説明

酵素を含む歯科用組成物

本発明は、酸性のpH値で酵素活性をもつ酵素、酸性のpHをもたらす緩衝剤および1つ以上の防腐剤物質で、それらの少なくとも1つの防腐剤物質は酸性のpHで活性をもつ、を含む歯科用組成物に関係する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科用組成物に関する。さらに、本発明はこの歯科用組成物を作成するプロセスに関する。本発明はまた、齲蝕を除去するための処置剤作成のための歯科用組成物の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
歯の腐食とも呼ばれる齲蝕は人間がかかる病気の中でも最も多く起こるもののひとつである。齲蝕は歯の細菌による傷害であり、歯が抜け落ちてしまうこともある。歯の外側は堅いエナメル質のカバーで保護されており、それは比較的軟らかい象牙質を包み、さらにそれはいわゆる歯髄を包んでいる。エナメル質自体はその約95%が無機化合物、特にヒドロキシアパタイトで、約5%が有機化合物および水分で構成されている。象牙質はエナメル質よりも軟らかく、約65%が無機化合物(主にヒドロキシアパタイト)、約20%が有機化合物(主にコラーゲンと多糖類)、および約15%が水分で構成されている。
【0003】
齲蝕は数段階におよぶ炭水化物の細菌発酵、特に砂糖から酸への細菌発酵で進行する。前記細菌発酵で生じる酸はまず硬いエナメルを溶かすが、そこで細菌は主に歯についている食物の粒子などの有機成分を攻撃する。
【0004】
前記エナメル質が細菌によって引き起こされた酸の影響によって多孔質化および軟化すると、細菌はエナメル質の下の象牙質層に達し、そこに感染して齲蝕となる。最も溶かされるエナメル質またはエナメル質と象牙質の部分は、齲蝕病変または歯腔と呼ばれる。浅い歯腔の進行はしばしば持続し、歯のより深い部位への感染を引き起こす。いわゆる深在性齲蝕の状況は、齲蝕象牙質の領域の拡がりを示し、齲蝕疾病が象牙質の下の歯髄で炎症を引き起こすリスクがある。歯髄の炎症は強い痛みを伴い、迅速に治療されなければその患者の健康に重大な悪影響を及ぼしかねない。
【0005】
炎症を起こした歯髄の歯内治療による除去の際には、除去する歯髄がある歯根管の消毒が行われる。この消毒が適切に実施されなかった場合、前記感染が続くことがあり、歯槽骨の感染にまで至ることもある。
【0006】
よってここで示された齲蝕病変の治療とは、感染した組織および壊死した象牙質の除去である。
【0007】
現在の齲蝕掘削処置ではその歯腔から細菌は除去されないことがよく知られている(フェジェルスコフおよびキッド著、「歯科齲蝕(Dental Caries)」ブラックウェル・マンクスガード(Blackwell Munksgaard)、2003年、第17章)。特に齲蝕病変が深い場合に歯髄が感染することを防ぐために、歯腔消毒剤の使用が推奨される。(ブランストローム(Brannstrom)ら著、(Caries Res)14巻、276−284項、1980年))。歯髄の炎症を防止することは、覆髄の前に消毒が指示されることや、抗菌特性をもつ覆髄製品が開発されることの理由でもある。
【0008】
さらに「歯内治療学はまず始めに微生物学的問題であり、それゆえに解剖学的でかつ技術的な問題なのである。」(ハイネマン(Heinemann)監修「Endodontie」ページ82、アーバン・アンド・フィッシャー(Urban & Fischer)2001年)という文章に表れている通り、消毒は歯内療法において不可欠な部分である。特に問題となるのは歯内スメア層で、これは歯内療法の過程で作られ、スメア層内および管壁の細管内の細菌に抗菌性物質が到達するのを妨げる。今日の歯内療法ではスメア層および細管内の細菌がうまく死滅しないことがしばしばあり、再定着を許してしまう。(ハイネマン(Heinemann)監修「歯内療法(Endodontie)」ページ89、アーバン・アンド・フィッシャー(Urban & Fischer)2001年)。さらに、現在の歯内洗浄は歯内シーラーおよび修復を含むことがある。(セビシガン(Sevcigan)ら著、「IADR」、2005年、ポスター#2982)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
