説明

酵母のストレス耐性を増加させる遺伝子類の同定方法類、およびそれらの遺伝子類の酵母株改良のための使用

酵母のストレス耐性を高める遺伝子類の同定方法、同定された遺伝子類のリスト、およびエタノール発酵中におけるより優れた生存と挙動のために酵母株類を改良するためのこれらの遺伝子類の使用が開示されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレス耐性増強のための酵母の改良に関する。さらに詳細には、それは、エタノール産生中における酵母の生存性を高める遺伝子類を同定すること、および酵母株類の性能改良のためのそれらの遺伝子類の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
生存性を余り失うことなくエタノール産生を完了できる酵母は、醸造業で非常に望まれている。しかし、醸造業で使用される一般的酵母株類は、発酵中に遭遇する高エタノール濃度により、急激に生存性を消失する。酵母はまた、その他に、エタノールとともに急激に生存性を低下させる高温(特に熱帯地方において)をも、経験する。さまざまな手法が、高エタノールおよび温度耐性(熱耐性)を有する改良された酵母株類を得るために行われた。ひとつの手法は、自然環境から得た酵母単離物について所望の性質を試験することである(非特許文献1)。それらのいくつかは、高エタノールまたは温度耐性を有しているが、それらは、高浸透圧耐性(すなわち、糖および塩のような溶質の高濃度に耐える能力)、より早い発酵速度、および望ましくない副産物がないなどの望ましい性質を全て有しているわけではない。もうひとつの手法は、すでに望ましい性質を数種有している株類で出発して、さらに、それらを突然変異させ発酵中における生存性の優れたものを選択することにより改良することである(例えば、非特許文献1)。この手法の大きな限界とは、前記改良がほとんど、単一遺伝子における突然変異によるものであることである。数種の遺伝子類がストレス耐性を制御しているので、1個を超える遺伝子類を修飾することが、単一遺伝子類の修飾よりもより高い耐性を提供すると予測される。このことは特に、エタノール発酵中におけるストレス耐性について言え、その理由としては、こうした条件下で酵母細胞は、高浸透圧、高エタノール濃度および高温のような1種以上のストレスに遭遇するからである。したがって、これらのストレスに対する耐性を提供する遺伝子類が同定されれば、その際には、それらを理論的に工学的に処理してストレス耐性を増強できる。しかし、従来の酵母遺伝学および分子生物学的手法を用いてこれらの遺伝子類を同定することは、下記の理由から容易ではない。
【0003】
いかなる過程であれそれに関与する酵母遺伝子類を同定する従来の手法では、最初にその過程で傷害された変異体を同定すること、それらを遺伝子分析により異なる相補性の群類(遺伝子類)に属するものとして分類すること、および最終的に前記遺伝子類を酵母の分子生物学と組換えDNA手段を用いて同定することとなっている(非特許文献2)。変異体類は、自然変異体類として得られるか、化学的突然変異導入によって導入されるか(非特許文献2)、トランスポゾン挿入変異導入によって導入されるか(非特許文献3)、またはリボザイムライブラリーの導入によってさえも導入することができる(特許文献2)。さらに、望ましい表現型のスクリーニングには、多数の潜在的酵母変異体類を非選択的固体培地表面上にクローン群(コロニー)として維持すること、それらを同時に固体選択培地にレプリカプレーティングにより移すことによってそれらをスクリーニングすることが必要である。選択培地上での増殖に用いることができるコロニーが同定され、対応するコロニーを非選択培地から取り出し、さらに特性解析するであろう。変異体を同定するこのプロセスは、プレートスクリーンと称されている。しかし、この手法は発酵ストレス耐性に関与している遺伝子類を同定するためには有用ではなく、その理由は、液体発酵培地内部で遭遇する条件をシミュレーションできるプレートスクリーンがないためである。したがって、発明者らの研究室で先に、液体培地中に存在する混合群中の微生物のそれぞれの変異体の適合性を同時にモニターできる方法を開発した(非特許文献4および特許文献3)。この方法によって、発酵ストレス耐性に役割を有しているいくつかの遺伝子類が同定できた。また変異体の適合性の同時モニタリングを促進する他の方法も、この目的のために使用できる(特許文献4、非特許文献5および非特許文献6)。
【特許文献1】インド特許189737号
【特許文献2】米国特許6183959号
【特許文献3】米国特許6528257号
【特許文献4】米国特許5612180号
【非特許文献1】Banatら、World Journal of Microbiology and Biotechnology(ワールドジャーナル・オブ・ミクロバイオロジー・エンド・バイオテクノロジー、14巻、pp.809−821(1998)
【非特許文献2】Kaiserら、Methods in yeast genetics(メソッズ・イン・イーストジェネティックス)、A Cold Spring Harbor Laboratory manual(コールドスプリングハーバーラボラトリマニュアル),Cold Spring Harbor laboratory press、New York(1994)
【非特許文献3】Ross−Macdonaldら、Nature(ネーチャー)、402巻、pp.413−8(1999)
【非特許文献4】Sharmanら、Nucleic Acids Res(ヌクレイックアシッドリサーチ,29巻、pp.E86(2001)
【非特許文献5】Smithら、Science(サイエンス),274巻、pp.2069−2074(1996)
【非特許文献6】Winzelerら、Science(サイエンス)、285巻、pp.901−906(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、変異体表現型により遺伝子類を同定することには、ある限界がある。第一に、正常な増殖と生存のために必須の遺伝子類を傷害された変異体類を得ることは簡単ではない。したがって、もしストレス耐性のような他の機能のためにも重要であるならば、このような遺伝子類は見過ごされるであろう。第二に、多くの遺伝子類が酵母で反復されており、すなわち、前記生物体に対して同一の機能を提供する遺伝子は1個を超えてあり、それらは、従来の変異体スクリーンでは見過ごされるであろう。さらに、もしストレス耐性のようなプロセスに関与している遺伝子類を同定するという目的が最終的に前記生物体を改良することであるならば、その際には、変異体追跡により関連遺伝子類を同定することが常に成功するとは限らない。その理由は、遺伝子はそのプロセスで必須のステップを行うことによって生物プロセスにおいて重要であるかもしれないが、それは、律速ステップを行ってはいないであろう。したがって、このような遺伝子を過剰発現させることが、前記プロセスにおけるいかなる改良にも結果的につながらないであろう。ゆえに、あるプロセスに関与する遺伝子類をすべて最初に同定し次にそれらをひとつずつ過剰発現させそれらが前記プロセス改良に役立つかどうかを確認することは、煩雑でしかも時間を要し、失敗する危険もある。ここで、発明者らは、上記の限界を全て克服できる代替方法を提供する。そのほかに、発明者らの方法はまた、プレートスクリーンがないという限界も克服する。
