説明

酸化セリウム薄膜および超電導線材

【課題】高い臨界電流密度を有する超電導薄膜を形成するための下地として用いられる酸化セリウム薄膜およびそれを含む超電導線材を提供する。
【解決手段】超電導薄膜を形成するための下地として用いられる酸化セリウム薄膜であって、酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合が60%以上であり、酸化セリウム薄膜の主面は面内四回対称性を有し、酸化セリウム薄膜の主面の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅が10°以下であり、酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRaが20nm以下であって、酸化セリウム薄膜の膜厚が400nm以上である酸化セリウム薄膜とその酸化セリウム薄膜を含む超電導線材である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化セリウム薄膜および超電導線材に関し、特に、高い臨界電流密度を有する超電導薄膜を形成するための下地に適した酸化セリウム薄膜およびそれを含む超電導線材に関する。
【背景技術】
【0002】
高温超電導体の発見以来、ケーブル、限流器またはマグネットなどの電力機器への応用を目指した超電導線材の開発が世界中の研究機関で精力的に行なわれている。
【0003】
従来の超電導線材としては、金属基板の主面上に直接、超電導薄膜を形成した超電導線材や、金属基板の主面上に酸化セリウム薄膜などの中間層を下地として形成した後に超電導薄膜を形成した超電導線材などが知られている。
【0004】
たとえば、非特許文献1には、電子ビーム蒸着法により、金属基板の主面上に酸化セリウム薄膜を形成する方法が開示されている。
【非特許文献1】Luigia Gianni et al., “Long YBCO coated conductors by thermal co-evaporation”, CCA 2004, International Workshop on Coated Conductors for Applications, in Japan, Kanagawa, 2004 Nov.19-20
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1には、優れた超電導特性を有する超電導線材を作製するためにはどのような酸化セリウム薄膜を作製すればよいか十分に記載されていないため、酸化セリウム薄膜と超電導特性との関連が不明であった。
【0006】
本発明の目的は、高い臨界電流密度を有する超電導薄膜を形成するための下地として用いられる酸化セリウム薄膜およびそれを含む超電導線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、超電導薄膜を形成するための下地として用いられる酸化セリウム薄膜であって、酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合が60%以上であり、酸化セリウム薄膜の主面は面内四回対称性を有し、酸化セリウム薄膜の主面の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅が10°以下であり、酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRaが20nm以下であって、酸化セリウム薄膜の膜厚が400nm以上である酸化セリウム薄膜である。
【0008】
ここで、本発明の酸化セリウム薄膜は、(100)面の配向割合が90%以上であり、(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅が9°以下であって、算術平均粗さRaが30nm以下である金属基板の主面上に形成されることが好ましい。
【0009】
また、本発明の酸化セリウム薄膜は、電子ビーム蒸着法またはRFスパッタ法により形成することができる。
【0010】
また、本発明の酸化セリウム薄膜は、多層成膜法により形成することができる。
さらに、本発明は、上記のいずれかの酸化セリウム薄膜を含む超電導線材である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い臨界電流密度を有する超電導薄膜を形成するための下地として用いられる酸化セリウム薄膜およびそれを含む超電導線材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明者は、超電導薄膜を形成するための下地として用いられる酸化セリウム薄膜について鋭意検討した結果、以下の(i)〜(v)の要件を満たす酸化セリウム薄膜を超電導薄膜を形成するための下地として用いた場合に、超電導線材が高い臨界電流密度を有することを見い出し、本発明を完成するに至った。
(i)酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合が60%以上であること。
(ii)酸化セリウム薄膜の主面が面内四回対称性を有すること。
