説明

酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法

【課題】純度がより低いスピネルを用いた際に、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の不良品の発生をより抑制する。
【解決手段】本発明の酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法は、所定の低純度範囲であるが酸化アルミニウムを含まないスピネルと酸化マグネシウムとを混合して混合原料を得る混合工程と、混合した混合原料を成形して焼成する成形焼成工程と、を含むものである。また、原料であるスピネルは、酸化マグネシウムを過剰に含んでいてもよい。この酸化マグネシウムの過剰量は、5重量%以下であることが好ましい。また、混合工程では、酸化マグネシウムと、酸化アルミニウムを含まないスピネルとを有機溶媒中で混合することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物としては、平均粒径50μm以下のマグネシア粒子と平均粒径50μm以下のスピネル粒子からなり、相対密度が98%以上であり、不純物含有量1%以下であるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物は、マグネシアのモル百分率を変えることにより熱膨張係数を調整することができ、例えば燃料電池用シール材として用いることができる。
【特許文献1】特開平7−126061号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、この特許文献1に記載された酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法は、純度が99.9%以上のマグネシア粉体と、純度が99.9%以上のスピネルとを混合して作製することがあり、低純度の原料を用いて作製することについては検討されておらず、低純度の原料を用いて酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物を作製すると、不良品が発生することがあった。
【0004】
本発明は、このような課題に鑑みなされたものであり、純度がより低いスピネルを用いた際に、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の不良品の発生をより抑制することができる製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の原料として、酸化アルミニウムを含まずに酸化マグネシウムを過剰に含むスピネルを用いるものとすると、不良品の発生をより抑制することができることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0006】
即ち、本発明の酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法は、
酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法であって、
所定の低純度範囲であるが酸化アルミニウムを含まないスピネルと、酸化マグネシウムとを混合して混合原料を得る混合工程と、
前記混合した混合原料を成形して焼成する成形焼成工程と、
とを含むものである。
【0007】
また、本発明のスピネルは、
所定の低純度範囲であり酸化アルミニウムを含まず酸化マグネシウムを過剰に含み、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の原料として用いられるものである。
【発明の効果】
【0008】
この酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法では、純度がより低いスピネルを用いた際に、不良品の発生をより抑制することができる。また、このスピネルは、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法に用いることができる。このような効果が得られる理由は、例えば、以下のように推測される。酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の原料として用いるスピネルは、マグネシウムとアルミニウムの複合酸化物であるため、マグネシウムの含有量が多いものやアルミニウムの含有量が多いものなど、純度が多様になりやすい。所定の低純度範囲であるスピネル、例えば酸化アルミニウムを含むスピネルを原料に用いて酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物を成形して焼成すると、このスピネルに含まれる酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとが反応して新たなスピネルが生成する。このスピネルが生成するのに伴い5〜7体積%の体積膨張が起こり、焼成体にクラックが生じることがある。これに対して、本発明の製造方法では、酸化アルミニウムを含まないスピネルを原料に用いているため、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物を成形して焼成しても、スピネルの生成に伴う体積変化が抑えられるため、成形体のクラックの発生を抑制することができる。一方、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の原料である酸化マグネシウムは、スピネルのように、体積変化を生じるような不純物(例えばアルミニウム)を含むことが少ない。したがって、所定の低純度範囲のスピネルを用いても不良品の発生をより抑制することができるものと推測される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に、本発明を実施するための最良の形態を説明する。本発明の酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法は、(1)所定の低純度範囲であるが酸化アルミニウムを含まないスピネルと、酸化マグネシウムとを混合して混合原料を得る混合工程と、(2)混合した混合原料を成形して焼成する成形焼成工程と、を含んでいる。
