説明

酸化チタン電極の製造方法およびそれを用いた光電変換素子

【課題】 酸化チタン電極の四塩化チタン水溶液処理を最適な条件で実施することで、高性能な酸化チタン電極の提供、ひいては高性能な光電変換素子を提供する。
【解決手段】 酸化チタン電極を四塩化チタンで処理する際に、酸化チタン電極のラマン散乱スペクトルにおける100〜800cm−1に観察される酸化チタン由来のピーク強度が最大になるように処理時間を調整することを特徴とする酸化チタン電極の製造方法および該方法で製造された酸化チタン電極を用いた光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は高性能な酸化チタン電極の製造方法およびそれを用いた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
色素増感型太陽電池において、酸化チタン電極を四塩化チタン水溶液で処理することで性能が向上することは、非特許文献1にも記載されており、よく知られた方法である。しかしながら、実際には四塩化チタン水溶液処理の条件により得られる電極の性能は大きく異なり、ばらつきが大きいという問題があった。
【非特許文献1】エム・グレッチェル(M. Gratzel)外,「ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソーサイアティ(Journal of American Chemical Society)」,第115巻,1993年,p.6382
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明はこのような実状に鑑み成されたものであり、酸化チタン電極の四塩化チタン水溶液処理を最適な条件で実施することで、高性能な酸化チタン電極の製造、ひいては高性能な光電変換素子を提供することを目的とする。また、本発明は、さらに、前記高性能な酸化チタン電極を固体電解質系に適用することで、高効率で耐久性に優れる光電変換素子を簡便な製造方法によって提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
すなわち、本発明は、酸化チタン電極を四塩化チタン水溶液で処理する際に、酸化チタン電極のラマン散乱スペクトルにおける100〜800cm−1に観察される酸化チタン由来のピーク強度が最大になるように処理時間を調整することを特徴とする酸化チタン電極の製造方法に関する。
また、本発明は、前記記載の製造方法で製造された酸化チタン電極を用いた光電変換素子に関する。
また、本発明は、少なくとも一方が透明な二枚の導電性基板と、当該導電性基板のうち片方の導電性基板の導電面上に設けられた増感剤により修飾された酸化チタン層と、当該2枚の導電性基板の間に設けられた、少なくとも可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質を含有した電解液を含有する電解質層からなる光電変換素子であって、前記酸化チタン層として前記記載の製造方法で製造された酸化チタン電極を用いたことを特徴とする光電変換素子に関する。
【0005】
また、本発明は、前記電解質層が、固体電解質であることを特徴とする前記記載の光電変換素子に関する。
また、本発明は、前記固体電解質が、少なくとも(a)高分子マトリックスおよび(b)可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質からなるイオン伝導性フィルムであることを特徴とする前記記載の光電変換素子に関する。
また、本発明は、前記高分子マトリックスがポリフッ化ビニリデン系高分子化合物であることを特徴とする前記記載の光電変換素子に関する。
また、本発明は、前記ポリフッ化ビニリデン系高分子化合物がカルボキシル基を含有することを特徴とする前記記載の光電変換素子に関する。
さらに、本発明は、前記可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質が常温溶融塩類であることを特徴とする前記記載の光電変換素子に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、酸化チタン電極を最適な条件下で四塩化チタン水溶液処理することで高性能な酸化チタン電極を製造することができ、ひいては高性能な光電変換素子が製造可能となる。また前記高性能な酸化チタン電極を固体電解質系に適用することで、高効率で耐久性に優れる光電変換素子を簡便な製造方法によって提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施するための好適な形態について詳細に説明する。
本発明で用いる酸化チタン電極は、酸化チタンのナノ粒子分散液、ゾル溶液等を、公知の方法により基板上に塗布することで得ることが出来る。この場合の塗布方法としては特に限定されるものではなく、キャスト法による薄膜状態で得る方法、スピンコート法、ディップコート法、バーコート法のほか、スクリーン印刷法を初めとした各種の印刷方法を挙げることができる。酸化チタン層の厚みは任意であるが、通常0.5μm以上50μm以下、好ましくは1μm以上20μm以下である。
こうして得られる酸化チタン電極は、その性状を向上させるため四塩化チタン水溶液で処理される。四塩化チタン水溶液は常法(非特許文献1参照)に従い調整できる。酸化チタン電極を四塩化チタン水溶液で処理する方法としては、特に限定されないが、四塩化チタン水溶液を酸化チタン電極上にキャストしたり、四塩化チタン水溶液中に酸化チタン電極を浸漬するなどの方法が挙げられる。
【0008】
処理温度、処理時間は、酸化チタン電極のラマン散乱スペクトルの100〜800cm−1に観測されるピーク強度が最大となるように調整することが必要である。
温度は、通常−10℃〜100℃であり、好ましくは0℃〜80℃、さらに好ましくは20℃〜70℃である。処理時間は、通常10分〜60時間であり、好ましくは30分〜20時間である。処理前および処理後の酸化チタン電極のラマン散乱スペクトルを比較すると、処理時間の経過とともに、100〜800cm−1に観測される酸化チタン由来のピーク強度が増大し、ある時間を境に減少に転じることが分かった。ピーク強度の増大ともに酸化チタン電極の性能は向上するが、ピーク強度が減少に転じると、その電極にはクラックが発生し、ときには酸化チタン膜が剥離してしまうという不具合が発生する。
従って、本発明においては、酸化チタン由来のピーク強度が最大となる時間で四塩化チタン水溶液処理を終了することが重要であり、この処理により最も性能の高い酸化チタン電極を得ることが可能となる。
【0009】
上記の方法で四塩化チタン水溶液処理された酸化チタン電極を光電変換素子に用いることにより、高性能な光電変換素子とすることができる。
すなわち、少なくとも一方が透明な二枚の導電性基板と、当該導電性基板のうち片方の導電性基板の導電面上に設けられた増感剤により修飾された酸化チタン層と、当該2枚の導電性基板の間に設けられた、少なくとも可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質を含有した電解液を含有する電解質層からなる光電変換素子において、前記酸化チタン層として前記記載の製造方法で製造された酸化チタン電極を用いることにより高性能な光電変換素子となる。
【0010】
本発明に用いられる電解質層としては、可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質を含有することが必須である。ここで、可逆な電気化学的酸化還元特性を示すということは、光電変換素子の作用する電位領域において、可逆的な電気化学的に酸化還元反応を起こし得ることをいう。典型的には、通常、水素基準電極(NHE)に対して−1〜+2V vs NHEの電位領域で可逆的であることが望ましい。
【0011】
可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質は、通常、いわゆるレドックス材と称されるものであるが、特にその種類を制限するものではない。かかる物質としては、例えば、フェロセン、p−ベンゾキノン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、N,N,N’,N’−テトラメチル−p−フェニレンジアミン、テトラチアフルバレン、アントラセン、p−トルイルアミン等を挙げることができる。また、LiI、NaI、KI、CsI、CaI、4級イミダゾリウムのヨウ素塩、テトラアルキルアンモニウムのヨウ素塩、BrとLiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBrなどの金属臭化物などが挙げられ、また、Brとテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ビピリジニウムブロマイド、臭素塩、フェロシアン酸―フェリシアン酸塩などの錯塩、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィド、ヒドロキノン−キノン、ビオロゲン色素などを挙げることができる。
【0012】
レドックス材は、酸化体、還元体のどちらか一方のみを用いてもよいし、酸化体と還元体を適当なモル比で混合し、添加することもできる。また、電気化学的応答性を示すように、これら酸化還元対を添加するなどしても良い。そのような性質を示す材料としては、ハロゲンイオン、SCN、ClO、BF、CFSO、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSOから選ばれる対アニオンを有するフェロセニウムなどのメタロセニウム塩などのほか、ヨウ素、臭素、塩素などのハロゲン類を用いることもできる。
【0013】
また、他の可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質としては、ハロゲンイオン、SCNから選ばれる対アニオン(X)を有する塩が挙げられる。これらの塩の例としては、4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩などが例示できる。4級アンモニウム塩としては、具体的には、(CH、(C、(n−C、さらには、
【0014】
【化1】

