説明

酸化チタン粒子の作製方法

【課題】可視光から近赤外光の光散乱能に優れた、新規な酸化チタン粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】チタンアルコキシドの加水分解生成物又はチタン金属塩の加水分解生成物及び有機アルカリ類を所定の溶媒中で混合し、反応溶液を作製する。次いで、前記反応溶液を密閉容器中で加熱し、放射状に伸びた複数の延在部を有するとともに、前記延在部は長さ方向における略中心部において稜を有し、全体として星形を呈する酸化チタン粒子を作製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化チタン粒子の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンは高い屈折率と白色隠蔽性を有し、さらに紫外線吸収能力を有するので、塗料、化粧品及び自動車や窓ガラス用可視光透過紫外光カットフィルム、さらには光触媒性を利用した大気中浄化装置、光伝導性を利用した色素増感太陽電池の半導体電極、液晶のバックライト等に使用される白色反射板など多方面に使用されている。
【0003】
これらの用途の内、隠蔽性が重要な塗料や適度の光散乱性を必要とする色素増感太陽電池の半導体電極における散乱粒子用途では、酸化チタンの粒径は可視光(波長380〜700nm)および近赤外(700〜1100nm)の約半分程度が好適とされる。これはMieの光散乱理論で説明されるように波長の約半分の粒径が散乱能が強いためである。したがって、可視光および近赤外領域の光を単分散状態の酸化チタン粒子で散乱させるためには150nmから600nm程度の粒径が必要である。
【0004】
しかしながら、前述した粒径範囲の酸化チタン粒子を作製する技術は今だ十分確立されておらず、また、粒径に対する従属性を排除した高散乱性の酸化チタン粒子の確立が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭63−229139号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、可視光から近赤外光の光散乱能に優れた、新規な酸化チタン粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成すべく、本発明は、
放射状に伸びた複数の延在部を有するとともに、前記延在部は長さ方向における略中心部において稜を有し、全体として星形を呈することを特徴とする、酸化チタン粒子に関する。
【0008】
また、本発明は、
チタンアルコキシドの加水分解生成物又はチタン金属塩の加水分解生成物及び有機アルカリ類を所定の溶媒中で混合し、反応溶液を作製する工程と、
前記反応溶液を密閉容器中で加熱する工程とを具え、
放射状に伸びた複数の延在部を有するとともに、前記延在部は長さ方向における略中心部において稜を有し、全体として星形を呈する酸化チタン粒子を作製することを特徴とする、酸化チタン粒子の作製方法に関する。
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を実施した。その結果、上述した原料からなる反応溶液を準備し、これら原料を加熱反応させることによって、放射状に伸びた複数の延在部を有するとともに、前記延在部は長さ方向における略中心部において稜を有し、その結果、全体として星形を呈する酸化チタン粒子の作製に成功した。前記酸化チタン粒子は、その星形形状に依存して、粒径などに大きく依存することなく高い散乱効果を有する。したがって、可視光から近赤外光の光散乱能に優れる。
【0010】
なお、前記酸化チタン粒子は、以下に詳述する作製方法における作製条件を種々制御することによって、6つの延在部が放射状に伸びた構成とすることができる。この場合、前記光散乱能をさらに向上させることができる。また、その一次粒径を100nm〜1000nmの範囲にすることができ、その外観形状と粒径範囲とに依存して、可視光から近赤外の範囲において高い光散乱能を有するようになる。
【発明の効果】
【0011】
以上説明したように、本発明によれば、光散乱能に優れた、特に可視光から近赤外光の光散乱能に優れた、新規な酸化チタン粒子を提供することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の酸化チタン粒子の一例を示すSEM写真である。
