説明

酸化物微粒子粉末及びその製造方法、並びに磁気記録媒体

【課題】金属錯体を経由する方法により、残留炭素の含有量を十分に低減しつつ、粒子径が小さく且つ粒度が揃った酸化物微粒子粉末を得ることが可能な酸化物微粒子粉末の製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、金属錯体ゲルの乾燥粉を熱処理して酸化物微粒子粉末を得る加熱工程を有する酸化物微粒子粉末の製造方法であって、加熱工程の少なくとも一部を、水蒸気を含む雰囲気下で行う製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物微粒子粉末及びその製造方法、並びに磁気記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
金属酸化物微粒子の粉末(酸化物微粒子粉末)は、磁気記録媒体、電極や触媒といった様々な用途の材料として用いられている。近年、酸化物微粒子粉末は、特性向上のために更なる微粒子化が進められており、その製造方法として、気相合成法や湿式合成法が提案されている。しかしながら、気相合成法は、微粒子の製造は可能であるものの、粒度分布が広くなるほか、収量も少ないことから、産業用の微粒子製造には適していない。
【0003】
一方、湿式合成法は、比較的粒度の揃った微粒子を大量に製造することができることから、酸化物微粒子粉末の製造方法として期待されている。しかしながら、従来の湿式合成法は、次のような不都合を生じ易い傾向にあった。
【0004】
すなわち、湿式合成法では、得られた微粒子の粒子内組成が不均一となり易いことや、有機溶媒を用いる場合には環境への負荷が大きいこと、溶媒から粉体を取り出すときに凝集して強固で大きな2次粒子となってしまい分散性が良好な粉末とはならないこと、目的の結晶系を得るために熱処理を行うことで、粒成長や粒子間焼結が起こって小さな微粒子が得られないこと等が知られている。湿式合成法の1つである共沈法では、アルカリを用いて共沈させる際や、乾燥や焼成の際に組成の偏析が生じ易く、これにより微粒子内の組成が不均一になると考えられる。
【0005】
このような微粒子内の組成の不均一性を改善するために、錯体重合法やクエン酸法といった有機酸塩を経由する有機酸塩法による酸化物微粒子粉末の製造が試みられている。例えば、錯体重合法は、金属イオンと有機酸との間で生じた安定な有機金属錯体が多価アルコール中に溶解分散した溶液を、加熱により縮合させた後、これにより生じた重合体を加熱焼成させて目的の金属酸化物を得る方法である(特許文献1参照)。かかる方法では、高分子金属錯体のネットワーク構造が安定化されており、金属イオンの移動度が小さいことから、加熱焼成時における金属元素の凝集や偏析が抑えられ、得られる微粒子内の組成の均一化が可能となると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平08−290917号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述したような有機酸塩法等の金属錯体を経由する方法の場合、製造過程で生じる有機金属錯体や重合体に大量の有機物が含まれるため、不純物の量が低減された酸化物微粒子粉末を得るためには、この有機物を分解し、更に除去する必要がある。有機物の分解除去は、主に燃焼などの熱処理によって行われるが、このような熱処理を行うと、得られる酸化物微粒子中に粗大な粒子が形成されてしまうことが少なくなかった。そのため、従来の有機酸塩法では、全体として粒子径は小さくできても、粒度が揃った酸化物微粒子粉末を得ることは未だ困難な傾向にあった。
【0008】