【0015】
等が挙げられる。ホスホニウム塩としては、具体的には、(CH、(C、(C、(C等が挙げられる。
もちろん、これらの混合物も好適に用いることができる。
【0016】
また、可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質として、レドックス性常温溶融塩類も用いることができる。ここで、レドックス性常温溶融塩とは、常温において溶融している(即ち液状の)イオン対からなる塩であり、通常、融点が20℃以下であり、20℃を越える温度で液状であるイオン対からなる塩を示すものであって、かつ可逆的な電気化学的酸化還元反応を行うことができるものである。可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質として、レドックス性常温溶融塩類を用いる場合、溶媒は用いても、用いなくてもどちらの形態でもよい。
レドックス性常温溶融塩はその1種を単独で使用することができ、また2種以上を混合しても使用することもできる。
レドックス性常温溶融塩の例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0017】
【化2】

【0018】
(ここで、Rは炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルキル基を示し、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
【0019】
【化3】

【0020】
(ここで、R1およびR2は各々炭素数1〜10のアルキル基(好ましくはメチル基またはエチル基)、または炭素数7〜20、好ましくは7〜13のアラルキル基(好ましくはベンジル基)を示しており、互いに同一でも異なっても良い。また、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
【0021】
【化4】

【0022】
(ここで、R1、R2、R3、R4は、各々炭素数1以上、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基(フェニル基など)、またはメトキシメチル基などを示し、互いに同一でも異なってもよい。また、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
【0023】
本発明の電解質層としては、前記の可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質を含むものであれば、液体系でも固体系でもいずれでもよく、特に限定されない。
液体系の電解質としては特に限定されるものではなく、通常、溶媒、上述した可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質(溶媒に可溶なもの)およびさらに必要に応じて支持電解質を基本的成分として構成される。
【0024】
溶媒としては、一般に電気化学セルや電池に用いられる溶媒であればいずれも使用することができる。具体的には、無水酢酸、メタノール、エタノール、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、エチレンカーボネート、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、ジメトキシエタン、プロピオンニトリル、グルタロニトリル、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸エチルジメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリペンチル、リン酸トリへキシル、リン酸トリヘプチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリノニル、リン酸トリデシル、リン酸トリス(トリフフロロメチル)、リン酸トリス(ペンタフロロエチル)、リン酸トリフェニルポリエチレングリコール、及びポリエチレングリコール等が使用可能である。特に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジオキソラン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、メトキシプロピオニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが好ましい。また、常温溶融塩類も用いることができる。ここで、常温溶融塩とは、常温において溶融している(即ち液状の)イオン対からなる塩であり、通常、融点が20℃以下であり、20℃を越える温度で液状であるイオン対からなる塩をいう。
常温溶融塩の例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0025】
【化5】

【0026】
(ここで、Rは炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルキル基を示し、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
【0027】
【化6】

【0028】
(ここで、R1およびR2は各々炭素数1〜10のアルキル基(好ましくはメチル基またはエチル基)、または炭素数7〜20、好ましくは7〜13のアラルキル基(好ましくはベンジル基)を示しており、互いに同一でも異なっても良い。また、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
【0029】
【化7】

