説明

酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材

【課題】従来よりも交流損失が低減され、臨界電流密度の低下が抑制された酸化物超電導線材の製造方法および酸化物超電導線材を提供する。
【解決手段】酸化物超電導材料を主成分とする粉末を熱処理した後、銀または銀合金製の第1のシースに充填し、伸線加工を施して得られる単芯線の複数本を銀または銀合金製の第2のシースに挿入した後、伸線加工を施して多芯線とし、前記多芯線にツイスト加工を施した後、圧延加工を施し、さらに熱処理する酸化物超電導線材の製造方法であって、前記ツイスト加工は、ツイストと軟化とを繰り返して行うツイスト加工であることを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材の製造方法および前記製造方法により製造された酸化物超電導線材に関し、特に多芯線のツイストピッチが小さく交流損失の小さい酸化物超電導線材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、より高い臨界温度を示す超電導材料として、セラミック系の超電導材料、すなわち、酸化物超電導材料が注目されている。その中で、イットリウム系は90K、ビスマス系は110K、タリウム系は120K程度の高い臨界温度を示し、実用化が進みつつある。
【0003】
酸化物超電導線材は通常Powder−In−Tube法(PIT法)で製造される。具体的には、内部に複数本の酸化物超電導材料製のフィラメントを有する多芯型の酸化物超電導線材の場合、酸化物超電導材料を主成分とする粉末を熱処理した後、金属製の第1のシースに充填し、伸線加工を施して得られる単芯線の複数本を金属製の第2のシースに挿入した後、伸線加工を施して多芯線とし、前記多芯線にツイスト加工を施した後圧延加工を施し、さらに熱処理することによって製造される。
【0004】
超電導線材は直流で使用する場合、抵抗がゼロのためエネルギーロスはほとんどない。しかし、交流で使用する場合は超電導特有の交流損失が発生し、エネルギーロスが生じることがある。この交流損失を抑えることが超電導線材のひとつの課題である。
【0005】
交流損失の改善については、ツイストピッチが短い程交流損失が低下し、ツイストピッチの長さの3乗に比例して小さくなることが報告されている(特許文献1)。また、伸線加工後の線材において母材領域のフィラメント領域に対する断面積の比率を特定の範囲にすることにより均一なツイストができ、実施例では7mmのツイストピッチが得られ交流損失が低下したことが報告されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平7−105753号公報
【特許文献2】特開2000−222956号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記の酸化物超電導線材の交流損失はまだ十分低いとはいえない。即ち交流損失はツイストピッチの3乗に比例して小さくなるが、従来のPIT法による酸化物超電導線材の製造方法では、バンチャーツイスト機等によりツイスト加工を行ったときにツイスト加工し過ぎると断線が発生し、また設備能力(回転数など)の関係で1回のツイストによるツイストピッチにも限界があるため、ツイストピッチを6〜7mmより短くすることが困難であり、交流損失を十分に低減することができなかった。
【0007】
また、ツイスト加工し過ぎるとシースの加工硬化によりフィラメントにクラック等の損傷が生じ、臨界電流密度の低下につながるためツイストピッチを一定以上に短くすることができなかった。
【0008】
本発明の課題は、交流損失を従来以上に低減し、臨界電流密度の低下を抑制した酸化物超電導線材の製造方法および前記製造方法により製造された酸化物超電導線材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題に鑑み、鋭意研究の結果、前記課題を解決する方法を見出し本発明に至った。
【0010】
請求項1の発明は、
酸化物超電導材料を主成分とする粉末を熱処理した後、銀または銀合金製の第1のシースに充填し、伸線加工を施して得られる単芯線の複数本を銀または銀合金製の第2のシースに挿入した後、伸線加工を施して多芯線とし、前記多芯線にツイスト加工を施した後、圧延加工を施し、さらに熱処理する酸化物超電導線材の製造方法であって、
前記ツイスト加工は、ツイストと軟化とを繰り返して行うツイスト加工であることを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法である。
【0011】
本発明者らは、ツイスト加工に工夫を加え、ツイストにより上昇したシースの硬度を軟化により一旦低下させ、再度ツイストを行うことにより断線させることなくツイストピッチを短くすることができ、さらに、ツイスト加工時にフィラメントにクラック等の損傷が生じることを防ぐことができることを見出し本発明に至った。
【0012】