【図2】本発明の酸化チタン粒子の一例を示すTEM写真である。
【図3】本発明の酸化チタン粒子の一例のX線回折プロファイルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の詳細、並びにその他の特徴及び利点について、最良の形態に基づいて詳細に説明する。
【0014】
本発明の酸化チタン粒子を作製するに際しては、最初に、チタンアルコキシドの加水分解生成物又はチタン金属塩の加水分解生成物及び有機アルカリ類を所定の溶媒中で混合し、反応溶液を作製する。
【0015】
前記チタンアルコキシドとしては、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラノルマルプロポキシチタン、テトラノルマルブトキシチタンを例示することができる。加水分解速度の制御性および入手容易性の観点からテトライソプロポキシチタン、テトラノルマルブトキシチタンが好適に使用でき、テトライソプロポキシチタンが特に好適である。また、前記チタン金属塩としては、四塩化チタン及び硫酸チタンを例示することができる。
【0016】
これらの加水分解生成物はメタチタン酸やオルトチタンと呼ばれる含水酸化チタンのケーキ状物質であるが、そのケーキ内部には加水分解の過程で生成されたアルコール類や塩酸、硫酸が含有されている。これらの物質は結晶成長の際に阻害物質となるため、純水を用いデカンテーション、ヌッチェ法、限外濾過法などの方法を用い洗浄することが好ましい。
【0017】
また、前記有機アルカリ類としては、アミン類、高分子アミンおよびその塩、並びにアンモニアを例示することができる。前記アミン類としては、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラエチルアンモニウムクロライド、テトラプロピルアンモニウムクロライド、テトラブチルアンモニウムクロライド、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン等が挙げられる。また前記高分子アミン及びその塩としては、前記アミン類からなる高分子アミンおよびその塩を例示することができる。なお、前記有機アルカリ類は、前記反応溶液に対してpH調整剤として働く。
【0018】
さらに、前記溶媒は、特に限定されないが、水が好ましい。
【0019】
前記反応溶液中のpHは9〜11であることが好ましく、さらにはpH9.5〜10.5であることが好ましい。これによって、本発明の酸化チタン粒子の好ましい態様である6つの延在部が互いに略等間隔で放射状に伸びた酸化チタン粒子を簡易に得ることができる。また、その一次粒径を100nm〜1000nmの範囲にすることができ、その外観形状と粒径範囲とに依存して、可視光から近赤外の範囲において高い光散乱能を有する酸化チタン粒子を得ることができるようになる。なお、前記反応溶液中のpHは前記有機アルカリ類の濃度を制御することによって調節する。
【0020】
また、前記反応溶液中のチタン原子濃度は0.05mol/L〜10mol/Lの範囲であることが好ましく、特には0.1mol/L〜2.5mol/Lの範囲であることが好ましい。チタン原子濃度は、形成される酸化チタン粒子の粒径に直接影響を及ぼすので、所望する酸化チタン粒子の粒径に応じて適宜設定する必要があるが、上述したチタン原子濃度に設定することによって、100nm〜1000nmの範囲の一次粒径を有する酸化チタン粒子を簡易に作製することができるようになる。なお、前記チタン原子濃度は、反応溶液中のチタンアルコキシドの加水分解生成物又はチタン金属塩の加水分解生成物の濃度を適宜調節することによって制御することができる。
【0021】
また、前記反応溶液のpH及びチタン原子濃度を上述したような好ましい範囲に設定することにより、前記反応溶液は一般的にスラリー状となる。
【0022】
次いで、本発明においては、前記反応溶液をステンレスなどの密閉容器中で加熱する。この場合、前記反応溶液中のチタンアルコキシドの加水分解生成物又はチタン金属塩の加水分解生成物は、高温及び加圧下で分解するとともに、得られたチタン源の結晶成長が進行し、目的とする星形形状の酸化チタン粒子を得ることができる。
【0023】
