説明

配電系通信装置及び配電系通信システム

【課題】光通信用プロトコルに無線通信用プロトコルで用いられているAODVのルーティング手法を大幅な改変を行うことなく取り入れられるようにすることで、システム構築を柔軟に行えて高速大容量な通信が可能な配電系通信装置及び配電系通信システムを提供する。
【解決手段】新規プロトコルスタック10では、ZB NWK層33の少なくともAODVのルーティング手段をネットワーク層に追加してZB NWK層12とし、その下位側と上位側にそれぞれ第1IP層11、第2IP層13を設けている。ZB NWK層12の下位側と上位側の両方にIP層11、13が設けられたことで、下位側のMAC層22及び上位側のTCP/UDP層24はともに、IP層とのインタフェースをもつことになる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電力配電システムの監視・制御等に用いられる配電系通信装置及び配電系通信システムに関し、特に、通信システムを柔軟に構築できて既存の通信装置との接続も容易に対応できる配電系通信装置及び配電系通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電力系統の電力配電システムは、変配電所内に設けられた変圧器から配電線を経由して電力を配電しており、配電線の途中で地絡や短絡等の事故が発生したときの影響をできるだけ局所化するために、配電線の途中に複数の開閉器を配置して配電系統を区分した構成になっている。また、電力配電システムは、事故の発生を監視してこれを適切に処理するための監視制御システムを有している。監視制御システムは、センタ装置(親局)を備えるとともに、開閉器毎に子局を備えている。子局は、所定の通信線で直接または他の子局を介して親局に接続されている。
【0003】
従来の電力配電システムの監視制御システムでは、通信線に電力線やメタルケーブルが用いられていた。このような従来の監視制御システムの構成が、例えば特許文献1に記載されている。また、特許文献2には、配電系統の親局と複数の子局との間を光ファイバケーブルで接続してIPプロトコルにて通信を行う配電線遠方監視制御通信方式が記載されている。監視制御システムは、事故の発生を検知すると、事故地点を判定して開閉器を制御するために親局と子局との間で多くの情報が送受信される。そのため、親局と各子局との間の通信量の増大に伴ってシステム内通信の大容量化が要求されている。
【0004】
このような大容量の通信を安定して実現するには、親局と各子局との間の通信を光化するのが好ましい。光通信は通常、図11(a)に示すようなプロトコルスタック20で構成されるイーサネット(登録商標)規格およびTCP/IP規格を適用して構築される。配電システムでは、多数の開閉器が分散配置されていることから、監視制御システムでも多数の子局を分散配置する必要がある。そこで、各子局をできるだけ安価に構築できるのが望ましい。
【0005】
また、配電システムでは、配電先(需要家)の増加等に対応して開閉器の追加等が必要になるが、それに伴って監視制御システムの再構築や子局の追加等が容易に行えるのが望ましい。特許文献2に記載の通信方式では、光通信を用いているものの、ネットワークを柔軟に構成するのが難しく、また障害発生時にはブロードキャストで通信を行うため処理が重いといった問題がある。TCP/IP規格のネットワークでは、従来より通信ネットワークを柔軟に構築できるルーティング機能を有している。しかし、ルーティング機能の負荷が重く、装置が大型化してしまうといった問題があった。
【0006】
一方、複数分散するノード間を無線通信で接続し、別のノードを経由(中継処理)しながら通信を行うZigBee(登録商標)規格のネットワークも知られている。ZigBee(登録商標)は、短距離無線通信規格の一つであり、処理の負荷が軽く処理装置の小型化や低消費電力化を図ることができる。ZigBee(登録商標)を構成しているプロトコルスタックを図11(b)に示す。ZigBee(登録商標)のルーティング手段は、無線通信用プロトコル30のネットワーク層であるZigBee(登録商標)ネットワーク層33(以下では、ZB NWK層33と記載する)で処理される機能である。
【0007】
そこで、大容量の通信が可能な光通信用プロトコル20に、処理負荷の軽い無線通信用プロトコル30のZB NWK層33に設けられているルーティング手段を取り入れることで、大容量の通信が可能でかつ通信システムを柔軟に構築できる光通信装置及び光通信システムの実現が期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−42540号公報
【特許文献2】特開2005−210818号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、イーサネット(登録商標)及びTCP/IP規格を用いた光通信用プロトコルと、ZigBee(登録商標)に適用されている無線通信用プロトコルとでは、図11(a)、(b)に示すように、物理層やその上位層の規格が大きく異なっている。そのため、光通信用プロトコルのネットワーク層であるIP層と無線通信用プロトコルのZB NWK層とを一体化するのは極めて困難であり、大幅な改変が必要となる。そこで、ZB NWK層からルーティング手段のみを取り出し、これを光通信用プロトコルのIP層に組み入れることが考えられる。
【0010】
しかし、IP層の下位にあるイーサネット(登録商標)で規定されたMAC層(データリンク層)は、ZigBee(登録商標)のルーティング手段に対応するには機能が十分でなく、IP層とのインタフェースを構築し直す必要があるが、MAC層の改変は物理層にも影響するため困難である。一方、IP層の上位にあるTCP/UDP層は、特にUDPが下位をIP層とすることを前提に構築されているため、IP層を改変するのが難しい。
【0011】
本発明はこのような問題を解決するためになされたものであり、光通信用プロトコルに無線通信用プロトコルで用いられているルーティング手法を大幅な改変を行うことなく取り入れられるようにすることで、システム構築を柔軟に行えて高速大容量な通信が可能な配電系通信装置及び配電系通信システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の配電系通信装置の第1の態様は、電力配電システムの監視・制御を行う親局及び子局の通信に用いられ、少なくとも伝送路とのインタフェースを規定する物理層と、MACアドレスを管理するMAC層と、信号の通信経路を管理するネットワーク層と、を有するプロトコルスタックに基づいて構成された配電系通信装置であって、前記ネットワーク層は、少なくとも前記伝送路で接続された隣接する親局または子局(以下では隣接中継局という)のアドレスを管理する第1IP層と、信号の送信先である親局または子局(以下では目的局という)への通信経路を探索するルーティング手段を有するZB NWK層とを有し、前記物理層の規定に従って前記伝送路を接続するポートを2以上有するポート部と、前記ポート部に接続されて前記MAC層の処理を行う送受信処理部と、前記送受信処理部に接続されて前記ネットワーク層の処理を行う通信制御部と、を備え、前記通信制御部は、前記第1IP層の処理を行う第1通信処理部と、前記ルーティング手段を実行するルーティング処理部とをさらに備えることを特徴とする。