請求項1の発明においては、ツイスト加工において、ツイストした後軟化(中間軟化)を行い、その後再度ツイストを行って、ツイストと軟化を繰り返して行うため、シースの加工硬化を抑制し、断線させることなくツイストピッチを短くできるため、交流損失を低減することができる。また、フィラメントの損傷を防いで臨界電流密度の低下を抑制することができる。さらに、ツイストを繰り返し行うため、設備能力の関係で、加工できるツイストピッチに限界がある場合でも、十分に短いツイストピッチにすることができる。
【0013】
なお、ここでいう「ツイスト」とはツイスト加工の中の1つ操作として、前記多芯線を捩ることを指す。
【0014】
請求項2の発明は、
前記ツイスト加工は、ツイスト後に前記第2のシースの硬度を測定し、硬度が所定範囲にあれば軟化を行った後、再度ツイストを行い、前記ツイストと第2のシースの硬度の測定と軟化とを繰り返して行うツイスト加工であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法である。
【0015】
請求項2の発明においては、前記ツイスト加工において、ツイストした後、前記第2のシースの硬度を測定し、その測定結果に基づいて軟化を実施するか否かを決定するため、より正確な判断の下に軟化の要否を決定することができる。このため、効率的にシースの加工硬化を抑制し、断線を防止することができる。
【0016】
請求項3の発明は、
前記硬度の所定範囲がビッカース硬度(Hv)で60〜95であることを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導線材の製造方法である。
【0017】
シースのビッカース硬度が60未満の場合は軟化を行わなくても断線の恐れがなく、一方95を超えると断線の確立が高くなるため、第2のシースのビッカース硬度が60〜95の範囲にあるときに軟化を行うことが好ましい。
【0018】
請求項4の発明は、
前記硬度の所定範囲がビッカース硬度(Hv)で60〜75であることを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導線材の製造方法である。
【0019】
シースのビッカース硬度が75を超えるとフィラメントにクラック等の損傷が入り、臨界電流密度が低下する確率が高くなる。このため、シースのビッカース硬度が60〜75の範囲内にあるときに軟化を行うことにより、より好ましい酸化物超電導線材を製造することができる。
【0020】
請求項5の発明は、
前記軟化は、酸素分圧が5.07×10Pa以下の雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法である。
【0021】
銀製のシースに含まれる不純物や銀合金製のシースに含まれる合金元素(添加元素)は酸化され易く、前記不純物や合金元素が酸化されるとツイスト加工の加工性が損なわれる。請求項5の発明においては、軟化を行う雰囲気中の酸素分圧を5.07×10Pa(0.05atm)以下にしているため、酸化が抑制されることにより良好な加工性が維持され、ツイストによるJeの低下をより低減することができる。
【0022】
請求項6の発明は、
前記酸化物超電導材料がビスマス系酸化物超電導材料であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法である。
【0023】
ビスマス系酸化物超電導材料は、酸化物超電導材料の中でも特に大容量であり、しかもより低損失の材料である。このため、請求項6の発明においては、特に交流損失が小さく、臨界電流密度の大きい酸化物超電導線材の製造方法を提供することができる。
【0024】
なお、ビスマス系酸化物超電導材料には、臨界温度が110Kの材料と、臨界温度が80Kおよび110Kの材料とがある。ビスマス系酸化物超電導材料の110K相は、Biまたは(Bi、Pb):Sr:Ca:Cuの組成比が2:2:2:3と言われている2223相を有し、80K相は、この組成比がほぼ2:2:1:2である2212組成を有している。
【0025】
請求項7の発明は、
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材である。
【0026】
請求項7の発明においては、交流損失が小さく、臨界電流密度の大きい酸化物超電導線材を提供することができる。
【0027】
請求項8の発明は、
ビスマス系酸化物超電導線材であることを特徴とする請求項7に記載の酸化物超電導線材である。
【0028】
請求項8の発明においては、特に交流損失が小さく、臨界電流密度の大きい酸化物超電導線材を提供することができる。
【発明の効果】
【0029】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法を用いれば、ツイスト加工におけるツイストピッチを従来よりも短くできるため、交流損失を従来よりも低減することができる。また、フィラメントの損傷を防ぎ、臨界電流密度の低下を抑制することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0031】
(1)酸化物超電導線材の製造方法
図1〜図8は、本発明による酸化物超電導線材の製造工程を示す図である。以下、図を参照して、本発明の酸化物超電導線材の製造方法について説明する。
【0032】
イ.単芯線の作製
