説明

酸化オレフィン製造工程

【課題】オレフィンのエポキシ化工程を提供する。
【解決手段】エポキシ化触媒の存在下における、オレフィンと、酸素と、二原子塩素と過ハロゲン化炭化水素のみからなる群から選択された減速材とを含む供給ガス組成物を反応させる工程を含む。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
自然環境には微量で存在するが、酸化エチレンは、1859年にフランス人化学者Charles-Adolphe Wurtzにより所謂「クロロヒドリン」法を用いて研究室で初めて合成された。しかし、Wurtzの時代には、工業用化学物質としての酸化エチレンの実用性が十分に理解されず、第一次世界大戦直前まで、クロロヒドリン法を用いた酸化エチレンの工業生産が開始されることはなかった。これは、少なくとも部分的には、急成長する自動車市場で使用される不凍液としてのエチレングリコール(酸化エチレンはその中間体)の需要の急増に起因する。その時でさえ、クロロヒドリン法で製造した酸化エチレンは比較的少量であり、非常に不経済だった。
【0002】
クロロヒドリン法は、結局、酸素とエチレンの直接触媒酸化という別の方法に取って代わられた。これは、1931年に別のフランス人化学者Theodore Lefortにより発見され、酸化エチレン合成の第二の突破口となった。Lefortは、固体の銀触媒に、エチレンを含み酸素源として空気を利用した気相供給材料を用いた。
【0003】
直接酸化法の開発から80年の間に、酸化エチレンの製造は著しく増加し、今日では、ある試算によると、不均一酸化で製造される有機化学物質の総額の半分をも占める、化学産業で最大の生産量を有する製品の1つとなっている。2000年の世界的生産量は、約150億トンであった。(製造された酸化エチレンの約3分の2は更にエチレングリコールに加工され、製造された酸化エチレンのうち約10%は蒸気滅菌等の用途に直接使用される。)
【0004】
酸化エチレン製造は、酸化エチレンの触媒作用と加工についての継続的で集中的な研究に伴って成長し、今でも産学双方の研究者にとって魅力的な課題である。銀触媒は現在も酸化エチレン製造の触媒原料だが、多くの進歩を遂げており、中でも、銀系触媒の有効性はレニウムやセシウム等の「助触媒」元素を少量添加することにより発揮されてきた。しかしながら、幅広い研究にもかかわらず、酸化エチレンの触媒作用、とりわけ銀触媒の役割及び正確な反応のメカニズムはいまだに不明確である。
【0005】
塩素は、長い間、酸化エチレンの気相製造用の供給混合物に使用され(例えば、Lawらの1942年4月14日発行米国特許第2,279,469号、1967年1月18日発行英国特許第1,055,147号、及びLauritzenの1994年1月19日発行欧州特許第0 352 850 B1号参照)、「抑制剤」、「減速材」(moderator)、「負触媒」及び「助触媒」として様々な形で知られている。
【0006】
これらの先行技術文献では塩素の役割が十分に理解されていないが、最近の研究は、塩素が表面吸着した酸素原子から原子価電荷を離脱させることで反応を調整することを示し、塩素の原子価電子に対する親和性が単原子酸素のそれに匹敵することから、塩素は特に上記に適している(Richard M. Lambert、Rachael L. Cropley、Alifiya Husain及びMintcho S. Tikhov、Chem. Comm.、2003、1184〜1185ページ参照)。単原子吸着酸素の原子価電荷密度が低いほど求電子性に優れるため、吸着したエチレンに対する「求電子攻撃」をエネルギー的に促進し、その結果、エチレンが酸化エチレンへと部分的に酸化する。このように、塩素は、触媒の選択性−エチレンから酸化エチレンへの部分的酸化の効率−を維持する重要な役割を果たす。
【0007】