【0005】
遺伝子類に機能を割り振る別の方法は、マイクロアレイを用いた発現プロファイリングである。発現プロファイリングによって、ある生物のほとんど全ての遺伝子類の発現レベルを同時に決定する(例えば、Hughesら、Cell(セル)、102巻、pp.109−26(2000);Wuら、Plant Physiology and Biochemistry(プラントフィジオロジー・エンド・バイオケミストリ),39巻、pp.917−926(2001);Fabrizioら、Mech Ageing Dev.(メカニズムズ・オブ・エージング・エンド・デベラップメント),126巻、pp.11−6(2005);Vranaら、Neurotoxicology(ニューロトキシコロジー),24巻、pp.321−32(2003))。もし他に比してある条件下である遺伝子類群がより高く発現するならば、その際には、これらの遺伝子類が第一条件下で果たす役割を有していると想定される。しかし、この想定は、特定環境条件下でそれらの役割と遺伝子類発現を相関させるために試行した研究によって、裏づけられていない(Giaeverら、Nature(ネーチャー)、418巻、pp.387−91(2002);Birrellら、Proc Natl Acad Sci USA(米国アカデミー紀要)、99巻、pp.8778−83(2002))。観察された相関が偶然に観察できるものよりも優れているということはほとんどなく、したがって、発現レベルに基づいて遺伝子機能を割り振ることは間違いを起こすことになりうる。対照的に、変異体表現型に基づき機能を割り当てる変異体に基づく方法類(上記で引用)は、遺伝子類に生物学的役割を与える際にはるかに信頼性が高い。同様に、遺伝子類の意図的な過剰発現に基づく方法類(下記に記載)も信頼でき、その理由は、それらが、生物体の表現型に基づいて遺伝子類に生物機能を与えるからである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、過剰発現時に酵母のストレス耐性を増強する遺伝子類を同時にスクリーニングすることに関連する。これは、一度に遺伝子1個を過剰発現させストレス耐性を増強させる公知の方法と対照的である;例えば、HAL1、YAK1、SOD1、SOD2およびTPS1の過剰発現はそれぞれ、さまざまなストレス条件に対するストレス耐性を高めることが明らかにされている(Chenら、Biochim Biophys Acta(バイオキミカ・エト・バイオフィジカアクタ),1268巻、pp.59−64(1995);Davidsonら、Proc Natl Acad USA(米国アカデミー紀要)、93巻、pp.5116−5121(1996);Gaxiolaら、EMBO J(ヨーロピアンモレキュラーバイオロジーオーガナイゼーションジャーナル)、11巻、pp.3157−3164(1992);Hartleyら、Genetics(ジェネィックス),136巻、pp.465−474(1994);Sotoら、Appl Environ Microbiol(アプライドエンバイロメンタルミクロバイオロジー),65巻、pp.2020−2024(1999))。他の多くの場合、酵母株類が過剰発現ストラテジーを用いて工学的に作成され、その結果、それらが、デンプン、セロビオース、ラクトース、キシロース等のような基質類を効率的に発酵させる(Adamら、Yeast(イースト),11巻、pp.395−406(1995);Muslinら、Prot expr purif(プロテインエクスプレション・エンド・ピュアリフィケーション),18巻、pp.20−26(2000);Walfridsonら、Appl Environ Microbiol(アプライドエンバイロメンタルミクロバイオロジー),61巻、pp.4184−4190(1995))。GPD1の過剰発現は、グリセロール生産を1.5乃至2.5倍、高めることが明らかになっている(Remizeら、Appl Environ Microbiol(アプライドエンバイロメンタルミクロバイオロジー)、65巻、pp.143−149(1999))。発明者らは、発酵ストレス耐性のためのプレートスクリーンがないという限界およびこのプロセスに関与する遺伝子類についての多くの知識がないという限界を超えるために、発明者らの方法を考案した。ストレス耐性に関与する遺伝子類を最初に同定し次にそれらをひとつずつ過剰発現させストレス耐性を改善するかどうかを観察する代わりに、発明者らの方法では、過剰発現時にストレス耐性を増強させる遺伝子類を直接同定するために新しい手法を用いる。ゲノムスケールの過剰発現スクリーンが他者により行われており(Espinetら、Yeast(イースト),11巻、pp.25−32(1995);Boyerら、Genome Biol.(ゲノムバイオロジー)、5(9)巻:R72,Epub(2004))、さらに、これまで解析されていない細胞周期遺伝子類を同定するために他者により行われている(Stevensonら、Proc Natl Acad Sci USA(米国アカデミー紀要)、98巻、pp.3946−51(2001))。これらのスクリーンの全ては、容易なプレートスクリーンの利点を利用して前記生物の望ましい性質を同定してきた。対照的に、発明者らの方法では、ストレス耐性増強を付与する遺伝子類を、異なる遺伝子類を過剰発現する多数の酵母変異体の混合プールから同定する。このことは、プレートスクリーンが全くない発酵性ストレス耐性のような表現型を付与する遺伝子類を同定するために特に有効である。
【0007】
