説明

酸化物超電導厚膜用組成物、及びこれを使用した厚膜テープ状酸化物超電導体の製造方法

【課題】RE−Ba−Cu系酸化物超電導厚膜をMOD法により製造するのに適し、高速で均一な成膜が可能なRE−Ba−Cu系酸化物超電導厚膜用組成物、並びにこの組成物を用いた厚膜テープ状酸化物超電導体の製造方法を提供すること。
【解決手段】RE−Ba−Cu系酸化物超電導厚膜を形成するための組成物であり、RE成分として炭素原子数4〜8のケト酸のRE塩、Ba成分としてトリフルオロ酢酸バリウム、Cu成分として炭素原子数6〜16の分岐飽和脂肪族カルボン酸の銅塩及び炭素原子数6〜16の脂環族カルボン酸の銅塩からなる群から選ばれる1種類以上の銅塩、並びにこれらの金属塩成分を溶解させる有機溶剤を必須成分として含有し、REとBaとCuのモル比が1:1.3〜2.2:2.4〜3.6であり、有機溶剤の含有量が25〜80重量%であることを特徴とする酸化物超電導厚膜用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RE−Ba−Cu(REは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Pr及びHoからなる群から選択された少なくとも1種以上の元素)系酸化物超電導体厚膜の製造に用いられる組成物、並びに該組成物を用いた厚膜テープ状酸化物超電導体の製造方法に関する。該組成物は、前駆体組成物を加熱及び/又は焼成することで基板上にセラミックスを形成する湿式成膜法(以下、MOD法と記載することもある)に好適であり、高速で均一に成膜することができる。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導体は、その臨界温度(Tc)が液体窒素温度を超えることから、線材及びデバイス等への応用が期待されており、種々の研究が鋭意進められている。
【0003】
特に、酸化物超電導体を線材に適用するためには、臨界電流密度(Jc)が高く、且つ長尺の酸化物超電導体を製造する必要があり、一方、長尺のテープ状酸化物超電導体を得るためには、強度及び可撓性の観点から、金属テープ上に酸化物超電導体を形成する必要がある。
【0004】
また、酸化物超電導体は、結晶学的に異方性を有するため、Jcの向上のためには配向した基板上に酸化物超電導体をエピタキシャル成長させる成膜プロセスの確立が必要である。
【0005】
テープ状のRE−Ba−Cu系酸化物超電導体の製造方法としては、MOD法が検討されている。
【0006】
このMOD法(Metal Organic Deposition Processes:有機酸塩堆積法)は、金属有機酸塩を熱分解させるもので、金属成分を含有した有機化合物を均一に溶解した溶液を基板上に塗布した後、これを加熱して熱分解させることにより基板上に厚膜を形成する方法であり、非真空プロセスで高いJcが得られる他、低コストで高速成膜が可能であるため、テープ状酸化物超電導線材の製造に適するという利点を有する。
【0007】
MOD法においては、出発原料である金属有機酸塩を熱分解させると、通常アルカリ土類金属(Ba等)の炭酸塩が生成されるが、この炭酸塩を経由する固相反応による酸化物超電導体の形成には、800℃以上の高温熱処理を必要とする。また、厚膜化に伴うJcの低下が大きな問題となっている。
【0008】
上記の問題に対して、オクチル酸塩、ナフテン酸塩等の脂肪族有機酸塩、トリフルオロ酢酸に代表されるフッ素を含む有機酸塩等を出発原料とし、仮焼成熱処理及び焼成により、RE−Ba−Cu系酸化物超電導体を形成する方法が、特許文献1〜3に開示されている。
【0009】
例えば、特許文献3には、銅の前駆体化合物が炭素原子数6以上の分岐飽和脂肪族カルボン酸塩、炭素原子数6以上の脂環族カルボン酸塩であり、イットリウムの前駆体化合物が炭素原子数6以上の分岐飽和脂肪族カルボン酸塩、炭素原子数6以上の脂環族カルボン酸塩、トリフルオロ酢酸塩であり、バリウムの前駆体化合物がトリフルオロ酢酸バリウムである酸化物超電導体厚膜組成物が開示されている。当該組成物は、前駆体化合物の溶解性が良好であり、塗布性能に優れ、膜厚及び電気特性が均一な厚膜テープを高速で成膜でき、5℃/min程度の仮焼成熱処理の昇温速度において、均一なテープ状酸化物超電導体が得られることが開示されている。
【0010】
しかし、長尺のテープを工業的に生産するためには、生産効率をより向上させる必要があり、その観点から、仮焼成熱処理における昇温速度を更に向上することが求められている。特許文献3に開示の酸化物超電導体厚膜用組成物は、仮焼成熱処理における昇温速度を大きくするとエッジ部分の膜厚が中央部分の膜厚より大きくなり、電気特性の均一性の悪化、クラックの発生等の問題が発生する。