(iii)酸化セリウム薄膜の主面の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅が10°以下であること。
(iv)酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が20nm以下であること。
(v)酸化セリウム薄膜の膜厚が400nm以上であること。
【0013】
なお、本発明において、「酸化セリウム薄膜の主面」とは、超電導薄膜が形成される側の酸化セリウム薄膜の表面のことをいう。
【0014】
また、本発明において、酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合(以下、「CeO2(100)面の配向割合」という。)は、X線回折法(θ−2θ法)において、酸化セリウム薄膜の主面の(200)面のX線回折ピーク値(以下、「CeO2(200)面のX線回折ピーク値」という。)と(111)面のX線回折ピーク値(以下、「CeO2(111)面のX線回折ピーク値」という。)とを用いて、下記の式(1)により算出される。
CeO2(100)面の配向割合(%)=100×CeO2(200)面のX線回折ピーク値/{CeO2(200)面のX線回折ピーク値+CeO2(111)面のX線回折ピーク値} …(1)
なお、X線回折法(θ−2θ法)とは、従来から公知のX線回折法であって、酸化セリウム薄膜の主面に対して入射角θでX線を入射し、その回折角2θに対応する箇所で検出器により回折X線の強度を検出する方法である。ここで、X線回折法(θ−2θ法)においては、入射角θを順次変化させて(入射角θの変化に伴い回折角2θも変化する)回折X線の強度が検出される。
【0015】
なお、本発明において、酸化セリウム薄膜の主面の(111)面のX線回折ピークは、X線回折法(θ−2θ法)により得られたX線回折パターンにおいて回折角2θが28.6°±0.4°の範囲に出現する。
【0016】
また、本発明において、酸化セリウム薄膜の主面の(200)面のX線回折ピークは、X線回折法(θ−2θ法)により得られたX線回折パターンにおいて回折角2θが33.1°±0.3°の範囲に出現する。
【0017】
また、本発明において、「酸化セリウム薄膜の主面が面内四回対称性を有する」とは、酸化セリウム薄膜の主面に対する垂線を軸として酸化セリウム薄膜の主面を360°回転させたときに、酸化セリウム薄膜の主面の原子配列において同一の原子配列が四回出現することを意味する。
【0018】
また、本発明において、「酸化セリウム薄膜の主面の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅」は、酸化セリウム薄膜の主面の(111)面のφスキャンの半値幅から求めることができる。酸化セリウム薄膜の主面の(111)面のφスキャンの半値幅はたとえば図2に示す構成の装置を用いて以下のようにして求めることができる。
【0019】
まず、図2に示す酸化セリウム薄膜からなる試料1の主面の(111)面が図2の紙面の表側を向くように設置する。そして、試料1の(111)面の面内で直交する仮想軸をそれぞれA軸とC軸とし、試料1の(111)面の法線方向の仮想軸をB軸とする。なお、図2に示す装置は、入射X線7の入射角θ1と反射X線8の反射角θ2とが等しい等角度反射の光学系である。
【0020】
次に、上記のB軸が入射X線7と反射X線8とで決定される平面上にあるときの試料1の(111)面の傾きをα=90°とし、試料1の(111)面の傾きがα=35°となるように試料1の(111)面をA軸を回転軸として回転させる。
【0021】
そして、試料1の(111)面の傾きがα=35°である状態でA軸を固定した後に、B軸を回転軸として試料1の(111)面を回転させながらF点から入射X線7を発散スリット2を通して縦制限スリット3の間の試料1の(111)面に照射し、そこで反射した反射X線8の強度を受光スリット4および散乱スリット5を通してカウンタ6で検出する。
【0022】
これにより、酸化セリウム薄膜からなる試料1の(111)面の傾きがα=35°であるときのX線回折ピークが得られ、そのX線回折ピークの半値幅(φスキャンの半値幅)を求める。
【0023】
この酸化セリウム薄膜からなる試料1の(111)面の傾きがα=35°であるときのX線回折ピークの半値幅(φスキャンの半値幅)が酸化セリウム薄膜からなる試料1の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅に相当する。
【0024】
本発明の酸化セリウム薄膜は、たとえば、電子ビーム蒸着法またはRF(Radio Frequency)スパッタ法により形成することができる。また、本発明の酸化セリウム薄膜は、たとえば、多層成膜法により形成することもできる。ここで、酸化セリウム薄膜は、たとえば、一対のリールの一方のリールに巻き取られた金属基板が他方のリールに巻き取られるまでの間に形成されるが、所定の膜厚の酸化セリウム薄膜を1箇所で形成するのではなく、複数の箇所で分けて形成する方法が多層成膜法である。この多層成膜法によれば、所定の膜厚の酸化セリウム薄膜を1回で形成するよりも効率的に形成することができるため、金属基板の長尺化に有効である。また、多層成膜法においては、酸化セリウム薄膜の形成箇所ごとに酸化セリウム薄膜の形成条件の変更も可能となる。
