説明

酸化ジルコニウム粒子分散液、酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物及び硬化膜

【課題】(1)保存安定性に優れた酸化ジルコニウム粒子分散液、(2)基材の表面に透明性に優れ且つ高屈折率を有する硬化膜を形成することができ、分散処理過程で使用される金属製機器や塗布機材を腐食させることのない光硬化性組成物、(3)該組成物から得られる透明性に優れ且つ高屈折率を有する硬化膜、を提供すること。
【解決手段】酸化ジルコニウム粒子、金属錯体及び分散媒からなる酸化ジルコニウム粒子分散液、酸化ジルコニウム粒子、金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤及び分散媒からなる酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物、並びに該酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物を基材上に塗布又は印刷し、硬化させて得られるものである硬化膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は保存安定性に優れた酸化ジルコニウム粒子分散液、酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物及び該組成物から得られる硬化膜に関し、より詳しくは、プラスチック、金属、木材、紙、ガラス、スレート等の各種基材の表面に透明性に優れ且つ高屈折率を有する硬化膜を形成し得る光硬化性組成物、該組成物から得られる透明性に優れ且つ高屈折率を有する硬化膜、及びそのような光硬化性組成物の調製に用いられる保存安定性に優れた酸化ジルコニウム粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、各種基材表面の傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コーティング材や、印刷インクのバインダー材として、優れた塗工性を有し、且つ各種基材の表面に硬度、耐擦傷性、耐摩耗性、低カール性、密着性、透明性、耐薬品性、塗膜面の外観等に優れた硬化膜を形成し得る硬化性組成物が要請されている。
【0003】
また、フィルム型液晶素子、タッチパネル、プラスチック光学部品等の反射防止膜の用途においては、上記要請に加えて、透明性に優れ且つ高屈折率である硬化膜を形成し得る硬化性組成物が要請されている。
【0004】
このような硬化性組成物から形成される硬化膜に、透明性、高屈折率、高硬度及び耐擦傷性を付与するための手段として、酸化ジルコニウム粒子分散液が使用されている(例えば、特許文献1、2、3及び4参照)。
【0005】
【特許文献1】特開2003−105034号公報
【特許文献2】特開2005−161111号公報
【特許文献3】特開2005−185924号公報
【特許文献4】特開2005−220264号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の用途に用いられる酸化ジルコニウム粒子分散液については、酸化ジルコニウム粒子の粒子径が小さく且つ分散液が保存安定性に優れていることが求められており、また、反射防止膜等に用いられる場合には更に全光線透過率が高くなるように塗膜のヘーズが低く且つ屈折率が高いことが求められている。また、上記の特許文献2、3、4に記載の技術において分散助剤として記載されているアセチルアセトンは金属とキレートを形成するため、分散処理過程で使用される金属製機器や塗布機材を腐食させるという問題がある。また、特許文献2、3、4では、分散液作製のために分散剤の添加を必要としているが、一般に分散剤の添加は膜硬度や耐擦傷性といった塗膜特性を低下させるのみならず、製造工程を増やし、更に製造コストを上昇させる要因となる可能性がある。
【0007】
本発明は、上述の課題に鑑みてなされたものであり、(1)分散液の保存安定性に優れた酸化ジルコニウム粒子分散液、(2)基材の表面に透明性に優れ且つ高屈折率を有する硬化膜を形成することができ、分散処理過程で使用される金属製機器や塗布機材を腐食させることのない光硬化性組成物、(3)該組成物から得られる透明性に優れ且つ高屈折率を有する硬化膜、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の諸目的を達成するために鋭意検討した結果、分散媒中に酸化ジルコニウム粒子及び金属錯体を分散させることにより、また、そのような分散液を用いることにより、目的とする効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
