説明

酸中和剤なしでブチルゴムをハロゲン化する方法

【課題】水の不存在下、中和剤を使用せずに、ハロゲン化ブチルゴムを製造できる方法を提供する。
【解決手段】水の不存在下、中和剤の添加を必要とすることなく、マルチオレフィンを4.1モル%以上存在下、ハロゲン化剤でブチルゴムをハロゲン化する。マルチオレフィンはハロゲン化剤の添加時に生じたヒドロハロゲン化ブレンステッド酸の吸込み剤として役立つ。これにより、水性相酸中和の必要性をなくす。この方法を用いて製造した新規なハロゲン化ブチルゴムは、高程度の所望臭化エキソ−アリルと比較的低水準の低所望臭化エンド−アリルを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、中和剤不存在下でのブチルゴムのハロゲン化に関する。更に特に本発明は、水の不存在下、中和剤を添加せずに、ブチルゴムをハロゲン化する方法、該方法で製造した重合体及びこれから作製した硬化物品に関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
イソブチレン(IB)とイソプレン(IP)とのランダム共重合体は、普通、ブチルゴム(IIR)といわれる合成エラストマーである。1940年代以来、IIRは、イソブチレンを少量(1〜2モル%)のイソプレンとランダム共重合させるスラリー法で製造されてきた。大部分がポリイソブチレンセグメントで構成されるIIRの主鎖構造(図1)は、この材料に優れた空気不透過性、酸化安定性及び耐疲労性を与える(Chu,C.Y.及びVukov,R.,Macromolecules,18,1423〜1430,1985参照)。
【0003】
IIRの主な第一の利用は、タイヤのチューブである。主鎖の不飽和水準が低い(約0.8〜1.8モル%)にも拘わらず、IIRは、チューブ用として十分な加硫活性を持っている。タイヤチューブの発展に従って、IIRの硬化反応性をブタジエンゴム(BR)又はスチレン−ブタジエンゴム(SBR)のような従来のジエン系エラストマーに通常見られる水準まで高めることが必要となった。この目的で、ブチルゴムのハロゲン化グレードが開発された。有機IIR溶液を元素状塩素又は臭素で処理すると、クロロブチルゴム(CIIR)及びブロモブチルゴム(BIIR)の単離が起こる(図2)。ブロモブチルゴムは、通常、イソプレンを、ゴムの炭化水素含有量に対し約1〜約3重量%、好ましくは約1〜約2重量%、イソブチレンを、ゴムの炭化水素含有量に対し約97〜約99重量%、好ましくは約98〜約99重量%、及び臭素を、ブロモブチルゴムに対し約1〜約4重量%、好ましくは約1.5〜約3重量%含有する。クロロブチルゴムは、通常、イソプレンを、ゴムの炭化水素含有量に対し約1〜約3重量%、好ましくは約1〜約2重量%、イソブチレンを、ゴムの炭化水素含有量に対し約97〜約99重量%、好ましくは約98〜約99重量%、及び塩素を、クロロブチルゴムに対し約0.5〜約2.5重量%、好ましくは約0.75〜約1.75重量%含有する。これら材料には、重合体主鎖沿いに反応性ハロゲン化アリル(allylic halide)が存在することで目立っている。これら部分の高反応性(慣用のエラストマー不飽和度と比べて)は、CIIR及びBIIRの硬化反応性をBRやSBRのような材料の硬化反応性と同等の水準まで増大させる。これにより、例えばBIIR系インナーライナー配合物とBR系カーカスコンパウンドとの接着性は許容水準となる。Clに比べてBrの高い分極性によって、BIIRの反応性がCIIRよりも遥かに高くなるのは、尤もなことである。したがって、BIIRは、ハロブチルゴムの中で最も工業的に重要なグレードである。
【0004】
ブチルゴムのハロゲン化は、工業的には、元素状の塩素又は臭素を用い、ヘキサンのような炭化水素溶剤中で行われている。所望の分子量及び不飽和度(モル%)を有するブチルゴムのヘキサン溶液は、ブチル重合反応器からのスラリーを溶解する方法、及び完成したブチルゴムの固体片を溶解する方法の2つの方法のいずれかにより製造できる。前者の方法では、塩化メチルの冷スラリーを熱液体ヘキサンを含むドラムに入れ、熱ヘキサンによりスラリー微粒子を迅速に溶解する。塩化メチル及び未反応モノマーは、回収及び再使用のため、フラッシュ除去し、熱溶液は、断熱フラッシュ工程において、ハロゲン化に望ましい濃度、通常、約20〜約25重量%のブチルゴムに調節する。後者の方法では、小片に裁断又は粉砕した完成ブチルゴムのベールを一連の撹拌した溶解容器に移すと、撹拌の温度、粒度及び量に応じて、約1〜約4時間でブチルゴムを約15〜約20重量%含有する溶液が得られる。ハロゲン化方法では、ブチルゴムの溶液は、1つ以上の激しく撹拌した反応容器中、約40〜約65℃の温度で塩素又は臭素処理される。塩素の場合は、ブチルゴムとの反応速度との関係から、ガス又は希釈溶液として導入される。臭素の場合は、反応速度が更に低いので、液状又はガス状で使用してよい。ハロゲン化中発生する塩酸又は臭酸は希薄水性塩基で中和し、引続き水性層は沈降により除去する。次いで、酸化防止剤又は安定剤を加えた後、ブチルゴムの回収に使用した方法と同様な方法でハロゲン化ブチルゴムを回収する。
【0005】
ハロゲン化ブチルゴムの分子構造についての研究から、現在の工業的ハロゲン化方法では、正帯電のハロゲン原子が、鎖でつながったイソプレンの二重結合に付加し、続いてカルボニウムイオンのプロトンαが負帯電種により奪われて、二重結合にシフトが生じるというイオン化機構により、多数のハロゲン化アリルが生成することが判った。例えばIIRの臭素化は、イソプレン中心部へのBrの求電子攻撃により進行する。一般に、立体障害のないオレフィンを臭素で処理すると、二重結合に亘って臭素の付加が起こる。このプロセスは、ブロモニウム中間体を経て進行する(図3)。IIRの場合、イソプレン中心部周囲の隣接するイソプレン繰返し単位による立体的な密集は、図4に示す脱プロトン路を最も都合のよいものにしている。こうして、最終的にはハロゲン化エキソ−メチレンアリル異性体又は臭化エキソ−アリルを形成する。このような後者の種は、動的に恩恵を受けた生成物である。高温(又は触媒量のHBrの存在下)では、熱力学的に恩恵を受けた臭化エンド−アリルへの迅速な転位が起こる(図4、Parent,J.S.,Thom,D.J.,White,G.,Whitney,R.A.及びHopkins,W.,J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.,29,2019−2026,2001参照)。