【0013】
本発明の配電系通信装置の他の態様は、前記隣接中継局から信号を入力すると、前記ルーティング処理部は、前記信号の所定のヘッダに記載されている前記目的局のアドレスをもとに前記通信経路を探索して該通信経路に接続される別の前記隣接中継局を判定し、前記第1通信処理部は、前記ルーティング処理部から前記別の隣接中継局のアドレスを入力し、前記別の隣接中継局のアドレスを前記信号の別のヘッダに記載して前記送受信処理部に出力し、前記送受信処理部は、前記別の隣接中継局に接続された前記ポートを選択して前記信号を出力することを特徴とする。
【0014】
本発明の配電系通信装置の他の態様は、前記プロトコルスタックは、さらにTCPまたはUDPの処理を行うトランスポート層と、アプリケーションを規定するアプリケーション層とを有するとともに、前記ネットワーク層がさらに前記目的局のアドレスを管理する第2IP層を有し、前記通信制御部に接続されて前記トランスポート層の処理を行う通信管理部と、前記通信管理部に接続されて所定のアプリケーションを実行する子局機能部とを備え、前記通信制御部がさらに前記第2IP層の処理を行う第2通信処理部を備えることを特徴とする。
【0015】
本発明の配電系通信装置の他の態様は、前記ポートから入出力する信号は、データと、前記通信管理部で処理されるTCP/UDPヘッダと、前記第2通信処理部で処理される第2IPヘッダと、前記ルーティング処理部で処理されるZB NWKヘッダと、前記第1通信処理部で処理される第1IPヘッダと、前記送受信処理部で処理されるMACヘッダと、を有していることを特徴とする。
【0016】
本発明の配電系通信装置の他の態様は、前記子局機能部から出力されたデータに対して前記通信管理部で前記TCP/UDPヘッダが付加された信号が前記通信制御部に入力されると、前記第2通信処理部は、前記データの送信先である目的局のアドレスを記載した前記第2IPヘッダを前記信号に付加し、前記ルーティング処理部は、前記ルーティング手段により探索された前記通信経路の情報を前記ZB NWKヘッダに記載して前記信号に付加し、前記第1通信処理部は、前記ルーティング処理部から前記通信経路に接続された隣接中継局のアドレスを入力し、該アドレスを前記第1IPヘッダに記載して前記信号に付加することを特徴とする。
【0017】
本発明の配電系通信装置の他の態様は、前記ルーティング処理部は、前記目的局への通信経路に接続される前記隣接中継局の情報を通信経路表として保存し、前記目的局のアドレスを入力すると、前記通信経路表から前記目的局への通信経路を探索し、前記通信経路表に前記目的局への通信経路が保存されていないときは前記ポート部のポートに接続されているすべての親局及び子局に前記通信経路の探索を要求し、探索された前記通信経路に接続される前記隣接中継局を前記第1通信処理部に出力することを特徴とする。
【0018】
本発明の配電系通信システムの第1の態様は、第1の態様から第6の態様のいずれか1つの配電系通信装置を2以上伝送路で接続して構成されていることを特徴とする。
【0019】
本発明の配電系通信システムの他の態様は、前記配電系通信装置は、前記親局及び子局のアドレスとして、TCP/IPプロトコルで用いられるIPアドレスとは別のルーティング用アドレスを設定しており、前記ルーティング用アドレスは前記IPアドレスと照合可能に対応付けされていることを特徴とする。
【0020】
本発明の配電系通信システムの他の態様は、前記ポート部は、前記TCP/IPプロトコルに基づいて構成された外部通信装置を接続するためのポートをさらに備えることを特徴とする。
【0021】
本発明の配電系通信システムの他の態様は、前記第1通信処理部は、信号の前記第1IPヘッダに記載されているアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスか否かを判定し、前記アドレスが前記外部通信装置のIPアドレスのときは前記ルーティング処理部をバイパスして前記信号を前記第2通信処理部に出力し、前記第2通信処理部は、前記第2IPヘッダに記載されているアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスか否かを判定し、前記アドレスが前記外部外部通信装置のIPアドレスのときは前記ルーティング処理部をバイパスして前記信号を前記第1通信処理部に出力することを特徴とする。
【0022】
本発明の配電系通信装置の他の態様は、電力配電システムの監視・制御を行う親局及び子局に設置されて相互を伝送路で接続して信号を送受信する配電系通信装置であって、前記信号は、少なくともMACアドレスを記載するMACヘッダと、前記伝送路で接続された隣接する親局または子局(以下では隣接中継局という)のアドレスを記載する第1IPヘッダと、前記信号の送信先である親局または子局(以下では目的局という)への通信経路を探索するルーティング手段で用いる情報を記載するZB NWKヘッダと、をデータに付加したフレーム構成を有し、前記伝送路を接続するポートを2以上有するポート部と、前記ポート部に接続されて前記MACヘッダの処理を行う送受信処理部と、前記送受信処理部に接続され、前記第1IPヘッダの処理を行う第1通信処理部と、前記ZB NWKヘッダの処理を行うルーティング処理部と、を有する通信制御部と、を備えることを特徴とする。
【0023】
本発明の配電系通信装置の他の態様は、前記隣接中継局から信号を入力すると、前記ルーティング処理部は、前記ZB NWKヘッダに記載されている前記目的局のアドレスをもとに前記通信経路を探索して該通信経路に接続される別の前記隣接中継局を判定し、前記第1通信処理部は、前記ルーティング処理部から前記別の隣接中継局のアドレスを入力し、前記別の隣接中継局のアドレスを前記第1IPヘッダに記載して前記送受信処理部に出力し、前記送受信処理部は、前記別の隣接中継局に接続された前記ポートを選択して前記信号を出力することを特徴とする。
【0024】
本発明の配電系通信装置の他の態様は、前記信号は、さらに前記目的局のアドレスを記載する第2IPヘッダと、TCPまたはUDPの処理に用いる情報を記載するTCP/UDPヘッダと、を有し、前記通信制御部に接続されて前記TCP/UDPヘッダの処理を行う通信管理部と、前記通信管理部に接続されて所定のアプリケーションを実行する子局機能部と、をさらに備え、前記通信制御部は、前記第2IPヘッダの処理を行う第2通信処理部をさらに備えることを特徴とする。
【0025】