即ち、本発明の酸化ジルコニウム粒子分散液は、酸化ジルコニウム粒子、金属錯体及び分散媒からなることを特徴とし、好ましくは、酸化ジルコニウム粒子100質量部当り、金属錯体の含有量が2〜45質量部であり、分散媒の含有量が40〜1000質量部であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明の酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物は、酸化ジルコニウム粒子、金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤及び分散媒からなることを特徴とし、好ましくは、酸化ジルコニウム粒子100質量部当り、金属錯体の含有量が2〜45質量部であり、分散媒の含有量が40〜1000質量部であり、活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が10〜1000質量部であり、且つ活性エネルギー線硬化性化合物100質量部当り光重合開始剤の含有量が0.1〜20質量部であることを特徴とする。
【0011】
更に、本発明の硬化膜は、上記の酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物を基材上に塗布又は印刷し、硬化させて得られるものであることを特徴とし、好ましくは、屈折率が1.45〜1.90であり、光透過率が85%以上であり、ヘーズが1.0%以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、(1)分散液の保存安定性に優れた酸化ジルコニウム粒子分散液が提供され、(2)基材の表面に透明性に優れ且つ高屈折率を有する硬化膜を形成することができ、分散処理過程で使用される金属製機器や塗布機材を腐食させることのない光硬化性組成物が提供され、更に(3)該組成物から得られる透明性に優れ且つ高屈折率を有する硬化膜が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【0014】
本発明の酸化ジルコニウム粒子分散液は、酸化ジルコニウム粒子、金属錯体及び分散媒を含有している。本発明で用いる酸化ジルコニウム粒子の形状については特に限定されない。また、酸化ジルコニウム粒子の大きさについては、一次粒子径で、通常、1〜100nm、好ましくは5〜40nmのものを使用することができる。
【0015】
本発明で用いる金属錯体として、ジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、バナジウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、錫及び白金からなる群から選ばれる金属、好ましくは分散液の色味が少ない点でジルコニウム、チタン、アルミニウム、亜鉛、インジウム及び錫からなる群から選ばれる金属と、β−ケトンからなる群から選ばれる配位子、好ましくはピバロイルトリフルオルアセトン、アセチルアセトン、トリフルオルアセチルアセトン及びヘキサフルオルアセチルアセトンからなる群から選ばれる配位子とからなる金属錯体を挙げることができる。
【0016】
本発明においては、金属錯体は分散剤として機能するので、分散液の保存安定性に優れた酸化ジルコニウム粒子分散液を得ることができる。また、金属錯体は分散過程で使用される金属製機器や塗布機材を腐食することは殆どない。
【0017】
なお、分散液の保存安定性をより向上させる目的で、分散助剤としてさらに他の分散剤を添加してもよい。そのような分散助剤の種類は、特に限定されないが、そのような分散助剤として、好ましくは、ポリオキシエチレンアルキル構造を有するリン酸エステル系ノニオン型分散剤を挙げることができる。
【0018】
本発明で用いる分散媒として、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、2−ブタノール、オクタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル、乳酸エチル、γ−ブチロラクトン、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアセトアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類等を挙げることができる。それらの中でも、エタノール、イソプロパノール、ノルマルブタノール、2−ブタノール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、エチルベンゼンが好ましく、メチルエチルケトン、ブタノール、キシレン、エチルベンゼン、トルエンがより好ましい。本発明においては、分散媒として一種単独で用いることも、二種以上を併用することもできる。
【0019】
本発明の酸化ジルコニウム粒子分散液においては、各成分の配合割合は酸化ジルコニウム粒子分散液の用途に応じて適宜設定できるが、酸化ジルコニウム粒子100質量部当り、金属錯体の含有量は好ましくは2〜45質量部、より好ましくは5〜20質量部であり、分散媒の含有量は好ましくは40〜1000質量部、より好ましくは60〜600質量部である。金属錯体の量が上記の下限値より少ない場合には酸化ジルコニウム粒子の分散不良となり、上記の上限値より多い場合には金属錯体が分散媒中に溶解せず、沈殿が生じることがある。また、分散媒の量が上記の下限値より少ない場合には金属錯体の溶解、酸化ジルコニウム粒子の分散が不十分となり、上記の上限値より多い場合には酸化ジルコニウム粒子分散液の濃度が薄すぎて実用的でなくなる。