先行技術文献は特定条件下での塩素の使用を開示しているが、選択性を決定する上での塩素の重要性及びエポキシ化における塩素の役割に関する最近の研究結果をみても、塩素の使用及び全ての塩素含有分子が十分に研究されているわけではない。したがって、オレフィンのエポキシ化での使用に適した塩素組成物は、当分野において継続的に必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、エポキシ化触媒の存在下における、オレフィンと、酸素と、二原子塩素と過ハロゲン化炭化水素のみからなる群から選択された減速材とを含む供給ガス組成物を反応させる工程を含むオレフィンのエポキシ化プロセスに関する。
【0009】
本発明は、更に、(a)エポキシ化触媒と、(b)オレフィンと、酸素と、二原子塩素及び過ハロゲン化炭化水素のみからなる群から選択された水素非含有塩素源とを含む供給ガス組成物と、及び(c)エポキシ化触媒の存在下で供給ガス組成物の成分を反応させる反応器とを含むオレフィンのエポキシ化キットに関する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、銀系触媒を少なくとも酸素、オレフィン及び塩素含有減速材を含む供給物と反応器内で接触させることにより、酸化オレフィンを生成するオレフィンの気相エポキシ化に関する。本発明において、過ハロゲン化炭化水素類や二原子塩素等の水素非含有塩素源が気相エポキシ化における減速材として特に効果的であるという、驚くべき発見がなされている。理論に拘束されるものではないが、このような塩素含有種の有効性に関する論理的説明は上述の通りである。過ハロゲン化炭化水素とは、炭化水素内の全ての水素分子がハロゲン原子に置換された有機分子を指し、適当な例としては、トリクロロフルオロメタン及びパークロロエチレンがある。これらの水素非含有塩素源の使用は、触媒の選択性、安定性及び活性を含むがそれらに限定されない触媒の基本的及び新規の性能特性を改善することを特に目的としている。
【0011】
前述の減速材は他の減速材と組み合わせて使用してもよく、非制限的な例はC〜Cのハロゲン化炭化水素等の有機ハロゲン化合物を含み、特に、塩化メチル、塩化エチル、二塩化エチレン、塩化ビニル又はその混合物が好ましい。
【0012】
好ましくは、最初から単一の塩素含有減速材を使用することである。あまり好ましくはないが、2つの異なる減速材種を同時又は連続して反応器に供給してもよい。例えば、新鮮銀系触媒バッチの開始(又は「調整」)の際に塩化エチルを用い、塩化エチルを送り続けながら、減速材原料が完全に二原子塩素となるまで(塩化エチル濃度を低下させると共に)徐々に濃度レベルを上げながら二原子塩素を供給してもよい。
【0013】
減速材の濃度レベルは、多くの競合する性能特性の均衡を保つように調節しなければならず、例えば、活性が向上する減速材の濃度レベルで同時に選択性を低下させることができる。減速材の濃度レベルの別の要素は、反応器内の銀系触媒の種類、特に、触媒がレニウムを含むかどうかである。レニウム含有触媒の老化に伴い、減速材濃度が継続的に少しずつ増加するように、減速材濃度を慎重に監視する。最適な選択性の値は、狭い減速材濃度範囲内のみで得られるからである。レニウム非含有触媒は減速材レベルの影響はあまり受けず、投入した減速材濃度は触媒の耐用期間中に数回のみ上方調整する必要があるが、減速材はエポキシ化反応を部分的に阻害し、減速材が高濃度になるほどレニウム非含有触媒の活性に悪影響を及ぼすことから、減速材レベルは慎重に調節しなければならない。
【0014】
従って、本発明の減速材が高選択性触媒と共に用いられる場合、過ハロゲン化炭化水素の好適な範囲は約0.1ppm〜約20ppm、好ましくは約0.4ppm〜約10ppm(体積比)であり、分子性二原子塩素ガスの好適な範囲は約1ppm〜約75ppm、好ましくは約3ppm〜約50ppm(体積比)である。
【0015】
上述のように、塩素減速材は、銀系触媒の存在下で酸化オレフィンを生成するオレフィンの気相エポキシ化の一部として用いられる。銀系触媒及びエポキシ化工程についてはより詳細に説明する。
【0016】
[銀系エポキシ化触媒]
