説明

酸化セリウム系研磨材の製造方法

【課題】非晶質固体が付着した酸化セリウム系研磨材から、酸化セリウム系研磨材を製造できる方法を提供する。
【解決手段】非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を含む懸濁液を遠心分離し、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を含む分離堆積物を得る工程を行う。非晶質固体の溶解剤と分離堆積物とを水中で混合することにより、酸化セリウム系研磨材の表面に付着した非晶質固体を溶解させる溶解工程を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化セリウム系研磨材の製造方法に関する。特に、本発明は、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材から酸化セリウム系研磨材を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ガラス、アモルファスシリコンなどの無機非晶質固体の研磨方法として、酸化セリウム系研磨材を用いたケミカルメカニカルポリッシング(CMP)が広く用いられている。このケミカルメカニカルポリッシングは、例えばアルミナ粒子やシリカ粒子などのような、研磨される材料よりも硬い研磨材を用いて機械的に研磨する方法とは異なり、研磨材と研磨される材料との化学反応を主として利用する方法である。
【0003】
例えば、酸化セリウム系研磨材を用いて珪酸塩ガラスを研磨する場合、酸化セリウムの硬度は珪酸塩ガラスの硬度よりも低いため、機械的に珪酸塩ガラスが研磨されるわけではない。酸化セリウム系研磨材を用いた研磨においては、酸化セリウム系研磨材の表面に露出している酸化セリウムと非晶質固体とが化学反応し、酸化セリウム系研磨材に非晶質固体片が付着していく。これにより、非晶質固体の表面が研磨されていく。
【0004】
このように、酸化セリウム系研磨材を用いた研磨では、酸化セリウム系研磨材の表面と非晶質固体との化学反応によって進行していく。このため、酸化セリウムが酸化セリウム系研磨材の表面に露出している必要がある。しかしながら、非晶質固体の研磨に用いた酸化セリウム系研磨材の表面には、研磨により生じた非晶質固体片が付着している。このため、使用済みの酸化セリウム系研磨材は、研磨能力が低い。よって、使用済みの酸化セリウム系研磨材を再生するためには、酸化セリウム系研磨材の表面に付着した非晶質固体を除去する必要がある。
【0005】
これに鑑み、例えば特許文献1や特許文献2では、使用済みの酸化セリウム系研磨材の懸濁液に分散剤を添加した後、この懸濁液にアルカリ成分をさらに添加することによって酸化セリウム系研磨材の表面に付着したケイ素成分を除去し、酸化セリウム系研磨材を再生する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−205460号公報
【特許文献2】特許第3413394号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1及び2で提案された方法では、酸化セリウム系研磨材の再生に大量のアルカリ成分を使用する必要がある。よって、これらの方法では、使用したアルカリ成分の後処理に大きな労力がかかり、環境への負荷も大きいという問題点がある。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、ガラスなどの非晶質固体が付着した酸化セリウム系研磨材から、酸化セリウム系研磨材を好適に製造できる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述のように、酸化セリウム系研磨材は、酸化セリウム系研磨材と非晶質固体とが化学的に反応することを利用して非晶質固体の研磨を行うためのものである。このため、従来、研磨された非晶質固体の多くは、酸化セリウム系研磨材に付着しているものと考えられていた。また、非晶質固体の付着により酸化セリウム系研磨材による研磨速度が低下することからも、研磨された非晶質固体の多くが酸化セリウム系研磨材に付着した状態で存在しているものと考えられていた。
【0010】
しかしながら、本発明者が鋭意研究した結果、酸化セリウム系研磨材によりガラスなどの非晶質固体を研磨した場合、研磨された非晶質固体のごく一部のみが酸化セリウム系研磨材の表面に付着しており、大部分は、非溶解の状態で使用済みの酸化セリウム系研磨材の懸濁液(廃液)中に分散していることが見出された。このことは、上述の酸化セリウム系研磨材の研磨原理や、経時的に研磨速度が低下する事実などからして、本発明者にとって驚くべき事実であった。なかでも、使用済みの酸化セリウム系研磨材の懸濁液中の非晶質固体の多くが、固体として廃液中に分散していることは特に驚くべきことであった。
