説明

酵素固定多孔質構造体の製造方法

【課題】多孔質の形成と酵素の担持固定を簡便化すると共に、目的に応じた構造体の設計も容易とし、さらに量産性にも優れた酵素固定多孔質構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】酵素10の凝集物からなる酵素粒子11、あるいは事後的に溶解除去が可能であるデンプン等の粒子体に酵素を付着させた酵素付着粒子を熱可塑性樹脂20に混入して所定形状の成形体25Aに成形した後、成形体内部に含まれる酵素粒子の部分、もしくは酵素付着粒子の粒子体を溶解除去して成形体内部に連通状の空洞部21を形成するとともに、酵素粒子の他の部分、または粒子体に付着させた酵素を空洞部内面24に担持固定させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素固定多孔質構造体の製造方法に関し、特に構造体内部に空洞部を形成すると共にその内面に酵素を固定担持する構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素を用いた反応系としては、基質に逐次酵素を添加する回分式(バッチ式)の反応方式が一般的である。この方式によると、酵素活性は維持できるものの、反応生成物の分離、回収と共に添加した酵素も使い捨てになることが多い。酵素の消費量は多くなり経済的とはいえない。この点を改良すべく、酵素反応の連続処理が検討されてきた。酵素を取り扱い容易な担持体に固定することである。酵素の固定に際しては、担持体には高分子樹脂、生分解性樹脂が広く用いられる。さらには炭素、金属等も利用した例もある(特許文献1等参照)。
【0003】
担体への酵素の結合態様には、酵素と担体との物理的結合やイオン結合、酵素同士、酵素と担体との架橋法、樹脂の格子やマイクロカプセル内への包括法等がある。通常、酵素反応は基質の水溶液中のみで進行する。その場合、反応促進を勘案するならば、酵素と基質との接触が多くなるように、酵素を固定した構造体の表面積を広げることが望ましい。例えば、微細な空洞を表面や内部に形成した多孔質構造を採用することにより、飛躍的に表面積は増大する。現状、酵素の担持固定体とは、多孔質構造体を形成した後に、事後的に酵素を微小細孔内に固定した構造体である。
【0004】
例えば、ポリスルホン製限外濾過用中空糸膜に、グルタルアルデヒドによりポリエチレンイミンを架橋して酵素を固定化した酵素固定膜が報告されている(特許文献2参照)。ポリエチレン等の有機高分子樹脂の多孔中空糸膜に電離放射線の照射後、グリシジルメタクリレートを添加してグラフト重合し、酵素を前記のグラフト高分子鎖に固定した酵素固定膜が報告されている(特許文献3,特許文献4等参照)。
【0005】
前記の特許文献3,4におけるグラフト高分子鎖の導入に際しては、電離放射線の照射を伴うため、専用設備が必要となり負担が増す。また、特許文献2ないし4のいずれにおいても予め高分子多孔質構造体を形成しておく必要があり、目的に応じた構造体を得ようとする際の形状設計の自由度が乏しい。
【0006】
次に、キトサンと酵素とを架橋させた多孔質体を用いたデンプン糖の製造法も提案されている(特許文献5参照)。この製法に用いる酵素架橋体によると、キトサンが耐えられる温和な条件下に使用環境が限定される。また、キトサンと酵素が一律に混ざるため、架橋内に埋もれてしまう酵素も存在すると考えられる。
【0007】
現在、酵素は、食品、医薬品製造分野に留まらず、環境浄化、バイオセンサー、燃料電池等の広汎な用途に利用されている。すると、簡便な酵素の担持、固定を実現し、良好な酵素活性を発揮すると共に、目的に応じた構造体自体の設計の容易さを高め、さらに量産性にも優れた酵素固定多孔質構造体の製法が望まれるようになっている。
【特許文献1】特開2007−35437号公報
【特許文献2】特開昭62−83885号公報
【特許文献3】特開平9−191877号公報
【特許文献4】特開2004−73943号公報
【特許文献5】特開平7−192号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、前記の点に鑑みなされたものであり、多孔質の形成と酵素の担持固定を簡便化すると共に、目的に応じた構造体の設計も容易とし、さらに量産性にも優れた酵素固定多孔質構造体の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、請求項1の発明は、酵素の凝集物からなる酵素粒子を樹脂材料に混入して所定形状の成形体に成形した後、前記成形体内部に含まれる酵素粒子の部分を溶解除去して前記成形体内部に前記酵素粒子による連通状の空洞部を形成するとともに、前記酵素粒子の他の部分を前記空洞部内面に担持固定させることを特徴とする酵素固定多孔質構造体の製造方法に係る。
【0010】
請求項2の発明は、前記酵素粒子のほかに、事後的に溶解除去が可能である粒子体を樹脂材料に混入して、前記酵素粒子及び粒子体によって空洞部を形成する請求項1に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法に係る。
【0011】
請求項3の発明は、事後的に溶解除去が可能である粒子体に酵素を付着させた酵素付着粒子を樹脂材料に混入して所定形状の成形体に成形した後、前記成形体内部に含まれる酵素付着粒子の粒子体を溶解除去して前記成形体内部に前記粒子体による連通状の空洞部を形成するとともに、前記粒子体に付着させた酵素を前記空洞部内面に担持固定させることを特徴とする酵素固定多孔質構造体の製造方法に係る。
【0012】
請求項4の発明は、前記酵素付着粒子のほかに、酵素を付着させない粒子体からなる非付着粒子を樹脂材料に混入して、前記酵素付着粒子及び非付着粒子によって空洞部を形成する請求項3に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法に係る。
【0013】
請求項5の発明は、前記酵素の担持固定に際し、架橋剤が用いられる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法に係る。
【0014】
請求項6の発明は、前記粒子体が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかにより溶解除去される請求項2ないし5のいずれか1項に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法に係る。
【0015】
請求項7の発明は、前記粒子体がデンプンである請求項2ないし6のいずれか1項に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法に係る。
【0016】
請求項8の発明は、前記樹脂材料が熱可塑性樹脂である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法に係る。
【0017】
請求項9の発明は、前記成形体が、フィルム状物またはシート状物である請求項1ないし8のいずれか1項に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法に係る。
【発明の効果】
【0018】
請求項1の発明に係る酵素固定多孔質構造体の製造方法によると、酵素の凝集物からなる酵素粒子を樹脂材料に混入して所定形状の成形体に成形した後、前記成形体内部に含まれる酵素粒子の部分を溶解除去して前記成形体内部に前記酵素粒子による連通状の空洞部を形成するとともに、前記酵素粒子の他の部分を前記空洞部内面に担持固定させるため、多孔質の形成と酵素の担持固定を簡便化すると共に、目的に応じた構造体の設計も容易となる。特に、構造体中部の空洞部にも酵素を担持固定することができる。
【0019】
請求項2の発明に係る酵素固定多孔質構造体の製造方法によると、請求項1の発明において、前記酵素粒子のほかに、事後的に溶解除去が可能である粒子体を樹脂材料に混入して、前記酵素粒子及び粒子体によって空洞部を形成するため、添加する粒子体の量いかんにより、出来上がる酵素固定多孔質構造体において発現する酵素活性量を調整することができる。
【0020】
請求項3の発明に係る酵素固定多孔質構造体の製造方法によると、事後的に溶解除去が可能である粒子体に酵素を付着させた酵素付着粒子を樹脂材料に混入して所定形状の成形体に成形した後、前記成形体内部に含まれる酵素付着粒子の粒子体を溶解除去して前記成形体内部に前記粒子体による連通状の空洞部を形成するとともに、前記粒子体に付着させた酵素を前記空洞部内面に担持固定させるため、多孔質の形成と酵素の担持固定を簡便化すると共に、目的に応じた構造体の設計も容易となる。加えて、より少ない酵素使用量で製造することができる。
【0021】
請求項4の発明に係る酵素固定多孔質構造体の製造方法によると、請求項3の発明において、前記酵素付着粒子のほかに、酵素を付着させない粒子体からなる非付着粒子を樹脂材料に混入して、前記酵素付着粒子及び非付着粒子によって空洞部を形成するため、出来上がる酵素固定多孔質構造体において発現する酵素活性量を調整することができる。
【0022】
請求項5の発明に係る酵素固定多孔質構造体の製造方法によると、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の発明において、前記酵素の担持固定に際し、架橋剤が用いられるため、樹脂材料からなる成形体と酵素との固定性能を高めることができる。
【0023】
請求項6の発明に係る酵素固定多孔質構造体の製造方法によると、請求項2ないし5のいずれか1項に記載の発明において、前記粒子体が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかにより溶解除去されるため、簡便な方法により粒子体が除去できるため、量産性に優れる。