【0030】
(ここで、R1、R2、R3、R4は、各々炭素数1以上、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基(フェニル基など)、またはメトキシメチル基などを示し、互いに同一でも異なってもよい。また、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
溶媒はその1種を単独で使用しても良いし、また2種以上を混合して使用しても良い。
【0031】
また、必要に応じて加えられる支持電解質としては、電気化学の分野又は電池の分野で通常使用される塩類、酸類、アルカリ類、常温溶融塩類が使用できる。
塩類としては、特に制限はなく、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩等の無機イオン塩;4級アンモニウム塩;環状4級アンモニウム塩;4級ホスホニウム塩などが使用でき、特にLi塩が好ましい。
塩類の具体例としては、ClO、BF、CFSO、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSOから選ばれる対アニオンを有するLi塩、Na塩、あるいはK塩が挙げられる。
【0032】
また、ClO、BF、CFSO、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSOから選ばれる対アニオンを有する4級アンモニウム塩、具体的には、(CHBF、(CBF、(n−CBF、(CBr、(CClO、(n−CClO、CH(CBF、(CH(CBF、(CHSOCF、(CSOCF、(n−CSOCF、さらには、
【0033】
【化8】

【0034】
等が挙げられる。また、ClO、BF、CFSO、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSOから選ばれる対アニオンを有するホスホニウム塩、具体的には、(CHBF、(CBF、(CBF、(CBF等が挙げられる。
また、これらの混合物も好適に用いることができる。
【0035】
酸類も特に限定されず、無機酸、有機酸などが使用でき、具体的には硫酸、塩酸、リン酸類、スルホン酸類、カルボン酸類などが使用できる。
アルカリ類も特に限定されず、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなどがいずれも使用可能である。
【0036】
常温溶融塩類も特に限定されること無く使用することができる。本発明における常温溶融塩とは、常温において溶融している(即ち液状の)イオン対からなる塩であり、通常、融点が20℃以下であり、20℃を越える温度で液状であるイオン対からなる塩をいう。
常温溶融塩はその1種を単独で使用することができ、また2種以上を混合しても使用することもできる。
常温溶融塩の例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0037】
【化9】

【0038】
(ここで、Rは炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルキル基を示す。XはClO、BF、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSOから選ばれる対アニオンを表す。)
【0039】
【化10】

【0040】
(ここで、R1およびR2は各々炭素数1〜10のアルキル基(好ましくはメチル基またはエチル基)、または炭素数7〜20、好ましくは7〜13のアラルキル基(好ましくはベンジル基)を示しており、互いに同一でも異なっても良い。また、XはClO、BF、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSOから選ばれる対アニオンを表す。)
【0041】
【化11】

【0042】
(ここで、R1、R2、R3、R4は、各々炭素数1以上、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基(フェニル基など)、またはメトキシメチル基などを示し、互いに同一でも異なってもよい。また、XはClO、BF、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSOから選ばれる対アニオンを表す。)
【0043】
支持電解質の使用量については特に制限はなく任意であるが、通常、電解質中の濃度として、0.01〜10mol/L、好ましくは0.05〜1mol/L程度を含有させることができる。
【0044】
また、本発明において用いる電解質としては、前記のような液体系でもよいが、固体化が可能であるとの観点から、高分子固体電解質が特に好ましい。
高分子固体電解質としては、特に好ましいものとして、(a)高分子マトリックス(成分(a))に、少なくとも(c)可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質(成分(c))を含有し、所望により(b)可塑剤(成分(b))をさらに含有するものが挙げられる。また、これらに加え、所望によりさらに前記した(d)支持電解質や(e)常温溶融塩などの他の任意成分を含有させてもよい。高分子固体電解質としては、前記成分(c)または、成分(b)と成分(c)、あるいはさらなる任意成分が、高分子マトリックス中に保持されることによって固体状態またはゲル状態が形成される。
【0045】
本発明において高分子マトリックスとして使用できる材料としては、高分子マトリックス単体で、あるいは可塑剤の添加や、支持電解質の添加、または可塑剤と支持電解質の添加によって固体状態またはゲル状態が形成されれば特に制限は無く、一般的に用いられるいわゆる高分子化合物を用いることができる。
上記高分子マトリックスとしての特性を示す高分子化合物としては、ヘキサフロロプロピレン、テトラフロロエチレン、トリフロロエチレン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレン、フッ化ビニリデンなどのモノマーを重合または共重合して得られる高分子化合物を挙げることができる。またこれらの高分子化合物は単独で用いても良く、また混合して用いても良い。これらの中でも、特にポリフッ化ビニリデン系高分子化合物が好ましい。
【0046】
ポリフッ化ビニリデン系高分子化合物としては、フッ化ビニリデンの単独重合体、あるいはフッ化ビニリデンと他の重合性モノマー、好適にはラジカル重合性モノマーとの共重合体を挙げることができる。フッ化ビニリデンと共重合させる他の重合性モノマー(以下、共重合性モノマーという。)としては、具体的には、ヘキサフロロプロピレン、テトラフロロエチレン、トリフロロエチレン、エチレン、プロピレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、メチルメタクリレート、スチレンなどを例示することができる。これらの中でも、特にカルボキシル基を有するモノマーとの共重合体が好ましい。
【0047】
これらの共重合性モノマーは、モノマー全量に対して0.1〜50mol%、好ましくは1〜25mol%の範囲で使用することができる。
共重合性モノマーとしては、好適にはヘキサフロロプロピレンが用いられる。本発明においては、特にフッ化ビニリデンにヘキサフロロプロピレンを1〜25mol%共重合させたフッ化ビニリデン−ヘキサフロロプロピレン共重合体を高分子マトリックスとするイオン伝導性フィルムとして好ましく用いることができる。また共重合比の異なる2種類以上のフッ化ビニリデン−ヘキサフロロプロピレン共重合体を混合して使用しても良い。
【0048】
また、これらの共重合性モノマーを2種類以上用いてフッ化ビニリデンと共重合させることもできる。例えば、フッ化ビニリデン+ヘキサフロロプロピレン+テトラフロロエチレン、フッ化ビニリデン+ヘキサフロロプロピレン+アクリル酸、フッ化ビニリデン+テトラフロロエチレン+エチレン、フッ化ビニリデン+テトラフロロエチレン+プロピレンなどの組み合わせで共重合させて得られる共重合体を使用することもできる。
【0049】
さらに、本発明においては高分子マトリックスとしてポリフッ化ビニリデン系高分子化合物に、ポリアクリル酸系高分子化合物、ポリアクリレート系高分子化合物、ポリメタクリル酸系高分子化合物、ポリメタクリレート系高分子化合物、ポリアクリロニトリル系高分子化合物およびポリエーテル系高分子化合物から選ばれる高分子化合物を1種類以上混合して使用することもできる。あるいはポリフッ化ビニリデン系高分子化合物に、上記した高分子化合物のモノマーを2種以上共重合させて得られる共重合体を1種類以上混合して使用することもできる。このときの単独重合体あるいは共重合体の配合割合は、ポリフッ化ビニリデン系高分子化合物100質量部に対して、通常200質量部以下とすることが好ましい。
【0050】
本発明において用いられるポリフッ化ビニリデン系高分子化合物の重量平均分子量は、通常10,000〜2,000,000であり、好ましくは100,000〜1,000,000の範囲のものが好適に使用することができる。
【0051】
可塑剤(成分(b))は、可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質に対する溶媒として作用する。かかる可塑剤としては、一般に電気化学セルや電池において電解質溶媒として使用され得るものであればいずれも使用することができ、具体的には液体系電解質において例示した各種溶媒を挙げることができる。特に、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルスルホキシド、ジメトキシエタン、アセトニトリル、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジオキソラン、ジメチルホルムアミド、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチルが好ましい。また、常温溶融塩類も用いることができる。ここで、常温溶融塩とは、常温において溶融している(即ち液状の)イオン対からなる塩であり、通常、融点が20℃以下であり、20℃を越える温度で液状であるイオン対からなる塩を示すものである。
常温溶融塩の例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0052】
【化12】