そこで、本発明はこのような事情に鑑みてなされたものであり、金属錯体を経由する方法により、残留炭素の含有量を十分に低減しつつ、粒子径が小さく且つ粒度が揃った酸化物微粒子粉末を得ることが可能な酸化物微粒子粉末の製造方法を提供することを目的とする。また、このような製造方法により得られる酸化物微粒子粉末及び当該酸化物微粒子粉末を含有する磁性層を備える磁気記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明者らが鋭意研究を行ったところ、有機酸塩法では、有機物の分解除去の際の加熱により、有機物の燃焼が局所的に生じてその部分が高温となり、粒成長が促進された結果、粗大な粒子が生じていることが判明した。そこで、本発明者らは、熱処理条件を種々検討したところ、雰囲気中に水蒸気を含有させることが極めて効果的であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、金属錯体ゲルや有機酸塩の乾燥粉を熱処理して酸化物微粒子粉末を得る加熱工程を有する酸化物微粒子粉末の製造方法であって、加熱工程の少なくとも一部を、水蒸気を含む雰囲気下で行う製造方法を提供する。
【0011】
上記本発明の製造方法によれば、有機物の分解・除去が促進され、残留炭素の含有量が十分に低減されるとともに、粒子径が小さく且つ粒度が揃った酸化物微粒子粉末を得ることが可能になる。このような効果が得られる理由は明らかではないが、本発明者らは、雰囲気中の水蒸気が有機物の加水分解を促進するほか、加水分解以外の分解反応を促進する触媒として作用するとともに、有機物の燃焼反応を抑制していると考えている。このような水蒸気の作用によって、加熱工程において、有機物の局所的な燃焼に伴う粗大な粒子の形成を避けつつ、有機物の除去を良好に行うことができる。その結果、粒子径が小さく、しかも粒度が揃った酸化物微粒子粉末を得ることができる。
【0012】
本発明の製造方法において、加熱工程における水蒸気を含む雰囲気がさらに酸素を含むことが好ましい。これによって、有機物の分解が一層促進されるため、残留炭素の含有量が十分に低減された酸化物微粒子粉末を得ることができる。また、熱処理時における加熱温度を低くすることが可能となり、粒子径を一層小さくすることができる。
【0013】
また、本発明の製造方法は、加熱工程において乾燥粉を250〜400℃で熱処理することが好ましい。上記温度範囲で熱処理を行うことによって、有機物を一層十分に除去しつつ、粒成長を一層抑制することが可能となる。したがって、残留炭素の低減と粒子の微細化とを高水準で両立させることができる。
【0014】
また、本発明の製造方法は、加熱工程で得られた酸化物微粒子粉末を、加熱工程よりも高い温度で熱処理する焼成工程を有していてもよい。このような熱処理によって、結晶構造を変えることが可能となり、所望の結晶構造を有する酸化物微粒子粉末を得ることができる。
【0015】
本発明はまた、上述の製造方法により得られる酸化物微粒子粉末を提供する。かかる酸化物微粒子粉末は、上記本発明の製造方法により得られたものであることから、残留炭素などの不純物の量が少ないうえに、粒子径が小さく、しかも粒度が揃っている。このような酸化物微粒子粉末によれば、その用途に応じて様々な効果が得られるようになる。例えば、酸化物微粒子粉末を磁気テープ用の材料として適用した場合、粒子径が小さくしかも均一であることから、高記録密度を達成可能であり、しかも、粗大な粒子が突出して読み取り用のヘッド等を損傷することが少ないといった特徴を発揮し得る。また、触媒として適用する場合、この酸化物微粒子粉末は、微小且つ均一な粒子によって大きな表面積を有し、高い触媒活性を発揮し得るものとなる。
【0016】
上記本発明の製造方法によって得られた酸化物微粒子粉末は、例えば、一次粒子の平均粒子径が1〜50nmであり、100nmを超える粒子径を有する粒子を含んでおらず、比表面積が30m/g以上であり、且つ、炭素含有量が10質量%以下であるものとなる。
【0017】
また、本発明では、上述の特徴を有する酸化物微粒子粉末を含む磁性層を備える磁気記録媒体を提供する。この磁気記録媒体は、磁性粉末として、炭素含有量が少なく、微小且つ均一な酸化物微粒子粉末を用いているため、高い記録密度を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、金属錯体を経由する方法により、残留炭素の含有量を十分に低減しつつ、粒子径が小さく且つ粒度が揃った酸化物微粒子粉末を得ることが可能な酸化物微粒子粉末の製造方法を提供することができる。また、このような製造方法により得られる酸化物微粒子粉末を提供することができる。さらに、当該酸化物微粒子粉末を含有する磁性層を備えることにより、高い記録密度を有する磁気記録媒体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の磁気記録媒体の一実施形態である磁気テープの模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0021】