先ず図1、図2を用いて単芯線の作製について説明する。Bi、PbO、SrCO、CaCOおよびCuOを用いて、Bi:Pb:Sr:Ca:Cu=1.81:0.40:1.98:2.21:3.03の組成比になるように、これらを配合する。配合して得られた原料粉末を、大気中において、750℃で12時間、800℃で8時間、さらに、減圧雰囲気133Pa(1Torr)において、760℃で8時間、の順に熱処理を施す。なお、各熱処理後において、粉砕を行なう。このような熱処理および粉砕を経て得られた粉末を、さらに、ボールミルにより粉砕し、サブミクロンの粉末1を得る。前記粉末1を800℃で2時間熱処理を施した後、図1に示すように外径12mm、内径9mmの銀製の第1のシース2中に充填する。次いで図2に示すように前記粉末1が充填された第1のシース2を、1mmまで伸線加工し、単芯線(素線)3を作製する。
【0033】
ロ.多芯線の作製
次に図3〜図5を用いて多芯線の作製について説明する。得られた単芯線3の61本を、図3に示すように、外径12mm、内径9mmの銀合金製の第2のシース2’中に挿入する。次に、図4に示すように、この線を直径1.0mmになるまでさらに伸線加工し、図5に示す61芯の多芯線4とする。なお、図面が煩雑になるのを避けるため、図3〜図5においては芯数を実際より少なく記載している。このようにして得られる多芯線4は、銀からなるマトリクス5中に、超電導材料からなるフィラメント6が、61本埋込まれて構成される。
【0034】
ハ.ツイスト加工
続いて、図6を用いてツイスト加工について説明する。前記伸線加工を施した多芯線4に、図6に示すように丸線の状態においてツイストを施し、ツイストを行った後前記第2のシースのビッカース硬度を測定し、硬度が所定の範囲にあれば中間軟化を行った後再度ツイストを行う。そして、所定のツイストピッチ(ここでいうツイストピッチとは、第2シースの捩れピッチをいう)になるまで、ツイストと第2のシースのビッカース硬度と軟化とを繰り返し行う。
【0035】
なお、軟化の方法としては、150〜300℃で30分以上加熱することにより十分低い硬度にまで低下させることができる。たとえば220℃程度で3時間程度加熱することによってシースの硬度をほぼツイスト前の硬度に低下させることができる。
【0036】
ニ.テープ状酸化物超電導線材の作製
次に、ツイスト加工を施した多芯線を1mmφまで軽く伸線加工を施し、テープ幅3.0mm、厚さ0.22mmになるように圧延加工し、850℃で50時間の熱処理を施す。その後、さらに、厚さ0.20mmになるまで圧延加工し、850℃で50時間の熱処理を施してテープ状酸化物超電導線材とする。
【0037】
図7は、このようにして得られる本発明の一実施例の酸化物超電導線材7の構成を模式的に示す斜視図であり、図8はその断面構造を模式的に示す横断面図である。なお、図面が煩雑になるのを避けるため、図7、8においてはフィラメントの本数を実際より少なく記載している。
【0038】
図7に示すように、本発明の一実施例の酸化物超電導線材7は、銀からなるマトリクス5中に、酸化物超電導体からなるフィラメント6が、61本埋込まれて構成される。また、フィラメント6は、線材の長手方向に沿って螺旋状に撚られている。
【0039】
(2)特性評価実験
次に、上記の製造方法を基に以下のイ、ロの実験を行った結果について記載する。
【0040】
イ.短ピッチ化の例
図9に、ツイストピッチを10mm/回に設定したときの実際の短ピッチ化の例を示した。1度にツイストピッチ5mmまでツイストすると断線した。しかし、中間軟化を入れてツイストを複数回行うと、断線することなく、ツイストピッチは10mm(1回目)、5mm(2回目)、3.3mm(3回目)となった。以上より、設備能力が限界ピッチ10mmであっても、3回に分けてツイストを行い、ツイストと中間軟化を繰り返し行うことによりツイストピッチ3mmまでツイストを行えることが分かる。
【0041】
ロ.ツイスト加工におけるシースの加工硬化について
図10に、設定ピッチ6.5mm/回でツイスト→軟化→ツイスト→軟化→・・・の操作を繰り返し加えたときの、シース部のビッカース硬度を示した。縦軸はビッカース硬度(Hv)、横軸はビッカース硬度を測定した時点を示す(例えばTw1:1回ツイスト後、Tw1軟化:1回ツイストした後の軟化後を表す。)。なお、未加工の純銀のビッカース硬度は50であり、図10より軟化によりビッカース硬度が十分に元の状態に戻っていることが分かる。このため、図に示したプロセスでは断線の発生のない領域でツイストを施すことができる。
【0042】
(実施例1)
実施例1は、ツイスト加工後のツイストピッチが2mmなるように、ツイストを2回行った例である。
前記製造方法に記載した丸線(直径1mm)と同じ丸線を用い、各試料毎に1回目のツイストピッチを変えてツイスト加工を行い、1回目と2回目のツイスト後の第2シースのビッカース硬度(Hv)と液体窒素温度、外部磁場0における臨界電流密度Je(kA/cm)を測定し、断線の発生の有無を調べた。また、1回目と2回目のツイストの間に中間軟化を行った。なお、中間軟化の加熱温度、時間は220℃、3時間とし、大気雰囲気にて行った。その結果を表1および図11に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