【0011】
本発明者は、この新たに発見された事実に基づき、さらに鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。
【0012】
本発明の酸化セリウム系研磨材の製造方法は、酸化セリウム系研磨材と水とを用いて非晶質固体を研磨した際に得られる、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を含む懸濁液を遠心分離する。これにより、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を含む分離堆積物を得る。その後、非晶質固体の溶解剤と分離堆積物とを水中で混合する。これにより、酸化セリウム系研磨材の表面に付着した非晶質固体を溶解させる。
【0013】
なお、本発明において、酸化セリウム系研磨材とは、酸化セリウムを主成分とする研磨材をいう。酸化セリウム系研磨材には、酸化セリウム以外の無機成分や界面活性剤などが含まれていてもよい。
【0014】
本発明の酸化セリウム系研磨材の製造方法においては、非晶質固体の溶解剤としてアルカリ成分を用いてもよい。アルカリ成分としては、アルカリ金属の水酸化物及びアルカリ金属の炭酸塩の少なくとも一方を用いることができる。
【0015】
本発明の酸化セリウム系研磨材の製造方法において、非晶質固体は、アモルファスシリコンまたは酸化ケイ素を含むガラスであってもよい。酸化ケイ素を含むガラスは、硼珪酸塩系ガラスまたは珪酸塩系ガラスであってもよい。
【0016】
なお、本発明において、ガラスには、結晶化ガラスが含まれるものとする。
【0017】
本発明の酸化セリウム系研磨材の製造方法では、溶解工程において、アルカリ成分をアルカリ水溶液としたときのOHの量と、分離堆積物に含まれるSiの量との比(OHの量(モル部)/Siの量(モル部))が15〜200となるようにアルカリ成分と分離堆積物とを混合することが好ましい。
【0018】
本発明の酸化セリウム系研磨材の製造方法において、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材におけるSiの含有量は、SiO換算で0.3質量%以上であってもよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ガラスなどの非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材から、酸化セリウム系研磨材を好適に製造できる。特に、本発明によれば、アルカリ成分などの非晶質固体の溶解剤の使用量を抑えられるため、従来の方法に比して、労力が小さく、環境への負荷も小さい、酸化セリウム系研磨材の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示である。本発明は、以下の実施形態に何ら限定されない。
【0021】
(分離堆積物を得る工程)
まず、無機非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を含む懸濁液を用意する。この懸濁液は、酸化セリウム系研磨材と水とを用いて非晶質固体を研磨した際に得られるものである。より具体的には、懸濁液は、非晶質固体の研磨に使用され、研磨能力が低下して使用済みとなった酸化セリウム系研磨材の懸濁液であってもよい。
【0022】
非晶質固体を研磨する際に使用される酸化セリウム系研磨材は、公知の酸化セリウム系研磨材であってよい。酸化セリウム系研磨材は、市販品が容易に入手可能である。
【0023】
酸化セリウム系研磨材のメディアン径(D50)は、通常0.3μm〜5μm程度である。
【0024】
酸化セリウム系研磨材によって研磨される非晶質固体としては、例えばアモルファスシリコン、酸化ケイ素を含むガラスなどのケイ素を含有するもの等が挙げられる。酸化ケイ素を含むガラスとしては、例えば硼珪酸塩系ガラス、珪酸塩系ガラス(ソーダ石灰ガラスを含む)などが挙げられる。
【0025】
酸化セリウム系研磨材は、非晶質固体の表面に接触した際に、非晶質固体と化学反応する。このとき、非晶質固体片が酸化セリウム系研磨材の表面に付着する。これにより、非晶質固体の研磨が進行すると考えられている。従って、使用済みの酸化セリウム系研磨材には、研磨した非晶質固体から発生した非晶質固体片が付着している。すなわち、本実施形態において、酸化セリウム系研磨材の表面に付着した非晶質固体は、アモルファスシリコン、酸化ケイ素を含むガラスなどの非晶質固体である。
【0026】
例えばケイ素(Si)を含む非晶質固体の研磨を行った場合、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材におけるSiの含有量は、SiO換算で通常0.3質量%以上となる。非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材におけるSiの含有量は、SiO換算で0.3質量%〜7.0質量%程度であってもよい。