【0024】
請求項7の発明に係る酵素固定多孔質構造体の製造方法によると、請求項2ないし6のいずれか1項に記載の発明において、前記粒子体がデンプンであるため、粒子体の調達は容易であり製造原価を抑えることができる。
【0025】
請求項8の発明に係る酵素固定多孔質構造体の製造方法によると、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の発明において、前記樹脂材料が熱可塑性樹脂であるため、熱可塑性樹脂の特性を利用し目的に応じた構造体の設計が容易であり、量産性も高まる。
【0026】
請求項9の発明に係る酵素固定多孔質構造体の製造方法によると、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の発明において、前記成形体が、フィルム状物またはシート状物であるため、薄膜やフィルタ等の製造用途に応えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下添付の図面に従って本発明を説明する。
図1は第1実施形態の酵素固定多孔質構造体の製造方法に関する概略工程図、図2は第1実施形態の酵素固定多孔質構造体の断面模式図、図3は第2実施形態の酵素固定多孔質構造体の断面模式図、図4は第3実施形態の酵素固定多孔質構造体の製造方法に関する概略工程図、図5は酵素付着粒子の調製に関する工程図、図6は第3実施形態の酵素固定多孔質構造体の断面模式図、図7は第4実施形態の酵素固定多孔質構造体の断面模式図、図8は架橋反応の第1の概要図、図9は架橋反応の第2の概要図、図10は架橋反応の第3の概要図である。
【0028】
本発明の酵素固定多孔質構造体の製造方法について、まず、図1の概略工程図に示す第1実施形態の製造方法から順に説明する。請求項1の発明として規定され、図1(a)に示されるように、はじめに酵素10の凝集物からなる酵素粒子11が形成される。この凝集物は、およそ1〜100μmの適宜形状の顆粒として造粒される。酵素粒子は酵素の高濃度の懸濁液を乾燥して得た乾固物であり、例えばスプレードライヤーによる噴霧により賦形されて得ることができる。あるいは、凍結乾燥によって生じた乾固物を適度に砕いた粒状体である。
【0029】
同図(b)にあるように、酵素粒子11は樹脂材料20に混入される。そこで、樹脂材料と十分に混練された後、同図(c)参照のとおり、この樹脂混練物は適宜所定形状の成形体25Aに成形される。酵素粒子11の添加量は適宜ではあるものの、後記の連通性確保の観点から、酵素粒子11は体積比において樹脂材料20の半分量を超えることが望ましい。図示の成形体の形状はフィルム状物またはシート状物の平板体である。なお、成形体の成形に際して後記する成形方法を用い、例示のとおり各種形状とすることもできる。そして、同図(d)において、成形体の内部に空洞部が形成され、酵素固定多孔質構造体30Aとなる。
【0030】
混練の工程は、酵素粒子と樹脂材料とをほぼ均一に混ぜ合わせることであり、製造規模に応じて公知のブレンダーやニーダー等が用いられる。樹脂材料が硬化しないように加温しながら混練することもある。
【0031】
図2は成形体内部の空洞部形成の様子を表す。樹脂材料20は、加熱溶融等により流動性ある状態に保たれている。ここに前記の酵素粒子11が添加されると、樹脂材料が酵素粒子の表面に接触して、酵素粒子の最表面部分は樹脂材料に食い込みやすくなる。その後、図2(a)にあるように、冷却により樹脂材料は流動性を喪失して固化する。この間にフィルム状、シート状をはじめとする各種形状に成形される。図ではフィルム状の例示である。
【0032】
前記の図2(a)の成形体25Aに対しては、例えば水中に浸漬、あるいは散水等の処理が行われる。成形体25A内に含まれた酵素粒子11にあっては、含水に伴って酵素粒子の部分(すなわち酵素粒子自体を形成している大部分)は水に溶解され、形状が崩壊し、酵素は水と共に成形体から流出して除去される。すると、図2(b)の酵素固定多孔質構造体のように酵素粒子が存在していた場所は空洞部21に置き換わる。成形体の体積に占める酵素粒子の添加量がほぼ半分を超える場合、個々の酵素粒子同士は互いに接触することになる。図2から理解されるように、酵素粒子同士の接触部位15に樹脂材料は到達しない。この接触部位15によって酵素粒子はつながり、結果的に連通部16を通じて空洞部21同士は連通状となる。
【0033】
酵素粒子の部分の溶解除去後には、当該酵素粒子の他の部分として酵素粒子(酵素の凝集物)の最表面14は樹脂材料の固化に伴って樹脂材料に残存する。この結果、酵素粒子の最表面部分が空洞部内面24にそのまま担持固定される。模式的に酵素10は空洞部内面24に埋まるようにして固定されることとなる。従って、樹脂材料における空洞部形成(多孔質化)並びにその空洞部の内面への酵素の担持、固定を同時に実現することができる。
【0034】
第2実施形態の製造方法においては、請求項2の発明に規定するように、第1実施形態の製造方法(図1参照)にて示した酵素の凝集物からなる酵素粒子11の他に、さらに事後的に溶解除去が可能な粒子体12が樹脂材料中に混入される(図3参照)。
【0035】
図3(a)は第2実施形態の製造方法により得た成形体25Bの拡大断面図である。酵素粒子11と粒子体12がそれぞれ樹脂材料20の中に混在している。そこで、同図(b)の酵素固定多孔質構造体30Bに示すように、酵素粒子11の部分の溶解除去に加えて粒子体12も溶解除去される。酵素粒子11が存在していた部位は空洞部21となり、粒子体12が存在していた部位も空洞部22となる。酵素粒子11同士、粒子体12同士、あるいは酵素粒子11と粒子体12が接触している接触部位15には、樹脂材料20は達しないため、空洞部21,22のそれぞれは連通部16を通じて連通状となる。大半の工程、経路は第1実施形態と同様であるため詳細は省略する。
【0036】
酵素粒子11の溶解除去は、前記のとおり水への溶解である。また、粒子体12の溶解除去は、請求項6の発明に規定するように、水、酵素、または有機溶剤のいずれかにより行われる。粒子体の溶解除去に用いる水とは、温水、熱水、亜臨界水も含まれる。また、酸・アルカリのpH値の調整や適宜の塩類の溶解液も含まれる。これらは総称して水系の溶剤といえる。水系の溶剤を用いる利点は、酵素粒子及び粒子体の溶出と除去を安価かつ容易に行うことができる。また、酵素固定多孔質構造体の処理として、乾燥のみで済むことから製造に要する処理が簡便となり、相対的に製造原価の圧縮が可能となる。水による溶解の場合、この粒子体は砂糖やポリビニルピロリドン、食塩、みょうばん、その他の塩類等から適宜選択することができる。水による粒子体の除去は酵素粒子の除去と同時に進行するため、極めて除去効率が良い。
【0037】
水系の溶剤の別形態として酵素も併せて用いられる。粒子体は酵素により除去可能な物質、つまり基質となる。使用する酵素は、アミラーゼ、プルラナーゼ、セルラーゼ、プロテアーゼ(ペプチダーゼ)等の加水分解酵素から選択され、基質に応じて単一種の酵素、あるいは複数種の酵素としても良い。酵素処理の利点は、水に不溶、難溶な粒子体を用いて酵素固定多孔質構造体を形成可能な点である。酵素反応条件より、酵素は水溶液として用いられる。酵素分解の基質となる粒子体としては、ゼラチン、ポリ乳酸、デンプン、再生セルロース等の粒子が入手容易であることから好例である。
【0038】
さらに、有機溶剤により粒子体を溶出、除去しようとする場合、有機溶剤の種類は、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノールをはじめとする各種アルコール類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル等のエーテル類、他にアセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル、他にアセトニトリル等、また、へキサン、シクロヘキサン、オクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ピリジン、クロロホルム、テトラクロロエチレン、シリコーンオイル、テルペン類、リモネン等のいずれであっても良い。これらは、単独種で用いることもできるが、構造体の主成分である樹脂材料の溶解性に鑑み複数種の有機溶剤を混合調整して用いることができる。有機溶剤により溶解、除去される粒状物とは、ポリスチレン、ポリカプロラクトン等の粒子である。
【0039】
むろん、例示に限られることはなく、粒子体は溶解除去に供される溶媒に応じて適切に選択される。なお、いずれの粒子体の形状、大きさは適宜ではあるものの、おおよそ1μm〜1mmの粒径から選択される。
【0040】
これらの中においても、請求項7の発明に規定するように、粒子体にはデンプンが好ましく用いられる。デンプンの粒子は、安価かつ十分な量を調達できる。特に、粒子体をデンプンとする場合、アミラーゼ等の比較的安価に調達可能な酵素により分解して溶解除去できるため、極めて作業性が高く、製造経費負担が少ない。また、酵素固定多孔質構造体が担持固定する酵素を前記の加水分解酵素とする場合、酵素粒子の溶出により生じた酵素を粒子体の分解にも作用させることができる。この場合には、新たに酵素を添加しなくとも近傍の酵素により粒子体の溶解除去は進行する。
【0041】
第2実施形態の製造方法により得られた酵素固定多孔質構造体では、酵素を担持固定する空洞部と酵素を担持固定しない空洞部が存在する。そのため、添加する粒子体の量いかんにより、出来上がる酵素固定多孔質構造体において発現する酵素活性量を調整することができる。または、酵素自体が高価であるため、構造体内への担持固定に用いる量を増やすことができないものの、多孔質構造を形成したい場合に適している。このように、目的や用途に応じた構造体の設計が容易となる。
【0042】