銀系エポキシ化触媒は、担体及び少なくとも触媒有効量の銀又は銀含有化合物を含み、必要に応じて促進量のレニウム又はレニウム含有化合物、また必要に応じて促進量の1つ以上のアルカリ金属又はアルカリ金属含有化合物を含む。使用される担体は、多数の固体で耐火性の担体から選択することができ、多孔質でもよく、好適な細孔構造を有してもよい。アルミナは、オレフィンのエポキシ化用触媒担体として有用であることが周知であり、好適な担体である。担体は、α−アルミナ、炭、軽石、マグネシア、ジルコニア、チタニア、珪藻土、酸性白土、炭化ケイ素、シリカ、炭化ケイ素、粘土類、人工ゼオライト、天然ゼオライト、二酸化ケイ素及び/又は二酸化チタン、セラミック類等の材料及びその組み合わせから構成されてもよい。担体は、少なくとも約95wt%のα−アルミナ、好ましくは約98wt%のα−アルミナを含んでもよい。残余成分は、シリカ、アルカリ金属酸化物(例えば、酸化ナトリウム)及び、微量のその他の金属含有又は非金属含有添加剤又は不純物等の、α−アルミナ以外の無機酸化物を含んでもよい。
【0017】
使用される担体の性質に関わらず、担体は通常の場合、固定床エポキシ化反応器での使用に適した寸法の粒子、塊、断片、小粒、輪、球体、ワゴン車輪状、十字分割された中空円筒等に成形される。担体粒子は、好ましくは約3mm〜約12mmの範囲、より好ましくは約5mm〜約10mmの範囲の等価直径を有する。(等価直径とは、使用される担体粒子と体積比に対する外部表面積(即ち、粒子の細孔内の表面積は無視)が同一の球体の直径である。)
【0018】
適切な担体は、Saint-Gobain Norpro社、Sud Chemie社、ノリタケ社、CeramTec社及びIndustrie Bitossi社から入手可能である。含有する組成及び配合は特定のものに限定されないが、担体組成及び担体の製造方法についての更なる情報は米国特許公報第2007/0037991号に掲載されている。
【0019】
オレフィンを酸化オレフィンに酸化するための触媒を生成するために、上記の特性を有する担体の表面に触媒有効量の銀を供給する。触媒は、担体上に銀前駆体化合物を沈着するのに十分に適した溶剤に溶解した銀の化合物、錯体又は塩に担体を含浸することにより準備する。好ましくは、銀水溶液が使用される。
【0020】
銀の沈着の前に、同時に、又はその後に、促進量のレニウム化合物を担体に沈着してもよい。レニウム化合物は、レニウム含有化合物又はレニウム含有錯体でもよい。レニウム助触媒は、レニウム金属として表わされた場合、担体を含む全触媒の重量に対して、約0.001wt%〜約1wt%の量で存在してもよく、好ましくは約0.005wt%〜約0.5wt%であり、より好ましくは約0.01wt%〜約0.1wt%である。
【0021】
銀及びレニウムの沈着の前に、同時に、又は後に、担体上に沈着してもよい追加的任意の成分は、促進量のアルカリ金属又は2種類以上のアルカリ金属の混合物、及び任意の促進量のIIA族アルカリ土類金属成分又は2種類以上のIIA族アルカリ土類金属成分の混合物及び/又は遷移金属成分又は2種類以上の遷移金属成分の混合物であり、その全ては適切な溶剤に溶解した金属イオン、金属化合物、金属錯体及び/又は金属塩の形態のものである。担体は、同時に又は別の工程で、様々な助触媒に含浸することができる。本発明の担体、銀、アルカリ金属助触媒、レニウム成分及び任意の追加助触媒の特定の組み合わせは1つ以上の触媒特性を改善させ、銀と担体と助触媒無し又は1種類の助触媒の同様の組み合わせよりも優れている。
【0022】
本明細書で使用される触媒の特定の成分の「促進量」という用語は、その成分を含まない触媒と比較した場合に、触媒の触媒性能を向上させるために効果的に作用する成分の量を言う。適用される正確な濃度は、もちろん、その他の要素のうち、所望の銀含有量、担体の性質、液体の粘度、及び含浸溶液に助触媒を導入するために使用される特定の化合物の溶解性によって決定される。触媒特性の例は、とりわけ、操作性(耐暴走性)、選択性、活性、変換率、安定性及び収率を含む。1つ以上の個々の触媒特性が「促進量」によって改善される一方で、他の触媒特性が改善される場合、及び改善されない場合があり、さらに低下する場合もあることは、当業者であれば理解するだろう。