【0027】
次に、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を含む懸濁液を遠心分離して、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を含む分離堆積物を得る。
【0028】
酸化セリウムの比重は、7.2程度である。一方、アモルファスシリコンや酸化ケイ素を含むガラスなどの非晶質固体の比重は、通常2.0〜3.0程度である。よって、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を含む懸濁液を遠心分離することで、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を分離堆積物とし、懸濁液中に分散している非晶質固体を上澄み液中に存在させることができる。
【0029】
なお、懸濁液の遠心分離の条件は、懸濁液中に分散している非晶質固体の比重等に応じて適宜設定することができる。懸濁液の遠心分離は、例えば、500G〜20000G程度の加速度で行うことができる。
【0030】
分離堆積物を得る工程における堆積物の回収率は、通常80%以上である。堆積物の回収率は、90%以上であることが好ましい。但し、堆積物の回収率をあまりに高めようとすると、懸濁液中に分散した非晶質固体が遠心分離によって堆積する量が増える。すなわち、堆積物中に含まれる非晶質固体の量が多くなってしまう。よって、堆積物の回収率は、99%以下とすることが好ましい。
【0031】
(溶解工程)
次に、分離堆積物を得る工程で得られた堆積物と、非晶質固体の溶解剤とを水中で混合する。これにより、酸化セリウム系研磨材の表面に付着した非晶質固体を水中に溶解させる。この溶解工程において、酸化セリウム系研磨材の表面に付着した非晶質固体を水中に溶解させることにより、表面に非晶質固体が付着していない酸化セリウム系研磨剤の水懸濁液が得られる。
【0032】
非晶質固体の溶解剤としては、例えばアルカリ成分などを用いることができる。
【0033】
アルカリ成分としては、例えばアルカリ金属の水酸化物及びアルカリ金属の炭酸塩の少なくとも一方を用いることができる。アルカリ金属の水酸化物の中でも、水酸化ナトリウムや水酸化カリウムがより好ましく用いられる。また、アルカリ金属の炭酸塩の中でも、炭酸ナトリウムや炭酸カリウムがより好ましく用いられる。アルカリ成分は、水と混合してアルカリ水溶液として用いればよい。
【0034】
溶解剤としてアルカリ成分を使用する場合、アルカリ成分をアルカリ水溶液としたときのOHの量と、分離堆積物に含まれるSiの量との比(OHの量(モル部)/Siの量(モル部))が、15〜200となるようにアルカリ成分と分離堆積物とを混合することが好まく、20〜150となるようにアルカリ成分と分離堆積物とを混合することがより好ましい。すなわち、アルカリ成分をアルカリ水溶液としたときのOHの量が、分離堆積物に含まれるSiの量の15倍〜200倍程度となるようにアルカリ成分と分離堆積物とを混合することが好ましく、20倍〜150倍程度となるようにアルカリ成分と分離堆積物とを混合することがより好ましい。OHの量とSiの量との比(OHの量(モル部)/Siの量(モル部))が小さすぎると、酸化セリウム系研磨材の表面に付着した非晶質固体の溶解が不十分となる場合がある。一方、OHの量とSiの量との比(OHの量(モル部)/Siの量(モル部))が大きすぎると、溶解剤の量が過剰となり、後処理の労力が増え、環境への負荷も大きくなる場合がある。
【0035】
溶解工程の条件は、酸化セリウム系研磨剤に付着している非晶質固体の種類や、溶解剤の種類等に応じて適宜設定することができる。溶解工程は、例えば、40℃〜70℃程度で行うことができる。溶解剤としてアルカリ成分を使用する場合、溶解工程において、アルカリ成分をアルカリ水溶液としたときのpHは、例えば11〜13程度とすることができる。
【0036】
溶解工程では、非晶質固体の溶解剤と酸化セリウム系研磨材の表面に付着した非晶質固体とを十分に接触させることが重要である。従って、溶解工程において、溶解剤と分離堆積物との混合は、撹拌棒や撹拌羽などにより撹拌して行うことが好ましい。溶解剤と分離堆積物との混合時間は、例えば、1時間〜10時間程度とすることができる。
【0037】
(分離工程)
次に、溶解工程で得られた水懸濁液から、固体として存在する酸化セリウム系研磨材と、溶解剤により溶解した非晶質固体や溶解剤などの水溶液とを分離する。分離する方法は、特に限定されない。分離する方法は、例えば濾過や遠心分離により行うことができる。
【0038】
