説明

酸化方法

【課題】有機溶媒を用いることなく、亜臨界水または超臨界水を反応溶媒として酸化対象化合物を酸化する酸化方法を提供する。
【解決手段】亜臨界または超臨界状態の水を反応溶媒として、反応系中に金属系触媒を存在させることにより、有機溶媒を用いることなく、酸化対象化合物を酸化することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化対象化合物を酸化する酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超臨界水を反応溶媒として用いることにより、有機溶媒や、重金属等の有害な触媒を用いることなく、様々な有機合成反応を進行させうるグリーンケミストリプロセスが注目されている。このグリーンケミストリプロセスは、化学合成において有害な触媒や溶媒を可能な限り使わず、また環境汚染となる副生物や廃棄物を減らすプロセスである。
【0003】
水は地球上で最も多量に存在する物質であり、反応溶媒として利用できれば環境に対して極めてクリーンな溶媒となる。特に超臨界水(臨界温度Tc=374℃、臨界圧力Pc=22.1MPa)は溶媒機能を温度、圧力により連続的に制御することができるため、この超臨界水を利用した新しい環境調和型の化学反応プロセスの開発が注目を集めている。
【0004】
溶媒の誘電率と沸点は反応の制御性に関わり、反応速度の支配因子となる重要な値である。ここで、水は誘電率80、沸点100℃であるが、亜臨界から超臨界領域の水の誘電率は2〜20程度と、極性有機溶媒と同程度であることから有機物とも相溶し、また水分子自体が酸や塩基触媒として機能するため、有機溶媒に替わる新たな溶媒として期待されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、亜臨界水または超臨界水を反応溶媒としてグルコースからグリコールアルデヒドを得る方法が記載されている。本方法によれば、有機溶媒を使用することなく、収率良くグリコールアルデヒドを得ることができる。
【0006】
また、特許文献2には、グリオキザールの水溶液を、実質的に無触媒で、50℃以上、具体的には100℃〜200℃に加熱して、グリコール酸を得る方法が記載されている。
【0007】
【特許文献1】特開2003−104929号公報
【特許文献2】特開平7−309802号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、特許文献1のように亜臨界水または超臨界水を反応溶媒とする反応について様々な研究が進められており、新たな反応への応用が期待されている。
【0009】
一方、特許文献2には、亜臨界水または超臨界水を反応溶媒とすることについては記載がない。
【0010】
本発明は、有機溶媒を用いることなく、亜臨界水または超臨界水を反応溶媒として酸化対象化合物を酸化する酸化方法である。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、亜臨界または超臨界状態の水を反応溶媒として、金属系触媒の存在下に酸化対象化合物を酸化する。
【0012】
また、前記酸化方法において、前記酸化対象化合物が、アルデヒド類及びヘミアセタール類のうち少なくとも1つであることが好ましい。
【0013】
また、前記酸化方法において、前記金属系触媒が、水素よりイオン化傾向が大きい金属を含むことが好ましい。
【0014】
また、前記酸化方法において、前記金属系触媒が、マンガン系触媒であることが好ましい。
【0015】
また、前記酸化方法において、前記アルデヒド類が、α−ヒドロキシアルデヒド化合物であることが好ましい。
【0016】
また、前記酸化方法において、前記α−ヒドロキシアルデヒド化合物がグリコールアルデヒドであり、酸化生成物がグリコール酸であることが好ましい。
【0017】
また、前記酸化方法において、前記ヘミアセタール類が、糖類であることが好ましい。
【0018】
また、前記酸化方法において、前記酸化反応時の温度が、100℃〜600℃の範囲であることが好ましい。
【0019】
また、前記酸化方法において、前記酸化反応時の圧力は、5MPa〜300MPaの範囲であることが好ましい。
【0020】
また、前記酸化方法において、前記酸化反応時の前記水の密度が、0.1g/cm〜0.8g/cmの範囲であることが好ましい。
【0021】
