説明

酸化物触媒およびその製造方法

【課題】従来よりも格段にCO転化率が高い酸化物触媒の提供。
【解決手段】CuO、MnOおよびK2Oを主成分として含み、これらの含有量が、CuO:25〜35質量部、MnO:65〜75質量部およびK2O:2〜8質量部であり、比表面積が110〜145m2/gである、酸化物触媒。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物触媒およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体製造工程の排ガス等に含まれる一酸化炭素を除去するために酸化物触媒が用いられる場合がある。従来の酸化物触媒としては、例えば特許文献1〜4に記載のものが挙げられる。
特許文献1には、組成式CuMnO2で表される一酸化炭素転化用触媒が記載されている。
特許文献2には、MnO2、CuO等から選ばれた酸化物からなることを特徴とするCOガスを含むガス中のCO選択的酸化触媒が記載されている。
特許文献3には、銅、マンガンおよび金属が多様な原子価状態をとることができる一つまたはそれ以上の希土類金属の酸化物混合体を含み、CuO、MnOおよび希土酸化物として表されるとき、それぞれ特定の重量百分率組成を有する酸化触媒が記載されている。
特許文献4には、CeO2、ZrO2、FeO2、Fe23、CuO、CuO2、Mn23、MnO、K2O、および組成式An1-nCO3(ここで、AはLa、Nd、Sm、Eu、Gd又はY、Bはアルカリ金属又はアルカリ土類金属、CはMn、Co、Fe又はNiである)で表される複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる酸化物触媒が坦持された触媒坦持ハニカムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−15501号公報
【特許文献2】特開2000−334304号公報
【特許文献3】特開2002−191978号公報
【特許文献4】特開2009−148742号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の一酸化炭素除去用の酸化物触媒はCO転化率が十分に高いとは言えず、よりCO転化率が高い酸化物触媒の開発が望まれる。
また、より低温においてCO転化率が優れる酸化物触媒の開発が望まれる。低温においてCO転化率に優れる酸化物触媒を用いれば、省エネルギーに資するからである。
本発明はCO転化率が従来のものよりも高く、特に低温(50℃程度)におけるCO転化率に優れる酸化物触媒およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0005】
なお、特許文献1〜3にはK2Oを含む触媒については記載されていない。また、特許文献4には、CeO2、ZrO2、FeO2、Fe23、CuO、CuO2、Mn23、MnO、K2O、および組成式An1-nCO3で表される複合酸化物からなる群から選ばれる少なくとも一つからなる酸化物触媒がススの燃焼作用を向上させることができると記載されているものの、羅列された酸化物の中で、その性能を検討しているのはCeO2だけであって、その他の酸化物の性能については言及されていない。また、羅列されている酸化物の中から、特に、CuO、MnOおよびK2Oの3つを選択した場合については一切記載されておらず、当然、CuO、MnOおよびK2Oの混合比率については検討されていない。
また、特許文献1〜4に記載の触媒は、いずれも200〜350℃程度の高温における性能について検討されており、50℃程度の低温におけるCO転化率に関しては、一切記載されていない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、従来のものよりもCO転化率が高い酸化物触媒を開発するために鋭意検討した。そして、CuO、MnOおよびK2Oが主成分であって、かつ、これら3つ成分を特定比率で含有し、さらに、比表面積が特定範囲にある酸化物触媒が、従来のものよりも格段にCO転化率(特に50℃程度の低温におけるCO転化率)が高くなることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は以下の(1)〜(9)である。
