説明

酸化亜鉛蛍光体の製造方法およびその利用

【課題】
塩化亜鉛を原料に使用し、高輝度酸化亜鉛蛍光体薄膜を、低温・簡易・低コストで製造する方法を提供する。また、当該酸化亜鉛薄膜を発光層に用いる、希土類などの添加元素を用いない、新しい無機EL素子を提供する。
【解決手段】
排気量制御により供給する有機物気体を含む雰囲気ガス中で、塩化亜鉛を加熱して気化させ、基板上に酸化亜鉛を析出させる酸化亜鉛蛍光体の製造方法、および当該方法により得られる酸化亜鉛薄膜を発光層とする新しい無機EL素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化亜鉛蛍光体の製造方法およびその利用に関し、更に詳しくは、真空蛍光ディスプレイ用蛍光体や無機EL素子として各種のディスプレイに応用できる、蛍光特性に優れた酸化亜鉛蛍光体薄膜の簡易な製造方法、並びに当該薄膜を利用する蛍光体および無機EL素子に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化亜鉛は資源的に豊富で安価な材料として、白色顔料や透明電極などの用途に用いられる。化学量論組成の酸化亜鉛(ZnO)は白色でほとんど蛍光を示さず、還元処理によって蛍光特性が現れる。還元処理を施した酸化亜鉛は、電子照射や紫外線励起に対して蛍光を示し、緑色蛍光体として真空蛍光ディスプレイ用蛍光体として実用されている(非特許文献1参照)。工業的に酸化亜鉛を得る方法としては、加熱で発生した亜鉛蒸気を空気中の酸素と反応させて酸化亜鉛粉体を得る、フランス法やアメリカ法と呼ばれる乾式法が用いられることが多い(非特許文献2参照)。
【0003】
このように従来技術を用いると、(1)蛍光特性を付与するために酸化亜鉛を900℃程度で還元焼成処理する必要がある、(2)蛍光板や発光デバイスを作製するには蛍光体粉末を基板へ塗布した上、固着させるために再び焼成する必要がある、といった問題があった。還元性ガスは爆発や毒性の問題もあり極力使用しないことが望ましく、デバイス製造工程の煩雑化は高コストであるため好ましくない。
【0004】
一方、蛍光体粒子を誘電体中に分散させて、交流電圧を印加すると発光が生じる。これは無機EL(Electroluminescence)と呼ばれる。現在無機EL用の発光層は硫化物蛍光体が主流であるが、硫化物蛍光体は空気中の水分に弱いという化学的安定性に問題を抱えており、高度の封止技術が要求される。また、製造工程においても空気が酸素混入源となり得るため、雰囲気制御が求められ高コスト化が避けられない。
【0005】
それに比べて、酸化物蛍光体は水分に対する耐性が高く寿命の点で優れている上、酸素源として空気を利用することができることから製造工程におけるメリットも大きい。また、無機EL素子は、主に単一絶縁体構造、二重絶縁体構造の二つが提案されているが、酸化物蛍光体は水分・酸素への耐性が高いことから、単一絶縁体構造でも安定して動作することが報告されている(非特許文献3参照)。
【0006】
白色発光の無機ELは、蛍光灯に替わる白色光源として、フルカラーフラットパネルディスプレイや白色光源、表示デバイスなどへの応用が期待されているが、これまで、白色発光の無機ELとして考案されているものは、いずれも複数の発光中心元素を添加するものであり、赤−青−緑の光の三原色の成分の混合比から「視覚的な白色」に見えるものであるため、太陽光を代表とする連続スペクトルからなる白色とは本質的に異なり、太陽光下で見た場合の色合いが異なるといった問題がある。また表示デバイス用発光体へと応用する場合、三色の異なる発光層を別々に堆積させるよりは、カラーフィルター方式で白色から三色光を取り出す方が、発光層が一種類で済むため有利である。
【0007】
【非特許文献1】「Phosphor Handbook」eds. S. Shionoya, W. M. Yen (CRC Press, 1999), pp.254-255、pp. 561-580
【非特許文献2】化学便覧 応用化学編Iプロセス編p. 290