【0020】
本発明の酸化ジルコニウム粒子分散液は、酸化ジルコニウム粒子、金属錯体及び分散媒を任意の順序で添加し、充分に混合することにより得られる。普通には、金属錯体を溶解した分散媒中に酸化ジルコニウム粒子を分散させて製造する。分散操作を行う前にはプレ分散操作を行うとなおよい。プレ分散操作は、金属錯体を溶解した分散媒中に、ディスパー等で撹拌しながら、酸化ジルコニウム粒子を徐々に加えていき、酸化ジルコニウムの塊が目視で確認されなくなるまでよく撹拌すればよい。
【0021】
酸化ジルコニウム粒子の分散操作は、ペイントシェーカー、ボールミル、サンドミル、セントリミル等を用いて行うことができる。分散操作の際に、ガラスビーズ、ジルコニアビーズ等の分散ビーズを用いることが好ましい。ビーズ径は、特に限定されないが、通常0.05〜1mm程度であり、好ましくは0.05〜0.65mmであり、より好ましくは0.08〜0.65mmであり、特に好ましくは0.08〜0.5mmである。
【0022】
本発明の酸化ジルコニウム粒子分散液においては、酸化ジルコニウム粒子の粒子径はメジアン径で好ましくは120nm以下、さらに好ましくは80nm以下である。メジアン径がそれ以上であると、酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物から得られる硬化膜のヘーズが高くなる傾向がある。
【0023】
本発明の酸化ジルコニウム粒子分散液は、酸化ジルコニウム粒子が長期にわたり安定に分散しており、また、金属を腐食させるアセチルアセトン等を含有していないため、金属製の容器に保管が可能である。
【0024】
本発明の酸化ジルコニウム粒子分散液は、保護膜形成用組成物、反射防止膜形成用組成物、接着剤、シーリング材、バインダー材等に含ませて用いることができ、特に高屈折率の反射防止膜を形成する組成物に好適に用いることができる。
【0025】
本発明の酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物は、酸化ジルコニウム粒子、金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤及び分散媒を含有しており、酸化ジルコニウム粒子、金属錯体及び分散媒は上記した通りである。
【0026】
本発明で用いる活性エネルギー線硬化性化合物としてラジカル重合性モノマー、ラジカル重合性オリゴマー等を挙げることができる。
【0027】
ラジカル重合性モノマーの具体例として、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の単官能(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、アリルジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ポリエチレンオキサイド変性ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールSジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の二官能(メタ)アクリレート;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセロールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、エチレン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の三官能以上の(メタ)アクリレート;スチレン、ビニルトルエン、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、アクリロニトリル、アリルアルコール等のラジカル重合性モノマーを挙げることができる。
【0028】
ラジカル重合性オリゴマーの具体例として、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、オリゴ(メタ)アクリレート、アルキド(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリロイル基を少なくとも1個有するプレポリマーを挙げることができる。特に好ましいラジカル重合性オリゴマーは、ポリエステル、エポキシ、ポリウレタンの各(メタ)アクリレートである。本発明においては活性エネルギー線硬化性化合物は一種単独で用いることも、二種以上を併用することもできる。
【0029】
本発明の酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物においては、光重合開始剤(光増感剤)を含有するので、少量の活性エネルギー線の照射で酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物を硬化させることができる。
【0030】