齲蝕した歯の治療の間、歯科施術者は異なる治療、浅い部分および深い部分の壊死した象牙質の除去および歯腔の消毒、が必要だということを知ることがある。この歯腔の消毒は深在性齲蝕において歯髄の感染が防止できる場合に特に有効である。既に歯髄が感染している場合、歯髄を除去し、さらなる感染を防ぐため、歯内領域の洗浄と消毒を行うことが必要である。
【0010】
WO 2004/017988で開示された処方は、感染した象牙質を除去する。それは少なくとも1つの生物学的に活性なプロテアーゼおよび/または少なくとも1つの生物学的に活性なグリコシダーゼを含む。WO 2004/017988の実施形態には、水、酸、ペプシンおよびレオロジー的添加物を含む。
【0011】
EP 0884950 B1およびWO 00/27204はそれぞれ、細菌を死滅させるためにカチオン性ポリマーとN−ヒドロキシアニリドを組み合わせた酵素について述べている。
【0012】
米国特許2004/0071636およびWO 2004/000222は抗菌化合物としてバクテリオファージ由来のリゾチームのような酵素の使用について述べている。
【課題を解決するための手段】
【0013】
出願者は、感染した象牙質を特に除去し、製品の細菌汚染を防止する剤を含む製品をもつことが望ましいことを認識している。
【0014】
これは、酸性のpH値において酵素活性をもつ酵素を含む歯科用組成物によって達成される場合がある。前記組成物は典型的には、酸性のpH値を示す緩衝剤および少なくとも1つの防腐剤を含み、ここで、少なくとも1つの防腐剤は酸性のpH値で活性である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本提示は、(i)酸性のpHレベルにおいて酵素活性がある酵素、(ii)酸性のpH値をもつ緩衝剤、(iii)酸性のpHにおいて活性がある少なくとも1つの防腐剤を含む歯科用組成物を提供する。本発明中で使用される酵素の酵素活性は典型的には、前記緩衝剤によって提供される酸性のpH値での最適な活性をもつものではない。しかしながら、少なくとも1U/mL以上のpH値において全酵素活性をもつことが望ましい。
【0016】
本発明に従う組成物は、たとえば、組成物mLあたり約1U〜約1,000,000Uの全酵素活性を有する場合がある。酵素活性の範囲の下限は、たとえば、約5または10U/mLであり、本発明の効果は通常は全酵素活性の範囲の下限が約20または約30または約50U/mL組成物である時、大幅に向上する。
【0017】
全酵素活性は、好ましくは約500〜50,000U/mL組成物、より好ましくは約1,000〜約8,000U/mL組成物である。たとえば、酵素がペプシンの場合に組成物1mLあたり約0.5〜約15mgの量(一般に入手可能なペプシン)を加えることで望む活性が得られる。
【0018】
酵素ユニット(Uと略す)は、それぞれの酵素に対する標準の状態において対応する酵素基材1μmolを変換するのに必要な酵素の量である。標準の状態と同じく、酵素ユニットは当該技術分野において既知である。たとえばWO 2004/017988において、さまざまな酵素に対する標準状態が開示されており、それは参照することにより本書に組み込まれる
ペプシンの特殊なケースにおいては、たとえば、1ユニットはヘモグロビンから37℃で1分あたりトリクロロ酢酸(Trichloracetic acid)可溶性加水分解生成物として0.001 A280を放出する量である。
【0019】
この場合、全酵素活性[U/mL]は、糊状で乾燥した製品、たとえば酵素の混合物だけでできている、および所望により1つ以上の、これも乾燥した補助剤、と同様に液体に関係する。
【0020】
本発明中で使用された酵素は一般に、細菌または酵母(菌)だけでなく植物、動物または菌類から分離される。それらはバイオエンジニアリングによっても生産される。酵素の代表的な例としては、豚や鳥から得られた酵素のような、動物、細菌または酵母菌から分離されたものがある。さらに、細菌属ストレプトミセス、菌類ペニシリウム、細菌属クロストリジウム、または菌類アスペルギルスまたはトリオチラシウムから分離された酵素が適している。好ましい酵素はストレプトミセスグリセウス、クロストリジウム属ヒストリチクム菌、アリサイクロバチルス、アスペルギルスニデュランス、ペニシリウム種またはトリチラシウム・アルバムから分離される。