【0025】
また、本発明者は、上記の本発明の酸化セリウム薄膜を、以下の(a)〜(c)の要件を満たす金属基板の主面上に形成することが好ましいことも見い出した。
(a)金属基板の主面における(100)面の配向割合が90%以上であること。
(b)金属基板の主面における(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅が9°以下であること。
(c)金属基板の主面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が30nm以下であること。
【0026】
すなわち、金属基板は、酸化セリウム薄膜の下地となるため、金属基板の主面の(100)面の配向割合が90%以上であって、金属基板の主面における(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅が9°以下である場合には、その主面上に形成される酸化セリウム薄膜が上記の(i)および(iii)の要件を満たしやすくなる。また、金属基板の主面の算術平均粗さRaが30nm以下である場合には、その主面上に形成される酸化セリウム薄膜が上記の(iv)の要件を満たしやすくなる。
【0027】
なお、金属基板としては、たとえば、ニッケル合金等を用いることができる。
また、本発明において、「金属基板の主面」とは、本発明の酸化セリウム薄膜が形成される側の金属基板の表面のことをいう。
【0028】
また、本発明において、金属基板の主面の(100)面の配向割合(以下、「金属基板(100)面の配向割合」という。)は、X線回折法(θ−2θ法)において、金属基板の主面の(200)面のX線回折ピーク値(以下、「金属基板(200)面のX線回折ピーク値」という。)と(111)面のX線回折ピーク値(以下、「金属基板(111)面のX線回折ピーク値」という。)とを用いて、下記の式(2)により算出される。
金属基板(100)面の配向割合(%)=100×金属基板(200)面のX線回折ピーク値/{金属基板(200)面のX線回折ピーク値+金属基板(111)面のX線回折ピーク値} …(2)
なお、本発明において、金属基板の(111)面および(200)面のX線回折ピークの出現位置は、金属基板の材質によってそれぞれ変わり得るが、たとえば金属基板がニッケル合金からなる場合には、金属基板の(111)面のX線回折ピークは、X線回折法(θ−2θ法)により得られたX線回折パターンにおいて回折角2θが44.2°±0.3°の範囲に出現し、金属基板の(200)面のX線回折ピークは、X線回折法(θ−2θ法)により得られたX線回折パターンにおいて回折角2θが51.5°±0.3°の範囲に出現する。
【0029】
また、本発明において、「金属基板の主面の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅」は、金属基板の主面の(111)面のφスキャンの半値幅から求めることができる。金属基板の主面の(111)面のφスキャンの半値幅はたとえば図2に示す構成のX線回折装置を用いて以下のようにして求めることができる。
【0030】
まず、図2に示す金属基板からなる試料1の主面の(111)面が図2の紙面の表側を向くように設置する。そして、試料1の(111)面の面内で直交する仮想軸をそれぞれA軸とC軸とし、試料1の(111)面の法線方向の仮想軸をB軸とする。なお、図2に示す装置は、入射X線7の入射角θ1と反射X線8の反射角θ2とが等しい等角度反射の光学系である。
【0031】
次に、上記のB軸が入射X線7と反射X線8とで決定される平面上にあるときの試料1の(111)面の傾きをα=90°とし、試料1の(111)面の傾きがα=35°となるように試料1の(111)面をA軸を回転軸として回転させる。
【0032】
そして、試料1の(111)面の傾きをα=35°とした状態でA軸を固定した後に、B軸を回転軸として試料1の(111)面を回転させながらF点から入射X線7を発散スリット2を通して縦制限スリット3の間の試料1の(111)面に照射し、そこで反射した反射X線8の強度を受光スリット4および散乱スリット5を通してカウンタ6で検出する。
【0033】
これにより、金属基板からなる試料1の(111)面の傾きがα=35°であるときのX線回折ピークが得られ、そのX線回折ピークの半値幅(φスキャンの半値幅)を求める。
【0034】
この金属基板からなる試料1の(111)面の傾きがα=35°であるときのX線回折ピークの半値幅(φスキャンの半値幅)が金属基板からなる試料1の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅に相当する。
【0035】
また、本発明の酸化セリウム薄膜の主面上に超電導薄膜を形成することにより、超電導線材を作製することができる。本発明の超電導線材は、本発明の酸化セリウム薄膜を含むものであればその構成は特に限定されないが、たとえば、上記の金属基板の主面上に上記の本発明の酸化セリウム薄膜を形成し、さらにその本発明の酸化セリウム薄膜の主面上に超電導薄膜を形成した構成とすることができる。なお、本発明の超電導線材においては、超電導薄膜の表面上にたとえば銀などの金属膜を形成してもよい。また、本発明の超電導線材において、超電導薄膜としては、たとえばRE−123超電導体などを用いることができる。RE−123超電導体とは、REBa2Cu3x(xは6〜7であり、REは、ホルミウム、ガドリニウム若しくはサマリウムなどの希土類元素またはイットリウムを示す)の式で表わされる超電導体である。