【0053】
(ここで、Rは炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルキル基を示し、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
【0054】
【化13】

【0055】
(ここで、R1およびR2は各々炭素数1〜10のアルキル基(好ましくはメチル基またはエチル基)、または炭素数7〜20、好ましくは7〜13のアラルキル基(好ましくはベンジル基)を示しており、互いに同一でも異なっても良い。また、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
【0056】
【化14】

【0057】
(ここで、R1、R2、R3、R4は、各々炭素数1以上、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基(フェニル基など)、またはメトキシメチル基などを示し、互いに同一でも異なってもよい。また、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
溶媒はその1種を単独で使用しても良いし、また2種以上を混合して使用しても良い。
【0058】
可塑剤(成分(b))の使用量は特に制限はないが、通常、高分子固体電解質中に20質量%以上、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上であり、かつ98質量%以下、好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは90質量%以下の量で含有させることができる。
【0059】
次に、本発明において用いる成分(c)の可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質について説明する。
成分(c)は、可逆な電気化学的酸化還元反応を行うことができる化合物であって、通常レドックス性材料と称されるものである。
かかる化合物しては、特にその種類を制限するものではないが、たとえば、フェロセン、p−ベンゾキノン、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン、N,N,N’,N’−テトラメチル−p−フェニレンジアミン、テトラチアフルバレン、アントラセン、p−トルイルアミン等を用いることができる。また、LiI、NaI、KI、CsI、CaI、4級イミダゾリウムのヨウ素塩、テトラアルキルアンモニウムのヨウ素塩、BrとLiBr、NaBr、KBr、CsBr、CaBrなどの金属臭化物などが挙げられる。
【0060】
また、Brとテトラアルキルアンモニウムブロマイド、ビピリジニウムブロマイド、臭素塩、フェロシアン酸―フェリシアン酸塩などの錯塩、ポリ硫化ナトリウム、アルキルチオール−アルキルジスルフィド、ヒドロキノン−キノン、ビオロゲンなどを用いることができる。レドックス材は、酸化体、還元体のどちらか一方のみを用いてもよいし、酸化体と還元体を適当なモル比で混合し、添加することもできる。
【0061】
また、特に成分(c)としては、ハロゲンイオン、SCNから選ばれる対アニオン(X)を有する塩があげられる。これらの塩の例としては、4級アンモニウム塩、ホスホニウム塩などが例示できる。4級アンモニウム塩としては、具体的には、(CH、(C、(n−C、さらには、
【0062】
【化15】

【0063】
等が挙げられる。ホスホニウム塩としては、具体的には、(CH、(C、(C、(C等が挙げられる。
もちろん、これらの混合物も好適に用いることができる。
なお、これらの化合物の場合は、通常成分(b)と併用することが好ましい。
【0064】
また、成分(c)として、レドックス性常温溶融塩類も用いることができる。ここで、レドックス性常温溶融塩とは、常温において溶融している(即ち液状の)イオン対からなる塩であり、通常、融点が20℃以下であり、20℃を越える温度で液状であるイオン対からなる塩を示すものであって、かつ可逆的な電気化学的酸化還元反応を行うことができるものである。成分(c)としてレドックス性常温溶融塩類を用いる場合、成分(b)を併用しなくても、併用してもどちらの形態でもよい。
レドックス性常温溶融塩はその1種を単独で使用することができ、また2種以上を混合しても使用することもできる。
レドックス性常温溶融塩の例としては、例えば、以下のものが挙げられる。
【0065】
【化16】

