酵素活性を有する米糠浸出物、該米糠浸出物により得られる生成物、及びこれらの製造方法
【課題】高効率、高収率な酵素反応を実現するに適した、米糠由来の酵素活性を有する乾燥粉末およびその製造方法を提供する。
【解決手段】米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を乾燥して得られる、酵素活性を有する乾燥粉末とする。
【解決手段】米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を乾燥して得られる、酵素活性を有する乾燥粉末とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、米糠を溶媒に含浸させて得られる、酵素活性を有する乾燥粉末、抽出液、および氷結体と、当該乾燥粉末等を用いて得られるγ−アミノ酪酸および還元糖と、これらの製造方法とに関する。また、本発明は、酵素活性を有する乾燥粉末、抽出液、および氷結体の品質向上方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は我々の生活を支える重要な物質であり、洗剤をはじめとする日用品から医薬品の製造まで幅広く利用されている。中でも、酵素を利用して製造された食品は、化学調味料を使用して製造した食品とは異なり、種々の生理活性を有する化合物が含有されることから、近年機能性健康食品としての需要が年々増加している。例えば、グルタミン酸の酵素反応によって製造されるγ−アミノ酪酸は、降圧効果あるいはリラックスをもたらす効果があるアミノ酸として最近着目され、現在では種々の食品、サプリメントなどに添加されるに至っている。
【0003】
ところで、米を精米する過程で生じる米糠中には様々な酵素が存在し、グルタミン酸脱炭酸酵素のほか、アミラーゼなど複数の酵素の存在が報告されている。そのため、これまで廃棄物として処理されていた物質を有効に利用するという観点から、これら米糠中に存在する酵素の利用に関する研究が行われてきている。
【0004】
米糠を利用してγ−アミノ酪酸を製造する手法、技術については既にいくつかの特許が公開されている(特許文献1−5)。これらの手法の多くは米糠に基質溶液を直接含浸してγ−アミノ酪酸を製造する方法であるが、酵素反応後、米糠からγ−アミノ酪酸を分離する工程を考慮に入れた製造手法については示されていない。また、一部には工業的な製造を視野に入れた手法も提案されているものの(特許文献2)、γ−アミノ酪酸製造時に投入される米糠の固体濃度は17質量%程度しかなく、高濃度での反応が行われていないこと、分離精製の工程が複雑であること、などの問題点がある。このような操作条件を選択せざるを得ない原因の一つとして、米糠粒子のハンドリングの難しさが考えられる。
【0005】
米糠粒子は、玄米を機械的に研磨して生じる米の削りかすの一部であることから、その粒子径は比較的小さく、また吸湿性に富むものである。従って、米糠を水中に懸濁させると多量の水分を吸収し、粘度が高いスラリーが形成される。その結果、γ−アミノ酪酸の分離工程の際に米糠をろ過等によって除去することが困難になるばかりでなく、固体濃度が高い場合には懸濁液の撹拌さえも行うことが困難になってしまう。
【特許文献1】特開2000−201651号公報
【特許文献2】特開2003−245093号公報
【特許文献3】特開2007−49910号公報
【特許文献4】特開平09−140361号公報
【特許文献5】特開平08−280394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酵素源として米糠を利用する際の上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、高効率、高収率な酵素反応を実現するに適した、米糠由来の酵素活性を有する乾燥粉末、氷結体、抽出液、およびその製造方法を提供することを第一の目的とする。また、本発明は、当該乾燥粉末等により得られるγ−アミノ酪酸、還元糖の製造方法を提供することを第二の目的とする。さらに、本発明は、品質が向上された、米糠由来の酵素活性を有する乾燥粉末、氷結体、抽出液、および品質向上方法を提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、米糠に含まれる酵素を利用してアミノ酸や糖類を製造するに際し、米糠の抽出液を利用する、または当該抽出液から氷結体または乾燥粉末としてこれらを利用することで、アミノ酸や糖類の製造性が飛躍的に向上することを見出した。また、米糠抽出液のpHを調整することにより、コロイド状の物質の存在割合が変わること、さらには、当該溶液を氷冷することで、効率よくコロイド物質を凝集させることができることを見出した。すなわち、本発明は、基質溶液に分散、溶解させるのみで酵素反応が進行する、米糠由来の新しい物質、およびその製造技術、さらには該物質の応用にかかるものである。
【0008】
すなわち本発明の第一の態様は、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を乾燥して得られる、酵素活性を有する乾燥粉末を提供して前記課題を解決するものである。
【0009】
本発明において、「米糠の溶媒含浸物」とは、米糠を溶媒に含浸させた状態の、米糠−溶媒混合物をいい、「抽出液」とは、該米糠の溶媒含浸物から、固体分離操作によって米糠残渣を除去して得られた溶液(ただし、固体分離操作によって除ききれない、コロイド状態の微小固体物質を含む。)をいう。
【0010】
本発明の第二の態様は、米糠の水含浸物から得られる抽出液を乾燥して得られる乾燥粉末であって、乾燥粉末の吸湿割合が6質量%以下であり、かつ、乾量基準の質量減少率が13質量%以下である、酵素活性を有する乾燥粉末を提供して前記課題を解決するものである。
【0011】
本発明でいう「乾燥粉末の吸湿割合」とは、乾燥粉末を26℃、75%RHの環境に3時間放置して、放置前の乾燥粉末の質量に対して質量が増加した割合であり、「乾量基準の質量減少率」とは、上記「乾燥粉末の吸湿割合」を求める手順で乾燥粉末を吸湿させたものを、さらに103℃の常圧下で3時間乾燥して、加熱質量減少率(質量%)すなわち前記乾燥粉末を吸湿させたものの質量に対して質量が減少した割合をいう。
【0012】
本発明の第一の態様および第二の態様において、酵素活性を有する乾燥粉末の、米糠の質量を基準とする収率は、5〜20質量%であることが好ましい。
【0013】
本発明の第三の態様は、米糠の水含浸物を固液分離して抽出液を取り出す工程、該抽出液を乾燥する工程を備えてなる、酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0014】
本発明の第三の態様において、乾燥は凍結乾燥によって行われることが好ましい。
【0015】
本発明の第四の態様は、前記第一または第二の態様にかかる乾燥粉末を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0016】
本発明の第五の態様は、前記第一または第二の態様にかかる乾燥粉末を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0017】
本発明の第六の態様は、前記第一または第二の態様にかかる乾燥粉末を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0018】
本発明の第四〜第六の態様において、溶液のpHは酵素反応が迅速に進行する範囲であることが好ましい。例えば、第四の態様によりγ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する場合にあっては、酵素反応に供される溶液のpHを5.5程度とすることが好ましい。
【0019】
本発明の第七の態様は、米糠の溶媒含浸物を固液分離して得られる米糠抽出液を凍結させてなる、酵素活性を有する氷結体を提供して前記課題を解決するものである。
【0020】
本発明の第八の態様は、前記第七の態様にかかる氷結体を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0021】
本発明の第九の態様は、前記第七の態様にかかる氷結体を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0022】
本発明の第十の態様は、前記第七の態様にかかる氷結体を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0023】
本発明の第八〜第十の態様において、溶液のpHは酵素反応が迅速に進行する範囲であることが好ましい。例えば、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する場合にあっては、酵素反応に供される溶液のpHを5.5程度とすることが好ましい。
【0024】
本発明の第十一の態様は、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0025】
本発明の第十二の態様は、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0026】
本発明の第十三の態様は、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0027】
本発明の第十四の態様は、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液のpHを調整してコロイド状物質を沈殿除去して得られた上澄み液からなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する溶液を提供して前記課題を解決するものである。
【0028】
本発明において、「タンパク質が除去され」とは、抽出液のpHを調整することで、酵素活性を有する抽出液中に含まれる米糠由来のタンパク質が完全に除去されることの他、当該抽出液中に含まれる米糠由来のタンパク質が、pH調整前よりも低減されることも意味する。例えば、タンパク質除去前後において、沈殿物の生成量が乾量基準でもとの米糠の5質量%以上であることが好ましい。
【0029】
本発明の第十四の態様において、pHが5〜7に調整されてなることが好ましい。
【0030】
本発明の第十五の態様は、米糠の水含浸物を固液分離して抽出液を取り出す工程、該抽出液のpHを調整してコロイド状凝集物を沈殿させる工程、該コロイド状凝集物および上澄み液からなる抽出液から上澄み液を取り出す工程、を備えてなる、該上澄み液からなる酵素活性を有する溶液の製造方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0031】
本発明の第十五の態様において、コロイド状凝集物を沈殿させる工程において、抽出液を氷冷することが好ましい。
【0032】
本発明の第十五の態様において、pHが5〜7に調整されてなることが好ましい。
【0033】
本発明の第十六の態様は、前記第十四の態様にかかる溶液を凍結させてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体を提供して前記課題を解決するものである。
【0034】
本発明の第十七の態様は、前記第十四の態様にかかる溶液を乾燥させてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する乾燥粉末を提供して前記課題を解決するものである。
【0035】
本発明の第十八の態様は、前記第十五の態様にかかる製造方法により得られた溶液を乾燥する工程を備えてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0036】
本発明の第十八の態様において、乾燥が凍結乾燥によって行われることが好ましい。
【0037】
本発明の第十九の態様は、前記第十四の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、前記第十六の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、前記第十七の態様にかかるタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0038】
本発明の第二十の態様は、前記第十四の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、前記第十六の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、前記第十七の態様にかかるタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0039】
本発明の第二十一の態様は、前記第十四の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、前記第十六の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、前記第十七の態様にかかるタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0040】
本発明の第十九〜第二十一の態様において、酵素反応に供される溶液のpHは酵素反応が迅速に進行する範囲であることが好ましい。例えば、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する場合にあっては、酵素反応に供される溶液のpHを5.5程度とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明の酵素活性を有する乾燥粉末は、米糠に含浸させた溶液を回収し、さらにその溶液を乾燥する操作のみで得ることができるため、比較的簡便に得ることができる。また、乾燥粉末を得るための前駆体である抽出液や、当該抽出液を氷結させた氷結体についても十分な酵素活性を有しており、γ−アミノ酪酸の製造等に直接用いることができる。
【0042】
これら抽出液、氷結体、または乾燥粉末は米糠と比較して高濃度で酵素を含むため、これらを用いてアミノ酸や糖類の製造を行えば、米糠を用いて製造する場合と比べて酵素源としての使用量をはるかに少なくすることができる。従って、酵素反応時における撹拌動力、その後のろ過等の分離操作における負荷の軽減が可能になり、高効率かつ高収率で酵素反応を行うことができる。また、酵素の濃度を高くしたい場合においても、装置内における粒子の沈着等による閉塞を生じることなく安定に運転ができる。
【0043】
