説明

酸化物超電導線材およびその製造方法

【課題】金属シースの電気抵抗を大きくして熱伝導を小さくすることができ、かつ酸化物超電導体の臨界電流密度を低下させない金属シース材で覆われた酸化物超電導線材を提供する。
【解決手段】Bi(2223)系酸化物超電導体が被覆材により覆われてなる酸化物超電導線材において、その被覆材は金を含む銀合金であり、その銀合金中の金の濃度が被覆材の内側から外側にかけて高くなっており、その酸化物超電導線材は被覆材が銀のみを含む場合に比べて同等以上の臨界電流密度を有するとともに、被覆材はそれが銀のみを含む場合に比べて必然的に低い電気伝導性と低い熱伝導性とを有していること特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、高強度でかつ高抵抗なシースを有する酸化物超電導線材およびその製造方法に関するものであり、特に、電流リードや交流応用に有利なビスマス系酸化物超電導線材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導線材の金属シースには、酸化物超電導体の発見当初から、一般的に銀または銀合金が用いられてきた。しかしながら、銀は、その電気抵抗が小さくて、熱伝導が大きい特徴を有している。したがって、銀シースを用いた酸化物超電導線材を電流リードに用いた場合には侵入熱が大きく、また交流応用には交流損失が大きくなるという問題があった。
【0003】
一方、銀合金をシースに用いた場合には、その電気抵抗は大きく、熱伝導は小さくなることが知られていたが、合金に用いた金属と超電導体との反応性の問題から、臨界電流密度を低下させるという問題点があった。
【0004】
酸化物超電導体の中でも、特にBi(2223)系酸化物超電導体は、最適生成温度領域がその最適温度から約2℃と狭く、またBi(2223)相以外の非超電導相が容易に生成しやすく、最適な組成比の範囲も小さい。また、酸化物超電導体の反応性も大きいため、その構成相に含まれる以外のほとんどの元素と他の金属元素とが激しく反応し、反応性が小さいのは唯一銀のみに対してであった。
【特許文献1】特開平6−283056号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸化物超電導線材を電流リードや交流用途に応用する際には、金属シースの熱伝導を小さくし、またシースの電気抵抗を大きくする必要がある。このように金属シースの熱伝導を小さくし、電気抵抗を大きくするためには、銀を合金化すればよい。しかしながら、上述のように酸化物超電導体等との反応性の面から、従来から銀シースの合金化は困難であった。
【0006】
特に、Bi(2223)系酸化物超電導線材は、臨界電流密度Jcの大きさおよび臨界温度Tcの高さの点から、電流リードや液体窒素温度における交流用途に有望と考えられている。そのため、特にBi(2223)系酸化物超電導線材においては、金属シースの熱伝導の低減および電気抵抗の増加が望まれていた。
【0007】
しかしながら、従来このBi(2223)系酸化物超電導線材においては、一見X線回折測定等から反応していないように見えていても、臨界電流密度Jcの測定を行なうと臨界電流密度Jcが低下しているのがわかり、非常に敏感な超電導線材であることがわかっていた。
【0008】
この発明の目的は、上述の問題点を解決して、金属シースの電気抵抗を大きくして熱伝導を小さくすることができ、かつ酸化物超電導体の臨界電流密度を低下させない金属シース材で覆われた酸化物超電導線材およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一つの態様によれば、Bi(2223)系酸化物超電導体が被覆材により覆われてなる酸化物超電導線材において、その被覆材は金を含む銀合金であり、その銀合金中の金の濃度が被覆材の内側から外側にかけて高くなっており、その酸化物超電導線材は被覆材が銀のみを含む場合に比べて同等以上の臨界電流密度を有するとともに、被覆材はそれが銀のみを含む場合に比べて必然的に低い電気伝導性と低い熱伝導性とを有していること特徴としている。
【0010】
なお、被覆材の内面における銀合金中の金の濃度は、0.1at%以上で0.5at%以下の範囲内にあることが好ましい。
【0011】
本発明の他の態様によれば、Bi(2223)系酸化物超電導体またはその原料を金属シースに充填した後に塑性加工および熱処理を施して酸化物超電導線材を製造する方法において、それらの塑性加工と熱処理を施す前においてその金属シースは銀からなる第1の層とその第1の層の外側に形成された金を含む銀合金からなる第2の層とを含む2層構造からなっており、その酸化物超電導線材の製造後において金属シース中の金の濃度がそのシースの内側から外側にかけて高くなるように分布させられており、それによって、酸化物超電導線材は金属シースが銀のみを含む場合に比べて同等以上の臨界電流密度を有するとともに、金属シースはそれが銀のみを含む場合に比べて必然的に低い電気伝導性と低い熱伝導性とを有することを特徴としている。
【0012】
なお、その金属シース中において金を含む銀合金からなる第2の層は、1at%以上で3at%以下の範囲内の金を含むことが好ましい。
【0013】
塑性加工と熱処理は、第1次の塑性加工とその後の第1次の熱処理および第2次の塑性加工とその後の第2次の熱処理を含むことが好ましい。そして、それらの第1次熱処理と第2次熱処理のいずれもが、845℃±2℃の範囲内の温度で好ましく行われ得る。また、それらの第1次熱処理と第2次熱処理のいずれもが、50時間以上で100時間以内の期間で好ましく行われ得る。