また、前記酸化方法において、前記酸化反応の反応時間が、30分以内であることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、亜臨界または超臨界状態の水を反応溶媒として、反応系中に金属系触媒を存在させることにより、有機溶媒を用いることなく、酸化対象化合物を酸化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0024】
図1は、本実施形態に係る酸化方法に使用される反応装置1の概略構造の一例を示す図である。反応装置1は、回分式反応器10と、流動砂浴12と、ヒータ14と、熱電対16a,16bとを備える。反応装置1において、流動砂浴12内に回分式反応器10とヒータ14とが設置されており、熱電対16aは先端が流動砂浴12の砂内に位置するように、熱電対16bは先端が回分式反応器10内に位置するように設置されている。
【0025】
回分式反応器10は、SUS316等のステンレス鋼、ハステロイ等の金属を主材料として構成される密閉型の反応器である。
【0026】
流動砂浴12は、砂を加熱することにより回分式反応器10に温度をかける加熱器として使用される。加熱器としては、流動砂浴12の代わりに公知のスズ浴等の金属浴や、溶融塩浴等を使用してもよい。
【0027】
流動砂浴12は、ヒータ14等の加熱手段によって加熱される。流動砂浴12内の温度は、熱電対16aによって計測され、この計測結果によってヒータ14が制御されることで、流動砂浴12内の温度が所定の温度に維持される。なお、熱電対16aの代わりに公知の温度測定手段を用いてもよい。
【0028】
原料である酸化対象化合物と、金属系触媒と、溶媒である水とが、予め反応管であるSUS316等の金属製の回分式反応器10に所定量仕込まれ、仕込んだ後、例えば大気圧〜3MPa程度の圧力のアルゴンガス、窒素ガスなどの不活性ガスにより系内空気を置換しておく。そして、予め反応温度付近に設定した流動砂浴12に回分式反応器10を投入して反応を開始させる。ここで、回分式反応器10内の反応温度は熱電対16bにより測定されるが、流動砂浴12内の温度を反応温度としてもよい。
【0029】
回分式反応器10では、加熱水と酸化対象化合物と金属系触媒とが混合され、さらに回分式反応器10を所定の温度と圧力に制御して、回分式反応器10内において水を所定の時間、超臨界状態または亜臨界状態に維持する。回分式反応器10内の圧力は、回分式反応器10の内部に仕込む水の量によって調整されることが好ましい。このようにして、回分式反応器10内において、超臨界または亜臨界状態の水を反応溶媒とし、金属系触媒を触媒として酸化対象化合物の酸化反応が生起される。
【0030】
なお、ここで水の超臨界状態とは、水の臨界点(臨界温度Tc=374℃、臨界圧力Pc=22.1MPa)を超えて、液体と気体の境界線がなくなった状態のことをいう。また、亜臨界状態とは、温度が250℃以上374℃未満、圧力が5MPa以上22.1MPa未満の状態で、液体と気体が併存した状態のことをいう。
【0031】
反応溶媒に使用する水としては、水道水、イオン交換水等の純水、超純水等が挙げられるが、反応収率を向上させるためには、イオン交換水等の純水、超純水を使用することが好ましく、イオン交換水等の純水、超純水を脱気した状態で使用することがより好ましい。
【0032】
加熱してから所定時間経過後、回分式反応器10を、氷浴または冷水浴等に浸すことにより急冷して反応を停止させる。氷浴の水温については回分式反応器10を急冷することができればよく特に制限はないが、例えば、0℃〜10℃である。冷水浴の水温については回分式反応器10を急冷することができればよく特に制限はないが、例えば、10℃〜25℃である。なお、ここで反応時間は、流動砂浴12に回分式反応器10を投入した時点から氷浴または冷水浴に投入した時点までとする。つまり、反応時間には昇温時間も含まれる。昇温時間は、昇温過程での副反応の抑制等の点からできるだけ短い方が好ましく、通常は1分以内〜3分以内に反応温度まで到達することがより好ましい。
【0033】
反応温度は、100℃以上であればよく特に制限はないが、200℃以上であることが好ましく、250℃以上であることがより好ましく、300℃以上であることがさらに好ましく、水の臨界温度である374℃以上であることが特に好ましい。反応温度が高いほど反応時間が短くなるため好ましいが、回分式反応器10等の反応器の耐熱温度、安全性の問題等を考慮して反応温度を決めればよい。反応温度は、安全性の点から600℃以下であることが好ましく、500℃以下であることがより好ましく、450℃以下であることがさらに好ましい。なお、流動砂浴12内の温度を反応温度とした場合、反応時間が短いと、回分式反応器10内の温度が250℃以上に達しないため、水が超臨界または亜臨界状態と完全にならず高温高圧水の状態で反応が行われる場合もあるが、この時は反応温度200℃以上の高温高圧水の状態であっても良い。