【0011】
また、特許文献4には、酸化物超電導体のMOD原料の有機酸金属塩として、アセト酢酸、プロピオニル酪酸、ベンゾイル蟻酸のケト酸の塩が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5231074号明細書
【特許文献2】特開2002−203439号公報
【特許文献3】特開2004−161505号公報
【特許文献4】特開昭63−277770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従って、本発明の目的は、RE−Ba−Cu(REは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Pr及びHoからなる群から選択された少なくとも1種以上の元素)系酸化物超電導厚膜をMOD法により製造するのに適し、高速で均一な成膜が可能なRE−Ba−Cu系酸化物超電導厚膜用組成物、並びにこの組成物を用いた厚膜テープ状酸化物超電導体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者等は、RE成分として、炭素原子数4〜8のケト酸の塩を使用することで上記問題点を解決し得ることを知見した。
【0015】
本発明は、上記知見に基づきなされたものであり、RE−Ba−Cu(REは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Pr及びHoからなる群から選択された少なくとも1種以上の元素)系酸化物超電導厚膜を形成するための組成物であり、RE成分として炭素原子数4〜8のケト酸のRE塩、Ba成分としてトリフルオロ酢酸バリウム、Cu成分として炭素原子数6〜16の分岐飽和脂肪族カルボン酸の銅塩及び炭素原子数6〜16の脂環族カルボン酸の銅塩からなる群から選ばれる1種類以上の銅塩、並びにこれらの金属塩成分を溶解させる有機溶剤を必須成分として含有し、REとBaとCuのモル比が1:1.3〜2.2:2.4〜3.6であり、有機溶剤の含有量が25〜80重量%であることを特徴とする酸化物超電導厚膜用組成物を提供するものである。
【0016】
また、本発明は、基体上に上記酸化物超電導用厚膜組成物を塗布した後、仮焼成熱処理を施して、上記基体上に酸化物超電導前駆体を形成し、次いで、該酸化物超電導前駆体に結晶化熱処理を施して、上記基体上にRE−Ba−Cu系酸化物超電導厚膜を形成することを特徴とする厚膜テープ状酸化物超電導体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、RE−Ba−Cu系酸化物超電導厚膜をMOD法により製造するのに適し、高速で均一な成膜が可能な酸化物超電導厚膜用組成物を提供することができる。これを用いることで、仮焼成熱処理の昇温速度を10℃/min以上としても、クラック発生等の問題を生じることなく、厚膜テープ状酸化物超電導体を製造することができ、該製造方法により得られる厚膜テープ状酸化物超電導体は電気特性も良好である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係るRE−Ba−Cu(REは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Pr及びHoからなる群から選択された少なくとも1種以上の元素)系酸化物超電導体とは、REとBaとCuの複合酸化物からなる超電導体であり、例えば、RE1+xBa2-xCu3y(ここで、REは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Pr及びHoからなる群から選択された少なくとも1種類以上の元素を示し、xは、0≦x≦0.4の数を示し、yは、6.5≦y≦7.0の数を示す。)として知られる組成を有する超電導体が挙げられる。REがYであるものは、超電導体の組成制御がしやすいので好ましい。
【0019】
本発明の酸化物超電導厚膜用組成物のRE成分は、炭素原子数4〜8のケト酸のRE塩の1種類以上からなる。該RE塩は、L13RE・mH2O(L1は、炭素数4〜8のケト酸残基であり、REは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Pr又はHoであり、mは0又はとり得る水和数である)で表され、通常無水物又は1〜3水和物で得られる。RE塩を誘導するケト酸の炭素原子数が4より小さいと充分な溶解性を得ることができず、均一な酸化物超電導厚膜を得られない。また、炭素原子数が8より大きくても充分な溶解性を得られないか、RE塩中の金属含有量が小さくなり、結果的に金属含有量換算での濃度が低下する。該RE塩を導入するケト酸としては、アセト酢酸、ベンゾイル蟻酸、レブリン酸、プロピオニルプロパン酸、ブチリルプロパン酸、プロピオニル酪酸等が挙げられるが、γ位がケトン基であるものは溶解性及び昇温速度向上の効果が特に良好であるため好ましく、中でもレブリン酸が安価であるのでより好ましい。