図4は、第3実施形態に係る酵素固定多孔質構造体の製造方法の概略図である。請求項4の発明として規定され、図4(a)に示されるように、はじめに、事後的に溶解除去が可能な粒子体12に酵素10を付着させた酵素付着粒子13が調製される(詳細は後記図5参照)。その後、同図(b)にあるように、酵素付着粒子13は樹脂材料20に混入される。そこで、樹脂材料と十分に混練された後、同図(c)参照のとおり、この樹脂混練物は適宜所定形状の成形体25Cに成形される。酵素付着粒子13の添加量は適宜ではあるものの、連通性確保の観点から、酵素付着粒子13は体積比において樹脂材料20の半分量を超えることが望ましい。図示の成形体25Cはフィルム状物またはシート状物の平板体としている。
【0043】
成形体25Cから酵素付着粒子13を構成する粒子体12を溶解除去するため、成形体25Cは、水、酵素水溶液、または有機溶剤に浸漬等される。ここで用いる溶解除去は第2実施形態にて既述したとおりである。粒子体12の溶解除去に伴い、同図(d)において、成形体の内部に空洞部が形成され、酵素固定多孔質構造体30Cとなる。
【0044】
図5の工程図は、前掲図4(a)に示す酵素付着粒子13の代表的な調製方法を示す。まず、冷水に粒子体が添加され十分に攪拌される(S1)。ここへ担持固定目的の酵素が添加される(S2)。酵素は冷水に溶解するため、溶液中には粒子体のみが沈澱している。酵素は水溶液の場合もある。次に、変性剤として例えばアセトン等が酵素と粒子体を含んだ溶液中に滴下、攪拌される(S3)。溶液の懸濁の程度が増してきたら、酵素が析出し始めて粒子体に酵素が付着した目安となる。そして粒子体が回収され、乾燥される(S4)。こうして酵素付着粒子が出来上がる。
【0045】
アセトンは強力な変性剤ではないため、酵素活性の失活(喪失)は最小限度に抑えられると考えられる。例えば、アセトンの他にメタノールやエタノール等のアルコール類等を用いても良い。アセトン等により酵素タンパクに変性が生じる。タンパク質の構造変化に伴い、その表面の親水性・疎水性も変化する。そこで水溶状態から沈降、析出すると共に、水中に存在する粒子体の表面に付着しやすくなる。工程図に開示するように、粒子体を冷水に1回投入とするほか、冷水中に溶解させる酵素量に応じて、2〜3回粒子体を投入して水中の酵素を十分に回収することもできる。
【0046】
ここで用いる粒子体は、事後的に容易に溶解除去される性質であると共に、酵素付着粒子の形状を維持しなければならない。そこで、図5の工程から容易に把握されるように、酵素付着粒子を構成するための粒子体には、冷水に簡単に溶解しない性質であることが求められる。この点を考慮すると、安価なデンプン粒子が特に好ましい。デンプン粒子は冷水には難溶であると共に酵素により容易に分解除去される。むろんこの他にセルロース、有機高分子樹脂、ポリ乳酸等の粒状物も用いることもできる。酵素付着粒子を構成するための粒子体をデンプン以外とするならば、これらの粒子体は、事後において適宜の酵素、有機溶剤により溶解、除去される。
【0047】
図5の工程図にて述べた調製法以外にも、酵素の変性しやすさ、耐温度性、耐塩性を加味して適宜の手法を取り入れて粒子体表面に酵素を付着させることもできる。例えば、粒子体を攪拌、乾燥しながら酵素水溶液を滴下し酵素を付着する調製方法、粒子体に酵素水溶液を噴霧して乾燥する調製方法、デンプン等の粒子表面に乾燥した粉末状の酵素をメカノケミカル処理により担持固定する方法等である。
【0048】
図6は第3実施形態の成形体内部における空洞部形成の様子を表す。前記同様、樹脂材料20は加熱溶融等により流動性ある状態に保たれている。ここに酵素付着粒子13が添加されると、樹脂材料が当然酵素付着粒子13の表面に接触して、酵素付着粒子13の最表面部分17は樹脂材料に食い込む。図6(a)にあるように、冷却により樹脂材料は流動性を喪失して固化する。この間にフィルム状、シート状をはじめとする各種形状に成形される。図ではフィルム状の例示となる。
【0049】
図6(a)の成形体25Cは、そのまま水中、温水中に浸漬される。この場合、水の中に粒子体を分解する酵素が含まれている。成形体25C内に含まれている個々の酵素付着粒子13に水と酵素が達して、酵素付着粒子を構成する粒子体は分解される。そして、分解産物は成形体外部に流出して当該成形体から溶解除去される。なお、担持固定する酵素により酵素付着粒子に含まれる粒子体を分解可能な場合には、新たな酵素添加を省略できる。あるいは、成形体25Cを有機溶剤に浸漬して酵素付着粒子を構成する粒子体を溶解して溶出させることもできる。
【0050】
図6(b)の酵素固定多孔質構造体30Cから理解されるように、かつて酵素付着粒子が存在していた場所は空洞部21に置き換わる。成形体の体積に占める酵素付着粒子の添加量がほぼ半分を超える場合、個々の酵素付着粒子同士は互いに接触しやすくなる。酵素付着粒子同士の接触部位15に樹脂材料は到達しないことから、連通部16を通じて空洞部21同士は連通状となる。酵素付着粒子の粒子体部分の溶解除去後には、当該酵素付着粒子の最表面17は樹脂材料の固化に伴って樹脂材料に残存する。この結果、酵素付着粒子の最表面部分が空洞部内面24にそのまま担持固定される。酵素10は空洞部内面24に埋まるようにして固定されることとなる。従って、この例においても樹脂材料における空洞部形成(多孔質化)並びにその空洞部の内面への酵素の担持、固定を同時に実現することができる。
【0051】
第1実施形態の場合、空洞部形成に酵素そのものを用いることから、酵素の使用量が極めて多く、また、空洞部の内面に固定されず流出する量も多い。これに対し、第3実施形態の製造方法の特徴は酵素付着粒子を用いるため、空洞部形成に要する大部分の体積を粒子体で占めることができる。また、空洞部内面への担持固定に用いられる酵素は粒子体の表面に存在している量で足りる。そのため、空洞部内面への担持固定に必要となる酵素量を確保し、かつ、担持固定に寄与しない酵素量を減らすことができる。従って、限られた酵素量により有効に機能を発現させることができる。特に、取得が困難、原価が高い等の酵素の場合に好適である。
【0052】
第4実施形態の製造方法においては、請求項4の発明に規定するように、第3実施形態の製造方法(図4参照)にて示した酵素付着粒子13の他に、さらに事後的に溶解除去が可能であると共に酵素を表面に付着させていない非付着粒子(非酵素付着粒子)12sが樹脂材料中に混入される。
【0053】
図7(a)は第4実施形態の製造方法により得た成形体25Dの拡大断面図である。酵素付着粒子13と非付着粒子12sがそれぞれ樹脂材料20の中に混在している。そこで、同図(b)の酵素固定多孔質構造体30Dに示すように、酵素付着粒子13を構成する粒子体12に加えて非付着粒子12sも溶解除去される。酵素付着粒子13(粒子体12)が存在していた部位は空洞部21となり、非付着粒子12sが存在していた部位も空洞部22となる。酵素付着粒子13同士、非付着粒子12s同士、あるいは酵素付着粒子13と非付着粒子12sが接触している接触部位15には、樹脂材料20は達しないため、空洞部21,22のそれぞれは連通部16を通じて連通状となる。
【0054】
成形体25Dにおいて、酵素付着粒子13を構成する粒子体12は、前記第3実施形態と同様であるため水に難溶の組成から選択される。そして、水による溶解を除いて、酵素または有機溶剤により溶解除去される。非付着粒子12s(非酵素付着粒子)の組成は、第2実施形態に示した粒子体12と同様の組成である。そこで、非付着粒子12sも、前記例示のとおり水、酵素、有機溶剤により溶解除去される。ここで、酵素付着粒子の粒子体と、非付着粒子とを溶解除去する際の溶媒は、酵素溶液、有機溶剤として共通とするほか、組成に応じて別々とすることもできる。
【0055】
第4実施形態の製造方法により得られた酵素固定多孔質構造体では、酵素を担持固定する空洞部と酵素を担持固定しない空洞部が存在する。そのため、添加する粒子体の量いかんにより、出来上がる酵素固定多孔質構造体において発現する酵素活性量を調整することができる。同様に、酵素自体が高価なため、構造体内への担持固定に用いる量を増やすことができないものの、多孔質構造を形成したい場合に適している。特に、第2実施形態の製造方法のときと比べて、酵素の使用量を大きく減らすことができる。
【0056】
これまでに詳述してきた酵素固定多孔質構造体を形成する樹脂材料としては、広義に有機高分子化合物が用いられる。有機高分子化合物は、酵素固定多孔質構造体としての安定性、加工容易性、価格等が重視される場合に選択されることが多い。請求項8の発明に規定し、後記する製造方法からも明らかなように、有機高分子化合物のなかでも熱可塑性樹脂が用いられる。熱可塑性樹脂は、面状に加工する場合に都合良く、用途も広いためである。樹脂材料としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、あるいはポリエステル樹脂等が用いられる。さらに、生分解性能を考慮して動植物、微生物由来の天然樹脂材料も用いられる。当然ながら、担持固定する酵素の種類により、成形体の樹脂材料が浸食されることもあり得る。酵素と樹脂材料の組み合わせには留意する必要がある。
【0057】
ポリオレフィン樹脂を例示すると、エチレン単独重合体、エチレンとプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダムまたはブロック共重合体、エチレンと酢酸ビニル、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸メチルとの1種または2種以上のランダムまたはブロック共重合体、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外のエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等の1種または2種以上のα−オレフィンとのランダムまたはブロック共重合体、1−ブテン単独重合体、アイオノマー樹脂、さらに前記したこれら重合体の混合物等のポリオレフィン系樹脂、石油樹脂及びテルペン樹脂等の炭化水素系樹脂である。