本実施形態の酸化物微粒子粉末の製造方法は、金属酸化物の原料混合物を調製する混合工程と、原料混合物中の金属と有機酸との錯体である金属錯体(金属有機酸塩)を含む金属有機酸塩溶液を得る溶液調製工程と、金属有機酸塩溶液から、金属錯体ゲルを作製するゲル作製工程と、金属錯体ゲルの乾燥粉を、水蒸気を含む雰囲気下で熱処理して、焼成粉を得る加熱工程と、焼成粉を加熱工程よりも高い温度で熱処理して酸化物微粒子粉末を得る焼成工程と、を有する。以下、各工程の詳細について説明する。
【0022】
混合工程では、金属酸化物の原料混合物を調製する。金属酸化物の原料混合物としては、目的とする金属酸化物を構成する各金属の塩等をそれぞれ準備し、これらを水等に溶解又は分散させた水溶液等が挙げられる。金属の塩としては、後述する有機酸等との塩(錯体)の形成が可能なものであれば特に制限されず、例えば、硝酸塩等が例示できる。
【0023】
溶液調製工程では、上記の原料混合物に、例えば有機酸を混合し、原料混合物中の金属と有機酸との錯体である金属錯体(金属有機酸塩)を含む金属有機酸塩溶液を得る。ここで、有機酸としては、多価カルボン酸を用いることが好ましい。好ましいカルボン酸として、例えば、クエン酸、シュウ酸、コハク酸等が挙げられる。原料混合物と有機酸との混合は、例えば、溶媒中で攪拌することにより行うことができる。例えば、後述するようにゲル化のために多価アルコールを用いる場合は、この段階で溶媒として多価アルコールを加えてもよい。なお、本発明では、必ずしもこのようにして金属錯体を合成する必要はなく、あらかじめ調製された金属錯体を用いてもよい。
【0024】
ゲル作製工程では、上記の通り調製した金属有機酸塩溶液から、金属錯体ゲルを作製する。金属錯体ゲルは、例えば、有機酸としてシュウ酸を用いた場合のように、金属錯体がそのままゲル状となる場合は、金属有機酸塩溶液を加熱することによって得ることができる。
【0025】
また、有機酸としてクエン酸を用いる場合のように、そのままでは金属錯体のゲル化が進行しない場合は、多価アルコールを添加して多価アルコールと有機酸とをエステル重合することにより、金属錯体ゲルを製造することができる。この場合、金属錯体ゲルは、例えば、金属有機酸塩溶液に多価アルコールを加えて溶解させた後、濃縮し、さらに加熱して重合反応を生じさせることによって得ることができる。重合反応は、溶液を攪拌しながら行うことができる。ただし、重合反応が進行するのに伴って溶液の粘性が高まるため、適当なタイミングで攪拌を止め、加熱のみで重合を進行させることが好ましい。なお、金属錯体ゲルとしては、上述のような金属有機酸塩からなるものに限定されない。例えば、原料混合物に対し、有機酸を用いずに多価アルコール等のみを加えて調製したものであってもよい。
【0026】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ベンタンジオール、1,2−ベンタンジオール、2,4−ベンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジール、2,5−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、グリセリン、ベンタエリスリトール等を用いることができる。
【0027】
次いで、得られた金属錯体ゲルを乾燥して粉砕することにより、金属錯体ゲルの乾燥粉を調製する。ここでは、例えば、上述した工程で生じた金属錯体ゲルを、室温まで冷却して塊状物とし、これを粉砕することによって乾燥粉を得ることができる。なお、金属錯体ゲルの「乾燥粉」とは、溶媒等を殆ど含んでいない粉末の状態であることを示しており、乾燥のための何らかの処理を施して得られたものである必要はない。
【0028】