【0023】
適切なアルカリ金属助触媒は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム又はその組み合わせから選択することができるが、セシウムが好ましく、セシウムと他のアルカリ金属の組み合わせが特に好ましい。担体上に沈着される又は存在するアルカリ金属の量が促進量となる。好適には、その量の範囲は、金属として測定された場合の、全触媒の重量に対して約10ppm〜約3000ppmであり、好ましくは約15ppm〜約2000ppmであり、より好ましくは約20ppm〜約1500ppmであり、特に好ましくは約50ppm〜約1000ppmである。
【0024】
適切なアルカリ土類金属助触媒は、元素周期表のIIA族の元素からなり、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム及びバリウム又はその組み合わせとすることができる。適切な遷移金属助触媒は、元素周期表のIVA、VA、VIA、VIIA及びVIIIA族の元素及びその組み合わせとすることができる。最も好ましくは、遷移金属は元素周期表のIVA、VA又はVIA族から選択された元素からなる。存在させることのできる好適な遷移金属は、モリブデン、タングステン、クロム、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、バナジウム、タンタル、ニオブ又はその組み合わせを含む。
【0025】
担体上に沈着されるアルカリ土類金属助触媒及び/又は遷移金属助触媒の量は、促進量である。通常、遷移金属助触媒は、金属として表わされた場合、全触媒のグラム当たり約0.1マイクロモル〜グラム当たり約10マイクロモルの量で存在することができ、好ましくはグラム当たり約0.2マイクロモル〜グラム当たり約5マイクロモルであり、より好ましくはグラム当たり約0.5マイクロモル〜グラム当たり約4マイクロモルである。触媒は、それぞれ促進量の1種類以上の硫黄化合物、1種類以上のリン化合物、1種類以上のホウ素化合物、1種類以上のハロゲン含有化合物又はその組み合わせを更に含んでもよい。
【0026】
担体を含浸するために使用される銀溶液は、本分野で公知の任意の溶剤又は錯化/可溶化剤を含んでもよい。多種多様な溶剤又は錯化/可溶化剤を、銀を含浸媒体で所望の濃度になるように可溶化するために用いることができる。有用な錯化/可溶化剤は、アミン類、アンモニア、シュウ酸、乳酸及びその組み合わせを含む。アミン類は、1〜5個の炭素原子を有するアルキレンジアミンを含む。一実施の形態において、溶液はシュウ酸銀及びエチレンジアミンの水溶液からなる。錯化/可溶化剤は、含浸溶液中に銀1モルにつき約0.1〜約5.0モルの量で存在することができ、好ましくは約0.2〜約4.0モル、より好ましくは銀1モルにつき約0.3〜約3.0モルである。
【0027】
溶剤を使用する場合は、有機溶剤でも水でもよく、極性であっても実質的に又は完全に非極性であってもよい。一般に溶液は、溶液成分を可溶化するために十分な溶媒和力を有するべきである。同時に、溶媒和した助触媒への悪影響又は相互作用を避けるように、溶剤を選択することが好ましい。分子あたり1〜約8個の炭素原子を有する有機系溶剤が好ましい。本明細書で所望するように機能する限り、数種類の有機溶剤の混合物又は1種類以上の有機溶剤と水との混合物を用いてもよい。
【0028】
通常、含浸溶液中の銀の濃度は、約0.1重量%から、使用される特定の溶剤/可溶化剤の組み合わせで溶解可能な最大限までの範囲内である。一般に、0.5%〜約45重量%の銀を含む溶液の使用が非常に適しており、5〜35重量%の銀の濃度が好ましい。
【0029】