【0020】
上記RE成分、即ち炭素原子数4〜8のケト酸のRE塩は、公知の反応を応用して合成することができる。例えば、REの酢酸塩、酸化物を上記ケト酸と溶媒中で反応させる方法で得ることができる。また、REの塩化物、硝酸塩等の無機塩とケト酸のナトリウム塩、カリウム塩又はリチウム塩との複分解法により得ることもできる。
【0021】
本発明の酸化物超電導厚膜用組成物のBa成分は、(CF3COO)2Ba・nH2O(nは0又はとり得る水和数である)で表されるトリフルオロ酢酸バリウムであり、通常無水物か1水和物で得られる。トリフルオロ酢酸塩を酸化物超電導体の前駆体化合物として使用することは従来から知られているが、その利点は、酸化物超電導体への変換温度が高いバリウムの炭酸塩を経由させないことにある。この効果が最も効率よく得られるのは、Ba成分をトリフルオロ酢酸塩とした場合である。Ba成分ではなく、RE成分にトリフルオロ酢酸塩を使用すると本発明の効果が得られず、Cu成分にトリフルオロ酢酸塩を使用すると後述する溶解性の向上効果が得られない。
【0022】
本発明の酸化物超電導厚膜用組成物に含有されるCu成分は、炭素原子数6〜16の分岐飽和脂肪族カルボン酸の銅塩、及び炭素原子数6〜16の脂環族カルボン酸の銅塩からなる群から選ばれる1種類以上からなる。該銅塩は、L22Cu・pH2O(L2は、炭素原子数6〜16の分岐飽和脂肪族カルボン酸残基又は炭素原子数6〜16の脂環族カルボン酸残基であり、pは0又はとり得る水和数である)で表され、通常無水和物又は1〜2水和物で得られる。該銅塩を誘導する炭素原子数6〜16の分岐飽和脂肪族カルボン酸としては、2−エチルヘキサン酸、イソノナン酸、ネオデカン酸等が挙げられ、該銅塩を誘導する炭素原子数6〜16の脂環族カルボン酸の銅塩を誘導するものとしては、シクロヘキサンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸、ナフテン酸等が挙げられる。これらのカルボン酸のうち、ナフテン酸等の天然物由来のものは、本発明で規定された炭素原子数以外のものや分岐又は脂環基を有さないものを成分として含有する場合があるが、本発明においては、これらの成分の有無を問わずに、通常は、市販されているものをそのまま使用することができる。
【0023】
上記の銅塩としては、ネオデカン酸銅、2−エチルヘキサン酸銅、イソノナン酸銅等の合成カルボン酸の銅塩が、性能や品質的に安定したものとなるので好ましい。また、ネオデカン酸銅、2−エチルヘキサン酸銅、イソノナン酸銅、ナフテン酸銅は、それ自身の有機溶剤への溶解性が良好であり、さらに、本発明に係るRE塩及びバリウム塩の溶解性を向上させる効果もあるので好ましい。
【0024】
本発明の酸化物超電導厚膜用組成物において、上記RE成分、Ba成分及びCu成分の含有量は、合計で10〜60重量%が好ましく、さらに好ましくは30〜50重量%であり、モル濃度(3成分の合計)としては、0.5〜2.0モル/Lが好ましく、さらに好ましくは0.7〜1.5モル/Lである。また、本発明の酸化物超電導厚膜用組成物において、上記RE成分、Ba成分及びCu成分は、REとBaとCuのモル比が1:1.3〜2.2:2.4〜3.6となるように含有させる。該モル比は、所望のRE−Ba−Cu組成に応じて、上記範囲から適宜選択される。
【0025】
本発明に使用される有機溶剤は、上記のRE成分、Ba成分及びCu成分を溶解させるものであれば特に制限されずに、所望の塗布性能、溶解性、粘度、溶解安定性等の性能を得るために任意に選択され、2種類以上混合して使用してもよい。
【0026】
上記有機溶剤としては、アルコール系溶剤、ジオール系溶剤、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、脂肪族又は脂環族炭化水素系溶剤、芳香族炭化水素系溶剤、シアノ基を有する炭化水素溶剤、ハロゲン化芳香族炭化水素系剤、その他の溶剤等が挙げられる。
【0027】