加熱工程では、金属錯体ゲルの乾燥粉を、水蒸気を含む雰囲気下で熱処理して、焼成粉を得る。この加熱工程では、熱処理により、金属錯体ゲルの乾燥粉に含まれる有機物を分解して除去する。ここでいう有機物とは、例えば、上述した有機酸や多価アルコールの重合物等である。
【0029】
金属錯体ゲルの乾燥粉の熱処理時における雰囲気中の水蒸気濃度は、好ましくは20〜80体積%であり、より好ましくは30〜70体積%であり、さらに好ましくは40〜80体積%である。水蒸気濃度が高くなり過ぎたり低くなり過ぎたりすると、有機物の除去が円滑に行われ難くなる傾向がある。また、炉内における水の付着を抑制する観点及び有機物の分解・除去を一層促進する観点から、水蒸気は過熱水蒸気であることが好ましい。
【0030】
上記熱処理は、水蒸気と酸素を含む混合ガス雰囲気下で行うことが好ましい。このような混合ガスは、例えば水蒸気と空気とを所定の比率で混合することによって得ることができる。これによって、水蒸気による有機物の分解促進と、酸素による分解促進の相乗作用によって、有機物が円滑に排除されることとなり、残留炭素などの不純物が一層十分に低減された酸化物微粒子粉末を得ることができる。また、熱処理を一層低温且つ短時間で行うことが可能となるため、一層微細で且つ粒度の揃った酸化物微粒子粉末を調製することができる。
【0031】
混合ガス雰囲気中の酸素濃度は、好ましくは0.1〜15体積%であり、より好ましくは1〜10体積%である。上記酸素濃度が0.1体積%未満であると有機物の分解作用が得られ難くなる傾向があり、15体積%を超えると有機物が部分的に燃焼して粒成長が促進され、粗大な粒子が形成されやすくなる傾向がある。
【0032】
なお、熱処理の間、雰囲気中に常時水蒸気が含まれている必要はなく、例えば加熱炉内に間欠的に水蒸気を注入して熱処理を行ってもよい。すなわち、加熱工程の少なくとも一部を水蒸気を含む雰囲気下で行うことによって、金属錯体ゲルの乾燥粉の熱処理を行うことができる。また、熱処理の間、雰囲気中の酸素濃度や水蒸気濃度を変更してもよい。
【0033】
加熱工程で得られる焼成粉は、例えば、一次粒子の平均粒子径が0.1〜50nmの範囲で、且つ粒子径が100nmを超えるような粗大な粒子を含まない酸化物微粒子粉末である。なお、加熱工程で得られた焼成粉を加熱工程よりも高い温度で熱処理する焼成工程を行ってもよい。
【0034】
焼成工程では、加熱工程で得られた焼成粉に熱処理を施すことによって、所望の結晶構造を有する酸化物微粒子粉末を得ることができる。この焼成工程は、例えば、加熱工程で十分に焼成が進行しなかった場合に、焼成粉中に残存する有機物の分解物を除去できる点でも有効である。
【0035】
焼成工程では、加熱工程で得られた微小で且つ揃った粒子径を維持するために、粒成長ができるだけ生じない条件で熱処理を行うことが好ましい。そのための方法としては、例えば、酸化物微粒子粉末を急速に昇温させ、所望のピーク温度に達した後、急速に温度を低下させる方法が挙げられる。このような方法では、粒成長を抑制しながら、主に酸化物微粒子中の結晶の相構造を変化させることが可能である。
【0036】
焼成工程の好適な条件としては、例えば、0.5〜600℃/秒の昇温条件で酸化物微粒子粉末を昇温し、好ましくは400〜1200℃、より好ましくは750〜1200℃、さらに好ましくは800〜1000℃のピーク温度で0〜120秒程度保持した後、0.5〜600℃/秒の降温条件で冷却する条件が挙げられる。なお、降温の条件は、用いる炉ごとに異なる熱量や断熱性によって、室温に近くなるほど大きなずれが生じることから、炉の特性に応じて適宜設定することが好ましい。これらの条件よりも昇温、降温速度が遅かったり、ピーク温度が高かったりすると、粒成長が生じて粒子径の小さい酸化物微粒子粉末が得られなくなる場合がある。
【0037】
上述した実施形態のような製造方法により、粒子径が小さく、しかも粒度が揃った酸化物微粒子粉末が得られる。このような酸化物微粒子粉末は、まず、その一次粒子の平均粒子径が、好ましくは0.1〜50nm、より好ましくは0.1〜40nmとなる。また、この酸化物微粒子粉末は、粗大な粒子、例えば100nmを超える粒子径、より好ましくは80nmを超える粒子径を有するものを含まないものとなる。