(1)CuO、MnOおよびK2Oを主成分として含み、これらの含有量が、CuO:25〜35質量部、MnO:65〜75質量部およびK2O:2〜8質量部であり、
比表面積が110〜145m2/gである、酸化物触媒。
(2)XPS測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図において、ピークが529.1〜529.4eVに現れる、上記(1)に記載の酸化物触媒。
(3)Cu、MnおよびKの少なくとも1つを含む1種類以上の固体原料を湿式で粉砕し、得られたスラリーを酸素含有雰囲気内で焼成して得られる、上記(1)または(2)に記載の酸化物触媒。
(4)前記スラリーのゼータ電位が0mV以下である、上記(3)に記載の酸化物触媒。
(5)CO転化に用いる、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の酸化物触媒。
(6)次の工程[1]および[2]を備える酸化物触媒の製造方法。
工程[1]:Cu、MnおよびKからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む固体原料の1種類以上を湿式で粉砕し、平均粒子径が0.5μm以下の粉砕物を含むスラリーを得る工程。
工程[2]:前記スラリーを酸素含有雰囲気内で焼成して酸化物触媒を得る工程。
(7)前記工程[1]において得られる前記スラリーのゼータ電位が0mV以下である、上記(6)に記載の酸化物触媒の製造方法。
(8)前記工程[1]において、前記固体原料として、炭酸銅、炭酸マンガンおよび炭酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを用いる、上記(6)または(7)に記載の酸化物触媒の製造方法。
(9)前記工程[2]において、前記スラリーを乾燥した後、400〜500℃で0.25〜8時間焼成して前記酸化物触媒を得る、上記(6)〜(8)のいずれかに記載の酸化物触媒の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、従来のものよりも格段にCO転化率が高く、特に低温(50℃程度)におけるCO転化率が高い酸化物触媒およびその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明について説明する。
本発明は、CuO、MnOおよびK2Oを主成分として含み、これらの含有量が、CuO:25〜35質量部、MnO:65〜75質量部およびKO:2〜8質量部であり、比表面積が110〜145m2/gである、酸化物触媒である。
このような酸化物触媒を、以下では「本発明の触媒」ともいう。
【0010】
本発明の触媒は、CuO、MnOおよびK2Oを主成分として含む。
ここで「主成分」とは、含有率が70質量%以上であることを意味する。すなわち、本発明の触媒におけるCuO、MnOおよびK2Oの合計含有率は70質量%以上である。この合計含有率は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることがより好ましく、100質量%である(すなわち、本発明の触媒が実質的にCuO、MnOおよびK2Oからなる)ことがさらに好ましい。ここで「実質的に」とは、原料や製造過程から不可避的に含有される不純物は含まれてよいことを意味する。
【0011】
なお、本発明の触媒は、Cu、MnおよびKの少なくとも一つを含む酸化物を主成分として含むものであり、必ずしもこれら酸化物の存在形態はCuO、MnOおよびK2Oとは限らない。例えばMnの酸化物としてはMnOの他にも、MnO2やMn23の存在形態が考えられる。また、CuMnO2等の存在形態も考えられる。しかしながら、本発明では、発明の理解を容易にするために、Cu、MnおよびKの各々がCuO、MnOおよびK2Oの形態で存在していると仮定している。本発明の触媒におけるCuO、MnOおよびK2Oの含有率は、Cu、MnおよびKの各元素の含有率を蛍光X線分析装置(XRF)を用いて測定し、各元素がCuO、MnOおよびK2Oの形態で存在していると仮定して計算して求めた値とする。