【0014】
金属シースの内側における金の濃度は、酸化物超電導線材の製造後に0.1at%以上で0.5at%以下の範囲内になるように調整されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
以上のような本発明によれば、酸化物超電導線材において、超電導体の臨界電流密度を低下させることなく、シースの熱伝導を減少させて電気抵抗を大きくすることができる。したがって、本発明による酸化物超電導線材を電流リードに用いれば、シースの熱伝導が減少するため侵入熱を小さくすることができ、交流用途に用いれば、シースの電気抵抗が大きいので交流損失の低減が図られる。
【0016】
また、シース材が合金化されて強度が大きくなるので、酸化物超電導線材の臨界電流密度の上昇も期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明による超電導線材は、テープ状線材の形をしており、単芯または多芯構造が可能で、ケーブル、パワーリード、コイルなどに使用可能である。
【0018】
また、酸化物超電導体としては、たとえば、イットリウム系、ビスマス系、およびタリウム系のものが用いられるが、本発明においては、臨界温度が110Kと高く臨界電流密度も高い点、毒性が少ない点、ならびに希土類元素を必要としない点で、ビスマス(Bi)系、特にBi(2223)系酸化物超電導体が好ましい。
【0019】
一般に、酸化物超電導線材の製造においては、800℃以上の温度での焼結が必要である。そのため、金属シースとして内側に銀、外側に金を用いて、これを線材焼結時に合金化させることができる。すなわち、たとえば、内側に銀、外側に金または金を含む銀合金を有する金属シースを用いることにより、焼結時に金と銀の合金化が起こり、内側から外側にかけて金の濃度が高くなるようにすることができる。
【0020】
また、2層構造の金属シースを予め熱処理して、金の濃度が内側から外側にかけて高くなっている金属シースを形成した後、これを用いて線材の製造を行なってもよい。
【0021】
本発明による効果を確認するために、以下のような種々の酸化物超電導線材のサンプルを作製して、それらのサンプルの特性を調べた。
【0022】
まず、Bi2 3 、PbO、SrCO3 、CaCO3 およびCuOを用いて、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.8:0.4:2.0:2.2:3.0の組成比になるように配合した。この粉末を大気中にて750℃で12時間、800℃で8時間、さらに、減圧雰囲気1Torrにて、760℃で8時間の順に熱処理を施した。なお、各熱処理後において、粉砕を行なった。
【0023】
次に、このような熱処理および粉砕を経て得られた粉末を、ボールミルにより粉砕し、サブミクロンの粉末を得た。この粉末を800℃で2時間熱処理を施した後、図1に示す4種の構成を有する外径24mm、内径20mmの金属シースに充填した。
【0024】
すなわち、(a)は銀Agのみからなる金属シースであり、(b)は、内側が銀、外側が1at%の金Auを含む銀合金からなる2層構造の金属シースであり、(c)は、内側が銀、外側が3at%の金を含む銀合金からなる2層構造の金属シースであり、さらに(d)は、内側が銀、外側が10at%の金を含む銀合金からなる2層構造の金属シースである。
【0025】
その後、これらを1mm径まで伸線加工を施した後、伸線加工後の線材を厚さ0.18mmになるように圧延加工した。このテープ線材を10cmに切断し、50時間または100時間にわたって845℃の1次熱処理を施した。続いて、この線材を、厚さ0.15mmになるまで圧延加工を施し、50時間または100時間にわたって845℃で2次熱処理を施した。
【0026】
図2は、このようにして得られたBi(2223)系酸化物超電導線材の一例の構成を示す断面図である。図2を参照して、この線材は、Bi(2223)系酸化物超電導体1が、金属シース2により覆われてなるテープ線材である。
【0027】
このようにして得られたBi(2223)系酸化物超電導線材について、臨界電流密度Jcを液体窒素中にて測定した。その結果を、表1に示す。
【0028】
また、酸化物超電導線材の作製後に、超電導体との界面における金属シースの金の濃度についても、測定を行なった。その結果を、表1に併せて示す。
【0029】
【表1】

【0030】
この表1から明らかなように、内側が銀で外側が10at%の金を含む銀合金からなる2層構造の金属シース(d)を利用して作製された酸化物超電導線材のサンプルでは、銀Agのみからなる金属シース(a)を利用して作製されたサンプルに比べて、臨界電流密度Jcが若干低下している。これは、金属シース(d)を利用して作製されたサンプルではシースの内面における金の濃度が2.7at%以上にもなっており、そのように高い金の濃度が超電導特性に悪影響を及ぼしたものと考えられる。
【0031】
他方、内側が銀で外側が1at%の金Auを含む銀合金からなる2層構造の金属シース(b)を利用して作製されたサンプルおよび内側が銀で外側が3at%の金を含む銀合金からなる2層構造の金属シース(c)を利用して作製されたサンプルでは、銀Agのみからなる金属シース(a)を利用して作製されたサンプルに比べて、臨界電流密度Jcが同等または向上している。これは、金属シース(b)または(c)のいずれを利用して作製されたサンプルにおいても、シースの内面にける金の濃度が0.1at%以上で0.5at%以下の僅かな濃度であるので、超電導特性を低下させることがなく、場合によって向上させることもできたと考えられる。
