説明

酵素燃料電池

【課題】より多くの酵素を用いることができ、かつ酵素の交換が容易な酵素燃料電池を提供する。
【解決手段】本発明の酵素燃料電池1は、酵素に燃料を反応させて反応生成物の生成が行われる生成室61,71と、電極12、22及び電解質膜31が収容された電極室11、21と、生成室61、71と電極室11、21との間を接続して生成室61、71から電極室11、21に反応生成物を流入させる反応生成物流入通路L1を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素を触媒として利用する燃料電池の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
酵素燃料電池は、酵素を触媒として使用し、アルコール、グルコース等を燃料に用いる。特許文献1には、酵素を電極の表面に固定化した酵素燃料電池の構造が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−13210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、電極に固定化できる酵素の量には限界がある。したがって、電極表面の有効表面積に応じて固定化可能な酵素量の上限値が決まってしまい、それ以上酵素の量を増やすことができず、燃料電池として発電量を増大させることはできなかった。また、大量の酵素を電極表面に固定化すると、電極の導電性が低下するという問題があった。
【0005】
そして、酵素を電極に固定化すると、例えば酵素が失活したときに酵素のみを交換することができず、電極全体を交換しなければならず、酵素燃料電池の分解組立作業が煩雑でコスト高を招来するという問題がある。
【0006】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、より多くの酵素を用いることができ、かつ酵素の交換が容易な酵素燃料電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の酵素燃料電池は、酵素を触媒として使用する酵素燃料電池であって、酵素が収容され、酵素に燃料を反応させて反応生成物の生成が行われる生成室と、電極及び電解質膜が収容された電極室と、生成室と電極室との間を接続して生成室から電極室に反応生成物を流入させる反応生成物流入通路とを有することを特徴としている。
【0008】
本発明の酵素燃料電池によれば、酵素が収容され、酵素に燃料を反応させて反応生成物の生成が行われる生成室と、電極及び電解質膜が収容された電極室と、生成室と電極室との間を接続して生成室から電極室に反応生成物を流入させる反応生成物流入通路とを有しているので、生成室と電極室とを互いに分離して使用することができ、反応生成物の生成と発電を別々に行うことができる。
【0009】
したがって、電極の導電性を保持しつつ、大量の酵素を使用することができ、酵素の使用量も電極の大きさによって制限されない。また、酵素の固定化による電極の導電性低下という問題も発生しない。そして、酵素の保存条件や反応条件を容易に変更することができる。そして、酵素が失活した場合には、生成室内の酵素の交換、あるいは生成室全体を交換することによって酵素の入れ替えや再生が容易になり、従来のように、電極全体を交換する必要がなく、酵素燃料電池の煩雑な分解組立作業を省略することができる。
【0010】
本発明の酵素燃料電池は、燃料を貯留する燃料タンクと、燃料タンクと生成室との間を接続して燃料タンクから生成室に燃料を流入させる燃料流入通路と、を有することを特徴としている。
【0011】
本発明によれば、燃料タンクと、燃料タンクから生成室に燃料を流入させる燃料流入通路を有しているので、例えば燃料タンク内の燃料が消費により減少した場合に、燃料タンク内への燃料の補給、あるいは燃料タンクの交換を行うことができる。そして、生成室内の酵素が失活した場合には、燃料タンクとは別に、生成室内の酵素の入れ替えや、生成室全体を交換することができる。したがって、使い勝手がよく、利便性が高い燃料電池を得ることができる。
【0012】
本発明の酵素燃料電池は、生成室が複数且つ直列に接続されており、各生成室には、燃料又は反応生成物を順番に通過させて連続的に反応させるための酵素が種類別に収容されていることを特徴としている。
【0013】
本発明によれば、複数且つ直列に接続された生成室に燃料又は反応生成物を順番に通過させて、各生成室内の酵素に反応させることができる。したがって、少なくとも一つの生成室内の酵素が失活した場合には、該失活した酵素を収容している生成室のみを交換することができ、他の生成室では、該他の生成室に収容されている酵素を引き続き使用することができる。また、各生成室には、燃料又は反応生成物を順番に通過させて連続的に反応させるための酵素が種類別に収容されているので、各生成室内を個々に酵素の反応に最適な環境にすることによって、各生成室内における酵素反応をそれぞれ向上させることができる。
【0014】
本発明の酵素燃料電池は、生成室が複数且つ並列に接続されており、各生成室には、燃料又は反応生成物を通過させて反応させるための酵素が種類別に収容されていることを特徴としている。
【0015】
本発明によれば、複数且つ並列に接続された生成室に燃料又は反応生成物を通過させて、各生成室内の酵素に反応させることができる。したがって、少なくとも一つの生成室内の酵素が失活した場合には、該失活した酵素を収容している生成室のみを交換することができ、他の生成室では、該他の生成室に収容されている酵素を引き続き使用することができる。また、各生成室には、燃料又は反応生成物を通過させて反応させるための酵素が種類別に収容されているので、各生成室内を個々に酵素の反応に最適な環境にすることによって、各生成室内における酵素反応をそれぞれ向上させることができる。
【0016】
本発明の酵素燃料電池は、反応生成物の成分を分析する分析手段を有することを特徴としている。
【0017】
本発明によれば、酵素反応後の反応生成物の成分を分析することによって、反応の進行具合を把握することができる。したがって、例えば、生成室で生成された反応生成物の成分を分析した結果、予め設定された最終生成物と一致するとの分析結果を得た場合には、生成室において酵素反応が正常に行われていると判断することができ、一致しないとの分析結果を得た場合には、酵素反応が正常に行われていないと判断することができる。
【0018】
本発明の酵素燃料電池は、生成室内における酵素の反応環境を変更する環境変更手段と、分析手段による分析結果に応じて環境変更手段を制御して、生成室内における酵素の反応を制御する酵素反応制御手段を有することを特徴としている。