【0012】
本発明の触媒は、CuOを25〜35質量部、MnOを65〜75質量部、およびK2Oを2〜8質量部で含有する。
ここで、CuOは、MnO:65〜75質量部およびK2O:2〜8質量部に対して、26〜34質量部であることが好ましく、27〜33質量部であることがより好ましく、28〜32質量部であることがさらに好ましい。
また、MnOは、CuO:25〜35質量部およびK2O:2〜8質量部に対して、66〜74質量部であることが好ましく、67〜73質量部であることがより好ましく、68〜72質量部であることがさらに好ましい。
さらに、K2Oは、CuO:25〜35質量部およびMnO:65〜75質量部に対して、3〜8質量部であることが好ましく、4〜8質量部であることがより好ましい。
【0013】
本発明の触媒はCuO、MnOおよびK2Oの各成分を上記のような含有量で含み、かつ、比表面積が110〜145m2/gである酸化物触媒である。
本発明者は、従来のものよりもCO転化率が高い酸化物触媒を開発するために鋭意検討したところ、CuO、MnOおよびK2Oが主成分であって、かつ、これら3つの成分を上記のような特定量比で含有し、さらに、比表面積が上記のような特定範囲にある酸化物触媒が、従来のものよりも格段にCO転化率(特に50℃程度の低温におけるCO転化率)が高くなることを見出した。
本発明の触媒において、比表面積は110〜143m2/gであることが好ましく、115〜140m2/gであることがより好ましく、118〜140m2/gであることがさらに好ましい。
このような比表面積であると、CO転化率がより高くなるので好ましい。
【0014】
なお、本発明の触媒の比表面積は、窒素吸着法(BET法)によって測定した値を意味するものとする。窒素吸着法(BET法)について具体的に説明する。まず、本発明の触媒の乾燥体(0.2g)を試料として測定セルに入れ、窒素ガス気流中、250℃で40分間脱ガス処理を行い、その上で試料を窒素30体積%とヘリウム70体積%の混合ガス気流中で液体窒素温度に保ち、窒素を試料に平衡吸着させる。次に、上記混合ガスを流しながら試料の温度を徐々に室温まで上昇させ、その間に脱離した窒素の量を検出し、試料の比表面積を測定する。窒素吸着法(BET法)は、例えば従来公知の表面積測定装置を用いて行うことができる。
【0015】
本発明の触媒は、X線光電子分光分析法(XPS)測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図において、ピークが529.1〜529.4eVに現れるものであることが好ましい。
このような範囲内にピークが現れる場合、CO転化率(特に50℃程度の低温におけるCO転化率)がより高くなることを、本発明者は見出した。
【0016】
なお、本発明においてXPS測定では、粉末状とした本発明の触媒を試料とし、X線源MgKα線、電圧10kV、電流20mAの条件で測定してO1s殻結合エネルギースペクトル図を得て、得られたスペクトルをC1s(284.0eV)で補正してピーク位置を求めるものとする。
【0017】
本発明の触媒は、CuO、MnOおよびK2Oを主成分として含み、これらの含有量が、CuO:25〜35質量部、MnO:65〜75質量部およびK2O:2〜8質量部(好ましくは4〜8質量部)であり、比表面積が110〜145m2/g(好ましくは118〜140m2/g)であり、かつ、XPS測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図において、ピークが529.1〜529.4eVに現れる酸化物触媒であることが好ましい。
このような酸化物触媒は、CO転化率(特に50℃程度の低温におけるCO転化率)がより高くなるので好ましい。
【0018】
本発明の触媒は、半導体製造工程の排ガス等に含まれる一酸化炭素を除去するために用いる触媒として、好ましく用いることができる。また、防塵マスクに充填して用いることができる。
【0019】
次に本発明の触媒の製造方法について説明する。
本発明の触媒の製造方法は特に限定されず、例えば従来公知の方法であってよい。従来公知の方法として、例えば沈殿法が挙げられる。沈殿法としては、例えば、MnSO4およびCuSO4を含む溶液と、KMnO4およびKOHを含む溶液とを少しずつ混合して得た沈殿物を、濾過、洗浄、乾燥を経た後、酸素含有雰囲気下で焼成する方法が挙げられる。