さらに、酵素活性を維持しながら試料を保存する場合、米糠においては酸化反応、発酵を抑制するために温度や湿度をある程度低く保つ必要がある。このため、かさ密度が比較的小さい米糠の場合には保存用の容器容積を大きくする必要がある。また、米糠の成分を浸出させた酵素を含む溶液として保存する場合においては、微生物群の増殖等による酵素活性の低下が懸念されるため、低温での管理が必要とされる。これに対し、本発明で得られる抽出液、氷結体、または乾燥粉末を用いる場合には、米糠よりも少ない体積で保存することができる。さらに乾燥粉末については、乾燥状態のため常温でも良好な酵素活性を維持したまま保存ができることなど、その扱いが簡便となる利点を有する。従って、本発明により周辺設備の軽減、エネルギー消費量の抑制等が期待でき、コスト削減に大きく寄与する。
【0044】
特に、乾燥粉末の吸湿割合が6質量%以下かつ乾量基準の質量減少率が13質量%以下とすれば、乾燥粉末は酵素反応に有利に作用する。
【0045】
また、基質としてγ−アミノ酪酸を製造するためのグルタミン酸とともに、糖類を生成するための基質、例えばでんぷん等などを添加して酵素反応を行うと、基質の分解により甘み成分である糖類が系内に生成・蓄積されるため、γ−アミノ酪酸の生成に伴う苦みの食感を和らげることが可能になる。また、本発明の製造方法によれば、反応時間が短縮可能で、コストダウン可能な、γ−アミノ酪酸等の製造方法とすることができる。
【0046】
さらに、抽出液のpHを所定値に調整することで、抽出液から不要なタンパク質を取り除くことができ、結果として米糠由来のタンパク質含有量の少ない食品等の開発が可能となる。従って、米タンパク由来のアレルギーに対するリスクを低減させることができる。また、タンパク質を取り除く際、抽出液を氷冷することで、タンパク質の除去効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液、当該抽出液を乾燥して得られる、酵素活性を有する乾燥粉末(以下単に乾燥粉末ともいう。)、抽出液を氷結して得られる氷結体、およびその製造方法、ならびにタンパク質除去方法について詳細に説明する。
【0048】
本発明の抽出液、乾燥粉末、および氷結体は、米糠を原料とするものであり、米糠としては、家庭用の小型簡易精米機、さらには大型の業務用精米機などから得られるような一般的な米糠を使用することができる。米糠の平均粒子径も後の抽出操作において抽出液と分離可能な粒径であれば特に制限されない。また、米の粉が混じったものでも使用できる。
【0049】
米糠は、まず溶媒に含浸される。溶媒としては、米糠中の酵素を浸出させることができるものであればよいが、本発明の乾燥粉末を利用して食品や医薬品等を製造する場合の安全性を考慮すると、水を用いることが好ましい。米糠と溶媒の比率、含浸温度、含浸時間等については、そのパラメーターの組み合わせによって適宜最適化されるが、含浸温度については、目的の酵素が失活しない温度域となるように制御される。
【0050】
米糠の含浸によって酵素が浸出した溶媒含浸物は、米糠残渣を分離することによって酵素を含有する抽出液とされる。溶媒含浸物から米糠残渣を分離する方法に特に制限はなく、例えば遠心分離操作や圧搾操作が挙げられる。
【0051】
上述の米糠を溶媒に含浸する際に、あらかじめ米糠を網状の物質に内包させておくと、抽出操作が容易となるため好ましい。網状の物質としては、例えば200メッシュのナイロン製網などが挙げられる。溶媒に溶解せず、米糠残渣がメッシュから漏れないようなものであれば、材質、メッシュサイズはこれに限るものではない。米糠を網状の物質に内包させている場合、溶媒含浸物から米糠残渣を分離することによって抽出液を得る操作は、遠心分離による脱水操作が簡便であるが、圧搾操作による溶液の回収も可能である。得られる抽出液は、米糠残渣の分離方法にもよるが、通常、コロイド状態の微小固体物質が分散された、白濁した溶液である。
【0052】
得られた抽出液には上記のようにコロイド状物質が含有されていることから、その溶液の塩濃度あるいはpHを調整することにより、コロイド状物質の析出量を増加させ、溶液中のコロイド状物質の濃度を低下させることが可能となる。これによりタンパク質を除去する場合は、溶液のpHを除去の対象となるタンパク質の等電点に調整するとその除去効率が向上する。特にγ−アミノ酪酸の生成速度が速くなるpH付近において等電点沈澱操作を行うと、γ−アミノ酪酸の製造を効率よく行うことができるとともに、γ−アミノ酪酸の製造時にタンパク質含有量が抑制された製品を得ることができる。この場合において、pHは5以上7以下の範囲に調整されることが好ましい。米由来のタンパク質を取り除くことで、アレルギーのリスクを低下させ、最終製品の品質を向上させることができる。
【0053】
得られた抽出液を凍結させることで、酵素活性を有する氷結体とすることもできる。氷結体を得るにあたって、コロイドを含む上記抽出液をそのまま凍結させてもよく、また、上記等電点沈澱操作により、抽出液のうちコロイド凝集体を除いた上澄み液のみを凍結させ、タンパク質が除去された氷結体としてもよい。いずれの氷結体であっても、十分な酵素活性を有する。凍結方法としては、得られた抽出液を凍結可能な方法であれば特に限定されない。
【0054】
抽出液中のコロイドを凝集させる際は、例えば、コロイドを含む抽出液を氷冷することで、コロイドの凝集を促進させることができる。氷冷により効率よくコロイド凝集体とすることで、上澄み液とコロイド凝集体とを効率よく分離することができ、かつ、タンパク質含有量が低下した溶液を容易に得ることができる。
【0055】
得られた抽出液または氷結体は、乾燥することによって酵素活性を有する乾燥粉末とされる。乾燥の際には、凍結乾燥を行うことが好ましく、抽出液の予備冷凍として寒剤による冷凍を行うことが望ましい。使用する寒剤は溶液を凍結するのに十分な冷却能力を有するものであればどのようなものを使用してもよく、メタノール−氷程度の冷却効果を有する寒剤でも十分利用可能である。
【0056】
得られる乾燥粉末は、通常、米糠質量基準の収率が5〜20質量%であり、該乾燥粉末の吸湿割合が6質量%以下でかつ乾量基準の質量減少率が13質量%以下であることとすると、乾燥粉末の扱いが容易で、かつ品質の安定した、酵素活性の高い乾燥粉末とすることができるので好ましい。
【0057】
また、等電点沈澱法によりコロイド状物質の分離を行った溶液を用いる場合においては、通常、米糠質量基準の3〜10質量%の乾燥粉末が得られる。
【0058】
上記手法により得られた本発明の抽出液、氷結体、または乾燥粉末を用いてグルタミン酸からγ−アミノ酪酸を生成する場合、所定の濃度、pHに調製したグルタミン酸水溶液中に所定量の乾燥粉末を添加し、酵素反応の活性を示す温度域の下で所定時間反応操作を行う。反応操作は連続型、回分型いずれの反応器を用いてもよい。中でも、高濃度のγ−アミノ酪酸を得るためには回分型反応器を用いることが好ましい。また、得られるγ−アミノ酪酸の濃度は、基質として添加したグルタミン酸の濃度、該物質の添加量、反応時間等の操作条件を変えることで制御が可能である。
【0059】
本発明の抽出液、氷結体、または乾燥粉末を用いてγ−アミノ酪酸を生成する際、イオン交換膜を用いた透析を行うことで、酵素反応と分離操作を同時に行うこともできる。特に、回分型反応器とイオン交換膜を用いた透析槽からなる組み合わせ型反応器により、γ−アミノ酪酸を含む溶液を製造すると同時に分離を行うと、非常に効率よくγ−アミノ酪酸が製造できるため好ましい。また、透析操作としては、拡散透析、電気透析等が挙げられる。透析槽は単膜または複数の膜から構成される室を有する装置で、少なくとも膜の一面に乾燥粉末を分散あるいは溶解した反応溶液を供給し、また反対側には透過物質を回収する溶液を流すことが好ましい。なお用いる膜は拡散透析法の場合には陽イオン交換膜が望ましい。
【0060】
供給側の溶液は、酵素の機能が発現する基質を含む溶液であれば、特に固定されるものではない。また、回収側の溶液は、酸、アルカリ、中性の電解質溶液いずれの溶液でも可能であるが、透過速度、膜の選択透過性は反応溶液のpHさらには回収側溶液のpHで大きく変わるため、目的に合わせた溶質を含む溶液を選択することが望ましい。
【0061】
透析槽の運転は、酵素反応の反応速度、目的物質の膜透過速度を考慮した場合、反応側回収側とも回分循環方式が好ましい。十分な溶液量および膜面積を確保できる場合には連続型の運転も可能である。
【0062】
米糠中にはグルタミン酸脱炭酸酵素の他、アミラーゼをはじめとした複数の酵素が含まれていることが知られている。従って、例えば、でんぷん含有水溶液に本発明の乾燥粉末を添加し、酵素反応の活性を示す温度域の下で所定時間反応操作を行えば、乾燥粉末中のアミラーゼの作用により還元糖を得ることができる。この場合における好ましい反応操作や分離操作の条件は、上述のγ−アミノ酪酸の生成分離の場合と同様である。
【0063】
また、本発明の抽出液、氷結体、乾燥粉末の食品への応用を考える場合、グルタミン酸をγ−アミノ酪酸に変換すると、グルタミン酸減少による旨味の減少および、γ−アミノ酪酸の生成に伴う苦みの増加が生じ、食品の有する本来の味が変化することが考えられる。そのような場合、基質としてグルタミン酸の他に、酵素によって還元糖を生成するような、でんぷん、グリコーゲン、デキストリンなどのグルカンを主鎖とする多糖類を同時に添加、あるいはグルカンを含む穀物由来の食品に粉末を添加することで、酵素反応による還元糖の生成によりγ−アミノ酪酸の生成に伴う苦みを和らげることが可能になる。例えば、本発明の乾燥粉末を、グルタミン酸を多く含むスープ、さらには発酵によって生成した大量のアミノ酸を含む、なれ鮨や麹漬け等の発酵食品に添加すれば、アミノ酸の含有率と種類を変えつつ、味を改善することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はその要旨を超えない限り、以下に示す実施例の形態に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)酵素活性を有する乾燥粉末の製造
粒子径500〜840μmの米糠15g〜80gを上記のメッシュに内包した後、ビーカー中でそれぞれ水30ml〜160mlに含浸し、その後40℃の恒温槽内で30分間静置した。静置後、米糠を含む水含浸物をメッシュごと遠沈管に挿入し、高速冷却遠心機を用いて4℃の下、3000rpmで10分間固液分離操作を行った。回収した液体状態の米糠浸出物を抽出液とした。回収した抽出液は、凍結乾燥を行うために予備凍結された。予備凍結操作は、抽出液をガラス製容器等に移し、メタノール−氷(1:1)寒剤を使用して行った。予備凍結を行った上記の容器を凍結乾燥機に接続し、引き続いて凍結乾燥操作を行った。図1に上記手法の手順をまとめたフローチャート図を示すと共に、表1に同手法により得られた乾燥粉末の量と収率を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
米糠質量基準の乾燥粉末の収率(質量%)すなわち元の米糠の質量に対して得られた乾燥粉末の質量の割合は、6.7〜16.3質量%であった。同じく表1より、乾燥粉末の吸湿割合(質量%)すなわち得られた乾燥粉末を26℃、75%RHの環境に3時間放置して、放置前の乾燥粉末の質量に対して質量が増加した割合は、5.2%および5.5%であった。これらの値は、乾燥粉末を市場流通した際に、空気中の水分を吸湿し、平衡水分量に達する際の値とほぼ同じであると考えられる。
【0068】
また、同じく表1より、前記乾燥粉末を吸湿させたものを、さらに103℃の常圧下で3時間乾燥して、それぞれ加熱質量減少率(質量%)すなわち前記乾燥粉末を吸湿させたものの質量に対して質量が減少した割合を測定したところ、10.6質量%および11.3質量%であった。これらの加熱質量減少率と前記乾燥粉末の吸湿割合との差は、乾燥粉末に含まれている水分以外の揮発成分の量であると考えられる。
【0069】
さらに、得られた乾燥粉末の性質を調べるため、粉末0.35gを蒸留水50mlに添加し、溶液中に溶解する成分をOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析を行った場合のクロマトグラムを図2に示す。図より、グルタミン酸ならびにγ―アミノ酪酸等の存在を確認することができる。
【0070】
(実施例2)抽出液、乾燥粉末、または氷結体を用いたγ−アミノ酪酸の製造
実施例1で製造した抽出液、乾燥粉末、または抽出液の氷結物(氷結体)の酵素活性を確認するために、グルタミン酸の濃度が1mol/m3の水溶液(図5の実験においては1.5mol/m3)を100ml調製し、これに抽出液10ml、または乾燥粉末0.75g、あるいは得られた抽出液10ml相当を氷結した物質を添加して、温度40℃、pH5.5の条件の下でγ−アミノ酪酸の生成を目的とした酵素反応を行った。その結果をアミノ酸の濃度の経時変化を示すグラフとして図3〜5に示す。抽出液を用いた場合が図3、乾燥粉末を用いた場合は図4、さらに氷結体を用いた場合の結果は図5である。図3および図5において○は生成したγ−アミノ酪酸、●はグルタミン酸である。また、図4において●は生成したγ−アミノ酪酸、○はグルタミン酸、△はアスパラギン酸、□はアラニンである。
【0071】
図3より、乾燥操作前の抽出液を用いた場合であっても、酵素が液体中に含有されているため、グルタミン酸からγ−アミノ酪酸を製造することが可能であることがわかる。また、図4より、乾燥粉末を投入した直後に急激なグルタミン酸の減少が生じると共に、それに対応して溶液中にγ−アミノ酪酸が生成していることがわかる。また、表1より、本実施例で使用した乾燥粉末0.75gには米糠約5gから浸出させた量に相当する酵素を含むことから、添加物質量あたりの生成効率は約7倍向上したことがわかる。よって、実施例1で製造した抽出液、および乾燥粉末の酵素活性、および乾燥粉末を用いてγ−アミノ酪酸を製造した場合の効率の優位性が実験的に実証された。また図5は氷結体を用いてグルタミン酸からγ―アミノ酪酸を製造した実験結果であるが、抽出液、乾燥粉末を用いた場合と同様にグルタミン酸からγ−アミノ酪酸が生産されることが分かる。
【0072】
さらに、乾燥粉末の優位的な特徴を確認するために、実施例1で得られた凍結乾燥前の抽出液を、(a)常温で一日静置した場合(◎)、(b)4℃の下で一日静置した場合(○)、及び(c)実施例1で得られた乾燥粉末を容器に入れて二日間常温で保存した場合(●)について、それぞれの物質を用いて酵素反応を行うとともに酵素活性に与える保存状態の影響について評価を行った。その結果を図6の溶液中におけるγ−アミノ酪酸の濃度の経時変化を表すグラフに示す。
【0073】
