説明

酸化物超電導線材の製造方法および超電導機器

【課題】 酸化物超電導線材内で超電導結晶が高度に配向化された組織と、均一な超電導フィラメント形状を実現し、それによって高い臨界電流値を有する酸化物超電導線材が製造できる方法を提供する。
【解決手段】 本発明は、(Bi,Pb)2223超電導体の前駆体粉末を金属管に充填する工程と、前記前駆体粉末が充填された金属管を塑性加工する工程と、前記塑性加工工程後の線材を熱処理する熱処理工程とを備えた酸化物超電導線材の製造方法であって、該前駆体粉末を板状に圧縮成形した後、板状前駆体粉末を金属管に充填することを特徴とし高臨界電流値化を図る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導ケーブル、超電導コイル、超電導変圧器、超電導電力貯蔵装置等の超電導応用機器に用いられる(Bi,Pb)2Sr2Ca2Cu310±δ(δは0.1程度の数:以下(Bi,Pb)2223とする)相を含む酸化物超電導線材の製造方法に関し、詳しくは(Bi,Pb)2223超電導線材の臨界電流値向上を目的とする酸化物超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属シース法で作製された(Bi,Pb)2223相を主成分とする酸化物超電導線材は高い臨界温度を持ちかつ、液体窒素温度等の比較的簡単な冷却下でも高い臨界電流値を示す有用な線材である(たとえば、非特許文献1を参照)。それゆえ更なる性能(臨界電流値)の向上が実現すれば、より実用に供される範囲が広がる。
【0003】
また上記(Bi,Pb)2223超電導材線材を使用することによって、従来の常伝導導体を用いるよりはるかにエネルギー損失を低減することが可能であると考えられている。そのため(Bi,Pb)2223超電導材線材を導体として用いた超電導ケーブル、超電導コイル、超電導変圧器、超電導電力貯蔵装置等の超電導応用機器開発も同時に進められている。
【0004】
超電導線材の臨界電流値を上げる方法としては、(Bi,Pb)2223系超電導線材を加圧された雰囲気下において焼結する方法が採用されている(特許文献1および非特許文献1を参照)。これにより液体窒素温度での臨界電流値は約100Aから120A級に向上している。
【特許文献1】特開2002−093252号公報
【非特許文献1】SEIテクニカルレビュー、2004年3月 第164号 p36−42
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の技術によっても、臨界電流値向上の効果は認められる。しかしながら、今後の市場からのニーズを考えれば、さらなる臨界電流値の増大が望まれる。そこで本発明はより臨界電流値の高い酸化物超電導線材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、(Bi,Pb)2223線材の製造工程中における前駆体粉末の形態に特徴をもたせることによって、臨界電流値を向上させる超電導線材の製造方法を見出した。具体的には以下のとおりである。
【0007】
本発明は、(Bi,Pb)2223超電導体の前駆体粉末を金属管に充填する工程と、前記前駆体粉末が充填された金属管を塑性加工する工程と、前記塑性加工工程後の線材を熱処理する熱処理工程とを備えた酸化物超電導線材の製造方法であって、該前駆体粉末を板状に圧縮成形した後、板状前駆体粉末を金属管に充填することを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法である。
【0008】
本発明において、前記板状前駆体に含まれる超電導結晶のa−b面方向が金属管の長手方向にそろうように、該板状前駆体粉末を金属管に充填することが好ましい。
【0009】
本発明において、前記圧縮成型は圧延によって行われることが好ましい。
【0010】
また本発明において、前記圧縮成形された前駆体粉末を熱処理した後、金属管に充填することが好ましい。
【0011】
本発明において、前記(Bi,Pb)2223超電導体の前駆体粉末は、正方晶Bi2212相が主相であることが好ましい。
【0012】
また本発明は、上記のいずれかに記載の製造方法により製造された酸化物超電導線材を導体として含む超電導機器である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の製造方法によれば、高い臨界電流値を有する(Bi,Pb)2223酸化物超電導線材を得ることができる。また本発明の酸化物超電導線材を導体として用いることにより、高性能な超電導ケーブル、超電導コイル、超電導変圧器、超電導電力貯蔵装置等の超電導機器を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