【0019】
本発明の酵素燃料電池によれば、生成室で生成された反応生成物の分析結果に応じて環境変更手段を制御して、生成室内における酵素の反応を制御することができる。したがって、生成室内の環境を生成室内の酵素が最も活性化する最適な反応環境にすることができ、酵素の反応効率を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の酵素燃料電池によれば、酵素が収容され、酵素に燃料を反応させて反応生成物の生成が行われる生成室と、電極及び電解質膜が収容された電極室と、生成室と電極室との間を接続して生成室から電極室に反応生成物を流入させる反応生成物流入通路を有しているので、生成室と電極室とを互いに分離して使用することができ、反応生成物の生成と発電を別々に行うことができる。
【0021】
したがって、電極の導電性を保持しつつ、大量の酵素を使用することができ、酵素の使用量も電極の大きさによって制限されない。また、酵素の固定化による電極の導電性低下という問題も発生しない。そして、酵素の保存条件や反応条件を容易に変更することができる。
【0022】
そして、酵素が失活した場合には、生成室内の酵素の交換、あるいは生成室全体を交換することによって酵素の入れ替えや再生が容易になり、従来のように、電極全体を交換する必要がなく、酵素燃料電池の煩雑な分解組立作業を省略することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施の形態における酵素燃料電池の構成例を説明する図。
【図2】第1実施の形態における酵素燃料電池の他の構成例を説明する図。
【図3】第1実施の形態における酵素燃料電池の他の構成例を説明する図。
【図4】実施例1において使用した酵素燃料電池の電池本体の構成を示す模式図。
【図5】図4に示す電池本体の分解図。
【図6】実施例1の評価結果を示すI−P曲線図。
【図7】第1実施の形態における酵素燃料電池の他の構成例を説明する図。
【図8】第2実施の形態における酵素燃料電池の構成例を説明する図。
【図9】分析手段によるオンラインモニタリング結果を示す図。
【図10】実施例2と比較例2を説明する図。
【図11】図9に示す電池の測定結果を示すグラフ。
【図12】第3実施の形態における酵素燃料電池の構成例を説明する図。
【図13】第3実施の形態における酵素燃料電池の他の構成例を説明する図。
【図14】第3実施の形態における酵素燃料電池の他の構成例を説明する図。
【図15】第4実施の形態における酵素燃料電池の構成例を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
[第1実施の形態]
次に、本発明の第1実施の形態について図面を用いて説明する。
【0025】
図1は、本実施の形態における酵素燃料電池の構成例1−1を模式的に示す断面図である。
【0026】
酵素燃料電池1は、酵素を触媒として使用するものであり、図1に示すように、酵素が収容され、酵素に燃料を反応させて反応生成物の生成が行われる生成室61、71と、電極13、23及び電解質膜31が収容された電極室11、21と、生成室61、71と電極室11、21との間を接続して生成室61、71から電極室11、12に反応生成物を流入させる反応生成物流入通路L1を有している。
【0027】
酵素燃料電池1は、入力部2と出力部3によって構成されており、入力部2に生成室61、71が設けられ、出力部3に電極室11、21が設けられている。出力部3は、電極12、22及び電解質膜31が収容されたアノード側とカソード側の2つの電極室11、21を有している。電解質膜31は、これら2つの電極室11、21の間に介在されて、両電極室11、21をプロトン伝導可能な状態で接続している。
【0028】
電極室11、21は、反応生成物流入通路L1を介して生成室61、71から供給される反応生成物を充填可能な室内空間を有している。電極室11、21には、廃液を排出するための排出通路Loutが接続されている。そして、電極室11、21内には、電極12、22と、各電極12、22から電子を集電するための集電体13、23がそれぞれ設けられている。
【0029】
電極室11、21は、電解質膜31を電極12、22で挟み込み、さらにその両側から挟み込むように集電体13、23が配設されており、各集電体13、23の外側に、それぞれ室内空間が形成されている。電極12、22は、電解質膜31に熱溶着された構成としてもよい。
【0030】
電極12、22は、外部と電気的に接続可能な素材であれば特に限定されず、例えば、Pt、Ag、Au、Ru、Rh、Os、Nb、Mo、In、Ir、Zn、Mn、Fe、Co、Ti、V、Cr、Pd、Re、Ta、W、Zr、Ge、Hfなどの金属、アルメル、真ちゅう、ジュラルミン、青銅、ニッケリン、白金ロジウム、ハイパーコ、パーマロイ、パーメンダー、洋銀、リン青銅などの合金類、ポリアセチレン類などの導電性高分子、グラファイト、カーボンブラックなどの炭素材、HfB2、NbB、CrB2、B4Cなどのホウ化物、TiN、ZrNなどの窒化物、VSi2、NbSi2、MoSi2、TaSi2などのケイ化物、及びこれらの合材等を用いることができる。電極12、22は、反応生成物との間で電子の受け渡しを円滑に行うために、メディエータが固定化された構成としてもよい。
【0031】
集電体13、23は、それぞれ外部回路(図示せず)に接続されており、アノード側の電極室11の電極12で取得した電子を、集電体13から外部回路を通じてカソード側の電極室21の集電体23に移動させ、電極22に引き渡す役割を担う。
【0032】
電解質膜31は、電子伝導性を持たずプロトン伝導性を有するものであれば特に制限されるものではない。例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸系の樹脂膜、トリフルオロスチレン誘導体の共重合膜、リン酸を含浸させたポリベンズイミダゾール膜、芳香族ポリエーテルケトンスルホン酸膜等が挙げられる。具体的にはナフィオン(登録商標)が用いられる。
【0033】
一方、入力部2の生成室61、71は、酵素に燃料を反応させて反応生成物を生成する反応場を有しており、その反応場で反応生成した反応生成物を、反応場から電極室11、21に供給する。
【0034】
入力部2は、燃料を貯留する燃料タンク41、51を有しており、燃料タンク41、51と生成室61、71との間を燃料流入通路L2で接続して燃料タンク41、51から生成室61、71に燃料を供給して、生成室61、71を反応場として酵素に燃料を反応させて反応生成物を生成する。
【0035】