図11の上側の図は、ビッカース硬度(Hv)(縦軸)とピッチ(mm)(横軸)との関係を示し、下側の図は、臨界電流密度Je(kA/cm)(縦軸)とビッカース硬度(Hv) (横軸)との関係を示すグラフである。なお、図11の○で囲った数字は、試料No.を示し、Aはツイスト前の元の試料を示す。また、図中Hv1、Hv2、Je1、Je2の1および2はそれぞれ1回ツイスト後、2回ツイスト後の値であることを示す。
【0045】
図11の上側の図に示すように1回目のツイストで断線した試料(No.6、7)は、ビッカース硬度が95を超えている。断線しなかった試料(No.1〜5)に中間軟化を行ってから2回目のツイストを行った。2回目のツイストでビッカース硬度が95になったNo.1は断線したが、他の断線していない試料(No.2〜5)のビッカース硬度は95未満であった。また、図11の下側の図に示すように、ツイストを行った後のビッカース硬度が75以下の試料、具体的にはNo.1およびNo.2の1回目のツイスト後(図中1、2)、No.3、4、5の2回目のツイスト後の試料(図中3’、4’、5’)においてツイストを行ったことによるJeの低下が抑制されている。
【0046】
上記の結果から、第2のシースのビッカース硬度を95以下に保ちながら繰り返しツイストを行うことにより、断線の発生を防ぎつつツイストピッチを短くすることができ、さらにビッカース硬度を75以下に保ちながら繰り返しツイストを行うことによりJeの低下を抑制しつつツイストピッチを短くできることが分かる。
【0047】
なお、図11の上側の図に、1〜5の下方に下向きの矢印で示すように、中間軟化を行うことによってシースのビッカース硬度は、ほぼツイストを行う前の硬度である50まで低下することが分かる。そして軟化後にツイストを行うと左上上がりの矢印で示すように、1〜7を結ぶ線(ほぼ直線)の傾き、即ち1回目のツイストにおけるビッカース硬度の上昇の傾き(図示せず)とほぼ同じ傾きで上昇することが分かる。
【0048】
(実施例2)
実施例2は、実施例1において1回目のツイストでビッカース硬度が75を超えなかった試料No.2について、ツイストピッチを変えて2回目のツイストを行い、さらに2回目のツイストでビッカース硬度が75を超えなかった試料の中から1種を選び3回目のツイストを行った例である。
【0049】
実施例1と同様にして各回のツイスト間に中間軟化を行い、ツイスト後のビッカース硬度(Hv)および臨界電流密度Je(kA/cm)を測定した。その結果を表2、3および図12に示す。
【0050】
【表2】

【0051】
図12の上側の図は、ビッカース硬度(Hv)(縦軸)とピッチ(mm)(横軸)との関係を示し、下側の図は、臨界電流密度Je(kA/cm)(縦軸)とビッカース硬度(Hv) (横軸)との関係を示すグラフである。なお、図12の○で囲った数字は、試料No.を示す。また、図中Hv1、Hv2、Hv3、Je1、Je2、Je3の1、2および3はそれぞれ1回ツイスト後、2回ツイスト後、3回ツイスト後の値であることを示す。
【0052】
2回目のツイストがピッチ2mm以下である試料(No.11、12)のビッカース硬度は75を超え、Jeが低下した。
【0053】
2回目のツイストでビッカース硬度が75を超えなかった試料No.8〜10においては2回目のツイストによるJeの低下が抑制されていた。この中から試料No.10を選び、中間軟化を行った後3回目のツイストを行った。
【0054】
【表3】

【0055】
表3に示すように、3回目のツイストを行って、ツイストピッチを1.5〜2mmにしても断線は生じず、また硬度が75Hvを超えずJeの低下が小さいことが分かる。
即ち、ツイスト→中間軟化→ツイストを繰り返し行ってツイスト加工を行うことにより、断線を防止しつつツイストピッチを短くすることができるため、交流損失を低下することができ、またツイストによる加工硬化を抑制することによりJeの低下を抑制できることが分かる。
【0056】
また、表1、2および図11、12の下側の図に示したデータにおいて、前記実施例1の試料3と実施例2の試料8、実施例1の試料4と実施例2の試料9、実施例1の試料5と実施例2の試料10のツイストピッチはそれぞれ5mm、4mm、3mmであるが、同じツイストピッチ同士のJeを比較すると1回ツイストの試料3、4、5に比べて中間軟化を挟んで2回ツイストを行った試料8、9、10の方が高い。この結果から、中間軟化を加えて繰り返しツイストを行った場合、1回のツイスト(中間軟化無し)を行う場合に比べてJeが改善されていることが分かる。
【0057】
(実施例3)
実施例3は中間軟化を行うときの雰囲気を変えた例である。具体的には表2に示した試料No.11において2回目の中間軟化を表4に示す5.07Pa(0.05atm)の低酸素雰囲気下で行った。その他の条件は試料No.11と同じである。結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

【0059】
表4に示した結果より、大気中で軟化を行った場合、多芯線の周縁に位置する銀合金製の第2のシースに含まれる添加元素が酸化されるためビッカース硬度が上昇するが、酸素分圧が5.07Pa以下の低酸素状態で中間軟化を行えば、大気中の中間軟化に比較して、酸化が抑制されビッカース硬度が上昇せずJeの低下が抑制されることが分かる。