選択された担体の含浸は、例えば、過剰溶液含浸法、初期湿潤含浸法、吹き付け塗装等の、いずれかの従来の方法で行われる。通常、担体材料は、十分な量の溶液が担体に吸収されるまで、銀含有溶液に接触させて留置される。好ましくは、多孔質担体を含浸するのに使用される銀含有溶液の量は、担体の細孔充填に必要な量以下であることが好ましい。溶液中の銀成分の濃度に部分的に応じて、途中の乾燥の有無に関わらず、1回の含浸又は一連の含浸を行うことができる。含浸工程は、例えば、米国特許第4,761,394号、米国特許第4,766,105号、米国特許第4,908,343号、米国特許第5,057,481号、米国特許第5,187,140号、米国特許第5,102,848号、米国特許第5,011,807号、米国特許第5,099,041号及び米国特許第5,407,888号に記載されている。様々な助触媒の前蒸着、共蒸着及び後蒸着といった公知の先行技術の工程を利用することができる。
【0030】
銀含有化合物、即ち、銀前駆体、レニウム成分、アルカリ金属成分、及び任意の他の助触媒に担体を含浸した後、含浸担体は、銀含有化合物を活性銀種に変換し、含浸担体から揮発性成分を除去して触媒前駆体とするのに十分な時間で焼成される。焼成は、約0.5〜約35バールの範囲の圧力で、好ましくは段階的な変化率で約200℃〜約600℃の範囲の温度まで含浸担体を加熱することにより行うことができる。一般に、温度が高いほど、必要な加熱時間は短くなる。本分野では、広範囲の加熱時間が示唆され、例えば、米国特許第3,563,914号は300秒未満の間加熱することを開示し、米国特許第3,702,259号は、通常約0.5〜約8時間の継続時間であるところ、100℃〜375℃の温度で2〜8時間加熱することを開示している。しかし、唯一重要なのは、略全ての含有銀が活性銀種に変換されるように加熱時間と温度が相関することである。ここでは、連続的又は段階的加熱を使用してもよい。
【0031】
焼成の際、不活性ガス又は不活性ガスと約10ppm〜21体積%の酸素含有酸化成分との混合物からなるガス雰囲気に、含浸担体を曝露してもよい。本発明において、不活性ガスは、焼成のために選択された条件下で触媒又は触媒前駆体と実質的に反応しないガスと定義される。触媒製造に関する更なる情報は、前述の米国特許公報第2007/0037991号に掲載されている。
【0032】
[エポキシ化工程]
エポキシ化工程は、前述の触媒の存在下で、酸素含有ガスとオレフィン、好ましくはエチレンを連続的に接触させることにより行うことができる。酸素は、ほぼ純粋な分子形態又は空気等の混合物として反応用に供給することができる。一例として、反応体供給混合物は、約0.5%〜約45%のエチレンと約3%〜約15%の酸素を含み、残部は二酸化炭素、水、不活性ガス類、他の炭化水素類及び上述の反応減速材等の物質を含む比較的不活性な材料からなる。不活性ガスの非限定的な例は、窒素、アルゴン、ヘリウム及びその混合物を含むものでもよい。他の炭化水素類の非限定的な例は、メタン、エタン、プロパン及びその混合物を含む。二酸化炭素と水は、エポキシ化工程の副生成物であるとともに、供給ガスの一般的な不純物である。どちらも触媒に悪影響を与えるため、これらの成分の濃度は通常最小限に維持される。一実施の形態において、供給ガス中の二酸化炭素濃度は約2%未満である。
【0033】
一般的なエチレンのエポキシ化工程の方法は、前述の触媒の存在下の固定床管型反応器内におけるエチレンと分子酸素の気相酸化法からなる。従来の市販されている固定床エチレン酸化反応器は、通常、外径約0.7〜2.7インチ、内径0.5〜2.5インチで、長さ15〜53フィートの、触媒が充填された複数の平行な細長い管(適切な外殻構造内)の形状を有する。かかる反応器は、反応器出口を有し、それにより、酸化オレフィン、未使用の反応物質及び副生成物を反応器チャンバから排出することができる。
【0034】
一般的なエチレンのエポキシ化工程の処理条件では、温度範囲は約180℃〜約330℃、好ましくは約200℃〜約325℃、より好ましくは約225℃〜約280℃である。処理圧力は、所望の質量速度と生産性に依存して、略大気圧〜約30気圧まで変化をもたせてもよい。本発明の範囲では、より高圧を使用することもできる。商用規模の反応器内の滞留時間は、通常約2〜約20秒のオーダーである。