生成室61、71で生成された反応生成物は、反応生成物流入通路L1を介して生成室61、71から電極室11、21に供給される。生成室61、71は、酵素を固定化担体に吸着させた状態で収容しており、固定化担体の入れ替えや、生成室61、71全体の交換が可能な構成を有している。
【0036】
アノード側の生成室61に収容されている酵素は、燃料タンク41から生成室61に供給される燃料の酸化反応に関与するものであり、下記に例示する燃料に応じて選択されることが好ましい。例えば、メタノールを燃料とする場合、メタノールからホルムアルデヒドへ酸化するアルコールデヒドロゲナーゼが挙げられる。また、例えば、グルコースを燃料とする場合、グルコースからグルコノラクトンへ酸化するグルコースデヒドロゲナーゼが挙げられる。
【0037】
上記酵素は、NAD依存型デヒドロゲナーゼ又はPQQ(ピロロキノリンキノン)型デヒドロゲナーゼであることが好ましい。NAD依存型デヒドロゲナーゼは、補酵素としてNAD(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)が用いられ、NADの存在下において燃料の酸化反応が進行する。一方、PQQ(ピロロキノリンキノン)型デヒドロゲナーゼは、生体由来の酵素であり、NADの補酵素の非存在下でも燃料の酸化反応が進行する。
【0038】
また、PQQ型デヒドロゲナーゼの具体例として、アセトバクターパステウリアヌス(Acetobacter pasteurianus)、メチロバクテリウムエクストルケヌス(Methylobacterium extor quens)、パラコッカスデニトリフィカンス(Paracoccus denitrificans)、シュードモナスプチダ(Pseudomonas putida)、コマモナステストステロニ(Comamonas testosteroni)(NBRC 12048)由来のPQQ型アルコールデヒドロゲナーゼ、アセトバクターカルコアセチクス(Acetobacter calcoaceticus)、大腸菌由来のPQQ型グルコースデヒドロゲナーゼ等を用いることができる。PQQ型デヒドロゲナーゼのうちコマモナステストステロニ(NBRC 12048)由来のPQQ型アルコールデヒドロゲナーゼは、特にヘモグロビン、フェレドキシン、シトクロム、アズリンとの構造上の相性がよく、燃料の酸化反応を促進させる。
【0039】
また、生成室61内の酵素のその他の例として、糖代謝に関与する酵素 (例えばヘキソキナーゼ、グルコースリン酸イソメラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、フルクトース二リン酸アルドラーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、グリセルアルデヒドリン酸デヒドロゲナーゼ、ホスホグリセロムターゼ、ホスホピルビン酸ヒドラターゼ、ピルビン酸キナーゼ、L−乳酸デヒドロゲナーゼ、D−乳酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ、クエン酸シンターゼ、アコニターゼ、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ、2−オキソグルタル酸デヒドロゲナーゼ、スクシニル−CoAシンテターゼ、コハク酸デヒドロゲナーゼ、フマラーゼ、マロン酸デヒドロゲナーゼ等)等を用いることができる。
【0040】
そして、上記の酵素が吸着される固定化担体の材料としては、例えば、イオン交換系、アフィニティー、金属キレート系(His−Tag付)などが挙げられる。
【0041】
生成室61には、酵素と共にメディエータを収容する構成としてもよく、特にPQQ型デヒドロゲナーゼを酵素として用いる際は、メディエータを生成室61に収容しておくことが好ましい。
【0042】
メディエータとしては、例えば、2−アミノ−3−カルボキシ−1,4−ナフトキノン(ACNQ)、ビタミンK3、2−アミノ−1,4−ナフトキノン(ANQ)、2−アミノ−3−メチル−1,4−ナフトキノン(AMNQ)、2、3−ジアミノ−1,4−ナフトキノン、オスミウム(Os)、ルテニウム(Ru)、鉄(Fe)、コバルト(Co)などの金属錯体、ベンジルビオローゲンなどのビオローゲン化合物、キノン骨格を有する化合物、ニコチンアミド構造を有する化合物、リボフラビン構造を有する化合物、ヌクレオチド−リン酸構造を有する化合物などが挙げられる。
【0043】
燃料タンク41から生成室61に供給される燃料は、例えば、メタノール等のアルコール類、グルコース等の糖類、脂肪類、タンパク質、糖代謝の中間生成物の有機酸(グルコース−6−リン酸、フルクトース−6−リン酸、フルクトース−1,6−ビスリン酸、トリオースリン酸イソメラーゼ、1,3−ビスホスホグリセリン酸、3−ホスホグリセリン酸、2−ホスホグリセリン酸、ホスホエノールピルビン酸、ピルビン酸、アセチル−CoA、クエン酸、cis−アコニット酸、イソクエン酸、オキサロコハク酸、2−オキソグルタル酸、スクシニル−CoA、コハク酸、フマル酸、L−リンゴ酸、オキサロ酢酸等)、これらの混合物等が用いられる。
【0044】
カソード側の生成室71内の酵素は、例えば酸素還元酵素を使用することができる。酸素還元酵素としては、ビリルビンオキシターゼ、ラッカーゼ、ペルオキシダーゼ等を用いることができる。また、カソード側のメディエータとしては、アノード側で記載した金属錯体、ABTS、フェリシアン化カリウム、プロマジン、シリンガアルデヒドを用いることが好ましい。
【0045】
燃料タンク51から生成室71に供給される燃料は、例えば、酸素、フェノール類、過酸化水素等を用いることができる。なお、燃料として酸素などの気体を用いる場合には、緩衝液に酸素を溶存した液体として燃料タンク51に供給する、または、生成室71にメディエータを用いる等して、生成室71から電極室21に電子を伝達するための液体が存在する状態とする。
【0046】
次に、本実施形態に係る酵素燃料電池1の発電反応について説明する。
【0047】
ここでは、アノード側の燃料タンク51に貯留されて生成室61に供給される燃料をメタノールとし、生成室61内の酵素をPQQ型アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH)とする場合を例として説明する。
【0048】
燃料タンク41からアノード側の生成室61にメタノールが充填され、燃料タンク51からカソード側の生成室71に酸素が充填されると、各生成室61、71における酸化還元反応は、下式(1),(2)によって表される。
【0049】

【0050】