ところで、従来のように、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨剤を含む懸濁液に遠心分離を行うことなく溶解剤を加えた場合は、酸化セリウム系研磨剤の表面に付着している非晶質固体の溶解にのみならず、酸化セリウム系研磨剤に付着しておらず、懸濁液中に独立して分散している非晶質固体の溶解にも溶解剤が消費される。このため、酸化セリウム系研磨剤の表面に付着した非晶質固体を溶解させるためには、酸化セリウム系研磨剤の表面に付着している非晶質固体の量と、懸濁液中に独立して分散している非晶質固体の量との総和に対応した量の溶解剤を投入する必要がある。よって、多量の溶解剤を投入する必要がある。
【0039】
それに対して本実施形態では、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を含む懸濁液に非晶質固体の溶解剤を加える前に、懸濁液を遠心分離する。このため、非晶質固体の溶解工程に先立って、懸濁液中に独立して分散していた非晶質固体の大部分が、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨剤から分離される。本実施形態では、その後に、溶解剤による非晶質固体の溶解を行う。このため、酸化セリウム系研磨剤の表面に付着した非晶質固体のみの量に対応した量の溶解剤を投入すれば足りる。よって、溶解剤の使用量を少なくすることができる。
【0040】
より詳細には、本発明者らが鋭意研究した結果、懸濁液中に含まれる非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材の量は、通常0.5質量%〜40質量%程度である。また、懸濁液を乾燥して得られる固形分中に占める非晶質固体の量は、通常5〜10質量%程度であるが、懸濁液から遠心分離により分離した後の分離堆積物における非晶質固体の量(酸化セリウム研磨材の表面に付着した非晶質固体の量)は、1質量%以下であることが判った。すなわち、懸濁液に含まれる非晶質固体の、実に80質量%〜95質量%が懸濁液中に独立して分散している。懸濁液に含まれる非晶質固体の大部分を占める、独立して分散した非晶質固体の大部分を遠心分離により予め除去しておくことにより、溶解対象となる非晶質固体の量を、80質量%以上低減することができる。従って、溶解剤の使用量を、80%以上少なくすることができる。
【0041】
以下、本発明について、具体的な実験例に基づいて、さらに詳細に説明する。本発明は、以下の実験例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0042】
(実験例1)
メディアン径(D50)が2.48μmであり、酸化セリウム(CeO)の含有量が96.7質量%であり、酸化ケイ素(SiO)の含有量が0.01質量%である酸化セリウム系研磨材を水と混合し、酸化セリウム系研磨材を20質量%で含む酸化セリウム系研磨材懸濁液5kgを用意した。
【0043】
酸化セリウム系研磨材懸濁液を適宜供給しながら、12枚のガラス板(ホウ珪酸ガラス)の表面(鏡面)を60分間研磨した。その際に、研磨開始から60分までの間に研磨されたガラス板の厚みから、研磨開始から60分までの研磨速度の平均値を算出した。その結果、研磨開始から60分までの研磨速度の平均値は、0.17μm/分であった。研磨開始から60分までの間には、ガラス板の表面に傷及び汚れが発生したものはなかった。結果を下記表1に示す。なお、傷及び汚れの確認方法は、以下の通りである。
【0044】
(傷の確認方法)
ガラス板表面25cmに50万LUXの光を照射し、目視で表面観察して、傷の数を確認した。
【0045】
(汚れの確認方法)
ガラス板表面25cmに50万LUXの光を照射し、目視で表面観察して、汚れの数を確認した。
【0046】
(比較例1)
研磨時間を7万分間とした以外は、実験例1と同様にして12枚のガラス板の表面を研磨した。7万分間研磨後の研磨材について、実験例1と同様にして60分までの研磨速度の平均値を算出した。さらに、実験例1と同様にして、研磨後のガラス板12枚について、傷と汚れを確認した。結果を下記表1に示す。
【0047】
(参考例1)
研磨時間を7万分間とした以外は、実験例1と同様にして12枚のガラス板の表面を研磨した。研磨後に得られた懸濁液5kgを加速度800Gの条件で2分間遠心分離し、分離堆積物を0.8kg得た(回収率80%)。得られた分離堆積物を酸化セリウム系研磨材とし、実験例1と同様にして酸化セリウム系研磨材懸濁液を調製して、60分までの研磨速度の平均値を算出した。結果を下記表1に示す。なお、参考例1では、研磨速度が十分に高くなかったため、研磨後のガラス板表面の傷と汚れは確認しなかった。
【0048】
(実施例1)