【0058】
ポリアミド樹脂を例示すると、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ナイロン6/66、ナイロン66/610及びナイロンMXD等のポリアミド系樹脂である。
【0059】
ポリエステル樹脂を例示すると、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂である。
【0060】
その他、前記の熱可塑性樹脂に加えて利用可能な樹脂材料として、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系樹脂、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等のスチレン−アクリロニトリル系樹脂、PTFE等のフッ素樹脂、ポリイソプレン系樹脂、SBR等のブタジエン系のゴム、ポリイミド樹脂、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体等の水素結合性樹脂、ポリカーボネート樹脂、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、ポリケトン樹脂等を挙げることができる。
【0061】
天然樹脂材料においては、動物、植物からの産生物をほぼそのまま利用した樹脂材料と、この化合物を出発原料として適宜調製した樹脂材料の両方が含まれる。例えば、羊毛等のケラチン由来のタンパク質樹脂、例えばバチルス属等の細菌から産生されるポリ−3−ヒドロキシ酪酸、あるいはポリ−3−ヒドロキシ吉草酸、並びに両分子からなる共重合体、カゼインプラスチック、大豆タンパクプラスチック、セルロースアセテート(アセチルブチルセルロース)、セルロースアセテートブチレート、カルボキシメチルセルロース、ニトロセルロース、加えてセルロース由来のビスコースより調製される再生セルロース、デンプンから調製されるポリ乳酸等、種々の樹脂が該当する。さらに、これら以外にも、微生物的生分解性能に優れたポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート等も含めることができる。
【0062】
列記の樹脂材料は、酵素固定多孔質構造体の用途、適用分野に即して適切に選択される。これら樹脂材料の他に、リン酸カルシウム(ヒドロキシアパタイト)等の無機材料を適用しても良い。
【0063】
酵素固定多孔質構造体は、押出成形、ブロー成形、プレス成形等の適宜樹脂加工分野の公知成形手法が用いられ面状成形体が得られる。他に、テープキャスティング法等を用いても良い。とりわけ、請求項9の発明に規定するように、酵素固定多孔質構造体をフィルム状物またはシート状物とする場合にあっては、Tダイ法、チューブラー法、カレンダー法等の公知の方法が使用される。樹脂材料を熱可塑性樹脂とするフィルムは、その機械的物性等から、延伸フィルムとしても良い。延伸フィルムを製造する際の延伸方法には、ロール−一軸延伸、圧延、逐次二軸延伸、同時二軸延伸、チューブラー延伸等の公知の方法が使用できる。特に、逐次二軸延伸、同時二軸延伸が、厚薄精度、機械的物性等の点で優れているため好ましい。延伸フィルムとする場合にあっては、空洞部の形成と併せて、中間生成物である成形体を温水中等で適度に加温しながら、成形体を引き延ばすようにすると、酵素固定多孔質構造体の成形が容易になる。
【0064】
これより開示する製造方法は、酵素固定多孔質構造体における酵素の固定性能をより向上させた例である。酵素と樹脂材料からなる成形体との固定に際し、請求項5の発明に規定されるように、酵素の担持固定に際して必要により架橋剤が用いられる。そこで、酵素同士間、酵素と樹脂材料との間等の各種残基同士の結合は強化される。酵素と樹脂材料との間で作用する架橋剤は、主に酵素タンパク表面のアミノ基(−NH2)またはカルボキシル基(−COOH)と樹脂材料の有機高分子とを架橋する。
【0065】
酵素同士間、酵素と樹脂材料との間等の各種残基同士の結合に用いられる架橋剤として、例えば、以下の化合物が挙げられる。酵素タンパクのアミノ基に対してはジアルデヒド類からグルタルアルデヒド、グリオキザール等、ポリイソシアネート類からヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、トルエンジイソシアネート(TDI)、メチレンジフェニルジイソシアネート(MDI)等、カルボキシル基含有化合物からコハク酸、フマル酸、エチレン−アクリル酸共重合体や無水マレイン酸(それらの変性樹脂も含む。)等、その他、グリシジル基を有するエチレンポリエチレングリコールグリシジルエーテル等から選択される。また、酵素タンパクのカルボキシル残基に対してはポリアミン類からポリエチレンイミン、ポリアリルアミン等、あるいはポリカルボジイミド化合物、さらには、グリシジル基を有するエチレンポリエチレングリコールグリシジルエーテル等やオキサゾリン基を有するオキサゾリン基含有ポリマー等が用いられる。その他、トランスグルタミナーゼに代表されるタンパク質改質剤も架橋剤に含められる。なお、架橋剤の種類は、酵素の基質等により適切に選択される。
【0066】
酵素と樹脂材料からなる成形体との担持固定の様子は、図8ないし図10の形態となると考えられている。これらの図を用い架橋の様子を説明する。なお、使用する材料、手法等は必ずしも図示の例に限定されない。必要に応じて条件に適した材料、手法等が選択される。図8の第1架橋例においては、構造体を形成する樹脂材料へ、酵素付着粒子(あるいは酵素粒子)を混入する際に、架橋剤として無水マレイン酸変性樹脂が添加される。はじめに、無水マレイン酸変性樹脂の一部は「−CO−O−CO−」のように樹脂表面に現出すると考えられる。そして図8のとおり、当該現出部位と酵素Enzのアミノ基はアミド結合可能となる。あるいは、酵素Enzのアミノ基とのイオン結合も可能である。このため、酵素は樹脂材料からなる成形体の空洞部の内表面に固定されることが想定できる。
【0067】
図9の第2架橋例においても、構造体を形成する樹脂材料へ酵素付着粒子13(図4等参照)、あるいは酵素粒子11(図1等参照)を混入する際に、無水マレイン酸変性樹脂が添加される。さらに、酵素付着粒子あるいは酵素粒子の調製に際し、ポリエチレンイミンが添加される。前掲図5の工程図の場合、S2の酵素添加のときに併せてポリエチレンイミンが添加される。そのため、酵素付着粒子13の粒子体表面には適度にポリエチレンイミンが付着される。あるいは、酵素粒子11の賦形時にポリエチレンイミンが添加されることもある。
【0068】
溶融状態の樹脂(無水マレイン酸変性樹脂含有)に酵素付着粒子13(図4等参照)、酵素粒子11(図1等参照)が混入されると、無水マレイン酸変性樹脂の一部とポリエチレンイミンとの間にアミド結合が形成される。そして、図9に示すとおり、ポリエチレンイミンのアミノ基と酵素Enzのカルボキシル基との間でアミド結合やイオン結合等が可能となる。ポリエチレンイミンは末端にアミノ基を複数有するため、酵素のカルボキシル基を補足しやすくなることが想定できる。この場合、図8の第1架橋例において開示した無水マレイン酸変性樹脂と酵素のアミノ基との架橋も併行して生じるため、架橋の効率は高まる。
【0069】
図10の第3架橋例では、図9の第2架橋例にて示した無水マレイン酸変性樹脂の一部と酵素付着粒子に被着しているポリエチレンイミンとのアミド結合と併せて、酵素付着粒子を構成する粒子体の溶解除去時、あるいは酵素粒子の残余分の流出時に、グルタルアルデヒドが添加される。ポリエチレンイミンのアミノ基とグルタルアルデヒドのアルデヒド基が反応して、樹脂材料成形体の空洞部内表面から架橋剤が伸長する。図10(a)のように、グルタルアルデヒドの残余のアルデヒド基と酵素Enzのアミノ基が反応して酵素はグルタルアルデヒドに結合する。
【0070】
ポリエチレンイミンのアミノ基とグルタルアルデヒドのアルデヒド基との反応は順次進行するため、樹脂材料成形体の空洞部内表面に網状の架橋体が形成される。そこで次々と酵素のアミノ基との間に結合が生じる。むろん、当該第3架橋例に示した架橋反応と併行して、既述の第1,第2架橋例に示したアミド結合やイオン結合の架橋反応も進行する。例えば図10(b)は、第2架橋例と第3架橋例が組み合わされた場合である。このため、酵素はよりいっそう架橋剤に補足されやすくなり、成形体内表面への強固な固定が実現できる。
【0071】
これまでに詳述してきた酵素固定多孔質構造体に適用しうる酵素は、当該構造体の使用目的、使用環境、関与する反応、さらには構造体自体の形状等に応じて適宜、適切に選択できる。なお、酵素固定多孔質構造体に担持、固定される酵素が反応に際して補酵素を要求するアポ酵素である場合、別途、対応する補酵素が当該酵素固定多孔質構造体を用いた反応系に添加される。以下、酵素と共に当該酵素を担持固定した酵素固定多孔質構造体の利用可能と考えられる分野も例示する。
【0072】
酸化還元酵素として、ラッカーゼはフェノール類を酸化することから、これを含む酵素固定多孔質構造体は各種ダイオキシン、ビスフェノール等の内分泌攪乱物質の分解用途に用いられる。グルコースオキシダーゼはグルコースの酸化還元に寄与することから、これを含む酵素固定多孔質構造体は酵素センサ、バイオ燃料電池の反応膜に利用される。カタラーゼは過酸化水素を水にするため、過剰なラジカル種の除去に用いられる。
【0073】
転移酵素として、クレアチンキナーゼはクレアチンとATPをクレアチンリン酸とADPにリン酸を転移する。そこで、これを含む酵素固定多孔質構造体は臨床検査装置の検知部位に実装される。DNAポリメラーゼはDNA合成に用いられるため、PCR法を利用したDNA増幅装置やオリゴヌクレオチド合成装置に適用することができる。