上式(1)に示すように、アノード側の生成室61では、メタノールがADHによってホルムアルデヒドと水素イオンと電子とにする反応が行われる。アノード側の生成室61で生成された反応生成物は、反応生成物流入通路L1を介して生成室61から電極室11に供給され、電子は、メディエータによって電極12に運ばれ、さらに外部回路を通じてカソード側に運ばれる。そして、電極室11内の水素イオンは、電解質膜31を介して、カソード側の電極室21内に移動する。
【0051】
一方、カソード側の電極室21および生成室71では、メディエータを介して、上式(2)に示すように、水素イオン、電子、酸素が反応して水を生成する反応が行われる。上記これらの反応によって、外部回路にエネルギが出力される。
【0052】
上記構成を有する酵素燃料電池1によれば、酵素が収容され、酵素に燃料を反応させて反応生成物の生成が行われる生成室61、71と、電極12、22及び電解質膜31が収容された電極室11、21と、生成室61、71と電極室11、21との間を接続して生成室61、71から電極室11、21に反応生成物を流入させる反応生成物流入通路を有しているので、生成室61、71と電極室11、21とを互いに分離して使用することができ、反応生成物の生成と発電を別々に行うことができる。
【0053】
そして、電極12、22に酵素を固定する従来の構成を採用しないので、電極12、22の有効面積によって制限されることなく、電極12、22の導電性を保持しつつ、大量の酵素を使用することができる。したがって、より多くの電力を得ることができ、酵素の固定化による電極の導電性低下という問題も発生しない。そして、酵素の保存条件や反応条件を容易に変更することができる。
【0054】
そして、生成室61、71内の酵素が失活した場合には、生成室61、71内の酵素の交換、あるいは生成室61、71全体を交換することによって、酵素の入れ替えや再生が容易になり、従来のように、電極全体を交換する必要がなく、酵素燃料電池1の煩雑な分解組立作業を省略することができる。
【0055】
また、従来は、電極に酵素を固定する構成を採用していたので、電極と電解質膜とを互いに熱溶着しようとすると、その熱によって酵素が失活してしまい、熱溶着できなかったが、本発明では、電極12、22に酵素を固着しないので、電極12、22を電解質膜31に熱溶着することができ、電極12、22と電解質膜31との間のプロトン伝導性を飛躍的に向上させることができる。
【0056】
また、上記構成を有する酵素燃料電池1によれば、燃料タンク41、51と、燃料タンクから生成室61、71に燃料を流入させる燃料流入通路L2を有しているので、例えば燃料タンク41、51内の燃料が消費により減少した場合に、生成室61、71とは別に、燃料タンク41、51内への燃料の補給、あるいは燃料タンク41、51の交換を行うことができる。そして、生成室61、71内の酵素が失活した場合には、燃料タンク41、51とは別に、生成室61、71内の酵素の入れ替えや、生成室61、71ごと交換することができる。したがって、使い勝手がよく、利便性が高い酵素燃料電池1を得ることができる。
【0057】
本実施の形態において、集電体13、23の位置は、図1に示す構成に限定されるものではなく、例えば、図2に示すように、電解質膜31を電極12、22で挟み込み、電極12、22に集電体13、23を対向して配設し、電極12、22と集電体13、23との間に電極室11、21の各空間部を形成して、各空間部に反応生成物を供給する構成としてもよい。また、特に図示していないが、集電体13、23を、電極12、22と電解質膜31との間に配設し、あるいは、電極の内部に貫通させて配設する構成としてもよい。
【0058】
そして、酵素燃料電池1は、図3に示すように、入力部2に出力部3を脱着自在なカートリッジ式の取付構成としてもよい。図3(a)は取り付け状態図、図3(b)は取り外し状態図である。図3に示すカートリッジ式の酵素燃料電池1は、図3(a)に示すように、入力部2に出力部3を着脱可能な構成を有しており、出力部3を装着することによって、入力部2から出力部3に反応生成物流入通路L1を介して反応生成物が流入され、出力部3内で電気が取り出される。そして、入力部2内における酵素反応の終了後、図3(b)に示すように、入力部2から出力部3を取り外すことができ、出力部3を新たな入力部2に装着することができるようになっている。
【0059】
(実施例1)
<1‐1>カーボンスラリーの作製方法
ケッチンブラック(ライオン社製)50mg、10% ポリビニルピリジン(MW:160,000、シグマ・アルドリッチ社製) 222μLとN-メチルピロリドン(和光純薬社製)3mLをそれぞれ量り取り、10mLのコーニングチューブに混合し、得られた混合物を超音波破砕機で充分に分散させて、スラリーとした。
【0060】
<1‐2>アノード電極の作製方法
トレカマットTR50(東レ社製)を1cm2の円状に加工し、この表面(両面)に<1‐1>で作製したカーボンスラリーを塗布し、乾燥した電極をアノード電極12とした。
【0061】
<1‐3>カソード電極の作製方法
トレカマットTR50(東レ社製)を1cm2の円状に加工し、この表面(両面)に<1‐1>のスラリーを塗布し、乾燥した電極をカソード電極22とした。
【0062】
<1‐4>酵素固定化担体の作製方法
ギ酸ヒドロゲナーゼ(Candida boidinii由来、SIGMA社製) 5mgを10mM リン酸カリウム液(pH7.5)0.5mLに溶かし、ヒドロゲナーゼ酵素溶液とした。この酵素溶液を陰イオン交換樹脂(HiTrap Q FF、GEヘルスケア社製)0.1mLに加え、4℃にて振動することによって樹脂に吸着させた。吸着処理後、樹脂を10mMリン酸ナトリウム液(pH7.5)2mLで洗浄し、ギ酸ナトリウム/酵素固定化担体(樹脂)とした。
【0063】
<1-5>酵素燃料電池の電池本体の作成
図4は、実施例1において使用した酵素燃料電池1の電池本体の構成を示す模式図であり、図4(a)は正面図、図4(b)は図4(a)のx−x線断面図である。そして、図5は、図4に示す電池本体の分解図である。
【0064】
酵素燃料電池1の出力部3は、図4に示すように、電解質膜31としてNafion115(登録商標、Aldrich社製、寸法:1辺350mm×厚さ0.127mm)の両側に、アノード電極12及びカソード電極22、さらにその両側にカーボンフェルト15、25を介してチタン製の集電体(寸法:厚さ0.1mm)13、23及びアクリル製の絶縁板(寸法:1辺350mm×厚さ3mm)16、26を挟むことによって作製した。
【0065】