【0021】
本発明の文脈において用語「プロテアーゼ」は、加水分解ペプチド固着が可能なあらゆる酵素を表す。さらにこの用語は、ジペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチドおよびタンパク質またはグリコシル化誘導体などのそれらの誘導体を加水分解することが可能な酵素を示す用語である。
【0022】
プロテアーゼは、齲蝕病変にタンパク質構成成分が存在する場合にその分解を促進する触媒となる。その目的のため、一般的にはタンパク質およびペプチドの分解に触媒として作用するプロテアーゼはどれも適している。しかし、本発明の文脈においては、コラーゲン繊維がプロテアーゼ反応後に溶解度特性が高まるよう、特に好ましいプロテアーゼはコラーゲン繊維の分解の触媒作用、または少なくともコラーゲン繊維の構造の変化に対して触媒作用をもつ。
【0023】
前記発明に適したプロテアーゼの分類は、タンパク質分解触媒に関係するアミノ酸または共同因子によっても可能である。よって本発明の文脈においては、一般的にはセリンプロテアーゼ、マトリックスメタロプロテアーゼ、アスパラギン酸プロテアーゼ、セリン‐カルボキシルプロテイナーゼおよびシステインプロテアーゼなどのあらゆるプロテアーゼ類が使用される。一般的に、前記複数のプロテアーゼは、それぞれのプロテアーゼが齲蝕病変内に存在するタンパク質構成要素の分解を触媒するという状況の下で使用することができる。
【0024】
前記発明に従う組成物は1つのプロテアーゼまたは2つ以上の異なるプロテアーゼを含む。
【0025】
本発明の1つの実施形態では、前記組成物はたとえば、1つのプロテアーゼを含む。別の実施形態では、前記発明に従う組成物は1〜10の異なるプロテアーゼ、好ましくは1〜6、より好ましくは1〜4、さらに好ましくは2〜3、最も好ましくは2つの異なるプロテアーゼを含む。
【0026】
別の実施形態では、前記組成物は1つだけのプロテアーゼ、好ましくはアスパルテートプロテアーゼを含み、ペプシン特に豚由来のペプシンが好ましい。
【0027】
組成物を含む酵素は一般に酸性のpH値、すなわち7.0より小さなpH値をもつ。
【0028】
本発明の歯科用組成物のpH値は好ましくは、pH1からpH4の範囲である。
【0029】
この点において、前記酵素はpH4.0より小さなpH値または範囲で酵素活性を有することが好ましい。前記酵素がこのpH値で最大の酵素活性をもつことは必要とされず、pHが4.0より小さい値において最大の活性の少なくとも10%をもつべきである。結果として、前記緩衝剤は歯科用組成物に4.0より小さなpH値を提供すべきである。
【0030】
本発明の文脈において、たとえば、リン酸緩衝剤、炭酸塩緩衝剤、アセテート緩衝剤、ギ酸緩衝剤、クエン酸緩衝剤、トリス緩衝剤、グリシルグリシン緩衝剤、グリシン緩衝剤またはそれらの混合物などの典型的ないずれかの緩衝剤が適している。リン酸ナトリウム緩衝剤、リン酸水素ナトリウム緩衝剤、リン酸二水素ナトリウム緩衝剤、カリウムリン酸緩衝剤、カリウム水素リン酸緩衝剤、カリウムニ水素リン酸塩緩衝剤またはピロリン酸塩緩衝剤が好ましい。好ましい緩衝剤にはまた、炭酸ナトリウム緩衝剤、炭酸カリウム緩衝剤、炭酸水素ナトリウム緩衝剤または炭酸水素カリウム緩衝剤も含まれる。リン酸緩衝剤およびそれらの構成要素は特に好ましい。特に好ましいリン酸緩衝剤は、リン酸二水素ナトリウム緩衝剤である。
【0031】
緩衝剤の濃度は、好ましくは約0.01〜2.0Mの範囲内である。
【0032】
本発明に従った組成物はさらに防腐剤も含むことができる。一般的に、微生物の成長を阻害し、人間の体が耐性をもつ防腐剤ならばどのタイプでも使用可能である。従来の防腐剤であるパラヒドロキシ安息香酸エステルタイプが好ましいことが発見されている。特に好ましいのは、パラヒドロキシ安息香酸メチルエステル(メチルパラベン)およびパラヒドロキシ安息香酸プロピルエステル(プロピルパラベン)という名称で知られる防腐剤である。前記名称の防腐剤それぞれは単独で防腐剤として使用することができる。しかし、そのような防腐剤を組み合わせて使用することも可能である。前記防腐剤は一般には、前記組成物の重量の約0.001〜約1重量%の量が使用される。本発明の好ましい実施形態において、防腐剤は前記組成物の重量の約0.01〜約0.25重量%の量が使用される。