(実施の形態)
図1は、酸化物超電導線材の構成を模式的に示す部分断面斜視図である。図1を参照して、例えば、多芯線の酸化物超電導線材について説明する。酸化物超電導線材11は、長手方向に伸びる複数本の酸化物超電導体フィラメント12と、それらを被覆するシース部13とを有している。複数本の酸化物超電導体フィラメント12の各々の材質は、Bi−Pb−Sr−Ca−Cu−O系の組成が好ましく、特に(Bi,Pb):Sr:Ca:Cuの原子比がほぼ2:2:2:3の比率で近似して表される(Bi,Pb)2223相を含む材質が最適である。シース部13の材質は、例えば銀や銀合金等の金属から構成される。
【0015】
次に、上記の酸化物超電導線材の製造方法について説明する。
【0016】
図2は、本発明の実施の形態における酸化物超電導線材の製造工程を示すフロー図である。また図3〜7は、図2の各工程を示す図である。
【0017】
図2および図3を参照して、まず、酸化物超電導体の前駆体粉末31を金属管34に充填する(ステップS1)。この酸化物超電導体の前駆体粉末31は、たとえば(Bi,Pb)2Sr2Ca1Cu28±δ(δは0.1に近い数:以下(Bi,Pb)2212と呼ぶ)相やBi2Sr2Ca1Cu28±δ(δは0.1に近い数:以下Bi2212と呼ぶ)相を主相とし、(Bi,Pb)2223相等の超電導相32、アルカリ土類酸化物(例えば、(Ca,Sr)CuO2、(Ca,Sr)2CuO3、(Ca,Sr)14Cu2441等)、Pb酸化物(例えば、Ca2PbO4、(Bi,Pb)3Sr2Ca2Cu1z)等の非超電導相33を含む材質よりなっている。なお、金属管34としては銀や銀合金を用いることが好ましい。これは前駆体粉末と金属管が反応して化合物を形成することによる、前駆体粉末の組成ずれを防ぐためである。本発明はこの充填時における前駆体粉末の形態に特徴を持たせたものである。この特徴、効果については後述する。
【0018】
次に、図2および図4に示すように、上記前駆体粉末が充填された金属管41を所望の直径まで伸線加工し、前駆体42を芯材として銀などの金属に被覆された単芯線43を作製する(ステップS2)。
【0019】
次に、図2および図5に示すように、この単芯線51を多数束ねて、例えば銀等からなる金属管52内に嵌合する(多芯嵌合:ステップS3)。これにより、前駆体粉末を芯材として多数有する多芯構造材が得られる。
【0020】
次に、図2および図6に示すように、多芯構造材61を所望の直径まで伸線加工し、前駆体粉末62が金属シース部63に埋め込まれ、断面形状が円状あるいは多角形状の等方的多芯母線64を作製する(ステップS4)。これにより、酸化物超電導線材の前駆体粉末62を金属で被覆した形態を有する等方的多芯母線64が得られる。
【0021】
次に、図2および図7に示すように、この等方的多芯母線71を圧延する(1次圧延:ステップS5)。これによりテープ状前駆体線材72が得られる。
【0022】
次に、テープ状前駆体線材を熱処理する(1次熱処理:ステップS6)。この熱処理は、たとえば大気圧下、または1MPa以上50MPa以下の加圧雰囲気において約830℃の温度で行われる。熱処理によって前駆体粉末から目的とする(Bi,Pb)2223超電導相が生成される。
【0023】
その後、再び線材を圧延する(2次圧延:ステップS7)。このように、2次圧延を行うことにより、1次熱処理で生じたボイドが除去される。
【0024】
続いて、例えば830℃の温度で線材を熱処理する(2次熱処理:ステップS8)。このときも、大気圧下、または加圧雰囲気で熱処理する。以上の製造工程により、図1に示す酸化物超電導線材が得られる。
【0025】
以下、本発明の特徴であるステップS1における前駆体粉末について詳細を記す。酸化物超電導線材において高臨界電流密度化を図るには超電導結晶粒の高度な配向化が重要である。そのためにステップS6の圧延が施される。これは線材を一軸方向に変形させテープ状にし、(Bi,Pb)2223超電導結晶のa−b面方向をテープ面と平行になるよう配向させるものである。上記のよう圧延工程によって大半の超電導結晶粒を配向化させることは可能であるが、圧延による外力が働きにくい各フィラメント内の金属被覆から離れた中央部結晶粒は、配向化が不十分であることが多い。これを解消するには伸線加工時に配向化させるか、あるいはその前段階である充填時から配向している前駆体粉末を用いればフィラメント中央部も配向しやすい。
【0026】