【0074】
加水分解酵素として、アミラーゼはデンプンをマルトースに分解し、マルターゼはマルトースをグルコースに分解することから、これを含む酵素固定多孔質構造体は糖化、製糖分野の連続反応装置に用いられる。プロテアーゼはタンパク質を分解するため、これを含む酵素固定多孔質構造体は例えば食品中のアレルゲンとなるタンパク質の分解目的の反応器や分解フィルタ等として用いられる。リパーゼは脂質を分解することから、これを含む酵素固定多孔質構造体は油濁浄化用のシートとして用いられる。セルラーゼはセルロースを分解して糖を産生するため、これを含む酵素固定多孔質構造体はデンプン以外の原料からエタノール製造する反応器に用いることができる。
【0075】
リアーゼとして、フマラーゼによりフマル酸はリンゴ酸に変化する。アスパルターゼによりフマル酸はアスパラギン酸にする。従って、これらの酵素を担持固定した酵素固定多孔質構造体は、医薬品や食品添加物、飼料等の生産用の反応器に装着できる。
【0076】
異性化酵素として、グルコースイソメラーゼはグルコース(ぶどう糖)をフルクトース(果糖)に変化する。これを含む酵素固定多孔質構造体は連続処理の効率よい異性化糖生成反応装置に用いることができる。
【0077】
リガーゼとして、DNAリガーゼは2本鎖DNAの末端部位を接続する。従って、量産規模の組み換えDNAやプラスミドの作成が可能となる。よって、これを含む酵素固定多孔質構造体は広くゲノム創薬、生物製剤調製の反応器としての利用が期待できる。
【0078】
列記の酵素とその反応は例示であるため、当然、これら以外の酵素も酵素固定多孔質構造体に適用できる。酵素は、ヒト,ブタ,マウス等のほ乳動物由来、カイコ蛾等の昆虫由来、コムギ等の植物由来、E.coli,Bacillus属,Aspergillus属,Saccharomyces属をはじめとする各種微生物由来の酵素もしくはDNA組み換え微生物体由来の酵素が用いられる。前述の製法並びに後述の実施例から明らかであるように、構造体内部の空洞部に担持固定される酵素は、溶融状態の樹脂材料と接触するため、熱変性を受ける。この点を考慮して、耐熱性酵素が好適といえる。耐熱性酵素は、各種の高熱菌、耐熱菌等から得ることができる。
【0079】
特に、本発明の酵素固定多孔質構造体において、多孔質構造体の内部に存在する空洞部であっても、構造体表面の空洞部と内部の空洞部では空洞部に担持固定される酵素量にほとんど差異は無いと考えられる。このため、構造体の単位体積当たりでは、表面にのみ酵素を担持させた従来製法の構造体よりも反応効率は向上する。
【0080】
酵素固定多孔質構造体は内部に担持固定している酵素活性を最適化できる最適温度、最適pHに置かれ、適切に基質濃度管理される。さらに、酵素固定多孔質構造体の特性を生かして、回分式の反応から基質の連続処理が可能となり、目的とする反応生成物の収率向上に貢献できる。また、処理単位毎の酵素の消費、廃棄も抑えられるため、酵素使用量の削減につながる。加えて、酵素固定多孔質構造体は、取り扱いが簡便となるユニット化容器等に収容することもできるため、酵素活性が低下した時点での交換も容易となる。特には、樹脂材料から成形されるため、安価なパッケージ品とすることができる。
【実施例】
【0081】
[酵素固定多孔質構造体の使用材料]
次の3種類の酵素を使用した。
・耐熱アミラーゼ(EC3.2.1.1)として、大和化成株式会社製:商品名「クライスターゼT10S(液状形態)」を用いた。酵素の基質はデンプンでありその生成物は糖類である。
・耐熱プロテアーゼ(EC3.4.24.27)として、大和化成株式会社製:商品名「サモアーゼPC10F(粉末形態)」を用いた。酵素の基質はタンパク質であり生成物はアミノ酸である。
・ラッカーゼ(ポリフェノールオキシダーゼ)(EC1.10.3.2)として、大和化成株式会社製:商品名「ラッカーゼダイワY120(粉末形態)」を用いた。酵素の基質は芳香族であり、その反応は主に酸化、分解である。
【0082】
次の3種類の樹脂材料を使用した。
・直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(宇部丸善ポリエチレン株式会社製:商品名「ユメリット 0540F」)を用いた。以下この樹脂をLLDPE樹脂と称する。
・エチレンビニルアルコール樹脂(日本合成化学工業株式会社製:商品名「ソアノールA4412」)を用いた。以下この樹脂をEVOH樹脂と称する。
・ポリ乳酸(和光純薬工業株式会社製:商品名「PLA−0020」)を用いた。以下この樹脂をPLA樹脂と称する。
また、粒子体としては、馬鈴薯デンプン(東海澱粉株式会社製:商品名「丸特士幌」)を用いた(粒径:20〜50μm)。以下デンプン粒子として説明する。
【0083】
[酵素粒子,酵素付着粒子の調製]
上記の樹脂材料に混入する酵素粒子、酵素付着粒子の調製手法を示す。酵素の凝集物となる酵素粒子の調製に際しては、販売形態が粉末の酵素はいったん所定量の水に溶解し、スプレードライヤを用いて噴霧、乾燥して顆粒状物とした。また販売形態が液状の酵素はスプレードライヤを用いて噴霧、乾燥し、顆粒状物とした。この顆粒状物が酵素粒子である。
【0084】
酵素付着粒子の調製は、次の4とおりの手法とした。上記同様、粉末状の酵素は適量の水に溶解して酵素溶液とし、液状の酵素はそのまま用いた。
手法1:デンプン粒子を加温して攪拌、乾燥しながら、そこに酵素溶液を滴下し、顆粒状物を得た。
手法2:デンプン粒子を冷水に溶いたデンプン分散液(デンプン量はおよそ10重量%)に酵素溶液を添加し、スプレードライヤを用い噴霧、乾燥して顆粒状物とした。
手法3:前掲図5の工程図が参照されるように、デンプン粒子を冷水に溶きデンプン分散液(デンプン量はおよそ10重量%)とし、ここへ酵素溶液を添加した。混合した溶液を攪拌しながら当該溶液全体が白濁する時点までアセトンを滴下した。アセトン滴下により沈降した沈殿物を回収すると共に60℃のオーブンで乾燥した。乾燥後に適度に粉砕して顆粒状物にした。
手法4:上記手法3のデンプン分散液、酵素溶液にポリエチレンイミン(株式会社日本触媒製:商品名「P−1000」)の水溶液も添加した。混合溶液を攪拌しながら当該溶液全体が白濁する時点までアセトンを滴下した。アセトン滴下により沈降した沈殿物を回収すると共に60℃のオーブンで乾燥した。乾燥後に適度に粉砕して顆粒状物にした。ポリエチレンイミンの濃度は、当該混合溶液の約1重量%とした。
【0085】
[酵素固定多孔質構造体の試作]
前掲の樹脂材料、酵素、酵素粒子または酵素付着粒子を用いて、次の実施例1ないし実施例10の酵素固定多孔質構造体を試作した。実施例1ないし実施例7は耐熱アミラーゼ、実施例8,9は耐熱プロテアーゼ、実施例10はラッカーゼを酵素固定多孔質構造体に担持する酵素に用いた例である。
【0086】
・実施例1
実施例1には、手法1に従って、デンプン粒子を60℃で加温し攪拌、乾燥しながら前記の耐熱アミラーゼ溶液(5重量%相当)を滴下して得た顆粒状物の酵素付着粒子Iaを用いた。酵素付着粒子Iaの粒径は30〜70μmであった。
【0087】
樹脂材料としてのLLDPE樹脂を凍結粉砕し樹脂粉末とした。以下、PE樹脂粉末として説明する。PE樹脂粉末30重量部に対し、十分に乾燥した酵素付着粒子Iaを70重量部、無水マレイン酸変性樹脂(三洋化成工業株式会社製:商品名「ユーメックス2000」)を1重量部混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらPE樹脂粉末を溶融、混練し、樹脂混練物R11を得た。樹脂混練物R11を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を150℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、樹脂混練物をステンレス鏡面板から取り出し、成形体R12(縦10cm×横10cm、厚さ400μm)を得た。
【0088】
成形体R12からの酵素付着粒子Iaに含まれるデンプン粒子の除去に際し、pH6.0に調整した80℃の熱水浴中に成形体R12を1時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、60℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例1の酵素固定多孔質構造体を試作した。実施例1の酵素と樹脂材料の架橋様式については図8が参照される。自明ながら、デンプン粒子の除去は酵素付着粒子に付着している耐熱アミラーゼの作用による。以降の実施例において、耐熱アミラーゼが付着している酵素付着粒子については同様である。
【0089】
・実施例2
実施例2には、手法2に従って、デンプン粒子を冷水に溶いたデンプン分散液(デンプン量はおよそ10重量%)と耐熱アミラーゼ溶液(5重量%相当)を混合後、スプレードライヤを用い噴霧、乾燥して得た顆粒状物を酵素付着粒子IIaとして用いた。酵素付着粒子IIaの粒径は30〜70μmであった。
【0090】
PE樹脂粉末30重量部に対し、十分に乾燥した酵素付着粒子IIaを70重量部、無水マレイン酸変性樹脂(実施例1と同じ)を1重量部混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらPE樹脂粉末を溶融、混練し、樹脂混練物R21を得た。樹脂混練物R21を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を150℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、樹脂混練物をステンレス鏡面板から取り出し、成形体R22(縦10cm×横10cm、厚さ400μm)を得た。