【0006】
この種は従来の硬化システムとの併用に好ましいので、図4に示す臭化エキソ−アリルは選択の構造である。実際、このようなハロゲン化エキソ−アリル構造により、ハロゲン化ブチルゴムは、普通のブチルゴムに比べて、天然ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリブタジエンゴム等の高度不飽和エラストマー材料との硬化適合性が高くなると考えられる。酸触媒によるハロゲン化エキソ−アリルからハロゲン化エンド−アリルへの転位を防止するため、ハロゲン化反応は、水の存在下で行われる。臭素化中、明確に水相が存在すると、HBrの発生後、HBrが優先的に移るベヒクルを生じる。この現象は、動的ハロゲン化アリルからHBrを物理的に分離し(即ち、転位反応を最小化する)、これを媒体中に維持して水性塩基(例えば水酸化ナトリウム)による中和を容易にする。工業的な観点からは、2相(例えば水及びヘキサン)溶剤混合物の必要性をなくすのに有利であり、また恐らく水性酸中和工程の必要性をなくすのに更に有利である。しかし、これは酸触媒臭化エキソ−アリル転位を犠牲にしてはできない。
【0007】
現在、市販品として入手できる、イソブチレン及びイソプレンを含有するブチルゴムグレードとしては、PB101、PB301及びPB401がある。これらの材料は、通常、ムーニー粘度が約25〜60MUの範囲で概略重量平均分子量が500,000g/モルで不飽和水準が0.5〜2.2モル%(NMR分光分析による)のものである。
【0008】
2003年2月14日出願のResendes等によるCA 2,418,884(本特許はここに援用する)は、イソオレフィン、例えばイソブチレンと、マルチオレフィン、例えばイソプレン、4.1モル%以上とを含むブチルゴム重合体を開示している。この高イソプレンブチルゴム重合体が一般的に開示されているが(8〜9頁)、このような重合体の特定製造法は開示されていない。特に酸中和の必要性をなくす方法又は従来の2相系溶剤−水性媒体以外のものにハロゲン化を行う方法は開示されていない。非水性単一相溶液法は開示されていない。更に、ハロゲン化ブチルゴムのアリル構造又はその物性については教示されない。
【0009】
1984年10月1日出願のKowaiski等によるUSP 4,563,506は、押出機中で行なう非水性単一相法を開示している。Kowaiski等は、第7欄56〜65頁で溶液法とは離れて教示している。更にKowaiski等は、高割合(%)の臭化エンド−アリル(第一アリル)が望ましいこと及びこの方法は酸条件下で行う必要があること(第8欄10〜30頁)を教示している。したがって、Kowaiski等の特許では、まず第一に水性酸中和を行うことを望まないので、水性酸中和の必要性を排除する動機付けがない。
【0010】
イソプレン含有量が約0.5〜2.0モル%の範囲にある市販のIIRグレードは、現在、前述のように臭素化化学用の基体として使用されている。最終生成物中に若干量でも臭化エキソ−アリルを得るため、現在、溶液法は水の存在下、HBr副生物の水性中和により行って、エンド−アリル形態への酸触媒転位を防止している。したがって、苛性アルカリ添加の必要性をなくすブチルゴムの非水性ハロゲン化製造方法は依然として必要である。
【特許文献1】CA 2,418,884
【特許文献2】USP 4,563,506
【非特許文献1】Chu,C.Y.及びVukov,R.,Macromolecules,18,1423〜1430,1985
【非特許文献2】Parent,J.S.,Thom,D.J.,White,G.,Whitney,R.A.及びHopkins,W.,J.Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.,29,2019−2026,2001
【非特許文献3】Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry(第5完全改定版,A231巻、Elvers等編)
【非特許文献4】Maurice Mortonによる“Rubber Technology”(第3版),第10章(Nostrand Reinhold Company版権1987),特に297〜300頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
発明の概要
水の不存在下、しかも中和剤を添加する必要もなく、高水準のイソプレン(イソプレン約3〜6.5モル%)を有するIIRの臭素化が首尾よく行なえることが発見された。重要なことは、臭素化が臭化エキソ−アリルからエンド構造への何ら顕著な転位もなく達成されることである。苛性アルカリ中和剤を排除すれば、環境的に有益である上、費用効果が高くなる。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様では、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位と、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位4.1モル%以上とを含むブチルゴム重合体を供給する工程、該ブチルゴム重合体にハロゲン化剤を添加する工程、及び該ハロゲン化剤をブチルゴム重合体と反応させて、マルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位1.5モル%以上を含むハロゲン化ブチルゴムを作製する工程を含むハロゲン化ブチルゴムの非水性製造方法が提供される。
【0013】
ブチルゴムは単一相溶液、好ましくはブチルゴムの溶解に好適な液体溶剤を含む溶液中に供給してよい。ハロゲン化剤は、単一相溶液中のブチルゴムに添加してよい。ハロゲン化剤は、元素状ハロゲン化物又はその有機ハロゲン化物前駆体を含有してよい。ハロゲン化剤とブチルゴム重合体とを反応させながら、形成されるヒドロハロゲン性(hydrohalic)ブレンステッド酸は、現場でマルチオレフィンにより掃去してよく、またMarkovnikov添加又は反markovnikov添加により掃去してよい。こうして、苛性アルカリ中和剤のような酸掃去剤を添加することなく、また水の不存在下で反応を起こすことができる。