本発明で用いる光重合開始剤(光増感剤)として、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ベンゾフェノン、ベンジルジメチルケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、p−クロロベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルサルファイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルホリノプロパノン−1を挙げることができる。光重合開始剤は一種単独で用いることも、二種以上を併用することもできる。
【0031】
本発明の酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物においては、各成分の配合割合は酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物の用途に応じて適宜設定できるが、酸化ジルコニウム粒子100質量部当り、金属錯体の含有量は好ましくは2〜45質量部、より好ましくは5〜20質量部であり、分散媒の含有量は好ましくは40〜1000質量部、より好ましくは60〜600質量部であり、活性エネルギー線硬化性化合物の含有量は好ましくは10〜1000質量部、より好ましくは25〜150質量部であり、且つ活性エネルギー線硬化性化合物100質量部当り光重合開始剤の含有量は好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは1〜15質量部である。
【0032】
金属錯体の量が上記の下限値より少ない場合には酸化ジルコニウム粒子の分散不良となる傾向があり、上記の上限値より多い場合には金属錯体が分散媒中に溶解せず、沈殿が生じることがある。分散媒の量が上記の下限値より少ない場合には金属錯体の溶解、酸化ジルコニウム粒子の分散が不十分となる傾向があり、上記の上限値より多い場合には酸化ジルコニウム粒子分散液の濃度が薄すぎて酸化ジルコニウム粒子の添加効果が不十分となる傾向がある。活性エネルギー線硬化性化合物の量が上記の下限値より少ない場合には硬化膜の屈折率が高くなるが透明性が低下する傾向があり、上記の上限値より多い場合には硬化膜の屈折率が所望程度には高くならない。また、光重合開始剤の量が上記の下限値より少ない場合には光硬化性組成物の硬化速度が低下する傾向があり、上記の上限値よりも多くてもそれに見合った効果が得られない。
【0033】
更に、本発明の光硬化性組成物には、その目的を損なわない範囲内で、上記以外の慣用の各種添加剤を配合してもよい。このような添加剤として、重合禁止剤、硬化触媒、酸化防止剤、レベリング剤、カップリング剤等を挙げることができる。
【0034】
本発明の光硬化性組成物は、プラスチック(ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエステル、ポリオレフィン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等)、金属、木材、紙、ガラス、スレート等の各種基材の表面に塗布又は印刷し、硬化させて膜を形成することができ、例えば、プラスチック光学部品、タッチパネル、フィルム型液晶素子、プラスチック容器、建築内装材としての床材、壁材、人工大理石等の傷付き(擦傷)防止や汚染防止のための保護コーティング材;フィルム型液晶素子、タッチパネル、プラスチック光学部品等の反射防止膜;各種基材の接着剤、シーリング材;印刷インクのバインダー材等に用いられ、特に反射防止膜の高屈折率膜を形成する組成物として好適に用いることができる。
【0035】
基材への光硬化性組成物の塗布又は印刷は常法に従って、例えば、ロールコート、スピンコート、スクリーン印刷などの手法で行うことができる。必要により加熱して分散媒(溶媒)を蒸発させ、塗膜を乾燥させ、次いで、活性エネルギー線(紫外線又は電子線)を照射する。活性エネルギー線源としては、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、エキシマレーザー、色素レーザーなどの紫外線源、ならびに電子線加速装置を使用することができる。活性エネルギー線の照射量は、紫外線の場合には50〜3000mJ/cm2、電子線の場合には0.2〜1000μC/cm2の範囲内が適当である。この活性エネルギー線の照射により、上記活性エネルギー線硬化性化合物が重合し、酸化ジルコニウム粒子が樹脂で結合された膜が形成される。この膜の膜厚は一般的に0.1〜10.0μmの範囲内であることが好ましい。
【0036】
本発明の酸化ジルコニウム粒子分散液で調製した光硬化性組成物を硬化させて得られる本発明の硬化膜は、酸化ジルコニウム粒子が硬化膜内で均一に分散していて、屈折率の制御が可能でしかも屈折率が高く、透明性が高く、ヘーズが低く、具体的には屈折率が1.45〜1.90であり、光透過率が85%以上であり、ヘーズが1.0%以下である。屈折率を制御するためには酸化ジルコニウム粒子の量と活性エネルギー線硬化性化合物の量との比率を調整すればよい。高屈折率の硬化膜は、ディスプレイの表示面等に用いることができる。
【実施例】
【0037】