【実施例】
【0036】
(実験例1)
まず、テープ状の金属基板を複数用意し、それぞれの金属基板の主面上に電子ビーム蒸着法により酸化セリウム薄膜を形成した。ここで、酸化セリウム薄膜は、各金属基板の主面上に酸化セリウム薄膜の膜厚および酸化セリウム薄膜の形成時の金属基板の温度をそれぞれ変化させて形成した。
【0037】
続いて、上記のようにして形成したそれぞれの酸化セリウム薄膜の主面上にレーザ蒸着法によりHoBa2Cu3x(Hoはホルミウムを示し、xは6〜7である)の式で表わされる超電導体からなる超電導薄膜を0.3μmの膜厚で形成して超電導線材を得た。ここで、超電導薄膜は、それぞれの酸化セリウム薄膜の主面上にすべて同一の方法および同一の条件で形成された。
【0038】
上記のようにして得られたそれぞれの超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcを求めた。その結果を図1に示す。
【0039】
なお、図1において、横軸は酸化セリウム薄膜の形成時の金属基板の温度(℃)を示し、横軸は超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jc(MA/cm2)を示す。また、図1において、黒塗りの正方形は酸化セリウム薄膜の膜厚が200nmである場合を示し、黒塗りの菱形は酸化セリウム薄膜の膜厚が400nmである場合を示し、黒塗りの三角形は酸化セリウム薄膜の膜厚が600nmである場合を示し、黒塗りの丸は酸化セリウム薄膜の膜厚が800nmである場合を示している。
【0040】
図1に示すように、酸化セリウム薄膜の膜厚が400nm以上である場合には超電導線材の臨界電流密度が大きくなる傾向にあることが確認された。
【0041】
(実験例2)
金属基板の主面上に形成する酸化セリウム薄膜の膜厚を400nm以上600nm以下の範囲として、酸化セリウム薄膜の特性をそれぞれ変化させてNo.1〜No.7の超電導線材をそれぞれ作製し、酸化セリウム薄膜の特性と超電導線材の臨界電流密度との関係を調査した。以下、詳細に説明する。
【0042】
<試料No.1>
まず、ニッケル合金からなるテープ状の金属基板を用意し、その主面における(100)面の配向割合を求めたところ90%以上であることが確認された。ここで、金属基板の主面の(100)面の配向割合は、金属基板の主面についてX線回折法(θ−2θ法)を用いてX線回折パターンを得て、そのX線回折パターンから上記の式(2)を用いて算出した。なお、金属基板の主面の(200)面に対応するX線回折ピークは回折角2θが51.52°の近傍に現れた。また、X線回折装置は株式会社リガク製のものを用い、X線の種類としてはCu−kα線を用いた。
【0043】
また、この金属基板の主面の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅を求めたところ9°以下であった。さらに、この金属基板の主面の(100)面の算術平均粗さRaをJIS B0601:2001の規定に基づいて算出したところ30nm以下であった。
【0044】
次に、上記の金属基板の主面上に酸化セリウム薄膜を電子ビーム蒸着法により600nmの厚さに形成した。ここで、電子ビーム蒸着法による酸化セリウム薄膜の形成条件は下記のものとされた。
金属基板の温度:800℃
雰囲気:水素ガスを3体積%含有したアルゴンガス雰囲気
真空度:5×10-2Pa
成膜速度:30nm/min
上記のようにして得られた酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合を求めたところ98%であることが確認された。ここで、酸化セリウム薄膜の主面の(100)面の配向割合は、酸化セリウム薄膜の主面についてX線回折法(θ−2θ法)を用いてX線回折パターンを得て、そのX線回折パターンから上記の式(1)を用いて算出した。なお、酸化セリウム薄膜の主面の(200)面に対応するX線回折ピークは回折角2θが33.10°の近傍に現れた。また、X線回折装置は上記の金属基板の主面の測定のときと同一のものを用いた。
【0045】
また、上記のようにして形成された酸化セリウム薄膜の主面の面内四回対称性についても確認したところ、この酸化セリウム薄膜の主面は面内四回対称性を有することが確認された。
【0046】
また、この酸化セリウム薄膜の主面の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅を上述した方法で求めたところ4.9°であった。さらに、この金属基板の主面の(100)面の算術平均粗さRaをJIS B0601:2001の規定に基づいて算出したところ9.7nmであった。
【0047】
続いて、上記のようにして形成された酸化セリウム薄膜の主面上にレーザ蒸着法によりHoBa2Cu3x(Hoはホルミウムを示し、xは6〜7である)の式で表わされる超電導体からなる超電導体薄膜を0.3μmの膜厚で形成して試料No.1の超電導線材を得た。