図6より、米糠抽出液を常温下で一日保存した後に酵素反応を行った場合には、γ−アミノ酪酸の濃度(◎)の増加がほとんど観測されず、同条件下では酵素活性はかなり低下していることがわかる。また、4℃の下で抽出液を一日保存した後に酵素反応を行った場合には、時間の経過とともにγ−アミノ酪酸の濃度(○)が増加していることから、ある程度の酵素活性の存在が認められた。さらに、容器に入れて二日間常温で保存した凍結乾燥粉末を用いた場合には他の2つの場合よりγ−アミノ酪酸の濃度(●)が高かった。従って、保存の仕方によっては抽出液の酵素活性が劣化し得ることが明らかになるとともに、長期保存する場合にあっては、実施例1で製造した乾燥粉末が優位的な特徴を有することが明らかとなった。一方で、図3〜5の結果より、乾燥粉末を得るまでに経る液体、凍結物、乾燥粉末の各物質の製造初期における酵素活性にはあまり大きな差が見られないことが分かった。
【0074】
乾燥粉末の酵素活性が高い直接的な理由についてはまだ明らかではないが、米糠あるいは胚芽周りには乳酸菌をはじめとする微生物群が存在していることから、米糠を適度な温度の下で溶液へ分散、あるいは適度な湿度の下で扱う場合にはこれらの微生物群が増殖し、結果として目的とする酵素反応を阻害、抑制すると考えられる。しかし、凍結乾燥を行って乾燥粉末の状態では、微生物群が増殖しないため、酵素反応の活性が維持されるものと考えられる。
【0075】
(実施例3−1)乾燥粉末を用いた還元糖の製造(1)
実施例1で製造した乾燥粉末の酵素活性を確認するために、でんぷんの濃度が1質量%および2質量%の水溶液をそれぞれ200ml調製し、これに乾燥粉末を約0.4g添加して温度40℃、pH6.5の条件の下で還元糖の生成を目的とした酵素反応を行った。その結果を還元糖濃度の経時変化を示すグラフとして図7に示す。○はでんぷんの濃度が1質量%におけるグルコースを基準とした還元糖の濃度、●がでんぷんの濃度が2質量%におけるグルコースを基準とした還元糖の濃度である。図7より、反応初期において急激に還元糖が生成し、時間の経過とともにやがて反応は平衡に達する傾向を示していることがわかる。
【0076】
(実施例3−2)乾燥粉末を用いた還元糖の製造(2)
実施例3−1と同様の手法により、実施例1で製造した乾燥粉末の酵素活性を確認するために、でんぷん濃度が10質量%の水溶液を200ml調製し、これに乾燥粉末を約4g添加して温度40℃の条件の下で還元糖の生成を目的とした酵素反応を行った。その結果をグラフとして図8に示す。△はグルコース濃度を基準とした還元糖の濃度である。図8より、でんぷんの濃度および粉末添加量を多くすると、生成される還元糖の濃度およびその生成速度は実施例3−1の結果より大幅に増加していることがわかる。
【0077】
(実施例3−3)乾燥粉末を用いた還元糖の製造(3)
実施例3−1と同様の手法により、実施例1で製造した乾燥粉末の種々の基質に対する酵素活性を確認するために、グルカンの一種であるβ−シクロデキストリンの濃度が1.5質量%の水溶液を200ml調製し、これに乾燥粉末を約0.4g添加して温度40℃の条件の下で還元糖の生成を目的とした酵素反応を行った。その結果をグラフとして図9に示す。◇はグルコース濃度を基準とした還元糖の濃度である。図9より、でんぷん以外のグルカンであるβ―シクロデキストリンを基質として用いた場合でも、還元糖は時間の経過とともに生成することがわかる。
【0078】
(実施例4)乾燥粉末を用いて還元糖とγ―アミノ酪酸を同時に製造する方法
乾燥粉末を用いてでんぷんとグルタミン酸の複合基質系においてγ―アミノ酪酸と還元糖の同時製造に関する実証試験を行った。図10に、グルタミン酸の濃度を1mol/m3、でんぷんの初濃度を10質量%、乾燥粉末添加量を0.75質量%、温度40℃、pH5.5の下で酵素反応を行った場合の、グルタミン酸(●)、γ―アミノ酪酸(○)、還元糖(△)の濃度の経時変化を示す。図10より、複合基質系で酵素反応を行った場合においても酵素反応は良好に進行することがわかる。この結果より、本手法により得られる溶液は、反応初期よりも甘みが増したγ―アミノ酪酸含有水溶液として得られることが実証された。
【0079】
(実施例5)乾燥粉末を用いた場合の反応条件の影響について
乾燥粉末を用いて、種々の酵素反応を行う場合、酵素によって至適条件が異なるため特に複合基質系においては操作条件の設定は重要になる。本手法で製造される還元糖は実施例の結果から主にアミラーゼにより製造されると推測されるため、その至適pHの範囲は比較的広範囲であると考えられる。しかし、γ−アミノ酪酸を製造する場合の至適pHについては明らかではない。そこで図11、12にpHを5.5および7に調整して実験を行った場合のγ−アミノ酪酸の生成特性を示す。なお、実験条件は温度40℃、グルタミン酸の濃度1mol/m3、浸出物添加量0.75質量%であり、pH5.5の場合を図11に、pH7の場合を図12に示した。図より、pH5.5の場合は酵素反応が量論的に比較的速く進行するものの、pH7においては、初期においてγ―アミノ酪酸は生成するが、その反応速度は極端に低下することがわかる。よって、本実験条件であるpH5.5付近で酵素反応をすることで、γ―アミノ酪酸の製造効率は大きく向上することがわかる。また、還元糖を生成するためのでんぷんを加えて複合基質系で実験を行った実施例4の結果を鑑みると、γ―アミノ酪酸と還元糖を同時に製造する場合でもpHは5.5付近で行うことが望ましいといえる。
【0080】
(実施例6−1)等電点沈殿操作によりタンパク質を分離した乾燥粉末を得る方法
粒子径500〜840μmの米糠15gをナイロン製のメッシュに内包した後、ビーカー中で水30mlに含浸し、その後40℃の恒温槽内で10分間静置した。静置後、米糠を含む水含浸物をメッシュごと遠沈管に挿入し、遠心機を用いて1000rpmで10分間固液分離操作を行った。回収した抽出液は、コロイドを含む液体状態の米糠浸出物に相等する。
【0081】
回収した抽出液は2倍量の蒸留水中に希釈した後、塩酸を用いてpHを5.5に調整し、さらに氷浴場で20分間冷却するとともに静置した。その後、凝集、沈降したコロイド状物質を含む液をろ過し、その上澄みを回収し、乾燥粉末の前駆体物質として得た。なお、pH調整にあたっては、得られる溶液の用途に応じて他の無機酸、あるいはクエン酸等の有機酸などを用いることも可能であり、特に塩酸に固定されるものではない。
さらに、凍結乾燥物を得るために前記の前駆体物質を凍結し、氷結状の固体物質を得た。なお、凍結操作は、メタノール−氷程度の冷却能力を有する寒剤を用いることでも可能である。氷結状の物質はその後凍結乾燥操作により粉末化されるが、凍結乾燥を行うまでの凍結保存時間については特に制限はなく、乾燥粉末を得る前に長期にわたり氷結物としての保存も可能である。表2に得られる凍結乾燥物の収率を示す。表よりタンパク質を等電点沈殿法により除去した乾燥粉末の収率は約4―10質量%程度であることがわかる。
【0082】
【表2】
【0083】
(実施例6−2)得られた乾燥粉末の特徴
得られた乾燥粉末の性質を調べるため、粉末0.35gを蒸留水50mlに添加し、溶液中に溶解する成分についてOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析を行った場合のクロマトグラムを図13に示す。図より、グルタミン酸ならびにγ―アミノ酪酸等の存在を確認することができる。また、得られた等電点沈殿操作によりタンパク質を除去した乾燥粉末を蒸留水に溶解し、ローリー法により水溶性のタンパク質量を求めることで乾燥粉末重量基準の濃度として表した結果を、等電点沈殿操作を行わずに得た乾燥粉末の結果とともに表3に示す。表より、簡単な等電点沈殿操作を行うのみで、乾燥粉末中に含まれる水溶性タンパク質の量は未処理の粉末に比べ17%程度減少し、品質が向上した事が分かる。なおこの測定結果は天然物を対象として調製を行った粉末を用いた結果であることから、米糠種類等の違いにより増減するものと考えられる。また本例で得られた乾燥粉末は糠臭さが減少し、しかも米の風味が感じられた。
【0084】
【表3】
【0085】
さらに前記前駆体物質の氷結体についてHPLCにより分析を行った場合のクロマトグラムを図14に示す。この図においても、グルタミン酸ならびにγ―アミノ酪酸等の存在を確認することができる。
【0086】
図15に、前記溶液の温度を40℃、pH5.5に設定し、基質を加えずに蒸留水中と乾燥粉末のみでγ―アミノ酪酸の生成実験を行った結果を示す。図より、乾燥粉末前駆体を得る過程で生成したと考えられるγ−アミノ酪酸が蒸留水中に溶解しているものの、その濃度は時間が経過してもほぼ一定の値を示す。また、基質となり得るグルタミン酸の濃度は実験時間中低い濃度で推移していることから、米、あるいは米糠中のタンパク質がプロテアーゼ等の作用によりグルタミン酸を生成し、さらにその一部をギャバに変換するような反応経路はほとんど機能していないことがわかる。この結果より、本手法で得た乾燥粉末を用いてγ−アミノ酪酸を製造する場合には、基質を添加する必要があり、この点では米糠を直接用いてγ―アミノ酪酸を生成する手法とは大きく異なるといえる。
【0087】
表4に、上記の実験終了後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いて全量ろ過し、溶液中に存在するコロイドの量を測定した結果を示す。この結果より、添加した乾燥粉末の80質量%は水に溶解し、残りの20質量%程度がコロイドを形成していたことがわかる。
【0088】
【表4】
【0089】
(実施例7)タンパク質が除去された乾燥粉末を用いたγ−アミノ酪酸の製造
図16に乾燥粉末0.75gを1mol/m3のグルタミン酸を含む水溶液100mlに添加し、温度40℃、pH5.5のもとで酵素反応を行った結果を示す。図より、時間の経過とともにグルタミン酸が減少すると共にγ―アミノ酪酸が生成し、酵素反応が進行していることがわかる。
【0090】
(実施例8)抽出液を用いたγ―アミノ酪酸および還元糖の製造
図17に米糠5gを蒸留水10mlで浸出し、その際に得られる抽出液約10mlを濃度0.7mol/m3のグルタミン酸およびでんぷん10質量%を含む溶液100mlに添加し、γ―アミノ酪酸の生成挙動を追跡した結果を示す。図より、液状物質を用いた場合でも添加したグルタミン酸を基質としてγ―アミノ酪酸の生成が可能であることがわかる。また、実験終了後の溶液中には還元糖が約11.5mol/m3程度存在し、抽出液を用いた場合でもグルタミン酸とでんぷんを基質としてγ−アミノ酪酸と還元糖の同時生産が可能であることがわかった。
【0091】
また図18に米糠5gを水10mlで浸出させ、その後蒸留水を満たして100mlに調製した溶液を塩酸でpH5.5に調整して等電点沈殿操作を行い、得られた上澄み液20mlを1.4mol/m3のグルタミン酸を含む水溶液60mlに添加し、γ−アミノ酪酸の生成挙動を追跡した結果を示す。図より、等電点沈殿操作を行った上澄み溶液を使用した場合でもγ―アミノ酪酸の生成が確認され、酵素活性を有する粉末状の物質の前駆体においてもγ―アミノ酪酸を製造する酵素の活性が保持されていることがわかる。
【0092】
さらに図19に米糠5gを水10mlで浸出させ、その後蒸留水を満たして30mlに調製した溶液を塩酸でpH5.5に調整して等電点沈殿操作を行い、得られた上澄み液20mlを凍結させて得られた氷結体について、1.4mol/m3のグルタミン酸を含む水溶液60mlに添加し、γ−アミノ酪酸の生成挙動を追跡した結果を示す。○が生成したγ−アミノ酪酸の濃度である。図より、等電点沈殿操作を行った上澄み溶液を凍結した氷結体を使用した場合でもγ―アミノ酪酸の生成が確認され、酵素活性を有する粉末状の物質の前駆体においてもγ―アミノ酪酸を製造する酵素の活性が保持されていることがわかる。
【0093】
(実施例9)乾燥粉末を用いた酵素反応器と透析槽を組み合わせた反応器でのγ−アミノ酪酸の製造方法
まず図20に示す2室からなる透析槽の中央に陽イオン交換膜(CM)を配置し、次に実施例1で得られた乾燥粉末0.75gを1mol/m3の濃度、pH=5.5に調製したグルタミン酸水溶液200mlに溶解させ、温度40℃の下で、図20に示すタンクTからFeed側FにポンプPを介して供給すると共に、反対側のStrip側Sにはもう一方のタンクTから1.2mol/m3の濃度に調製した塩酸水溶液をポンプPにより循環させ、酵素反応とアミノ酸の分離操作を同時に行った。
【0094】
図21に組み合わせ反応器による実験結果の一例として、Strip室におけるアミノ酸濃度の経時変化をグラフに示す。○はγ−アミノ酪酸、●はグルタミン酸、△はアスパラギン酸、□はアラニンである。図より、透析開始初期においてはグルタミン酸が膜を優先的に透過してストリップ側に回収されるものの、その後時間の経過とともにγ−アミノ酪酸の透過速度が増加し、3時間以降ではγ−アミノ酪酸が優先的に膜を透過し回収されることが実証された。なお、用いた陽イオン交換膜は、分子量が数百以上のタンパク質などの物質は膜を透過することができない特徴を有するため、本手法では、ストリップ側溶液中のタンパク質濃度を極めて低くすることが可能になる。
【0095】
(参考例1)米糠を用いた酵素反応器と透析槽を組み合わせた反応器でのγ−アミノ酪酸の製造方法
実施例9と同様の装置を用い、Feed側に米糠5gを含む懸濁液の溶液を流し、Strip側の溶液に塩酸水溶液または塩化ナトリウム水溶液を用いて実験を行った。図22にStrip溶液として12mol/m3の塩酸水溶液を用いた場合、および図23に10mol/m3の塩化ナトリウム水溶液を用いた場合について、Strip側に透過するアミノ酸濃度の経時変化を示す。○はγ−アミノ酪酸、●はグルタミン酸、△はアスパラギン酸である。
【0096】
図22、図23より、いずれのStrip溶液を用いた場合においても酵素活性を有する乾燥粉末を用いた場合と同様に酵素反応により生成したγ−アミノ酪酸がイオン交換膜を透過しStrip側に回収されることがわかる。また、Strip溶液における溶質の種類によりイオン交換膜の選択透過性ならびに膜透過速度が変わることがわかる。よって、実施例9で使用した組み合わせ反応器は酵素活性を有する乾燥粉末を用いたγ−アミノ酪酸製造と分離のみならず、米糠を利用した場合の生産製造と分離にも応用できること、ならびにその透過速度はStrip側の溶液における溶質の種類等により制御できることが実験的に実証された。
【0097】
(参考例2)乾燥粉末を用いた食品の製造
実施例1で得られた乾燥粉末を実際の食品に添加して、食品中のグルタミン酸(●)およびγ―アミノ酪酸(○)の濃度の経時変化を測定した。図24は酒粕26質量%を水74質量%としたものに乾燥粉末1gを添加したもの、図25は市販のビール酵母(キリンヤクルトネクストステージ社製)3gに対し、乾燥粉末0.5gを水100ccに溶かしたものを添加したもの、図26は培地用酵母エキス0.26gに対し、乾燥粉末0.5gを水100ccに溶かしたものを添加したもの、図27は調整豆乳5ccを水50ccで希釈したものに、乾燥粉末0.5gを添加したもの、図28はウーロン茶の茶葉3gを250ccのお湯で5分間浸出し、その後33℃まで冷却、さらにその溶液50ccに対し乾燥粉末0.05g添加した場合の結果を表す図である。なお図24〜27はpH5.5の下で行った結果、図28はpH無調整(6.2)の条件で行った結果である。図24〜26から明らかなように、いずれもグルタミン酸(●)の減少とγ―アミノ酪酸(○)の増加が見られることからグルタミン酸からγ―アミノ酪酸への転換を引き起こすと考えられる。また図27においてもγ―アミノ酪酸(○)の増加が見られる。さらに、図28においてもウーロン茶中のグルタミン酸がギャバに変換されていることがわかる。