そこで本発明のように、前駆体粉末を板状に圧縮成形すれば、伸線加工によって配向化されやすい形態で前駆体粉末を充填することが可能となる。圧縮成形方法として、一軸方向のプレス加工や、圧延加工を用いることにより板状の前駆体粉末が得られる。板の厚さは1mm程度以下が好ましい。厚さを1mm程度以下に設定するのは、線材圧延時の効果と同じように中央部まで配向させた形態を得やすくするためである。このような形態において板状前駆体粉末内では(Bi,Pb)2212やBi2212結晶粒がそのa−b面方向を板面と平行になるよう配向し存在している。板厚が大きすぎると中央部まで配向させることが難しくなる。
【0027】
図8は本発明の前駆体成型から充填までの工程を模式的にあらわした図である。超電導相32と非超電導相33を含む前駆体粉末31を圧延ロール81間にとおし、板状前駆体82を得る。この板状前駆体82をそのまま金属管に充填できるならそのまま使用してもよいし、分割して板状チップ83として使用してもよい。この際、充填される板状前駆体82あるいは板状チップ83は板厚より長い方向(以下、長手方向という)が存在する形状であることが重要である。この長手方向に超電導結晶のa−b面方向が向いている。板状にされた前駆体の内部構造は後に説明する。
【0028】
図9は板状にされた前駆体粉末内部の様子を模式的にあらわした部分断面斜視図である。図9中破線は板状前駆体82、板状チップ83の輪郭を表した線である。また断面部は超電導相32が配向している様子や、非超電導相33が認識しやすいように隙間を空けて描写されているが、実際は隙間無く詰まっている。図9に表されるように板状前駆体82内および板状チップ83内では超電導相32のa−b面方向が板面と略平行になるよう配向している。
【0029】
以下に板状に成型された前駆体粉末を金属管に充填する効果を記す。まず圧縮成型されているので充填時の密度がある程度高くなる。板状にされた前駆体粉末は数mm角、厚さ1mm程度に解砕し充填する。このように充填した場合、板状前駆体間にある程度隙間ができてしまうが、板状に圧縮しない前駆体粉末を充填するよりは密度を高くできる。圧縮しない前駆体粉末を充填する場合、限界値のほぼ20%までしか密度を上げられない。本方法によれば30%から40%まで高めることができる。
【0030】
この隙間を有していることが、伸線加工における配向化を促すひとつの要因となる。図10は伸線加工において配向化する様子を模式的にあらわした図である。前記したように伸線加工によって隙間を埋めるように前駆体粉末が流動し密度が上がっていく。伸線加工時に、金属管34内の板状前駆体82には、縮径が行われるダイス101部を通過する際に、外周部から中心方向に向いた外力がかかる。よって板状前駆体82はその長さ方向が外力方向と垂直(伸線方向とは平行)になるよう倒れていく。すなわち板状前駆体82内の超電導結晶のa−b面方向が伸線された線材の長手方向と平行になるように加工される。このような効果は前駆体が板状でありかつ、板厚より長い方向が存在する形状であることから誘発されるものである。
【0031】
より好ましい充填方法は、板状前駆体に含まれる超電導結晶((Bi,Pb)2212やBi2212の結晶)のa−b面方向が充填時から金属管の長手方向にそろうように、板状前駆体を金属管に充填することである。上記のようにすれば充填段階から配向化された状態が得られ、より効果的である。以下にその充填方法の一例を説明する。
【0032】
図11は充填時に板状前駆体に含まれる超電導結晶のa−b面方向を揃えるための前駆体成型から充填までの工程を模式的にあらわした図である。超電導相32と非超電導相33を含む前駆体粉末31を圧延ロール81間にとおし、板状前駆体82を得る。この板状前駆体82をそのまま使用してもよいし、分割して板状チップ83として使用してもよい。この際、充填される板状前駆体82あるいは板状チップ83は板厚より長く、かつ充填する金属管34の内径の2倍以上の長さを持つ方向が存在する形状であることが重要である。上記のように形成された板状前駆体82や板状チップ83は金属管内径の2倍以上の大きさをもつので、金属管34内で板状前駆体82や板状チップ83の長手方向は、金属管34の長手方向とほぼ同じ方向をむくことになる。なお板状前駆体82や板状チップ83の長手方向が金属管34内で倒れないように充填できる方法であれば、充填方法は上記に限らない。
【0033】
本発明によれば、伸線加工時あるいは充填時から前駆体が配向した金属管を得ることができるので、超電導線材内の結晶をより配向化させることができ高い臨界電流値をもつ超電導線材が実現できる。
【0034】