【0033】
任意選択の防腐剤に加えて、本発明に従う前記組成物は、酸性のpH値で活性があり、好ましくは4.0より小さいpH値で活性がある少なくとも1つの防腐剤物質を必要とする。たとえば、前記防腐剤は有機酸であってもよい。
【0034】
酸性のpH値で活性がある代表的な防腐剤物質は、ジクロールベンジルアルコール、フェニルエチルアルコール、亜硫酸塩、ソルビン酸、デヒドロ酢酸(dehydracetic acid)ジブロムジシアノブタン、プロピオン酸、サリチル酸、ギ酸、酢酸、乳酸、グルタルアルデヒドからなる群から選択されてもよい。
【0035】
防腐剤物質は好ましくは、安息香酸または安息香酸の誘導体または安息香酸の塩を含む安息香酸を放出する物質である。より好ましくは、防腐剤物質は安息香酸である。
【0036】
酸性のpHで活性のある防腐剤物質を歯科用組成物に加えることにより、一定の保存効果が得られる。したがって、前記組成物は抗菌特性を示し、さらに細菌汚染から保護される。本発明の組成物によって、この防腐効果に加え、驚くほどの相乗的効果が達成される。当該技術に熟達した者には既知であるが、前記歯科用組成物は、前記成分により、感染および/または壊死した象牙質および/または感染した歯髄を除去するのに有用である。それは細菌汚染に対してさらに抵抗力をもつ。細菌を減少させる能力について前記歯科用組成物を検査した後、ほんの短期間の治療で本発明の組成物は相乗的効果によって齲蝕原性細菌を5log10のレベル以上減少させることが発見された。
【0037】
したがって、この組成物は、歯科用組成物として、歯内治療の後の齲蝕の除去または歯髄、歯髄残留物、壊死組織および/または歯根管の歯内スメア層除去にたいして非常に機能的であるに留まらない。それは細菌汚染に対する一層の保護を示す。さらに、およびその驚くべき効果的な抗菌特性ゆえに、それは歯科施術者によって治療された、齲蝕の除去後の歯腔の消毒および/または清浄および/または処理された歯または橋脚歯の消毒のために使用されることができる。生物学的適合性に従い、本発明の組成物は当業者には既知の齲蝕除去または齲蝕の消毒のための組成物に対して優位性を示す。本発明による歯科用組成物をさらに、歯髄の除去後、歯内領域または歯内治療の洗浄液および/または歯根管および/または管壁の消毒に使うことも可能である。それとともに、歯内スメア層は除去され、歯内領域は1つの組成物または1つの工程で消毒される。
【0038】
特に有利なのは、本発明の組成物が上記で説明した両方の行程で使用できるということである。したがって、歯内治療および治療領域の消毒後の歯根管内の歯髄、歯髄の残留物および/または歯内スメア層の除去のみならず、壊死組織、齲蝕組織および感染した象牙質の除去が1つの組成物のみによって提供される。これらの治療は1つの工程のみで実行されることができ、従来技術の組成物による治療にかかる時間を短縮できる。
【0039】
本発明に従った前記組成物はレオロジー的添加物を含んでもよい。レオロジー的添加物として、有機増粘剤が効果的に使用される。それらには、デンプン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、キサンタン、グリセリン、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(methycellulose)、ヒドロキシエチルセルロースおよびカルボキシメチルセルロースナトリウムが含まれるがこれらに限定されるものではない。さらに可能なのは、シリカゲルまたはフィロシリケートなどの無機増粘剤である。前述の増粘剤を2つ以上を混合して使用してもよい。
【0040】
