説明

酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法、天然ゴム及びそのゴム組成物

【課題】環境面、経済的にもコストメリットを有する酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法、天然ゴム及びそのゴム組成物を提供する。
【解決手段】 天然ゴムラテックスに殺菌剤及び/又は静菌剤を添加して酵素処理することを特徴とする酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法。
殺菌剤として、エタンペルオキソ酸、グラタラール、フタラール、次亜塩素酸ナトリウム、ポピドンヨード、ヨードチンキ、エタノール、イソプロパノール、イソプロパノール添加エタノール液、クロルへキシジンエタノール液、フェノール、クレゾール、グルコン酸クロルへキシル、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、アクリノール、オキシドール、ホルマリンから選ばれる少なくとも1種が挙げられ、静菌剤として、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノールから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境面、経済的にもコストメリットを有する酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法、天然ゴム及びそのゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、天然ゴムラテックスは、植物から採取されたときは、液状(pH7)であるが、外気に曝されると微生物が繁殖、pHが低下することにより、数時間で凝固(pH5以下)する。
従って、凝固を防ぐために、ラテックスには安定剤としてアンモニアを添加し、pH10以上としている。このアンモニア添加により、繁殖する微生物は限定され、また、呼吸によるpHの低下も緩慢なものとなるため、凝固まで時間が長くなるものであった。
【0003】
ところで、近年、天然ゴムラテックスに含まれる蛋白質等の不純物などを除去して天然ゴムを含有するゴム組成物の加工性・物性を改良する目的で、天然ゴムラテックスを各種酵素処理することが行われている。例えば、天然ゴムラテックスの酵素処理技術としては、本願出願人らによる、各種非ゴム成分に有効な酵素でラテックスを処理することにより、ゴム組成物の加工性並びに物性を改良することができる技術等を提案している(例えば特許文献1〜3)。また、天然ゴムラテックスから生ゴム中のタンパク質を除去し、実質的にタンパク質を含有しない脱タンパク天然ゴム(例えば、特許文献4参照)や、プロテアーゼと、特定の界面活性剤とを有効成分としてなる天然ゴム用脱蛋白処理剤(例えば、特許文献5参照)が知られている。
【0004】
しかしながら、これらの技術は、天然ゴムラテックスを凝固させないため、アンモニアの添加が上述の如く、必須な作業となっており、最適pHを塩基性側に持つ酵素しか利用することができず、大きな制約となっている点に課題がある。もし、中性領域で処理すると、反応が十分に進行しないうちに凝固し、目的の性能を得ることができないのが現状である。
【0005】
一方、酵素は、タンパク質からなり、その高度で複雑な立体構造から高い触媒機能を有している。この立体構造の維持には、様々な環境要素が影響し、pHは大きな影響因子である。また、酵素は、個々に特有の作動pH範囲が存在するが、生物由来のためpH7前後のものが豊富に存在する。塩基性条件下で作用するものは、洗剤を中心に市販されているが、中性領域で作用するものを利用することができれば、豊富に存在する有用な酵素資源を利用でき、更に有用な酵素処理天然ゴムラテックスが得られることとなる。
【特許文献1】国際公開WO2003/08925号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献2】特開2004−189773号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献3】特開2004−189774号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献4】特開平6−56902号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【特許文献5】特開平6−56906号公報(特許請求の範囲、実施例等)