上記の結果より、中間軟化は低酸素雰囲気下で行うことが好ましいことが分かる。
【0060】
(交流損失低減効果の確認)
次に、ツイストピッチを小さくしたことによる交流損失低減の効果を確認するために、ツイストピッチが約10mmの酸化物超電導線材と本発明に係る約4mmの酸化物超電導線材を用いて磁化法により77Kでの交流損失を調べた。具体的には、超電導線材に対してテープ面に平行な方向に振幅0.07T、周波数50Hzの交流外部磁場を印加し、その際に発生する交流損失を測定した。測定結果を図13に示す。なお、交流損失をIcで規格化した値を縦軸とした。図13に示すように、ツイストピッチが約4mmの試料は約10mmの試料に比べて交流損失が大幅に低減されていることが分かる。この結果からツイストピッチを小さくすることにより交流損失を低減できることが確認できる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を示す模式図である。
【図2】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を示す模式図である。
【図3】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を示す模式図である。
【図4】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を示す模式図である。
【図5】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を示す模式図である。
【図6】本発明の酸化物超電導線材の製造方法の製造工程の一部を示す模式図である。
【図7】本発明の一実施例の酸化物超電導線材の構成を模式的に示す斜視図である。
【図8】図7に示す酸化物超電導線材の断面構造を模式的に示す横断面図である。
【図9】本発明の酸化物超電導線材の短ピッチ化を示す図である。
【図10】本発明の酸化物超電導線材のツイスト加工におけるシースの加工硬化の様子を示すグラフである。
【図11】本発明の酸化物超電導線材の一実施例におけるツイストピッチと物性の関係を示すグラフである。
【図12】本発明の酸化物超電導線材の一実施例におけるツイストピッチと物性の関係を示すグラフである。
【図13】本発明の酸化物超電導線材の一実施例におけるツイストピッチと交流損失の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0062】
1 粉末
2 第1のシース
2’ 第2のシース
3 単芯線
4 多芯線
5 マトリックス
6 フィラメント
7 酸化物超電導線材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物超電導材料を主成分とする粉末を熱処理した後、銀または銀合金製の第1のシースに充填し、伸線加工を施して得られる単芯線の複数本を銀または銀合金製の第2のシースに挿入した後、伸線加工を施して多芯線とし、前記多芯線にツイスト加工を施した後、圧延加工を施し、さらに熱処理する酸化物超電導線材の製造方法であって、
前記ツイスト加工は、ツイストと軟化とを繰り返して行うツイスト加工であることを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記ツイスト加工は、ツイスト後に前記第2のシースの硬度を測定し、硬度が所定範囲にあれば軟化を行った後、再度ツイストを行い、前記ツイストと第2のシースの硬度の測定と軟化とを繰り返して行うツイスト加工であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記硬度の所定範囲がビッカース硬度(Hv)で60〜95であることを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
前記硬度の所定範囲がビッカース硬度(Hv)で60〜75であることを特徴とする請求項2に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項5】
前記軟化は、酸素分圧が5.07×10Pa以下の雰囲気下で行われることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項6】
前記酸化物超電導材料がビスマス系酸化物超電導材料であることを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造方法により製造された酸化物超電導線材。
【請求項8】
ビスマス系酸化物超電導線材であることを特徴とする請求項7に記載の酸化物超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2009−295458(P2009−295458A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−148814(P2008−148814)
【出願日】平成20年6月6日(2008.6.6)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】