本発明によれば伸線加工後にも配向化された金属管が得られることで別の効果も生じる。つまり圧延加工を施さなくてもある程度高い臨界電流値が得られることにある。前記したように、従来法では前駆体粉末中の結晶粒を配向化させるために圧延加工を施す。圧延加工を行うことで線材の最終断面形状は略テープ状、略矩形状にならざるを得ない。しかしながらテープ状線材では、複数本撚り合わせて螺旋状に集合する導体(ツイスト導体)を形成する等には不向きである。よって円形、六角形等の等方的な断面形状を有する線材が有効な場合もある。そこで本発明を利用すれば、比較的高い臨界電流値を持つ断面が円形、六角形等の等方的形状をもつ線材を製造できる。
【0035】
前駆体粉末の板状への圧縮成形は圧延加工がより適している。これは圧延時におけるロールギャップを設定すれば常に同じ厚さの板状前駆体が得られ、分割時に一定の大きさの板状チップを作製できるからである。一定の大きさを持つことでより板状チップの方向を揃えやすい充填が可能になる。
【0036】
さらに配向度を上げるには、板状前駆体を熱処理することが効果的である。板状前駆体を700℃から800℃程度の温度で、酸素が含まれる雰囲気下で1から5時間程度熱処理すると、前駆体内に含まれる(Bi,Pb)2212やBi2212結晶粒が肥大化する。このような肥大化した結晶粒は塑性加工によって、より線材長手方向にa−b面方向を向けて倒れやすい。
【0037】
さらには、前駆体粉末を構成する成分により、この熱処理での結晶粒の成長度合いが影響を受ける。充填される前駆体粉末中には、斜方晶である(Bi,Pb)2212相と正方晶であるBi2212相の2つの2212相が混在する。これらの割合は前駆体粉末を作製する段階で調整できる。Bi2212相は周りに存在するPb化合物からPbを吸収し、(Bi,Pb)2212相にかわることができる。この反応がおこる際に、Bi2212相から非常に大きな(Bi,Pb)2212相が生成されやすい。よって前駆体粉末は、正方晶Bi2212相が主相であることが好ましく、それに対して熱処理を施すとより効果的である。
【0038】
上記のようにして、配向化された前駆体粉末を金属管に充填することにより、伸線加工や、圧延加工の塑性加工後においても高度な配向化組織と均一なフィラメント形状を有する等方的多芯母線やテープ状前駆体線材が得られる。この高度に配向化された線材をベースにステップS6以降の熱処理工程を行うと、高い臨界電流値を有する超電導線材を製造することができる。
【0039】
また本発明にかかる超電導機器は、上記のような臨界電流値の高い超電導線材から構成されるため、優れた超電導特性を有する。ここで、超電導機器は、上記超電導線材を含むものであれば特に制限なく、超電導ケーブル、超電導コイル、超電導マグネット、超電導変圧器、超電導電力貯蔵装置などが挙げられる。例えば、交流用途で使用される超電導ケーブルや、超電導変圧器では臨界電流値の向上により、運転電流値における損失が減少する。一方、超電導マグネットや超電導電力貯蔵装置のような直流使用が主な機器は、最大発生磁場や最大蓄積エネルギーが大幅に増大する。
【0040】
図12は一例としての超電導ケーブルの内部構造を示す斜視図である。フォーマー121の周りに本発明にかかる酸化物超電導線材127が螺旋状に巻きつけられ、導体層122を形成している。その外には絶縁層123を配し、その外周に酸化物超電導線材127が螺旋状に巻きつけられ磁気シールド層124を形成する。それらは断熱層125で覆われ、外管126に収容される。
【0041】
図13は代表的な超電導マグネットの例を示す模式図である。本発明にかかる酸化物超電導線材をパンケーキ状に巻き、コイル131を形成する。そのコイル131を目的に応じて複数個、電気的に接続する。これらに電極132から電流を通電するとコイル131内に磁場が発生する。また、電極132間を酸化物超電導線材で作製された永久電流スイッチ133で結合し、目的の磁場まで励磁したのち永久電流スイッチ133をONにすれば、コイル131−永久電流スイッチ133のループ内に永久電流が流れる。この電流は減衰することがほとんどなく磁場としてエネルギーを貯蔵できる。必要に応じて、永久電流スイッチ133をOFFにして、電極132側へ電流が流れるようにすれば、電流が取り出せる。このように使用すれば超電導電力貯蔵装置として利用できる。
【0042】
図14は代表的な超電導変圧器の例を示す模式図である。鉄等でできたコア145を介して一次側超電導コイル141、二次側超電導コイル142が磁気的に結合されている。一次側超電導コイル141には一次側電極143から交流電流が与えられる。その交流電流によって一次側超電導コイル141に交流磁場が発生し、コア145を通じて二次側超電導コイル142内にも磁場が誘起される。その誘起した交流磁場に誘導され二次側超電導コイル142に交流電圧が発生し、それを二次側電極144で取り出す。一次側超電導コイル141と二次側超電導コイル144のターン数を変えておくことで、一次側と異なる電圧を二次側で発生させることが可能である。