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記従来技術の課題及び現状に鑑み、これを解消しようとするものであり、微生物の中でも、バクテリア(グラム陽性菌、グラム陰性菌、抗酸菌)に効果のある特定の薬品をラテックスに最適添加、殺菌若しくは静菌させることによりラテックスを酵素処理に十分な時間で、かつ、pH5〜10でも凝固させないようにでき、これにより、利用できる酵素の幅が広がり、複数酵素同時処理なども実現可能となり、しかも、従来利用している莫大な量のアンモニアとそれを凝固するための酸を減らすことができる、環境面、経済的にもコストメリットのある酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法、天然ゴム及びそのゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記従来の課題を解決すべく、鋭意研究した結果、天然ゴムラテックスに特定の成分を添加して酵素処理すると、上記目的の酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法、天然ゴム及びそのゴム組成物が得られることを見い出し、本発明を完成するに至ったのである。
すなわち、本発明は、次の(1)〜(7)に存する。
(1) 天然ゴムラテックスに殺菌剤及び/又は静菌剤を添加して酵素処理することを特徴とする酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法。
(2) 非ゴム分の分解工程がpH5〜10であること特徴とする上記(1)記載の酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法。
(3) 殺菌剤がエタンペルオキソ酸、グラタラール、フタラール、次亜塩素酸ナトリウム、ポピドンヨード、ヨードチンキ、エタノール、イソプロパノール、イソプロパノール添加エタノール液、クロルへキシジンエタノール液、フェノール、クレゾール、グルコン酸クロルへキシル、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、アクリノール、オキシドール、ホルマリンから選ばれる少なくとも1種である上記(1)又は(2)記載の酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法。
(4) 静菌剤が安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノールから選ばれる少なくとも1種である上記(1)又は(2)記載の酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法。
(5) 酵素処理に用いる酵素がプロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼから選ばれる少なくとも1種である上記(1)〜(3)の何れか一つに記載の酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法。
(6) 上記(1)〜(5)の何れか一つに記載の製造方法に得られる酵素処理天然ゴムラテックスを凝固、乾燥処理して得られることを特徴とする天然ゴム。
(7) 上記(6)記載の天然ゴムを含有することを特徴とするゴム組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、天然ゴムラテックスを酵素処理に十分な時間で、かつ、pH5〜10でも凝固させないようにすることができ、これにより、利用できる酵素の幅が広がり、複数酵素同時処理なども実現可能となり、しかも、従来利用している莫大な量のアンモニアとそれを凝固するための酸を減らすことができる、環境面、経済的にもコストメリットのある酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法、天然ゴム及びそのゴム組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態を発明ごとに詳しく説明する。
本発明の酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法は、天然ゴムラテックスに殺菌剤及び/又は静菌剤を添加して酵素処理することを特徴とするものである。
本発明方法の酵素処理天然ゴムラテックスは、例えば、採取された天然ゴムラテックスに対して、殺菌剤及び/又は静菌剤を添加し、更に必要に応じて界面活性剤を加えて、pHが5〜10に調整される天然ゴムラテックスを得、この天然ゴムラテックスを酵素処理することにより製造することができる。