本発明に従いプロテアーゼを含む組成物の場合は、レオロジー的添加物として多糖類を含むことが好ましい。適した多糖類はたとえば、デンプン、マンナン、キサンタン、アルギン酸、カラゲン(carragen)、ペクチン、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルプロピルセルロース、ヒドロキシブチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(methycellulose)、ヒドロキシエチルセルロースまたはカルボキシメチルセルロースナトリウムおよびそれらの2つ以上の混合物である。
【0041】
本歯科用組成物において溶媒が使われてもよい。一般には、前記酵素を変性させることなくおよび/または前期組成物のその他の構成要素を阻害することなく酵素およびその他の組成物を溶かすことができる、それぞれの溶媒が使われる。たとえば、前記酵素の活性を弱めない、いずれかの水性および有機溶媒が使われる。適した溶媒には、たとえば、水、2〜約10個の炭素原子をもつ線状、分岐状または環状、飽和または不飽和アルコール、ケトン、エステル、カルボン酸、および前記タイプの溶媒の2つ以上の混合物が含まれる。好ましい溶媒には、水および水とアルコールの混合物が含まれる
ジアルキルケトン、アルコールまたはポリエチレングリコール(PEG)、ヒドロキシエチルメタクリレートまたは(2,3−エポキシプロピル)メタクリレートおよびそれらの混合物などの低粘度の重合可能な物質を溶媒として使うことができる。その他の適した有機溶媒には、グリセリン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン、アセトン、メチルエチルケトン(methyethyl ketone)、シクロヘキサノール、トルエン、メチレンクロライド、クロロホルム、アルカンおよび酢酸アルキルエステル、特に酢酸エチルエステルが含まれる。
【0042】
前記組成物は追加的に補助剤たとえば、WO 2004/017988で開示された錯化剤、酵素基材または酵素エフェクターを含むことができる。本発明に従い、酵素エフェクターは酵素阻害剤だけでなく酵素活性剤を含む。
【0043】
前記組成物の貯蔵特性を強化するために、本発明の構成要素を2つの構成要素AおよびBで提供することが有利であり、ここで構成要素Aは溶媒、酸性のpH値で酵素活性を有する酵素および前記酵素が最も活性を示すpH値より大きいpH値をもつ緩衝剤を含む。
【0044】
構成要素Aは中程度から弱酸性のpH値をもつことができる。たとえば、構成要素AのpH値は、4.5〜6.5の範囲に調整することができる。好ましくは、それは5.0〜6.0の範囲に調整することができる。
【0045】
構成要素Bは溶媒、前記酵素が最も活性を示すpH値と同じかより低いpH値を提供する緩衝剤系および前記pH値で活性を示す防腐剤を含む。
【0046】
この構成要素Bは高い酸性のpH値をもつことができる。たとえば、構成要素BのpH値は1.0〜4.0の範囲に調整することができる。好ましくは、それは1.5〜3.5の範囲に調整することができる。
【0047】
したがって、構成要素AおよびBに対して異なるpH値を選択できる能力によって有利な点をいくつか得ることができる。酵素安定性を増加させることができる。異なる防腐剤物質を異なる構成要素にさらに追加することができる。さらに、いくつかの添加物は一定のpH値でよりよい溶解度および/または効率を示す。したがって、それらはより適したpH値をもつ構成要素AおよびBに追加することができる。
【0048】
本発明の1つの実施形態において、構成要素Aは水、酸性のpH値で酵素活性を有する酵素、前記酵素が最も活性を示すpH値より高いpH値を提供するリン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウム、および防腐剤物質を含むことが好ましい。構成要素Bは水、前記酵素が最も活性を示すpH値と同じかより低いpH値を提供するリン酸ナトリウムおよびリン酸、および前記pH値で活性を示す防腐剤物質を含む。
【0049】
本発明に従う好ましい実施形態において、構成要素Aは以下に示された量の以下のような構成要素を含むことができる。
【0050】
【表1】

【0051】
本発明に従う好ましい実施形態において、構成要素Bは以下に示された量の以下のような構成要素を含むことができる。
【0052】
【表2】