電極12、22とカーボンフェルト15、25は、図5に示すように、電解質膜31と集電体13、23の間に介在された板状のシリコンラバー17、27の空孔部18、28内に配置されて、電解質膜31と集電体13、23の間に所定の押圧力で挟持されて電気的に接続している。そして、集電体13、23と絶縁板16、26との間にも、シリコンラバー17、27が介在されており、空孔部18、28によって電極室11、21の室内空間が形成されている。絶縁板16、26の中心には、図4(a)に示すように、シリコンラバー17、27の空孔部18、28に連通する開口部16a、26aが設けられており、入力部2(図1等を参照)から供給される反応生成物を、電極室11、21の室内空間に充填できるようになっている。
【0066】
<1-6>燃料の組成
入力部2で酵素と反応される燃料の組成は下記の通りである。
【0067】
<1-6-1>アノード用溶液
0.83M リン酸ナトリウム緩衝液(pH7.0)
0.68M ギ酸ナトリウム溶液
0.25M NADH溶液
0.5M NAD溶液
0.05M mPMS溶液
【0068】
上記NADH溶液には、NADH(ナカライテスク社製)を50mM Tris−HCl(pH8.0)にて溶解したものを使用した。また、上記mPMS溶液には、1−Methoxy−5−methylphenazinium methylsulfate(同仁化学社製)を水に溶解したものを使用した。
【0069】
<1-6-2>カソード用溶液
1M ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム水溶液
上記ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム水溶液には、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(ナカライテスク社製)を水に溶解したものを使用した。
【0070】
<1-7>評価
実施例1の酵素燃料電池の電池評価を行った。出力の測定は、電池両極間に直列に接続した外部負荷装置としてELECTRONIC LOAD PLZ164WA(KIKUSUI社製)およびWavy for PLZ−4Wソフトウェア(KIKUSUI社製)を用いて、評価用電池にかかる外部抵抗値を4kΩから1Ωまで適当な間隔で変化させて、各時点での電流・電圧の値を34970A Date Acquisition/Switch Unit(Agilent社製)を用いて計測した。測定は室温条件下(約25℃)にて実施した。
【0071】
図6は、実施例1の評価結果を示すI−P曲線図である。実施例1の酵素燃料電池1は、生成室61、71が電極室11、21とは別に設けられた構成を有しているので、酵素が電極12、22に固定されたものよりも、より多くの酵素を使用することができる。
【0072】
出力は、図6に示すように、電流値が約3.8mAのときに、約1.5mW/cm2の出力を得ることができた。
【0073】
そして、実施例1の酵素燃料電池は、反応終了後に生成室61、71から固定化担体を取り出して、酵素を再充填することができた。したがって、再生可能な酵素燃料電池1を作製することができた。
【0074】
上述の第1実施の形態における構成例1−1では、アノード側とカソード側の両方に、酵素を有する生成室61、71を各々設けた場合を例に説明したが、いずれか一方でもよい。
【0075】
例えば、カソード側は酸化還元反応をさせることができればよく、カソード側を酵素ではなく、白金などの貴金属触媒、あるいは、フェリシアン化カリウムなどの酸化還元作用を有するメディエータのみを有する構成としてもよい。
【0076】
図7は、第1実施の形態における酵素燃料電池の構成例1−2を説明する図である。図7に示す酵素燃料電池1は、アノード側にのみ生成室61を設けて酵素に燃料を反応させる構成とし、カソード側を酵素ではなく、白金触媒を用いて酸化還元反応させる構成となっている。
【0077】
上記構成例1−2によれば、アノード側のみ酵素反応させ、カソード側は酵素を用いないので、構成例1−1と比較して構造が簡単で容易に実施でき、また、酵素の失活や反応条件等の管理もアノード側だけ行えばよく、酵素の管理及び制御が容易である。
【0078】
[第2実施の形態]
次に、本発明の第2実施の形態について説明する。図8は、第2実施の形態における酵素燃料電池の構成例2−1を説明する図である。なお、第1実施の形態と同様の構成要素については、同様の符号を付することでその詳細な説明を省略する。
【0079】
本実施の形態において特徴的なことは、生成室が複数且つ直列に接続されており、各生成室には、燃料又は反応生成物を順番に通過させて連続的に反応させるための酵素が種類別に収容されている点、及び、生成室で生成された反応生成物の成分を分析する分析手段を有する点である。
【0080】
例えば、図8に示す構成例では、アノード側に1個の燃料タンク42と第1〜第3生成室62、63、64を有し、カソード側に1個の燃料タンク52と1個の生成室72を有している。
【0081】
第1〜第3生成室62〜64は、順番に並べられて直列に接続されており、第1生成室62の上流側が燃料流入通路L2を介して燃料タンク42に接続され、第3生成室64の下流側が反応生成物流入通路L1を介して出力部3の電極室11に接続されている。
【0082】
第1生成室62には、燃料タンク42から供給される燃料と反応して第1反応生成物を生成する酵素が固定化担体に吸着された状態で収容されている。第1生成室62で生成された第1反応生成物は、第2生成室63に供給される。
【0083】
第2生成室63には、第1生成室62から供給された第1反応生成物と反応して第2反応生成物を生成する酵素が固定化担体に吸着された状態で収容されている。第2生成室63で生成された第2反応生成物は、第3生成室64に供給される。
【0084】
第3生成室64には、第2生成室63から供給された第2反応生成物と反応して第3反応生成物を生成する酵素が固定化担体に吸着された状態で収容されている。第3生成室64で生成された第3反応生成物は、反応生成物流入通路L1を介して出力部3の電極室11に供給される。
【0085】
分析手段4は、入力部2で生成される反応生成物から試料をサンプリングして、その成分の質的量的変化を連続的にモニタする構成を有している。分析手段4によれば、酵素反応後の生成物分析を常時モニタリングすることによって、反応の進行具合を把握することができる。
【0086】
分析手段4は、本実施の形態では、反応生成物流入通路L1から試料をサンプリングするように構成されているが、各生成室62〜64の少なくとも一つからサンプリングしてもよく、また、出力部3の電極室11、21や、排出通路Lout等、あらゆる場所でサンプリングすることができ、例えばその一例を図8に示す。