アルコール系溶剤としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、1−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、第3ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、2−ペンタノール、ネオペンタノール、第3ペンタノール、ヘキサノール、2−ヘキサノール、ヘプタノール、2−ヘプタノール、オクタノール、2―エチルヘキサノール、2−オクタノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、メチルシクロペンタノール、メチルシクロヘキサノール、メチルシクロヘプタノール、ベンジルアルコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、2−(N,N−ジメチルアミノ)エタノール、3(N,N−ジメチルアミノ)プロパノール等が挙げられる。
【0028】
ジオール系溶剤としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、イソプレングリコール(3−メチル−1,3−ブタンジオール)、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,2−オクタンジオール、オクタンジオール(2−エチル−1,3−ヘキサンジオール)、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、2,5−ジメチル−2,5−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0029】
ケトン系溶剤としては、アセトン、エチルメチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、メチルヘキシルケトン、エチルブチルケトン、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン等が挙げられる。
【0030】
エステル系溶剤としては、ギ酸メチル、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸第2ブチル、酢酸第3ブチル、酢酸アミル、酢酸イソアミル、酢酸第3アミル、酢酸フェニル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸イソプロピル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソブチル、プロピオン酸第2ブチル、プロピオン酸第3ブチル、プロピオン酸アミル、プロピオン酸イソアミル、プロピオン酸第3アミル、プロピオン酸フェニル、2−エチルヘキサン酸メチル、2−エチルヘキサン酸エチル、2−エチルヘキサン酸プロピル、2−エチルヘキサン酸イソプロピル、2−エチルヘキサン酸ブチル、乳酸メチル、乳酸エチル、メトキシプロピオン酸メチル、エトキシプロピオン酸メチル、メトキシプロピオン酸エチル、エトキシプロピオン酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノイソプロピルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノ第2ブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノイソブチルエーテルアセテート、ブチレングリコールモノ第3ブチルエーテルアセテート、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、オキソブタン酸メチル、オキソブタン酸エチル、γ−ラクトン、マロン酸ジメチル、コハク酸ジメチル、プロピレングリコールジアセテート、δ−ラクトン等が挙げられる。
【0031】
エーテル系溶剤としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、モルホリン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジブチルエーテル、ジエチルエーテル、ジオキサン等が挙げられる。
【0032】
脂肪族又は脂環族炭化水素系溶剤としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカリン、ソルベントナフサ、テレピン油、D−リモネン、ピネン、ミネラルスピリット、スワゾール#310(コスモ松山石油(株)、ソルベッソ#100(エクソン化学(株))等が挙げられる。
【0033】
芳香族炭化水素系溶剤としては、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、メシチレン、ジエチルベンゼン、クメン、イソブチルベンゼン、シメン、テトラリン等が挙げられる。
【0034】
シアノ基を有する炭化水素溶剤としては、アセトニトリル、1−シアノプロパン、1−シアノブタン、1−シアノヘキサン、シアノシクロヘキサン、シアノベンゼン、1,3−ジシアノプロパン、1,4−ジシアノブタン、1,6−ジシアノヘキサン、1,4−ジシアノシクロヘキサン、1,4−ジシアノベンゼン等が挙げられる。