また、図29に酒粕11gを水100ccで希釈し、乾燥粉末を添加せずにアミノ酸の濃度の経時変化を追跡した結果を示す。図より酵素源を添加しない場合には、グルタミン酸もγ−アミノ酪酸も濃度変化が見られないことがわかる。よって図24〜28で見られるγ−アミノ酪酸の濃度の増加は、酵素源である乾燥粉末が食品中のグルタミン酸をγ―アミノ酪酸へ転換したためと考えられる。
【0098】
(参考例3)氷結体の特性
図30に、米糠浸出液を凍結した氷結体についてOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果をあらわすグラフを示す。図より、γ−アミノ酪酸およびグルタミン酸等の存在を確認することができる。また、図31に米糠浸出液について凍結前後におけるUVスペクトル分析データを示す。図から明らかなように、本発明にかかる氷結体は、凍結前後において共通するスペクトルデータを有しており、共通する組成を有することが分かる。このことからも、氷結体が米糠由来の酵素活性を有することが明白である。
【0099】
(参考例4)等電点沈殿操作を併用して得られた溶液、等電点沈殿操作を行わずに得た浸出液の特性
図32に等電点沈殿操作を行って得られた酵素を含む溶液、図33に等電点沈殿操作を行わずに得た酵素を含む溶液について、OPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すグラフである。図よりいずれの溶液においてもグルタミン酸とγ―アミノ酪酸等の存在を確認することができる。
【0100】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う酵素活性を有する乾燥粉末およびその製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】酵素活性を有する乾燥粉末の調製方法の概略を説明したフローチャートである。
【図2】乾燥粉末を溶液に溶解させた場合における、溶液中に溶解する成分をOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析を行った場合のクロマトグラムである。
【図3】米糠抽出液を用いてγ−アミノ酪酸の製造を行った場合の経時変化を示すグラフである。
【図4】乾燥粉末を用いた酵素反応における各種アミノ酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図5】氷結体を用いてγ−アミノ酪酸の製造を行った場合の経時変化を示すグラフである。
【図6】米糠抽出液を溶液で保存した場合と凍結乾燥粉末として保存した場合の酵素活性の違いを示すグラフである。
【図7】乾燥粉末を用いた酵素反応における還元糖の経時変化を示すグラフである。
【図8】乾燥粉末を用いた酵素反応における還元糖の経時変化を示すグラフである。
【図9】乾燥粉末を用いた酵素反応における還元糖の経時変化を示すグラフである。
【図10】でんぷん−グルタミン酸複合基質系において、還元糖とγ−アミノ酪酸製造を同時に行った場合の生成物濃度の経時変化を示すグラフである。
【図11】pH5.5においてγ−アミノ酪酸の製造を行った場合の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図12】pH7においてγ−アミノ酪酸の製造を行った場合の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図13】等電点沈殿法を併用して得られた乾燥粉末を、OPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すクロマトグラムである。
【図14】等電点沈殿操作を併用して得られた氷結体を、OPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すクロマトグラムである。
【図15】等電点沈殿法を併用して得られた乾燥粉末を蒸留水に添加し、基質を加えずにγ−アミノ酪酸の生成挙動を追跡した結果を示すグラフである。
【図16】等電点沈殿法を併用して得られた乾燥粉末を用いてγ―アミノ酪酸の生成挙動の追跡を行った場合のアミノ酸濃度の経時変化を表すグラフである。
【図17】米糠を水浸出した溶液を用いて複合基質系において酵素反応を行った場合のγ―アミノ酪酸濃度の経時変化を表すグラフである。
【図18】等電点沈殿法によりタンパク質濃度を低下させた溶液を用いて酵素反応を行った場合のγ―アミノ酪酸の生成挙動を追跡した場合の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図19】等電点沈殿法を併用して得られた氷結体を用いてγ―アミノ酪酸の生成挙動の追跡を行った場合のアミノ酸濃度の経時変化を表すグラフである。
【図20】回分反応器とイオン交換膜を用いた透析槽を組み合わせた装置の概略図である。
【図21】実施例9におけるStrip側溶液中のアミノ酸濃度の経時変化を表すグラフである。
【図22】参考例1におけるStrip側に塩酸水溶液を流した際の、Strip側溶液中のアミノ酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図23】参考例1におけるStrip側に塩化ナトリウム水溶液を流した際の、Strip側溶液中のアミノ酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図24】乾燥粉末を酒粕希釈液中に添加した場合における、溶液中のグルタミン酸濃度およびγ−アミノ酪酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図25】乾燥粉末を市販ビール酵母を含む水溶液中に添加した場合における、溶液中のグルタミン酸濃度およびγ−アミノ酪酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図26】乾燥粉末を培地用酵母エキスに添加した場合における、溶液中のグルタミン酸濃度およびγ−アミノ酪酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図27】乾燥粉末を調整豆乳中に添加した場合における、溶液中のグルタミン酸濃度およびγ−アミノ酪酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図28】乾燥粉末をウーロン茶の茶葉を浸出した溶液に添加した場合における、お茶溶液中のグルタミン酸濃度およびγ―アミノ酪酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図29】乾燥粉末を添加しない場合における、酒粕希釈液中のグルタミン酸とγ−アミノ酪酸の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図30】米糠浸出液の氷結体について、OPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すクロマトグラムである。
【図31】米糠浸出液の凍結前後にかかるUVスペクトル分析結果を示す図である。
【図32】等電点沈殿操作を併用して得た溶液をOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すクロマトグラムである。
【図33】米糠浸出液についてOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すクロマトグラムある。
【符号の説明】
【0102】
F Feed
S Strip
CM 陽イオン交換膜
P ポンプ
T タンク
B 恒温槽
【技術分野】
【0001】
本発明は、米糠を溶媒に含浸させて得られる、酵素活性を有する乾燥粉末、抽出液、および氷結体と、当該乾燥粉末等を用いて得られるγ−アミノ酪酸および還元糖と、これらの製造方法とに関する。また、本発明は、酵素活性を有する乾燥粉末、抽出液、および氷結体の品質向上方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
酵素は我々の生活を支える重要な物質であり、洗剤をはじめとする日用品から医薬品の製造まで幅広く利用されている。中でも、酵素を利用して製造された食品は、化学調味料を使用して製造した食品とは異なり、種々の生理活性を有する化合物が含有されることから、近年機能性健康食品としての需要が年々増加している。例えば、グルタミン酸の酵素反応によって製造されるγ−アミノ酪酸は、降圧効果あるいはリラックスをもたらす効果があるアミノ酸として最近着目され、現在では種々の食品、サプリメントなどに添加されるに至っている。
【0003】
ところで、米を精米する過程で生じる米糠中には様々な酵素が存在し、グルタミン酸脱炭酸酵素のほか、アミラーゼなど複数の酵素の存在が報告されている。そのため、これまで廃棄物として処理されていた物質を有効に利用するという観点から、これら米糠中に存在する酵素の利用に関する研究が行われてきている。
【0004】
米糠を利用してγ−アミノ酪酸を製造する手法、技術については既にいくつかの特許が公開されている(特許文献1−5)。これらの手法の多くは米糠に基質溶液を直接含浸してγ−アミノ酪酸を製造する方法であるが、酵素反応後、米糠からγ−アミノ酪酸を分離する工程を考慮に入れた製造手法については示されていない。また、一部には工業的な製造を視野に入れた手法も提案されているものの(特許文献2)、γ−アミノ酪酸製造時に投入される米糠の固体濃度は17質量%程度しかなく、高濃度での反応が行われていないこと、分離精製の工程が複雑であること、などの問題点がある。このような操作条件を選択せざるを得ない原因の一つとして、米糠粒子のハンドリングの難しさが考えられる。
【0005】
米糠粒子は、玄米を機械的に研磨して生じる米の削りかすの一部であることから、その粒子径は比較的小さく、また吸湿性に富むものである。従って、米糠を水中に懸濁させると多量の水分を吸収し、粘度が高いスラリーが形成される。その結果、γ−アミノ酪酸の分離工程の際に米糠をろ過等によって除去することが困難になるばかりでなく、固体濃度が高い場合には懸濁液の撹拌さえも行うことが困難になってしまう。
【特許文献1】特開2000−201651号公報
【特許文献2】特開2003−245093号公報
【特許文献3】特開2007−49910号公報
【特許文献4】特開平09−140361号公報
【特許文献5】特開平08−280394号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、酵素源として米糠を利用する際の上記問題点に鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、高効率、高収率な酵素反応を実現するに適した、米糠由来の酵素活性を有する乾燥粉末、氷結体、抽出液、およびその製造方法を提供することを第一の目的とする。また、本発明は、当該乾燥粉末等により得られるγ−アミノ酪酸、還元糖の製造方法を提供することを第二の目的とする。さらに、本発明は、品質が向上された、米糠由来の酵素活性を有する乾燥粉末、氷結体、抽出液、および品質向上方法を提供することを第三の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、米糠に含まれる酵素を利用してアミノ酸や糖類を製造するに際し、米糠の抽出液を利用する、または当該抽出液から氷結体または乾燥粉末としてこれらを利用することで、アミノ酸や糖類の製造性が飛躍的に向上することを見出した。また、米糠抽出液のpHを調整することにより、コロイド状の物質の存在割合が変わること、さらには、当該溶液を氷冷することで、効率よくコロイド物質を凝集させることができることを見出した。すなわち、本発明は、基質溶液に分散、溶解させるのみで酵素反応が進行する、米糠由来の新しい物質、およびその製造技術、さらには該物質の応用にかかるものである。
【0008】
すなわち本発明の第一の態様は、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を乾燥して得られる、酵素活性を有する乾燥粉末を提供して前記課題を解決するものである。
【0009】
本発明において、「米糠の溶媒含浸物」とは、米糠を溶媒に含浸させた状態の、米糠−溶媒混合物をいい、「抽出液」とは、該米糠の溶媒含浸物から、固体分離操作によって米糠残渣を除去して得られた溶液(ただし、固体分離操作によって除ききれない、コロイド状態の微小固体物質を含む。)をいう。
【0010】
本発明の第二の態様は、米糠の水含浸物から得られる抽出液を乾燥して得られる乾燥粉末であって、乾燥粉末の吸湿割合が6質量%以下であり、かつ、乾量基準の質量減少率が13質量%以下である、酵素活性を有する乾燥粉末を提供して前記課題を解決するものである。
【0011】
本発明でいう「乾燥粉末の吸湿割合」とは、乾燥粉末を26℃、75%RHの環境に3時間放置して、放置前の乾燥粉末の質量に対して質量が増加した割合であり、「乾量基準の質量減少率」とは、上記「乾燥粉末の吸湿割合」を求める手順で乾燥粉末を吸湿させたものを、さらに103℃の常圧下で3時間乾燥して、加熱質量減少率(質量%)すなわち前記乾燥粉末を吸湿させたものの質量に対して質量が減少した割合をいう。
【0012】
本発明の第一の態様および第二の態様において、酵素活性を有する乾燥粉末の、米糠の質量を基準とする収率は、5〜20質量%であることが好ましい。
【0013】
本発明の第三の態様は、米糠の水含浸物を固液分離して抽出液を取り出す工程、該抽出液を乾燥する工程を備えてなる、酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0014】
本発明の第三の態様において、乾燥は凍結乾燥によって行われることが好ましい。
【0015】
本発明の第四の態様は、前記第一または第二の態様にかかる乾燥粉末を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0016】
本発明の第五の態様は、前記第一または第二の態様にかかる乾燥粉末を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0017】