【0091】
成形体R22からの酵素付着粒子IIaに含まれるデンプンの除去に際し、pH6.0に調整した80℃の熱水浴中に成形体R22を1時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄した。水洗を終えた後、60℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例2の酵素固定多孔質構造体を試作した。実施例2の酵素と樹脂材料の架橋様式については図8が参照される。
【0092】
・実施例3
実施例3には、手法4に従って、冷水のデンプン分散液(およそ10重量%)の中に、耐熱アミラーゼ溶液、ポリエチレンイミンを添加し、混合溶液を作成した。耐熱アミラーゼ溶液の添加量は最終的な溶液中の濃度を5重量%とする量とし、ポリエチレンイミンの添加量は最終的な溶液中の濃度を1重量%とする量とした。そしてここにアセトンを適量滴下し、生じた沈殿物を乾燥することにより調製した酵素付着粒子IVaを用いた。前記のアミラーゼ溶液、ポリエチレンイミンの濃度は混合溶液中の濃度となる。酵素付着粒子IVaの粒径は30〜70μmであった。
【0093】
PE樹脂粉末30重量部に対し、十分に乾燥した酵素付着粒子IVaを70重量部、無水マレイン酸変性樹脂(実施例1と同じ)を1重量部混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらPE樹脂粉末を溶融、混練し、樹脂混練物R31を得た。樹脂混練物R31を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を150℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、樹脂混練物をステンレス鏡面板から取り出し、成形体R32(縦10cm×横10cm、厚さ400μm)を得た。
【0094】
成形体R32からの酵素付着粒子IVaに含まれるデンプンの除去に際し、pH6.0に調整した80℃の熱水浴中に成形体R32を1時間浸漬した後、1分間流水で洗浄し、60℃の乾燥機内で3時間乾燥した。次に、乾燥した成形体R32をグルタルアルデヒド(和光純薬工業株式会社製:試薬特級)の1%水溶液中に浸漬し、同成形体R32の空洞部内にグルタルアルデヒド溶液を浸透させて架橋反応を促した。続いて、成形体R32を40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄してデンプン、生成した糖類、グルタルアルデヒド等を十分に除去した後、60℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例3の酵素固定多孔質構造体を試作した。実施例3の酵素と樹脂材料の架橋様式については図10が参照される。
【0095】
・実施例4
実施例4は実施例3と同じく酵素付着粒子IVaを用いた。PE樹脂粉末30重量部に対し、十分に乾燥した酵素付着粒子IVaを35重量部、無水マレイン酸変性樹脂(実施例1と同じ)を1重量部、粒子体として馬鈴薯デンプン(デンプン粒子)を35重量部混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらPE樹脂粉末を溶融、混練し、樹脂混練物R41を得た。樹脂混練物R41を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を150℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、樹脂混練物をステンレス鏡面板から取り出し、成形体R42(縦10cm×横10cm、厚さ400μm)を得た。
【0096】
成形体R42からの酵素付着粒子IVaに含まれるデンプン及びデンプン粒子の除去に際し、pH6.0に調整した80℃の熱水浴中に成形体R42を1時間浸漬した後、1分間流水で洗浄し、60℃の乾燥機内で3時間乾燥した。次に、乾燥した成形体R42をグルタルアルデヒド(前出と同じ)の1%水溶液中に浸漬し、同成形体R42の空洞部内にグルタルアルデヒド溶液を浸透させて架橋反応を促した。続いて、成形体R42を40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄してデンプン、生成した糖類、グルタルアルデヒド等を十分に除去した後、60℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例4の酵素固定多孔質構造体を試作した。実施例4の酵素と樹脂材料の架橋様式は実施例3と同様となる。
【0097】
・実施例5
実施例5は酵素付着粒子IVa、樹脂材料に前記のEVOH樹脂を用いた。EVOH樹脂を凍結粉砕し樹脂粉末(EVOH樹脂粉末)とした。EVOH樹脂粉末30重量部に対し、十分に乾燥した酵素付着粒子IVaを70重量部、無水マレイン酸変性樹脂(実施例1と同じ)を1重量部混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらEVOH樹脂粉末を溶融、混練し、樹脂混練物R51を得た。樹脂混練物R51を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を170℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、樹脂混練物をステンレス鏡面板から取り出し、成形体R52(縦10cm×横10cm、厚さ400μm)を得た。
【0098】
成形体R52からの酵素付着粒子IVaに含まれるデンプンの除去に際し、pH6.0に調整した80℃の熱水浴中に成形体R52を1時間浸漬した後、1分間流水で洗浄し、60℃の乾燥機内で3時間乾燥した。次に、乾燥した成形体R52をグルタルアルデヒド(前出と同じ)の1%水溶液中に浸漬し、同成形体R52の空洞部内にグルタルアルデヒド溶液を浸透させて架橋反応を促した。続いて、成形体R52を40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄してデンプン、生成した糖類、グルタルアルデヒド等を十分に除去した後、60℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例5の酵素固定多孔質構造体を試作した。実施例5の酵素と樹脂材料の架橋様式は実施例3と同様となる。
【0099】
・実施例6
実施例6は酵素付着粒子に代えて酵素粒子とし、併せて粒子体としてデンプン粒子も用いた。前記の耐熱アミラーゼ溶液をスプレードライヤにより噴霧、乾燥して顆粒状の酵素粒子iaを得た。酵素粒子iaの平均粒径は20〜50μmであった。
【0100】
PE樹脂粉末30重量部に対し、十分に乾燥した酵素粒子iaを35重量部、前出のデンプン粒子を35重量部、無水マレイン酸変性樹脂(実施例1と同じ)を1重量部混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらPE樹脂粉末を溶融、混練し、樹脂混練物R61を得た。樹脂混練物R61を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を150℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、樹脂混練物をステンレス鏡面板から取り出し、成形体R62(縦10cm×横10cm、厚さ400μm)を得た。
【0101】
成形体R62からの酵素粒子iaの担持固定に使われなかった分の酵素、並びにデンプン粒子の除去に際し、pH6.0に調整した80℃の熱水浴中に成形体R62を1時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄して十分に除去し、60℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例6の酵素固定多孔質構造体を試作した。実施例6の酵素と樹脂材料の架橋様式は図8が参照される。
【0102】
・実施例7
実施例7は実施例3と同じく前記の酵素付着粒子IVa、樹脂材料に前記のPLA樹脂を用いた。PLA樹脂を凍結粉砕し樹脂粉末(PLA樹脂粉末)とした。PLA樹脂粉末30重量部に対し、十分に乾燥した酵素付着粒子IVaを70重量部、無水マレイン酸変性樹脂(実施例1と同じ)を1重量部混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらPLA樹脂粉末を溶融、混練し、樹脂混練物R71を得た。樹脂混練物R71を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を170℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、樹脂混練物をステンレス鏡面板から取り出し、成形体R72(縦10cm×横10cm、厚さ400μm)を得た。
【0103】
成形体R72からの酵素付着粒子IVaに含まれるデンプンの除去に際し、pH6.0に調整した80℃の熱水浴中に成形体R72を1時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄してデンプン、生成した糖類等を十分に除去した。この後、60℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例7の酵素固定多孔質構造体を試作した。実施例7の酵素と樹脂材料の架橋様式は図9が参照される。
【0104】
・実施例8
実施例8には、手法3に従って、冷水のデンプン分散液(およそ10重量%)に耐熱プロテアーゼ粉末を添加して(最終的な溶液中の酵素濃度を1重量%に調整)、ここにアセトンを適量滴下し、生じた沈殿物を乾燥することにより調製した酵素付着粒子IIIbを用いた。酵素付着粒子IIIbの粒径は30〜70μmであった。