以下に、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例及び比較例において「部」は全て「質量部」である。
【0038】
実施例及び比較例で使用した成分は以下の通りである。
<酸化ジルコニウム粒子>
第一稀元素化学工業(株)製、UEP−100(一次粒子径10〜30nm)
<金属錯体>
関東化学(株)製、ジルコニウムアセチルアセトナート([Zr(C572)4])
松本製薬工業(株)製、オルガチックス TC−401([Ti(C572)4])
日本化学産業(株)製、ナーセムアルミニウム([Al(C572)3])
日本化学産業(株)製、ナーセム亜鉛([Zn(C572)2]・H2O)
日本化学産業(株)製、ナーセムインジウム([In(C572)3])
日本化学産業(株)製、ナーセム錫([(C49)Sn(C572)2])
<分散助剤>
ビックケミージャパン(株)製、BYK−142(NV. 60%)
<活性エネルギー線硬化性化合物(多官能(メタ)アクリレートモノマー)>
日本化薬(株)製、KAYARAD DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレートとジペンタエリスリトールペンタアクリレートとの質量比60対40の混合物)
<光重合開始剤>
チバ・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製、IRGACURE 184
<キレート剤>
ダイセル化学工業(株)製、アセチルアセトン
【0039】
実施例1
酸化ジルコニウム粒子100部に対し、12部のジルコニウムアセチルアセトナート、180部の2−ブタノール及び800部のガラスビーズとなる量で全成分を容器に入れ、ペイントシェーカーで7時間練合した。練合後、ガラスビーズを取り除いて酸化ジルコニウム粒子分散液を得た。この分散液に33部のDPHA、3.3部のIRGACURE184及び55部の2−ブタノールを加えて光硬化性組成物を得た。ロールコーターを用いてこの光硬化性組成物を膜厚75μmのPETフィルム(東洋紡A4300、光透過率91%、ヘーズ0.5%)上に塗布し、有機溶媒を蒸発させた後、空気下で高圧水銀灯を用いて300mJ/cm2の光を照射し、厚み3μmの硬化膜を作製した。
【0040】
実施例2
酸化ジルコニウム粒子100部に対し、12部のジルコニウムアセチルアセトナート、8.3部のBYK−142、180部の2−ブタノール及び800部のガラスビーズとなる量で全成分を容器に入れ、ペイントシェーカーで7時間練合した。練合後、ガラスビーズを取り除いてジルコニア粒子分散液を得た。この分散液に28部のDPHA、2.8部のIRGACURE 184及び55部の2−ブタノールを加えて光硬化性組成物を得た。その後、実施例1と同様の方法により、厚み3μmの硬化膜を作製した。
【0041】
実施例3
12部のジルコニウムアセチルアセトナートの代わりに11部のオルガチックス TC −401を添加した以外は実施例1と同様の処理により、厚み3μmの硬化膜を作製した。
【0042】
実施例4
12部のジルコニウムアセチルアセトナートの代わりに11部のナーセムアルミニウムを添加した以外は実施例1と同様の処理により、厚み3μmの硬化膜を作製した。
【0043】
実施例5
12部のジルコニウムアセチルアセトナートの代わりに14部のナーセム亜鉛を添加した以外は実施例1と同様の処理により、厚み3μmの硬化膜を作製した。
【0044】
実施例6
12部のジルコニウムアセチルアセトナートの代わりに14部のナーセムインジウムを添加した以外は実施例1と同様の処理により、厚み3μmの硬化膜を作製した。
【0045】
実施例7
12部のジルコニウムアセチルアセトナートの代わりに22部のナーセム錫を添加した以外は実施例1と同様の処理により、厚み3μmの硬化膜を作製した。
【0046】
比較例1
酸化ジルコニウム粒子100部に対し、8.3部のBYK−142、180部の2−ブタノール及び800部のガラスビーズとなる量で全成分を容器に入れ、ペイントシェーカーで7時間練合した。練合中に分散液が増粘した。
【0047】
比較例2
12部のジルコニウムアセチルアセトナートの代わりに10部のアセチルアセトンを添加した以外は実施例2と同様の処理により、厚み3μmの硬化膜を作製した。
【0048】
<評価方法>
(1)酸化ジルコニウム粒子のメジアン径
実施例及び比較例で作製した酸化ジルコニウム粒子分散液に分散している酸化ジルコニウム粒子のメジアン径を、作製直後、3ヶ月後(40℃保管)、6ヶ月後(40℃保管)、1年後(40℃保管)に、以下の条件で測定した。測定結果は第1表に示す通りであった。
【0049】
機器:(株)日機装(株)製 Microtrac粒度分布計
測定条件:温度 20℃
試料:サンプルを原液のまま測定
データ解析条件:粒子径基準:体積基準
分散粒子 ZrO2 の屈折率:2.050
分散媒 2−ブタノールの屈折率:1.40
【0050】
(2)硬化膜の透過率、ヘーズ
実施例及び比較例で得た硬化膜について、透過率及びヘーズを東京電色技術センター製TC−HIII DPKで測定した。測定値は基材を含んだ値である。
【0051】