本発明は、酵母変異体の混合群をスクリーニングすることによって所望の表現型を付与する遺伝子類を同時に同定するための方法の開発に関する。それぞれのプロモーター類を有するか強力なプロモーターの制御下にある異なる遺伝子類を有するプラスミド類のライブラリーを、酵母に形質転換する。このライブラリーは十分に大きく、生物体のほとんど全ての遺伝子類を高確率で保持していなければならない。この酵母形質転換体のプールを次に、例えば、発酵条件下における優れた生存性についての選択に供する。一回の選択を生き抜いた細胞類を再度、もう一回選択に供する。1手法では、約6回選択を繰り返す。完了時点で、生存体プールは、最初の形質転換体プールよりも前記選択条件下ではるかに良好に生存できるほとんどの形質転換体を有していると考えられ、そのことは、これら2種のプールの挙動を比較することによって、確認できる。生存増強がプラスミド上に保持された遺伝子類によることおよび前記生物体ゲノムにおけるいかなる変異によるものでもないことを確認するため、前記プラスミドを酵母から回収し、野生型酵母に再度形質転換し、表現型を確認した。次に、これらのプラスミド上に保持された遺伝子類を、DNA配列決定のような方法で同定する。これらの遺伝子類を次にひとつずつ調べ、ストレス耐性に果たすそれらの役割を確認する。これらの遺伝子類の発現は、一度に酵母1種においてまたは組み合わせて調節でき、発酵中における酵母性能を増強させる。別の手法では、酵母形質転換体プールを、数回の選択のみに供する。この選択の完了時点で、前記プールに平均群よりも良好に生存する能力を有するものを加えるが、しかし、前記形質転換体のほとんどの生存は、形質転換体出発プールの生存と同様であろう。優れた生存体に保持された遺伝子類を同定するため、下記のステップを行う。トータルDNAを形質転換体出発群からおよび選択群から単離する。トータルDNAからプラスミド上に保持された挿入DNAを、プラスミド特異的プライマー類を用いて、選択的に増幅させる。前記形質転換体出発群の増幅された挿入DNA断片を蛍光色素で標識し、選択群のそれは、別の蛍光色素で標識する。標識したDNAプローブ類を、酵母のほとんど全ての遺伝子類に対応するDNAを入れたマイクロアレイと混合し、それにハイブリダイズさせる。出発群に比較して選択群に対応するプローブについて増強シグナルを示すマイクロアレイ上のDNAスポットを次に同定する。これらのDNAスポットに対応する遺伝子類を次に、過剰発現時に酵母のストレス耐性を高めるものとして、候補者リストに載せる。これらの遺伝子類の役割は、さらに、これらの遺伝子類のそれぞれの過剰発現または欠失を伴う付加的実験により確認する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
したがって、本発明は、過剰発現時に酵母のストレス耐性を増強する遺伝子類を同定する方法を提供し、
・酵母をプラスミド中でクローニングした酵母遺伝子ライブラリーで形質転換し、多数の酵母形質転換体を提供すること、
・前記形質転換体をプールして、形質転換体出発群を提供すること、
・前記形質転換体群を細胞群の生存性が3ないし200倍低下するような選択条件に供し、それによってこれらの条件下でよりよく生存できる形質転換細胞を豊富にすること、
・生存細胞を回収し、プラスミド保持細胞のみの増殖を可能とする規定最小培地中でそれらを増殖させること、
・これらの細胞をさらに、前記ステップcおよびdを繰り返すことにより、さらに何回かの選択に供すること、
・少なくとも3回の選択後に生存していた細胞を回収すること、
・選択条件下で出発細胞群と選択した細胞群を比較し、選択した細胞の生存増強を確認すること、
・選択した細胞のプールをプレートに接種し、単離コロニーを得ること、
・それぞれのコロニーからDNAを単離し、大腸菌(E.coli)中に形質転換し、それぞれの酵母コロニー中に存在するプラスミドを回収すること、
・これらのプラスミド類を酵母中に形質転換し、プラスミドが実際に選択条件下で増強耐性を付与するかどうかを調べるために形質転換体類を試験すること、そして、
・配列決定により、増強ストレス耐性を付与するプラスミド上に保持された遺伝子類を同定すること、
を含む。
【0009】
本発明の1態様において、選択中に増強された適合性に寄与する遺伝子類は、直接マイクロアレイハイブリダイゼーションを用いて同定され、それは、
・プラスミド中にクローニングした酵母遺伝子ライブラリーにより酵母を形質転換し、多数の酵母形質転換体類を提供すること、
・前記形質転換体類をプールして、形質転換体出発群を提供すること、
・前記形質転換体群を細胞群の生存性が3ないし200倍低下するような選択条件に供し、それによってこれらの条件下でよりよく生存できる形質転換細胞を豊富にすること、
・生存細胞を回収し、プラスミド保持細胞のみの増殖を可能とする規定最小培地中でそれらを増殖させること、
・これらの細胞をさらに、前記ステップcおよびdを繰り返すことにより、さらに何回かの選択に供すること、
・少なくとも1回の選択後に生存していた細胞を回収すること、
・トータルDNAを形質転換体出発群と選択群から単離すること、
・プラスミド特異的プライマー類を用いて、トータルDNAからプラスミド上に保持された挿入DNAのみを特異的に増幅すること、
・形質転換体出発群の挿入DNA断片を蛍光色素で標識し、選択群のそれは、別の蛍光色素で標識すること、
・前記標識プローブ類を混合し酵母のほとんど全ての遺伝子類に対応するDNAを入れたマイクロアレイにハイブリダイズさせること、
・出発群のシグナルに比較して選択群に対応するプローブについて増強シグナルを示すマイクロアレイ上のDNAスポットを同定すること、および
・これらのDNAスポットに対応する遺伝子類を、選択中において酵母のストレス耐性を高めるものとして同定すること、
を含む。
【0010】
本発明の別の態様において、酵母を、すでに特定のストレスに対して耐性となっている生物体由来の遺伝子類ライブラリーで形質転換する。
【0011】
本発明のさらに別の態様において、選択中に高濃度になった遺伝子類を保持するプラスミド類を、直接、コロニーハイブリダイゼーションによってライブラリーから単離できる。
【0012】
さらに本発明の別の態様において、酵母のストレス耐性は、上記で同定した遺伝子類を過剰発現するプラスミド類によって形質転換させることによって、改良する。
【0013】
さらに本発明の別の態様において、前記プラスミドが、構成プロモーターを有する発現プラスミドである。
【0014】
さらに本発明の別の態様において、前記プラスミドが、誘導プロモーターを有する発現プラスミドである。
【0015】
さらに本発明の別の態様において、酵母のストレス耐性が、酵母ゲノム中に存在する標的遺伝子のプロモーターを構成または誘導プロモーターと置き換えることによって上記で同定した遺伝子類の発現レベルを調節することによって、改良される。
【0016】
さらに本発明の別の態様において、RPI1、WSC2、WSC4、YIL055C、SRA1、SSK2、ECM39、MKT1、SOL1およびADE16から構成される群から選択した遺伝子類が、単独でまたは組み合わせて過剰発現され、ストレス耐性を増強する。
【0017】
さらに本発明の別の態様において、1個を超える遺伝子が、同一株中で同時に過剰発現され、さらに、ストレス耐性を改良する。
【0018】
さらに本発明の別の態様において、前記ストレスが、特に高温におけるアルコール産生条件下で、酵母が遭遇するものである。
【0019】
さらに本発明の別の態様において、グルコースを、アルコール産生のための原材料として用いる。
【0020】
さらに本発明の別の態様において、ショ糖または糖蜜または他の全ての複合炭素源をアルコール産生のための原材料として用いる。