【0035】
ハロゲン化芳香族炭化水素系溶媒としては、四塩化炭素、クロロホルム、トリクロロエチレン、塩化メチレン等が挙げられる。
【0036】
その他の有機溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、アニリン、トリエチルアミン、ピリジン等が挙げられる。
【0037】
上記の有機溶剤としては、沸点が80℃以上であるものが均一な塗布性を与えるので好ましい。また、アルコール系溶剤は、様々な基材に対する濡れ性が良好なので好ましい。特に1−ブタノール、イソブタノール、2−ブタノール、第3ブタノール、ペンタノール、イソペンタノール、2−ペンタノール、ネオペンタノール、第3ペンタノール、ヘキサノール、2−ヘキサノール、ヘプタノール、2−ヘプタノール、オクタノール、2―エチルヘキサノール、2−オクタノール、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングルコールモノエチルエーテル、ジエチレングルコールモノメチルエーテル等の炭素数4〜8のアルコール系溶剤が好適である。
【0038】
本発明の酸化物超電導厚膜用組成物における上記有機溶剤の含有量は、25〜80重量%である。塗布性、金属成分の濃度、溶解安定性を考慮すると40〜70重量%が好ましい。
【0039】
本発明の酸化物超電導厚膜用組成物は、さらに、必要に応じて、可溶化剤、レベリング剤、増粘剤、安定剤、界面活性剤、分散剤等の任意成分を含有してもよい。尚、これらの任意成分の含有量は、本発明の酸化物超電導厚膜用組成物中において、10重量%以下とするのが好ましい。
【0040】
上記の任意成分の具体例としては、可溶化剤及びレベリング剤として機能する有機酸が挙げられる。該有機酸としては、水酸基を有してもよく、分岐を有してもよく、不飽和結合を有してもよい炭素原子数6〜30の有機酸が好適である。具体例としては、2−エチルヘキサン酸、イソノナン酸、ネオデカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸、トウハク酸、リンデル酸、ツズ酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノエライジン酸、γ−リノレン酸、リノレン酸、リシノール酸、12−ヒドロキシステアリン酸、シクロヘキサンカルボン酸、メチルシクロヘキサンカルボン酸、ナフテン酸、ロジン酸、アビエチン酸等が挙げられ、アビエチン酸が好ましい。
【0041】
本発明の酸化物超電導体厚膜用組成物の粘度については、特に制限されず、塗布方法により任意に設定される。スピンコート法、ディップ法、刷毛塗り法等の原料溶液に流動性が必要な塗布方法を選択する場合は、10〜50mPa・sが好ましい範囲である。
【0042】
次に、上述した本発明の酸化物超電導厚膜用組成物を用いたRE−Ba−Cu系の厚膜テープ状酸化物超電導体の製造方法について説明する。本発明の酸化物超電導厚膜用組成物を用いた厚膜テープ状酸化物超電導体は、従来のMOD法による厚膜テープ状酸化物超電導体の製造方法に準じて製造することができる。
【0043】
本発明の厚膜テープ状酸化物超電導体の製造においては、先ず、基板上に、上述した本発明の酸化物超電導厚膜用組成物を塗布する。
上記基板としては、特に制限されるものではなく、酸化物超電導厚膜を湿式法にて形成させることができる公知の基板から適宜選択することができ、例えば、金属テープ、中間層を設けた金属テープ等が挙げられる。また、基板の寸法も特に制限されるものではなく、酸化物超電導体の用途等に応じて適宜選択することができる。例えば、幅1〜100mm、厚さ0.05〜3mm、長さ0.1〜1000mの範囲から選択することができる。
【0044】
上記基板としては、単結晶基板及び多結晶基板のいずれも用いることができる。上記単結晶基板としては、LaAlO3(100)単結晶基板(LAO単結晶基板)等が挙げられ、一方、多結晶基板としては、配向性Ni基板やIBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法を用いた複合基板等が挙げられる。
【0045】
上記基板への本発明の酸化物超電導厚膜用組成物の塗布方法は、特に制限されるものではなく、酸化物超電導厚膜を湿式法により形成する際に従来採用されている公知の塗布方法から適宜選択することができ、例えば、ディップ法、刷毛塗り法等が挙げられ、ディップ法が好ましい。ディップ法による場合、基体の移動速度は、5〜30m/hが好ましい範囲である。
【0046】