【0066】
(ここで、Rは炭素数2〜20、好ましくは2〜10のアルキル基を示し、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
【0067】
【化17】

【0068】
(ここで、R1およびR2は各々炭素数1〜10のアルキル基(好ましくはメチル基またはエチル基)、または炭素数7〜20、好ましくは7〜13のアラルキル基(好ましくはベンジル基)を示しており、互いに同一でも異なっても良い。また、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
【0069】
【化18】

【0070】
(ここで、R1、R2、R3、R4は、各々炭素数1以上、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜12のアリール基(フェニル基など)、またはメトキシメチル基などを示し、互いに同一でも異なってもよい。また、XはハロゲンイオンまたはSCNを示す。)
【0071】
また、可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質(成分(c))の使用量についても特に制限はなく、通常、高分子固体電解質中に0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、かつ70質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下の量で含有させることができる。
成分(c)を成分(b)と併用する場合、成分(c)は、成分(b)に溶解し、かつ高分子固体電解質とした際にも析出等が起こらない混合比とすることが望ましく、好ましくは成分(c)/成分(b)が質量比で0.01〜0.5、さらに好ましくは0.03〜0.3の範囲である。
また、成分(a)は、[成分(a)/(成分(b)+成分(c)]の質量比が、0.05〜1の範囲が好ましく、さらに好ましくは0.1〜0.5の範囲であることが望ましい。
【0072】
高分子固体電解質における支持電解質(成分(d))の使用量については特に制限はなく、任意であるが、通常、高分子固体電解質中に0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上であり、かつ70質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下の量で含有させることができる。
【0073】
高分子固体電解質には、更に他の成分を含有させることができる。他の成分としては、紫外線吸収剤、アミン化合物などを挙げることができる。用いることができる紫外線吸収剤としては、特に限定されないが、ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物、ベンゾフェノン骨格を有する化合物等の有機紫外線吸収剤が代表的な物として挙げられる。
ベンゾトリアゾール骨格を有する化合物としては、例えば、下記の一般式(1)で表される化合物が好適に挙げられる。
【0074】
【化19】

【0075】
一般式(1)において、R81は、水素原子、ハロゲン原子または炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基を示す。ハロゲン原子としてはフッ素、塩素、臭素、ヨウ素を挙げることができる。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。R81の置換位置は、ベンゾトリアゾール骨格の4位または5位であるが、ハロゲン原子およびアルキル基は通常4位に位置する。R82は、水素原子または炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基を示す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、シクロヘキシル基等を挙げることができる。R83は、炭素数1〜10、好ましくは1〜3のアルキレン基またはアルキリデン基を示す。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基等を挙げることができ、またアルキリデン基としては、例えば、エチリデン基、プロピリデン基等が挙げられる。
【0076】
一般式(1)で示される化合物の具体例としては、3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロパン酸、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンエタン酸、3−(2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−4−ヒドロキシベンゼンエタン酸、3−(5−メチル−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1−メチルエチル)−4−ヒドロキシベンゼンプロパン酸、2−(2’−ヒドロキシ−5’−メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ビス(α,α−ジメチルベンジル)フェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−t−ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2−(2’−ヒドロキシ−3’−t−ブチル−5’−メチルフェニル)−5−クロロベンゾトリアゾール、3−(5−クロロ−2H−ベンゾトリアゾール−2−イル)−5−(1,1−ジメチルエチル)−4−ヒドロキシ−ベンゼンプロパン酸オクチルエステル等が挙げられる。
【0077】
ベンゾフェノン骨格を有する化合物としては、例えば、下記の一般式(2)〜(4)で示される化合物が好適に挙げられる。
【0078】
【化20】