【0035】
反応器出口を介して反応器から排出された生成後の酸化エチレンは、従来の方法を用いて反応生成物から分離され、回収される。本発明において、エチレンのエポキシ化工程はガスのリサイクルを含んでもよい。ガスのリサイクルでは、酸化エチレン生成物と二酸化炭素を含む副生成物を実質的に又は部分的に除去した後、ほぼ全ての反応器排水が反応器入口から再び導入される。
【0036】
前述の触媒が、特にエチレン及び酸素の高転化率で、エチレンと分子酸素から酸化エチレンへの酸化に特に選択的であることを示してきた。上述の触媒の存在下でかかる酸化反応を行う条件は、先行技術に記載されたものを広く含む。適切な温度、圧力、滞留時間、希釈材、緩和剤及びリサイクル操作がこれに当たり、酸化エチレンの収率を増大させるべく異なる反応器にて順次に行う変換も当てはまる。エチレン酸化反応での本発明の触媒の使用は、効果的であることが知られるもののうちの特定の条件の使用に限定されない。
【0037】
単なる例示として、以下に、現在市販されている酸化エチレン反応器ユニットで多く用いられる条件を示す。気体時空間速度(GHSV)1500〜10000h−1、反応器入口圧力150〜400psig、冷却液温度180〜315℃、酸素変換レベル10〜60%、及び酸化エチレン生産率(作業速度)が触媒1立方フィートにつき毎時7〜20lbsの酸化エチレンである。反応器入口での供給組成物は、通常、(体積%で)5〜40%のエチレン、3〜12%のO、0.3〜20%、好ましくは0.3〜5%、より好ましくは0.3〜1%のCO、0〜3%のエタンと、所定の量の1種類以上の上述の塩素減速材と、供給物の残部はアルゴン、メタン、窒素又はその混合物からなるものでもよい。
【0038】
[実施例]
以下の非限定的実施例に関連して、本発明を更に詳細に説明する。
【0039】
レニウム含有触媒のペレットを粉砕し、すりつぶし、ふるいにかけて、14〜18メッシュ粒度の試料にした。6.5gの材料を外径1/4インチの加熱したマイクロ反応器に充填した。200℃まで反応器を加熱し、パークロロエチレンが0.08ppm(体積比)、Cが8%、Oが4%、COが4%、残部がNの組成を有する供給ガスを導入した。温度を50時間以上かけて245℃まで上昇させ、その後更に65時間温度を保った。供給ガスは、Cを25%、Oを7%、及びCOを2%(残部は窒素)に設定し、温度を継続的に調節して酸化エチレンの変化ΔEOを2.2%に維持した。
【0040】
パークロロエチレン濃度を変え、選択性に対する影響を判断した。0.8ppm〜1.1ppm(体積比)の間の濃度レベルのパークロロエチレンを使用することで、選択性の値が90%〜92.5%の間の優れた性能が得られた。このような選択性の性能は長時間続き、640時間の実行時間の間維持された。
【0041】
640時間で反応器へのパークロロエチレン供給を停止し、従来の塩素源減速材の塩化エチルに替えて150時間供給した。そして、供給ガスに二原子塩素を所定の時間添加し、濃度を1.5ppm〜5ppm(体積比)の間で変化させた。約5ppm(体積比)の濃度レベルの二原子塩素を使用することで、選択性の値が91%を超える優れた選択性の性能が得られた。
【0042】
過ハロゲン化炭化水素(即ち、パークロロエチレン)や二原子塩素等の水素非含有塩素源の減速材の使用により得られたこのような選択性の性能は、当業者が予期し得るものではなかった。
【0043】
当業者には、その広い発明的概念から逸脱することなく上記実施の形態に変更を行なうことができることが認識されよう。本発明は開示された特定の実施例に限定されず、添付のクレームに記載された本発明の精神および範囲内での改良に及ぶことを意図していることが理解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