【0053】
本発明に従った歯科用組成物は、齲蝕象牙質および/または壊死組織を除去するために使用することができる。本発明の他の実施形態において、歯髄の除去および歯根管の処置などの歯内治療後の歯髄、歯内スメア層および/または歯髄残留物を除去するために使用することができる。本発明の組成物は有利な生物学な適合性をもつ。
【0054】
それはまた、歯腔の消毒および/または処置された歯または橋脚歯の洗浄と消毒にも使用することができる。この消毒は、歯腔に詰め物がなされた後の歯腔の再感染、および虫歯が進行した状態である場合に歯髄への感染を防ぐ。義歯のための歯の処置後に橋脚歯を洗浄する目的でも、スメア層および/または変性したコラーゲン残留物の除去が迅速に行え、有利である。
【0055】
それはさらに、歯内洗浄液および/または歯根管、管壁の細管および/または歯内領域の消毒としても使用できる。
【実施例】
【0056】
微生物殺菌処理は、元々存在していた微生物の5log10のレベルに対応する99.999%以上が与えられた処置時間の間に非活性化された場合に効果的と見なされる(DGHM、消毒剤一覧、2003年)。したがって、与えられた処置時間の間またはそれより早く齲蝕原性細菌を5log10のレベル以上減少させられる齲蝕除去システムは高度に機能している。
【0057】
本発明の抗菌剤作用は、齲蝕原性属の連鎖球菌および乳酸菌の酸発性の菌株を用いて評価された。5log10以上のレベルで細菌レベルの減少を検出可能な実験系が開発された。ミュータンス連鎖球菌DSM20523およびパラカゼイル(paracaseii)乳酸菌DSM 5622がブラウンシュワイク(Braunschweig)のDSMZから得られ、保存培養はそれぞれColumbia/羊血液寒天平板(Oxoid)およびロゴサ寒天培地(Oxoid)上で作成された。37℃でインキュベートされた10mLのブレインハートインフュージョン(Brain-Heart-Infusion、BHI)を植菌するために単一のコロニーが使われた。10mLの培養液の1〜2%は固定相まで培養され遠心分離濃縮された100mLを植菌するために使用した。
【0058】
実験は例に従って、濃縮された細菌懸濁液100μLを(S. mutansまたはL. paracasei)をそれぞれの溶液900μLに加えることによって開始された。それぞれの溶液を細菌懸濁液に加えることで、不活性化反応が開始された。この混合物はサーモスタットで37℃に平衡化した。示された時間間隔の後、100μLの標本が取り出され、不活性化反応を終結するために栄養素培養液と混合された。対照実験によると、さらなるコロニー形成単位(CFU)の減少がなかったことから栄養素培養液は不活性化反応を効果的に終結させた。
【0059】
細菌濃度は、寒天平板上に適切な希釈をすることでCFUとして決定された。
【0060】
それぞれの溶液の効率は、それぞれの実験におけるCFUの減少を測定することによって行われた。細菌の減少はlog10の減少で表示される。対数減少はlog10(CFU+1)t0−log10(CFU+1)txで計算される(パディック(Paddick)ら著、Appl.Environ Microbiol、71巻、2467−2472項、2003年)。
【0061】
それぞれの実験に対し、t0は開始時(t=0)の標本を示し、txは与えられた時間の標本を示す。これはすべてのグラフ上で「減少(log10CFU /mL)」として示される。
【0062】
(実施例1)
水溶液Aは混合によって調製された。
【0063】
【表3】

【0064】
水酸化ナトリウムを除くすべての成分は一緒に混合され、水酸化ナトリウムはその後、溶液AをpH値5.5に調整するために一滴ずつ加えられた。
【0065】
水溶液Bは混合によって調製された。
【0066】
【表4】

【0067】
リン酸を除くすべての成分は一緒に混合され、リン酸は溶液BをpH値2.1に調整するために少しずつ加えられた。
【0068】
溶液AとBの両方は、A:Bが1:3の比率で混合された。その結果もたらされた歯科用組成物(Ex.1)は例2、3および4にあるように使用された。
【0069】
比較例1
比較例(Comp.1)は次のように調整された。
【0070】