【0087】
図8に示す構成例2−1では、分析手段4は、アノード側の入力部2と出力部3との間、及びカソード側の入力部2と出力部3との間からサンプリングするように、それぞれ設けられているが、アノード側とカソード側のいずれか一方側に設けてもよい。
【0088】
分析手段4は、アノード側では、第3生成室64と出力部3の電極室11との間に設けられたサンプリング通路4aから反応生成物を採取して、その成分を分析する。したがって、入力部2における酵素反応の進行具合を把握することができる。例えば図9(a)に示すように、サンプリング通路4aから採取した反応生成物を分析した結果、予め設定された最終生成物(第3反応生成物)と一致するとの分析結果を得た場合には、第1〜第3生成室62〜64における全ての酵素反応に問題がなく、それぞれ正常に酵素反応が行われていると判断することができる。
【0089】
一方、サンプリング通路4aから採取した反応生成物が最終生成物ではないとの分析結果を得た場合には、第1〜第3生成室62〜64のいずれかにおいて、正常に反応が行われていないと判断することができる。そして、図9(b)に示すように、サンプリング通路4aから採取した反応生成物が中間生成物(第1反応生成物)の場合には、第2生成室63の酵素が失活して、酵素反応が停止していると判断することができる。したがって、酵素が失活している生成室の交換等を使用者に指示することができる。
【0090】
同様に、カソード側でも、生成室72と出力部3の電極室21との間に設けられたサンプリング通路4bから反応生成物を採取して分析することにより、その反応生成物が最終生成物の場合には、生成室72で正常に酵素反応が行われており、酵素反応に問題がないと判断でき、また、反応生成物が最終生成物になっていない場合には、生成室72の酵素が失活して、酵素反応が停止していると判断することができる。
【0091】
上記構成を有する酵素燃料電池1によれば、直列に接続された複数の生成室62〜64に燃料又は反応生成物を順番に通過させて、各生成室62〜64内の酵素に反応させることができるので、複数の生成室62〜64のうちの少なくとも一つの生成室に収容されている酵素が失活した場合に、該失活した酵素を収容している生成室を交換することができ、他の生成室に収容されている酵素を引き続き使用することができる。
【0092】
また、各生成室62〜64には、酵素が種類別に収容されているので、各生成室62〜64を各酵素の反応や保存に最適な環境に個別に設定することができ、各生成室内における酵素の反応効率や保存状態を向上させることができる。
【0093】
また、分析手段4によって、入力部2における酵素反応が正常に行われているか否かを正確に把握することができる。したがって、例えば、入力部2の酵素が失活して酵素反応が正常に行われなくなった場合には、その失活した酵素を特定して、該酵素が収容されている生成室の交換等を使用者に指示することができる。
【0094】
(実施例2)
<2‐1>カーボンスラリーの作製方法
ケッチンブラック(ライオン社製)50mg、10% ポリビニルピリジン(MW:160,000、シグマ・アルドリッチ社製) 222μLとN-メチルピロリドン(和光純薬社製)3mLをそれぞれ量り取り、10mLのコーニングチューブに混合した。得られた混合物を超音波破砕機で充分に分散させ、カーボンスラリーとした。
【0095】
<2‐2>アノード電極の作製方法
トレカマットTR50(東レ社製)を1cm2の円状に加工し、この表面(両面)に<2‐1>で作製したカーボンスラリーを塗布し、乾燥した電極をアノード電極12とした。
【0096】
<2‐3>カソード電極の作製方法
トレカマットTR50(東レ社製)を1cm2の円状に加工し、この表面(両面)に<2‐1>で作製したカーボンスラリーを塗布し、乾燥した電極をカソード電極22とした。
【0097】
<2‐4>酵素固定化担体(樹脂)の作製方法
<2-4-1>アルコールデヒドロゲナーゼ(Alcohol Dehydrogenase:ADH)の固定化担体の作製
アルコールデヒドロゲナーゼ(ADH、SIGMA社製)25U相当量を10mMのリン酸カリウム液(pH7.5)0.5mLに溶かし、ADH酵素溶液とした。このADH酵素溶液に陰イオン交換樹脂(HiTrap Q FF、GEヘルスケア社製)0.1mLを加え、4℃にて振動することによって樹脂に吸着させ、吸着処理後に樹脂を水で洗浄して、ADH/酵素固定化担体とした。
【0098】
<2-4-2>アルデヒドデヒドロゲナーゼ(Aldehyde Dehydrogenase:ALDH)の固定化担体の作製
アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH、SIGMA社製)25U相当量を10mM のTris-HCl(pH8.0) 0.5mLに溶かし、ALDH酵素溶液とした。このALDH酵素溶液に陰イオン交換樹脂(HiTrap Q FF、GEヘルスケア社製)0.1mLを加え、4℃にて振動することによって樹脂に吸着させ、吸着処理後に樹脂を水で洗浄して、ALDH/酵素固定化担体とした。
【0099】
<2-5>酵素燃料電池の電池本体の作製
図10は、実施例2において使用した酵素燃料電池の構成を示す模式図であり、図10(a)は酵素が正常状態である場合を実現する構成を示す図、図10(b)は酵素が失活状態である場合を実現する構成を示す図である。
【0100】
実施例2では、アノード側の入力部2は、1個の燃料タンク42、第1生成室62、第2生成室63を有しており、燃料タンク42に第1生成室62が接続され、第1生成室62に第2生成室63が接続され、第2生成室63に出力部3の電極室11が接続された構成を有している。第1生成室62には、ADH/酵素固定化担体が収容され、第2生成室63には、ALDH/酵素固定化担体が収容されている。
【0101】
カソード側の入力部2は、1個の燃料タンク52と、生成室72を有しており、燃料タンク52に生成室72が接続され、生成室72に出力部3の電極室21が接続された構成を有している。
【0102】
<2-6>燃料の組成
入力部2で酵素と反応される燃料の組成は下記の通りである。
【0103】
<2-6-1>アノード用溶液
0.92M Tris−HCl(pH8.0)
3%(V/V) エタノール
0.5M NAD溶液
0.05M mPMS溶液
【0104】
上記したmPMS溶液(メディエータ)は、1−Methoxy−5−methylphenazinium methylsulfate (同仁化学社製)を水に溶解したものを使用し、電池評価する直前に添加した。
【0105】
<2-6-2>カソード用溶液