【0014】
本発明の他の態様では、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位と、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導されたハロゲン化アリル含有繰返し単位1.5モル%以上と、マルチオレフィンモノマーのハロゲン化エキソ−アリル0.4モル%以上と、を含有するハロゲン化ブチルゴム重合体が提供される。ブチルゴムは、更にハロゲン化エキソ−アリルを0.1〜0.5モル%の量含有する。ハロゲン化エンド−アリル対ハロゲン化エンド−アリル比が少なくとも4であってよい。ハロゲン化エキソ−アリルは臭化物であってよく、また同じ重合体主鎖上にマルチオレフィンとして存在してよい。マルチオレフィンは、5.0モル%以上の量で存在してよい。この重合体は、一様式分子量分布を有してよい。
【0015】
本発明の更に他の態様では、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位と、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導されたハロゲン化アリル含有繰返し単位4.1モル%以上とを含有すると共に、該ハロゲン化アリルは、マルチオレフィンモノマーのハロゲン化エキソ−アリルを第一モル量以上及び更にマルチオレフィンモノマーのハロゲン化エンド−アリルを第二モル量以上含有し、第一モル量と第二モル量との比は少なくとも4であるハロゲン化ブチルゴム重合体が提供される。
【0016】
過酸化物硬化物品は、前記いずれのハロゲン化ブチルゴムからも製造できる。例えば過酸化物硬化物品は、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位と、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導されたハロゲン化アリル含有繰返し単位4.1モル%以上とを含有するブチルゴム重合体を単一相液体溶液中に供給し、この単一相液体溶液中のブチルゴム重合体にハロゲン化剤を添加し、水の不存在下でハロゲン化剤とマルチオレフィンモノマーとを反応させて、ハロゲン化アリルと元のマルチオレフィンモノマー1.5モル%とを含むハロゲン化ブチルゴムを作製し、次いでこのハロゲン化ブチルゴムを硬化させることにより製造できる。過酸化物硬化物品は、極限伸びが少なくとも500%であってよい。
【0017】
図面の簡単な説明
本発明をまとめた実施態様を添付図面を参照して説明する。
図1はブチルゴムの主鎖構造を示す。
図2はハロブチルゴムの主鎖構造を示す。
図3は、元素状臭素(Br)によるオレフィンのハロゲン化を示す。
図4は、ブチルゴムの臭素化及び臭化エキソ−アリルの臭化エンド−アリルへの酸触媒転位を示す。
図5aは、HBrのブチルゴムへのMarkovnikov添加を示す。
図5bは、HBrのブチルゴムへの反markovnikov添加を示す。
図6は、例8及び例9のMDR硬化特性を示す。
図7は、例8及び例9の応力−歪特性を示す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
発明の詳細な説明
ブチルゴムは特定のイソオレフィンに限定されない。しかし、炭素原子数4〜16、特に4〜8の範囲のイソオレフィン、例えばイソブチレン、2−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ブテン、2−メチル−2−ブテン、4−メチル−1−ペンテン及びそれらの混合物が好ましい。最も好ましくはイソブテンである。
【0019】
ブチルゴムは特定のマルチオレフィンに限定されない。イソオレフィンと共重合可能な当該技術分野で公知のいずれのマルチオレフィンも使用できる。しかし、炭素原子数4〜14の範囲のマルチオレフィン、例えばイソプレン、ブタジエン、2−メチルブタジエン、2,4−ジメチルブタジエン、ピペリリン、3−メチル−1,3−ペンタジエン、2,4−ヘキサジエン、2−ネオペンチルブタジエン、2−メチル−1,5−ヘキサジエン、2,5−ジメチル−2,4−ヘキサジエン、2−メチル−1,4−ペンタジエン、2−メチル−1,6−ヘプタジエン、シクロペンタジエン、メチルシクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、1−ビニルシクロヘキサジエン及びそれらの混合物が好ましく使用される。イソプレンが特に好ましく使用される。
【0020】
任意のモノマーとして、イソオレフィン及び/又はジエンと共重合可能な当該技術分野で公知のいずれのモノマーも使用できる。α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、クロロスチレン、シクロペンタジエン及びメチルシクロペンタジエンが好ましく使用される。本発明ではインデン及びその他のスチレン誘導体も使用できる。
マルチオレフィン含有量は、少なくとも、4.1モル%を超え、更に好ましくは5.0モル%を超え、なお更に好ましくは6.0モル%を超え、なおまた更に好ましくは7.0モル%を超える。
【0021】
好ましくはブチルゴムモノマー混合物は、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーを80〜95重量%の範囲及び少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーを4.0〜20重量%の範囲含有する。更に好ましくはモノマー混合物は、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーを83〜94重量%の範囲及び少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーを5.0〜17重量%の範囲含有する。最も好ましくは好ましくはモノマー混合物は、少なくとも1種のイソオレフィンモノマーを85〜93重量%の範囲及び少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーを6.0〜15重量%の範囲含有する。