【0021】
さらに本発明の別の態様において、前記生物体が、酵母の研究室株である。
【0022】
さらに本発明の別の態様において、前記生物体が、酵母の工業用株である。
【0023】
さらに本発明の別の態様において、前記生物体が、ストレス耐性を改良する必要があるすべての微生物である。
【0024】
さらに本発明の別の態様において、前記ストレスが、業界で微生物類が遭遇する全ての不都合な条件である。
【実施例】
【0025】
本発明のプロセスを下記に示す実施例に示したが、それらは、しかし、本発明の範囲を限定するものとみなしてはならない。
【0026】
実施例1
ストレス耐性増強遺伝子類の酵母ゲノム発現ライブラリースクリーニング
選択マーカーとしてのURA3を有する動原体プラスミド中で構成ADH1(アルコールデヒドロゲナーゼ1)制御下で作製した酵母ゲノムDNAライブラリーを、アメリカンタイプカルチャーコレクション(ATCC)から入手した。酵母株FY3(Winstonら、Yeast(イースト),11巻、pp.53−55(1995))は、Fred Winston(Department of Genetics, Harvard Medical School、Boston,MA 02115,USA)から入手し、それを全ての形質転換に用いた。このライブラリー由来のプラスミドを、標準的形質転換プロトコール(Kaiserら、Methods in yeast genetics(メソッズ・イン・イーストジェネティックス).A Cold Spring Harbor Laboratory manual(コールドスプリングハーバーラボラトリマニュアル)、Cold Spring Harbor laboratory press、New York(1994))によりFY3株に形質転換した。形質転換体(〜10)をプールし、38℃における発酵に5回供した。平行して、同一プールを30℃における発酵6回に供した。収穫時点と次の回への移行は、細胞の約90%が死滅する時点とした。各回の終点における最小培地への接種により、細胞の約50%がそのプラスミドを消失していることが明らかになった。発酵を繰り返した後、両群ともに別々に処理した。
【0027】
38℃選択の結果:選択した群からプラスミドを標準的プロトコールにより取り出し、大腸菌JM109に形質転換した。形質転換体から標準的方法で(Sambrookら、Molecular Cloning:A laboratory manual(モレキュラークローニング:アラボラトリマニュアル)。Cold Spring Harbor Laboratory press。New York(1989))プラスミドを精製し、制限酵素Xho1により消化した。類似の消化パターンを示すプラスミド類を、その後、2または3種の酵素(Xho1、XbaIおよびEcoRV)群で消化した。独特の消化パターンを示すプラスミド類25種を次に酵母に形質転換し、それらの発酵研究を、ベクター単独で形質転換した対照株とともに38℃において実施した。プラスミド25種のうち、10種が発酵49−52時間後20乃至1000倍の生存性増加を示し、対照と比較して同一量またはわずかにそれを上回るアルコールを産生した。ADH1プロモーター特異的プライマーならびにBLAST配列類似性検索(Altshulら、Nucleic Acids Res(ヌクレイックアシッドリサーチ).25巻、pp.3389−3402(1997))による配列決定により、全9種の挿入物がプロモーターを含めて完全なRPI1遺伝子を有していることが明らかになった。その他に、このRPI1遺伝子は、ADH1プロモーターに関して、両方の方向に存在していた。このことから、その独自のプロモーターから発現したRPI1の付加コピーを導入することが、発酵中に増強されたストレス耐性を提供するために十分であると推論できた。
【0028】
30℃選択の結果:繰り返し選択6回後に得られた群を、生存性とエタノール産生速度について、非選択親(出発)群と比較した。エタノール産生速度は匹敵していたが、選択した群は、発酵127時間後において親群よりも約150倍高い生存数を示した。増強された生存性において自然変異増強のいかなるものであってもそれが寄与している可能性を排除するため、選択した群からプラスミドを回収し、大腸菌JM109に形質転換した。大腸菌コロニー1000個の無作為プールから単離したプラスミド類は、標準的プロトコールに従い、酵母株FY3に形質転換して戻した。約20000個の酵母形質転換体がプールされ、さらに30℃における発酵回数に供した。これらの形質転換体は、親株よりもはるかに優れた生存性を示し、プラスミドに保持された遺伝子類がストレス耐性を増強したことを確認した。これらのプラスミドを再度大腸菌に移し、コロニー38個由来のプラスミドを単離し、制限酵素消化により分析し、独自のクローンを同定した。15種の独自のプラスミドをFY3に形質転換して戻し、30℃発酵中において相対的生存数とエタノール産生を対照群と比較した。これらの中では、9種が、見込みがありそうであった。これらのプラスミドが保持した遺伝子類を、ADH1特異的プライマーとBLAST配列類似性検索により配列決定した。前記9種のクローン中、5種がWSC4に対応し、3種が特性解析されていない遺伝子YIL055Cを有しており、1種がCAP2全体、SRA1のほとんどおよび少量のCKA1を包含する約2.9Kbの挿入物を保持していた。さらに研究し、これらの遺伝子類の発酵における役割を確認した。
【0029】
実施例2
RPI1の特性解析
予備的研究から、配列決定に基づき、発明者らは、RPI1の単一コピー(Rac cAMP経路阻害剤)1の付加で発酵中に増強されたストレス耐性を提供するために十分であると推定した。そこで、発明者らは、組み込みベクターpRS306のXhoI部位にRPI1クローン1個から単離した全2.6kb挿入物をサブクローニングした。このベクターは、前記ベクターのURA3遺伝子内部で直線状とし、酵母株FY3中に形質転換し、前記ゲノムのURA3座における標的組み込みを行った。形質転換体は、最小培地プレートにおけるウラシル原栄養性によって選択した。RPI1の付加的コピーをこのようにして前記ゲノムに組み込んだ。先の研究から、RPI1破壊物が致死的でないことが明らかにされている(Kimら、Mol Cell Biol(モレキュラーセルバイオロジー)、11巻、pp.3894−904(1991))。RPI1破壊物は、Tn3を用いて挿入的突然変異導入によって作製した。破壊物を、Tn3特異的プライマー類を用いて配列決定することで、確認した。これらの過剰発現および破壊株類を次に、38℃および30℃で行った発酵研究で用いた。38℃における発酵研究は、20%グルコースにより38−44時間行い、一方、30℃における発酵研究は、25%グルコースで108−114時間行った。生存性は、発酵完了時点でモニタリングした。RPI1の付加的コピーを有する株類は、38℃および30℃両方の発酵研究で対照群に比較して何倍も増強された生存数を示した。RPI1破壊コピーを有する株類はかなり低下した生存数を示し、ストレス耐性におけるRPI1の役割を確認した。しかし、RPI1の付加的コピーを有する株類は、最初は発酵速度が遅く、ただし、最終的に作製されたエタノール量では、野生型と異ならなかった。