次に、このようにして、基板上に本発明の酸化物超電導厚膜用組成物を塗布したものに、仮焼成熱処理を施して、酸化物超電導前駆体を得る。この仮焼成熱処理における好ましい条件を以下に詳述する。
【0047】
本発明の酸化物超電導厚膜用組成物を用いることにより、上記仮焼成熱処理における昇温速度を大きくすることが可能であり、そうすることにより、高速で厚膜テープ状酸化物超電導体を成膜することができる。従来知られているRE−Ba−Cu系の酸化物超電導厚膜用組成物を用いた場合、仮焼成熱処理における昇温速度は通常5℃/min程度であったが、本発明の酸化物超電導厚膜用組成物を用いると、昇温速度を10℃/min以上に速めることができる。本発明の製造方法において、昇温速度は特に20℃/min以上が好ましく、その上限は、成膜が可能であれば特に制限されるものではないが、通常40℃/min程度である。
【0048】
また、上記仮焼成熱処理は、250℃以上、特に300〜500℃の温度範囲において、水蒸気分圧が2.1vol%以下、特に0.1〜1.0vol%の雰囲気中で施されることが好ましい。
【0049】
また、上記仮焼成熱処理においては、基板の移動速度と温度勾配との積を大きくすることが可能であり、そうすることにより、小型の電気炉で厚膜テープ状酸化物超電導体を成膜することができる。基板の移動速度と温度勾配との積は、2℃/min以上、特に5℃/min以上が好ましく、その上限は、成膜が可能であれば特に制限されるものではないが、通常10〜50℃/min程度である。
【0050】
上記の塗布から仮焼成熱処理までの操作は、所望の膜厚の酸化物超電導体が得られるように、必要に応じて複数回繰り返してもよい。
【0051】
次に、このように仮焼成熱処理して得られた酸化物超電導前駆体に結晶化熱処理を施すことにより、基体上に酸化物超電導厚膜が形成された厚膜テープ状RE−Ba−Cu系酸化物超電導体が得られる。この結晶化熱処理は、常法に従って行えばよいが、例えば、熱処理温度は725〜775℃の範囲で、水蒸気分圧が2.1〜20vol%の雰囲気中で施されることが好ましい。熱処理時間は1〜5時間が好ましい。
【0052】
上記の製造方法により均一な膜厚の厚膜テープ状酸化物超電導体を得ることができる。このようにして製造される厚膜テープ状酸化物超電導体の膜厚は特に制限はなく、用途応じて適宜選択されるものであるが、通常は0.5〜10μmの範囲である。また、最大膜厚部分と最小膜厚部分との厚みの差は、1μm以下、特に0.5μm以下が好ましい。
【0053】
また、本発明の厚膜テープ状酸化物超電導体の製造方法に上記の結晶化熱処理を施すことにより、臨界電流密度の変化量を小さく抑えることが可能である。その臨界電流密度の変化量は、±0.5MA/cm2の範囲内であることが好ましい。
【0054】
本発明の製造方法により得られた厚膜テープ状酸化物超電導体の用途としては、線材、デバイス、或いは、電力ケーブル、変圧器、限流器等の電力機器等が挙げられる。
【実施例】
【0055】
以下に実施例等を挙げ、さらに本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0056】
[合成例1]レブリン酸イットリウムの製造
2リットルの反応フラスコに、酢酸イットリウム四水和物202.9gを仕込み、水500g及びエタノール240gを加えた。これにレブリン酸229.92gを撹拌しながら加え、50℃で2時間攪拌した。得られた溶液の系内を徐々に減圧して濃縮し、得られた液体を窒素気流下で取り出した(粘性液体280g(収率99%))。得られた液体について、IR分析、イットリウム含有量分析(EDTAによる滴定分析)、及び空気中での示差熱分析を行った。これらの分析の結果、得られた液体は、目的物であるレブリン酸イットリウムと同定した。分析結果を以下に示す。
【0057】
<分析結果>
・IR分析:吸収ピーク(cm-1
3100、2666、1715、1409、1402、1369、1208、1165、1054、1022、988、930、800、771、661、612、571、505、500
・イットリウム含有量分析:
18.3質量%(理論値:20.47質量%)
・示差熱分析(30℃、10℃/min、600℃)
510℃(−79質量%:酸化イットリウム)
【0058】
[実施例1]酸化物超電導厚膜用組成物の調製
エチレングルコールモノエチルエーテルと1−ペンチルアルコールとを容量比2:1で混合して混合溶剤とした。該混合溶剤、合成例1で得られたレブリン酸イットリウム、トリフルオロ酢酸バリウム、オクチル酸銅、及びアビエチン酸を、3種の金属塩の合計含有量が42.5質量%、混合溶剤の含有量が52質量%、アビエチン酸の含有量が5.5質量%となるように混合して、均一溶液として酸化物超電導厚膜用組成物を得た。3種の金属塩は、金属原子モル比がY:Ba:Cu=1:1.5:3.05となるように使用した。得られた酸化物超電導厚膜用組成物の粘度は34mPa・s(25℃)であった。この酸化物超電導厚膜用組成物を組成物No.1とした。