【0010】
(1)混合工程
本発明の混合工程では、所定の低純度範囲であるが酸化アルミニウムを含まないスピネルと、酸化マグネシウムとを混合して混合原料を得る。こうすれば、スピネルに含まれる酸化マグネシウムとが反応して新たなスピネルが生成してしまうのを抑制することができ、それに伴う体積変化を抑制することができる。ここで、「スピネルの所定の低純度範囲」とは、例えば、スピネルの純度の上限が99重量%未満のものや96重量%以下のものや90重量%以下のものとしてもよいしスピネルの純度の下限が80重量%以上のものとしてもよい。このスピネルは、基本組成式がMgAl24で示される結晶である。このスピネルは、酸化アルミニウムを含まないものであればよく、酸化マグネシウムを過剰に含むものとしてもよい。スピネルはアルミニウムとマグネシウムとを混合したものを加熱して合成することがあるが、マグネシウムを過剰とすれば、より容易に酸化アルミニウムを含まないスピネルを合成することができる。スピネルに酸化マグネシウムが過剰に含まれていても、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造時に体積変化が起きにくいため、不良品の発生をより抑制する効果に影響を与えにくい。このスピネルは、5重量%以下の酸化マグネシウムを含むものとするのが好ましく、2重量%以下の酸化マグネシウムを含むものとするのがより好ましい。スピネルに含まれる酸化マグネシウムが5重量%以下であれば、目的とする組成比からのずれを、より小さいものとすることができる。ここで、材料の含有量について、マグネシウム成分の含有量は、日本セラミックス協会規格JCRS106−2000の「9.酸化マグネシウムの定量方法」に記載された炭酸アルカリ溶融・EDTA滴定法による測定値をいう。また、アルミニウム成分の含有量は、JIS−R1675の「6.アルミニウムの定量方法」に記載されたシクロヘキサンジアミン四酢酸−亜鉛逆滴定法による測定値をいう。
【0011】
本発明の混合工程において、原料として用いる酸化マグネシウムは、成形焼成工程で体積変化が起きにくいものとすれば、目的とする特性(例えば熱膨張率など)に影響を与えない範囲の純度のものを用いることができる。スピネルと酸化マグネシウムとの配合比は、例えば、目的とする熱膨張係数に合わせて適宜選択するものとしてもよい。このスピネルと酸化マグネシウムとの混合は、乾式混合や湿式混合で行うことができるが、原料を十分に混合する観点からは湿式混合を行うのがより好ましい。この湿式混合では、水系溶媒や有機溶媒などを用いて行うことができるが、有機溶媒中を用いて行うことが好ましい。例えば、溶媒を水として行う場合は原料の酸化マグネシウムが水和してしまうが、こうすれば、酸化マグネシウムが水和してしまうのを抑制することができる。有機溶媒としては、例えば、エタノールやイソプロピルアルコールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、ヘキサンなどの直鎖アルカン、シクロヘキサンなどの環状化合物などが挙げられる。このうち、取り扱いの容易性からアルコール類が好ましい。原料の混合は、例えば、ポットミル、遊星ミル、アトライタ、乳鉢などを用いることができる。溶媒を用いて混合したあと、例えばスプレードライヤーなどを用いて所定の粒径範囲に造粒して混合原料の粉体としてもよい。あるいは、溶媒を用いて混合したあと、乾燥し、乳鉢などで乾式粉砕を行ったあと、篩を用いて所定の粒度に分級し混合原料の粉体としてもよい。混合原料の粉体は、成形の容易さを考慮すると成形方法に合わせた粒度に調整するのが好ましい。
【0012】
(2)成形焼成工程
本発明の成形焼成工程では、混合した混合原料を成形して成形体を作製し、この作製した成形体を焼成して焼成体を得る処理を行う。成形処理は、例えば、金型プレス成形やホットプレス成形、冷間等方成形(CIP)、熱間等方成形(HIP)などにより任意の形状に行うことができる。また、混合原料を坏土やスラリーとして得た場合には、成形方法は、押出成形や塗布成形などにより行うことができる。焼成処理は、例えば1400℃以上1900℃以下の範囲の温度で行うことができる。
【0013】
本発明におけるスピネルは、所定の低純度範囲であり酸化アルミニウムを含まず酸化マグネシウムを過剰に含み、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の原料として用いられるものである。このスピネルは、その合成時に、アルミニウムとマグネシウムとの配合比が、マグネシウム過剰の条件で作製されていることが好ましい。こうすれば、酸化アルミニウムを含まず酸化マグネシウムを過剰に含むものをより容易に合成することができる。
【0014】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例】
【0015】
以下には、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物を具体的に作製した例を、実施例として説明する。
【0016】
[実施例1]
スピネルの含有量が98.4重量%であり、酸化マグネシウム(MgO)が0.8重量%、その他微量成分が0.8重量%であるスピネル粉体と、酸化マグネシウム粉体とを重量比で、93:7となるように秤量し、ポットミルに入れ有機溶媒としてエタノールを加えて3時間、混合粉砕した。なお、スピネルの含有量は、上述したJCRS106−2000の炭酸アルカリ溶融・EDTA滴定法によるマグネシウム成分の含有量と、JIS−R1675のシクロヘキサンジアミン四酢酸−亜鉛逆滴定法によるアルミニウム成分の含有量と、により求めた値である。混合粉砕した原料を80℃で24時間乾燥したあと乳鉢で粉砕し、篩を用いて150μm以下の粒度に分級して混合原料粉体を得た。この混合原料粉体を10MPaで35mm×20mm×5mmの形状に金型プレス成形を行ったのち、400MPaの条件でCIP処理を行い成形体を得た。この成形体を200℃/hの昇温速度、1500℃で2時間保持する焼成を行い、得られた酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の焼成体を実施例1とした。この実施例1のスピネルと酸化マグネシウムとの重量比、スピネルに含まれる酸化物の割合、焼成体の評価を表1に示す。この表1には、後述する実施例2,3及び比較例1〜6についても示した。
