス、Z1は負荷中心点4から電圧・電流計測器5までの線路インピーダンス、αは電圧・電流計測器5の重みで、α=L0/(L0+L1)で算出される(ただし、L0は計測器3から負荷中心点4までの距離、L1は負荷中心点4から計測器5までの距離)。
【0016】
12は偏差演算部で、算出された推定値Vと負荷中心点の目標電圧として予め設定された基準電圧Vrefとの偏差電圧ΔVを算出する。13は判定部で、偏差電圧ΔVが予め設定される不感帯を超えた正ならば一定の動作時限の後にタップ下げ指令を出力し、負ならば一定の動作時限の後にタップ上げ指令を出力する。14は電圧調整継電部で、偏差電圧ΔVの正負に応じたタップ変更動作を実行する。なお、12から14までの機能は、従来のSVRの制御と同様である。
【0017】
図3は図2で示す制御装置の動作フローを示したものである。
ステップS1では、推定電圧演算部11は、電圧・電流計測器3,5によって計測された電圧・電流V0,I0、V1,I1を所定のサンプリング間隔で取り込む。
ステップS2では、取り込んだ電圧・電流値と予め設定された3つのパラメータα、Z0およびZ1を用いて(1)式の演算を実行して仮想の負荷中心点4の電圧Vを推定する。
【0018】
ステップS3では、偏差演算部12に入力された推定電圧Vと基準電圧Vrefを用いてΔV=V−Vrefの演算を実行して偏差電圧ΔVを求める。判定部13は、ステップS4で入力されたΔVの値を用いてタップ上げおよびタップ下げの
時限カウンタを、加算、或いは減算方向にカウントする。その際、カウント量は時間積算か時間積分かのカウント方式の相違によっても異なるが、ΔVの絶対値が不感帯を超える場合にΔVの正負によってタップ下げ、又はタップ上げの時限カウントを加算し、不感帯に入る場合には時限カウントを減算する。
【0019】
ステップS5では、時限カウントが設定値を超えたか否かを判定し、超過している場合には、ステップS6で電圧調整継電部14を介してタップ下げ、又はタップ上げ制御を行い、タップ変更動作後に時限カウントをリセットする。ステップS7では次の周期待ちに入り、次の周期になればステップ1から動作を再開する。
【0020】
図4はシミュレーション結果の電圧分布図である。
線ア、イは本発明による電圧分布曲線で、線アは軽負荷、線イは重負荷+発電時の場合、線ア´、イ´は従来の適切なタップ選択ができなかった場合の電圧分布曲線で、線ア´は軽負荷時に線アと同じタップを選んだ場合、線イ´は重負荷+発電時に線イと同じタップを選んだ場合である。ULは電圧管理範囲の上限、LLは電圧管理範囲の下限である。また、本発明のパラメータを、α=0.5、線路インピーダンスZ0,Z1を各2%とし、従来の場合はα=0とし、基準電圧は6660Vとしてシミュレーションを行った。
【0021】
図4で明らかなように、従来の場合、負荷が軽い「軽負荷」パターンと負荷が重いがそれを補う発電が系統内にある「重負荷+発電」の両方で、共に電圧・電流計測器3の設置点L1で検出された電流がほぼ同じであるため両パターンを区別できない。しかし、L1時点の「軽負荷」時の線ア´のパターンでの電圧約6700Vの場合と、「重負荷+発電」時の線イ´の電圧約6800Vの場合には、軽負荷曲線ア´では負荷中心点L0近辺から距離L3を越えた範囲で下限LLを逸脱しており、また、重負荷+発電時の線イ´では、電圧・電流計測器5の設置点L4近辺で上限ULを逸脱している。
これに対して本発明による線ア、イの場合には電圧管理範囲のULとLL内に入っている。
【0022】
図4は、計測点3及び計測点5と負荷中心点までの距離の逆数の比から求める重みα=0.5、線路インピーダンスZ0,Z1をそれぞれ2%として(1)式で求まった推定値を使用したものである。電圧分布曲線が「軽負荷」時および「重負荷+発電」時に関係なく精度良く管理範囲UL,LL内に入るようにするためには、推定値の誤差が最小となるよう上記3つのパラメータを決める方法でもよく、また、多様な負荷パターンに対して系統全体の潮流をシミュレーションし、系統の電圧逸脱が最小となるように、重み係数αおよび線路インピーダンスZ0,Z1に最適整定値を用いるようにしてもよい。この場合、基準電圧も同時に計算される最適整定値が用いられる。
【0023】
以上本発明は、従来のSVRの手法に、負荷中心点よりも下流任意点の電圧・電流情報と3つのパラメータを用いた簡単な情報で負荷中心点の電圧を推定し、その推定値と基準電圧との偏差に基づいてタップ切替え制御を行うものである。
これによって、簡単な制御装置によって、「軽負荷」,「重負荷+発電」に関係なく
負荷中心点の電圧が推定でき、管理範囲電圧を逸脱することなく精度良くタップ切替が可能となるものである。
【符号の説明】
【0024】
1… 配電線
2… 自動電圧調整器(又は負荷時タップ切替変圧器)
3… 第1の電圧・電流計測器
4… 仮想の負荷中心点
5… 第2の電圧・電流計測器
6… 通信装置
10…制御装置
11… 推定電圧演算部
12… 偏差演算部
13… 判定部
14… 電圧調整継電部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
負荷時タップ切替変圧器や自動電圧調整器の二次側近辺の配電線に設置された第1の電圧・電流計測器による計測情報V0,I0と、この電圧・電流計測器の設置点の下流に設けられる仮想の負荷中心点まで線路インピーダンス
0を用いての算出電圧に応じてタップ切替え制御を行うものにおいて、
前記仮想の負荷中心点より配電線の下流側に第2の電圧・電流計測器を設け、この電圧・電流計測器による検出情報V1,I1と負荷中心点より第2の電圧・電流計測器設置点までの線路インピーダンスZ1を用いて次式で負荷中心点の推定電圧Vを算出し、算出された推定電圧と予め設定された基準電圧との差電圧でタップの切替え制御を行うことを特徴とした配電系統の電圧制御装置。
V=|{(1−α)V0+αV1}−{(1−α)Z00−αZ11}|
ただし、αは重み係数
【請求項2】
前記算出された負荷中心点の推定電圧Vの誤差が最小となるよう重み係数αと線路インピーダンスZ0,Z1を求めることを特徴とした請求項1記載の配電系統の電圧制御装置。
【請求項3】
前記重み係数αと線路インピーダンスZ0,Z1および前記算出された負荷中心点の推定電圧Vの目標値に、配電線の多様な負荷パターンに対して配電線の系統全体潮流のシミュレーション後の最適値を用いることを特徴とした請求項1記載の配電系統の電圧制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−191779(P2012−191779A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−53996(P2011−53996)
【出願日】平成23年3月11日(2011.3.11)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】