本発明の配電系通信装置の他の態様は、前記子局機能部から出力されたデータに対して前記通信管理部で前記TCP/UDPヘッダが付加された信号が前記通信制御部に入力されると、前記第2通信処理部は、前記第2IPヘッダに前記データの送信先である目的局のアドレスを記載して前記信号に付加し、前記ルーティング処理部は、前記ルーティング手段により探索された前記通信経路の情報を前記ZB NWKヘッダに記載して前記信号に付加し、前記第1通信処理部は、前記ルーティング処理部から前記通信経路に接続された隣接中継局のアドレスを入力し、該アドレスを前記第1IPヘッダに記載して前記信号に付加することを特徴とする。
【0026】
本発明の配電系通信システムの他の態様は、第11の態様から第14の態様のいずれか1つの配電系通信装置を2以上光ファイバで接続して構成されていることを特徴とする。
【0027】
本発明の配電系通信システムの他の態様は、前記配電系通信装置は、前記親局及び子局のアドレスとして、TCP/IPプロトコルで用いられるIPアドレスとは別のルーティング用アドレスを設定して前記IPアドレスと照合可能に対応付けしており、前記ポート部は、前記TCP/IPプロトコルに基づいて構成された外部通信装置を接続するためのポートをさらに備え、前記第1通信処理部は、前記第1IPヘッダに記載されているIPアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスか否かを判定し、前記IPアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスのときは前記ルーティング処理部をバイパスして前記信号を前記第2通信処理部に出力し、前記第2通信処理部は、前記第2IPヘッダに記載されているIPアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスか否かを判定し、前記IPアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスのときは前記ルーティング処理部をバイパスして前記信号を前記第1通信処理部に出力することを特徴とする。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、通信用プロトコルに無線通信用プロトコルで用いられているAODV(Ad hoc On-Demand Distance Vector)のルーティング手法を大幅な改変を行うことなく取り入れられるようにすることで、システム構築を柔軟に行えて高速大容量な通信が可能な配電系通信装置及び配電系通信システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1実施形態の配電系通信装置に適用される新規プロトコルスタックの構成図である。
【図2】新規プロトコルスタックと一般的な光通信用プロトコルスタック及びZigBee(登録商標)の無線通信用プロトコルスタックとの関係を示す説明図である。
【図3】ZigBee(登録商標)のAODVルーティング手段で使用される通信経路表の一例である。
【図4】新規プロトコルスタックに対応させたフレーム構成を示す説明図である。
【図5】本発明の第1実施形態に係る配電系通信装置の構成を示すブロック図である。
【図6】第1実施形態のルーティング処理部で実行される経路探索の方法を説明するフローチャートである。
【図7】本発明の第1実施形態に係る配電系通信システムの構成を示すブロック図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る配電系通信システムの構成を示すブロック図である。
【図9】第2実施形態の配電系通信システムのネットワーク層で行われる処理の流れを説明するフローチャートである。
【図10】本発明の第3実施形態に係る配電系通信システムの構成を示すブロック図である。
【図11】一般的なプロトコルスタックの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図面を参照して本発明の好ましい実施の形態における配電系通信装置及び配電系通信システムについて詳細に説明する。なお、同一機能を有する各構成部については、図示及び説明簡略化のため、同一符号を付して示す。以下では、AODVのルーティング手法の一例として、ZigBee(登録商標)を適用した場合について説明するが、これに限定されず別のルーティング手法を用いても同様にして構築することができる。
【0031】
(第1実施形態)
本発明の第1の実施形態に係る配電系通信装置を構成するためのプロトコルスタックについて、図1乃至4を用いて以下に説明する。図1は本実施形態に係る配電系通信装置に適用されるプロトコルスタックの構成図、図2は本実施形態で用いる新規プロトコルスタックと一般的な光通信用プロトコルスタック及びZigBee(登録商標)の無線通信用プロトコルスタックとの関係を示す説明図、図3はZigBee(登録商標)のAODVルーティング手段で使用される通信経路表の一例、図4は本実施形態で用いる新規プロトコルスタックに対応させたフレーム構成を示す説明図、をそれぞれ示す。
【0032】
本実施形態の配電系通信装置は、光通信用プロトコルに無線通信用プロトコルで用いられているAODVのルーティング手法を大幅な改変を行うことなく取り入れて構成されたものであり、図1(a)に示すようなプロトコルスタック(以下では、新規プロトコルスタックと称する)10を有している。新規プロトコルスタック10は、図11に示した一般的な光通信用プロトコルスタック20とZigBee(登録商標)の無線通信用プロトコルスタック30とを組合わせて構成されている。新規プロトコルスタック10の構成を、図2を用いてさらに詳細に説明する。
【0033】
図2では、新規プロトコルスタック10と一般的な光通信用プロトコルスタック20及びZigBee(登録商標)の無線通信用プロトコルスタック30との関係を示している。新規プロトコルスタック10は、光通信用プロトコルスタック20をベースに、ZigBee(登録商標)の無線通信用プロトコル30からZB NWK層33を抽出して光通信用プロトコルスタック20のネットワーク層に追加した構成としている。新規プロトコルスタック10のZB NWK層12は、ZB NWK層33の少なくともAODVルーティング手段を含む部分を抽出したものである。
【0034】
ZB NWK層33に設けられているAODVルーティング手段では、送信先の親局又は子局(以下では、単に目的局という)までの経路を、以下のようにして選択していく。各局の配電系通信装置は、目的局への通信経路に繋がる隣接する親局または子局(以下では、隣接中継局という)に関する情報として、図3に例示するようなテーブル(以下では、通信経路表という)50を有している。通信経路表50は、当該局から目的局に至る経路に接続されている隣接中継局、及びその経路で送信したときの通信コストを記録したテーブルである。送信元の局は、図3に示す通信経路表50を用いて目的局に至る隣接中継局を選択して信号を送信し、次に隣接中継局が目的局に至る別の隣接中継局を選択して信号を送信する。以下同様にして、目的局に至るまで隣接中継局を順次経由して信号を送信していく。