【0020】
本発明の触媒は、次の工程[1]および[2]を備える酸化物触媒の製造方法によって製造することが好ましい。
工程[1]:Cu、MnおよびKの少なくとも1つを含む1種類以上の固体原料を湿式で粉砕し、平均粒子径が0.5μm以下の粉砕物を含むスラリーを得る工程。
工程[2]:前記スラリーを酸素含有雰囲気内で焼成して酸化物触媒を得る工程。
このような製造方法を、以下では「本発明の製造方法」ともいう。
【0021】
本発明の製造方法について説明する。
【0022】
<工程[1]>
本発明の製造方法における工程[1]では、Cu、MnおよびKからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む固体原料を1種類以上用いる。
ここで固体原料はCu、MnおよびKからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む固体原料であれば特に限定されない。また、複数種類の固体原料を混合などして用いることもできる。例えばCuを含む固体原料と、Mnを含む固体原料と、Kを含む固体原料との3種類の固体原料を所望の比率で混合して用いることもできる。
また、Cu、MnおよびKからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む固体原料を用いていれば、液体原料を用いてもよい。例えば、CuおよびMnを含む固体原料と、Kを含む液体原料とを用いることができる。
また、Cu、MnおよびKを含む1つの固体原料としては、例えば従来公知のものを用いることができる。
【0023】
Cuを含む固体原料として、塩基性炭酸銅、炭酸銅、水酸化銅、酸化銅、金属銅を用いることができる。これらの中でも塩基性炭酸銅を用いることが好ましい。理由は粉砕によって容易に結晶状態が非晶質になり、焼成後の比表面積の向上や活性点が増加する傾向があるからである。
【0024】
Mnを含む固体原料として、炭酸マンガン、酸化マンガン(II)、酸化マンガン(IV)、水酸化マンガンを用いることができる。これらの中でも炭酸マンガンを用いることが好ましい。理由は粉砕によって容易に結晶状態が非晶質になり、焼成後の比表面積の向上や活性点が増加する傾向があるからである。
【0025】
Kを含む固体原料として、炭酸カリウム、水酸化カリウム、硫酸カリウム、酢酸カリウム、塩化カリウム、硝酸カリウムを用いることができる。これらの中でも炭酸カリウムを用いることが好ましい。理由は触媒毒となる元素を含有させずに、湿式粉砕を始める際に用いる液体(水や有機溶媒)のゼータ電位を0mV以下に調整できるからである。
【0026】
本発明の製造方法における工程[1]では、Cu、MnおよびKの少なくとも1つを含む1種類以上の固体原料として、炭酸銅、炭酸マンガンおよび炭酸カリウムの混合物を用いることが好ましい。理由は、原料の結晶状態の非晶質化及びメカノケミカル効果(固体粒子に剪断力などの機械的エネルギーを与えることで周囲の物質と化学反応を起こさせる効果)が得られるためである。
【0027】
本発明の製造方法における工程[1]では、このような固体原料を湿式で粉砕し、平均粒子径が0.5μm以下の粉砕物を含むスラリーを得る。
湿式での粉砕とは、水や有機溶媒に浸した状態で前記固体原料を粉砕することである。例えば前記固体原料と水とを粉砕ミルに入れ粉砕する方法が挙げられる。
工程[1]では、このように固体原料を湿式で粉砕して、平均粒子径が0.5μm以下の粉砕物を含むスラリーを得る。このように湿式で粉砕する工程を備える製造方法によって製造された本発明の触媒は、湿式以外の粉砕方法によって粉砕する工程を備える製造方法によって製造された酸化物触媒と比較して、CO転化率(特に50℃程度の低温におけるCO転化率)がより高くなることを本発明者は見出した。
【0028】
ここでスラリーが含む粉砕物の平均粒子径は0.5μm以下であることが好ましく、0.4μm以下であることがより好ましい。また、この平均粒子径は0.2μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましい。このような平均粒子径であると、本発明の製造方法によって得られる本発明の触媒のCO転化率がより高くなるからである。