本発明の第六の態様は、前記第一または第二の態様にかかる乾燥粉末を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0018】
本発明の第四〜第六の態様において、溶液のpHは酵素反応が迅速に進行する範囲であることが好ましい。例えば、第四の態様によりγ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する場合にあっては、酵素反応に供される溶液のpHを5.5程度とすることが好ましい。
【0019】
本発明の第七の態様は、米糠の溶媒含浸物を固液分離して得られる米糠抽出液を凍結させてなる、酵素活性を有する氷結体を提供して前記課題を解決するものである。
【0020】
本発明の第八の態様は、前記第七の態様にかかる氷結体を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0021】
本発明の第九の態様は、前記第七の態様にかかる氷結体を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0022】
本発明の第十の態様は、前記第七の態様にかかる氷結体を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0023】
本発明の第八〜第十の態様において、溶液のpHは酵素反応が迅速に進行する範囲であることが好ましい。例えば、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する場合にあっては、酵素反応に供される溶液のpHを5.5程度とすることが好ましい。
【0024】
本発明の第十一の態様は、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0025】
本発明の第十二の態様は、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0026】
本発明の第十三の態様は、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0027】
本発明の第十四の態様は、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液のpHを調整してコロイド状物質を沈殿除去して得られた上澄み液からなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する溶液を提供して前記課題を解決するものである。
【0028】
本発明において、「タンパク質が除去され」とは、抽出液のpHを調整することで、酵素活性を有する抽出液中に含まれる米糠由来のタンパク質が完全に除去されることの他、当該抽出液中に含まれる米糠由来のタンパク質が、pH調整前よりも低減されることも意味する。例えば、タンパク質除去前後において、沈殿物の生成量が乾量基準でもとの米糠の5質量%以上であることが好ましい。
【0029】
本発明の第十四の態様において、pHが5〜7に調整されてなることが好ましい。
【0030】
本発明の第十五の態様は、米糠の水含浸物を固液分離して抽出液を取り出す工程、該抽出液のpHを調整してコロイド状凝集物を沈殿させる工程、該コロイド状凝集物および上澄み液からなる抽出液から上澄み液を取り出す工程、を備えてなる、該上澄み液からなる酵素活性を有する溶液の製造方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0031】
本発明の第十五の態様において、コロイド状凝集物を沈殿させる工程において、抽出液を氷冷することが好ましい。
【0032】
本発明の第十五の態様において、pHが5〜7に調整されてなることが好ましい。
【0033】
本発明の第十六の態様は、前記第十四の態様にかかる溶液を凍結させてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体を提供して前記課題を解決するものである。
【0034】
本発明の第十七の態様は、前記第十四の態様にかかる溶液を乾燥させてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する乾燥粉末を提供して前記課題を解決するものである。
【0035】
本発明の第十八の態様は、前記第十五の態様にかかる製造方法により得られた溶液を乾燥する工程を備えてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0036】
本発明の第十八の態様において、乾燥が凍結乾燥によって行われることが好ましい。
【0037】
本発明の第十九の態様は、前記第十四の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、前記第十六の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、前記第十七の態様にかかるタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0038】
本発明の第二十の態様は、前記第十四の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、前記第十六の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、前記第十七の態様にかかるタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0039】
本発明の第二十一の態様は、前記第十四の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、前記第十六の態様にかかるタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、前記第十七の態様にかかるタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法を提供して前記課題を解決するものである。
【0040】
本発明の第十九〜第二十一の態様において、酵素反応に供される溶液のpHは酵素反応が迅速に進行する範囲であることが好ましい。例えば、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する場合にあっては、酵素反応に供される溶液のpHを5.5程度とすることが好ましい。
【発明の効果】
【0041】
本発明の酵素活性を有する乾燥粉末は、米糠に含浸させた溶液を回収し、さらにその溶液を乾燥する操作のみで得ることができるため、比較的簡便に得ることができる。また、乾燥粉末を得るための前駆体である抽出液や、当該抽出液を氷結させた氷結体についても十分な酵素活性を有しており、γ−アミノ酪酸の製造等に直接用いることができる。
【0042】
これら抽出液、氷結体、または乾燥粉末は米糠と比較して高濃度で酵素を含むため、これらを用いてアミノ酸や糖類の製造を行えば、米糠を用いて製造する場合と比べて酵素源としての使用量をはるかに少なくすることができる。従って、酵素反応時における撹拌動力、その後のろ過等の分離操作における負荷の軽減が可能になり、高効率かつ高収率で酵素反応を行うことができる。また、酵素の濃度を高くしたい場合においても、装置内における粒子の沈着等による閉塞を生じることなく安定に運転ができる。
【0043】
さらに、酵素活性を維持しながら試料を保存する場合、米糠においては酸化反応、発酵を抑制するために温度や湿度をある程度低く保つ必要がある。このため、かさ密度が比較的小さい米糠の場合には保存用の容器容積を大きくする必要がある。また、米糠の成分を浸出させた酵素を含む溶液として保存する場合においては、微生物群の増殖等による酵素活性の低下が懸念されるため、低温での管理が必要とされる。これに対し、本発明で得られる抽出液、氷結体、または乾燥粉末を用いる場合には、米糠よりも少ない体積で保存することができる。さらに乾燥粉末については、乾燥状態のため常温でも良好な酵素活性を維持したまま保存ができることなど、その扱いが簡便となる利点を有する。従って、本発明により周辺設備の軽減、エネルギー消費量の抑制等が期待でき、コスト削減に大きく寄与する。
【0044】
特に、乾燥粉末の吸湿割合が6質量%以下かつ乾量基準の質量減少率が13質量%以下とすれば、乾燥粉末は酵素反応に有利に作用する。
【0045】
また、基質としてγ−アミノ酪酸を製造するためのグルタミン酸とともに、糖類を生成するための基質、例えばでんぷん等などを添加して酵素反応を行うと、基質の分解により甘み成分である糖類が系内に生成・蓄積されるため、γ−アミノ酪酸の生成に伴う苦みの食感を和らげることが可能になる。また、本発明の製造方法によれば、反応時間が短縮可能で、コストダウン可能な、γ−アミノ酪酸等の製造方法とすることができる。
【0046】
さらに、抽出液のpHを所定値に調整することで、抽出液から不要なタンパク質を取り除くことができ、結果として米糠由来のタンパク質含有量の少ない食品等の開発が可能となる。従って、米タンパク由来のアレルギーに対するリスクを低減させることができる。また、タンパク質を取り除く際、抽出液を氷冷することで、タンパク質の除去効率を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0047】
以下、米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液、当該抽出液を乾燥して得られる、酵素活性を有する乾燥粉末(以下単に乾燥粉末ともいう。)、抽出液を氷結して得られる氷結体、およびその製造方法、ならびにタンパク質除去方法について詳細に説明する。
【0048】
本発明の抽出液、乾燥粉末、および氷結体は、米糠を原料とするものであり、米糠としては、家庭用の小型簡易精米機、さらには大型の業務用精米機などから得られるような一般的な米糠を使用することができる。米糠の平均粒子径も後の抽出操作において抽出液と分離可能な粒径であれば特に制限されない。また、米の粉が混じったものでも使用できる。
【0049】
米糠は、まず溶媒に含浸される。溶媒としては、米糠中の酵素を浸出させることができるものであればよいが、本発明の乾燥粉末を利用して食品や医薬品等を製造する場合の安全性を考慮すると、水を用いることが好ましい。米糠と溶媒の比率、含浸温度、含浸時間等については、そのパラメーターの組み合わせによって適宜最適化されるが、含浸温度については、目的の酵素が失活しない温度域となるように制御される。
【0050】
米糠の含浸によって酵素が浸出した溶媒含浸物は、米糠残渣を分離することによって酵素を含有する抽出液とされる。溶媒含浸物から米糠残渣を分離する方法に特に制限はなく、例えば遠心分離操作や圧搾操作が挙げられる。
【0051】
上述の米糠を溶媒に含浸する際に、あらかじめ米糠を網状の物質に内包させておくと、抽出操作が容易となるため好ましい。網状の物質としては、例えば200メッシュのナイロン製網などが挙げられる。溶媒に溶解せず、米糠残渣がメッシュから漏れないようなものであれば、材質、メッシュサイズはこれに限るものではない。米糠を網状の物質に内包させている場合、溶媒含浸物から米糠残渣を分離することによって抽出液を得る操作は、遠心分離による脱水操作が簡便であるが、圧搾操作による溶液の回収も可能である。得られる抽出液は、米糠残渣の分離方法にもよるが、通常、コロイド状態の微小固体物質が分散された、白濁した溶液である。
【0052】
得られた抽出液には上記のようにコロイド状物質が含有されていることから、その溶液の塩濃度あるいはpHを調整することにより、コロイド状物質の析出量を増加させ、溶液中のコロイド状物質の濃度を低下させることが可能となる。これによりタンパク質を除去する場合は、溶液のpHを除去の対象となるタンパク質の等電点に調整するとその除去効率が向上する。特にγ−アミノ酪酸の生成速度が速くなるpH付近において等電点沈澱操作を行うと、γ−アミノ酪酸の製造を効率よく行うことができるとともに、γ−アミノ酪酸の製造時にタンパク質含有量が抑制された製品を得ることができる。この場合において、pHは5以上7以下の範囲に調整されることが好ましい。米由来のタンパク質を取り除くことで、アレルギーのリスクを低下させ、最終製品の品質を向上させることができる。
【0053】
得られた抽出液を凍結させることで、酵素活性を有する氷結体とすることもできる。氷結体を得るにあたって、コロイドを含む上記抽出液をそのまま凍結させてもよく、また、上記等電点沈澱操作により、抽出液のうちコロイド凝集体を除いた上澄み液のみを凍結させ、タンパク質が除去された氷結体としてもよい。いずれの氷結体であっても、十分な酵素活性を有する。凍結方法としては、得られた抽出液を凍結可能な方法であれば特に限定されない。
【0054】
抽出液中のコロイドを凝集させる際は、例えば、コロイドを含む抽出液を氷冷することで、コロイドの凝集を促進させることができる。氷冷により効率よくコロイド凝集体とすることで、上澄み液とコロイド凝集体とを効率よく分離することができ、かつ、タンパク質含有量が低下した溶液を容易に得ることができる。
【0055】
得られた抽出液または氷結体は、乾燥することによって酵素活性を有する乾燥粉末とされる。乾燥の際には、凍結乾燥を行うことが好ましく、抽出液の予備冷凍として寒剤による冷凍を行うことが望ましい。使用する寒剤は溶液を凍結するのに十分な冷却能力を有するものであればどのようなものを使用してもよく、メタノール−氷程度の冷却効果を有する寒剤でも十分利用可能である。
【0056】
得られる乾燥粉末は、通常、米糠質量基準の収率が5〜20質量%であり、該乾燥粉末の吸湿割合が6質量%以下でかつ乾量基準の質量減少率が13質量%以下であることとすると、乾燥粉末の扱いが容易で、かつ品質の安定した、酵素活性の高い乾燥粉末とすることができるので好ましい。
【0057】
また、等電点沈澱法によりコロイド状物質の分離を行った溶液を用いる場合においては、通常、米糠質量基準の3〜10質量%の乾燥粉末が得られる。
【0058】
上記手法により得られた本発明の抽出液、氷結体、または乾燥粉末を用いてグルタミン酸からγ−アミノ酪酸を生成する場合、所定の濃度、pHに調製したグルタミン酸水溶液中に所定量の乾燥粉末を添加し、酵素反応の活性を示す温度域の下で所定時間反応操作を行う。反応操作は連続型、回分型いずれの反応器を用いてもよい。中でも、高濃度のγ−アミノ酪酸を得るためには回分型反応器を用いることが好ましい。また、得られるγ−アミノ酪酸の濃度は、基質として添加したグルタミン酸の濃度、該物質の添加量、反応時間等の操作条件を変えることで制御が可能である。
【0059】