【0034】
圧力は、5MPa以上であれば特に制限はないが、16MPa以上であることが好ましく、水の臨界圧力である22.1MPa以上であることがより好ましい。反応圧力が高いほど反応時間が短くなるため好ましいが、回分式反応器10等の反応器の耐圧性、安全性の問題等を考慮して反応圧力を決めればよい。反応圧力は、既存の化学反応装置の耐圧性を考慮して500MPa以下であることが好ましく、300MPa以下であることがより好ましい。
【0035】
反応時間は、主に反応温度に依存し、反応温度と圧力との組合せにより決まることが多いため、反応温度と圧力(ここでは、使用する水の量)を調整することにより、所望の反応時間に制御することができる。したがって、反応時間については制限はないが、例えば、1秒〜20時間の間で設定することができる。上述したように、反応温度及び圧力が高いほど反応時間が短くなるため好ましい。また、副反応が起こる反応では反応時間を短くすることにより、副反応を抑制することができ、生成物の純度を向上することができるため好ましい。また、反応時間を短くすることで製造効率を向上させることができる。反応条件としては、例えば、反応温度250℃〜600℃、反応圧力5MPa〜300MPa、反応時間1秒〜20時間の条件、好ましくは反応温度250℃〜450℃、反応圧力5MPa〜50MPa、反応時間1秒〜30分などという条件を設定することができる。
【0036】
また、回分式反応器10内の水密度は、回分式反応器10の内容積と使用する水の量とにより決まるが、水密度が高いほど反応時間が短くなるために好ましい。水密度の好ましい範囲は、0.1g/cm〜0.8g/cm、より好ましくは0.5g/cm〜0.8g/cmである。
【0037】
反応時の水溶媒中の、原料である酸化対象化合物の濃度は、特に制限されないが、例えば0.03mol/L〜0.1mol/Lの範囲に設定することができる。なお、この原料の濃度は、一例であり、原料の酸化対象化合物の種類、または目的とする生成物の種類等に応じて、適切な範囲に設定することができる。
【0038】
反応時の酸化対象化合物に対する金属系触媒の量は、酸化対象化合物の酸化反応が進めばよく特に制限されないが、例えばモル比で0.05倍〜0.25倍の範囲に設定することができる。なお、この金属系触媒の量は、一例であり、原料の酸化対象化合物の種類、使用する金属系触媒の種類や触媒活性または目的とする生成物の種類等に応じて、適切な範囲に設定することができる。
【0039】
なお、本実施形態では、回分式反応器10を用いたが、これに限るものではなく、流通式の反応器を用いて同様に反応を行うことができる。図2は、流通式反応器20を使用する反応装置3の概略構造の一例を示す図である。
【0040】
反応装置3は、流通式反応器20と、加熱器22と、プレヒータ24と、冷却器26と、水ポンプ28と、原料ポンプ30と、圧力計32と、保圧弁34とを備える。反応装置3において、流通式反応器20の入口手前の混合部36には、水配管38が水ポンプ28及びプレヒータ24を介して接続されており、また、原料配管40が原料ポンプ30を介して接続されている。水配管38の途中には圧力計32が接続されている。また、流通式反応器20は加熱器22内に設置され、流通式反応器20の出口には冷却器26及び保安弁34を介して出口配管42が接続されている。
【0041】
流通式反応器20は、回分式反応器10と同様にSUS316等のステンレス鋼、ハステロイ等の金属を主材料として構成される連続型の反応器である。
【0042】
反応溶媒である水は、ポンプ28によりプレヒータ24に導入され予め加熱される。プレヒータ24により予め加熱される水の温度は、反応温度よりも高いことが好ましく、反応温度+20℃であることが好ましい。一方、原料である酸化対象化合物及び金属系触媒の水溶液または水スラリは、ポンプ30により送液される。この水溶液またはスラリの温度は、常温、すなわち10℃〜30℃でかまわない。酸化対象化合物及び金属系触媒の水溶液または水スラリと、プレヒータ24により予め加熱された水とが、混合部36にて瞬時に混合され、反応管であるSUS316等の金属製の流通式反応器20に入口から連続的に導入される。このとき、流通式反応器20内は、脱気状態であることが好ましい。そして、加熱器22により予め反応温度付近に加熱された流通式反応器20内で反応が行われる。
【0043】