【0105】
PE樹脂粉末30重量部に対し、十分に乾燥した酵素付着粒子IIIbを70重量部、無水マレイン酸変性樹脂(実施例1と同じ)を1重量部混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらPE樹脂粉末を溶融、混練し、樹脂混練物R81を得た。樹脂混練物R81を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を150℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、樹脂混練物をステンレス鏡面板から取り出し、成形体R82(縦10cm×横10cm、厚さ400μm)を得た。
【0106】
成形体R82からの酵素付着粒子IIIbに含まれるデンプンの除去に際し、耐熱アミラーゼ(大和化成株式会社製:商品名「クライスターゼT10S」)を用いた。同酵素を1重量%含み、pH6.0に調整した80℃の熱水浴中に成形体R82を1時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄して、デンプン、生成した糖類等を十分に除去した。この後、60℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例8の酵素固定多孔質構造体を試作した。実施例8の酵素と樹脂材料の架橋様式については図8が参照される。
【0107】
・実施例9
実施例9は酵素付着粒子に代えて酵素粒子とした。前記の耐熱プロテアーゼ粉末を50重量%に調整した酵素の水溶液をスプレードライヤにより噴霧、乾燥して顆粒状の酵素粒子ibを得た。酵素粒子ibの粒径は20〜50μmであった。
【0108】
PE樹脂粉末30重量部に対し、十分に乾燥した酵素粒子ibを70重量部、無水マレイン酸変性樹脂(実施例1と同じ)を1重量部混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらPE樹脂粉末を溶融、混練し、樹脂混練物R91を得た。樹脂混練物R91を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を150℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、樹脂混練物をステンレス鏡面板から取り出し、成形体R92(縦10cm×横10cm、厚さ400μm)を得た。
【0109】
成形体R92からの酵素粒子ibの担持固定に使われなかった分の酵素の除去に際し、80℃の熱水浴中に成形体R92を1時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄して十分に除去し、60℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例9の酵素固定多孔質構造体を試作した。実施例8の酵素と樹脂材料の架橋様式については図8が参照される。
【0110】
・実施例10
実施例10には、手法3に従って、冷水のデンプン分散液(およそ10重量%)に前記のラッカーゼ粉末を添加して(最終的な溶液中の酵素濃度を1重量%に調整)、ここにアセトンを適量滴下し、生じた沈殿物を乾燥することにより調製した酵素付着粒子IIIcを用いた。酵素付着粒子IIIcの粒径は30〜70μmであった。
【0111】
PE樹脂粉末30重量部に対し、十分に乾燥した酵素付着粒子IIIcを70重量部、無水マレイン酸変性樹脂(実施例1と同じ)を1重量部混入し、二軸混練機を用いて170℃に加熱しながらPE樹脂粉末を溶融、混練し、樹脂混練物R101を得た。樹脂混練物R101を速やかにステンレス鏡面板内に注入し、同鏡面板を150℃に維持しながら10MPaで5分間押圧してプレス成形し、冷却後、樹脂混練物をステンレス鏡面板から取り出し、成形体R102(縦10cm×横10cm、厚さ400μm)を得た。
【0112】
成形体R102からの酵素付着粒子IIIcに含まれるデンプンの除去に際し、耐熱アミラーゼ(実施例8のデンプン除去時と同じ)を用いた。同酵素を1重量%含み、pH6.0に調整した80℃の熱水浴中に成形体R102を1時間浸漬した後、40℃の超音波浴中に5分間浸漬し、さらに1分間流水で洗浄して、デンプン、生成した糖類等を十分に除去した。この後、60℃の乾燥機内で24時間乾燥した。こうして、実施例10の酵素固定多孔質構造体を試作した。実施例8の酵素と樹脂材料の架橋様式については図8が参照される。
【0113】
実施例1ないし実施例10として試作した各酵素固定多孔質構造体の樹脂材料、酵素形態、酵素種類、含まれる粒子体を一覧にすると表1となる。
【0114】
【表1】

【0115】
[酵素固定多孔質構造体の性能評価]
実施例1ないし10として試作した酵素固定多孔質構造体の性能を評価するべく、各構造体が担持固定している酵素の基質溶液を当該構造体に流通して、透過の前後により基質量の変化を算出した。
【0116】
評価に当たり、メンブレンフィルタのフィルタホルダ(MILLIPORE社製:商品名「SWINNEX」)の内径とほぼ等しい直径(25mm)にいずれの実施例の酵素固定多孔質構造体(多孔フィルム状)を切り抜き、同フィルタホルダ内に隙間が生じないように切り抜いた構造体を収容して封止した。組み上がったフィルタホルダを2個直列に連結し、その上流側にあるフィルタホルダに樹脂チューブを介してシリンジポンプ(KD Scientific社製:商品名「IC3100」)を取り付けた。また、下流側のフィルタホルダにも樹脂チューブをつなぎ、透過液溜めの容器に導いた。2個直列に連結したフィルタホルダ(以下、酵素反応ユニットと称する。)を恒温水槽内に沈め、実施例の酵素固定多孔質構造体が担持する酵素に応じた最適温度を維持した。
【0117】
この様子は、図11の反応装置50の模式図となる。符号51はシリンジポンプ、52はシリンジポンプの可動ブロック、53は恒温水槽、54はヒーター、55はシリンジ、56はピストン、58は輸液チューブ、59は透過液溜めの容器、60は酵素反応ユニット、61はフィルタホルダ、30は酵素固定多孔質構造体、SSは基質溶液である。
【0118】
〈デンプン分解量の評価〉
基質には、可溶性デンプン(ナカライテスク株式会社製:可溶性でんぷん(アミラーゼ定量用))を0.1重量%含有するpH6.6のデンプン溶液を用いた。設定温度を80℃とした恒温水槽の中に、実施例1ないし7の酵素固定多孔質構造体を備えた酵素反応ユニットのそれぞれを沈めると共に、下記の表2に記載の流速(mL/hr)にシリンジポンプを設定し、デンプン溶液を流通した。なお、実施例5,6については2種類の流速を試みた。
【0119】
・吸光度による測定
各実施例の酵素反応ユニットを透過した透過液0.8mLを測定用石英セルに入れ、蒸留水で3倍に希釈した後、日本薬局方希ヨードチンキ(大洋製薬株式会社製)を15μL滴下した。呈色後、分光光度計(株式会社島津製作所製:商品名「UV−2200」)により、560nmの吸光度を測定した。予め、未処理のデンプン溶液に希ヨードチンキを滴下したときの吸光度(分解率0%)と、希ヨードチンキのみの吸光度(分解率100%)も測定し、検量線を作成した。実施例1ないし7の酵素固定多孔質構造体を備えた酵素反応ユニット毎の吸光度を先に作成した検量線にあてはめ、デンプン溶液中に含まれているデンプン(基質)の分解率(%)を算出した。結果は表2である。表中、吸光度のヨウ素のみは分解率100%、基質のみは分解率0%である。送液量(mL)、空間速度(1/hr)も付した。以下の表も同様である。
【0120】
【表2】

【0121】
実施例1ないし7の酵素固定多孔質構造体を備えた酵素反応ユニットによる分解率の結果によると、分解率の差の最も大きな要因は流速である。実施例6,7では、約1/10に流速を下げたことによって、構造体が担持固定する耐熱アミラーゼはほぼ完全にデンプンを分解した。酵素粒子、酵素付着粒子の調製方法の差異、樹脂材料の種類については、影響を受けていないと考える。また、実施例3,4の比較から、酵素の固定に寄与しないデンプン粒子を含む場合には、自明ながら分解率の低下が明らかとなった。ただし、実施例6にあるように、流速が緩やかな場合には、酵素反応ユニット内に滞留している間に十分に酵素反応が進行したことがわかる。
【0122】
・高速液体クロマトグラフィーによる検証
希ヨードチンキの吸光度の測定と併せて、高速液体クロマトグラフィー(以下、HPLCとする。)により透過の前後における基質の分子量の変化を検証した。HPLCの検出器に日本ウォーターズ株式会社製「モデル410」を使用し、ポンプに同社製「モデル515」を使用した。カラムにはバイオ・ラッド ラボラトリーズ株式会社製:製品名「アミネックスHPX−42P」を使用した。カラム温度を75℃に設定し、キャリアを純水として流速0.5mL/minの条件で透過液等のサンプルを装填した。
【0123】
リテンションタイムの結果は、図12,13,14のチャートとなった。図12は可溶性デンプン溶液(未反応溶液)をそのまま流通した際のチャートである。図13は実施例5の酵素反応ユニットを透過した透過液(流速10mL/hr)を流通した際のチャートである。図14は実施例5の酵素反応ユニットを透過した透過液(流速30mL/hr)を流通した際のチャートである。
【0124】
各チャートのピークの推移から明らかなように、当初、可溶性デンプン溶液はほぼ単一のピークを示していた(図12参照)。これに対し、図13,14のチャートでは、複数のピークへの分散が見られる。すなわち、デンプンの分解産物が生じたことが明らかとなり、酵素反応ユニット内の耐熱アミラーゼによるデンプン分解が実証できた。
【0125】
〈タンパク質分解量の評価〉