【0010】
本発明に用いる原料となる天然ゴムラテックスは、天然のゴムの木から得られるフィ−ルドラテックスを意味し、好ましくは、新鮮なフィ−ルドラテックスの使用が望ましい。
通常、天然のゴムの木から得られる天然ゴムラテックスには、約6質量%程度の非ゴム成分が含まれている。非ゴム成分には蛋白質の他に、脂質、糖質、繊維質、無機化合物等が含まれる。これらの非ゴム成分の中には、伸長結晶性の発現、促進効果、老化防止効果、加硫促進効果があるものも含まれ、天然ゴムの優れた特性を引き出す役割を果たしている。一方、低ロス性や耐摩耗性等に悪い影響を与える非ゴム成分も存在する。
本発明では、採取された天然ゴムラテックスに対して、殺菌剤及び/又は静菌剤を添加することにより、酵素処理に十分な時間で処理することができ、pHが5〜10に調整される天然ゴムラテックスが得られるものとなる。
これにより、従来において、凝固を防ぐために、安定剤としてアンモニアを添加し、pH10以上としていたが、本発明では、アンモニアを添加することなく実施することができるものである。
【0011】
本発明に用いる殺菌剤としては、例えば、エタンペルオキソ酸、グラタラール、フタラール、次亜塩素酸ナトリウム、ポピドンヨード、ヨードチンキ、エタノール、イソプロパノール、イソプロパノール添加エタノール液、クロルへキシジンエタノール液、フェノール、クレゾール、グルコン酸クロルへキシル、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、アクリノール、オキシドール、ホルマリンから選ばれる少なくとも1種(各単独又は2種以上の混合物、以下同様)が挙げられ、好ましくは、次亜塩素酸ナトリウム、クレゾール、ホルマリンなどが望ましい。
【0012】
本発明に用いる静菌剤としては、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノールから選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0013】
このような酵素処理に際しての上記殺菌剤及び/又は静菌剤の添加量は、天然ゴムラテックス中の固形成分100質量部に対して、好ましくは、0.01〜10質量部、更に好ましくは、0.1〜1.0質量部の範囲であることが望ましい。
上記範囲の添加量(0.01〜10質量部)であれば、天然ゴムラテックス中の殺菌、静菌作用が十分発揮され、目的とするpH5〜10での凝固防止効果が得られることとなる。
これらの殺菌剤及び/又は静菌剤の添加量が0.01質量部未満であると、殺菌、静菌作用が不十分となり、凝固の可能性が高くなるため好ましくない。一方、10質量部を越えると、殺菌、静菌作用が十分に充たされているため、更なる添加は不経済となる。また、殺菌剤、静菌剤によっては酵素活性を減少させる恐れもある。
【0014】
本発明では、天然ゴムラテックスを酵素処理に十分な時間を与える点から、非ゴム分の分解工程がpH5〜10であることが望ましい。
【0015】
本発明において、酵素処理は、天然ゴムラテックス中に含まれる悪影響を与える蛋白質成分、糖質成分、脂質成分、繊維質成分などを分解することにより、目的の優れた特性を有する天然ゴムラテックスを得るために行うものである。
本発明に用いる酵素としては、特に限定されず、天然ゴムラテックス中の悪影響を与える成分を分解する酵素が使用できる。好ましくは、細菌由来のもの、糸状菌由来のもの、酵母由来のもののいずれのプロテアーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、アミラーゼ、または、これらの組み合わせが使用できる。なお、本発明においては、上述の酵素の他、ぺプチタ−ゼ、ペクチナーゼ、エステラーゼ等を更に組み合わせて用いることができる。
【0016】
このような酵素処理に際しての上記酵素の添加量は、天然ゴムラテックス中の固形成分100質量部に対して、好ましくは、0.005〜0.5質量部、更に好ましくは、0.01〜0.2質量部の範囲であることが望ましい。
上記範囲の添加量(0.005〜0.5質量部)であれば、天然ゴムラテックス中の非ゴム分の分解が適宜行われ、目的とする加工性、低ロス性、耐摩耗性の良好な性能が得られることとなる。
これらの酵素の添加量が0.001質量部未満であると、非ゴム分の分解反応が不十分となり、好ましくない。一方、0.2質量部を越えると、酵素反応が十分に満たされているため、更なる添加は不経済となり、酵素活性を高めることもできない。
【0017】