研磨時間を7万分間とした以外は、実験例1と同様にして12枚のガラス板の表面を研磨した。次に、参考例1と同様にして、研磨後に得られた懸濁液44kgを遠心分離し、分離堆積物を7kg得た。得られた分離堆積物7kgに水酸化ナトリウム水溶液を47Lを加え、60℃に保温しながら撹拌棒で5時間撹拌した。なお、水酸化ナトリウム水溶液の量は、水酸化ナトリウム水溶液中のOHの量(モル部)が分離堆積物中に含まれるSiの量(モル部)の95倍となるように調整した。水酸化ナトリウム水溶液のpHは11.2であった。次に、得られた水懸濁液を遠心分離し、分離堆積物5kgを得た。
【0049】
得られた堆積物を酸化セリウム系研磨材とし、実験例1と同様にして酸化セリウム系研磨材懸濁液を調製して、60分までの研磨速度の平均値を算出した。さらに、実験例1と同様にして、研磨後のガラス板12枚について、傷と汚れを確認した。結果を下記表1に示す。
【0050】
(実施例2)
水酸化ナトリウム水溶液中のOHの量(モル部)が分離堆積物中に含まれるSiの量(モル部)の10倍となるように調整したこと以外は、実施例1と同様にして分離堆積物を得た。得られた分離堆積物を研磨材とし、実験例1と同様にして60分までの研磨速度の平均値を算出した。さらに、得られた分離堆積物を酸化セリウム系研磨材とし、実験例1と同様にして酸化セリウム系研磨材懸濁液を調製して、研磨後のガラス板12枚について、表面の傷と汚れを確認した。結果を下記表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
表1に示すように、分離堆積物を得る工程を有さない比較例1の研磨材、すなわち7万分間使用した使用済みの研磨材を含む懸濁液には、4.22質量%のSiOが含まれていた。一方、参考例1において、分離堆積物を得る工程を経て得られた懸濁液中には、0.53質量%しかSiOが含まれていなかった。すなわち、分離堆積物を得る工程で懸濁液を遠心分離することより、懸濁液中に分散している非晶質固体(SiO)が効率的に取り除かれていることが分かる。
【0053】
実施例1及び2の方法では、アルカリ成分による溶解工程をさらに行った。溶解工程を経て得られた懸濁液中に含まれるSiOの量は、さらに少なくなっている。これにより、実施例1及び2で得られた研磨材は、比較例1や参考例1で得られた研磨材に比して、高い研磨速度でガラスを研磨することが可能となっている。
【0054】
実施例1では、溶解工程において加えるアルカリ成分をアルカリ水溶液としたときのOHの量が、分離堆積物に含まれるSiの量の95倍であり、実施例2における10倍よりも高い値になっている。これにより、実施例1で得られた研磨材は、より傷と汚れが生じ難い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウム系研磨材と水とを用いて非晶質固体を研磨した際に得られる、非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を含む懸濁液を遠心分離し、前記非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材を含む分離堆積物を得る工程と、
非晶質固体の溶解剤と前記分離堆積物とを水中で混合することにより、前記酸化セリウム系研磨材の表面に付着した非晶質固体を溶解させる溶解工程と、
を備える、酸化セリウム系研磨材の製造方法。
【請求項2】
前記非晶質固体の溶解剤としてアルカリ成分を用いる、請求項1に記載の酸化セリウム系研磨材の製造方法。
【請求項3】
前記アルカリ成分として、アルカリ金属の水酸化物及びアルカリ金属の炭酸塩の少なくとも一方を用いる、請求項2に記載の酸化セリウム系研磨材の製造方法。
【請求項4】
前記非晶質固体は、アモルファスシリコンまたは酸化ケイ素を含むガラスである、請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸化セリウム系研磨材の製造方法。
【請求項5】
前記酸化ケイ素を含むガラスは、硼珪酸塩系ガラスまたは珪酸塩系ガラスである、請求項4に記載の酸化セリウム系研磨材の製造方法。
【請求項6】
前記溶解工程において、アルカリ成分をアルカリ水溶液としたときのOHの量と、前記分離堆積物に含まれるSiの量との比(OHの量(モル部)/Siの量(モル部))が15〜200となるように前記アルカリ成分と前記分離堆積物とを混合する、請求項4または5に記載の酸化セリウム系研磨材の製造方法。
【請求項7】
前記非晶質固体が表面に付着した酸化セリウム系研磨材におけるSiの含有量がSiO換算で0.3質量%以上である、請求項4〜6のいずれか一項に記載の酸化セリウム系研磨材の製造方法。


【公開番号】特開2012−245582(P2012−245582A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118654(P2011−118654)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】