なお、前記加熱処理は120℃〜350℃の温度範囲、さらには200℃〜350℃さらには230℃〜350℃の温度範囲で行うことが好ましい。また、前記加熱処理時間は、2時間以上であることが好ましく、さらには12時間〜36時間であることが好ましい。また、かかる加熱処理において、室温から上記温度範囲までの加熱速度は特に限定しないが、100℃/時間以下であることが好ましい。さらに、前記加熱処理においては、結晶化度の均質化の観点より、前記反応溶液をスターラー又は撹拌羽などを用いて、強制的に撹拌することが好ましい。
【0024】
また、前記加熱処理の前に、予備加熱処理を行うこともできる。上述した加熱処理のみでは、本発明の星形形状の酸化チタン粒子に加えて、粒状の酸化チタン粒子が形成される場合があり、目的とする前記星形形状の酸化チタン粒子の作製歩留まりが低下する場合がある。これに対して、前記加熱処理に加えて前記予備加熱処理を施すことにより、前記粒状酸化チタン粒子の形成割合が減少し、前記星形形状の酸化チタン粒子の作製歩留まりを向上させることができるようになる。
【0025】
なお、前記予備加熱処理は、70℃〜150℃の温度範囲、さらには80℃〜120℃さらには100℃〜120℃の温度範囲で行うことが好ましい。また、予備加熱時間は1時間以上であることが好ましく、さらには2時間〜4時間の範囲であることが好ましい。さらにこの場合においても、結晶化度の均質化の観点より、前記反応溶液をスターラー又は撹拌羽などを用いて、強制的に撹拌することが好ましい。
【0026】
以上のような作製工程を経ることにより、本発明の星形形状の酸化チタン粒子を得ることができる。また、上述した作製工程において、反応溶液のpHなどにおいてそれぞれ好ましい態様を採ることにより、本発明の好ましい態様である、6つの延在部が放射状に伸びた星形形状の酸化チタン粒子を得ることができる。
【0027】
前記星形形状の酸化チタン粒子は、各延在部がアナターゼ単相からなり、その結果全体として双晶を呈するようになる。酸化チタンはブルッカイト相、アナターゼ相及びルチル相などの結晶相を有するが、前記アナターゼ相は準安定相であるので、ある程度の大きさの酸化チタン粒子を形成するために加熱処理を施すと、前記アナターゼ相は安定相であるルチル相に転移してしまう。この結果、酸化チタン粒子の形状とは無関係に、100nm以上の一次粒径を有する酸化チタン粒子を得ようとすると、前記酸化チタン粒子はルチル相を含むことになる。したがって、本発明は100nm〜1000nmの範囲の一次粒径であって、アナターゼ単相から構成される酸化チタン粒子を提供できるため、ルチル相以外の結晶相からなる酸化チタン粒子を得ることができるという観点からも重要である。また、条件の調整により各延在部はそれぞれが単結晶となる。
【0028】
前記酸化チタン粒子は、この酸化チタン粒子が残留する液相に対して水溶性樹脂や添加剤を加えて使用することも出来る。またスプレードライ、フリーズドライ、ヌッチェ、熱風乾燥、エバポレーター、真空乾燥、サーマジェットドライ、遠心分離などの方法によって乾燥し粉末化することも出来る。また、前記液相の状態からフラッシング法や溶剤置換によって、非水系の分散液もしくは懸濁液として直接的に使用することも出来る。なお、この場合、前記分散液又は前記懸濁液の状態でデカンテーション、ヌッチェ洗浄、限外濾過、マイクロフィルトレーション、遠心分離などの方法によって、粒子合成時の残留アルコール類やアミン類などの添加物由来の不純物を除去することも出来る。
【0029】
(塗料)
前述のようにして作製し、前述のような特性を有する本発明の前記酸化チタン粒子は、その外観形状さらには粒径に起因して、特に可視光から近赤外光の光散乱能に優れる。したがって、塗料として好適に使用することができる。
【0030】
本発明の酸化チタン粒子は、溶媒中に分散させて塗料とすることにより、光散乱性、反射性、光触媒性、紫外線遮蔽性等に優れるとともに、特に白色性に優れた被膜を形成することができる。
【0031】
本発明の酸化チタン粒子を含有する塗料は、溶媒、必要に応じて、バインダー成分、分散剤、表面処理剤、他の無機物粒子、有機物粒子等を含んでいてもよい。
【0032】
溶媒は、水または有機溶媒を使用することができ、特に限定はされない。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ジアセトンアルコール、イソプロピルアルコール、フルフリルアルコール、エチレングリコール、ヘキシレングリコールなどのアルコール類、酢酸メチルエステル、酢酸エチルエステルなどのエステル類、ジエチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどのエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、アセト酢酸エステルなどのケトン類、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、シクロヘキサン、キシレン、セロソルブアセテート等が挙げられる。これらは1種、または2種以上混合して使用することができる。