【0059】
[比較例1]比較用の酸化物超電導厚膜用組成物の調製
実施例1と同じ混合溶剤、トリフルオロ酢酸イットリウム、トリフルオロ酢酸バリウム、オクチル酸銅、及びアビエチン酸を、3種の金属塩の合計含有量が42.5質量%、混合溶媒含有量が52質量%、アビエチン酸の含有量が5.5質量%となるように混合して、均一溶液として比較用の酸化物超電導厚膜用組成物を得た。3種の金属塩は、金属原子モル比がY:Ba:Cu=1:1.5:3.05となるように使用した。得られた酸化物超電導厚膜用組成物の粘度は30mPa・s(25℃)であった。この酸化物超電導厚膜用組成物を比較用組成物1とした。
【0060】
[評価例1]
長さ10m、幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイテープ上に、IBAD法を用いて室温下でZr2Gd27の第1中間層を1μmの厚さに成膜し、この上にスパッタ法を用いてCeO2の第2中間層を厚さ0.5μmに成膜して、ハステロイ/Zr2Gd27/CeO2からなるIBAD複合基板を作製した。この基板を長さ10mmでカットして試験用基板とした。
上記試験用基板上に、実施例1で得た組成物No.1又は比較例1で得た比較用組成物1(表1参照)を、下記条件によるスピンコート法により塗布した。
次いで、水蒸気分圧2.1vol%、酸素分圧97.9vol%の雰囲気下で、5℃/min又は25℃/minの昇温速度(表1参照)において500℃まで仮焼成熱処理した後、酸素分圧100%の雰囲気下で炉冷した。次いで、同様の方法により塗布及び仮焼成を6回繰り返し、Y−Ba−Cu前駆体を得た。
その後、水蒸気分圧6.3vol%、酸素分圧93.7vol%の雰囲気下で、5℃/minの昇温速度において上記Y−Ba−Cu前駆体を加熱し、基板温度750℃で1〜3時間焼成した後、炉内雰囲気を乾燥ガスに切替えて10分間保持する結晶化熱処理を行ない、引き続き炉冷し、厚膜テープ状酸化物超電導体を得た。
得られた厚膜テープ状酸化物超電導体の酸化物超電導厚膜に、銀を蒸着して電極を形成し、酸素雰囲気中450℃で1時間熱処理を施して、評価用試料とした。この評価用試料について、液体窒素中におけるJcを測定した。これらの測定結果を表1に示す。
【0061】
(スピンコート法の条件)キャスト量:0.2mL、スピンコートプログラム:2500rpm、90秒
【0062】
【表1】

【0063】
上記表1から、本発明の酸化物超電導厚膜用組成物である組成物No.1は、仮焼成熱処理の昇温速度を25℃/minとしても得られる酸化物超電導厚膜の電気特性であるJcは、悪化しないことが確認できた。これに対し、比較用組成物1は、仮焼成熱処理の昇温速度を25℃/minとすると、Jcが低下することが確認できた。
【0064】
[実施例2]厚膜テープ状酸化物超電導体の製造
基板としては、ハステロイ/Zr2Gd27/CeO2からなるIBAD複合基板を用いた。このIBAD複合基板は、長さ10m、幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイテープ上に、IBAD法を用いて室温下でZr2Gd27の第1中間層を1μmの厚さに成膜し、この上にスパッタ法を用いてCeO2の第2中間層を厚さ0.5μmに成膜して作製した。
このIBAD複合基板に、組成物No.1を表2に記載した移動速度でのディップコート法により塗布した。
次いで、水蒸気分圧2.1vol%、酸素分圧97.9vol%の雰囲気下で、表2に記載の昇温速度で500℃まで仮焼成熱処理した後、酸素分圧100%の雰囲気下で炉冷し、Y−Ba−Cu前駆体を得た。
その後、水蒸気分圧6.3vol%、酸素分圧93.7vol%の雰囲気下で、5℃/minの昇温速度において上記Y−Ba−Cu前駆体を加熱し、基板温度750℃で1〜3時間焼成した後、炉内雰囲気を乾燥ガスに切替えて10分間保持する結晶化熱処理を行ない、引き続き炉冷し、厚膜テープ状酸化物超電導体を得た。
得られた厚膜テープ状酸化物超電導体の酸化物超電導厚膜に、銀を蒸着して電極を形成し、酸素雰囲気中450℃で1時間熱処理を施して、評価用試料とした。得られた厚膜テープ状酸化物超電導体の中央部の膜厚とエッジ部のクラックの有無を確認した。結果を表2に示す。
【0065】
[比較例2]比較用厚膜テープ状酸化物超電導体の製造
酸化物超電導厚膜用組成物として比較用組成物1を使用した以外は、上記実施例2と同様の方法により、比較用厚膜テープ状酸化物超電導体を作成し、膜厚とクラックを確認した。結果を表2に示す。
【0066】