【0035】
上記のような処理を行うZB NWK層33のAODVのルーティング手段を光通信用プロトコルスタック20のIP層23に組み入れると、下位層のMAC層22とのインタフェースを構築し直す必要が生じる。また、IP層23の上位層であるTCP/UDP層24も、IP層23を改変すると特にUDPが所定の処理を行えなくおそれがある。IP層23とMAC層22及びTCP/UDP層24とのインタフェースを考慮して各層のプロトコルを変更するには大幅な改変が必要となる。さらに、一般的なTCP/IPプロトコルで動作する通信装置との接続も難しくなってしまう。
【0036】
そこで、新規プロトコルスタック10では、ZB NWK層33の少なくともAODVのルーティング手段をネットワーク層に追加してZB NWK層12とし、その下位側と上位側の両方にIP層11、13を設けた構成としている。すなわち、新規プロトコルスタック10のネットワーク層は、IP層11、ZB NWK層12、及びIP層13から構成されている。以下では、下位側のIP層11を第1IP層11、上位側のIP層13を第2IP層13と称することとする。なお、ZB NWK層12は、ZB NWK層33からAODVのルーティング手段のみを抽出したものに限定する必要はなく、例えばZB NWK層33をそのまま用いてもよい。
【0037】
新規プロトコルスタック10では、ZB NWK層12の下位側と上位側の両方にIP層11、13が設けられたことで、下位側のMAC層22及び上位側のTCP/UDP層24はともに、従来と同様のIP層とのインタフェースをもつことになる。これにより、下位側のMAC層22及び上位側のTCP/UDP層24とも、ネットワーク層とのインタフェースを改変する必要がない。一方、一般的なIP層は他の処理層との接続が容易であることから、ZB NWK層12と第1IP層11及び第2IP層13とのインタフェースの改変も少なくて済む。
【0038】
このように、新規プロトコルスタック10は、一般的なプロトコルスタックからの改変が極めて少なくてすむ。新規プロトコルスタック10のレイヤ構成では、局間の通信を光通信で行うことから、高速大容量な通信が可能となる。また、ネットワーク層のZB NWK層12にAODVのルーティング手段が設けられていることから、配電系通信システムを柔軟に構築することが可能となる。
【0039】
ネットワーク層は、ネットワーク上の2つのノード間の通信方法を規定しており、ネットワーク上の経路選択や中継処理などを行っている。新規プロトコルスタック10では、上記説明のようにネットワーク層が第1IP層11、ZB NWK層12、及び第2IP層13で構成されており、それぞれが所定の役割を分担して経路選択や中継処理等の処理を行うように構成されている。
【0040】
本実施形態の配電系通信装置が隣接局から信号を入力すると、ZB NWK層12に設けられたAODVのルーティング手段は、入力信号のフレーム情報から目的局の情報を取得し、図3に例示した通信経路表50を用いて目的局に到達するための隣接中継局を選択する。また、目的局に至る隣接中継局が通信経路表50にないときは、ネットワークに対して目的局への経路問い合わせを行い、通知された経路のうち最もコストが少ない経路に従い隣接局へ伝送を行う。このようなルーティング手段の動作に対応させるために、ZB NWK層12の下位側にある第1IP層11に隣接中継局のIPアドレス等の情報を管理させ、ZB NWK層12の上位側にある第2IP層13に目的局のIPアドレス等の情報を管理させる構成としている。
【0041】
新規プロトコルスタック10に基づいて本実施形態の配電系通信装置を構成したとき、各配電系通信装置間を伝送する信号は、図4に示すようなフレーム構成を持つようにするのがよい。図4では、比較のために一般的なTCP/IPで用いられているフレーム構成を同図(a)に示しており、新規プロトコルスタック10に対応させたフレーム構成を同図(b)に示している。
【0042】
一般的なTCP/IPフレーム構成60は、図11に示したプロトコルスタック20、30の構成に対応して、MAC層(データリンク層)で処理されるMACヘッダ61及びFCS61a、ネットワーク層で処理されるIPヘッダ62、トランスポート層で処理されるTCP/UDPヘッダ63、及びアプリケーション層で処理されるデータ64、からなっている。MACヘッダ61には、送信先及び送信元のMACアドレス等の情報が記載されており、IPヘッダ62には、送信先及び送信元のIPアドレス等の情報が記載されている。
【0043】
MACヘッダ61、IPヘッダ62、及びTCP/UDPヘッダ63のデータ長は、それぞれ14バイト、24バイト、及び20/8バイトとなっており、データ64及びFCS61aの4バイトを含めて全体で64バイト以上1518バイト以下となるように構成されている。
【0044】
これに対し、図4(b)に示す新規プロトコルスタック10に対応させた新規フレーム構成70では、ネットワーク層の第1IP層11、ZB NWK層12、及び第2IP層13で処理する情報として、それぞれ第1IPヘッダ71、ZB NWKヘッダ72、及び第2IPヘッダ73が設けられている。第1IPヘッダ71には、隣接局の情報が記載されており、第2IPヘッダ73には、目的局の情報が記載されている。また、ZB NWKヘッダ72には、AODVのルーティング手段に必要な情報が記載されている。
【0045】
ZB NWK層12で行われるルーティング処理では、負荷を軽減するために各局のIPアドレスに代えて、新規プロトコルスタック10に対応させた装置間でのみ使用するアドレス(以下では、ルーティング用アドレスという)を用いている。そして、図3に例示した通信経路表50もルーティング用アドレスを用いて作成している。これに対応させて、ZB NWKヘッダ72には目的局や隣接中継局のルーティング用アドレスが記載されている。ルーティング用アドレスは、新規プロトコルスタック10で動作する本実施形態の配電系通信装置間で使用することができる。
【0046】
第1IPヘッダ71及び第2IPヘッダ73は、一般的なTCP/IPフレームのIPヘッダ62と同様に24バイトとしており、ZB NWKヘッダ72は例えば16バイトとすることができる。新規フレーム構成70は、TCP/IPフレーム構成60に比べてZB NWKヘッダ72及び第2IPヘッダ73が追加された構成となっているため、その分だけデータ64のエリアが小さくなっている。本実施形態の配電系通信装置間は、図4(b)のように構成されたフレームを単位に信号伝送を行う。
【0047】