【0033】
バインダーとしては、有機系のバインダー、無機系のバインダーのいずれでもよい。有機系のバインダーとしては、例えば、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ブチラール樹脂、尿素−メラミン樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチロール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、シリコン変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、クラスターデキストリン、キトサン、アルギン酸塩、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂、スチレン−アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン等が挙げられる。
【0034】
無機系のバインダーとしては、例えば、Si、Al、Zr等の金属のアルコキシド、これらの金属アルコキシドの加水分解物、シリカゾル、アルミナゾル等の金属酸化物のゾル等を挙げることができる。
【0035】
分散剤としては、例えば、分散性向上を目的として、シラン系、チタネート系、ジルコアルミネート系等のカップリング剤及び金属キレート化物、金属アルコキシド等の有機金属化合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリエステル酸塩等の界面活性剤、あるいは市販の樹脂型分散剤等を添加しても良い。また、シリコーン樹脂等で表面を被覆してもよい。
【0036】
その他必要により、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)、マグネシア(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、水酸化アルミニウム、硫化バリウム、マグネシウムシリケート等の他の無機物粒子、アクリル、アクリロニトリル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド等の樹脂ビーズ等の有機物粒子、あるいは難燃剤、着色剤、導電剤等を含有させてもよい。
【0037】
本発明の酸化チタン粒子を用いた塗料は、前記溶媒中に、前記各成分を混合、分散させて得られる。混合、分散方法としては、ボールミルや高速ビーズミル等の通常の方法を用いることができる。
【0038】
本発明の塗料における、前記酸化チタンの配合量は特に限定されるものではないが、0.1〜80重量%が好ましく、さらには10〜40重量%が好ましい。また分散剤としては、0.5〜2%を目安に配合される。バインダー成分は、10〜80重量%が好ましく、さらには10〜40重量%が好ましい。
【0039】
本発明の酸化チタン粒子を用いた塗料は、基材上に塗布し、必要により乾燥、加熱することにより光散乱性、白色性、反射性、光触媒性、紫外線遮蔽性等に優れた被膜を形成することができる。
【0040】
基材としては、特に制限されず、ガラス、陶磁器、金属等の無機物基材、プラスチックフィルム、プラスチック板等の有機物基材等に適用できる。プラスチックフィルム、プラスチック板の材質は特に限定されないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリオレフィン、セルロースアセテート、塩化ビニル等が挙げられる。
【0041】
塗布方法としては、スピンコート、スプレーコート、スクリーン印刷等の通常の塗布方法を用いることができる。
塗布後の加熱温度は、基材およびバインダーに合わせた温度を適宜選択することができる。
【0042】
(樹脂組成物)
本発明の酸化チタン粒子は、樹脂中に練り込み等により直接含有、分散させることにより、光散乱性、反射性、光触媒性、紫外線遮蔽性に優れるとともに、特に白色性に優れた樹脂組成物を形成することができる。