【表2】

【0067】
上記表2から、本発明の酸化物超電導厚膜用組成物である組成物No.1は、移動速度を大きくすることができ、生産性が向上することが確認できた。例えば、実施例2−4では、移動速度10m/hr、昇温速度20℃/minの条件で膜厚0.56μmのクラックのない厚膜が得られた。一方、比較用組成物は、移動速度を大きくすると得られるテープのエッジにクラックが発生するので、生産性の向上には限界がある。例えば、比較例2−3では、移動速度2.4m/hr、昇温速度4.8℃/minで膜厚0.32μmの厚膜が得られるが、テープエッジにクラックが発生した。
【0068】
[実施例3]厚膜テープ状酸化物超電導体の製造
実施例1で作成した組成物No.1を、エチレングルコールモノエチルエーテルと1−ペンチルアルコールとの容量比2:1の混合溶剤(実施例1で使用した混合溶剤と同じ)で希釈し、粘度15mPa・s(25℃)の組成物No.2を調製した。組成物No.2において、3種の金属塩の合計含有量は39質量%、混合溶媒含有量は55.5質量%、アビエチン酸の含有量は5.5質量%であった。また、組成物No.2の1リットル中の金属含有量(モル換算)は、YとBaとCuの合計のモル数で1.1モルであった。
【0069】
実施例2で使用したものと同じIBAD複合基板(但し長さは20mとした)に組成物No.2を移動速度10m/hrのディップコート法により塗布した。
次いで、水蒸気分圧2.1vol%、酸素分圧97.9vol%の雰囲気下で、20℃/minの昇温速度で450℃まで仮焼成熱処理した後、酸素分圧100%の雰囲気下で炉冷した。その後、同様の方法により塗布及び仮焼成を6回繰り返し、Y−Ba−Cu前駆体を得た。
その後、水蒸気分圧13.4vol%、酸素分圧0.1vol%の雰囲気下で、5℃/minの昇温速度において上記Y−Ba−Cu前駆体を加熱し、基板温度760℃で1時間焼成した後、炉内雰囲気を乾燥ガスに切替えて10分間保持する結晶化熱処理を行ない、引き続き炉冷し、膜厚1.55μmの厚膜テープ状酸化物超電導体を得た。
得られた厚膜テープ状酸化物超電導体の酸化物超電導厚膜に、銀を蒸着して電極を形成し、酸素雰囲気中450℃で1時間熱処理を施して試料とした。この試料について、直流4端子法によりIc値とJc値(電圧基準1μV/cm)を測定したところ、10mのテープは、Ic=225A/cm−w、Jc=1.45MA/cm2であった。
【0070】
上記実施例3より、移動速度10m/hr、昇温速度20℃/minの高生産効率の条件であっても、長尺の厚膜テープ状酸化物超電導体を製造できることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
RE−Ba−Cu(REは、Y、Nd、Sm、Gd、Eu、Yb、Pr及びHoからなる群から選択された少なくとも1種以上の元素)系酸化物超電導厚膜を形成するための組成物であり、
RE成分として炭素原子数4〜8のケト酸のRE塩、Ba成分としてトリフルオロ酢酸バリウム、Cu成分として炭素原子数6〜16の分岐飽和脂肪族カルボン酸の銅塩及び炭素原子数6〜16の脂環族カルボン酸の銅塩からなる群から選ばれる1種類以上の銅塩、並びにこれらの金属塩成分を溶解させる有機溶剤を必須成分として含有し、
REとBaとCuのモル比が1:1.3〜2.2:2.4〜3.6であり、
有機溶剤の含有量が25〜80重量%であることを特徴とする酸化物超電導厚膜用組成物。
【請求項2】
上記RE成分が炭素原子数4〜8のケト酸のイットリウム塩からなる請求項1に記載の酸化物超電導厚膜用組成物。
【請求項3】
上記RE成分がγ位にケトン基を有するケト酸のRE塩からなる請求項1又は2に記載の酸化物超電導厚膜用組成物。
【請求項4】
上記有機溶剤が炭素原子数4〜8のアルコール系溶媒からなるものである請求項1〜3のいずれかに記載の酸化物超電導厚膜用組成物。
【請求項5】
基体上に請求項1〜4のいずれかに記載の酸化物超電導用厚膜組成物を塗布した後、仮焼成熱処理を施して、上記基体上に酸化物超電導前駆体を形成し、次いで、該酸化物超電導前駆体に結晶化熱処理を施して、上記基体上にRE−Ba−Cu系酸化物超電導厚膜を形成することを特徴とする厚膜テープ状酸化物超電導体の製造方法。
【請求項6】
上記仮焼成熱処理における昇温速度が10℃/min以上である請求項5に記載の厚膜テープ状酸化物超電導体の製造方法。

【公開番号】特開2010−192142(P2010−192142A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32490(P2009−32490)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】