【0038】
さらに、酸化物微粒子粉末は、比表面積が好ましくは30m/g以上であり、より好ましくは35〜120m/gとなる。なお、酸化物微粒子粉末における粒子径は例えばTEM観察、比表面積はBET法によってそれぞれ測定することができる。粒子径の値は、例えば、TEM観察で100個以上の粒子を観察して粒径を計測し、計測した粒径の算術平均値とすることができる。
【0039】
また、本実施形態の製造方法によって得られた酸化物微粒子粉末は、上述したような加熱工程における熱処理を経て得られたものであるため、その製造過程で用いる有機物に由来する炭素の量も極めて少ないものとなる。具体的には、酸化物微粒子粉末の炭素含有量は、好ましくは0.5質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以下である。
【0040】
そして、このように粒子径が小さく、しかも粒度が揃った特徴を有する酸化物微粒子粉末は、用途に応じて優れた特性を発揮することができるため、様々な用途に適用することが可能である。
【0041】
すなわち、本実施形態の酸化物微粒子粉末は、例えば、自動車排気ガスや有害物質の分解・浄化用に用いられる触媒材料、コンデンサ等に用いられる誘電体材料、ディスプレイやLEDに用いられる蛍光材料、電池用の電極や燃料電池用の電解質等に用いられる電池材料、化学的機械研磨(CMP)用の砥粒といった研磨剤、高感度ガスセンサ等のセンサ材、透明電極等を構成する導電材、化粧品や紫外線遮蔽ガラス等に用いられる紫外線遮蔽材、酸化物超伝導体として適用可能な超伝導体材料といった用途に用いることが可能である。
【0042】
酸化物微粒子粉末の組成は、これらの用途に応じて適宜選択可能であり、上述した実施形態の製造方法によって微粒子の製造が可能であれば特に制限されない。例えば、フェライト磁性材料、チタン酸バリウム誘電体材料、セリウム−ジルコニウム複合酸化物自動車排ガス用触媒材料、ニッケル酸リチウム電池材料、イットリウム系酸化物超伝導材料といった種々の酸化物に適用することができる。
【0043】
次に、本発明の磁気記録媒体の好適な実施形態について説明する。
【0044】
図1は、本発明の磁気記録媒体の一実施形態である磁気テープの模式断面図である。図1に示す磁気テープ100は、テープ状の支持体10の一方面上に支持体10側から順に積層された非磁性層20及び磁性層30と、支持体10の他方面上に積層されたバックコート層40とを備える。
【0045】
支持体10としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート及びポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、ポリアミド、ポリイミド、並びにポリアミドイミドのフィルムのような樹脂フィルムを用いることができる。
【0046】
非磁性層20及びバックコート層40は、支持体10上に、磁気テープの製造において通常採用されている方法により形成することができる。例えば、非磁性層20は、非磁性粒子、結合剤と、必要により分散剤、研磨剤及び潤滑剤等のその他の成分とを含む非磁性塗料を支持体10上に塗布して形成することができる。非磁性粒子としては、カーボンブラック、α−酸化鉄、酸化チタン、炭酸カルシウム、α−アルミナ又はこれらの混合物を用いることができる。また、バックコート層40は、カーボンブラック又はこれ以外の非磁性無機粉と、結合剤とを含むバックコート層用塗料を、支持体10上に塗布して形成することができる。
【0047】
磁性層30は、上記実施形態に係る酸化物微粒子粉末(例えばフェライト磁性粉末)を含んでいる。磁性層30は、以下の手順で形成することができる。まず、酸化物微粒子粉末と結合剤とを含む磁性塗料を、通常の方法によって非磁性層20上に塗布し、塗膜を形成する。磁性塗料は、結合剤の他に、分散剤、潤滑剤、研磨剤、硬化剤及び帯電防止剤等のその他の成分を含んでいてもよい。疎水性の結合剤の具体例としては、ポリ塩化ビニル系重合体又は共重合体、ポリウレタン系樹脂、ポリアクリル樹脂及びポリエステル系樹脂等の熱硬化性樹脂又は放射線硬化性樹脂が挙げられる。親水性の結合剤の具体例としては、ポリ(N−ビニル−2−ピロリドン)、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ポリグルタミン酸又はこれらの塩、ビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリアクリルアミド、ポリビニルアミン及びポリエチレンイミン又はこれらの誘導体若しくは共重合体、セルロース、水溶性アクリル樹脂、水溶性ポリビニルアセタール、水溶性ポリビニルブチラール、並びに水溶性ウレタン樹脂が挙げられる。