【0043】
樹脂としては、例えば、アクリル系樹脂、アルキッド樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリアミドイミド、エポキシ樹脂、アミノ樹脂、ブチラール樹脂、尿素−メラミン樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリカーボネート樹脂、スチロール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール、シリコン変性ポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、クラスターデキストリン、キトサン、アルギン酸塩、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系樹脂、スチレン−アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリプロピレン、ABS樹脂、ポリエチレン、塩化ビニリデン、ポリスチレン、ナイロン、EVA樹脂、ポリアミド樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、フッソ樹脂等が挙げられる。
【0044】
その他必要により、シリカ(SiO2)、アルミナ(Al23)、ジルコニア(ZrO2)、マグネシア(MgO)、酸化亜鉛(ZnO)、水酸化アルミニウム、硫化バリウム、マグネシウムシリケート等の他の無機物粒子、アクリル、アクリロニトリル、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド等の樹脂ビーズ等の有機物粒子、あるいは難燃剤、着色剤、導電剤等を含有させてもよい。
【0045】
混合、分散方法としては、ペイントシェーカー、ロールミル、サンドミル、ボールミル、アトライター、ジェットミル、ホモジナイザー等を用いることが出来る。また、前記分散工程において、分散性向上を目的として、シラン系、チタネート系、ジルコアルミネート系等のカップリング剤及び金属キレート化物、金属アルコキシド等の有機金属化合物、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリエステル酸塩等の界面活性剤、あるいは市販の樹脂型分散剤等を添加しても良い。また、シリコーン樹脂等で表面を被覆してもよい。
【0046】
(プラスチックフィルム、プラスチック板)
本発明の酸化チタン粒子を用いて、白色反射フィルム及び光散乱フィルムなどのプラスチックフィルム、並びに光散乱板、及び白色反射板などのプラスチック板を形成することができる。
【0047】
白色反射フィルム、白色反射板、光散乱フィルム、光散乱板は多方面での利用が盛んであり、高性能な特性が求められている。特に液晶分野においては、液晶表示装置におけるバックライト用、導光板用、光拡散用、反射板用等、様々な用途で用いられている。
【0048】
本発明の酸化チタン粒子は、例えば上述した塗料をプラスチックフィルム又はプラスチック板上に塗布し、被膜を形成することによって得ることができ、あるいは上述した樹脂組成物を作製した後、これをフィルム状又は板状に加工することによって得ることができる。
【0049】
前記塗料の塗布によってプラスチックフィルム又はプラスチック板を形成する場合、基材としては特に限定されるものではないが、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂が好ましい。この場合、本発明の酸化チタン粒子の粒径は100nm〜500nmであることが好ましい。
【0050】
また、前記いずれの場合も、アナターゼ型酸化チタンの場合、酸化チタンは、紫外線を吸収し有機物を分解する性質を有している。よって、必要により、粒子表面を他元素で被覆することによって、その分解力を低減することができる。前記他元素としては、Zr、Si、Ta、Y、Sr、Alなどが挙げられる。被覆する方法としては、例えば、酸化チタン粒子を塩酸、硝酸水溶液中に分散し、加熱する、または、簡易的な処理としては粉末を飽和水蒸気雰囲気で処理することによって、粒子表面に水酸基を吸着させる。その後、真空処理を行うことによって、粒子表面の余分な水分を除去した後、前記他元素の金属アルコキシド溶液に分散することによって、その表面に前記他元素を化学結合させ、その後、乾燥させることによって安定化させる。
【0051】