【0079】
上記一般式(2)〜(4)において、R92、R93、R95、R96、R98、及びR99は、互いに同一もしくは異なる基であって、ヒドロキシル基、炭素数1〜10、好ましくは1〜6のアルキル基またはアルコキシ基を示す。アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、i−プロピル基、ブチル基、t−ブチル基、及びシクロヘキシル基を挙げることができる。またアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、i−プロポキシ基、及びブトキシ基を挙げることができる。
【0080】
91、R94、及びR97は、炭素数1〜10、好ましくは1〜3のアルキレン基またはアルキリデン基を示す。アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、及びプロピレン基を挙げることができる。アルキリデン基としては、例えば、エチリデン基、及びプロピリデン基が挙げられる。
p1、p2、p3、q1、q2、及びq3は、それぞれ別個に0乃至3の整数を表す。
【0081】
上記一般式(2)〜(4)で表されるベンゾフェノン骨格を有する化合物の好ましい例としては、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−カルボン酸、2,2’−ジヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−カルボン酸、4−(2−ヒドロキシベンゾイル)−3−ヒドロキシベンゼンプロパン酸、2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン−5−スルホン酸、2−ヒドロキシ−4−n−オクトキシベンゾフェノン、2,2’−ジヒドロキシ−4,4’−ジメトキシベンゾフェノン、2,2’,4,4’−テトラヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシ−2’−カルボキシベンゾフェノン等が挙げられる。
もちろん、これらを二種以上組み合わせて使用することができる。
【0082】
紫外線吸収剤の使用は任意であり、また使用する場合の使用量も特に制限されるものではないが、使用する場合は高分子固体電解質中に0.1質量%以上、好ましくは1質量%以上であり、20質量%以下、好ましくは10質量%以下の範囲の量で含有させることが望ましい。
【0083】
高分子固体電解質に含有させることができるアミン化合物としては、特に限定されず、各種脂肪族アミン、芳香族アミンが用いられるが、例えば、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、キノリン誘導体などが代表的な物として挙げられる。これらのアミン化合物を添加することで、開放電圧の向上が見込まれる。これらの化合物の具体例としては、4−t−ブチル−ピリジン、キノリン、イソキノリンなどが挙げられる。
【0084】
本発明において高分子固体電解質はイオン伝導性フィルムとして用いることができる。例えば、前記成分(a)および(c)、あるいはさらに所望により配合される任意成分からなる高分子固体電解質を、公知の方法によりフィルムに成形することによりイオン伝導性フィルムを得ることが出来る。この場合の成形方法としては特に限定されず、押出し成型、キャスト法によるフィルム状態で得る方法、スピンコート法、ディップコート法や、注入法、含浸法などを挙げることができる。
【0085】
押出し成型については常法により行うことができ、前記混合物を過熱溶融した後、フィルム成型することが行われる。
キャスト法については、前記混合物をさらに適当な希釈剤にて粘度調整を行い、キャスト法に用いられる通常のコータにて塗布し、乾燥することで成膜することができる。コータとしては、ドクタコータ、ブレードコータ、ロッドコータ、ナイフコータ、リバースロールコータ、グラビアコータ、スプレイコータ、カーテンコータを用いることができ、粘度および膜厚により使い分けることができる。
スピンコート法については、前記混合物をさらに適当な希釈剤にて粘度調整を行い、市販のスピンコーターにて塗布し、乾燥することで成膜することができる。
ディップコート法については、前記混合物をさらに適当な希釈剤にて粘度調整を行って混合物溶液を作製し、適当な基盤を混合物溶液より引き上げた後、乾燥することで成膜することができる。
【0086】
本発明におけるイオン伝導性フィルムは、イオン伝導度が、通常室温で1×10−7S/cm以上、好ましくは1×10−6S/cm以上、さらに好ましくは1×10−5S/cm以上を示す。イオン伝導度は、複素インピーダンス法などの一般的な手法で求めることができる。
また、本発明におけるイオン伝導性フィルムは、酸化体の拡散係数が1×10−9cm/s以上、好ましくは1×10−8cm/s以上、さらに好ましくは1×10−7cm/s以上を示す。なお、拡散係数は、イオン伝導性を示す一指標であり、定電位電流特性測定、サイクリックボルタモグラム測定などの一般的な手法で求めることができる。
イオン伝導性フィルムの厚さは、特に限定されないが、通常1μm以上、好ましくは10μm以上であり、通常3mm以下、好ましくは1mm以下である。
【0087】
また、本発明におけるイオン伝導性フィルムは、自立性を有していることが望ましい。その場合、通常、25℃におけるその引張弾性率が5×10N/m以上、好ましくは1×10N/m以上、最も好ましくは5×10N/m以上である特性を有することが望ましい。なお、この引張弾性率は、通常用いられる引張り試験機で、2cm×5cmの短冊状サンプルによって測定を行った場合の値である。
【0088】
本発明における光電変換素子としては、例えば、図1に示すような構造に代表される層構造をもっており、少なくとも2枚の導電性基板を用い、そのうち少なくとも一方の基板は実質的に透明の、いわゆる透明導電性基板である。また、透明導電基板上に、図1に示されるように、酸化チタン層(感光層)が形成される。
【0089】
透明導電性基板は、通常、透明基板上に透明電極層を有する。
透明基板としては、特に限定されず、材質、厚さ、寸法、形状等は目的に応じて適宜選択することができ、例えば無色あるいは有色ガラス、網入りガラス、ガラスブロック等が用いられる他、無色あるいは有色の透明性を有する樹脂でも良い。樹脂としては、具体的には、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリアミド、ポリスルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、トリ酢酸セルロース、ポリメチルペンテンなどが挙げられる。なお、本発明における透明とは、10〜100%の透過率、好ましくは50%以上の透過率を有することであり、また、本発明における基板とは、常温において平滑な面を有するものであり、その面は平面あるいは曲面であってもよく、また応力によって変形するものであってもよい。
【0090】
また、電極として作用する透明電極層としては、本発明の目的を果たすものである限り特に限定されないが、例えば、金、銀、クロム、銅、タングステンなどの金属薄膜、金属酸化物からなる導電膜などが挙げられる。金属酸化物としては、例えば、錫や亜鉛などの金属酸化物に、他の金属元素を微量ドープしたIndium Tin Oxide(ITO(In:Sn))、Fluorine doped Tin Oxide(FTO(SnO:F))、Aluminum doped Zinc Oxide(AZO(ZnO:Al))などが好適なものとして用いられる。
膜厚は通常、10〜5000nm、好ましくは100〜3000nmである。また、表面抵抗(抵抗率)は、本発明の基板の用途により適宜選択されるところであるが、通常、0.5〜500Ω/sq、好ましくは2〜50Ω/sqである。
【0091】
透明電極層の形成法としては、特に限定されなく、電極層として用いる前述の金属や金属酸化物の種類により適宜公知の方法が選択使用されるところであるが、通常、真空蒸着法、イオンプレーティング法、CVD法あるいはスパッタリング法などが用いられる。いずれの場合も基板温度20〜700℃の範囲内で形成されるのが望ましい。
【0092】
もう一方の基板、即ち、対向基板は、基板自身が導電性あるいは少なくとも一方の面が導電性であればよく、前述の透明な透明導電性基板でも、また不透明な導電性基板でも良い。不透明な導電性基板としては、Ti、Cr、Pt、Ni、Fe、ステンレスやそれらの合金等の種々の金属製電極のほか、例えばガラス基板上に成膜されたAu、Pt、Crなどを挙げることができる。
【0093】
酸化チタン層は、増感剤により修飾される。用いる増感剤としては、酸化チタン層の光吸収効率を向上させるものであれば、特に制限されるものではなく、通常、各種の金属錯体色素や有機色素の一種または二種以上を用いることができる。また、酸化チタン層への吸着性を付与するために、色素の分子中にカルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホニル基、ホスホニル基、カルボキシルアルキル基、ヒドロキシアルキル基、スルホニルアルキル基、ホスホニルアルキル基などの官能基を有するものが好適に用いられる。
金属錯体色素としては、ルテニウム、オスミウム、鉄、コバルト、亜鉛の錯体や金属フタロシアニン、クロロフィル等を用いることができる。
本発明において用いる金属錯体色素としては、以下のようなものが例示される。
【0094】
(色素1)
【化21】