【0048】
次に、形成した塗膜に対して磁場配向処理を施した後、塗膜から溶媒を除去する。その後、塗膜を平滑化して塗膜を硬化させることによって、磁性層30を形成することができる。塗膜の平滑化は、好ましくはカレンダー処理により行われる。このようにして、バックコート層40、支持体10、非磁性層20及び磁性層30がこの順で積層された積層体を得ることができる。
【0049】
上述の方法によって得られた積層体を、所望のテープ状に裁断して、磁気テープ100を得ることができる。通常、磁気テープ100は所定のカートリッジ内に組み込まれて使用される。
【0050】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、酸化物微粒子粉末の製造方法においては、焼成工程を行わなくてもよい。この場合、加熱工程で得られた酸化物微粒子粉末を上述の各種用途に用いることができる。また、磁気記録媒体は、磁気カード、磁気ディスク等であってもよい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0052】
(実施例1)
<酸化物微粒子粉末の調製>
市販の硝酸ランタン(III)六水和物(La(NO・6HO)と、硝酸ストロンチウム(Sr(NO)と、硝酸亜鉛(II)六水和物(Zn(NO・6HO)と、硝酸鉄(III)九水和物(Fe(NO・9HO)とを、それぞれのモル比がLa:Sr:Zn:Fe=0.3:0.7:0.3:11.7になるように秤量した後、イオン交換水に溶解させて、原料混合物を得た。
【0053】
次に、各種の硝酸塩を含む上記の混合水溶液に対して、市販のクエン酸一水和物(C・HO)及びエチレングリコール(HOCHCHOH)を、硝酸塩:クエン酸一水和物:エチレングリコールの比率が、約1:5:20のモル比となるように加えて、金属−クエン酸塩錯体を含む溶液(金属有機酸塩溶液)を得た。
【0054】
この金属−クエン酸錯体を含む溶液を、100℃で6時間加熱攪拌してゲル化させることにより、金属錯体ゲル(金属−クエン酸錯体ゲル)を調製した後、得られた金属錯体ゲルを150℃で24時間乾燥した後、粉末状に粉砕して、金属錯体ゲルの乾燥粉を得た。こうして得られた乾燥粉に対し、温度及び雰囲気の制御が可能な管状電気炉を用いて、熱処理を行った。
【0055】
熱処理は、空気と過熱水蒸気の混合ガス雰囲気下において行った。空気と過熱水蒸気の混合比は、酸素濃度が10体積%となるように調整した。また、加熱温度及び加熱時間は、表1に示すとおり、それぞれ200〜600℃及び2〜24時間とした。これによって、熱処理条件の異なる7種類の酸化物微粒子粉末を得た。
【0056】
<酸化物微粒子粉末の評価>
上述の熱処理によって得られた酸化物微粒子粉末を、それぞれTEMにより観察して、100個の一次粒子の平均粒子径及び最大の粒子の粒子径を求めた。また、これらの粉末中の炭素含有量をガス分析により求めた。得られた結果を表1に示す。表中、「不定形」とは、粒子径を測定できる程度に粒子が成長しなかったことを示している。
【0057】
(実施例2)
熱処理時の雰囲気を、空気と過熱水蒸気の混合ガスに代えて窒素と加熱水蒸気の混合ガス(酸素濃度:0体積%)としたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物微粒子粉末を調製して評価した。評価結果を表1に示す。
【0058】
(実施例3)
熱処理時の雰囲気を、空気と過熱水蒸気の混合ガスに代えて加熱水蒸気のみとしたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物微粒子粉末を調製して評価した。評価結果を表1に示す。