一方、樹脂組成物を加工することによってプラスチックフィルム又はプラスチック板を形成する場合、例えば、以下の工程に従って行う。最初に、本発明の酸化チタン粒子、および各種添加剤を添加したポリエステル系樹脂を260〜350℃で溶融し、口金より吐出して、5〜50℃の冷却ドラム上でフィルム状に冷却、成形する。一軸、二軸に延伸する場合には、縦延伸の条件として、延伸温度70〜150℃、延伸倍率2.5〜5倍が好ましく、二軸以上に延伸する場合横延伸の条件として、延伸温度70〜150℃、延伸倍率2.5〜5倍が好ましく、熱固定は100〜250℃で行なうことが好ましい。
【0052】
このとき、前記酸化チタン粒子の、前記樹脂組成物中での含有量は、0.1wt%〜50wt%が好ましく、さらには3wt%〜30wt%が好ましい。前記酸化チタン粒子の含有量が1wt%未満では、得られるフィルム又は板の白色度が十分でない場合がある。一方、前記酸化チタン粒子の含有量が50wt%を超えると、フィルム又は板を形成する際に、成型が困難になったり、表面から前記酸化チタン粒子が脱落しやすくなるためである。
【0053】
また、必要により、本発明の酸化チタン粒子は樹脂中に混合する前に、TEOS(テトラエトキシシラン)等により表面処理を行う。
【0054】
(その他の応用例)
本発明の酸化チタン粒子は、その外観形状さらには粒径に起因して、前述したように、特に可視光から近赤外光の光散乱能に優れる。したがって、上述した塗料の他、紫外線防止用インキや写真感光体などにも有用である。これら用途に本発明の酸化チタン粒子を使用する場合には、前記酸化チタン粒子に対して、各種溶剤やバインダ、各種添加剤やフィラーを混合することができる。
【0055】
たとえば、紫外線防止インキとして用いる場合には、水、アルコール類、カルビトール類、グリコール類などの溶剤に分散させた液体もしくはペースト状の形態で使用される。この際、塗膜のなめらかさや付着強度を向上させるために分散剤やポリビニルアルコール、ポリアセタール、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂などの合成樹脂バインダやシリカなどの無機バインダを添加することが好ましい。塗膜の乾燥を制御するためにステアリン酸金属塩やナフテン酸金属塩を添加する事も出来る。
【実施例】
【0056】
(星型酸化チタン粒子の作製及び評価)
[実施例1]
容量1Lのガラス容器に10℃に冷却した純水250mLを入れ、撹拌羽により300rpmで撹拌しながら、高純度化学社製チタンテトライソプロポキシド71gを滴下ロートを用いて滴々投入した。1時間の撹拌後に前記チタンテトライソプロポキシドは加水分解され白色水性懸濁液となった。この白色水性懸濁液をヌッチェと東洋濾紙社製濾紙No2で吸引濾過を行い、続いて純水500mLで洗浄を行い、白色ケーキ状物質を得た。この白色ケーキ状物質、及び東京化成社製テトラメチルアンモニウムヒドロキシド26%水溶液1.4gを純水中に添加し、総量で200gとなるようにした。得られた反応溶液はスラリー状となり、pHは10.23であった。反応溶液中のチタン原子濃度は1.25mol/Lであった。
【0057】
次いで、前記反応溶液を密閉容器中に入れ、撹拌しながら120℃で4時間予備加熱処理を行った後、270℃で12時間加熱処理を行い、酸化チタン粒子を含む水性懸濁液を得た。この水性懸濁液を濾過、洗浄して、得られた洗浄ケーキを120℃で一昼夜乾燥することにより、粉末化した酸化チタン粒子を得た。
【0058】
[比較例1]
テトラメチルアンモニウムヒドロキシドを加えることなく反応溶液を作製した以外は、実施例と同様にして予備加熱処理及び加熱処理を実施して、酸化チタン粒子を作製した。なお、本比較例における前記反応溶液のpHは8.2であった。反応溶液中のチタン原子濃度は1.25mol/Lであった。
【0059】
[比較例2]
テトラメチルアンモニウムヒドロキシドに代えて和光純薬社製硝酸1.42を5gを加えた以外は、実施例と同様にして予備加熱処理及び加熱処理を実施して、酸化チタン粒子を作製した。なお、本比較例における前記反応溶液のpHは2.0であった。反応溶液中のチタン原子濃度は1.25mol/Lであった。
【0060】
[試験例1]