【0095】
ここでXは、一価のアニオンを示すが、2つのXは独立でも、架橋されていていても良い。例えば、次のようなものが例示される。
【化22】

【0096】
(色素2)
【化23】

【0097】
ここでXは、一価のアニオンを示す。例えば次のようなものが例示される。
【化24】

【0098】
Yとしては、一価アニオンであって、ハロゲンイオン、SCN、ClO、BF、CFSO-、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSO-等を挙げることができる。
【0099】
(色素3)
【化25】

【0100】
ここでZは、非共有電子対を有する原子団であって、2つのZは独立でも、架橋されていていても良い。例えば、次のようなものが例示される。
【0101】
【化26】

【0102】
Yとしては、一価アニオンであって、ハロゲンイオン、SCN、ClO、BF、CFSO-、(CFSO、(CSO、PF、AsF、CHCOO、CH(C)SO、および(CSO-等を挙げることができる。
【0103】
(色素4)
【化27】

【0104】
また、有機色素としては、シアニン系色素、ヘミシアニン系色素、メロシアニン系色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、金属フリーフタロシアニン系色素を用いることができる。本発明において用いる色素としては、以下のようなものが例示される。
【化28】

【0105】
増感剤を酸化チタン層に吸着させる方法としては、溶媒に前記増感剤を溶解させた溶液を、酸化チタン層上にスプレーコートやスピンコートなどにより塗布した後、乾燥する方法により形成することができる。この場合、適当な温度に基板を加熱しても良い。または酸化チタン層を溶液に浸漬して吸着させる方法を用いることも出来る。浸漬する時間は増感剤が十分に吸着すれば特に制限されることはないが、好ましくは1〜30時間、特に好ましくは5〜20時間である。また、必要に応じて浸漬する際に溶媒や基板を加熱しても良い。好ましくは溶液にする場合の増感剤の濃度としては、1〜1000mM/L、好ましくは10〜500mM/L程度である。
【0106】
用いる溶媒としては、増感剤を溶解しかつ酸化チタン層を溶解しなければ特に制限されるとはないが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノールなどのアルコール、アセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、グルタロニトリル、などのニトリル系溶媒、ベンゼン、トルエン、o−キシレン、m−キシレン、p−キシレン、ペンタン、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、2−ブタノンなどのケトン、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ヘキサメチルホスホアミド、ジメトキシエタン、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、スルホラン、ジメトキシエタン、アジポニトリル、メトキシアセトニトリル、ジメチルアセトアミド、メチルピロリジノン、ジメチルスルホキシド、ジオキソラン、スルホラン、リン酸トリメチル、リン酸トリエチル、リン酸トリプロピル、リン酸エチルジメチル、リン酸トリブチル、リン酸トリペンチル、リン酸トリへキシル、リン酸トリヘプチル、リン酸トリオクチル、リン酸トリノニル、リン酸トリデシル、リン酸トリス(トリフフロロメチル)、リン酸トリス(ペンタフロロエチル)、リン酸トリフェニルポリエチレングリコール、及びポリエチレングリコール等が使用可能である。
【0107】
本発明の光電変換素子の例としては、例えば、図1に示す断面を有する素子を挙げることができる。この素子は、透明導電性基板1(基板A)上に増感剤を吸着した酸化チタン層3、対向電極基板2(基板B)を有しており、そして、酸化チタン層3と対向電極基板2の間にイオン伝導性フィルム4が配置され、周辺がシール部材5で密封されている。なお、リード線は基板Aと基板Bの導電部分に接続され、電力を取り出すことが出来る。
【0108】
本発明の光電変換素子を用いて太陽電池を製造する方法は、特に限定されないが、通常、増感剤を吸着した酸化チタン層を有する基板Aとイオン伝導性フィルムと基板Bを積層し、公知の方法により、周辺部を適宜シールすることにより容易に製造することができる。周辺部をシールする方法としては、どちらかの基板にイオン伝導性フィルムを配した後、その外側にシール材を配し、もう片方の基板を合わせる方法、シールとイオン伝導性フィルムを同じ基板に配する方法等を利用することができる。
【実施例】
【0109】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらになんら制限されるものではない。
【0110】
[実施例1]
《酸化チタン電極の製造》
表面抵抗値10Ω/sqのSnO:Fガラス(ガラス基板上にSnO:F膜を形成した透明導電性ガラス)上にSOLARONIX社製Ti−Nanoxide T/SPをギャップ130μmのアプリケーターを用いてコートし、乾燥後、450℃で1時間焼成することで厚さ10μmの酸化チタン層を形成した。
【0111】
《四塩化チタン水溶液処理》
非特許文献1記載の方法に従い作製した0.2mol/Lの四塩化チタン水溶液中に、上記酸化チタン電極を浸漬し、密閉状態で、40℃で放置した。所定時間放置後、純水で洗浄し、乾燥させた。得られたサンプルを、顕微ラマン装置(日本分光社製NS−1000)を用いてラマン散乱スペクトルを測定することで、図2のようなラマン散乱スペクトルが得られた。このラマン散乱スペクトルの634cm−1の酸化チタン由来のピーク強度の四塩化チタン水溶液処理時間依存性を表1に示した。処理時間2時間を境にピーク強度が減少に転じることが分かった。これらのサンプルを450℃で1時間焼成したところ、ピーク強度が減少に転じた後のサンプルでは、酸化チタン膜に激しくクラックが発生した。
【0112】
《色素・酸化チタン電極の製造》
上記で得られた四塩化チタン水溶液処理した酸化チタン電極を、下記式で示されるルテニウム色素(Rutenium−535−bisTBA、ソーラロニクス社製)/エタノール溶液(3.0×10−4mol/L)に15時間浸後、余分な色素をエタノールで洗浄し、風乾することで色素を吸着させた。
【0113】
【化29】