【0030】
混合培養研究:RPI1過剰発現株で観察された増強生存数が、発酵速度が遅いことによるか議論があるところであろう。この可能性を排除するため、混合培養発酵を行った。RPI1の付加コピーを有する株を、G418耐性マーカーを有する等量の対照野生型と混合した。このG418耐性マーカーは、発酵中に細胞の挙動または生存性に影響を及ぼさず、混合発酵後の試験株と対照株を識別するマーカーとして作用する。混合培養物の発酵速度は、野生型株の発酵速度に匹敵した。発酵後、付加的RPI1コピーを有する試験株は、38℃(表1a)および30℃(表1b)において野生型よりも約100倍高い生存数を示した。対照的に、RPI1を欠損した株の生存性は、対照株に比較して非常に劣っていた。これらの結果は、RPI1がエタノール発酵中における酵母のストレス耐性に重要であることを示している。
【0031】
【表1a】

【0032】
【表1b】

【0033】
RPI1は、先に、Ras2変異により導入された熱ショック表現型を抑制するRas2変異の高コピー数のサプレッサーとして同定された(Kimら、Mol Cell Biol(モレキュラーセルバイオロジー)、11巻、pp.3894−904(1991))。後の研究では、それがRas−cAMP経路に関連しておらず、おそらく細胞を静止期への導入に準備させる転写因子であろうということが、証明された(真核細胞、11巻、pp.56−65(2002))。発明者らの研究では、RPI1もまた、エタノール発酵中におけるストレス耐性にとって重要であること、およびその過剰発現を用いて酵母の生存率を何倍にも高められることが明らかになった。
【0034】
実施例3
WSC4の特性解析
30℃における発酵から同定されたWSC4(細胞壁一体性およびストレス応答成分)遺伝子は、分泌タンパク質転座のため、細胞壁一体性の維持およびS.cerevisiae(サッカロマイセス・セレビジアエ)におけるストレス応答のため必要であることが公知である(Vernaら、Proc Natl Acad Sci USA(米国アカデミー紀要)、94巻、pp.13804−9(1997))。発酵ストレスにおけるその挙動を調べるため、完全WSC4遺伝子をそのプロモーターとともに組み込みベクターPRS306中にサブクローニングした。この遺伝子を次に、ura3座における相同組み換えによりゲノム中に組み込み、したがって、コピー数を1だけ増加させた。WSC4破壊物もまた、トランスポゾン突然変異導入により作製し、さらに、配列決定により確認した。30℃において25%グルコースにより108時間の発酵研究により、それが、野生型に比較して5乃至10倍生存を高めることができることが明らかになった。さらに、野生型株とともに混合培養発酵研究を行い、WSC4が、サッカロマイセス・セレビジアエ(S.cerevisiae)株のストレス耐性を改善することが明らかになった(表2)。多量のWSC4欠失株は、混合プールで顕著に減少する。この結果は、WSC4が発酵中のストレス耐性を改善するために活用できることを明らかにしている。
【0035】
【表2】

【0036】
実施例4
YIL055cの特性解析
機能未知の遺伝子であるYIL055cを、同様に、30℃における過剰発現スクリーンから単離した。ストレス耐性におけるその役割を確認するため、この遺伝子類のORFを、組み込みベクターpGV8中に強力なGPD1プロモーターの制御下にサブクローニングした。この組み換え構築体を次に、株FY3のura3座において組み込んだ。この遺伝子を、トランスポゾン突然変異導入により破壊し、配列決定により確認した。30℃における発酵研究により、YIL055cの過剰発現時に、発酵速度がかなり低下することが明らかになった。ただし、それは、野生型と同様に発酵を完了することができる。破壊物は、正常発酵速度を示した。30℃における混合培養発酵において、野生型の混合培養対照と同じ速度でこれらの過剰発現株類は発酵した。これらの株類は、それでもなおかつ、野生型細胞に比較して生存性の高まりを付与した(表3)。このことは、増強された生存が発酵速度低下によるのではないことを示唆している。ストレス耐性におけるYIL055cの役割はRPI1のそれと非常によく似ており、従って、これらの遺伝子類は、同一ストレス応答経路の一部であるらしい。
【0037】
【表3】

【0038】
実施例5
SRA1の特性解析
スクリーニングした別のクローンには、SRA1断片を含む3種の遺伝子類が含まれていた。このクローン由来のSRA1部分を、強力なプロモーターGPD1の制御下にpGV8中にサブクローニングし、酵母ゲノムに組み込んだ。発酵研究では、30℃におけるSRA1過剰発現クローンにより行った。それは、25%糖による発酵108時間後に数倍に増強された生存を示した。過剰発現SRA1を有する株類は、エタノール産生において当初ラグを示したが、野生型が要するのと同一の時間スパンにおいて発酵を完了した。さらに混合培養発酵研究により、正常な発酵速度が明らかになったが、しかし、対照株に比較して生存が増強された(表4)。SRA1破壊物は、それ自体の正常増殖時に生存低下を示し、従って、これらの株では、発酵研究は行わなかった。
【0039】
【表4】

【0040】
SRA1は、cAMP依存性プロテインキナーゼ阻害剤活性を有している。SRA1の過剰発現は、PKAの会合または解離の平衡を非解離状態にむけてそのサブユニット中へ移行させる(Portelaら、Microbiology(マイクロバイオロジー)、147巻、pp.1149−1159(2001))。それはまたグリコーゲンの過大蓄積をもたらし、熱ショック耐性を改善した。したがって、SRA1は過剰発現すると、低PKA活性とストレス耐性増強につながる。低下したPKA活性の結果、増殖速度も低下する(Van Dijckら、J Mol Microbiol Biotechnol(ジャーナル・オブ・モレキュラーミクロバイオロジー&バイオテクノロジー)、2巻、pp.521−530(2000))。このことは、SRA1過剰発現時に観察された発酵速度低下を説明できた。しかし、混合培養発酵におけるその生存性増強は、増強されたストレス耐性が発酵速度低下によるものではないことを明らかにしている。過剰発現ストラテジーによるSRA1の単離は、ストレス耐性におけるcAMP経路の役割がすでにRAS変異体による研究で確立されているので、このストラテジーの有効性を証明している。
【0041】
実施例6
過剰発現株のゲノム規模での適合性プロファイリング