本発明の抽出液、氷結体、または乾燥粉末を用いてγ−アミノ酪酸を生成する際、イオン交換膜を用いた透析を行うことで、酵素反応と分離操作を同時に行うこともできる。特に、回分型反応器とイオン交換膜を用いた透析槽からなる組み合わせ型反応器により、γ−アミノ酪酸を含む溶液を製造すると同時に分離を行うと、非常に効率よくγ−アミノ酪酸が製造できるため好ましい。また、透析操作としては、拡散透析、電気透析等が挙げられる。透析槽は単膜または複数の膜から構成される室を有する装置で、少なくとも膜の一面に乾燥粉末を分散あるいは溶解した反応溶液を供給し、また反対側には透過物質を回収する溶液を流すことが好ましい。なお用いる膜は拡散透析法の場合には陽イオン交換膜が望ましい。
【0060】
供給側の溶液は、酵素の機能が発現する基質を含む溶液であれば、特に固定されるものではない。また、回収側の溶液は、酸、アルカリ、中性の電解質溶液いずれの溶液でも可能であるが、透過速度、膜の選択透過性は反応溶液のpHさらには回収側溶液のpHで大きく変わるため、目的に合わせた溶質を含む溶液を選択することが望ましい。
【0061】
透析槽の運転は、酵素反応の反応速度、目的物質の膜透過速度を考慮した場合、反応側回収側とも回分循環方式が好ましい。十分な溶液量および膜面積を確保できる場合には連続型の運転も可能である。
【0062】
米糠中にはグルタミン酸脱炭酸酵素の他、アミラーゼをはじめとした複数の酵素が含まれていることが知られている。従って、例えば、でんぷん含有水溶液に本発明の乾燥粉末を添加し、酵素反応の活性を示す温度域の下で所定時間反応操作を行えば、乾燥粉末中のアミラーゼの作用により還元糖を得ることができる。この場合における好ましい反応操作や分離操作の条件は、上述のγ−アミノ酪酸の生成分離の場合と同様である。
【0063】
また、本発明の抽出液、氷結体、乾燥粉末の食品への応用を考える場合、グルタミン酸をγ−アミノ酪酸に変換すると、グルタミン酸減少による旨味の減少および、γ−アミノ酪酸の生成に伴う苦みの増加が生じ、食品の有する本来の味が変化することが考えられる。そのような場合、基質としてグルタミン酸の他に、酵素によって還元糖を生成するような、でんぷん、グリコーゲン、デキストリンなどのグルカンを主鎖とする多糖類を同時に添加、あるいはグルカンを含む穀物由来の食品に粉末を添加することで、酵素反応による還元糖の生成によりγ−アミノ酪酸の生成に伴う苦みを和らげることが可能になる。例えば、本発明の乾燥粉末を、グルタミン酸を多く含むスープ、さらには発酵によって生成した大量のアミノ酸を含む、なれ鮨や麹漬け等の発酵食品に添加すれば、アミノ酸の含有率と種類を変えつつ、味を改善することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により具体的に説明する。なお、本発明はその要旨を超えない限り、以下に示す実施例の形態に限定されるものではない。
【0065】
(実施例1)酵素活性を有する乾燥粉末の製造
粒子径500〜840μmの米糠15g〜80gを上記のメッシュに内包した後、ビーカー中でそれぞれ水30ml〜160mlに含浸し、その後40℃の恒温槽内で30分間静置した。静置後、米糠を含む水含浸物をメッシュごと遠沈管に挿入し、高速冷却遠心機を用いて4℃の下、3000rpmで10分間固液分離操作を行った。回収した液体状態の米糠浸出物を抽出液とした。回収した抽出液は、凍結乾燥を行うために予備凍結された。予備凍結操作は、抽出液をガラス製容器等に移し、メタノール−氷(1:1)寒剤を使用して行った。予備凍結を行った上記の容器を凍結乾燥機に接続し、引き続いて凍結乾燥操作を行った。図1に上記手法の手順をまとめたフローチャート図を示すと共に、表1に同手法により得られた乾燥粉末の量と収率を示す。
【0066】
【表1】
【0067】
米糠質量基準の乾燥粉末の収率(質量%)すなわち元の米糠の質量に対して得られた乾燥粉末の質量の割合は、6.7〜16.3質量%であった。同じく表1より、乾燥粉末の吸湿割合(質量%)すなわち得られた乾燥粉末を26℃、75%RHの環境に3時間放置して、放置前の乾燥粉末の質量に対して質量が増加した割合は、5.2%および5.5%であった。これらの値は、乾燥粉末を市場流通した際に、空気中の水分を吸湿し、平衡水分量に達する際の値とほぼ同じであると考えられる。
【0068】
また、同じく表1より、前記乾燥粉末を吸湿させたものを、さらに103℃の常圧下で3時間乾燥して、それぞれ加熱質量減少率(質量%)すなわち前記乾燥粉末を吸湿させたものの質量に対して質量が減少した割合を測定したところ、10.6質量%および11.3質量%であった。これらの加熱質量減少率と前記乾燥粉末の吸湿割合との差は、乾燥粉末に含まれている水分以外の揮発成分の量であると考えられる。
【0069】
さらに、得られた乾燥粉末の性質を調べるため、粉末0.35gを蒸留水50mlに添加し、溶液中に溶解する成分をOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析を行った場合のクロマトグラムを図2に示す。図より、グルタミン酸ならびにγ―アミノ酪酸等の存在を確認することができる。
【0070】
(実施例2)抽出液、乾燥粉末、または氷結体を用いたγ−アミノ酪酸の製造
実施例1で製造した抽出液、乾燥粉末、または抽出液の氷結物(氷結体)の酵素活性を確認するために、グルタミン酸の濃度が1mol/m3の水溶液(図5の実験においては1.5mol/m3)を100ml調製し、これに抽出液10ml、または乾燥粉末0.75g、あるいは得られた抽出液10ml相当を氷結した物質を添加して、温度40℃、pH5.5の条件の下でγ−アミノ酪酸の生成を目的とした酵素反応を行った。その結果をアミノ酸の濃度の経時変化を示すグラフとして図3〜5に示す。抽出液を用いた場合が図3、乾燥粉末を用いた場合は図4、さらに氷結体を用いた場合の結果は図5である。図3および図5において○は生成したγ−アミノ酪酸、●はグルタミン酸である。また、図4において●は生成したγ−アミノ酪酸、○はグルタミン酸、△はアスパラギン酸、□はアラニンである。
【0071】
図3より、乾燥操作前の抽出液を用いた場合であっても、酵素が液体中に含有されているため、グルタミン酸からγ−アミノ酪酸を製造することが可能であることがわかる。また、図4より、乾燥粉末を投入した直後に急激なグルタミン酸の減少が生じると共に、それに対応して溶液中にγ−アミノ酪酸が生成していることがわかる。また、表1より、本実施例で使用した乾燥粉末0.75gには米糠約5gから浸出させた量に相当する酵素を含むことから、添加物質量あたりの生成効率は約7倍向上したことがわかる。よって、実施例1で製造した抽出液、および乾燥粉末の酵素活性、および乾燥粉末を用いてγ−アミノ酪酸を製造した場合の効率の優位性が実験的に実証された。また図5は氷結体を用いてグルタミン酸からγ―アミノ酪酸を製造した実験結果であるが、抽出液、乾燥粉末を用いた場合と同様にグルタミン酸からγ−アミノ酪酸が生産されることが分かる。
【0072】
さらに、乾燥粉末の優位的な特徴を確認するために、実施例1で得られた凍結乾燥前の抽出液を、(a)常温で一日静置した場合(◎)、(b)4℃の下で一日静置した場合(○)、及び(c)実施例1で得られた乾燥粉末を容器に入れて二日間常温で保存した場合(●)について、それぞれの物質を用いて酵素反応を行うとともに酵素活性に与える保存状態の影響について評価を行った。その結果を図6の溶液中におけるγ−アミノ酪酸の濃度の経時変化を表すグラフに示す。
【0073】
図6より、米糠抽出液を常温下で一日保存した後に酵素反応を行った場合には、γ−アミノ酪酸の濃度(◎)の増加がほとんど観測されず、同条件下では酵素活性はかなり低下していることがわかる。また、4℃の下で抽出液を一日保存した後に酵素反応を行った場合には、時間の経過とともにγ−アミノ酪酸の濃度(○)が増加していることから、ある程度の酵素活性の存在が認められた。さらに、容器に入れて二日間常温で保存した凍結乾燥粉末を用いた場合には他の2つの場合よりγ−アミノ酪酸の濃度(●)が高かった。従って、保存の仕方によっては抽出液の酵素活性が劣化し得ることが明らかになるとともに、長期保存する場合にあっては、実施例1で製造した乾燥粉末が優位的な特徴を有することが明らかとなった。一方で、図3〜5の結果より、乾燥粉末を得るまでに経る液体、凍結物、乾燥粉末の各物質の製造初期における酵素活性にはあまり大きな差が見られないことが分かった。
【0074】
乾燥粉末の酵素活性が高い直接的な理由についてはまだ明らかではないが、米糠あるいは胚芽周りには乳酸菌をはじめとする微生物群が存在していることから、米糠を適度な温度の下で溶液へ分散、あるいは適度な湿度の下で扱う場合にはこれらの微生物群が増殖し、結果として目的とする酵素反応を阻害、抑制すると考えられる。しかし、凍結乾燥を行って乾燥粉末の状態では、微生物群が増殖しないため、酵素反応の活性が維持されるものと考えられる。
【0075】
(実施例3−1)乾燥粉末を用いた還元糖の製造(1)
実施例1で製造した乾燥粉末の酵素活性を確認するために、でんぷんの濃度が1質量%および2質量%の水溶液をそれぞれ200ml調製し、これに乾燥粉末を約0.4g添加して温度40℃、pH6.5の条件の下で還元糖の生成を目的とした酵素反応を行った。その結果を還元糖濃度の経時変化を示すグラフとして図7に示す。○はでんぷんの濃度が1質量%におけるグルコースを基準とした還元糖の濃度、●がでんぷんの濃度が2質量%におけるグルコースを基準とした還元糖の濃度である。図7より、反応初期において急激に還元糖が生成し、時間の経過とともにやがて反応は平衡に達する傾向を示していることがわかる。
【0076】
(実施例3−2)乾燥粉末を用いた還元糖の製造(2)
実施例3−1と同様の手法により、実施例1で製造した乾燥粉末の酵素活性を確認するために、でんぷん濃度が10質量%の水溶液を200ml調製し、これに乾燥粉末を約4g添加して温度40℃の条件の下で還元糖の生成を目的とした酵素反応を行った。その結果をグラフとして図8に示す。△はグルコース濃度を基準とした還元糖の濃度である。図8より、でんぷんの濃度および粉末添加量を多くすると、生成される還元糖の濃度およびその生成速度は実施例3−1の結果より大幅に増加していることがわかる。
【0077】
(実施例3−3)乾燥粉末を用いた還元糖の製造(3)
実施例3−1と同様の手法により、実施例1で製造した乾燥粉末の種々の基質に対する酵素活性を確認するために、グルカンの一種であるβ−シクロデキストリンの濃度が1.5質量%の水溶液を200ml調製し、これに乾燥粉末を約0.4g添加して温度40℃の条件の下で還元糖の生成を目的とした酵素反応を行った。その結果をグラフとして図9に示す。◇はグルコース濃度を基準とした還元糖の濃度である。図9より、でんぷん以外のグルカンであるβ―シクロデキストリンを基質として用いた場合でも、還元糖は時間の経過とともに生成することがわかる。
【0078】
(実施例4)乾燥粉末を用いて還元糖とγ―アミノ酪酸を同時に製造する方法
乾燥粉末を用いてでんぷんとグルタミン酸の複合基質系においてγ―アミノ酪酸と還元糖の同時製造に関する実証試験を行った。図10に、グルタミン酸の濃度を1mol/m3、でんぷんの初濃度を10質量%、乾燥粉末添加量を0.75質量%、温度40℃、pH5.5の下で酵素反応を行った場合の、グルタミン酸(●)、γ―アミノ酪酸(○)、還元糖(△)の濃度の経時変化を示す。図10より、複合基質系で酵素反応を行った場合においても酵素反応は良好に進行することがわかる。この結果より、本手法により得られる溶液は、反応初期よりも甘みが増したγ―アミノ酪酸含有水溶液として得られることが実証された。
【0079】
(実施例5)乾燥粉末を用いた場合の反応条件の影響について
乾燥粉末を用いて、種々の酵素反応を行う場合、酵素によって至適条件が異なるため特に複合基質系においては操作条件の設定は重要になる。本手法で製造される還元糖は実施例の結果から主にアミラーゼにより製造されると推測されるため、その至適pHの範囲は比較的広範囲であると考えられる。しかし、γ−アミノ酪酸を製造する場合の至適pHについては明らかではない。そこで図11、12にpHを5.5および7に調整して実験を行った場合のγ−アミノ酪酸の生成特性を示す。なお、実験条件は温度40℃、グルタミン酸の濃度1mol/m3、浸出物添加量0.75質量%であり、pH5.5の場合を図11に、pH7の場合を図12に示した。図より、pH5.5の場合は酵素反応が量論的に比較的速く進行するものの、pH7においては、初期においてγ―アミノ酪酸は生成するが、その反応速度は極端に低下することがわかる。よって、本実験条件であるpH5.5付近で酵素反応をすることで、γ―アミノ酪酸の製造効率は大きく向上することがわかる。また、還元糖を生成するためのでんぷんを加えて複合基質系で実験を行った実施例4の結果を鑑みると、γ―アミノ酪酸と還元糖を同時に製造する場合でもpHは5.5付近で行うことが望ましいといえる。
【0080】
(実施例6−1)等電点沈殿操作によりタンパク質を分離した乾燥粉末を得る方法
粒子径500〜840μmの米糠15gをナイロン製のメッシュに内包した後、ビーカー中で水30mlに含浸し、その後40℃の恒温槽内で10分間静置した。静置後、米糠を含む水含浸物をメッシュごと遠沈管に挿入し、遠心機を用いて1000rpmで10分間固液分離操作を行った。回収した抽出液は、コロイドを含む液体状態の米糠浸出物に相等する。
【0081】
回収した抽出液は2倍量の蒸留水中に希釈した後、塩酸を用いてpHを5.5に調整し、さらに氷浴場で20分間冷却するとともに静置した。その後、凝集、沈降したコロイド状物質を含む液をろ過し、その上澄みを回収し、乾燥粉末の前駆体物質として得た。なお、pH調整にあたっては、得られる溶液の用途に応じて他の無機酸、あるいはクエン酸等の有機酸などを用いることも可能であり、特に塩酸に固定されるものではない。
さらに、凍結乾燥物を得るために前記の前駆体物質を凍結し、氷結状の固体物質を得た。なお、凍結操作は、メタノール−氷程度の冷却能力を有する寒剤を用いることでも可能である。氷結状の物質はその後凍結乾燥操作により粉末化されるが、凍結乾燥を行うまでの凍結保存時間については特に制限はなく、乾燥粉末を得る前に長期にわたり氷結物としての保存も可能である。表2に得られる凍結乾燥物の収率を示す。表よりタンパク質を等電点沈殿法により除去した乾燥粉末の収率は約4―10質量%程度であることがわかる。
【0082】
【表2】
【0083】
(実施例6−2)得られた乾燥粉末の特徴
得られた乾燥粉末の性質を調べるため、粉末0.35gを蒸留水50mlに添加し、溶液中に溶解する成分についてOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析を行った場合のクロマトグラムを図13に示す。図より、グルタミン酸ならびにγ―アミノ酪酸等の存在を確認することができる。また、得られた等電点沈殿操作によりタンパク質を除去した乾燥粉末を蒸留水に溶解し、ローリー法により水溶性のタンパク質量を求めることで乾燥粉末重量基準の濃度として表した結果を、等電点沈殿操作を行わずに得た乾燥粉末の結果とともに表3に示す。表より、簡単な等電点沈殿操作を行うのみで、乾燥粉末中に含まれる水溶性タンパク質の量は未処理の粉末に比べ17%程度減少し、品質が向上した事が分かる。なおこの測定結果は天然物を対象として調製を行った粉末を用いた結果であることから、米糠種類等の違いにより増減するものと考えられる。また本例で得られた乾燥粉末は糠臭さが減少し、しかも米の風味が感じられた。