【0048】
このようにして得られた試料No.1の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcを測定した。その結果を表1に示す。
【0049】
表1に示すように、試料No.1の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcは1.5(MA/cm2)であった。
【0050】
<試料No.2>
試料No.1の超電導線材の作製に用いられた金属基板と同一の材質、大きさおよび同一の特性(金属基板の主面における(100)面の配向割合、金属基板の主面における(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅および金属基板の主面の算術平均粗さRa)を有する金属基板を用意した。
【0051】
そして、この金属基板の主面上に酸化セリウム薄膜をRFスパッタ法により400nmの膜厚で形成した。ここで、RFスパッタ法による酸化セリウム薄膜の形成条件は下記のものとされた。
金属基板の温度:750℃
雰囲気:水素ガスを3体積%含有したアルゴンガス雰囲気
真空度:1.3Pa
RF出力:2kW
成膜速度:60nm/min
ここで、酸化セリウム薄膜の特性(酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合、酸化セリウム薄膜の主面の面内四回対称性、酸化セリウム薄膜の主面における(100)面に対応するX線回折ピーク半値幅および酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRa)を試料No.1のときと同一の方法で評価したところ、以下の結果となった。
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合:99%
酸化セリウム薄膜の主面の面内四回対称性:有
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅:9.5°
酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRa:13.5nm
その後、試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で、酸化セリウム薄膜の主面上にHoBa2Cu3x(Hoはホルミウムを示し、xは6〜7である)の式で表わされる超電導体からなる超電導薄膜を0.3μmの膜厚で形成して、試料No.2の超電導線材を得た。
【0052】
このようにして得られた試料No.2の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcを試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で求めた。その結果を表1に示す。
【0053】
表1に示すように、試料No.2の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcは1.0(MA/cm2)であった。
【0054】
<試料No.3>
試料No.2のときと形成条件を変更して金属基板の主面上に酸化セリウム薄膜をRFスパッタ法により形成した。
【0055】
ここで、酸化セリウム薄膜の特性を試料No.1のときと同一の方法で評価したところ、以下の結果となった。
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合:88%
酸化セリウム薄膜の主面の面内四回対称性:有
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅:8.3°
酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRa:26.4nm
その後、試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で、酸化セリウム薄膜の主面上にHoBa2Cu3x(Hoはホルミウムを示し、xは6〜7である)の式で表わされる超電導体からなる超電導薄膜を0.3μmの膜厚で形成して、試料No.3の超電導線材を得た。
【0056】
このようにして得られた試料No.3の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcを試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で求めた。その結果を表1に示す。
【0057】
表1に示すように、試料No.3の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcは0.1(MA/cm2)であった。
【0058】
<試料No.4>
試料No.2のときと形成条件を変更して金属基板の主面上に酸化セリウム薄膜をRFスパッタ法により形成した。
【0059】
ここで、酸化セリウム薄膜の特性を試料No.1のときと同一の方法で評価したところ、以下の結果となった。
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合:90%