エポキシ化触媒の存在下で、オレフィンと、酸素と、二原子塩素と過ハロゲン化炭化水素のみからなる群から選択された減速材とを含む供給ガス組成物を反応させる工程からなることを特徴とするオレフィンのエポキシ化工程。
【請求項2】
前記減速材は前記二原子塩素である請求項1記載の工程。
【請求項3】
前記減速材は、トリクロロフルオロメタンとパークロロエチレンのみからなる群から選択された過ハロゲン化炭化水素である請求項1記載の工程。
【請求項4】
前記減速材は、体積比約1ppm〜約75ppmの濃度で存在する二原子塩素である請求項1記載の工程。
【請求項5】
前記減速材は、体積比約0.1ppm〜約20ppmの濃度で存在する過ハロゲン化炭化水素である請求項1記載の工程。
【請求項6】
前記エポキシ化触媒は、担体と、触媒有効量の銀又は銀含有化合物と、促進量のレニウム又はレニウム含有化合物と、及び促進量の1種類以上のアルカリ金属又はアルカリ金属含有化合物を含む請求項1記載の工程。
【請求項7】
前記減速材は、体積比約1ppm〜約75ppmの濃度で存在する二原子塩素である請求項6記載の工程。
【請求項8】
前記減速材は、体積比約0.1ppm〜約20ppmの濃度で存在する過ハロゲン化炭化水素である請求項6記載の工程。
【請求項9】
前記エポキシ化触媒は、担体と、触媒有効量の銀又は銀含有化合物と、促進量のレニウム又はレニウム含有化合物と、及び促進量の1種類以上のアルカリ金属又はアルカリ金属含有化合物を含み、前記供給ガス組成物は、約2%未満の二酸化炭素を含む請求項1記載の工程。
【請求項10】
前記オレフィンはエチレンである請求項1記載の工程。
【請求項11】
前記エポキシ化触媒は、促進量の第IIA族アルカリ土類金属成分を更に含む請求項6記載の工程。
【請求項12】
エポキシ化触媒の存在下で、オレフィンと、酸素と、主に過ハロゲン化炭化水素のみからなる減速材組成物とを含む供給ガス組成物を反応させる工程からなることを特徴とするオレフィンのエポキシ化工程。
【請求項13】
前記過ハロゲン化炭化水素は、トリクロロフルオロメタン及びパークロロエチレンのみからなる群から選択される請求項12記載の工程。
【請求項14】
前記過ハロゲン化炭化水素は、体積比約0.1ppm〜約20ppmの濃度で存在する請求項12記載の工程。
【請求項15】
エポキシ化触媒の存在下で、オレフィンと、酸素と、二原子塩素とを含む供給ガス組成物を反応させる工程からなることを特徴とするオレフィンのエポキシ化工程。
【請求項16】
二原子塩素は、体積比約1ppm〜約75ppmの濃度で存在する請求項15記載の工程。
【請求項17】
(a)エポキシ化触媒と、
(b)オレフィンと、酸素と、二原子塩素と過ハロゲン化炭化水素類のみからなる群から選択された水素非含有塩素源とを含む供給ガス組成物と、及び
(c)前記エポキシ化触媒の存在下で前記供給ガス組成物の成分を反応させる反応器を備えたオレフィンのエポキシ化キット。
【請求項18】
前記反応器は、固定床管型反応器である請求項17記載のキット。
【請求項19】
前記反応器の操作説明書を更に備え、
前記操作説明書は、本又は小冊子に印刷されている請求項17記載のキット。
【請求項20】
前記オレフィンはエチレンである請求項17記載のキット。


【公表番号】特表2013−514975(P2013−514975A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544831(P2012−544831)
【出願日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際出願番号】PCT/US2010/060785
【国際公開番号】WO2011/084606
【国際公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(591105890)サイエンティフィック・デザイン・カンパニー・インコーポレーテッド (9)
【氏名又は名称原語表記】SCIENTIFIC DESIGN COMPANY INCORPORATED
【Fターム(参考)】