単一チップ中で全ゲノムをモニターするためにマイクロアレイは広く用いられている。何千という遺伝子間での相互作用の優れた見通しを同時に与える。ここで、発明者らは、DNAに基づくマイクロアレイを用い、プラスミド上に存在する遺伝子類を同時にモニターしその発酵ストレスにおける役割を調べた。酵母株FY3を、実施例1に記載のように、全ゲノム過剰発現ライブラリーにより形質転換した。約20000個の形質転換体のプールを最小培地中で24時間増殖させ、2つのプールに分けた。ひとつのプールは、非選択群として保持し、もうひとつは、38℃における発酵2回に供した。各回の後、細胞を採取し、最小培地中で増殖させ、プラスミド保持細胞を高濃度にした。2回終了時点で、トータルDNAを標準的プロトコールにより(Kaiserら、Methods in yeast genetics(メソッズ・イン・イーストジェネティックス),A Cold Spring Harbor Laboratory manual(コールドスプリングハーバーラボラトリマニュアル),Cold Spring Harbor laboratory press、New York(1994))選択し、さらに選択しなかった細胞のプールから単離した。トータルDNA中に存在するプラスミドの挿入DNA断片類は、挿入DNAの両方の末端に存在するアダプター配列に相補性のプライマー(5´−CACGAGCTACGTCAGGG−3´)を用いて特異的に増幅させた。容量25μlでPCR反応を設定した。それは、テンプレート100ng、1×Taqバッファー(NEB)、プライマー0.4mM、0.2mMのdNTPs、および5UのTaq DNAポリメラーゼを含んでいた。熱サイクル条件は、下記のようであった:95℃における変性を5分間の後、94℃1分間変性、60℃1分間のアニーリング、および72℃における4分間の伸長を30サイクル、行った。この後、最終伸長を72℃で10分間行った。PCR産物は、両群でアガロースゲル電気泳動によりサイズ範囲の均一性を調べ、その後、PCR精製キット(Qiagen)を用いて精製した。各群からの精製したPCR産物1μgを、Cy3またはCy5によりランダムプライマーラベリングにより標識した。各標識反応において、純粋なPCR産物1μg、ランダムプライマー類10μg(ノナマー)、アラビドプシス(Arabidopsis)コントロールDNAを2ng、dCTPを含まないdNTPs0.5mM、1×クレノウ緩衝液、いずれかのフルオロホア(Cy5/Cy3 dCTP)2μlおよび50UのDNAポリメラーゼ(NEB)のクレノウ断片を添加した。反応物を、37Cにおいて12時間インキュベーションし、0.5M EDTAを2.5μl添加することによって終結させた。標識産物を、PCR精製キットを用いて精製した。標識物は、スライドグラスにスポットした純粋なサンプルと不純サンプルの系列希釈物を比較することによって、定量した。これらはマイクロアレイ上でスキャンし、取り込み百分率を見出した。ハイブリダイゼーションのため、Cy5およびCy3標識DNA断片類を等しい割合で混合し、容量を18μlにした。これを95℃で2分間、熱変性させた。80μlのハイブリダイゼーション反応を設定した。この中に、標識プローブ18μl、1×ハイブリダイゼーション緩衝液、1.6μlの10%SDSおよび40μlのホルムアミドを混合した。この全容量をマイクロアレイスライドグラス上に置き、注意してカバースリップで覆った。ハイブリダイゼーションは、ハイブリダイゼーションチェンバー中で設定し、42℃の水浴中で12時間、インキュベーションした。スライドの洗浄は、標準的プロトコールに従い、行った(Bowtellら、DNA Microarrays(DNAマイクロアレイ). A molecular cloning manual(アモレキュラークローニングマニュアル).Cold spring harbor laboratory press.Cold spring harbor,New York(2002))。次に、これらのスライドをAxon4000Bマイクロアレイスキャナーでスキャンした。データ解析にはGenepix Proソフトウェアを用いた。実験は、異なるライブラリー2つで行い、一貫性を調べた。その他に、色素スワップ実験も同様に行い、標識におけるバイアスを排除した。出発群に比較して選択群のDNAについて高いシグナルを示す特徴(遺伝子類)は、選択中に高濃度になったものであり、従って、選択条件中で高い適合性を有している。
【0042】
実施例7
コロニーハイブリダイゼーションによる適合性増強を付与する高濃度遺伝子類の回収
ストレス耐性に役割を果たす遺伝子類を、直接、コロニーハイブリダイゼーションを用いてゲノムライブラリーから単離できる。全遺伝子プローブを調製し、全マイクロアレイ中で一貫して高濃度になった遺伝子を調製した。発酵4回の終了時に選択した群から検索回収したプラスミド類は、標準的プロトコールにより大腸菌中に形質転換した。大腸菌形質転換体1000個が、LB−ampプレート上に散らばっていた。コロニーハイブリダイゼーションのため、Hybond(N)ナイロン膜を用いる標準的プロトコールに従った(Sambrookら、Molecular Cloning:A laboatory manual(モレキュラークローニング:アラボラトリマニュアル)。Cold Spring Harbor Laboratorypress。New York(1989))。各遺伝子について、多くのクローンが単離できた。プラスミド類(無作為に採取したクローン由来)は、アルカリ融解法で単離し、XhoI酵素により制限酵素分解し、独自の大きさの挿入物を同定した。独特に見えるものを、ADH1特異的プライマーを用いて配列決定した。これらをさらに特性解析し、酵母に形質転換し、それらの発酵ストレス耐性における役割を確認した。挿入物の一部は、1を越える遺伝子を保持しているかまたは追加の部分遺伝子類を保持していた。その他に、配列決定により、ADH1プロモーターに関して遺伝子の方向を見出すこともできた。RPI1、MKT1、ECM39、SOL1およびADE16に対応する挿入物を同定し、この手法を用いて特性解析した。
【0043】
実施例8
WSC2の役割の確認