酸化セリウム薄膜の主面の面内四回対称性:有
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅:8.0°
酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRa:17.1nm
その後、試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で、酸化セリウム薄膜の主面上にHoBa2Cu3x(Hoはホルミウムを示し、xは6〜7である)の式で表わされる超電導体からなる超電導薄膜を0.3μmの膜厚で形成して、試料No.4の超電導線材を得た。
【0060】
このようにして得られた試料No.4の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcを試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で求めた。その結果を表1に示す。
【0061】
表1に示すように、試料No.4の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcは0.8(MA/cm2)であった。
【0062】
<試料No.5>
試料No.2のときと形成条件を変更して金属基板の主面上に酸化セリウム薄膜をRFスパッタ法により形成した。
【0063】
ここで、酸化セリウム薄膜の特性を試料No.1のときと同一の方法で評価したところ、以下の結果となった。
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合:64%
酸化セリウム薄膜の主面の面内四回対称性:有
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅:6.3°
酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRa:11.6nm
その後、試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で、酸化セリウム薄膜の主面上にHoBa2Cu3x(Hoはホルミウムを示し、xは6〜7である)の式で表わされる超電導体からなる超電導薄膜を0.3μmの膜厚で形成して、試料No.5の超電導線材を得た。
【0064】
このようにして得られた試料No.5の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcを試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で求めた。その結果を表1に示す。
【0065】
表1に示すように、試料No.5の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcは1.6(MA/cm2)であった。
【0066】
<試料No.6>
試料No.2のときと形成条件を変更して金属基板の主面上に酸化セリウム薄膜をRFスパッタ法により形成した。
【0067】
ここで、酸化セリウム薄膜の特性を試料No.1のときと同一の方法で評価したところ、以下の結果となった。
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合:24%
酸化セリウム薄膜の主面の面内四回対称性:有
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅:6.2°
酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRa:8.2nm
その後、試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で、酸化セリウム薄膜の主面上にHoBa2Cu3x(Hoはホルミウムを示し、xは6〜7である)の式で表わされる超電導体からなる超電導薄膜を0.3μmの膜厚で形成して、試料No.6の超電導線材を得た。
【0068】
このようにして得られた試料No.6の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcを試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で求めた。その結果を表1に示す。
【0069】
表1に示すように、試料No.6の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcは0.3(MA/cm2)であった。
【0070】
<試料No.7>
試料No.2のときと形成条件を変更して金属基板の主面上に酸化セリウム薄膜を600nmの膜厚で形成した。
【0071】
ここで、酸化セリウム薄膜の特性を試料No.1のときと同一の方法で評価したところ、以下の結果となった。
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合:92%
酸化セリウム薄膜の主面の面内四回対称性:有
酸化セリウム薄膜の主面における(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅:12.0°
酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRa:14.2nm
その後、試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で、酸化セリウム薄膜の主面上にHoBa2Cu3x(Hoはホルミウムを示し、xは6〜7である)の式で表わされる超電導体からなる超電導薄膜を0.3μmの膜厚で形成して、試料No.7の超電導線材を得た。
【0072】
このようにして得られた試料No.7の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcを試料No.1のときと同一の方法および同一の条件で求めた。その結果を表1に示す。
【0073】
表1に示すように、試料No.7の超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jcは0.2(MA/cm2)であった。
【0074】
【表1】

【0075】
表1に示すように、(i)酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合が60%以上であり、(ii)酸化セリウム薄膜の主面が面内四回対称性を有し、(iii)酸化セリウム薄膜の主面の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅が10°以下であり、(iv)酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRa(JIS B0601:2001)が20nm以下であって、(v)酸化セリウム薄膜の膜厚が400nm以上である試料No.1〜2および試料No.4〜5の超電導線材は、上記の(i)〜(v)のいずれか1つを満たさない試料No.3および試料No.6〜7の超電導線材と比べて、温度77Kにおける臨界電流密度Jcが高いことが確認された。
【0076】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明によれば、高い臨界電流密度を有する超電導薄膜を形成するための下地として用いられる酸化セリウム薄膜およびそれを含む超電導線材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】酸化セリウム薄膜の形成時の金属基板の温度(℃)と超電導線材の温度77Kにおける臨界電流密度Jc(MA/cm2)との関係を示す図である。
【図2】本発明において、酸化セリウム薄膜の主面の(111)面のφスキャンの半値幅および金属基板の主面の(111)面のφスキャンの半値幅を測定するX線回折装置の一例の模式的な構成図である。
【符号の説明】
【0079】
1 試料、2 発散スリット、3 縦制限スリット、4 受光スリット、5 散乱スリット、6 カウンタ、7 入射X線、8 反射X線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導薄膜を形成するための下地として用いられる酸化セリウム薄膜であって、
前記酸化セリウム薄膜の主面における(100)面の配向割合が60%以上であり、
前記酸化セリウム薄膜の主面は面内四回対称性を有し、
前記酸化セリウム薄膜の主面の(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅が10°以下であり、
前記酸化セリウム薄膜の主面の算術平均粗さRaが20nm以下であって、
前記酸化セリウム薄膜の膜厚が400nm以上であることを特徴とする、酸化セリウム薄膜。
【請求項2】
前記酸化セリウム薄膜は、(100)面の配向割合が90%以上であり、(100)面に対応するX線回折ピークの半値幅が9°以下であって、算術平均粗さRaが30nm以下である金属基板の主面上に形成されることを特徴とする、請求項1に記載の酸化セリウム薄膜。
【請求項3】
前記酸化セリウム薄膜は、電子ビーム蒸着法またはRFスパッタ法により形成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の酸化セリウム薄膜。
【請求項4】
前記酸化セリウム薄膜は、多層成膜法により形成されることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の酸化セリウム薄膜。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の酸化セリウム薄膜を含む、超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−190934(P2009−190934A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−33464(P2008−33464)
【出願日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成17年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基板技術研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】