1M ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム水溶液
上記ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム水溶液は、ヘキサシアノ鉄(III)酸カリウム(ナカライテスク社製)を水に溶解したものを使用した。
【0106】
<2-7>測定
出力の測定は、電池両極間に直列に接続した外部負荷装置としてELECTRONIC LOAD PLZ164WA(KIKUSUI社製)およびWavy for PLZ−4Wソフトウェア(KIKUSUI社製)を用いて行った。各時点での電流・電圧の値を34970A Date Acquisition/Switch Unit(Agilent社製)を用いて計測した。測定は室温条件下(約25℃)にて実施した。
【0107】
<2-8>測定結果
ADHとALDHを使用した連続反応は下記の反応1、反応2によって示される。
【0108】

【0109】
図11は、図10(a)、(b)に示す電池の測定結果を示すグラフである。
図10(a)に示す構成により、第1生成室62のADHと第2生成室63のALDHの順番(反応1、反応2の順)で処理したアノード用溶液で電池評価を行ったところ、図11(a)に示すように、酵素燃料電池1の出力は1.77〔mW/cm2〕であった。
【0110】
これに対して、生成室62のADHが失活したと想定し、図10(b)に示す構成により、生成室63のALDHのみを用いたアノード用溶液で電池評価を行ったところ、図11(b)に示すように、酵素燃料電池1の出力は0〔mW/cm2〕であった。
【0111】
したがって、連続反応の最初に使われる酵素が失活すると全ての酵素反応が停止し、発電が不可能であることが証明された。したがって、従来のように、連続反応に使用される複数種類の酵素を全て電極に固定化した構成の場合、いずれか一つの酵素が失活しただけで、発電が停止し、電池として機能しないことが理解できる。
【0112】
これに対して、本発明の酵素燃料電池1は、連続反応する酵素の種類別に生成室62、63が設けられているので、酵素が失活した生成室だけを交換すること、あるいは、失活した酵素を取り出して新たな酵素を再充填することができる。したがって、他の生成室に収容されている酵素を引き続き使用することができる。また、酵素の追加、再生も容易に行うことができる。
【0113】
上述の第2実施の形態における構成例2−1では、アノード側とカソード側の両方に、酵素を有する入力部2を各々設けた場合を例に説明したが、いずれか一方でもよい。例えば、カソード側は酸化還元反応をさせることができればよく、カソード側を酵素ではなく、白金などの貴金属触媒、あるいは、フェリシアン化カリウムなどの酸化還元作用を有するメディエータのみを有する構成としてもよい。
【0114】
[第3実施の形態]
次に、本発明の第3実施の形態について説明する。図12〜図14は、本実施の形態における酵素燃料電池1の構成例3−1〜3を説明する図である。なお、上述の各実施の形態と同様の構成要素には同一の符号を付することでその詳細な説明を省略する。
【0115】
本実施の形態において特徴的なことは、生成室を複数且つ並列に接続して、混合燃料又は反応生成物を反応させる構成を有することである。
【0116】
例えば、図12に示すように、本実施の形態の構成例3−1の場合、アノード側の入力部2には、第1〜第3生成室65〜67が並列に接続されており、燃料タンク43から各生成室65〜67に混合燃料が供給されるように構成されている。
【0117】
各生成室65〜67には、上流側の燃料タンク43から燃料流入通路L2を介して供給される混合燃料を通過させて反応させるための酵素が種類別に収容されており、混合燃料に酵素が反応して、それぞれ反応生成物が生成される。そして、各生成室65〜67で生成された各反応生成物が出力部3の電極室11に供給される。
【0118】
一方、カソード側の入力部2には、生成室73が設けられており、燃料タンク53から燃料流入通路L2を介して生成室73に混合燃料が供給される。そして、生成室73で混合燃料に酵素が反応して反応生成物が生成され、その反応生成物が生成室73から反応生成物流入通路L1を介して出力部3の電極室21に供給される。
【0119】
したがって、これら複数の生成室65〜67のうちの少なくとも一つの生成室内の酵素が失活した場合には、その失活した酵素を収容している生成室を交換することによって、他の生成室に収容されている酵素を引き続き使用することができる。また、各生成室65〜67には、複数種類の酵素が種類別に収容されているので、各生成室65〜67内を各酵素の反応や保存に最適な環境に個別に設定することができ、各生成室65〜67内における酵素の反応効率や保存状態を向上させることができる。
【0120】
分析手段4は、アノード側の反応生成物流入通路L1からサンプリング通路4aによって採取した反応液を分析して、第1〜第3反応生成物の検出を行う。ここで、第1〜第3反応生成物のうち、検出できなかった反応生成物がある場合に、かかる反応物を生成する生成室の酵素が失活して、酵素反応が停止していると判断することができる。したがって、酵素が失活している生成室の交換等を使用者に指示することができる。
【0121】
また、図13に示すように、本実施の形態の構成例3−2の場合、アノード側の入力部2には、第1生成室65と第2生成室66が並列に接続されており、その下流側に第3生成室68が接続されている。そして、燃料タンク43から第1生成室65と第2生成室66にそれぞれ混合燃料が供給され、各生成室65、66内の各酵素と反応して、第1反応生成物と第2反応生成物が生成される。これら第1反応生成物と第2反応生成物は、第3生成室68に供給され、第3生成室68内の酵素と反応して、第3反応生成物が生成される。第3反応生成物は、出力部3の電極室11に供給される。
【0122】
分析手段4は、アノード側の反応生成物流入通路L1からサンプリング通路4aを介して採取した反応溶液を分析して、第3反応生成物の検出を行う。ここで、第3反応生成物を検出することができなかった場合には、第3生成室68の酵素が失活して酵素反応が停止していると判断することができる。また、第1反応生成物と第2反応生成物のいずれか一方のみを検出した場合には、いずれか他方の反応生成物を生成する酵素が失活して酵素反応が停止していると判断することができ、酵素が失活している生成室の交換等を使用者に指示することができる。
【0123】