【0084】
【表3】
【0085】
さらに前記前駆体物質の氷結体についてHPLCにより分析を行った場合のクロマトグラムを図14に示す。この図においても、グルタミン酸ならびにγ―アミノ酪酸等の存在を確認することができる。
【0086】
図15に、前記溶液の温度を40℃、pH5.5に設定し、基質を加えずに蒸留水中と乾燥粉末のみでγ―アミノ酪酸の生成実験を行った結果を示す。図より、乾燥粉末前駆体を得る過程で生成したと考えられるγ−アミノ酪酸が蒸留水中に溶解しているものの、その濃度は時間が経過してもほぼ一定の値を示す。また、基質となり得るグルタミン酸の濃度は実験時間中低い濃度で推移していることから、米、あるいは米糠中のタンパク質がプロテアーゼ等の作用によりグルタミン酸を生成し、さらにその一部をギャバに変換するような反応経路はほとんど機能していないことがわかる。この結果より、本手法で得た乾燥粉末を用いてγ−アミノ酪酸を製造する場合には、基質を添加する必要があり、この点では米糠を直接用いてγ―アミノ酪酸を生成する手法とは大きく異なるといえる。
【0087】
表4に、上記の実験終了後、孔径0.45μmのメンブレンフィルターを用いて全量ろ過し、溶液中に存在するコロイドの量を測定した結果を示す。この結果より、添加した乾燥粉末の80質量%は水に溶解し、残りの20質量%程度がコロイドを形成していたことがわかる。
【0088】
【表4】
【0089】
(実施例7)タンパク質が除去された乾燥粉末を用いたγ−アミノ酪酸の製造
図16に乾燥粉末0.75gを1mol/m3のグルタミン酸を含む水溶液100mlに添加し、温度40℃、pH5.5のもとで酵素反応を行った結果を示す。図より、時間の経過とともにグルタミン酸が減少すると共にγ―アミノ酪酸が生成し、酵素反応が進行していることがわかる。
【0090】
(実施例8)抽出液を用いたγ―アミノ酪酸および還元糖の製造
図17に米糠5gを蒸留水10mlで浸出し、その際に得られる抽出液約10mlを濃度0.7mol/m3のグルタミン酸およびでんぷん10質量%を含む溶液100mlに添加し、γ―アミノ酪酸の生成挙動を追跡した結果を示す。図より、液状物質を用いた場合でも添加したグルタミン酸を基質としてγ―アミノ酪酸の生成が可能であることがわかる。また、実験終了後の溶液中には還元糖が約11.5mol/m3程度存在し、抽出液を用いた場合でもグルタミン酸とでんぷんを基質としてγ−アミノ酪酸と還元糖の同時生産が可能であることがわかった。
【0091】
また図18に米糠5gを水10mlで浸出させ、その後蒸留水を満たして100mlに調製した溶液を塩酸でpH5.5に調整して等電点沈殿操作を行い、得られた上澄み液20mlを1.4mol/m3のグルタミン酸を含む水溶液60mlに添加し、γ−アミノ酪酸の生成挙動を追跡した結果を示す。図より、等電点沈殿操作を行った上澄み溶液を使用した場合でもγ―アミノ酪酸の生成が確認され、酵素活性を有する粉末状の物質の前駆体においてもγ―アミノ酪酸を製造する酵素の活性が保持されていることがわかる。
【0092】
さらに図19に米糠5gを水10mlで浸出させ、その後蒸留水を満たして30mlに調製した溶液を塩酸でpH5.5に調整して等電点沈殿操作を行い、得られた上澄み液20mlを凍結させて得られた氷結体について、1.4mol/m3のグルタミン酸を含む水溶液60mlに添加し、γ−アミノ酪酸の生成挙動を追跡した結果を示す。○が生成したγ−アミノ酪酸の濃度である。図より、等電点沈殿操作を行った上澄み溶液を凍結した氷結体を使用した場合でもγ―アミノ酪酸の生成が確認され、酵素活性を有する粉末状の物質の前駆体においてもγ―アミノ酪酸を製造する酵素の活性が保持されていることがわかる。
【0093】
(実施例9)乾燥粉末を用いた酵素反応器と透析槽を組み合わせた反応器でのγ−アミノ酪酸の製造方法
まず図20に示す2室からなる透析槽の中央に陽イオン交換膜(CM)を配置し、次に実施例1で得られた乾燥粉末0.75gを1mol/m3の濃度、pH=5.5に調製したグルタミン酸水溶液200mlに溶解させ、温度40℃の下で、図20に示すタンクTからFeed側FにポンプPを介して供給すると共に、反対側のStrip側Sにはもう一方のタンクTから1.2mol/m3の濃度に調製した塩酸水溶液をポンプPにより循環させ、酵素反応とアミノ酸の分離操作を同時に行った。
【0094】
図21に組み合わせ反応器による実験結果の一例として、Strip室におけるアミノ酸濃度の経時変化をグラフに示す。○はγ−アミノ酪酸、●はグルタミン酸、△はアスパラギン酸、□はアラニンである。図より、透析開始初期においてはグルタミン酸が膜を優先的に透過してストリップ側に回収されるものの、その後時間の経過とともにγ−アミノ酪酸の透過速度が増加し、3時間以降ではγ−アミノ酪酸が優先的に膜を透過し回収されることが実証された。なお、用いた陽イオン交換膜は、分子量が数百以上のタンパク質などの物質は膜を透過することができない特徴を有するため、本手法では、ストリップ側溶液中のタンパク質濃度を極めて低くすることが可能になる。
【0095】
(参考例1)米糠を用いた酵素反応器と透析槽を組み合わせた反応器でのγ−アミノ酪酸の製造方法
実施例9と同様の装置を用い、Feed側に米糠5gを含む懸濁液の溶液を流し、Strip側の溶液に塩酸水溶液または塩化ナトリウム水溶液を用いて実験を行った。図22にStrip溶液として12mol/m3の塩酸水溶液を用いた場合、および図23に10mol/m3の塩化ナトリウム水溶液を用いた場合について、Strip側に透過するアミノ酸濃度の経時変化を示す。○はγ−アミノ酪酸、●はグルタミン酸、△はアスパラギン酸である。
【0096】
図22、図23より、いずれのStrip溶液を用いた場合においても酵素活性を有する乾燥粉末を用いた場合と同様に酵素反応により生成したγ−アミノ酪酸がイオン交換膜を透過しStrip側に回収されることがわかる。また、Strip溶液における溶質の種類によりイオン交換膜の選択透過性ならびに膜透過速度が変わることがわかる。よって、実施例9で使用した組み合わせ反応器は酵素活性を有する乾燥粉末を用いたγ−アミノ酪酸製造と分離のみならず、米糠を利用した場合の生産製造と分離にも応用できること、ならびにその透過速度はStrip側の溶液における溶質の種類等により制御できることが実験的に実証された。
【0097】
(参考例2)乾燥粉末を用いた食品の製造
実施例1で得られた乾燥粉末を実際の食品に添加して、食品中のグルタミン酸(●)およびγ―アミノ酪酸(○)の濃度の経時変化を測定した。図24は酒粕26質量%を水74質量%としたものに乾燥粉末1gを添加したもの、図25は市販のビール酵母(キリンヤクルトネクストステージ社製)3gに対し、乾燥粉末0.5gを水100ccに溶かしたものを添加したもの、図26は培地用酵母エキス0.26gに対し、乾燥粉末0.5gを水100ccに溶かしたものを添加したもの、図27は調整豆乳5ccを水50ccで希釈したものに、乾燥粉末0.5gを添加したもの、図28はウーロン茶の茶葉3gを250ccのお湯で5分間浸出し、その後33℃まで冷却、さらにその溶液50ccに対し乾燥粉末0.05g添加した場合の結果を表す図である。なお図24〜27はpH5.5の下で行った結果、図28はpH無調整(6.2)の条件で行った結果である。図24〜26から明らかなように、いずれもグルタミン酸(●)の減少とγ―アミノ酪酸(○)の増加が見られることからグルタミン酸からγ―アミノ酪酸への転換を引き起こすと考えられる。また図27においてもγ―アミノ酪酸(○)の増加が見られる。さらに、図28においてもウーロン茶中のグルタミン酸がギャバに変換されていることがわかる。
また、図29に酒粕11gを水100ccで希釈し、乾燥粉末を添加せずにアミノ酸の濃度の経時変化を追跡した結果を示す。図より酵素源を添加しない場合には、グルタミン酸もγ−アミノ酪酸も濃度変化が見られないことがわかる。よって図24〜28で見られるγ−アミノ酪酸の濃度の増加は、酵素源である乾燥粉末が食品中のグルタミン酸をγ―アミノ酪酸へ転換したためと考えられる。
【0098】
(参考例3)氷結体の特性
図30に、米糠浸出液を凍結した氷結体についてOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果をあらわすグラフを示す。図より、γ−アミノ酪酸およびグルタミン酸等の存在を確認することができる。また、図31に米糠浸出液について凍結前後におけるUVスペクトル分析データを示す。図から明らかなように、本発明にかかる氷結体は、凍結前後において共通するスペクトルデータを有しており、共通する組成を有することが分かる。このことからも、氷結体が米糠由来の酵素活性を有することが明白である。
【0099】
(参考例4)等電点沈殿操作を併用して得られた溶液、等電点沈殿操作を行わずに得た浸出液の特性
図32に等電点沈殿操作を行って得られた酵素を含む溶液、図33に等電点沈殿操作を行わずに得た酵素を含む溶液について、OPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すグラフである。図よりいずれの溶液においてもグルタミン酸とγ―アミノ酪酸等の存在を確認することができる。
【0100】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨あるいは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う酵素活性を有する乾燥粉末およびその製造方法もまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【図面の簡単な説明】
【0101】
【図1】酵素活性を有する乾燥粉末の調製方法の概略を説明したフローチャートである。
【図2】乾燥粉末を溶液に溶解させた場合における、溶液中に溶解する成分をOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析を行った場合のクロマトグラムである。
【図3】米糠抽出液を用いてγ−アミノ酪酸の製造を行った場合の経時変化を示すグラフである。
【図4】乾燥粉末を用いた酵素反応における各種アミノ酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図5】氷結体を用いてγ−アミノ酪酸の製造を行った場合の経時変化を示すグラフである。
【図6】米糠抽出液を溶液で保存した場合と凍結乾燥粉末として保存した場合の酵素活性の違いを示すグラフである。
【図7】乾燥粉末を用いた酵素反応における還元糖の経時変化を示すグラフである。
【図8】乾燥粉末を用いた酵素反応における還元糖の経時変化を示すグラフである。
【図9】乾燥粉末を用いた酵素反応における還元糖の経時変化を示すグラフである。
【図10】でんぷん−グルタミン酸複合基質系において、還元糖とγ−アミノ酪酸製造を同時に行った場合の生成物濃度の経時変化を示すグラフである。
【図11】pH5.5においてγ−アミノ酪酸の製造を行った場合の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図12】pH7においてγ−アミノ酪酸の製造を行った場合の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図13】等電点沈殿法を併用して得られた乾燥粉末を、OPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すクロマトグラムである。
【図14】等電点沈殿操作を併用して得られた氷結体を、OPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すクロマトグラムである。
【図15】等電点沈殿法を併用して得られた乾燥粉末を蒸留水に添加し、基質を加えずにγ−アミノ酪酸の生成挙動を追跡した結果を示すグラフである。
【図16】等電点沈殿法を併用して得られた乾燥粉末を用いてγ―アミノ酪酸の生成挙動の追跡を行った場合のアミノ酸濃度の経時変化を表すグラフである。
【図17】米糠を水浸出した溶液を用いて複合基質系において酵素反応を行った場合のγ―アミノ酪酸濃度の経時変化を表すグラフである。
【図18】等電点沈殿法によりタンパク質濃度を低下させた溶液を用いて酵素反応を行った場合のγ―アミノ酪酸の生成挙動を追跡した場合の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図19】等電点沈殿法を併用して得られた氷結体を用いてγ―アミノ酪酸の生成挙動の追跡を行った場合のアミノ酸濃度の経時変化を表すグラフである。
【図20】回分反応器とイオン交換膜を用いた透析槽を組み合わせた装置の概略図である。
【図21】実施例9におけるStrip側溶液中のアミノ酸濃度の経時変化を表すグラフである。
【図22】参考例1におけるStrip側に塩酸水溶液を流した際の、Strip側溶液中のアミノ酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図23】参考例1におけるStrip側に塩化ナトリウム水溶液を流した際の、Strip側溶液中のアミノ酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図24】乾燥粉末を酒粕希釈液中に添加した場合における、溶液中のグルタミン酸濃度およびγ−アミノ酪酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図25】乾燥粉末を市販ビール酵母を含む水溶液中に添加した場合における、溶液中のグルタミン酸濃度およびγ−アミノ酪酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図26】乾燥粉末を培地用酵母エキスに添加した場合における、溶液中のグルタミン酸濃度およびγ−アミノ酪酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図27】乾燥粉末を調整豆乳中に添加した場合における、溶液中のグルタミン酸濃度およびγ−アミノ酪酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図28】乾燥粉末をウーロン茶の茶葉を浸出した溶液に添加した場合における、お茶溶液中のグルタミン酸濃度およびγ―アミノ酪酸濃度の経時変化を示すグラフである。