【0029】
なお、平均粒子径は、室温大気中で、スラリーにヘキサメタリン酸ナトリウム水溶液を添加し、超音波分散および撹拌によって分散させ、このスラリーを60〜80%の透過率となるように調節した後、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて粒度分布を測定し、その粒度分布から求めたメジアン径を意味するものとする。
【0030】
また、工程[1]で得られる前記スラリーのゼータ電位が0mV以下であることが好ましく、−3mV以下であることがより好ましく、−4mV以下であることがさらに好ましい。このようなゼータ電位であると、本発明の製造方法によって得られる本発明の触媒のCO転化率(特に50℃程度の低温におけるCO転化率)がより高くなることを、本発明者は見出した。
【0031】
なお、前記スラリーのゼータ電位は、次の方法で測定するものとする。
前記スラリーを純水中に希釈し、両端に電極を取り付けた測定セルに注入して電場を与える。すると、粒子は自身の電位と逆の極性を持つ電極の方に移動する。ここで、粒子の移動速度は荷電状態に比例するので、その移動速度を測定し、単位電場当りの移動速度を求めて、ゼータ電位を算出する。
【0032】
<工程[2]>
次に、本発明の製造方法における工程[2]について説明する。
工程[2]では、前記スラリーを酸素含有雰囲気内で焼成して酸化物触媒を得る。
【0033】
ここで前記スラリーを焼成する前に乾燥することが好ましい。すなわち、前記スラリーを乾燥した後に焼成することが好ましい。また、乾燥は、噴霧乾燥が好ましい。噴霧乾燥とは、前記スラリーを噴霧し、霧状とした後または霧状としながら乾燥する方法である。噴霧乾燥の方法としては、ノズルの先端に気体流とスラリーとを流入させることによってノズルからスラリー成分の液滴を吐出させ、適当な乾燥ガス温度や送風量を用いて飛散した液滴を迅速に乾燥させる方法が例示できる。飛散した液滴を迅速に乾燥させるように、適当な温度や送風等の処理が施されるが、乾燥塔上部から下部に向かいダウンフローで乾燥ガスを導入するのが好ましい。また、乾燥ガス温度は、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上とし、好ましくは310℃以下、より好ましくは280℃以下とする。
噴霧乾燥はスプレードライヤーを用いて行うことが好ましい。また、スプレードライヤーの乾燥用熱風の入口温度を好ましくは190〜270℃、より好ましくは220〜240℃とし、出口温度を好ましくは100〜140℃、より好ましくは110〜130℃とし、アトマイザー回転数を好ましくは20,000〜30,000rpm、より好ましくは24,000〜28,000rpmとする。
【0034】
工程[2]では、好ましくは上記のように乾燥した後、前記スラリーを酸素含有雰囲気内で焼成して酸化物触媒を得る。
ここで、焼成方法は酸素含有雰囲気内で行われる方法であれば特に限定されず、例えば従来公知の方法、例えばトンネル炉、マッフル炉、ロータリーキルン等を用いる焼成方法が挙げられる。
【0035】
工程[2]における焼成は、400〜500℃で行うことが好ましく、410〜450℃で行うことがより好ましい。
また、焼成は、0.25〜8時間行うことが好ましく、2〜5時間行うことがより好ましい。
このような温度でこのような時間焼成すると、本発明の製造方法によって、よりCO転化率が高い本発明の触媒が得られるからである。
【実施例】
【0036】
本発明の実施例について説明する。本発明は以下に説明する実施例に限定されるものではない。
【0037】
<実施例1>
固体原料として、86.7gの塩基性炭酸銅(CuCO3・Cu(OH)2)と、244.5gの炭酸マンガン(MnCO3)と、11.9gの炭酸カリウム(K2CO3)とを用い(固体原料:合計343.1g)、これに1348.2gのイオン交換水を混合して混合物(合計1691.3g)を得た。これらの固体原料を上記の質量で用いた場合、計算上、得られる酸化物触媒における各成分の含有量は、CuO:30質量部、MnO:70質量部、KO:4質量部である。