【0022】
重量平均分子量Mwは、好ましくは240kg/モルを超え、更に好ましくは300kg/モルを超え、なお更に好ましくは500kg/モルを超え、なおまた更に好ましくは600kg/モルを超える。
本発明に関連して、用語“ゲル”とは、環流下、沸騰するシクロヘキサン中、60分間不溶の重合体のフラクションを示すものと理解されている。ゲル含有量は、好ましくは5重量%未満、更に好ましくは3重量%未満、なお更に好ましくは1重量%未満、なおまた更に好ましくは0.5重量%未満である。
【0023】
ブチル重合体の製造に使用される反応混合物は、マルチオレフィン架橋剤を含有してよい。架橋剤という用語は、当業者に公知で、重合体鎖に付加するモノマーに対し所定位置の重合体鎖間に化学的架橋を起こさせる化合物を示すものと理解されている。或る化合物がモノマーとして作用するか或いは架橋剤として作用するかは幾つかの簡単な予備試験で明かとなる。架橋剤の選択は特に制約されない。好ましくは架橋剤は、マルチオレフィン系炭化水素化合物を含む。これらの例は、ノルボルナジエン、2−イソプロペニルノルボルネン、2−ノルボルネン、1,3,5−ヘキサトリエン、2−フェニル−1,3−ブタジエン、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン及びそれらのC〜C20アルキル置換誘導体である。更に好ましくはマルチオレフィン架橋剤は、ジビニルベンゼン、ジイソプロペニルベンゼン、ジビニルトルエン、ジビニルキシレン及び又はこれら化合物の混合物である。最も好ましくはマルチオレフィン架橋剤はジビニルベンゼン及びジイソプロペニルベンゼンを含む。マルチオレフィン架橋剤又はその誘導体は、ブチルゴム重合体中に存在してよい。
【0024】
前述のように、ブチル重合体はハロゲン化される。好ましくはブチル重合体は臭素化又は塩素化される。ハロゲン量は、重合体に対し好ましくは約0.1〜約8重量%、更に好ましくは約0.5〜約4重量%、約0.8〜約3重量%、最も好ましくは約1.5〜約2.5重量%の範囲である。
【0025】
ハロゲン化ブチルゴムは、微粉砕ブチルゴムをハロゲン化剤で処理するか或いは溶液相法により製造できる。ハロゲン化剤としては、元素状の塩素(Cl)又は(Br)及び/又はそれらの有機ハロゲン化物前駆体、例えばジブロモジメチルヒダントイン、トリクロロイソシアヌル酸(TCIA)又はn−ブロモスクシンイミド等が挙げられる。好ましくはハロゲン化剤は臭素を含む。ハロゲン化ブチルゴムは、十分なせん断を形成し得る混合装置、例えば押出機又は混練装置中で微粉砕ブチルゴムを処理し、次いで、この中でブチルゴムをハロゲン化剤に曝すことにより製造できる。
【0026】
或いは、ハロゲン化ブチルゴムは、前述の高マルチオレフィンブチルゴムの好適な有機溶剤溶液(又は分散液)を処理して、従来知られているような単一相“セメント”を形成し、こうして形成された溶液をハロゲン化剤で処理することにより製造できる。単一相“セメント”溶液は、ブチルゴムを溶解又は分散に好適ないかなる溶剤を用いても形成できる。工業的ブチルゴムの重合に使用するのに好適な不活性有機溶剤(例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、それらの互いの混合物、又はそれらの塩化メチル及び/又は塩化メチレンとの混合物)は好適な溶剤である。好ましい不活性有機溶剤としては、C〜Cハロゲン化炭化水素及びそれらの混合物、C〜C脂肪族炭化水素、C〜C環式炭化水素、1種以上のハロゲン化炭化水素と1種以上の脂肪族炭化水素との混合物、及び1種以上のハロゲン化炭化水素と1種以上の環式炭化水素との混合物が挙げられる。最も好ましい不活性有機溶剤は、塩化メチル、塩化メチレン、ヘキサン、シクロペンタン及びそれらの混合物である。
【0027】
本発明で重要なことは、単一相セメント溶液が水を含有しないことである。一般に、水が含まれると、工程中に生成したハロゲン化酸をブチルゴム重合体の反応部位から抽出するため、セメントと二相エマルジョンを形成し、工程の若干後の段階で溶剤から水を分離する必要がある。この方法でハロゲン化剤の量は、最終重合体が前述の好ましいハロゲン量となるように、制御してよい。重合体にハロゲンを付着させる特定の様式は、特に制約されず、当業者ならば前述の様式以外の様式でも本発明の利点が得られる限り、使用できるものと認める。溶液相ハロゲン化方法の更なる詳細及び他の実施態様については、例えばUllmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry(第5完全改定版,A231巻、Elvers等編)及び/又はMaurice Mortonによる“Rubber Technology”(第3版),第10章(Nostrand Reinhold Company版権1987),特に297〜300頁(これら文献は、ここに援用する)参照。
【0028】
以上説明した非水性溶液法は、ハロゲン化エキソ−アリルの望ましくないエンド−アリル形態への酸触媒転位を防止するための中和剤の添加を必要としない点で有利である。本発明方法で製造したハロゲン化ブチルゴムは、ハロゲン化エキソ−アリルを有利には0.15モル%以上、更に好ましくは0.4モル%以上、なお更に好ましくは0.8モル%以上、なお更に好ましくは1.0モル%以上、なお更に好ましくは1.25モル%以上、最も好ましくは約1.5〜約3モル%含有する。これは通常、ハロゲン化エキソ−アリルを示さない低マルチオレフィン水準で行った従来の非水性方法とは対照的である。ハロゲン化エキソ−アリルとの組合わせで、制限量のハロゲン化エンド−アリルは存在してもよい。本発明のハロゲン化ブチルゴムは、ハロゲン化エンド−アリルを約0.05〜約1.0モル%、好ましくは0.05〜0.5モル%、更に好ましくは0.1〜約0.35モル%、なお更に好ましくは0.1〜0.25モル%、なお更に好ましくは0.1〜0.2モル%含有してよい。ハロゲン化エキソ−アリル対ハロゲン化エンド−アリルの比は、少なくとも3、好ましくは少なくとも3.5、更に好ましくは少なくとも4、なお更に好ましくは少なくとも4.5、なお更に好ましくは少なくとも5であってよい。これらのハロゲン化アリルは、好ましくはマルチオレフィンとして同じ重合体主鎖上に存在し、また該重合体は単一様式の分子量分布を有する。更に、本発明で製造したハロゲン化ブチルゴムは、残存不飽和を有し、元のマルチオレフィンから誘導された繰返し単位を1.5モル%以上、好ましくは1.75モル%以上、更に好ましくは2.0モル%以上、なお更に好ましくは2.5モル%以上、なお更に好ましくは3.0モル%以上、なお更に好ましくは3.5モル%以上含有する。