上記実施例及び比較例1、2で作製した酸化チタン粒子を分析するために、電子顕微鏡で粒子形状を測定し、粉末X線回折で結晶相の同定を行った。評価結果を表1に示す。実施例においては、星形形状であり、一次粒径が200nm〜350nmであって、各延在部がアナタース単相を呈する双晶の酸化チタン粒子が得られていることが判明した。また、比較例1においては、一次粒径数十nm程度のアナタース単相からなる粒状の酸化チタン粒子が得られていることが判明した。さらに、比較例2においては、一次粒径数十nmのアナタース相及びルチル相が混在した酸化チタン粒子が得られていることが判明した。
【0061】
【表1】

【0062】
なお、本実施例で得た酸化チタン粒子のSEM写真を図1に示すとともに、TEM写真を図2に示す。また、本実施例における酸化チタン粒子のX線回折パターンのグラフをそれぞれ図3に示す。
【0063】
[試験例2]
上記実施例及び比較例1の酸化チタン粒子、並びに一次粒径20nmの凝集体で平均凝集粒径300nmのアナターゼ単相からなる粒状の酸化チタン粒子(和光純薬社製:比較例3)との光散乱性を調べた。最初に、αテルピネオール(関東化学社製)70gにエチルセルロース45(関東化学社製)5gをホモジナイザーで溶解させビヒクルを作製した。次いで、前記ビヒクルに実施例及び比較例1で得た酸化チタン粒子の25g、及び和光純薬社酸化チタン粒子の25gをホモジナイザーで攪拌しながら添加した。次いで、このようにして得た酸化チタンペーストを3本ロールミルで混練し印刷ペーストとした。
【0064】
次いで、前記印刷ペーストを厚さ1.1mmのパイレックス(登録商標)ガラスに350メッシュステンレススクリーンを用いてスクリーン印刷し、次いで500℃に保持された電気炉内において30分焼成した。この結果、前記パイレックス(登録商標)ガラス上の前記印刷ペースト部分は2μmの膜厚の白色半透明〜不透明の多孔質酸化チタン膜となった。次いで、前記多孔質酸化チタン膜を積分球付属の紫外可視近赤外分光計によって各波長毎の光反射率を測定した。結果を表2に示す。
【0065】
【表2】

【0066】
表2から明らかなように、実施例で得た星形形状の酸化チタン粒子は総ての波長において40%以上の高い反射率を呈することが判明した。また、比較例3における酸化チタン粒子は粒状であるが、その平均凝集粒径が約300nmであるために、総ての波長において20%以上の反射率を有することが分かる。さらに、実施例及び比較例3を比較すると、酸化チタン粒子の粒径はほぼ同じであるにも拘らず、実施例における酸化チタン粒子は星形形状の外観を呈することによって、高い反射率を呈することが分かる。一方、一次粒径が数十nmであって、粒状の外観を呈する比較例2の酸化チタン粒子においては、各波長において10%前後の低い反射率しか有しないことが判明した。
【0067】
(星型酸化チタン粒子の塗料への応用)
[実施例2]
イソプロピルアルコール、t−ブタノール、アセトン混合溶液に1次粒子径が200nm〜300nmの本発明のアナターゼ型星形酸化チタン粒子(概六角形)を20重量%、ポリオキシエチレン系分散材Triton-Xを5重量%、アクリル樹脂を25重量%混合し、1mm径のガラスビーズを混合液の体積と同じだけ添加し、高速ビーズミルを用いて2500rpm、3時間の分散を行い、塗料を得た。この塗料を用い、予め50℃に加熱してあるアクリル基板にスピンコート法を用いて塗布し、70℃で乾燥することで、厚さ3μmの白色膜付アクリル板を得た。
【0068】
[比較例4]
本発明のアナターゼ型星形酸化チタン粒子の代わりに、平均一次粒子径が200nmのWako社製の市販アナターゼ粒子を用いた以外は、実施例2と同様に塗料を作製し、膜付のアクリル板を得た。
【0069】
(白色度の評価)
上述のようにして得た膜付きアクリル板の白色度を色差計(GC−5000,日本電色社製)を用いて測定した。結果を表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
表3から明らかなように、本発明の星型酸化チタン粒子を含有した塗料からなる膜は、従来の酸化チタン粒子を含有する膜に比較して、特に白色度に優れることが分かる。
【0072】
(星型酸化チタン粒子のプラスチックフィルムへの応用)
[実施例3]
シリコンアルコキシドで表面を被覆した一次粒子径100〜500nmの本発明のアナターゼ型星形酸化チタン粒子(概六角形)をポリエステル系樹脂に25wt%混合し、260〜350℃で溶融し、口金より吐出して、25℃の冷却ドラム上に塗布し、その後冷却することによって前記酸化チタン粒子を含む前記ポリエステル系樹脂を膜状に形成した。次いで、前記膜状のポリエステル樹脂に対して二軸延伸工程を施し、膜厚150μmの白色フィルムを得た。なお、前記二軸延伸工程において、延伸温度は100℃とし、延伸倍率は3倍とし、熱固定は200℃とした。