【図29】乾燥粉末を添加しない場合における、酒粕希釈液中のグルタミン酸とγ−アミノ酪酸の濃度の経時変化を示すグラフである。
【図30】米糠浸出液の氷結体について、OPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すクロマトグラムである。
【図31】米糠浸出液の凍結前後にかかるUVスペクトル分析結果を示す図である。
【図32】等電点沈殿操作を併用して得た溶液をOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すクロマトグラムである。
【図33】米糠浸出液についてOPAプレカラム誘導体化法を用いたHPLCにより分析した結果を表すクロマトグラムある。
【符号の説明】
【0102】
F Feed
S Strip
CM 陽イオン交換膜
P ポンプ
T タンク
B 恒温槽
【特許請求の範囲】
【請求項1】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を乾燥して得られる、酵素活性を有する乾燥粉末。
【請求項2】
米糠の水含浸物から得られる抽出液を乾燥させて得られる乾燥粉末であって、該乾燥粉末の吸湿割合が6質量%以下であり、かつ、乾量基準の質量減少率が13質量%以下である、酵素活性を有する乾燥粉末。
【請求項3】
前記米糠の質量を基準とする収率が5〜20質量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の酵素活性を有する乾燥粉末。
【請求項4】
米糠の水含浸物を固液分離して抽出液を取り出す工程、該抽出液を乾燥する工程を備えてなる、酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法。
【請求項5】
前記乾燥が凍結乾燥によって行われる、請求項4に記載の酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の酵素活性を有する乾燥粉末を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の酵素活性を有する乾燥粉末を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の酵素活性を有する乾燥粉末を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法。
【請求項9】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を凍結させてなる、酵素活性を有する氷結体。
【請求項10】
請求項9に記載の酵素活性を有する氷結体を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法。
【請求項11】
請求項9に記載の酵素活性を有する氷結体を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法。
【請求項12】
請求項9に記載の酵素活性を有する氷結体を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法。
【請求項13】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法。
【請求項14】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法。
【請求項15】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法。
【請求項16】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液のpHを調整してコロイド状物質を沈殿除去して得られた上澄み液からなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する溶液。
【請求項17】
前記pHが5〜7に調整されてなる、請求項16に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液。
【請求項18】
米糠の水含浸物を固液分離して抽出液を取り出す工程、該抽出液のpHを調整してコロイド状凝集物を沈殿させる工程、該コロイド状凝集物および上澄み液からなる抽出液から上澄み液を取り出す工程、を備えてなる、該上澄み液からなる酵素活性を有する溶液の製造方法。
【請求項19】
前記コロイド状凝集物を沈殿させる工程において、前記抽出液を氷冷することを特徴とする、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
請求項16または17に記載の酵素活性を有する溶液を凍結させてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体。
【請求項21】
請求項16または17に記載の酵素活性を有する溶液を乾燥させてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する乾燥粉末。
【請求項22】
請求項18または19に記載の製造方法により得られた溶液を乾燥する工程を備えてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法。
【請求項23】
前記乾燥が凍結乾燥によって行われる、請求項22に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法。
【請求項24】
請求項16または17に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、請求項20に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、請求項21に記載のタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法。
【請求項25】
請求項16または17に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、請求項20に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、請求項21に記載のタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法。
【請求項26】
請求項16または17に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、請求項20に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、請求項21に記載のタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法。
【請求項1】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を乾燥して得られる、酵素活性を有する乾燥粉末。
【請求項2】
米糠の水含浸物から得られる抽出液を乾燥させて得られる乾燥粉末であって、該乾燥粉末の吸湿割合が6質量%以下であり、かつ、乾量基準の質量減少率が13質量%以下である、酵素活性を有する乾燥粉末。
【請求項3】
前記米糠の質量を基準とする収率が5〜20質量%であることを特徴とする、請求項1または2に記載の酵素活性を有する乾燥粉末。
【請求項4】
米糠の水含浸物を固液分離して抽出液を取り出す工程、該抽出液を乾燥する工程を備えてなる、酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法。
【請求項5】
前記乾燥が凍結乾燥によって行われる、請求項4に記載の酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法。
【請求項6】
請求項1または2に記載の酵素活性を有する乾燥粉末を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の酵素活性を有する乾燥粉末を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法。
【請求項8】
請求項1または2に記載の酵素活性を有する乾燥粉末を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法。
【請求項9】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を凍結させてなる、酵素活性を有する氷結体。
【請求項10】
請求項9に記載の酵素活性を有する氷結体を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法。
【請求項11】
請求項9に記載の酵素活性を有する氷結体を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法。
【請求項12】
請求項9に記載の酵素活性を有する氷結体を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法。
【請求項13】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法。
【請求項14】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法。
【請求項15】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法。
【請求項16】
米糠の溶媒含浸物から得られる抽出液のpHを調整してコロイド状物質を沈殿除去して得られた上澄み液からなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する溶液。
【請求項17】
前記pHが5〜7に調整されてなる、請求項16に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液。
【請求項18】
米糠の水含浸物を固液分離して抽出液を取り出す工程、該抽出液のpHを調整してコロイド状凝集物を沈殿させる工程、該コロイド状凝集物および上澄み液からなる抽出液から上澄み液を取り出す工程、を備えてなる、該上澄み液からなる酵素活性を有する溶液の製造方法。
【請求項19】
前記コロイド状凝集物を沈殿させる工程において、前記抽出液を氷冷することを特徴とする、請求項18に記載の製造方法。
【請求項20】
請求項16または17に記載の酵素活性を有する溶液を凍結させてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体。
【請求項21】
請求項16または17に記載の酵素活性を有する溶液を乾燥させてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する乾燥粉末。
【請求項22】
請求項18または19に記載の製造方法により得られた溶液を乾燥する工程を備えてなる、タンパク質が除去された酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法。
【請求項23】
前記乾燥が凍結乾燥によって行われる、請求項22に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する乾燥粉末を製造する方法。
【請求項24】
請求項16または17に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、請求項20に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、請求項21に記載のタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルタミン酸を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸を含有する溶液を製造する方法。
【請求項25】
請求項16または17に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、請求項20に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、請求項21に記載のタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルカンを主鎖とする多糖類を含有する溶液に添加する工程を備えてなる、還元糖を含有する溶液を製造する方法。
【請求項26】
請求項16または17に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する溶液、請求項20に記載のタンパク質が除去された酵素活性を有する氷結体、および、請求項21に記載のタンパク質が除去された乾燥粉末からなる群から選ばれる1以上を、グルタミン酸とグルカンを主鎖とする多糖類とを含有する食品に添加する工程を備えてなる、γ−アミノ酪酸と還元糖とを含有する食品を製造する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
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【図6】
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【図18】
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【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
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【図26】
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【図28】
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【図31】
【図32】
【図33】
【公開番号】特開2009−183276(P2009−183276A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−135733(P2008−135733)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【出願人】(504409543)国立大学法人秋田大学 (210)
【Fターム(参考)】
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