【非特許文献3】T. Minami et al., Jpn. J. Appl. Phys. 30 (1991) L117
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記実情に鑑みなされたものであり、その目的は、一般に安価で入手できる塩化亜鉛を原料に使用し、高輝度酸化亜鉛蛍光体薄膜を、低温・簡易・低コストで製造する方法を提供することにある。また、他の目的として、当該酸化亜鉛薄膜を発光層に用いることにより、希土類などの添加元素を用いない、新しい無機EL素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は、排気量制御により供給する有機物気体を含む雰囲気ガス中で、塩化亜鉛を加熱して気化させ、基板上に酸化亜鉛を析出させることを特徴とする酸化亜鉛蛍光体の製造方法、及び当該方法により得られる酸化亜鉛薄膜を発光層とする、単一絶縁体構造からなる、連続スペクトルを与える新しい無機EL素子に存する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、安価な塩化物原料を使用し、高輝度酸化亜鉛蛍光体薄膜を、低温・簡易・低コストで製造することができる。また、当該酸化亜鉛薄膜を発光層に用いることにより、希土類などの添加元素を用いずに、ありふれた酸化亜鉛という材料だけを用いて、連続スペクトルを与える単一絶縁体構造の新しい無機EL素子が提供される。さらに、当該酸化亜鉛薄膜は、透明電極として機能するため、高価なITO透明電極を省略することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の酸化亜鉛蛍光体の製造方法は、排気量制御により供給する有機物気体を含む雰囲気ガス中で、塩化亜鉛を加熱して気化させ、基板上に酸化亜鉛を析出させて薄膜を形成することを特徴とする。すなわち、本発明の方法は、塩化亜鉛を原料に用いたCVD法の一種であり、塩化亜鉛を加熱することで塩化亜鉛蒸気を発生させ、有機物気体を含む供給ガス(窒素/酸素混合ガス)を用いて原料を運び、基板付近で酸素または水蒸気と反応させて酸化亜鉛の膜を堆積させるものである。
【0012】
従って、本発明の方法では、「キャリアガス」と「反応ガス」の2系統のガスラインを必要とせず、装置が簡素化され、一工程で基板上に蛍光体酸化亜鉛薄膜を作製することができる。なお、耐熱性の低い基板を使用したい場合には、いったん作製した薄膜を回収して粉砕することで酸化亜鉛蛍光体粉末を得て、これを耐熱性の低い基板へ塗布するような使用法も可能である。
【0013】
本発明の方法では、導入量を一定に制御する従来の化学気相析出法と異なり、排気量制御により、析出の均一性の向上、析出温度の低温化の効果を与えるため、排気量を一定に制御する。一定に制御するとは、例えば引圧の条件を一定とすることで、排気量が実質的に一定になればよい。排気速度としては、容量136ml(内径2.4cm、長さ30cm)の反応管(図1参照)に対して、5〜100sccm(標準状態(0℃、1.013bar)において一分あたりに流れる気体の体積(cm/分)))程度が適当であり、好ましくは、5〜50sccmの範囲である。このとき反応管内におけるガス流速に換算すると、1.1〜22.0 cm/分であり、好ましくは1.1〜11.0cm/分の範囲である。
【0014】
供給する雰囲気ガスとしては、空気または窒素/酸素の混合ガスを使用できる。混合ガス中の酸素の濃度は、合成温度にもよるが、5〜50 容量%の範囲が好ましい。反応論的には酸化亜鉛が析出するには塩化亜鉛の量(モル数)の1/2あれば充分で、塩化亜鉛の蒸気圧(=加熱温度)に依存し、高濃度では、急激に反応が進行する危険性があり、ある程度窒素で希釈する方がよく、空気と類似(窒素79%/酸素21%)の混合ガスが好適に使用できる。
【0015】