【0029】
理論により制限されるものではないが、本発明を十分に説明するため、アルケンのハロゲン化、特にアルケンのヒドロ臭素化についての公知事実によると、1,4−IPへのHBrの付加は、Markovnikov式に進行することが予測される(図5a)。しかし、このようなHBrの付加様式は、図5aに示すMarkovnikov構造の検査で判るように、大量の立体密集を持った種を生じる。このため、HBrの付加は、反markovnikovルート経由で進行して、図5bに示す構造を作ることが可能である。以上のことから、高IPブチルゴムの臭素化中、生成したHBrは、markovnikov付加又は反markovnikov付加のいずれかで消費され、こうして酸中和工程の必要性をなくすように思われる。したがって、本発明で製造したハロゲン化ブチルゴムには、これら付加機構の一方又は両方の生成物が見られる。
【0030】
本発明方法で製造したハロゲン化ブチルゴムは、優れた物性及び従来法で製造したハロゲン化ゴムと同等の硬化反応性を示す。特に本発明のハロゲン化ブチルゴムでは、少なくとも一部は残存マルチオレフィンモノマーが比較的高水準になりやすいことから、従来技術のハロゲン化ゴムに比べて、優れた伸びを示す点で有利である。本発明のハロゲン化ブチルゴム重合体は、極限伸びが少なくとも400%、好ましくは少なくとも500%、更に好ましくは少なくとも600%、なお更に好ましくは少なくとも700%、なお更に好ましくは少なくとも800%、なお更に好ましくは少なくとも900%であってよい。
【0031】
ハロゲン化ブチルゴムの製造において、ハロゲン化酸の中和を必要としないが、重合体を安定化すると共に、保存寿命を改善するため、製造後、酸化防止剤及び/又は中性酸掃去剤を添加してもよい。単一相溶液からハロゲン化ブチルゴムを分離するため、従来の仕上げ方法を使用してよい。仕上げ方法としては、水の添加を含んでもよいが、水性回収方法の適用は、ハロゲン化重合体の製造に適用される非水性法と混同すべきではない。例えばこの種の方法は、高高分子量の重合体の場合、重合体溶液又はスラリーを多量の熱水と接触させ、これにより不活性有機溶剤及び未反応モノマーをフラッシュする方法がある。次いで重合体−熱水スラリーをトンネル式乾燥器又は乾燥押出機に通してよい。他の方法では、重合体、特に不活性溶剤の存在下で製造した数平均分子量が約30,000未満の重合体の場合、(i)重合体溶液又はスラリーを水蒸気と接触させるか、重合体溶液又はスラリー溶剤に真空を適用して、溶剤及び未反応モノマーをフラッシュ除去し、(ii)酸性不純物及び/又は残存高沸点希釈剤をメタノールで抽出し、次いで(iii)精製した重合体を乾燥して、痕跡量のメタノールを除去することにより回収される。更に他の方法、特に低分子量の重合体の場合、重合体溶液を過剰の水と接触させて、無機残査を除去し、溶液を乾燥し、次いで不活性有機溶剤を蒸発のような方法で除去する。
【0032】
ハロゲン化ブチルゴムは、加硫ゴム生成物及び/又は物品の製造に使用してよい。例えばハロゲン化ブチルゴムをカーボンブラック及び/又は他の公知の成分(添加剤)と混合し、次いで混合物を従来法に従って従来の硬化剤で架橋させることにより、有用な加硫物が製造できる。有用な硬化物品としては、タイヤ、特にタイヤチューブ、シール及びガスケットが挙げられる。
【0033】
こうして開示したことから見て、本発明ではHBrは、高水準の1,4−IPにより消費される。換言すれば、高IPのIIR基質を臭素化することにより、過剰の1,4−IPに依存して、中和ブレンステッド酸掃去剤として作用することが可能となる。近年の高水準IPを含むIIRの巧みな製造法により、苛性アルカリ又は水の不存在下で製造したBIIRのサンプルで観察される転位の程度に対するIP含有量(及び生じるIP残査)の正確な効果は、現在、実験的に測定でき、以下の実施例で更に検討する。
【実施例】
【0034】
実施例
材料:
Butyl 301、Bromobytyl 2030はLANXESS Inc.の製品である。Butyl 402はLANXESS Rubber N.V.の製品であり、またVulkacit DM/C(MBTS)はLANXESS Corp.の製品である。残りの材料は、カーボンブラックN660 (Cabot Canada)、Sunpar 2280 (Noco Lubricants)、Pentalyn A (Hercules Inc.)、ステアリン酸Emersol 132 NF (Acme Hardesty Co.)、硫黄NBS (NIST)及び酸化亜鉛(St. Lawrence Chemical Co.)として容認されたものを使用した。
【0035】
試験:
硬度及び応力歪特性は、ASTM D−2240の要件に従うA−2型ジュロメーターを用いて測定した。応力歪データは、ASTM D−412方法Aに従って23℃で得られた。2mm厚の引張りシート(166℃で30分間硬化)から切断したダイCダンベルを用いた。透過度はASTM D−1434に従って測定した。ムーニースコーチを、ASTM 1646に従ってAlpha Technologies MV2000を用いて138℃で測定した。Tc90時間を、振動周波数1.7Hz、170℃での弧度(arc)1°で合計運転時間30分間用いる可動ダイ流動計(Moving Die Rheometer)(MDR 2000E)でASTM D−5289に従って測定した。硬化は、Alan−Bradleyプログラマブルコントローラーを備えた電気プレスを用いて行った。H NMRスペクトルを、テトラメチルシランを参照した化学シフト付きCDCl中でBruker DRX500分光計(500.13MHzH)で記録した。