【0032】
勿論、金属シース(b)または(c)のいずれを利用して作製されたサンプルにおいても、その作製後の金シースが厚さ方向に濃度勾配を有する金含有銀合金となっているので、銀のみを含むシースに比べて、必然的に低い熱伝導性と高い電気抵抗性と高い強度を有していることは言うまでもない。これらのシースの特性も、サンプルの観測される超電導特性の低下防止または場合によって向上に寄与していると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0033】
以上のように、本発明によれば、酸化物超電導線材において、超電導体の臨界電流密度を低下させることなく、シースの熱伝導を減少させて電気抵抗を大きくすることができる。したがって、本発明による酸化物超電導線材を電流リードに用いれば、熱伝導が減少するため侵入熱を小さくすることができ、交流用途に用いれば、シースの電気抵抗が大きいので交流損失の低減が図られる。
【0034】
また、シース材が合金化されて強度が大きくなるので、酸化物超電導線材の臨界電流密度の上昇も期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】酸化物超電導線材の種々のサンプルの作製に用いられた金属シースの構成を示す断面図である。
【図2】Bi(2223)系酸化物超電導線材の一例の構成を示す断面図である。
【符号の説明】
【0036】
1 酸化物超電導体、2 金属シース。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Bi(2223)系酸化物超電導体が被覆材により覆われてなる酸化物超電導線材において、
前記被覆材は、金を含む銀合金であり、
前記銀合金中の金の濃度が、前記被覆材の内側から外側にかけて高くなっており、
前記酸化物超電導線材は、前記被覆材が銀のみを含む場合に比べて、同等以上の臨界電流密度を有するとともに、
前記被覆材は、それが銀のみを含む場合に比べて、必然的に低い電気伝導性と低い熱伝導性とを有すること特徴とする酸化物超電導線材。
【請求項2】
前記被覆材の内側における前記銀合金中の金の濃度が、0.1at%以上で0.5at%以下の範囲内にあることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材。
【請求項3】
Bi(2223)系酸化物超電導体またはその原料を金属シースに充填した後に塑性加工および熱処理を施して酸化物超電導線材を製造する方法において、
前記塑性加工と前記熱処理を施す前において、前記金属シースは、銀からなる第1の層と、前記第1の層の外側に形成された金を含む銀合金からなる第2の層とを含む2層構造からなっており、
前記酸化物超電導線材の製造後において、前記銀合金中の金の濃度が、前記金属シースの内側から外側にかけて高くなるように分布させられており、
それによって、前記酸化物超電導線材は、前記金属シースが銀のみを含む場合に比べて、同等以上の臨界電流密度を有するとともに、
前記被覆材は、それが銀のみを含む場合に比べて、必然的に低い電気伝導性と低い熱伝導性とを有することを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記第2の層は、1at%以上で3at%以下の範囲内の金を含むことを特徴とする請求項3に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記塑性加工と前記熱処理は、第1次の塑性加工とその後の第1次の熱処理および第2次の塑性加工とその後の第2次の熱処理を含むことを特徴とする請求項3または4に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記第1次熱処理と前記第2次熱処理のいずれもが845℃±2℃の範囲内の温度で行われることを特徴とする請求項5に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項7】
前記第1次熱処理と前記第2次熱処理のいずれもが50時間以上で100時間以内の期間で行われることを特徴とする請求項5または6に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項8】
前記金属シースの内側における前記銀合金中の金の濃度は、前記酸化物超電導線材の製造後に0.1at%以上で0.5at%以下の範囲内になるように調整されていることを特徴とする請求項3から7のいずれかに記載の酸化物超電導線材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−73533(P2007−73533A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291428(P2006−291428)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【分割の表示】特願平7−78629の分割
【原出願日】平成7年4月4日(1995.4.4)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】