そして、図14に示すように、本実施の形態の構成例3−3の場合、アノード側の入力部2は、燃料タンク43の下流側に第1生成室69が接続され、第1生成室69の下流側に、第2生成室65と第3生成室66が並列に接続されている。そして、燃料タンク43から第1生成室69に混合燃料が供給され、混合燃料の一部が第1生成室69の酵素と反応して、第1反応生成物が生成される。
【0124】
そして、第1反応生成物と混合燃料の未反応分が第2生成室65と第3生成室66に供給され、第2生成室65の酵素と反応して第2反応生成物が生成され、また、第3生成室66の酵素と反応して第3反応生成物が生成される。そして、第2反応生成物と第3反応生成物が出力部3の電極室11に供給される。
【0125】
分析手段4は、アノード側の反応生成物流入通路L1からサンプリング通路4aを介して採取した反応溶液を分析して、第2反応生成物と第3反応生成物の検出を行う。ここで、第2反応生成物と第3反応生成物のいずれか一方のみを検出した場合には、いずれか他方の反応生成物を生成する酵素が失活して酵素反応が停止していると判断することができる。
【0126】
上述の第3実施の形態における構成例3−1〜3では、アノード側とカソード側の両方に、酵素を有する入力部2を各々設けた場合を例に説明したが、いずれか一方でもよい。例えば、カソード側は酸化還元反応をさせることができればよく、カソード側を酵素ではなく、白金などの貴金属触媒、あるいは、フェリシアン化カリウムなどの酸化還元作用を有するメディエータのみを有する構成としてもよい。また、分析手段4は、アノード側の入力部2と出力部3との間、及びカソード側の入力部2と出力部3との間に、それぞれ設けられているが、アノード側とカソード側のいずれか一方側に設ける構成としてもよい。
【0127】
[第4実施の形態]
次に、本発明の第4実施の形態について説明する。図15は、本実施の形態における酵素燃料電池1の構成例4−1を説明する図である。なお、上述の各実施の形態と同様の構成要素には同一の符号を付することでその詳細な説明を省略する。
【0128】
本実施の形態において特徴的なことは、分析手段4の分析によって把握された酵素の反応状態に応じて、生成室内における酵素の反応を制御する酵素反応制御手段5を設けたことである。
【0129】
酵素燃料電池1は、上述の第2実施の形態の構成を基本としている。入力部2の第1〜第3生成室62〜64には、生成室内における酵素の反応環境を変更する環境変更手段81〜83が設けられ、生成室72には、生成室72内における酵素の反応環境を変更する環境変更手段84が設けられている。酵素反応制御手段5は、分析手段4の分析結果に応じて環境変更手段81〜83、84を制御して、生成室内における酵素の反応を制御する。環境変更手段81〜83、84として、例えば生成室内の温度を調整するヒータが挙げられる。
【0130】
上記構成を有する酵素燃料電池1によれば、生成室62〜64、72内の環境を、酵素が最も活性化する最適な反応環境にすることができ、酵素の反応効率を向上させることができる。特に、酵素が活性化する反応環境が、各生成室62〜64、72に収容されている酵素の間で異なっている場合には、各酵素の特性及び生成室内における反応の進行具合に合わせて、生成室62〜64、72内の反応環境をそれぞれ調整することができるので、入力部2における酵素の反応効率を飛躍的に向上させることができる。
【0131】
上述の第4実施の形態における構成例4−1では、アノード側とカソード側の両方に、入力部2を設けた場合を例に説明したが、いずれか一方でもよい。例えば、カソード側は酸化還元反応をさせることができればよく、カソード側を酵素ではなく、白金などの貴金属触媒、あるいは、フェリシアン化カリウムなどの酸化還元作用を有するメディエータのみを有する構成としてもよい。かかる構成の場合、カソード側の分析手段4及び酵素反応制御手段5は、省略することができる。
【0132】
また、分析手段4は、アノード側の入力部2と出力部3との間、及びカソード側の入力部2と出力部3との間に、それぞれ設けられているが、アノード側とカソード側のいずれか一方側に設けてもよい。また、各生成室62〜64、72内にそれぞれ環境変更手段81〜83、84が設けられているが、少なくとも一つに設ける構成としてもよい。
【符号の説明】
【0133】
1 酵素燃料電池
2 入力部
3 出力部
4 分析手段
5 酵素反応制御手段
11、21 電極室
12、22 電極
13、23 集電体
31 電解質膜
41〜43、51〜53 燃料タンク
61〜64、71、72 生成室
81〜84 環境変更手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素を触媒として使用する酵素燃料電池であって、
前記酵素が収容され、該酵素に燃料を反応させて反応生成物の生成が行われる生成室と、
電極及び電解質膜が収容された電極室と、
前記生成室と前記電極室との間を接続して前記生成室から前記電極室に前記反応生成物を流入させる反応生成物流入通路と、
を有することを特徴とする酵素燃料電池。
【請求項2】
前記燃料を貯留する燃料タンクと、
該燃料タンクと前記生成室との間を接続して前記燃料タンクから前記生成室に前記燃料を流入させる燃料流入通路と、
を有することを特徴とする請求項1に記載の酵素燃料電池。
【請求項3】
前記生成室は、複数且つ直列に接続されており、該各生成室には、前記燃料又は反応生成物を順番に通過させて連続的に反応させるための酵素が種類別に収容されていることを特徴とする請求項1または2に記載の酵素燃料電池。
【請求項4】
前記生成室は、複数且つ並列に接続されており、該各生成室には、前記燃料又は反応生成物を通過させて反応させるための酵素が種類別に収容されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の酵素燃料電池。
【請求項5】
前記反応生成物の成分を分析する分析手段を有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の酵素燃料電池。
【請求項6】
前記生成室内における酵素の反応環境を変更する環境変更手段と、
前記分析手段による分析結果に応じて前記環境変更手段を制御して、前記生成室内における酵素の反応を制御する酵素反応制御手段と、
を有することを特徴とする請求項5に記載の酵素燃料電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−99242(P2012−99242A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−243694(P2010−243694)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】