【0038】
次に、この混合物をビーズ径0.5mmのジルコニアビーズ430ccを充填した循環方式湿式粉砕機(LABSTAR、アシザワ・ファインテック社製)を用いて粉砕し、スラリーを得た。ここで粉体条件は、回転数:2480rpm、循環量:1L/min、粉砕時間:5時間とした。
得られたスラリー中の固形分の平均粒子径を測定した。測定にはレーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いた。
また、スラリーのゼータ電位を求めた。測定には電気泳動方式ゼータ電位測定装置を用いた。
当該平均粒子径およびゼータ電位を第1表に示す。
【0039】
次に、循環方式湿式粉砕機から、得られたスラリーを回収し、スプレードライヤーの1つである噴霧造粒乾燥装置(大川原化工機株式会社製、商品名:LB−8型)を用いて乾燥し、乾燥粉体を得た。ここで、乾燥装置の入口温度を230℃、出口温度を120℃、アトマイザー回転数を26,000rpmとした。
次に、噴霧造粒乾燥装置で得られた乾燥粉体をマッフル炉で、大気雰囲気下、420℃で2.5時間かけて焼成し、酸化物触媒を得た。
【0040】
次に、酸化物触媒について、比表面積を窒素吸着法(BET法)で測定した。
酸化物触媒の比表面積の測定結果を第1表に示す。
【0041】
次に、XPS測定を行い、O1s殻結合エネルギースペクトル図を作成し、ピークの位置を求めた。
XPS測定結果(O1sピーク位置)を第1表に示す。
【0042】
次に、酸化物触媒について流通式触媒反応装置を用いて、一酸化炭素の酸化反応を行なった。反応系に0.05gの触媒を充填し、窒素流通下で100℃まで加熱して前処理を行なった後に、50℃において空間速度26000h-1でCOガス(CO:1体積%、O2:20体積%、残部は窒素)を接触させた。そして、出口でガス分析装置を用いてガス成分の濃度測定を行なった。
なお、空間速度(h-1)は、処理ガス量(m3/h)を触媒量(m3)で除した値である。
CO転化率を第1表に示す。
【0043】
<実施例2>
固体原料として、86.7gの塩基性炭酸銅(CuCO3・Cu(OH)2)と、244.5gの炭酸マンガン(MnCO3)と、23.7gの炭酸カリウム(K2CO3)とを用い(固体原料:合計354.9g)、これに1419.4gのイオン交換水を混合して混合物(合計1774.3g)を得た。これらの固体原料を上記の質量で用いた場合、計算上、得られる酸化物触媒における各成分の含有量は、CuO:30質量部、MnO:70質量部、K2O:8質量部である。
そして、このような混合物を実施例1と同様に処理し、同様の測定を行った。
測定結果を第1表に示す。
【0044】
<実施例3>
固体原料として、86.7gの塩基性炭酸銅(CuCO3・Cu(OH)2)と、244.5gの炭酸マンガン(MnCO3)と、5.9gの炭酸カリウム(K2CO3)とを用い(固体原料:合計337.1g)、これに1348.2gのイオン交換水を混合して混合物(合計1685.3g)を得た。これらの固体原料を上記の質量で用いた場合、計算上、得られる酸化物触媒における各成分の含有量は、CuO:30質量部、MnO:70質量部、K2O:2質量部である。
そして、このような混合物を実施例1と同様に処理し、同様の測定を行った。
測定結果を第1表に示す。
【0045】
<比較例1>
111.3gの硫酸マンガン4水和物(MnSO4・4H2O)と94.2gの硫酸銅5水和物(CuSO4・5H2O)を2.92Lのイオン交換水に溶解させて、硫酸塩溶液を得た。また、63.6gの過マンガン酸カリウム(KMnO4)と73.2gの水酸化カリウム(KOH)を3.66Lのイオン交換水に溶解させて過マンガン酸カリウム溶液を得た。そして、前記過マンガン酸カリウム溶液を前記硫酸塩溶液に攪拌しながら40℃で注下させ、1時間反応させて沈殿物を得た。得られた沈殿物を濾過し、イオン交換水で洗浄したのち、170℃で16時間乾燥させ、酸化物触媒を得た。
そして、得られた酸化物触媒について、実施例1と同様に比表面積を測定し、XPS測定を行い、CO転化率を測定した。
【0046】
<比較例2>