(3)屈折率
実施例及び比較例で得た硬化膜について、(株)アタゴ製アッぺ屈折計DR−M4(20℃)で測定した。
【0052】
(4)金属製容器の腐食
実施例及び比較例で作製した酸化ジルコニウム粒子分散液をステンレス容器(SUS304;Fe−Cr−Ni系ステンレス鋼製)に入れ、1ヶ月間静置した後のステンレス容器の腐食の状態を目視にて評価した。評価の結果は第1表に示す通りであった。
【0053】
【表1】

【0054】
第1表に示すデータから明らかなように、金属錯体を含有した場合(実施例1〜7)では、分散助剤の有無に関わらず、優れた保存安定性を有する分散液が得られ、金属製容器に保管した場合でも金属製容器に腐食は確認されなかった。さらに、実施例1〜7で得られた酸化ジルコニウム粒子分散液を用いた光硬化性組成物を塗布して得られた硬化膜は屈折率が1.68〜1.71、透過率が85%以上、ヘーズ1.0%以下という、高屈折率を有し且つ透明性に優れていた。金属錯体を添加しなかった場合(比較例1)には、分散が困難で均一な分散液を得ることができなかった。また、アセチルアセトンを添加して分散させた酸化ジルコニウム粒子分散液(比較例2)を金属製容器に保存した場合に、容器の腐食が顕著に認められた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウム粒子、金属錯体及び分散媒からなることを特徴とする酸化ジルコニウム粒子分散液。
【請求項2】
酸化ジルコニウム粒子100質量部当り、金属錯体の含有量が2〜45質量部であり、分散媒の含有量が40〜1000質量部であることを特徴とする請求項1記載の酸化ジルコニウム粒子分散液。
【請求項3】
金属錯体が、ジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、バナジウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、錫及び白金からなる群から選ばれる金属と、β−ケトンからなる群から選ばれる配位子とからなることを特徴とする請求項1又は2記載の酸化ジルコニウム粒子分散液。
【請求項4】
金属錯体が、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、亜鉛、インジウム及び錫からなる群から選ばれる金属と、ピバロイルトリフルオルアセトン、アセチルアセトン、トリフルオルアセチルアセトン及びヘキサフルオルアセチルアセトンからなる群から選ばれる配位子とからなることを特徴とする請求項3記載の酸化ジルコニウム粒子分散液。
【請求項5】
酸化ジルコニウム粒子、金属錯体、活性エネルギー線硬化性化合物、光重合開始剤及び分散媒からなることを特徴とする酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物。
【請求項6】
酸化ジルコニウム粒子100質量部当り、金属錯体の含有量が2〜45質量部であり、分散媒の含有量が40〜1000質量部であり、活性エネルギー線硬化性化合物の含有量が10〜1000質量部であり、且つ活性エネルギー線硬化性化合物100質量部当り光重合開始剤の含有量が0.1〜20質量部であることを特徴とする請求項5記載の酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物。
【請求項7】
金属錯体がジルコニウム、チタン、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、バナジウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、錫及び白金からなる群から選ばれる金属と、β−ケトンからなる群から選ばれる配位子とからなることを特徴とする請求項5又は6記載の酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物。
【請求項8】
金属錯体が、ジルコニウム、チタン、アルミニウム、亜鉛、インジウム及び錫からなる群から選ばれる金属と、ピバロイルトリフルオルアセトン、アセチルアセトン、トリフルオルアセチルアセトン及びヘキサフルオルアセチルアセトンからなる群から選ばれる配位子とからなることを特徴とする請求項7記載の酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物。
【請求項9】
請求項5、6、7又は8記載の酸化ジルコニウム粒子含有光硬化性組成物を基材上に塗布又は印刷し、硬化させて得られるものであることを特徴とする硬化膜。
【請求項10】
屈折率が1.45〜1.90であり、光透過率が85%以上であり、ヘーズが1.0%以下であることを特徴とする請求項9記載の硬化膜。

【公開番号】特開2008−138084(P2008−138084A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−325732(P2006−325732)
【出願日】平成18年12月1日(2006.12.1)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】