流通式反応器20内を所定の温度と圧力に制御して、水を超臨界状態または亜臨界状態に維持する。流通式反応器20内の圧力は、流通式反応器20の内部に仕込む水の量によって調整されることが好ましい。このようにして、流通式反応器20内において、超臨界または亜臨界状態の水を反応溶媒として、酸化対象化合物の酸化反応が生起される。
【0044】
反応液は流通式反応器20内に所定時間滞留した後、流通式反応器20の出口から排出され、冷却器26によって急冷され、反応は停止される。冷却器26の温度については特に制限はないが、例えば、10℃〜25℃である。なお、ここで反応時間は、原料の水溶液または水スラリと、プレヒータ24により予め加熱された水とが、混合部36にて瞬時に混合された時点から、冷却器26に投入された時点までとする。つまり、反応時間には昇温時間も含まれる。
【0045】
原料の酸化対象化合物の種類、金属系触媒の種類または目的とする生成物の種類等によっては、昇温過程や反応中に副反応が起こることがある。このような場合は、昇温時間をできるだけ短くすることが好ましいが、回分式反応器10を使用する場合に比べて、流通式反応器20を使用することにより昇温時間を短くすることができるので好ましい。昇温時間を短くすることにより、副反応を抑制して生成物の純度を向上することができる。通常は、昇温時間は、1ミリ秒程度である。流通式反応器20を使用した場合は、昇温時間は例えば、秒オーダ、ミリ秒オーダ、マイクロ秒オーダにまで短くすることが可能である。
【0046】
また、反応時間についても、回分式反応器10を使用する場合に比べて、流通式反応器20を使用することにより短くすることができるので好ましい。反応時間を短くすることにより、副反応を抑制して生成物の純度を向上することができる。通常は、反応時間は、1分〜10分に設定される。流通式反応器20の耐熱性、耐圧性等について許容される範囲で、反応温度と反応圧力とを高く設定することにより、反応時間は例えば、秒オーダ、ミリ秒オーダ、マイクロ秒オーダにまで短くすることが可能である。これにより、製造効率を著しく向上させることが可能である。
【0047】
本反応により生成した生成物は、ろ過、蒸留、抽出等の公知の方法により反応溶媒の水から分離することができる。本実施形態に係る酸化方法においては、溶媒として水を使用しているので、生成物の構造、金属系触媒の種類等によっては冷却して反応を停止させた時点で生成物が水と分離するためにろ過等により容易に分離することができ、蒸留や抽出等の工程を不要とすることができる。
【0048】
本実施形態において用いられる酸化対象化合物としては、特に制限はなく、例えば、アルデヒド類、ヘミアセタール類、アルコール類等が挙げられる。
【0049】
アルデヒド類としては、例えば、下記式(1)で表されるα−ヒドロキシアルデヒド化合物等が挙げられる。
【0050】
【化1】

【0051】
ここで、式(1)において、R及びRはそれぞれ独立に、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐、環状のアルキル基、炭素数6〜14のアリール基等が挙げられる。
【0052】
アルデヒド類としては、分子間または分子内でヘミアセタール結合を形成しうるα−ヒドロキシアルデヒド化合物の他に、β−ヒドロキシアルデヒド化合物、γ−ヒドロキシアルデヒド化合物等の分子内に水酸基を有するヒドロキシアルデヒド化合物等が挙げられる。
【0053】
ヘミアセタール類としては、例えば、糖類等、本来ヘミアセタール結合を分子内に有する化合物の他にも、任意のアルデヒド化合物とアルコール化合物もしくは水との間でヘミアセタール結合を形成している場合も含まれる。
【0054】
金属系触媒としては、水素よりイオン化傾向が大きい金属を含むものであれば特に制限はないが、例えば、Cr、Mn、Fe、Co、Ni等の遷移金属、Zn、Al、Sn、Pb等が挙げられる。これらの中でも、毒性が低い及びコストが低い等の点からMn、Fe、Niを含むことがより好ましく、Mnを含むことが特に好ましい。
【0055】
上記金属を含む金属系触媒の形態としては、金属単体、金属酸化物、金属塩化物、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属硝酸塩等が挙げられ、反応容器に対する腐食性等の点から金属単体、金属酸化物が好ましい。
【0056】
マンガン(Mn)系触媒の具体例としては、金属マンガン、二酸化マンガン、四酸化三マンガン、ハロゲン化マンガン、炭酸マンガン、硫酸マンガン等が挙げられ、反応容器に対する腐食性等の点から二酸化マンガン、四酸化三マンガンが好ましく、二酸化マンガンがより好ましい。
【0057】