【0036】
例1:RB301の臭素化(HO及び苛性アルカリによる)
RB301(50g、1,4−イソプレン1.6モル%)のヘキサン600ml溶液に水45mlを添加した。この混合物に、激しく撹拌しながら、元素状臭素を0.63ml添加した。5分後、反応混合物に、水500mlに1.0M NaOH水溶液6.5ml加えて作った苛性アルカリ溶液を導入して中和した。中和後、直ぐに安定化剤溶液4ml(エポキシ化大豆油3.75g及びIrganox 1076 0.045g のヘキサン100ml溶液)を反応混合物に装入した。ゴムを水蒸気凝固により単離し、100℃で操作する6”×12”2本ロールミルを用いて一定重量になるまで乾燥した。得られた材料のミクロ構造をH NMR分光分析(CDCl)で測定した。その結果を第1表に示す。
【0037】
例2:RB301の臭素化(HO及び苛性アルカリなし)
RB301(50g、1,4−イソプレン1.6モル%)のヘキサン600ml溶液に、激しく撹拌しながら、元素状臭素を0.63ml添加した。5分後、反応混合物に安定化剤溶液4ml(エポキシ化大豆油3.75g及びIrganox 1076 0.045gのヘキサン100ml溶液)を装入した。ゴムを水蒸気凝固により単離し、100℃で操作する6”×12”2本ロールミルを用いて一定重量になるまで乾燥した。得られた材料のミクロ構造をH NMR分光分析(CDCl)で測定した。その結果を第1表に示す。
【0038】
例3:RB402の臭素化(HO及び苛性アルカリなし)
RB402(50g、1,4−イソプレン2.0モル%)のヘキサン600ml溶液に、激しく撹拌しながら、元素状臭素を0.63ml添加した。5分後、反応混合物に、安定化剤溶液4ml(エポキシ化大豆油3.75g及びIrganox 1076 0.045gのヘキサン100ml溶液)を装入した。ゴムを水蒸気凝固により単離し、100℃で操作する6”×12”2本ロールミルを用いて一定重量になるまで乾燥した。得られた材料のミクロ構造をH NMR分光分析(CDCl)で測定した。その結果を第1表に示す。
【0039】
例4:イソプレン3.0モル%含有ブチルゴムの臭素化(水及び苛性アルカリなし)
高水準のイソプレン(1,4−イソプレン3.0モル%)を含有するブチルゴムをCA 2,418,884の教示に従って製造した。この高IPゴム50gのヘキサン600ml溶液に、激しく撹拌しながら、元素状臭素を0.63ml添加した。5分後、反応混合物に、安定化剤溶液4ml(エポキシ化大豆油3.75g及びIrganox 1076 0.045gのヘキサン100ml溶液)を装入した。ゴムを水蒸気凝固により単離し、100℃で操作する6”×12”2本ロールミルを用いて一定重量になるまで乾燥した。得られた材料のミクロ構造をH NMR分光分析(CDCl)で測定した。その結果を第1表に示す。
【0040】
例5:イソプレン5.0モル%含有ブチルゴムの臭素化(水及び苛性アルカリなし)
高水準のイソプレン(1,4−イソプレン5.0モル%)を含有するブチルゴムをCA 2,418,884の教示に従って製造した。この高IPゴム50gのヘキサン600ml溶液に、激しく撹拌しながら、元素状臭素を0.63ml添加した。5分後、反応混合物に、安定化剤溶液4ml(エポキシ化大豆油3.75g及びIrganox 1076 0.045gのヘキサン100ml溶液)を装入した。ゴムを水蒸気凝固により単離し、100℃で操作する6”×12”2本ロールミルを用いて一定重量になるまで乾燥した。得られた材料のミクロ構造をH NMR分光分析(CDCl)で測定した。その結果を第1表に示す。
【0041】
例6:イソプレン6.0モル%含有ブチルゴムの臭素化(水及び苛性アルカリなし)
高水準のイソプレン(1,4−イソプレン6.0モル%)を含有するブチルゴムをCA 2,418,884の教示に従って製造した。この高IPゴム50gのヘキサン600ml溶液に、激しく撹拌しながら、元素状臭素を0.63ml添加した。5分後、反応混合物に、安定化剤溶液4ml(エポキシ化大豆油3.75g及びIrganox 1076 0.045gのヘキサン100ml溶液)を装入した。ゴムを水蒸気凝固により単離し、100℃で操作する6”×12”2本ロールミルを用いて一定重量になるまで乾燥した。得られた材料のミクロ構造をH NMR分光分析(CDCl)で測定した。その結果を第1表に示す。
【0042】
例6:イソプレン6.5モル%含有ブチルゴムの臭素化(水及び苛性アルカリなし)
高水準のイソプレン(1,4−イソプレン6.5モル%)を含有するブチルゴムをCA 2,418,884の教示に従って製造した。この高IPゴム50gのヘキサン600ml溶液に、激しく撹拌しながら、元素状臭素を0.63ml添加した。5分後、反応混合物に、安定化剤溶液4ml(エポキシ化大豆油3.75g及びIrganox 1076 0.045gのヘキサン100ml溶液)を装入した。ゴムを水蒸気凝固により単離し、100℃で操作する6”×12”2本ロールミルを用いて一定重量になるまで乾燥した。得られた材料のミクロ構造をH NMR分光分析(CDCl)で測定した。その結果を第1表に示す。
【0043】
例8:BB2030をベースとする基準インナーライナー配合物
本例は、市販BB2030(H NMRで測定して、臭化エキソ−アリル0.74モル%、臭化エンド−アリル0.06モル%、及び残留1,4−イソプレン0.55モル%)をベースとする基準インナーライナー配合物の製造法を説明する。BB2030 100phr、Sunpar 2280 7phr、カーボンブラックN660 60phr、Pentalyn 4phr、ステアリン酸1phr、Vulkacit DM/C(MBTS) 1.3phr、硫黄0.5phr及び酸化亜鉛3phrを30℃で操作する6”×12”2本ロールミル上に添加した。全成分を導入後、このゴム混合物を合計4分間、ミルでバンド状に巻付けた。この配合物から誘導された硬化物品の物性を第3表に示す。
【0044】
例9:例6をベースとした基準インナーライナー配合物