雰囲気ガス中の有機物気体の含有量としては、0.001〜0.1容量%の範囲が、蛍光特性のよい薄膜を得られるので、好ましい。有機物気体としては、反応温度時に不完全燃焼により弱還元雰囲気を作り出せるものであれば、特に限定されないが、メタン、エタン、プロパン等の炭化水素や、揮発性液体、例えば、メタノール、プロパノール、ブタノールなどの蒸気圧が比較的高いアルコール類、アセトン等のケトンやベンゼン等の芳香族化合物も使用できる。これらの中でも、炭素数1〜4の炭化水素又は低級アルコールが好ましく、毒性も低く取扱いの容易なエタノールが特に好ましい。
【0016】
有機物気体の添加は、予め所定量の有機物気体を含む供給ガスを使用してもよいが、実験室などでは、例えばエタノールを用いる場合、引圧により吸気口によりガスを吸い込んで、ボンベより排気されるよりも多く雰囲気ガスを供給し、圧力調整口を設置した(密栓しない)容器に入れた所定濃度のエタノール水溶液をバブリングし、反応管内へ吸気により供給する方法が、簡便で好ましい。なお、ボンベより供給されたガスの余剰分は栓つけられた圧力調整口より外部へ放出され、容器内部は常の大気圧に保たれる(図2参照)。
【0017】
原料の塩化亜鉛は、室温では粉末であり、潮解性が非常に高く、室温状態では取り扱いが困難なので、例えば150℃に加熱したホットプレート上でアルミナ製ボードに充填して、反応管内へ設置するのが好ましい。塩化亜鉛の融点は290℃で、428℃における蒸気圧は1mmHg(アルドリッチMSDSデータ)であり、反応温度付近で融解−気化が起こる。なお、塩化亜鉛の沸点は730℃(岩波 理化学辞典)である。
【0018】
塩化亜鉛の量は、基板の大きさにより適宜決めることができる。例えば、あらかじめ各合成条件における析出収率(原料のうち基板上に析出する割合)を調べておき、原料の量を調整することで、任意の大きさの基板上に希望する膜厚分だけ堆積させることができる。また堆積速度を調べることで、原料を多量に入れておいて時間が来たら基板を取り出すという方法で任意の膜厚の薄膜を得ることもできる。
【0019】
基板としては、反応温度に耐えるものであれば特に制限されないが、蛍光ディスプレイとして使用する場合は、例えば、アルミナ、ガラス、あらかじめ透明電極を作製したガラス等を使用する。また、無機EL素子として使用する場合は、基本的には耐絶縁性がよければいかなる絶縁体でも使用でき、アルミナ(Al)、ガラス(SiO)、あらかじめ透明電極を作製したガラス等も使用できるが、発光層に注入されるキャリアをかせぐためには誘電率の高い材質の方が好ましく、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO)、酸化タンタル(Ta)、チタン酸鉛(PbTiO)、チタニア(TiO)等の無機誘電体基板が望ましい。
【0020】
基板の設置場所などは、任意であるが、酸化亜鉛を効率的に析出させるため、気化させる塩化亜鉛と近接して、水平に保持することが好ましい。気化した塩化亜鉛は、酸素または水蒸気と反応して酸化亜鉛となり基板上に析出するこの反応は、例えば、酸素と反応する場合は、下式(1)の様に表すことができる。成膜速度は毎時20μm以上である。
【化1】

【0021】
本発明の方法では、析出状態を向上させるため、排気量制御により雰囲気ガスを供給しながら基板上に酸化亜鉛を析出させるので、原料の気化が始まると部分的にガスの供給が減少する。この「排気量制御」が有効である詳細なメカニズムは明らかではないが、外部から一定量ガスを導入する場合では、「導入したガス(一定)」+「発生した塩化亜鉛蒸気」=「排気される気体量」となるが、排気量制御では、「導入したガス」+「発生した塩化亜鉛蒸気」=「排気される気体量(一定)」となるため、反応の段階に応じて供給ガス量が自動的に調節されることを意味している。すなわち、原料の蒸発とともに空気の供給が自然に制限される、という反応過程が効いていると考えられる。
【0022】
反応温度は、通常1〜10時間で、反応温度は、通常500〜700℃である。反応圧力は、特に限定はないが、通常、大気圧でよい。析出反応を終了したら、ガスを供給しながら炉内で放冷し、反応管の温度が、例えば200℃以下になってから試料を取り出す。得られる酸化亜鉛薄膜は、例えば、真空蛍光ディスプレイ等の各種の電子・紫外線励起の表示板に好適に使用される、優れた蛍光特性を示す。酸化亜鉛の膜厚は、通常0.1〜100μmの範囲である。