本実施形態における酸化反応を、酸化対象化合物としてグリコールアルデヒド、金属系触媒として二酸化マンガンを用いた場合を例として、以下に説明する。
【0058】
反応経路は以下の通りである。
【化2】

【0059】
上記反応において、酸化対象化合物であるグリコールアルデヒドは二量化した後、金属系触媒である二酸化マンガンにより酸化され、加水分解によりグリコール酸となると考えられる。また、触媒として金属マンガンを使用した場合には、金属マンガンは水中で酸化されて水素を発生して二酸化マンガン(MnO)となり、その後同様の反応経路によりグリコール酸を生成すると考えられる。
【0060】
これまで、グリコール酸は、ホルムアルデヒドと一酸化炭素を硫酸触媒下でカップリングさせる方法(例えば、特開昭62−77349号公報参照)や、モノクロロ酢酸を塩基存在下で加水分解する方法(例えば、特開平9−291061号公報参照)等により工業的に合成されてきた。しかし、前者の方法は安全性の面で問題のある一酸化炭素を使用する点、後者の方法はコストの高いモノクロロ酢酸を使用する点等において問題があった。
【0061】
そこで、本実施形態に係る酸化方法により、ポリエステル等の原料として有用であるグリコール酸を、有機溶媒を用いることなく、亜臨界水または超臨界水を反応溶媒として金属系触媒の存在下に容易に得ることができる。
【0062】
また、上記反応に用いたグリコールアルデヒドは、グルコースを出発原料として、亜臨界または超臨界状態の水を反応溶媒として得ることができる(例えば、上記特許文献1参照)。
【0063】
近年、石油の大量消費による二酸化炭素などの地球温暖化物質の放出が問題になっているが、その石油の代替として、廃木材などの廃棄バイオマスが化学原料資源として注目を浴びている。例えば、木材の主構成成分(40〜50%)の1つであるセルロースは、グルコース基で構成されており、このセルロースを加水分解することでグルコース等の糖類を得ることができる。そして、このグルコースを原料として、亜臨界水または超臨界水を反応溶媒としてグリコールアルデヒドを得て、さらに本実施形態に係る酸化反応によりグリコール酸を得ることができる。また、グリコールアルデヒドを得る反応及びグリコール酸を得る反応を亜臨界水または超臨界水を反応溶媒として連続して行うことにより、グルコースからグリコール酸を有機溶媒を用いることなく環境に調和した方法で容易に得ることができる。
【0064】
また本実施形態に係る酸化方法では、副反応物として水素が発生するが、この水素を別の反応や、燃料電池用の燃料ガス等に使用することができる。
【実施例】
【0065】
以下、実施例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0066】
本実施例において、水として、島津製超純水製造装置を用いて製造した超純水を使用した。
【0067】
(実施例1〜4)
SUS316製回分式反応器(長さ105.7mm、内径12.7mm、厚さ2.1mm、内容積6cm)に、グリコールアルデヒド、二酸化マンガン、超純水を表1に記載の量を仕込み、アルゴンガス(圧力:大気圧)により系内を置換した。反応は、予め反応温度に設定した流動砂浴内に回分式反応器を投入することにより開始させた。ここでは、流動砂浴の温度を反応温度とした。続いて、所定の反応時間経過後、流動砂浴から取り出した回分式反応器を、14℃の冷水浴に投入することにより、反応を停止させた。生成物は高速液体クロマトグラフィにより以下の条件で定性、定量を行った。
【0068】
(HPLC条件)
カラム:Shodex製 KS−811
カラム温度:80℃
HPLCポンプ:日本分光製 MODEL PU−1580
溶媒:10重量%リン酸水溶液
流量:1cm/min
検出器:RI検出器 ERMA株式会社製 ERC−7512
UV検出器 Shodex製 UV−41型
UV検出波長:210nm
【0069】
グリコール酸の収率は、反応液のグリコール酸の濃度〔mol/L〕のグリコールアルデヒドの初期濃度〔mol/L〕に対する割合で計算した。また、回分式反応器内の圧力については、水の臨界点(臨界温度Tc=374℃、臨界圧力Pc=22.1MPa)以下の条件においては、水の蒸気圧曲線から算出した。臨界点以上の条件においては、水の仕込み量(仕込み体積)を変えたときの圧力と反応温度との関係を求めた検量線より算出した。
【0070】
結果を表1に示す。また、反応時間とグリコール酸の収率との関係を図3に示す。このように、反応温度400℃、反応圧力25MPa、反応時間20秒で、グリコール酸が収率37%で得られた。また、反応時間は短い方が収率が高くなる傾向にあり、特に反応時間20秒で高い収率となった。