【実施例】
【0043】
(実施例)
以下、実施例に基づき、本発明をさらに具体的に説明する。
【0044】
原料粉末(Bi23,PbO,SrCO3,CaCO3,CuO)をBi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.8:0.3:1.9:2.0:3.0の比率で混合し、大気中で700℃×8時間の熱処理、粉砕、800℃×10時間の熱処理、粉砕、820℃×4時間の熱処理、粉砕の処理を施し前駆体粉末を得る。また、5種類の原料粉末が溶解した硝酸水溶液を、加熱された炉内に噴射することにより、金属硝酸塩水溶液の粒子の水分が蒸発し、硝酸塩の熱分解、そして金属酸化物同士の反応、合成を瞬時に起こさせる噴霧熱分解法で前駆体粉末を作製することもできる。こうして作製された前駆体粉末は、Bi2212相が主体となった粉末である。また一部は熱処理条件を変更し、(Bi,Pb)2212相が主相となった前駆体粉末を得る。
【0045】
Bi2212相が主相となった前駆体粉末を2グループに分け、ひとつはそのまま圧縮成形をせず使用する(前駆体1:比較例)。もう一方はロール圧延成形を施し、厚さ約1.0mmの板状に押し固めた後、一部は長さ5mm×幅2〜5mm程度の大きさを持つ板状チップに分割して使用する(前駆体2:実施例)。残りは長さ50mm×幅2〜5mm程度の大きさを持つ板状チップに分割して使用する(前駆体3:実施例)。さらに前駆体3の一部に温度760℃、全圧1気圧(0.1MPa)、酸素分圧0.0001MPaの条件下で2時間の熱処理を施し使用する(前駆体4:実施例)。(Bi,Pb)2212相が主相となった前駆体粉末は、上記前駆体4と同じ工程を施し使用する(前駆体5:実施例)。
【0046】
上記により作製された各前駆体をそれぞれ外径25mm、内径22mmの銀パイプに充填する。前駆体2は特に板状チップの向きを揃えず充填し、前駆体3、4、5は各チップの長手方向が金属管の長手方向に揃うように充填する。この段階でそれぞれ前駆体粉末がどれだけ充填されたかを知るために銀パイプの重量を測定し、銀パイプの内容積から充填密度を算出する。その結果を表1に示す。その後、充填された銀パイプを直径2.4mmまで伸線して単芯線を作製する。この単芯線を55本束ねて外径25mm、内径22mmの銀パイプに挿入し、直径1.5mmまで伸線し、多芯(55芯)線材とする。このようにして異なる前駆体が充填された5種の線材を得る。(線材1:前駆体1:比較例)、(線材2:前駆体2:実施例)、(線材3:前駆体3:実施例)、(線材4:前駆体4:実施例)、(線材5:前駆体5:実施例)。
【0047】
5種の多芯線材を圧延し、厚み0.25mmのテープ状線材に加工する。得られたテープ状線材を全圧1気圧(0.1MPa)、酸素分圧8kPaの雰囲気中で830℃、30時間〜50時間の1次熱処理を施す。
【0048】
1次熱処理後のテープ状線材を厚み0.23mmになるように再圧延する。再圧延後のテープ状線材に酸素分圧8kPaを含む、全圧30MPaの加圧雰囲気下にて830℃、50時間〜100時間の2次熱処理を施す。
【0049】
作製された線材の臨界電流値(Ic)を測定した。臨界電流値は、温度77K、ゼロ磁場中、四端子法で電流―電圧曲線を測定し、その曲線から線材1cmあたり1×10-6Vの電圧を発生させる電流を臨界電流値と定義した。その結果を表1に記す。
【0050】
また、(Bi,Pb)2223結晶の配向性評価として、以下の平均配向ずれ角αを測定する。平均配向ずれ角αとは、各々の(Bi,Pb)2223結晶のa軸とb軸により形成される面と、線材のテープ面(幅×長さ方向の面)とのなす角度の平均をいう。(Bi,Pb)2223結晶の平均配向ずれ角αが小さいほど、(Bi,Pb)2223結晶の配向性が高いことを示す。(Bi,Pb)2223結晶の平均配向ずれ角αは、(Bi,Pb)2223層の(0,0,24)面に由来する回折ピークの半価幅の1/2として算出される。αを表1に記す。
【0051】
【表1】

【0052】
線材1(比較例)は、前駆体粉末に圧縮成型を施していない。線材2〜5(実施例)は圧縮成型が施されている。線材2〜5と線材1を比較すると、充填密度、平均配向ずれ角(α)、臨界電流値のいずれでも、線材2〜5の方が良好な結果が得られている。特に充填密度では大きな違いが現れる。線材2と線材3の比較から、金属パイプへ前駆体の向きを揃えて充填する方が高い臨界電流値を得られることがわかる。これは配向度(α)の違いに起因すると考えられる。
【0053】