【0073】
次いで、得られたフィルムの白色度を色差計(GC−5000,日本電色社製)を用いて、また、反射率を紫外可視近赤外分光光度計(UV−3100,島津製作所社製)の300nm〜700nmの平均値をもって評価した。結果を表4に示す。
【0074】
[比較例5]
本発明のアナターゼ型星形酸化チタン粒子の代わりに、平均一次粒子径が200nmのWako社製の矩形状アナターゼ粒子用いた以外は、実施例3と同様に白色フィルムを作製し、白色度及び反射率を評価した。結果を表4に示す。
【0075】
【表4】

【0076】
表4から明らかなように、本発明の星型酸化チタン粒子を含む白色フィルムは、従来の酸化チタン粒子を含む白色フィルムに比較して、白色度が高く、さらにその星型形状に起因して高い反射率を呈することが分かる。
【0077】
以上、具体例を挙げながら発明の実施の形態に基づいて本発明を詳細に説明してきたが、本発明は上記内容に限定されるものではなく、本発明の範疇を逸脱しない限りにおいてあらゆる変形や変更が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンアルコキシドの加水分解生成物又はチタン金属塩の加水分解生成物及び有機アルカリ類を所定の溶媒中で混合し、反応溶液を作製する工程と、
前記反応溶液を密閉容器中で加熱する工程とを具え、
放射状に伸びた複数の延在部を有するとともに、前記延在部は長さ方向における略中心部において稜を有し、全体として星形を呈する酸化チタン粒子を作製することを特徴とする、酸化チタン粒子の作製方法。
【請求項2】
前記加熱工程は120℃〜350℃の温度範囲で行うことを特徴とする、請求項1に記載の酸化チタン粒子の作製方法。
【請求項3】
前記チタンアルコキシドは、テトラエトキシチタン、テトライソプロポキシチタン、テトラノルマルプロポキシチタン、及びテトラノルマルブトキシチタンから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子の作製方法。
【請求項4】
前記チタン金属塩は、四塩化チタン及び硫酸チタンの少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子の作製方法。
【請求項5】
前記有機アルカリ類は、アミン類、高分子アミン及びその塩、並びにアンモニアから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化チタン粒子の作製方法。
【請求項6】
前記反応溶液のpHが9〜11であることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一に記載の酸化チタン粒子の作製方法。
【請求項7】
前記反応溶液中のチタン原子濃度が、0.05mol/L以上10mol/L以下の範囲であることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一に記載の酸化チタン粒子の作製方法。
【請求項8】
前記反応溶液はスラリー状であることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一に記載の酸化チタン粒子の作製方法。
【請求項9】
前記反応溶液に対して予備加熱処理を施すことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一に記載の酸化チタン粒子の作製方法。
【請求項10】
前記予備加熱処理は70℃〜150℃の温度範囲で行うことを特徴とする、請求項9に記載の酸化チタン粒子の作製方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−292717(P2009−292717A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−169381(P2009−169381)
【出願日】平成21年7月17日(2009.7.17)
【分割の表示】特願2004−236067(P2004−236067)の分割
【原出願日】平成16年8月13日(2004.8.13)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】