【0059】
(比較例1)
熱処理時の雰囲気を、空気と過熱水蒸気の混合ガスに代えて空気のみ(酸素濃度:21体積%)としたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物微粒子粉末を調製して評価した。評価結果を表1に示す。
【0060】
(比較例2)
熱処理時の雰囲気を、空気と過熱水蒸気の混合ガスに代えて窒素のみ(酸素濃度:21体積%)としたこと以外は、実施例1と同様にして酸化物微粒子粉末を調製して評価した。評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】

【0062】
表1の結果から、熱処理を、水蒸気を含む雰囲気下で行うことによって、炭素含有量を十分に低減しつつ、微細で粗大粒子を含まない微粒子粉末が得られることが確認された。一方、空気中で熱処理を行った比較例1では、炭素含有量はある程度低減することができたものの、平均粒子径及び最大粒子径が実施例1〜3よりも大きくなっていた。比較例2では、管状電気炉から焼成粉を取り出した際に燃焼してしまう場合があった。これは、焼成粉中に残存する有機物やその分解物が十分に低減されていなかったために、取り出し時に酸化反応が発生して燃焼したものと思われる。次に、熱処理時における雰囲気中の酸素濃度による影響を調べた。
【0063】
(実施例4〜9)
熱処理時における雰囲気を、空気、窒素、及び過熱水蒸気の混合比を変えて調整したこと以外は、実施例1と同様にして酸化物微粒子粉末を調製し評価した。具体的には、過熱水蒸気の含有量を一定(10体積%)とし、空気と窒素の混合量を調製することによって、雰囲気中の酸素濃度を0〜20体積%に調製した。なお、実施例7〜9では、空気に代えて酸素を用いて雰囲気中の酸素濃度を調整した。実施例4〜9の熱処理時における雰囲気中の酸素濃度、及び酸化物微粒子粉末の評価結果を纏めて表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
表2の結果から、酸素濃度が低くても、酸素含有量を低減できることが確認された。また、酸素濃度が高くなると、平均粒径及び最大粒子径が大きくなる傾向にあることが確認された。これは、局所的な燃焼によって、粒成長が発生してしまうためと推察される。
【符号の説明】
【0066】
10…支持体、20…非磁性層、30…磁性層、40…バックコート層、100…磁気テープ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属錯体ゲルの乾燥粉を熱処理して酸化物微粒子粉末を得る加熱工程を有する酸化物微粒子粉末の製造方法であって、
前記加熱工程の少なくとも一部を、水蒸気を含む雰囲気下で行う製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程における前記水蒸気を含む前記雰囲気がさらに酸素を含む、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程において前記乾燥粉を250〜400℃で熱処理する、請求項1又は2記載の製造方法。
【請求項4】
前記加熱工程で得られた前記酸化物微粒子粉末を、前記加熱工程よりも高い温度で熱処理する焼成工程を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の製造方法により得られる酸化物微粒子粉末。
【請求項6】
請求項5記載の酸化物微粒子粉末を含む磁性層を備える磁気記録媒体。

【図1】
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【公開番号】特開2010−275161(P2010−275161A)
【公開日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−130827(P2009−130827)
【出願日】平成21年5月29日(2009.5.29)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】