水溶液A’は混合によって調製された。
【0071】
【表5】

【0072】
水酸化ナトリウムを除くすべての成分は一緒に混合され、水酸化ナトリウムはその後、溶液A’をpH値5.5に調整するために一滴ずつ加えられた。
【0073】
溶液B’は混合によって調製された。
【0074】
【表6】

【0075】
リン酸を除くすべての成分は一緒に混合され、リン酸は溶液B’をpH値2.1に調整するために少しずつ加えられた。
【0076】
溶液A’とB’の両方は、A’:B’が1:3の比率で混合された。その結果もたらされた比較組成物(Comp.1)は例2、3にあるように使用された。
【0077】
(実施例2)
齲蝕原性細菌に対するEx.1およびComp.1の抗菌剤の作用を示すために、例2が実行された。上述のように、両方の溶液が濃縮された細菌懸濁液に加えられた。
【0078】
値は処置後に細菌が検出可能になったところで平均値(SD)で示されている。「>」がつけられた値は、処置後に細菌が培養されなかった実験を示す。よって、「> 5」がつけられた値は、殺菌効果が5−log10ユニットを超える実験を示す。「N/D」は非測定を意味する。
【0079】
【表7】

【0080】
このEx.1で得られたデータから読み取れるように、1分後にすでに細菌の急速な減少が見られる。それとは反対にComp.1は、1分後にも細菌の減少は見られず、与えられた5分間にわずかな減少があるのみである。
【0081】
(実施例3)
Ex.1に示した単一成分の抗菌剤の作用は、2分後(図1)および5分後(図2)の以下のような物質に対して別々に決定された。
【0082】
Pep=ペプシン
PEG=ポリエチレングリコール 200
Benz=安息香酸ナトリウム
PHB=メチル/プロピルパラベン
したがって、混合物は、示された物質(Pep、PEG、Benz、PHB)の1つと共にComp.1の成分を含むように調製された。示された物質それぞれの濃度はEx.1のそれと同じであった。Comp.1による水の濃度はそれに応じて減らした。
【0083】
減少が5log10単位より大きいすべての実験において、検出限界を超えていた。対数減少はしたがって示された値よりも大きい。
【0084】
結果からわかることは、5分後だけでなく2分後における前記抗菌剤の作用はいずれかの単一の成分によるものではなく、むしろ処方の相乗作用は強力な抗菌効果に基づくということである。
【0085】
比較例2
比較例(Comp.2)は次のように調整された。
【0086】
水溶液A”は混合によって調整された。
【0087】
【表8】

【0088】
水酸化ナトリウムを除くすべての成分は一緒に混合され、水酸化ナトリウムはその後、溶液A”をpH値5.5に調整するために一滴ずつ加えられた。
【0089】
溶液B”は混合によって調整された。
【0090】
【表9】

【0091】
リン酸を除くすべての成分は一緒に混合され、リン酸は溶液B”をpH値2.0に調整するために少しずつ加えられた。
【0092】
溶液A”とB”の両方は、A”:B”が1:3の比率で混合された。その結果もたらされた比較組成物(Comp.2)は例4にあるように使用された。
【0093】
(実施例4)
Ex.1はWO 2004/017988で開示されたようにComp.2に対して試験された。*で示されたすべての実験において、検出限界を超えていた。したがってlog10の減少は示された値よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】7分後の様々な組成物成分の抗菌作用を示すグラフである。
【図2】5分後の様々な組成物成分の抗菌作用を示すグラフである。
【図3】それぞれの時間における2つの組成物の抗菌作用を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性のpH値において酵素活性を有する酵素、酸性のpH値をもたらす緩衝剤および1つ以上の防腐剤を含む歯科用組成物であって、ここで少なくとも1つの防腐剤が、酸性pHにおいて活性である、歯科用組成物。
【請求項2】
酵素があるpH値または4.0より小さいpH範囲で酵素活性を有し、かつ緩衝剤が前記pH値または前記pH範囲をもたらす、請求項1に記載の歯科用組成物。