マイクロアレイに基づくスクリーニングにより、WSC2が全ての実験群で高濃縮されていることが明らかになった。従って、過剰発現と破壊クローン類を作製し、その役割を確認した。過剰発現クローン類は、その内因性プロモーターをGPD1プロモーターと置き換えることによって得られ(Petracekら、Methods Enzymol.(メソッズインエンザイモロジー),350巻、pp.445−468(2002))、一方、破壊物は、WSC2コード領域をURA3マーカーにより置換することによって作製した。これらをURA3欠失株に形質転換した。20%糖による38℃における発酵研究により、WSC2過剰発現クローン類が、発酵終了時点で野生型よりも50乃至100倍、より優れた生存を示すことが明らかになった。それは、野生型に比べて発酵速度においていかなる変化も示さなかった。38℃で行った混合培養発酵研究においてさえも、この株は、G418対照株に比較して発酵終了時点で主要なものとなった(表5)。WSC2は、WSC4と同一ファミリーに属しており、細胞壁一体性経路に関与している。WSC遺伝子類は、機能的には必要のないものである。全てを欠失させるかあるいは組み合わせて欠失させるまで、その役割を同定することはできない。しかし、この過剰発現ストラテジーは、もはや必要のない遺伝子類のそれぞれのメンバーの役割を同定できた。WSCはシグナル分子類のファミリであり、環境ストレス応答で重要な下流のRho1およびMAPキナーゼ経路を活性化する。さらに、増殖または発酵速度にいかなる明らかな効果も見られず、このことは、これらがPKA非依存性に活性化することを示唆している。したがって、WSC経路のさらなる研究は、発酵ストレス耐性について株類を改良するのに役立つことができる。
【0044】
【表5】

【0045】
実施例9
適合性プロファイリングにより同定された他の遺伝子類
マイクロアレイ中に一貫して出現した多くの他の遺伝子類は、それらの発酵ストレス耐性における役割を、混合培養発酵研究を行うことによって確認した。第2回の選択群から単離し特異的遺伝子類についてコロニーハイブリダイゼーションによって同定した多くの他のプラスミド類は、FY3酵母株中に形質転換した。これらの形質転換体類は、混合培養発酵研究に供した。ここで、過剰発現試験株類は、等比率でG418野生型対照株と混合した。発酵研究は、20%糖により38℃で行った。発酵終了時点で生存していたG418感受性細胞は、G418細胞と比較した。ECM39(表6)およびMKT1(表7)の場合、90%を超える群の過剰発現クローン類は、主にG418感受性試験株類であり、ADE16の場合、85%を超える群のものは、ADE16過剰発現株に対応している(表8)。SOL1形質転換体は、80%と混合培養群で優位であった(表9)。ECM39、MKT1およびADE16遺伝子類は、プラスミド類中ADH1プロモーターに関して、反対の方向で存在していた。これらの遺伝子類のために、単一コピーの付加が、発酵中の増強ストレス耐性付与に十分であるようである。これらの遺伝子類の全ては前記文献中で公知であるが、発明者らの手法のみが発酵ストレス耐性におけるそれらの役割をもたらした。
【0046】
【表6】

【0047】
【表7】

【0048】
【表8】

【0049】
【表9】

【産業上の利用可能性】
【0050】
要約すると、本発明はいくつかの利点を有している:
【0051】
本発明において、過剰発現時にストレス耐性をおそらく増強できる生物体遺伝子類全てが、同時に同定される。これは、ストレス耐性に関与する遺伝子類が最初に同定され次に一度にひとつずつ過剰発現させそれらがストレス耐性を改善しているかどうかを調べる公知方法類と対照的である。現行方法類の限界は、過剰発現遺伝子類のいくつかのみが結果として改善をもたらすであろうということである。その利点は、あるプロセスに関与する遺伝子類のいくつかのみが律速性であり、もしこれらの遺伝子類が過剰発現される場合にのみ、改良されるであろう。一方、発明者らの手法では、実際のストレス耐性を改良する遺伝子類のみが直接同定される。したがって、発明者らの発明は労力が少なく、より効率的である。
【0052】
本発明はまた、増殖ならびにストレス耐性に必須の遺伝子類も同定するであろう。対照的に、突然変異に基づく方法は、このような遺伝子類をほとんど見逃すであろうが、その理由は、必須遺伝子類を傷害された変異体は、それらを最初に研究すべき第1ステップで増殖できないであろう。
【0053】
本発明はまた、複製遺伝子類のメンバーを同定するであろう。対照的に、変異に基づく手法では、複製遺伝子類が、互いの機能喪失を補償しあうので、このような遺伝子類を頻繁に見逃すであろう。
【0054】
本発明はまた、液体培地中でのエタノール発酵中におけるストレス耐性のようなある種の表現型を研究するためにプレートスクリーンがないという限界を克服する。これはおそらく、単一プール中に形質転換体全てを豊富に存在させ、実際に、これらの形質転換体中に存在するプラスミド類上に保持された遺伝子類の豊富さをモニタリングすることによって、定量的に追跡できるからであろう。すなわち、プラスミド類自体に保持された遺伝子類は、DNAタグとして作用し、前記プール中に存在する異なる形質転換体類を区別させる。
【0055】
本発明はまた、定量的に研究すべき異なる遺伝子類の適合性寄与を小さくできる。このことは、おそらく、全形質転換体類が単一プールとして研究され、従って、同一のかつ競合的選択的条件を経験することによるのであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵母のストレス耐性を増強する遺伝子類を同定する方法であって、
a.プラスミド中にクローニングした酵母遺伝子ライブラリーで酵母を形質転換し、多数の酵母形質転換体を提供すること、
b.ステップ(a)で得られた前記形質転換体をプールして、形質転換体出発群を提供すること、
c.ステップ(b)で得られた前記形質転換体群を細胞群の生存性が3ないし200倍低下するような選択条件に供し、それによってこれらの条件下でよりよく生存できる形質転換細胞を豊富にすること、
d.ステップ(c)で得られた生存細胞を回収し、プラスミド保持細胞のみの増殖を可能とする規定最小培地中でそれらを増殖させること、
e.ステップ(d)で得られた前記細胞をさらに、前記ステップ(c)および(d)を繰り返すことにより、さらに何回かの選択に供すること、
f.ステップ(e)で得られた少なくとも3回の選択後に生存していた細胞を回収すること、
g.選択条件下で出発細胞群とステップ(f)で得られた選択した細胞群を比較し、選択した細胞の生存が増強されたことを確認すること、
h.ステップ(g)で得られた選択した細胞プールをプレートに接種し、単離コロニーを得ること、
i.ステップ(h)で得られたそれぞれの酵母コロニーからDNAを単離し、大腸菌(E.coli)中に形質転換し、それぞれの酵母コロニー中に存在するプラスミドを回収すること、
j.ステップ(i)で得られたプラスミド類を酵母中に形質転換し、プラスミドが実際に前記選択条件下で増強された耐性を付与するかどうかを調べるために前記形質転換体を試験すること、そして、
k.配列決定により、増強ストレス耐性を付与するステップ(j)で得られたプラスミド上に保持された遺伝子類を同定すること、
を含む方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酵母のストレス耐性を高める遺伝子類を同定する方法であって、発酵条件下で下記のステップを含む方法:
a.プラスミド中にクローニングした酵母遺伝子ライブラリーにより酵母を形質転換し、多数の酵母形質転換体を提供すること、