【0023】
次に、上記の様にして得られた高輝度酸化亜鉛蛍光体を発光層とする無機EL素子について説明する。無機EL素子を作成するには、前記したチタン酸バリウム等の無機誘電体基板を用いて、前記した方法で酸化亜鉛薄膜を形成させる。得られた高輝度酸化亜鉛蛍光体を用いて、一般的な薄膜型無機ELに用いられる素子構造(背面電極(銀)/チタン酸バリウム薄板/酸化亜鉛蛍光体層/透明電極)とすればよい(図4(b)参照)。
【0024】
無機EL素子は、硫化物系蛍光体の場合、背面電極(Al)/絶縁体層/発光層/絶縁体層/透明電極/ガラスから成る、封止をかねた二重絶縁体構造(図4(a))が採用されている。酸化亜鉛蛍光体は、水分・酸素への耐性が高いことから、単一絶縁体構造でも安定して動作する。したがって、上部絶縁体層が不要であること、発光層から出た光が絶縁体層で減衰しない、などの利点がある。透明電極には主に、通常スパッタ法で作製されるITO(インジウム-スズ酸化物)膜やAZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)が用いられる。
【0025】
更に、酸化亜鉛は透明電極材料のひとつであり、発光層として利用すると酸化亜鉛が発光層兼透明電極の役割を果たし、ITO等の透明電極不要な新しい無機EL素子が開発できる可能性がある。素子構造が簡素化されるため、製造工程が簡略になること、希少元素であるインジウムを用いた透明電極を必要としないこと、といった利点がある(図4(c)参照)。
【0026】
無機EL素子の作製は、次の様な手順で行われる。まずチタン酸バリウム基板に、上記した本発明の方法で発光層となる酸化亜鉛薄膜を堆積させる。このチタン酸バリウム薄板の厚さは特に限定しないが、同じ印加電圧でも電極間距離(=チタン酸バリウム基板の厚さ)は小さいほど効率よくEL発光に必要な高電界を得ることができる。これは一般的なコンデンサの性質より、電界EがV/d(V;印加電圧、d;電極間距離)で表されるためである。ただしdが小さい(薄い)と、取扱い上適切な基板の機械的強度が得られないため、チタン酸バリウム基板の厚さとしては0.1〜1.0mmが適当である。
【0027】
続いて、この酸化亜鉛発光層の上に透明電極を作製する。ITO(インジウム-スズ酸化物)透明電極を用いる場合には、スパッタ法を用いて酸化亜鉛発光層の上にITO薄膜を堆積させる。またFTO(フッ素ドープ酸化スズ)透明電極を用いる場合には、スプレー熱分解法を用いてFTO薄膜を堆積させる。これらの透明電極が光を取り出すための上部電極となる。透明電極を用いない素子には、これらの透明電極作製操作を行わない。
【0028】
チタン酸バリウムの背面へは金属電極を作製する。一般的な金属電極であれば何でもよいので、真空蒸着法やイオンコータを用いてアルミニウム、金、銀などの金属薄膜を堆積させて電極とするか、ペースト状の銀や金を塗布して電極としてもよい。上部電極と背面電極にリード線をつけ、高周波電源に接続する。この際銀ペーストなどを用いてリード線を接続することが望ましい。また、透明電極を使用しない素子の場合は、銀ペーストを用いて直接発光層にリード線を接続する。
【0029】
本発明の無機EL素子は、連続スペクトルを発光するので、フラットパネルディスプレイ、照明などの白色光源への応用が期待される。すなわち、複数の発光中心元素を添加する赤−青−緑の光の三原色の成分の混合比から「視覚的な白色」に見えるものとは異なり、連続スペクトルからなる白色では太陽光下で見た場合の色合いが異なるといった問題がない。また表示デバイス用発光体へと応用する場合、一種類の発光層から、カラーフィルター方式で白色から三色光を取り出す方法が採れるため有利である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。以下の実験例においては、析出状態および蛍光特性を目視により次の基準で評価した。評価基準を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