本例は、例6をベースとする基準インナーライナー配合物(H NMRで測定して、臭化エキソ−アリル0.89モル%、臭化エンド−アリル0.21モル%、及び残留1,4−イソプレン3.2モル%)の製造法を説明する。BB2030 100phr、Sunpar 2280 7phr、カーボンブラックN660 60phr、Pentalyn 4phr、ステアリン酸1phr、Vulkacit DM/C(MBTS) 1.3phr、硫黄0.5phr及び酸化亜鉛3phrを30℃で操作する6”×12”2本ロールミル上に添加した。全成分を導入後、このゴム混合物を合計4分間、ミルでバンド状に巻付けた。この配合物から誘導された硬化物品の物性を第3表に示す。
【0045】
結果及び検討
1.水及び苛性アルカリ不存在下での工業用グレードIIRの臭素化
水及び苛性アルカリの両者存在下でのRB301の臭素化(例1)は、動的恩恵を受けたエキソ生成物として存在する大部分の臭素化アリルにより、BIIRの単離を生じた(第1表参照)。具体的には、H NMR分析により、この材料が、臭化エキソ−アリルを約0.81モル%及びエンド異性体を約0.03モル%有することが明かとなった。予想されるように、残留1,4−IP水準は、0.40モル%と測定された。同じ臭素化反応を水及び苛性アルカリの不存在下で行った場合(例2)は、臭化エキソ−アリル構造を示さない非常に異なるBIIRが単離された。実際に全ての臭化アリルは、熱力学的恩恵を受けたエンド形態である。更に例2は例1と異なり、残留1,4−IP水準が著しく低かった。この観察結果から、臭素化反応中、遊離したHBrは臭素化反応後、残存する残留1,4−IPと反応していることが示唆される。
【0046】
【表1】

【0047】
工業的に製造されたブチルゴムの場合、最も高水準の1,4−IPはRB402で見られる。この材料は、約2.0モル%の1,4−IPが存在することで目立っている。しかし、この材料に水及び苛性アルカリ両者の不存在下で臭素化を行った場合(例3)、例2(RB301)で得られた結果と同様の結果が観察された。具体的には、H NMR分析により、臭素化エキソ−アリルが全く存在しないことが明かとなった(第1表参照)。更に重合体中には極めて微量の1,4−IPが残存していた。
【0048】
2.水及び苛性アルカリ不存在下での高IPグレードIIRの臭素化
第一シリーズの臭素化反応では、臭素化基質として1,4−IPを3.0モル%含有するブチルゴムを用いた。このような水準のIPを用いた水及び苛性アルカリなしの臭素化法では、例1又は例2のいずれとも全く異なるミクロ構造を有するBIIRが生じた(第2表の例4参照)。この場合、臭素化アリルの少量成分だけがエンド形態で存在していた。イソプレンの水準を5.0モル%に上げると(例5)、臭化アリル構造の全てがエキソ形態となった。この状態は、1,4−IPを6.0モル%(例6)及び6.5モル%(例7)に上げても残った。予想されるように、臭素化後、残存する残留1,4−IP量は、基材中の1,4−IP量の増大と共に、増大した。したがって、例4〜7の基材に存在する“余分”の1,4−IPが臭素化中に生成したHBrを中和していることは明らかである。
【0049】
【表2】

【0050】
3.BB2030の高IP同族体をベースとするインナーライナー配合物
基準インナーライナー配合物中の新規ハロゲン化材料の性能を相対評価するため、2種の基準インナーライナー配合物を製造した。第一の配合物は、工業的に製造されたBB2030(臭化エキソ−アリル=0.75モル%、臭化エンド−アリル=0.05モル%、残留1,4−IP=0.55モル%、例8)をベースとし、一方、第二の配合物は、例6で作った高IP BIIR(臭化エキソ−アリル=0.89モル%、臭化エンド−アリル=0.21モル%、残留1,4−IP=3.2モル%、例9)をベースとするものである。使用した処方及び混合条件は前述のとおりである。
【0051】
得られた配合物のMDR分析から、例6をベースとするコンパウンドについては硬化速度及び最終硬化状態が高くなることが明かとなった(図6)。これから、例6で見られる高水準の1,4−IP(また臭化アリル含有量の僅かな増加も)は硬化化学に参加していることが示唆される。高硬化状態の証拠は、これら配合物の引張特性でも見られる。実際に、例6をベースとするコンパウンドは、そのBB2030同族体よりも高程度の強化性を持っていることが判った(図7)。実際、残存する物性を考慮すると、観察された相違の多くは、硬化速度及び/又は硬化状態の増大による可能性がある(第3表)。重要なことは、例6をベースとする配合物の透過性が、BB2030対照コンパウンドよりもほんの僅か高いことである。このような透過性の増大は、例6で見られる高水準の1,4−IPを伴うイソブチレン含有量の低下と一致する。
【0052】
【表3】

【0053】
水の存在下及び中和を行うRB301(1,4−IP約1.6モル%)の臭素化では、殆ど臭化エキソ−アリルだけを形成した。水の不存在下及び中和を行わないRB301(1,4−IP約1.6モル%)の臭素化では、臭化エキソ−アリル構造のない材料を生成した。実際、全ての臭化アリル官能価はエンド−アリル形態で見られた。この観察結果は、臭化エキソ−アリルの臭化エンド−アリルへの酸触媒転位について知られていることと一致する(Parent,J.S.,Thom,D.J.,White,G.,Whitney,R.A.及びHopkins,W.,J.,Polym.Sci.Part A:Polym.Chem.,29,2019−2026,2001参照)。同じ条件下でのRB402(1,4−IP 2.0モル%)の臭素化でも、全くエンド−アリル生成物しか含まない材料を生じた。しかし、水の不存在下及び中和を行わない、高水準のイソプレンを含むIIRの臭素化では、大部分の臭素化アリル構造がエキソ形態で存在する材料が単離された。H NMR分析に基づく計算値から、1,4−IPは、これら増加した水準では、臭素化工程中、生成するヒドロハロゲン酸(HBr)に対し現場中性酸掃去剤として作用することが示唆される。この材料のコンパウンド用としての適合性を、基準インナーライナー配合物の製造及び評定により評価した。市販のBB2030で製造したインナーライナーコンパウンドをBB2030の高IP同族体で製造したインナーライナーコンパウンドと比較した。高IP BIIRをベースとするコンパウンドに付いて測定した物理的データから、このような高水準のイソプレンは、高い硬化状態、したがって引張特性の向上に寄与することが示唆される。重要なことは、両コンパウンドで得られた透過性データが極めて類似していることである。