【0017】
【表1】

【0018】
[実施例2,3]
原料配合において、スピネル粉体と、酸化マグネシウム粉体とを重量比で、85:15となるように秤量した以外は実施例1と同様の工程を経て得られた酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の焼成体を実施例2とした。また、原料配合において、スピネル粉体と、酸化マグネシウム粉体とを重量比で、79:21となるように秤量した以外は実施例1と同様の工程を経て得られた酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の焼成体を実施例3とした。
【0019】
[比較例1〜3]
原料配合において、JCRS106−2000の炭酸アルカリ溶融・EDTA滴定法及びJIS−R1675のシクロヘキサンジアミン四酢酸−亜鉛逆滴定法によるMg,Al含有量から求めたスピネルの含有量が94.9重量%であり、酸化アルミニウム(Al23)が5.1重量%であるスピネル粉体を用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られた酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の焼成体を比較例1とした。また、原料配合において、比較例1のスピネル粉体を用いた以外は実施例2と同様の工程を経て得られた酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の焼成体を比較例2とした。また、原料配合において、比較例1のスピネル粉体を用いた以外は実施例3と同様の工程を経て得られた酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の焼成体を比較例3とした。
【0020】
[比較例4〜6]
原料配合において、JCRS106−2000の炭酸アルカリ溶融・EDTA滴定法及びJIS−R1675のシクロヘキサンジアミン四酢酸−亜鉛逆滴定法によるMg,Al含有量から求めたスピネルの含有量が93.4重量%であり、酸化アルミニウム(Al23)が5.9重量%、その他微量成分が0.7重量%であるスピネル粉体を用いた以外は実施例1と同様の工程を経て得られた酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の焼成体を比較例4とした。また、原料配合において、比較例4のスピネル粉体を用いた以外は実施例2と同様の工程を経て得られた酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の焼成体を比較例5とした。また、原料配合において、比較例4のスピネル粉体を用いた以外は実施例3と同様の工程を経て得られた酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の焼成体を比較例6とした。
【0021】
[実験結果]
比較例1〜6の焼成体では、その表面にクラックが多数みられたが、実施例1〜3の焼成体では、その表面にクラックはみられなかった。この結果より、酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の原料として、純度が低いスピネルを用いた際に、そのスピネルに酸化アルミニウムが含有していると、成形体の焼成時にクラックが入りやすいことがわかった。これは、焼成時に酸化アルミニウムと酸化マグネシウムとが反応し、新たなスピネルが生成すると共に体積変化が起き、これによりクラックが入っているものと推察された。これに対して、酸化マグネシウムを含むスピネルを用いた実施例1〜3では、スピネル生成の体積変化がないため、すべての試料でクラックはみられなかった。即ち、純度が低いスピネルを用いるときは、酸化アルミニウムがリッチであるものではなく酸化マグネシウムがリッチであるものを原料とすべきであることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法であって、
所定の低純度範囲であるが酸化アルミニウムを含まないスピネルと、酸化マグネシウムとを混合して混合原料を得る混合工程と、
前記混合した混合原料を成形して焼成する成形焼成工程と、
を含む酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記混合工程では、酸化マグネシウムを過剰に含むスピネルを用いる、請求項1に記載の酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法。
【請求項3】
前記混合工程では、5重量%以下の酸化マグネシウムを含むスピネルを用いる、請求項2に記載の酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程では、前記酸化マグネシウムと前記酸化アルミニウムを含まないスピネルとを有機溶媒中で混合する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の酸化マグネシウム−スピネル複合酸化物の製造方法。

【公開番号】特開2010−126374(P2010−126374A)
【公開日】平成22年6月10日(2010.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−299751(P2008−299751)
【出願日】平成20年11月25日(2008.11.25)
【出願人】(000004064)日本碍子株式会社 (2,325)
【Fターム(参考)】