次に、新規プロトコルスタック10に基づいて構成された本発明の第1実施形態に係る配電系通信装置を、図5に示すブロック図を用いて説明する。配電系通信装置100は、電力配電システムのセンタ装置(親局)及び各子局に設置される通信装置として利用されるものである。本実施形態の配電系通信装置100は、光ファイバを接続するためのポートを有するポート部110と、ポート部110に接続される送受信処理部120と、送受信処理部120に接続される通信制御部130と通信制御部130に接続される通信監理部140と、通信監理部140に接続される子局機能部150と、を備えている。
【0048】
ポート部110は、少なくとも2つのポートを有しており、ここでは3つのポート111、112、113を有する例を示している。各ポートには光ファイバが接続され、図示しない光トランシーバを用いて光信号と電気信号の変換を行っている。送受信処理部120は、MAC層の処理を行っており、ポート部110のいずれかのポートから信号を入力すると、信号のフレームからMACヘッダ61を削除して通信制御部130に出力する。また、通信制御部130から信号を入力すると、送信先のポートを選択して該信号のフレームにMACヘッダ61を付加して出力する。
【0049】
通信制御部130は、ネットワーク層の処理を行っており、第1IP層11の処理を行う第1通信処理部131、ZB NWK層12の処理を行うルーティング処理部132、及び第2IP層13の処理を行う第2通信部133、を有している。ルーティング処理部132は、目的局のルーティング用アドレスが当該局か否かを判定し、当該局が目的局のときは、送受信処理部120から入力したフレームを第2通信処理部133に出力する。第2通信処理部133は、ヘッダの処理を行ってフレームを通信監理部140に出力する。
【0050】
一方、目的局のルーティング用アドレスが当該局と異なるときは、目的局への中継局となる隣接中継局を探索し、探索された隣接中継局を第1通信処理部131に出力する。第1通信処理部131は、入力した隣接中継局のIPアドレスを第1IPヘッダに記載して送受信処理部120に出力する。また、通信制御部130は、通信監理部140からフレームを入力すると、第2通信処理部133で目的局のIPアドレスを第2IPヘッダ73に記載してフレームに付加し、ルーティング処理部132で目的局への中継局となる隣接局を探索し、第1通信処理部131では探索された隣接中継局のIPアドレスを第1IPヘッダに記載して送受信処理部120に出力する。
【0051】
通信監理部140は、TCP/UDP層24の処理を行っており、通信制御部130からフレームを入力すると、TCP/UDPヘッダ63を削除してデータ64をアプリケーション(APP)層25に相当する子局機能部150に出力する。また、子局機能部150からデータ64を入力すると、TCP/UDPヘッダ63をデータ64に付加して通信制御部130に出力する。
【0052】
ここで、ルーティング処理部132において実行される目的局までの経路探索の方法を、図6に示すフローチャートを用いて以下に説明する。まず、ステップS1において目的局のルーティング用アドレスを入力すると、ステップS2で目的局への通信経路に接続される隣接中継局を通信経路表50を用いて探索する。ステップS3では、ステップS2で目的局への隣接中継局が検出されたか否かを判定し、隣接中継局が検出されたと判定したときはステップS4に進む一方、目的局への隣接中継局が検出できなかったと判定したときはステップS5に進む。ステップS2で目的局への隣接中継局の探索に失敗するのは、目的局が通信経路表50の目的局の欄に記載されていない場合である。
【0053】
ステップS4では、探索された隣接中継局のルーティング用アドレスを第1通信処理部131に出力する。一方、ステップS3で目的局への隣接中継局が探索できなかったと判定したときは、ステップS5ですべての隣接中継局に対し目的局への通信経路の問い合わせを行う。そして、いずれかの隣接中継局から目的局への通信経路の探索に成功したとの通知を受けると、ステップS6で通知を受けた通信経路のうち通信コストの最も低い通信経路の隣接中継局を選択する。さらにステップS7において、目的局への通信経路の隣接中継局としてステップS6で選択された隣接中継局を通信経路表50に登録する。その後、ステップS4に進んで処理を終了する。
【0054】
上記のステップS5では、通信経路の問い合わせを行う当該局からルート要求パケットを隣接中継局のすべてに出力し、隣接中継局から所定のルートを経由してルート要求パケットが目的局に到達すると、所定のルートと逆のルートで目的局から当該局までルート回答パケットが送信される。また、目的局以外の局がルート要求パケットを受信したときは、これをそのままその隣接中継局に転送する。問い合わせを行った当該局は、目的局からルート回答パケットを受信すると目的局への通信経路の情報を取得することができる。
【0055】
なお、上記のように通信経路が探索されると信号が送信されるが、探索された信号経路の途中で不具合等があるために信号の送信に失敗することがある。その場合には、ステップS5以降の処理を行って別の通信経路を探索することになる。
【0056】
図5に示す配電系通信装置100は、電力配電システムに配置された開閉器を制御するアプリケーション等を有する子局機能部150を備えており、親局や他の子局に備えられた配電系通信装置100との間でデータを送受信する。これに対し、別の局間を中継するだけでそれ自身はアプリケーションを有さず、ルータとして機能する配電系通信装置(本実施形態の配電系通信装置100に含むものと、以下ではルータ用通信装置と称する。)を設けることも可能である。ルータ用通信装置は、入力側の隣接局から出力側の隣接局にデータを転送するだけの処理を行うことから、ルータ用通信装置は新規プロトコルスタック10の物理層21からZB NWK層12までの処理を行えばよく、第2IP層13及びそれより上位側の構成は不要となる。
【0057】
第1実施形態に係る配電系通信システムの構成を、図7に示すブロック図を用いて説明する。本実施形態の配電系通信システム101は、センタ装置及び各子局に配置された配電系通信装置100を光ファイバで接続して構築される。配電系通信システム101は、一例として配電系通信装置100を5つ接続して構成されており、それぞれを符号100−1〜5で示している。各配電系通信装置100は、隣接する別の配電系通信装置100との間が光ファイバで接続されている。ここでは、配電系通信装置100−1、3、5がアプリケーション層25まで有する構成としており、配電系通信装置100−2、4がZB NWK層12まで有するルータ用通信装置としている。
【0058】
なお、配電系通信システム101の説明では、配電系通信装置100間を伝送する信号が新規プロトコルスタック10のどのレイヤで処理されるかを示すために、配電系通信装置100のそれぞれに新規プロトコルスタック10の構成を記載している。新規プロトコルスタック10の各レイヤの処理は、図5に示した各構成部で行われる。また、以下で説明する別の実施形態においても、配電系通信システムの説明に用いる配電系通信装置及び外部通信装置には、それぞれのプロトコルスタックを記載して説明する。配電系通信システムの構成を示す各図では、各プロトコルスタックにおける処理の流れを矢印で示している。