基質は、ウシ血清由来アルブミン(和光純薬工業株式会社製)を0.1重量%含有するpH7.2のアルブミン−リン酸緩衝液とした。設定温度を65℃とした恒温水槽の中に実施例8,9の酵素固定多孔質構造体を備えた酵素反応ユニットのそれぞれを沈めると共に、下記の表3記載の流速(mL/hr)にシリンジポンプを設定し、アルブミン−リン酸緩衝液を流通した。
【0126】
・吸光度による測定
実施例の酵素反応ユニットを透過した透過液を前出の分光光度計を用いて、ペプチド結合の吸光度に相当する220nmの吸光度を測定した。予め、未処理のアルブミン緩衝液の吸光度(分解率0%)と、完全分解したアルブミン緩衝液(ほぼアミノ酸となる。)の吸光度(分解率100%)も測定し、検量線を作成した。実施例8,9の酵素固定多孔質構造体を備えた酵素反応ユニット毎の吸光度を先に作成した検量線にあてはめ、アルブミン溶液中に含まれているタンパク質(基質)の分解率(%)を算出した。結果は表3である。表中、吸光度の未反応は分解率0%、完全分解は分解率100%である。
【0127】
【表3】

【0128】
・SDS−PAGEによる検証
ペプチド結合の吸光度の測定と併せて、SDS−PAGEにより酵素反応ユニットを透過した透過液を泳動し、現れたバンドのパターンを目視により比較した。電気泳動の装置には、アトー株式会社製:製品名「AE−7300」を用いた。同装置にて調製した泳動ゲルのポリアクリルアミドの濃度を10%とした。タンパク質の染色にはCoomasie Brilliant Blueを用いた。この結果は、図15のSDS−PAGEによる電気泳動写真である。図中、Lane1は未処理のアルブミン溶液、Lane2は完全分解したアルブミン溶液(ほぼアミノ酸にまで分解)、Lane3は実施例8の酵素反応ユニットを透過した透過液、Lane4はマーカーである。
【0129】
図15の泳動バンドの分布から理解できるように、未処理のアルブミン溶液(Lane1)は耐熱プロテアーゼにより分解されていないため、1本のバンドのみである。これに対し、実施例8の酵素反応ユニットを透過した透過液(Lane3)は実施例8の酵素固定多孔質構造体内に担持固定された耐熱プロテアーゼにより分解されている。このため、未処理のアルブミン溶液と同位置のバンドは薄くなると共に、写真の下方側、つまり、低分子量側にもバンドが現れている。従って、吸光度の結果とも合わせて酵素固定多孔質構造体内に担持固定された酵素(プロテアーゼ)による基質の分解を確認することができた。
【0130】
〈酸化反応量の評価〉
ラッカーゼ(大和化成株式会社製:商品名「ラッカーゼダイワY120」)の力価定義に規定した4−アミノアンチピリンとフェノールの酸化縮合反応により生じるキノンイミン色素(アンチピリン色素)の生成量を参照した。基質として、特級4−アミノアンチピリン(和光純薬工業株式会社製)を0.06%、特級フェノール(和光純薬工業株式会社製)を0.78%とするpH4.1の酢酸緩衝液に調製した。
【0131】
設定温度を60℃とした恒温水槽の中に実施例10の酵素固定多孔質構造体を備えた酵素反応ユニットのそれぞれを沈めると共に、下記の表3記載の流速(mL/hr)にシリンジポンプを設定し、4−アミノアンチピリン,フェノール−酢酸緩衝液を流通した。
【0132】
・吸光度による測定
実施例の酵素反応ユニットを透過した透過液を前出の分光光度計を用いて、酸化縮合により生じる色素の吸光度に相当する505nmの吸光度を測定した。予め、未処理の4−アミノアンチピリン,フェノール−酢酸緩衝液の吸光度(反応率0%)と、同4−アミノアンチピリン,フェノール−酢酸緩衝液にラッカーゼを添加し、23℃、50%RH環境下で1週間静置して完全に酸化反応させた際の吸光度(反応率100%)も測定し、検量線を作成した。実施例10の酵素固定多孔質構造体を備えた酵素反応ユニットの吸光度を先に作成した検量線にあてはめ、当該溶液中に含まれている色素分子の生成率(%)を算出した。結果は表4である。表中、吸光度の未反応は反応率0%、全量反応は反応率100%である。
【0133】
【表4】

【0134】
色素分子の生成率は未反応に比して上昇していることから、4−アミノアンチピリンとフェノールの酸化縮合は進行している。従って、実施例10の酵素固定多孔質構造体内に担持固定された酵素(ラッカーゼ)による酸化反応を確認することができた。
【0135】
[考察]
開示の実施例の結果から自明であるように、酵素固定多孔質構造体による酵素反応の進行を実証することができた。この実施例の知見の限り、酵素が溶融した樹脂材料に接触して生じる酵素タンパクの変性に伴う失活の影響は、当初の予想よりも小さいと考えられる。おそらく、酵素と樹脂材料との混練時、酵素タンパクは乾燥状態であるため水分と接触せず、活性部位への熱の影響が回避されたことが想定できる。従って、酵素固定多孔質構造体の製造に際し、本発明の空洞部の形成と共に空洞部内表面への酵素の担持固定を同時に実行できる製法は有効である。ただし、分解率や反応率に改善の余地があることも明らかとなった。この場合、担持固定する酵素の種類の選択に加え、例えば図11の反応装置に組み入れる酵素反応ユニットの数の増加、流速の制御、さらには、酵素固定多孔質構造体の面積あるいはその体積、細孔径等を調整して、反応毎に最適な条件を見出す必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】本発明の第1実施形態についての酵素固定多孔質構造体の製造方法に関する概略工程図である。
【図2】第1実施形態の酵素固定多孔質構造体の断面模式図である。
【図3】第2実施形態の酵素固定多孔質構造体の断面模式図である。
【図4】第3実施形態についての酵素固定多孔質構造体の製造方法に関する概略工程図である。
【図5】酵素付着粒子の調製に関する工程図である。
【図6】第3実施形態の酵素固定多孔質構造体の断面模式図である。
【図7】第4実施形態の酵素固定多孔質構造体の断面模式図である。
【図8】架橋反応の第1の概要図である。
【図9】架橋反応の第2の概要図である。
【図10】架橋反応の第3の概要図である。
【図11】酵素反応ユニットを組み込んだ反応装置の模式図である。
【図12】可溶性デンプン溶液をそのまま流通した際のHPLCのチャートである。
【図13】実施例5の酵素反応ユニットを流速10mL/hrで透過した際のHPLCチャートである。
【図14】実施例5の酵素反応ユニットを流速30mL/hrで透過した際のHPLCチャートである。
【図15】SDS−PAGEによる電気泳動写真である。
【符号の説明】
【0137】
10 酵素
11 酵素粒子
12 粒子体
12s 非付着粒子
13 酵素付着粒子
16 連通部
20 樹脂材料
21,22 空洞部
24 空洞部内面
25A,25B,25C,25D 成形体
30A,30B,30C,30D,30 酵素固定多孔質構造体
50 反応装置
51 シリンジポンプ
53 恒温水槽
60 酵素反応ユニット
61 フィルタホルダ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素の凝集物からなる酵素粒子を樹脂材料に混入して所定形状の成形体に成形した後、前記成形体内部に含まれる酵素粒子の部分を溶解除去して前記成形体内部に前記酵素粒子による連通状の空洞部を形成するとともに、前記酵素粒子の他の部分を前記空洞部内面に担持固定させることを特徴とする酵素固定多孔質構造体の製造方法。
【請求項2】
前記酵素粒子のほかに、事後的に溶解除去が可能である粒子体を樹脂材料に混入して、前記酵素粒子及び粒子体によって空洞部を形成する請求項1に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法。
【請求項3】
事後的に溶解除去が可能である粒子体に酵素を付着させた酵素付着粒子を樹脂材料に混入して所定形状の成形体に成形した後、前記成形体内部に含まれる酵素付着粒子の粒子体を溶解除去して前記成形体内部に前記粒子体による連通状の空洞部を形成するとともに、前記粒子体に付着させた酵素を前記空洞部内面に担持固定させることを特徴とする酵素固定多孔質構造体の製造方法。
【請求項4】
前記酵素付着粒子のほかに、酵素を付着させない粒子体からなる非付着粒子を樹脂材料に混入して、前記酵素付着粒子及び非付着粒子によって空洞部を形成する請求項3に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法。
【請求項5】
前記酵素の担持固定に際し、架橋剤が用いられる請求項1ないし4のいずれか1項に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法。
【請求項6】
前記粒子体が、水、酵素、または有機溶剤のいずれかにより溶解除去される請求項2ないし5のいずれか1項に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法。
【請求項7】
前記粒子体がデンプンである請求項2ないし6のいずれか1項に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法。
【請求項8】
前記樹脂材料が熱可塑性樹脂である請求項1ないし7のいずれか1項に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法。
【請求項9】
前記成形体が、フィルム状物またはシート状物である請求項1ないし8のいずれか1項に記載の酵素固定多孔質構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−183245(P2009−183245A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−28719(P2008−28719)
【出願日】平成20年2月8日(2008.2.8)
【出願人】(592184876)フタムラ化学株式会社 (60)
【Fターム(参考)】