【0071】
(実施例5)
金属系触媒として四酸化三マンガンを使用し、表1に示す条件で実施例1と同様にして反応を行った。
【0072】
結果を表1に示す。反応温度400℃、反応圧力25MPa、反応時間25秒で、グリコール酸が収率41%で得られた。
【0073】
【表1】

【0074】
このように、亜臨界または超臨界状態の水を反応溶媒とし、金属系触媒としてマンガン系触媒を用いることにより、有機溶媒を用いることなく、グリコールアルデヒドからグリコール酸を得ることができた。特に、反応温度400℃及び反応圧力25MPa、つまり超臨界状態の水を反応溶媒とすることにより、反応時間はわずか20秒でグリコール酸を得ることができた。これにより、環境に調和した酸化方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】本実施形態に係る酸化方法に使用される反応装置の概略構造の一例を示す図である。
【図2】本実施形態に係る酸化方法に使用される反応装置の概略構造の別の例を示す図である。
【図3】本発明の実施例1〜4における、反応時間とグリコール酸の収率との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0076】
10 回分式反応器、12 流動砂浴、14 ヒータ、16 熱電対、20 流通式反応器、22 加熱器、24 プレヒータ、26 冷却器、28 水ポンプ、30 原料ポンプ、32 圧力計、34 保圧弁、36 混合部、38 水配管、40 原料配管、42 出口配管。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜臨界または超臨界状態の水を反応溶媒として、金属系触媒の存在下に酸化対象化合物を酸化することを特徴とする酸化方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸化方法であって、
前記酸化対象化合物が、アルデヒド類及びヘミアセタール類のうち少なくとも1つであることを特徴とする酸化方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の酸化方法であって、
前記金属系触媒が、水素よりイオン化傾向が大きい金属を含むことを特徴とする酸化方法。
【請求項4】
請求項3に記載の酸化方法であって、
前記金属系触媒が、マンガン系触媒であることを特徴とする酸化方法。
【請求項5】
請求項2に記載の酸化方法であって、
前記アルデヒド類が、α−ヒドロキシアルデヒド化合物であることを特徴とする酸化方法。
【請求項6】
請求項5に記載の酸化方法であって、
前記α−ヒドロキシアルデヒド化合物がグリコールアルデヒドであり、酸化生成物がグリコール酸であることを特徴とする酸化方法。
【請求項7】
請求項2に記載の酸化方法であって、
前記ヘミアセタール類が、糖類であることを特徴とする酸化方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の酸化方法であって、
前記酸化反応時の温度が、100℃〜600℃の範囲であることを特徴とする酸化方法。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の酸化方法であって、
前記酸化反応時の圧力が、5MPa〜300MPaの範囲であることを特徴とする酸化方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項に記載の酸化方法であって、
前記酸化反応時の前記水の密度が、0.1g/cm〜0.8g/cmの範囲であることを特徴とする酸化方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の酸化方法であって、
前記酸化反応の反応時間が、30分以内であることを特徴とする酸化方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−31081(P2008−31081A)
【公開日】平成20年2月14日(2008.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−206085(P2006−206085)
【出願日】平成18年7月28日(2006.7.28)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(598014814)株式会社コンポン研究所 (24)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】