【0059】
図7において、配電系通信装置100−1のアプリケーション層25から出力されるデータ64は、TCP/UDP層24でTCP/UDPヘッダ63が付加され、第2IP層13で第2IPヘッダ73が付加される。第2IPヘッダ73には、目的局のIPアドレスが書き込まれている。ZB NWK層12では、ルーティング手段により目的局への経路となる隣接中継局を探索し、探索結果をZG NWKヘッダ72に記載してフレームに付加する。第1IP層11では、ZB NWK層12で探索された隣接中継局のIPアドレスを含む第1IPヘッダをフレームに付加する。さらに、MAC層22でMACヘッダ61が付加され、隣接する配電系通信装置100−2に送信される。
【0060】
配電系通信装置100−2は、配電系通信装置100−1から入力したフレームに対し、MAC層22でMACヘッダ61を取り除き、第1IP層11で第1IPヘッダ71を取り除いてZB NWK層12に出力する。配電系通信装置100−2はルータ用通信装置であり、配電系通信装置100−2が目的局に一致することはないことから、ZB NWK層12は、ZB NWKヘッダ72に記載されている目的局のルーティング用アドレスをもとに、目的局への経路となる隣接中継局を探索する。そして、探索結果をZG NWKヘッダ72に記載してフレームに付加する。第1IP層11では、ZB NWK層12で探索された隣接中継局のIPアドレスを含む第1IPヘッダがフレームに付加される。さらに、MAC層22でMACヘッダ61が付加され、隣接する配電系通信装置100−3に送信される。
【0061】
配電系通信装置100−3はアプリケーション層25まで有しているが、ZB NWK層12で当該局が目的局でないことが判定されると、ルータ用通信装置と同様の処理を行ってフレームを隣接する配電系通信装置100−4に送信する。以下同様にして、フレームが配電系通信装置100−5まで伝送される。配電系通信装置100−5では、配電系通信装置100−4から入力したフレームの目的局が当該局であることを判定すると、入力したフレームから順次ヘッダを取り除いてデータ64をアプリケーション層25に出力する。
【0062】
上記説明のように、本実施形態では、新規プロトコルスタック10に基づいて光通信用プロトコルスタックにAODVのルーティング手法を大幅な改変を行うことなく取り入れることができ、システム構築を柔軟に行えて高速大容量な通信が可能な配電系通信装置及び配電系通信システムを提供することが可能となる。
【0063】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態に係る配電系通信システムの構成を、図8に示すブロック図を用いて説明する。本実施形態の配電系通信システムは、一例として第1実施形態の配電系通信装置100と同様の配電系通信装置200を4つ接続し、その一端あるいは両端に一般的なTCP/IPプロトコルを有する通信装置(以下では、外部通信装置という)を接続して構成されている。図8(a)は、一端に外部通信装置を接続した配電系通信システム201の一例を示し、図8(b)は、両端に外部通信装置を接続した配電系通信システム202の一例を示している。
【0064】
図8(a)では、配電系通信装置200−1、200−4がアプリケーション層25まで有する配電系通信装置200としており、配電系通信装置200−2、200−3がZB NWK層12まで有するルータ用通信装置としている。外部通信装置205は、配電系通信装置200−1に接続されている。
【0065】
外部通信装置205から出力されるフレームは、通常のIPアドレスが記載されたIPヘッダを有している。外部通信装置205から配電系通信装置200−1にフレームが伝送されると、配電系通信装置200−1の第1IP層11の処理において、IPヘッダに記載されている送信元のIPアドレスが外部通信装置のものであることを確認する。これにより、ZB NWK層12の処理をバイパスして第2IP層13の処理に進む(プロトコル変換)。第2IP層13では、目的局のIPアドレスが当該局のものと一致しないことを判定するとZB NWK層12の処理に進む。
【0066】
ZB NWK層12の処理では、目的局のルーティング用アドレスをもとに、ルーティング手段により目的局への通信経路となる隣接中継局を探索する。第1IP層11の処理では、ルーティング手段により探索された隣接中継局のIPアドレスを第1IPヘッダ71に書き込み、このフレームを隣接する配電系通信装置200−2に送信する。以下、第1実施形態と同様にしてフレームが配電系通信装置200−4まで伝送される。
【0067】
図8(a)に示す構成の配電系通信システム201では、配電系通信装置200−4から見ると、TCP/UDP層24のレベルでは外部通信装置205と直結していると見ることができ、ネットワーク層のレベルでは配電系通信装置200−1が2ホップ先に見える。
【0068】
次に、図8(b)に示す実施形態では、アプリケーション層25まで有する配電系通信装置200−1、200−4に外部通信装置205、206が接続されている。以下では、一例として外部通信装置205から本実施形態の配電系通信装置200を経由して外部通信装置206にフレームを伝送する場合について説明する。
【0069】
外部通信装置205から出力されるフレームは、図8(a)に示す例の場合と同様にして配電系通信装置200−4まで伝送される。配電系通信装置200−4では、第2IP層13の処理において第2IPヘッダ73に書き込まれている目的局のIPアドレスが外部通信装置のものであることを確認する。これにより、ZB NWK層12の処理をバイパスして第1IP層11にフレームを送り(プロトコル変換)、通信装置206が接続されているポートから通信装置206にフレームが出力される。
【0070】
配電系通信装置200に外部通信装置を接続した本実施形態の配電系通信システム201、202において、ネットワーク層の第1IP層11、ZB NWK層12、及び第2IP層13で行われる処理の流れを、図9に示すフローチャートを用いて詳細に説明する。まず、ステップS21においてポート部110のいずれかのポートから信号を入力すると、ステップS22で第1IP層11の処理が行われる。そして、ステップS23で第1IPヘッダに記載されている送信元のIPアドレスが外部通信装置のものか否かを判定する。送信元のIPアドレスが外部通信装置のものであるときはステップS24に進む一方、IPアドレスが本実施形態の配電系通信装置200のものであるときはステップS25に進む。
【0071】