b.ステップ(a)で得られた前記形質転換体をプールして、形質転換体出発群を提供すること、
c.ステップ(b)で得られた前記形質転換体群を細胞群の生存性が3ないし200倍低下するような選択条件に供し、それによってこれらの条件下でよりよく生存できる形質転換細胞を豊富にすること、
d.ステップ(c)で得られた生存細胞を回収し、プラスミド保持細胞のみの増殖を可能とする規定最小培地中でそれらを増殖させること、
e.ステップ(d)で得られた細胞をさらに、前記ステップ(c)および(d)を繰り返すことにより、さらに何回かの選択に供すること、
f.少なくとも1回の選択後に生存していたステップ(e)で得られた細胞を回収すること、
g.トータルDNAを形質転換体出発群とステップ(f)で得られた選択群から単離すること、
h.プラスミド特異的プライマー類を用いて、ステップ(g)で得られたトータルDNAからプラスミド上に保持された挿入DNAのみを特異的に増幅させること、
i.形質転換体出発群のステップ(h)で得られた挿入DNA断片を蛍光色素で標識し、選択群のそれは、別の蛍光色素で標識すること、
j.ステップ(i)で得られた前記標識プローブ類を混合し、酵母のほとんど全ての遺伝子類に対応するDNAをスポットしたマイクロアレイにハイブリダイズさせること、
k.出発群のシグナルと比較して選択群に対応するプローブについて増強シグナルを示すステップ(j)で得られたマイクロアレイ上のDNAスポットを同定すること、および
l.ステップ(k)で得られたDNAスポットに対応する遺伝子類を有する組換えプラスミドクローン類を、選択中において酵母のストレス耐性を高めるものとして単離すること。
【請求項3】
前記酵母を、すでに特定のストレスに対して耐性となっている生物体由来の遺伝子類ライブラリーで形質転換する請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
使用した前記酵母株が、サッカロマイセス・セレビジアエ(S.cerevisiae)である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記プラスミドが、構成プロモーターを有する発現プラスミドである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記プラスミドが、誘導プロモーターを有する発現プラスミドである請求項1乃至4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1項で同定した遺伝子類を有する組換えプラスミド類で形質転換することによって酵母のストレス耐性を改良する方法。
【請求項8】
請求項1乃至6のいずれか1項に記載のようにして同定した遺伝子類を過剰発現する組換えプラスミド類で形質転換することによって酵母のストレス耐性を改良する方法で、
a.構成プロモーターの制御下に前記遺伝子のコード領域をサブクローニングし、前記遺伝子を過剰発現する組換えプラスミドを得ること、および
b.ステップ(a)で得られた組換えプラスミドで酵母を形質転換することによってストレス耐性を改良すること、
を含む。
【請求項9】
前記プラスミドが誘導プロモーターを有する発現プラスミドである請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記プラスミドが組み込みプラスミドである請求項1乃至9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
酵母ゲノム中に存在する標的遺伝子のプロモーターを強力な構成プロモーターで置き換えることによって、請求項1乃至6のいずれか1項に記載のようにして同定した標的遺伝子類の発現レベルを調節することによって酵母のストレス耐性を改良する方法。
【請求項12】
前記プロモーターが誘導プロモーターである請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記遺伝子類がRPI1、WSC2、WSC4、YIL055C、SRA1、ECM39、SSK2、MKT1、SOL1およびADE16から構成される群から選択される請求項1乃至12のいずれか1項に記載の酵母ストレス耐性を改良する方法。
【請求項14】
前記ストレスがアルコール産生条件下における発酵性ストレスである請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記ストレスが、37乃至40℃範囲の高温におけるアルコール産生条件下における発酵性ストレスである請求項1乃至13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
グルコースまたはショ糖がアルコール産生のための原材料である請求項1乃至15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
糖蜜または他の複合炭素源がアルコール産生のための原材料として作用する請求項1乃至15のいずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記生物体が酵母の実験室株である請求項1乃至17のいずれか1項記載の方法。
【請求項19】
前記生物体が酵母の工業株である請求項1乃至17のいずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記生物体がストレス耐性のために改良を必要としているすべての微生物である請求項1乃至17のいずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記ストレスが、工業界で微生物類が遭遇する全ての悪影響のある条件である請求項1乃至20のいずれか1項記載の方法。
【請求項22】
酵母株改良のために請求項1乃至22のいずれか1項に記載の方法を用いることによって同定された遺伝子類の使用。
【請求項23】
酵母株改良のために請求項1乃至22のいずれか1項に記載の方法を用いることによって同定されたRPI1、WSC2、WSC4、YIL055C、SRA1、ECM39、SSK2、MKT1、SOL1およびADE16から構成される群から選択される遺伝子類の使用。

【公表番号】特表2009−502158(P2009−502158A)
【公表日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−523474(P2008−523474)
【出願日】平成18年7月11日(2006.7.11)
【国際出願番号】PCT/IB2006/001910
【国際公開番号】WO2007/012934
【国際公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【出願人】(505185709)カウンシル オブ サイエンティフィック アンド インダストリアル リサーチ (35)
【Fターム(参考)】