【請求項3】
少なくとも1の防腐剤が安息香酸、安息香酸の誘導体または安息香酸を放出する化合物からなる群から選択される、請求項1または2に記載の歯科用組成物。
【請求項4】
少なくとも1の防腐剤が安息香酸である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項5】
緩衝剤がリン酸緩衝剤である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項6】
前記酵素がプロテアーゼの群から選択される、請求項1〜5のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項7】
前記酵素がペプシンである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項8】
レオロジー添加物および/または溶媒および/または4.0より大きいpHで活性な防腐剤を追加的に含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項9】
リン酸ナトリウム、リン酸、水酸化ナトリウム、ポリエチレングリコール 200、ヒドロキシエチルセルロース、ペプシン、安息香酸ナトリウム、パラヒドロキシ安息香酸メチルエステル、パラヒドロキシ安息香酸プロピルエステルおよび水を含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項10】
2つの構成要素AおよびBを含む歯科用組成物であって、ここで構成要素Aは溶媒、酸性のpH値において酵素活性を有する酵素および前記酵素の活性が最も高いpH値より大きいpH値をもたらす緩衝剤を含み、構成要素Bは溶媒、前記酵素の活性が最も高いpH値以下のpH値をもたらす緩衝剤および前記pH値において活性がある防腐剤を含む、歯科用組成物。
【請求項11】
構成要素AはpH値を約5から6にする緩衝剤を含み、構成要素BはpH値を約1.5から3.5にする緩衝剤を含む、請求項10に記載の歯科用組成物。
【請求項12】
2つの構成要素AおよびBを含み、ここで構成要素Aは水、酸性のpH値において酵素活性を有する酵素、緩衝剤としてのリン酸ナトリウムおよび水酸化ナトリウム、ならびに防腐剤を含み、構成要素Bは水、緩衝剤としてのリン酸ナトリウムおよびリン酸、ならびに前記pH値において活性を有する防腐剤を含む、請求項10または11に記載の歯科用組成物。
【請求項13】
少なくとも1つの防腐剤が、安息香酸、安息香酸の誘導体または安息香酸を放出する化合物からなる群から選択される、請求項10〜12のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項14】
齲蝕象牙質を除去するためおよび/または歯腔を消毒するために溶液が使用される、請求項1〜13のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項15】
歯内洗浄液としておよび/または歯根管を消毒するために溶液が使用される、請求項1〜14のいずれか1項に記載の歯科用組成物。
【請求項16】
調製された歯または橋脚歯を清潔にする、および/または消毒するために溶液が使用される、請求項1〜15いずれか1項に記載の歯科用組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2009−517334(P2009−517334A)
【公表日】平成21年4月30日(2009.4.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−527081(P2008−527081)
【出願日】平成18年8月16日(2006.8.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/031904
【国際公開番号】WO2007/022219
【国際公開日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【出願人】(505005049)スリーエム イノベイティブ プロパティズ カンパニー (2,080)
【Fターム(参考)】