線材3と4の比較から、前駆体を熱処理する方が高い臨界電流値を得られることがわかる。これも上記と同じく配向度(α)の違いと、さらには充填密度の違いに起因すると考えられる。また同じく熱処理を施した場合でも前駆体粉末の主相を変える(線材4と5の比較)と、Bi2212相を主相としたほうが効果の強いことが判る。
【0054】
今回開示された実施の形態および実施例は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明でなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内のすべての変更が含まれることが意図される。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】酸化物超電導線材の構成を模式的に示す部分断面斜視図である。
【図2】本発明の実施の形態における酸化物超電導線材の製造工程を示すフロー図である。
【図3】図2中S1ステップを示す図である。
【図4】図2中S2ステップを示す図である。
【図5】図2中S3ステップを示す図である。
【図6】図2中S4ステップを示す図である。
【図7】図2中S5ステップを示す図である。
【図8】本発明の前駆体成型から充填までの工程を模式的にあらわした図である。
【図9】板状にされた前駆体粉末内部の様子を模式的にあらわした部分断面斜視図である。
【図10】伸線加工において配向化する様子を模式的にあらわした図である。
【図11】充填時に板状前駆体に含まれる超電導結晶のa−b面方向を揃えるための前駆体成型から充填までの工程を模式的にあらわした図である。
【図12】一例としての超電導ケーブルの内部構造を示す斜視図である。
【図13】代表的な超電導マグネットの例を示す模式図である。
【図14】代表的な超電導変圧器の例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0056】
11 酸化物超電導線材、12 酸化物超電導フィラメント、13 シース部、31 前駆体粉末、32 超電導相、33 非超電導相、34 金属管 41 前駆体粉末が充填された金属管、42 前駆体、43 単芯線、51 単芯線、52 金属管、61 多芯構造材、62 前駆体原料粉末、63 金属シース部、64 等方的多芯母線、71 等方的多芯母線、72 テープ状前駆体線材 81 圧延ロール、82 板状前駆体、83 板状チップ、101 ダイス、121 フォーマー、122 導体層、123 絶縁層、124 磁気シールド層、125 断熱層、126 外管、 127 酸化物超電導線材、131 コイル、132 電極、133 永久電流スイッチ、141 一次側超電導コイル、142 二次側超電導コイル、143 一次側電極、144 二次側電極、 145 コア。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(Bi,Pb)2223超電導体の前駆体粉末を金属管に充填する工程と、
前記前駆体粉末が充填された金属管を塑性加工する工程と、
前記塑性加工工程後の線材を熱処理する熱処理工程とを備えた酸化物超電導線材の製造方法であって、
前記前駆体粉末を板状に圧縮成形した後、該板状前駆体粉末を金属管に充填することを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記板状前駆体に含まれる超電導結晶のa−b面方向が金属管の長手方向にそろうように、該板状前駆体粉末を金属管に充填することを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記圧縮成型は圧延によって行われることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記圧縮成形された前駆体粉末を熱処理した後、金属管に充填することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記(Bi,Pb)2223超電導体の前駆体粉末は、正方晶Bi2212相が主相であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の製造方法により製造された酸化物超電導線材を導体として含む超電導機器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2008−147012(P2008−147012A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−332711(P2006−332711)
【出願日】平成18年12月11日(2006.12.11)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】