【0054】
ここには、水を使用せず、更に重要なことは中和剤を使用しないで臭素化ブチルゴムが製造できる方法を示した。この新規な方法は、工業的及び環境上からの両方の利点を持ったハロゲン化技術の著しい進歩を表している。更に、この技術は、新規固体相ハロゲン化方法に原則的に適用可能である。
以上、本発明の好ましい実施態様を説明したが、本発明の他の特徴及び実施態様は、当業者ならば明らかであろう。添付の特許請求の範囲は、以上の説明を参照して、広く解釈すべきであり、本発明は、明確には請求していない他の変形及び副次的組合わせを意図する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】ブチルゴムの主鎖構造を示す。
【図2】ハロブチルゴムの主鎖構造を示す。
【図3】元素状臭素(Br)によるオレフィンのハロゲン化を示す。
【図4】ブチルゴムの臭素化及び臭化エキソ−アリルの臭化エンド−アリルへの酸触媒転位を示す。
【図5】aはHBrのブチルゴムへのMarkovnikov添加を示す。bはHBrのブチルゴムへの反markovnikov添加を示す。
【図6】例8及び例9のMDR硬化特性を示す。
【図7】例8及び例9の応力−歪特性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a)少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位と、少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位4.1モル%以上とを含むブチルゴム重合体を供給する工程、
b)該ブチルゴム重合体にハロゲン化剤を添加する工程、及び
c)該ハロゲン化剤をマルチオレフィンモノマーと反応させて、ハロゲン化アリル及び元のマルチオレフィンモノマー1.5モル%以上を含むハロゲン化ブチルゴムを作製する工程、
を含むハロゲン化ブチルゴムの非水性製造方法。
【請求項2】
ブチルゴムが単一相液体溶液中に供給される請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ハロゲン化剤が、単一相液体溶液中でブチルゴムに添加される請求項2に記載の方法。
【請求項4】
反応が水の不存在下で起こる請求項3に記載の方法。
【請求項5】
ハロゲン化剤とブチルゴム重合体とを反応させ、かつ前記マルチオレフィンを用いて現場でヒドロハロゲン性ブレンステッド酸を掃去しながら、該ブレンステッド酸を形成する工程を更に含む請求項1に記載の方法。
【請求項6】
反応が酸掃去剤の添加なしで起こる請求項5に記載の方法。
【請求項7】
ハロゲン化アリルが、0.4モル%以上の量で存在するハロゲン化エキソ−アリルを含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
マルチオレフィンモノマーが、5.0モル%以上の量で存在する請求項1に記載の方法。
【請求項9】
ハロゲン化剤が、元素状ハロゲン化物又はその有機ハロゲン化物前駆体を含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
元素状ハロゲン化物が、臭化物を含む請求項9に記載の方法。
【請求項11】
a)少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位、
b)少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導されたハロゲン化アリル含有繰返し単位4.1モル%以上、及び
c)ハロゲン化ブチルゴム重合体に対し0.4モル%以上の量で存在するマルチオレフィンモノマーのハロゲン化エキソ−アリルを含むハロゲン化アリル、
を含有するハロゲン化ブチルゴム重合体。
【請求項12】
ハロゲン化アリルが、0.1〜0.5モル%の量で存在するハロゲン化エンド−アリルを更に含む請求項11に記載のゴム。
【請求項13】
ハロゲン化エキソ−アリル対ハロゲン化エンド−アリル比が少なくとも4である請求項12に記載のゴム。
【請求項14】
ハロゲン化エキソ−アリルが臭化物である請求項11に記載のゴム。
【請求項15】
マルチオレフィンが、少なくとも5.0モル%の量で存在する請求項11に記載の方法。
【請求項16】
ハロゲン化エキソ−アリルが、同じ重合体主鎖上にマルチオレフィンとして存在する請求項11に記載のゴム。
【請求項17】
ハロゲン化ブチルゴム重合体が、モノ様式の分子量分布を有する請求項11に記載のゴム。
【請求項18】
請求項11に記載の過酸化物硬化性ハロゲン化ブチルゴム重合体を含む過酸化物硬化物品。
【請求項19】
a)少なくとも1種のイソオレフィンモノマーから誘導された繰返し単位、
b)少なくとも1種のマルチオレフィンモノマーから誘導されたハロゲン化アリル含有繰返し単位4.1モル%以上、
含有すると共に、
c)該ハロゲン化アリルは第一モル量で存在するマルチオレフィンモノマーのハロゲン化エキソ−アリルを含有し、
d)更に該ハロゲン化アリルは第二モル量で存在するマルチオレフィンモノマーのハロゲン化エンド−アリルを含有し、かつ
e)第一モル量対第二モル量比は少なくとも4である、
ハロゲン化ブチルゴム重合体。
【請求項20】
ハロゲン化エキソ−アリル及びハロゲン化エンド−アリルが臭化物である請求項19に記載のゴム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−217690(P2007−217690A)
【公開日】平成19年8月30日(2007.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−31037(P2007−31037)
【出願日】平成19年2月9日(2007.2.9)
【出願人】(506183100)ランクセス・インク. (13)
【Fターム(参考)】