ステップS24では、第1IPヘッダ(一般的なIPヘッダ)に記載されている送信元のIPアドレスが外部通信装置のものであることから、信号をZB NWK層12の処理をバイパスして第2IP層13の処理に送る(プロトコル変換)。その後、ステップS25に進む。ステップS25では、第2IP層13の処理が行われる。そして、ステップS26において、第2IPヘッダに記載されている送信先(目的局)のIPアドレスが外部通信装置のものか否かを判定する。送信先のIPアドレスが外部通信装置のものであるときはステップS28に進む一方、IPアドレスが本実施形態の配電系通信装置200のものであるときはステップS27に進む。
【0072】
ステップS27では、ZB NWK層12において送信先のルーティング用アドレスをもとに経路探索を行い、探索された通信経路の隣接中継局に信号を送信する。なお、ZB NWK層12における経路探索は、図6に示した処理の流れに従って行われる。一方、ステップS28では、信号をZB NWK層12の処理をバイパスして第1IP層11の処理に送る(プロトコル変換)。さらにステップS29において、信号を外部通信装置に出力する。
【0073】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態に係る配電系通信システムの構成を、図10に示すブロック図を用いて説明する。ルータ用通信システムのポート部110がポートを2つだけ備えているときは、送信元のポートとは別のポートに信号を出力することから、ZB NWK層12におけるルーティング手段は不要となる。また、第1IP層11、第2IP層13の処理を行う必要もない。そこで、ポート部110がポートを2つだけ備えているルータ用通信システムでは、物理層21とMAC層22のみの処理を行うものとする。このようなルータ用通信システムは、送受信するフレームをMACアドレスで管理するスイッチングハブの構成を有することになり、配電系通信システムの高速化・単純化を図ることができる。
【0074】
図10に示す本実施形態の配電系通信システム301は、本実施形態の配電系通信装置として、第1実施形態の配電系通信装置100と同様の構成を有する配電系通信装置300−1、4と、ルータ用通信装置300−2と、スイッチングハブの構成を有する配電系通信装置300−3と、を備えている。また、配電系通信装置300−1、4には、外部通信装置305、306が接続されている。
【0075】
図10に示す配電系通信システム301において、ルータ用通信装置300−2はポート部110に少なくとも3つのポートを有し、配電系通信装置300−3はポート部110に2つのポートを有するものとしている。配電系通信装置300−3を物理層21とMAC層22のみの構成とすることで、処理が簡素化されて配電系通信システム301の高速化を図ることが可能となる。
【0076】
なお、上記では光ケーブルを用いた光信号による通信の場合について説明したが、これに限定されず、メタルケーブルを用いた電気信号による通信の場合にも適用可能である。本実施の形態における記述は、本発明に係る配電系通信装置及び配電系通信システムの一例を示すものであり、これに限定されるものではない。本実施の形態における配電系通信装置及び配電系通信システムの細部構成及び詳細な動作等に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0077】
10 新規プロトコルスタック
11 第1IP層11
12、33 ZB NWK層
13 第2IP層13
20 光通信用プロトコルスタック
21、31 物理層
22、32 MAC層
23 IP層
24 TCP/UDP層
25、35 APP層
30 無線通信用プロトコル
34 ZigBee APS層
100、200、300 配電系通信装置
101、201、202、301 配電系通信システム
110 ポート部
111、112、113 ポート
120 送受信処理部
130 通信制御部
131 第1通信処理部
132 ルーティング処理部
133 第2通信部
140 通信監理部
150 子局機能部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電力配電システムの監視・制御を行う親局及び子局の通信に用いられ、少なくとも伝送路とのインタフェースを規定する物理層と、MACアドレスを管理するMAC層と、信号の通信経路を管理するネットワーク層と、を有するプロトコルスタックに基づいて構成された配電系通信装置であって、
前記ネットワーク層は、少なくとも前記伝送路で接続された隣接する親局または子局(以下では隣接中継局という)のアドレスを管理する第1IP層と、信号の送信先である親局または子局(以下では目的局という)への通信経路を探索するルーティング手段を有するZB NWK層とを有し、
前記物理層の規定に従って前記伝送路を接続するポートを2以上有するポート部と、
前記ポート部に接続されて前記MAC層の処理を行う送受信処理部と、
前記送受信処理部に接続されて前記ネットワーク層の処理を行う通信制御部と、を備え、
前記通信制御部は、前記第1IP層の処理を行う第1通信処理部と、前記ルーティング手段を実行するルーティング処理部とをさらに備える
ことを特徴とする配電系通信装置。
【請求項2】
前記隣接中継局から信号を入力すると、前記ルーティング処理部は、前記信号の所定のヘッダに記載されている前記目的局のアドレスをもとに前記通信経路を探索して該通信経路に接続される別の前記隣接中継局を判定し、
前記第1通信処理部は、前記ルーティング処理部から前記別の隣接中継局のアドレスを入力し、前記別の隣接中継局のアドレスを前記信号の別のヘッダに記載して前記送受信処理部に出力し、
前記送受信処理部は、前記別の隣接中継局に接続された前記ポートを選択して前記信号を出力する
ことを特徴とする請求項1に記載の配電系通信装置。
【請求項3】
前記プロトコルスタックは、さらにTCPまたはUDPの処理を行うトランスポート層と、アプリケーションを規定するアプリケーション層とを有するとともに、前記ネットワーク層がさらに前記目的局のアドレスを管理する第2IP層を有し、
前記通信制御部に接続されて前記トランスポート層の処理を行う通信管理部と、
前記通信管理部に接続されて所定のアプリケーションを実行する子局機能部とを備え、
前記通信制御部がさらに前記第2IP層の処理を行う第2通信処理部を備える
ことを特徴とする請求項1または2に記載の配電系通信装置。
【請求項4】
前記ポートから入出力する信号は、データと、前記通信管理部で処理されるTCP/UDPヘッダと、前記第2通信処理部で処理される第2IPヘッダと、前記ルーティング処理部で処理されるZB NWKヘッダと、前記第1通信処理部で処理される第1IPヘッダと、前記送受信処理部で処理されるMACヘッダと、を有している
ことを特徴とする請求項3に記載の配電系通信装置。
【請求項5】
前記子局機能部から出力されたデータに対して前記通信管理部で前記TCP/UDPヘッダが付加された信号が前記通信制御部に入力されると、
前記第2通信処理部は、前記データの送信先である目的局のアドレスを記載した前記第2IPヘッダを前記信号に付加し、