【0114】
《光電変換素子の製造》
次に、色素を吸着した酸化チタン電極の酸化チタン面とPt薄膜のついた導電ガラスのPt面を、44μmのPETフィルムをスペーサとして周辺に配置して向かい合わせて、その隙間に0.1mol/Lのヨウ化リチウム、0.5mol/Lのヨウ化1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、0.5mol/Lの4−t−ブチルピリジン、0.05mol/Lのヨウ素を含む3−メトキシプロピオニトリル溶液を毛管現象により注入し、周辺を紫外線硬化型シール材でシールし、光電変換素子とした。この光電変換素子に疑似太陽光を照射し電流電圧特性を測定したところ、表1のような結果が得られ、Run3のみが良好な特性を示すことが分かった。
【0115】
【表1】

【0116】
[実施例2]
《四塩化チタン水溶液処理》
0.2mol/Lの四塩化チタン水溶液中に、実施例1と同様に製造した酸化チタン電極を浸漬し、密閉状態で、70℃で放置した。所定時間放置後、純水で洗浄し、乾燥させた。得られたサンプルを、顕微ラマン装置(日本分光社製NS−1000)を用いてラマン散乱スペクトルを測定した。このラマン散乱スペクトルの634cm−1の酸化チタン由来のピーク強度の四塩化チタン水溶液処理時間依存性を表2に示した。処理時間30分を境にピーク強度が減少に転じることが分かった。これらのサンプルを450℃で1時間焼成したところ、ピーク強度が減少に転じた後のサンプルでは、酸化チタン膜に激しくクラックが発生した。
【0117】
《色素・酸化チタン電極の製造》
上記で得られた四塩化チタン水溶液処理した酸化チタン電極を、下記式で示されるルテニウム色素(Rutenium−620−1H3TBA、ソーラロニクス社製)/エタノール溶液(1.0×10−4mol/L)に15時間浸後、余分な色素をエタノールで洗浄し、風乾することで色素を吸着させた。
【0118】
【化30】

【0119】
《光電変換素子の製造》
次に、色素を吸着した酸化チタン電極の酸化チタン面とPt薄膜のついた導電ガラスのPt面を、44μmのPETフィルムをスペーサとして周辺に配置して向かい合わせて、その隙間に0.6mol/Lのヨウ化1−プロピル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、0.5mol/Lの4−t−ブチルピリジン、0.1mol/Lのチオシアン酸グアニジン、0.05mol/Lのヨウ素を含む3−メトキシプロピオニトリル溶液を毛管現象により注入し、周辺を紫外線硬化型シール材でシールし、光電変換素子とした。この光電変換素子に疑似太陽光を照射し電流電圧特性を測定したところ、表2のような結果が得られ、Run4のみが良好な特性を示すことが分かった。
【0120】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0121】
【図1】本発明の光電変換素子の断面の例である。
【図2】実施例1の酸化チタン電極のラマン散乱スペクトルである。
【符号の説明】
【0122】
1 透明導電性基板
2 対向電極基板
3 酸化チタン層
4 イオン伝導性フィルム
5 シール部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン電極を四塩化チタン水溶液で処理する際に、酸化チタン電極のラマン散乱スペクトルにおける100〜800cm−1に観察される酸化チタン由来のピーク強度が最大になるように処理時間を調整することを特徴とする酸化チタン電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の製造方法で製造された酸化チタン電極を用いた光電変換素子。
【請求項3】
少なくとも一方が透明な二枚の導電性基板と、当該導電性基板のうち片方の導電性基板の導電面上に設けられた増感剤により修飾された酸化チタン層と、当該2枚の導電性基板の間に設けられた、少なくとも可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質を含有した電解液を含有する電解質層からなる光電変換素子であって、前記酸化チタン層として請求項1に記載の製造方法で製造された酸化チタン電極を用いたことを特徴とする光電変換素子。
【請求項4】
前記電解質層が、固体電解質であることを特徴とする請求項3記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記固体電解質が、少なくとも(a)高分子マトリックスおよび(c)可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質からなるイオン伝導性フィルムであることを特徴とする請求項3又は4に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記高分子マトリックスがポリフッ化ビニリデン系高分子化合物であることを特徴とする請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記ポリフッ化ビニリデン系高分子化合物がカルボキシル基を含有することを特徴とする請求項6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記可逆な電気化学的酸化還元特性を示す物質が常温溶融塩類であることを特徴とする請求項3〜7のいずれかの項に記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−85948(P2006−85948A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267249(P2004−267249)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】