本発明において、上記殺菌剤や静菌剤の添加時に、界面活性剤を適宜量併用して処理することができ、また、酵素処理工程時に、界面活性剤を適宜量併用して処理、好ましくは、プロテアーゼ処理を行う際には、界面活性剤を併用することができる。
【0018】
用いることができる界面活性剤としては、例えば、非イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両イオン性界面活性剤等が使用でき、特に、非イオン界面活性剤、陰イオン性界面活性剤等が使用することが好ましい。
非イオン界面活性剤としては、例えばポリオキシアルキレンエ−テル系、ポリオキシアルキレンエステル系、多価アルコ−ル脂肪酸エステル系、糖脂肪酸エステル系、及びアルキルポリグリコシド系などが好適に使用される。
陰イオン界面活性剤には、例えばカルボン酸系、スルホン酸系、硫酸エステル系、及びリン酸エステル系などが好適に使用される。
カルボン酸系界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、多価カルボン酸塩、ロジン酸塩、ダイマ−酸塩、ポリマ−酸塩、ト−ル油脂肪酸塩等が挙げられる。スルホン酸系界面活性剤としては、例えばアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸塩、ナフタレンスルホン酸塩、ジフェニルエ−テルスルホン酸塩等が挙げられる。硫酸エステル系界面活性剤としては、例えばアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエ−テル硫酸塩、トリスチレン化フェノ−ル硫酸エステル塩、ポリオキシアルキレンジスチレン化フェノ−ル硫酸エステル塩等が挙げられる。リン酸エステル系界面活性剤としてはアルキルリン酸エステル塩、ポリオキシアルキレンリン酸エステル塩等が挙げられる。
【0019】
上記殺菌剤や静菌剤の添加時の界面活性剤の使用量は、天然ゴムラテックス中の固形成分100質量部に対して、好ましくは、0.0001〜1.0質量部、更に好ましくは、0.001〜0.1質量部の範囲であることが望ましい。
また、酵素処理時の界面活性剤の使用量は、天然ゴムラテックス中の固形成分100質量部に対して、好ましくは、0.0001〜1.0質量部、更に好ましくは、0.001〜0.1質量部の範囲であることが望ましい。
【0020】
このように構成される本発明方法では、天然ゴムラテックス(原液、NH3無添加)に対して、殺菌剤及び/又は静菌剤、更に必要に応じて界面活性剤を各所定量加え、pHを5〜10に調整した、天然ゴムラテックスを得る。次に、この天然ゴムラテックスを、例えば、恒温機で恒温とし、攪拌しながら、上記各種酵素、例えば、酵素溶液を所定量滴下し、攪拌を続けた後、静置し、目的の酵素処理天然ゴムラテックスを製造することができる。
本発明方法では、天然ゴムラテックスに殺菌剤及び/又は静菌剤を添加して酵素処理することにより、天然ゴムラテックスを酵素処理に十分な時間で、かつ、pH5〜10でも凝固させないようにすることができ、これにより、利用できる酵素の幅が広がり、複数酵素同時処理なども実現可能となり、しかも、従来利用している莫大な量のアンモニアとそれを凝固するための酸を減らすことができる、環境面、経済的にもコストメリットのある酵素処理天然ゴムラテックスが得られるものとなる。
【0021】
本発明の天然ゴムは、上記製造方法により得られた上記特性を有する酵素処理天然ゴムラテックスを凝固、乾燥処理して得られることを特徴とするものである。
具体的には、酵素処理された天然ゴムのラテックスは、ギ酸などの酸で酸凝固し、次いで、クレーパー、シュレッダーを通してクライ化し、洗浄後、真空乾燥機、エアドライヤー、ドラムドライヤー等の通常の乾燥機を用いて乾燥することにより、本発明における天然ゴムを得ることができる。
【0022】
本発明のゴム組成物は、ゴム成分として、上記特性となる天然ゴムを含有することを特徴とするものである。
本発明のゴム組成物には、ゴム成分として、少なくとも5質量%以上、好ましくは、5〜100質量%含むことが好ましい。この量が5重量%未満では所望の物性を有するゴム組成物が得られないことがある。
上記天然ゴムと併用されるゴム成分としては、通常の天然ゴム及びジエン系合成ゴムが挙げられ、ジエン系合成ゴムとしては、例えばスチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、ポリブタジエン(BR)、ポリイソプレン(IR)、ブチルゴム(IIR)、エチレン−プロピレン共重合体及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0023】