固体原料として、86.7gの塩基性炭酸銅(CuCO3・Cu(OH)2)と、244.5gの炭酸マンガン(MnCO3)とを用い(固体原料:合計331.2g)、これに1324.8gのイオン交換水を混合して混合物(合計1656.0g)を得た。これらの固体原料を上記の質量で用いた場合、計算上、得られる酸化物触媒における各成分の含有量は、CuO:30質量部、MnO:70質量部である。
そして、このような混合物を実施例1と同様に処理し、同様の測定を行った。
測定結果を第1表に示す。
【0047】
<比較例3>
固体原料として、86.7gの塩基性炭酸銅(CuCO3・Cu(OH)2)と、244.5gの炭酸マンガン(MnCO3)と、29.6gの炭酸カリウム(K2CO3)とを用い(固体原料:合計342.8g)、これに1443.1gのイオン交換水を混合して混合物(合計1785.9g)を得た。これらの固体原料を上記の質量で用いた場合、計算上、得られる酸化物触媒における各成分の含有量は、CuO:30質量部、MnO:70質量部、K2O:10質量部である。
そして、このような混合物を実施例1と同様に処理し、同様の測定を行った。
測定結果を第1表に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
第1表に示すように、本発明の製造方法によって製造した本発明の触媒に相当する実施例1〜3は、CO転化率が35%以上と高くなった。特に実施例1および2は、CO転化率が45%以上と非常に高くなった。
これに対して比較例1〜3はCO転化率が31%以下で低くなった。
このような実施例および比較例より、CuO、MnOおよびKOが主成分であって、かつ、これら3つ成分を特定比率で含有し、さらに、比表面積が特定範囲にある酸化物触媒が、従来のものよりも格段にCO転化率(特に50℃程度の低温におけるCO転化率)が高くなることが確認できた。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
CuO、MnOおよびK2Oを主成分として含み、これらの含有量が、CuO:25〜35質量部、MnO:65〜75質量部およびK2O:2〜8質量部であり、
比表面積が110〜145m2/gである、酸化物触媒。
【請求項2】
XPS測定によるO1s殻結合エネルギースペクトル図において、ピークが529.1〜529.4eVに現れる、請求項1に記載の酸化物触媒。
【請求項3】
Cu、MnおよびKの少なくとも1つを含む1種類以上の固体原料を湿式で粉砕し、得られたスラリーを酸素含有雰囲気内で焼成して得られる、請求項1または2に記載の酸化物触媒。
【請求項4】
前記スラリーのゼータ電位が0mV以下である、請求項3に記載の酸化物触媒。
【請求項5】
CO転化に用いる、請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物触媒。
【請求項6】
次の工程[1]および[2]を備える酸化物触媒の製造方法。
工程[1]:Cu、MnおよびKからなる群から選ばれる少なくとも1つを含む固体原料の1種類以上を湿式で粉砕し、平均粒子径が0.5μm以下の粉砕物を含むスラリーを得る工程。
工程[2]:前記スラリーを酸素含有雰囲気内で焼成して酸化物触媒を得る工程。
【請求項7】
前記工程[1]において得られる前記スラリーのゼータ電位が0mV以下である、請求項6に記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項8】
前記工程[1]において、前記固体原料として、炭酸銅、炭酸マンガンおよび炭酸カリウムからなる群から選ばれる少なくとも1つを用いる、請求項6または7に記載の酸化物触媒の製造方法。
【請求項9】
前記工程[2]において、前記スラリーを乾燥した後、400〜500℃で0.25〜8時間焼成して前記酸化物触媒を得る、請求項6〜8のいずれかに記載の酸化物触媒の製造方法。


【公開番号】特開2012−130883(P2012−130883A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−286424(P2010−286424)
【出願日】平成22年12月22日(2010.12.22)
【出願人】(000190024)日揮触媒化成株式会社 (458)
【Fターム(参考)】