実施例1及び比較例1
あらかじめ150℃に予熱したアルミナ管を炉心管とする管状炉(図1)内のアルミナ製ボートに、原料の塩化亜鉛を充填し、その上にアルミナ基板(10×10×1mm)を載せ、炉心管の両端にセラミックス製の栓(不燃栓TT−24)をして密閉した後、図2に示す様に、排気口を換気扇に接続し、排気量を一定とする吸気式で雰囲気ガスを供給しながら、毎分10℃の速度で550℃まで昇温した。550℃に達した後、1時間保持した後、ガスを供給しながら炉内で放冷した。反応管の温度が200℃以下になってから試料を取り出した。
【0033】
実施例1及び比較例1においては、供給ガスとして、窒素(79%)/酸素(21%)の混合ガスを使用し、排気速度15sccmで排気しながら、ガラス容器に貯めた0.501mol%エタノール水溶液(実施例1)又は水(比較例1)にバブリングさせて、反応管に供給した。供給ガスには、水温(室温)の蒸気圧に相当するエタノール及び水蒸気が取り込まれる。実施例1におけるエタノールの供給ガスに対する添加量は0.029容量%、水の添加量は2.19容量%であり、比較例1における水の供給ガスに対する水蒸気の濃度は2.31容量%であった。
【0034】
得られた試料について、酸化亜鉛の析出状態の評価およびキセノンショートアークランプ(ウシオ電機社製)の白色光より、朝日フィルター社製のバンドパスフィルター(330±5nm)で紫外線を取り出し、試料に照射して蛍光特性を評価した。その結果を表2に示す。また、浜松ホトニクス社製の分光器(PMA−11)で蛍光スペクトルを測定した(図3)。なお、図3では蛍光強度を比較するために、励起光(330nm)の紫外線)の反射強度で規格化してある。また、析出膜は粉末X線回折強度測定実験により多結晶性の酸化亜鉛であることを確認した。
【0035】
【表2】

【0036】
比較例2〜4
実施例1において、吸気式に代えて、ガラス容器の圧力調整口を閉じて供給ガスを一定量導入する方式とし、表3に記載したガス流量および反応時間とした他は、実施例1と同様にして、試料を作成した。実施例1と同様にして評価した結果を表3に示す。この方式では、酸化亜鉛が殆ど析出しないか、析出しても基板上の極一部であった。実験終了後の反応管内や基板には未反応の塩化亜鉛が付着しており、気化した原料が分解せずに残留しているものと考えられた。
【0037】
【表3】

【0038】
実施例2〜7
実施例1において、表4に記載した反応温度またはエタノール添加量とした他は、実施例1と同様にして、試料を作成した。実施例1と同様にして析出状態および蛍光特性を評価した。これらの結果を表4に示す。
【0039】
【表4】

【0040】
実施例8及び比較例5
実施例1及び比較例1において、アルミナ基板に代えて、チタン酸バリウム薄板(10mm×0.2mm厚)を用いた他は、実施例1または比較例1と同様にして、試料を作成した。実施例1と同様にして析出状態および蛍光特性を評価した。これらの結果を表5に示す。
【0041】
【表5】

【0042】
実施例9
実施例8で得られた試料を用いて、酸化亜鉛を発光層に用いた単一絶縁体構造の無機EL素子(図4(b))を作製した。素子構造は一般的な薄膜型無機ELに用いられるものと同じで、背面電極(銀)/チタン酸バリウム薄板/酸化亜鉛蛍光体層/透明電極とした(非特許文献3参照)。透明電極にはスパッタ法により成膜(100nm)したITO(インジウム-スズ酸化物)膜、またはスプレー法により作製したフッ素ドープ酸化スズ(FTO)を用いた(膜厚100nm)。
【0043】
得られた素子に交流高周波電圧を印加した。電源には玉置電子工業(株)TE−LV20K−TUATを用い、次の条件でEL発光の観測を行った。
交流方形波
印加電圧VP−P:120〜300V
周波数 :1〜20kHz
透明電極の材質:ITO、FTO
【0044】