また、本発明のゴム組成物において配合される充填剤は、特に限定されるものではないが、カーボンブラック、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、クレー、炭酸カルシウムなど通常ゴム工業に用いられるものが使用できる。カーボンブラックとしては、例えば、SAF、HAF、ISAF、HAF、FEF、GPFなど種々のグレードのカーボンブラックを使用することができる。また、シリカとしては特に限定されないが、湿式シリカ、乾式シリカ、コロイダルシリカが好ましい。このような充填剤は、単独でまたは二つ以上のものを混合して用いることもできる。
この充填剤の総配合量は、ゴム成分100質量部に対し、30〜120質量部の範囲、さらに40〜80質量部が好ましい。
【0024】
本発明のゴム組成物には、本発明の目的が損なわれない範囲で、所望により、通常ゴム工業界で用いられる各種薬品、例えば加硫剤、加硫促進剤、プロセス油、老化防止剤、スコーチ防止剤、亜鉛華、ステアリン酸などを含有させることができる。
本発明のゴム組成物は、タイヤ用途を始め、防振ゴム、ベルト、ホースその他の工業品等の用途にも用いることができる。特にタイヤ用ゴムとして好適に使用され、例えばトレッドゴム(キャップゴム,ベースゴムを含む)、サイドゴム、プライゴム、ビードフィラーゴムなどあらゆるタイヤ部材に適用することができる。
【実施例】
【0025】
次に、本発明を、実施例及び比較例に基づいて説明するが、本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0026】
〔実施例1〜9及び比較例1〜6〕
(実施例1)
(1)天然ゴムラテックスの収集、調製
天然ゴムラテックス(原液、NH3無添加)600g(固形分120g)に対して、殺菌剤としてホルマリン(大成薬品社製、「ホルマリン・タイセイ」1.0g)、界面活性剤(花王社製、「SS−40N」10.0g)を加え、pH7.5に調整した、天然ゴムラテックス(I)を得た。
【0027】
(2)天然ゴムラテックスの酵素処理工程
水400gに酵素として、プロテアーゼ(酵素、ノボザイムズ社製、「アルカラーゼ2.5L、タイプDX」、0.10g)を加えて混合し、溶液(II)を調製した。
次に、天然ゴムラテックス(I)600gをウォーターバス中にて30℃の恒温とし、攪拌しながら、溶液(II)を滴下し、3時間同温度で攪拌を続け、19時間静置し、酵素処理天然ゴムラテックス(A)を得た。
【0028】
(3)凝固・乾燥工程
酵素処理天然ゴムラテックス(A)を酸凝固して得られたゴム分を、120℃に設定された熱乾燥機で180分乾燥して天然ゴム(a)を製造した。
【0029】
(実施例2及び3)
上記実施例1の(2)において、酵素:プロテアーゼの代わりに、実施例2はリパーゼ(名糖産業社製、「リパーゼOF」、0.10g)、実施例3はセルラーゼ(天野エンザイム社製、「セルラーゼA」、0.10g)を用い、各酵素処理天然ゴムラテックス(B)、(C)を得た後、上記実施例1と同様に酸凝固、乾燥して各天然ゴム(b)、(c)を製造した。
【0030】
(実施例4〜9)
上記実施例1〜3において、殺菌剤:ホルマリンの代わりに、実施例4〜6は次亜塩素酸ナトリウム(吉田製薬社製、「次亜塩6%・ヨシダ」、4.0g)、実施例7〜9はクレゾール(東海製薬社製、「クレゾール石鹸液」、4.0g)を用い、各酵素処理天然ゴムラテックス(D)〜(F)、(G)〜(I)を得た後、上記実施例1と同様に酸凝固、乾燥して各天然ゴム(d)〜(f)、(g)〜(i)を製造した。
【0031】
(比較例1〜3)
上記実施例1〜3において、殺菌剤・静菌剤を添加せず、酵素処理工程を経て、上記実施例1〜3と同様に酸凝固、乾燥して各天然ゴム(j)〜(l)を製造した。
【0032】
(比較例4〜9)
上記実施例1〜3において、殺菌剤・静菌剤を添加せず、酵素処理工程も経ずに直接酸凝固、乾燥して各天然ゴム(m)〜(o)を製造した。
【0033】
上記実施例1〜9及び比較例1〜6において、天然ゴムラテックスの調製時のpH測定(常法)、凝固の割合、窒素量、分子量(Mw)は下記方法により測定した。
これらの結果を下記表1〜3に示す。
【0034】
(凝固割合の測定方法)
下記式により、算出した。
(凝固したラテックス中のゴムの質量)/(全ラテックス中のゴムの質量)
【0035】
(窒素量の測定方法)
ケルダール法によって総窒素含有量を測定し、全量に対する割合(質量%)として算出した。
(分子量Mwの測定方法)