前記ルーティング処理部は、前記ルーティング手段により探索された前記通信経路の情報を前記ZB NWKヘッダに記載して前記信号に付加し、
前記第1通信処理部は、前記ルーティング処理部から前記通信経路に接続された隣接中継局のアドレスを入力し、該アドレスを前記第1IPヘッダに記載して前記信号に付加する
ことを特徴とする請求項4に記載の配電系通信装置。
【請求項6】
前記ルーティング処理部は、
前記目的局への通信経路に接続される前記隣接中継局の情報を通信経路表として保存し、
前記目的局のアドレスを入力すると、前記通信経路表から前記目的局への通信経路を探索し、前記通信経路表に前記目的局への通信経路が保存されていないときは前記ポート部のポートに接続されているすべての親局及び子局に前記通信経路の探索を要求し、探索された前記通信経路に接続される前記隣接中継局を前記第1通信処理部に出力する
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の配電系通信装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の配電系通信装置を2以上伝送路で接続して構成されている
ことを特徴とする配電系通信システム。
【請求項8】
前記配電系通信装置は、前記親局及び子局のアドレスとして、TCP/IPプロトコルで用いられるIPアドレスとは別のルーティング用アドレスを設定しており、前記ルーティング用アドレスは前記IPアドレスと照合可能に対応付けされている
ことを特徴とする請求項7に記載の配電系通信システム。
【請求項9】
前記ポート部は、前記TCP/IPプロトコルに基づいて構成された外部通信装置を接続するためのポートをさらに備える
ことを特徴とする請求項8に記載の配電系通信システム。
【請求項10】
前記第1通信処理部は、信号の前記第1IPヘッダに記載されているアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスか否かを判定し、前記アドレスが前記外部通信装置のIPアドレスのときは前記ルーティング処理部をバイパスして前記信号を前記第2通信処理部に出力し、
前記第2通信処理部は、前記第2IPヘッダに記載されているアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスか否かを判定し、前記アドレスが前記外部通信装置のIPアドレスのときは前記ルーティング処理部をバイパスして前記信号を前記第1通信処理部に出力する
ことを特徴とする請求項9に記載の配電系通信システム。
【請求項11】
電力配電システムの監視・制御を行う親局及び子局に設置されて相互を伝送路で接続して信号を送受信する配電系通信装置であって、
前記信号は、少なくともMACアドレスを記載するMACヘッダと、前記伝送路で接続された隣接する親局または子局(以下では隣接中継局という)のアドレスを記載する第1IPヘッダと、前記信号の送信先である親局または子局(以下では目的局という)への通信経路を探索するルーティング手段で用いる情報を記載するZB NWKヘッダと、をデータに付加したフレーム構成を有し、
前記伝送路を接続するポートを2以上有するポート部と、
前記ポート部に接続されて前記MACヘッダの処理を行う送受信処理部と、
前記送受信処理部に接続され、前記第1IPヘッダの処理を行う第1通信処理部と、前記ZB NWKヘッダの処理を行うルーティング処理部と、を有する通信制御部と、を備える
ことを特徴とする配電系通信装置。
【請求項12】
前記隣接中継局から信号を入力すると、前記ルーティング処理部は、前記ZB NWKヘッダに記載されている前記目的局のアドレスをもとに前記通信経路を探索して該通信経路に接続される別の前記隣接中継局を判定し、
前記第1通信処理部は、前記ルーティング処理部から前記別の隣接中継局のアドレスを入力し、前記別の隣接中継局のアドレスを前記第1IPヘッダに記載して前記送受信処理部に出力し、
前記送受信処理部は、前記別の隣接中継局に接続された前記ポートを選択して前記信号を出力する
ことを特徴とする請求項11に記載の配電系通信装置。
【請求項13】
前記信号は、さらに前記目的局のアドレスを記載する第2IPヘッダと、TCPまたはUDPの処理に用いる情報を記載するTCP/UDPヘッダと、を有し、
前記通信制御部に接続されて前記TCP/UDPヘッダの処理を行う通信管理部と、
前記通信管理部に接続されて所定のアプリケーションを実行する子局機能部と、をさらに備え、
前記通信制御部は、前記第2IPヘッダの処理を行う第2通信処理部をさらに備える
ことを特徴とする請求項11または12に記載の配電系通信装置。
【請求項14】
前記子局機能部から出力されたデータに対して前記通信管理部で前記TCP/UDPヘッダが付加された信号が前記通信制御部に入力されると、
前記第2通信処理部は、前記第2IPヘッダに前記データの送信先である目的局のアドレスを記載して前記信号に付加し、
前記ルーティング処理部は、前記ルーティング手段により探索された前記通信経路の情報を前記ZB NWKヘッダに記載して前記信号に付加し、
前記第1通信処理部は、前記ルーティング処理部から前記通信経路に接続された隣接中継局のアドレスを入力し、該アドレスを前記第1IPヘッダに記載して前記信号に付加する
ことを特徴とする請求項13に記載の配電系通信装置。
【請求項15】
請求項11乃至14のいずれか1項に記載の配電系通信装置を2以上光ファイバで接続して構成されている
ことを特徴とする配電系通信システム。
【請求項16】
前記配電系通信装置は、前記親局及び子局のアドレスとして、TCP/IPプロトコルで用いられるIPアドレスとは別のルーティング用アドレスを設定して前記IPアドレスと照合可能に対応付けしており、
前記ポート部は、前記TCP/IPプロトコルに基づいて構成された外部通信装置を接続するためのポートをさらに備え、
前記第1通信処理部は、前記第1IPヘッダに記載されているIPアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスか否かを判定し、前記IPアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスのときは前記ルーティング処理部をバイパスして前記信号を前記第2通信処理部に出力し、
前記第2通信処理部は、前記第2IPヘッダに記載されているIPアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスか否かを判定し、前記IPアドレスが前記外部通信装置のIPアドレスのときは前記ルーティング処理部をバイパスして前記信号を前記第1通信処理部に出力する
ことを特徴とする請求項15に記載の配電系通信システム。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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