図5に発光時の写真と発光スペクトルを示す。発光が観察され始める電圧(しきい電圧)は、VP−P=約120Vであった。発光スペクトルより求めた色度座標は(0.52,0.40)で、橙色に相当した。発光が観察される条件下において、発光スペクトルは試料、印加電圧、周波数に依存しなかった。また、透明電極の材質の違いによるEL発光特性に違いは見られなかった。発光層の紫外線に対する蛍光特性は、EL発光特性にほとんど影響を与えないことから、発光の由来がPL(Photoluminescence)と異なることが示唆された。発光は500nmを起点として長波長側へいくにつれ強度が増大した。連続スペクトルという点で、「白色的」であった。
【0045】
実施例10
実施例9において、透明電極を用いない他は、実施例9と同様にして、背面電極/絶縁体層/発光層の素子(図4(c))を作製した。酸化亜鉛蛍光体層が数百〜1000Ω程度と比較的低抵抗であり、発光層兼透明電極として機能することがわかった。実施例9と類似のEL発光が得られた(図6参照)。数時間程度連続発光させても、発光素子の劣化は見られなかったことから、発光層兼透明電極構造として実験室レベルでの安定性には問題ないことがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明の方法により、プラズマディスプレイ、真空蛍光ディスプレイ、CRTディスプレイ、その他電子・紫外線励起の表示板(例えば透過型電子顕微鏡用の蛍光板など)に好適に利用可能な、酸化亜鉛蛍光体薄膜を低コストで製造することができる。また、当該酸化亜鉛を発光層に用いた、連続スペクトルからなる新しい無機EL素子として、フラットパネルディスプレイ、照明などの白色光源への応用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】図1は酸化亜鉛蛍光体の製造に使用した反応装置を模式的に示す図である。
【図2】図2は吸気式ガス供給部の概略を模式的に示す図である。
【図3】図3は実施例1及び比較例1で得た試料の蛍光スペクトルを示す図である。
【図4】図4は無機ELの素子構造を示す模式図である。
【図5】図5は実施例9で作成した素子の発光時の写真と発光スペクトルを示す図である。
【図6】図6は実施例10で作成した素子の発光スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
排気量制御により供給する有機物気体を含む雰囲気ガス中で、塩化亜鉛を加熱して気化させ、基板上に酸化亜鉛を析出させることを特徴とする酸化亜鉛蛍光体の製造方法。
【請求項2】
排気量が、反応管内におけるガス流速として、1.1〜22.0 cm/分の範囲に制御されることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
供給する雰囲気ガス中の有機物気体濃度が0.001〜0.1容量%の範囲である請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
有機物気体が炭素数1〜4の炭化水素および炭素数1〜4のアルコールからなる群から選ばれるものである請求項1〜3の何れかに記載の方法。
【請求項5】
加熱温度が500〜700℃である請求項1〜4の何れかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1〜5に記載の方法により得られる酸化亜鉛薄膜を発光層とする単一絶縁体構造からなる無機EL素子。
【請求項7】
発光層が透明電極を兼ねるものである請求項6に記載の無機EL素子。


【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−16119(P2007−16119A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−198635(P2005−198635)
【出願日】平成17年7月7日(2005.7.7)
【出願人】(504132881)国立大学法人東京農工大学 (595)
【Fターム(参考)】