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー〔GPC〕:東ソー社製HLC−8020、カラム:東ソー社製GMH−XL、検出器:示差屈折率(RI)〕を用いて東ソー社製の標準ポリスチレンを基準として各天然ゴムのポリスチレン換算の重量平均分子量を求めた。
【0036】
上記各天然ゴムを用いて、下記表4に示す組成でゴム組成物を調製し、ゴム組成物から温度145℃、33分間の条件で加硫した試作ゴムを得た。
また、各試作ゴムの練りゴム粘度(ムーニー粘度)、耐摩耗性の評価を下記方法により行い、その結果を下記表1〜3に示す。
(1)コンバウンド(ゴム組成物)のムーニー粘度
JIS K6300−1994に準じ、130℃にてムーニー粘度[ML1+4/130℃]を測定した。この値は小さいほど加工性に優れている。
(2)耐摩耗性(指数)
ランボーン型摩耗試験機を用い、室温におけるスリップ率60%の摩耗量を測定し、比較例6をコントロール(100)として指数表示した。数値が高いほど耐摩耗性が良好である。
【0037】
【表1】

【0038】
【表2】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

老化防止剤6C:N−フェニル−N−1,3―ジメチルブチル−p−フェニレンジアミン
加硫促進剤CZ:N−シクロヘキシル−2−ベンゾチアゾリルスルフェンアミド
【0041】
上記表1〜表4の結果から明らかなように、本発明範囲となる酵素処理した実施例1〜9は、本発明の範囲外となる従来の酵素処理等した比較例1〜6に較べて、安定的に、加工性(窒素量、分子量、ゲル分)、物性(粘度、耐摩耗性)に優れた天然ゴムラテックス、天然ゴム、をゴム組成物が得られることが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明では、環境面、経済的にもコストメリットのある酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法、その天然ゴム及びそのゴム組成物が得られ、タイヤ用途を始め、防振ゴム、ベルト、ホースその他の工業品等の用途に好適に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天然ゴムラテックスに殺菌剤及び/又は静菌剤を添加して酵素処理することを特徴とする酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項2】
非ゴム分の分解工程がpH5〜10であること特徴とする請求項1記載の酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項3】
殺菌剤がエタンペルオキソ酸、グラタラール、フタラール、次亜塩素酸ナトリウム、ポピドンヨード、ヨードチンキ、エタノール、イソプロパノール、イソプロパノール添加エタノール液、クロルへキシジンエタノール液、フェノール、クレゾール、グルコン酸クロルへキシル、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、アクリノール、オキシドール、ホルマリンから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項4】
静菌剤が安息香酸、安息香酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸プロピル、フェノキシエタノールから選ばれる少なくとも1種である請求項1又は2記載の酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項5】
酵素処理に用いる酵素がプロテアーゼ、リパーゼ、アミラーゼ、セルラーゼから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3の何れか一つに記載の酵素処理天然ゴムラテックスの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一つに記載の製造方法に得られる酵素処理天然ゴムラテックスを凝固、乾燥処理して得られることを特徴とする天然ゴム。
【請求項7】
請求項6記載の天然ゴムを含有することを特徴とするゴム組成物。

【公開番号】特開2007−284637(P2007−284637A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116569(P2006−116569)
【出願日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】