説明

酸化物超電導線材の製造装置

【課題】中間層が外曲げの状態になることなく基板を搬送することが可能で、また、溶液塗布時、基板を一定状態に支持して超電導材原料溶液を安定的に均一に塗布することが可能であり、安定した品質の酸化物超電導線材を製造することができる製造装置を提供する。
【解決手段】巻出しリールから巻出される基板を中間層が内側となるように曲げて溶液塗布部の方向に案内する巻出し側ガイドロールと、酸化物超電導線材を酸化物超電導薄膜が内側となるように曲げて巻取りリールの方向に案内する巻取り側ガイドロールと、中間層の表面である塗布面とは反対側に位置する基板の下表面を吸着した状態で基板を搬送する吸引搬送機構とを備え、吸引搬送機構で基板の動きを規制した状態で超電導材原料溶液を塗布するよう構成されている酸化物超電導線材の製造装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材の製造装置に関し、詳しくは、MOD法により基材上に酸化物超電導薄膜の層を形成して酸化物超電導線材とする酸化物超電導線材の製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
REBaCu7−δ(RE:La、Nd、Sm、Eu、Gd、Ho、Y、Dy、Er、Tm、Yb、Lu)で表される希土類123系酸化物超電導材料を用いた超電導材(以下、「RE123系超電導材」という)は、Bi系超電導材に比べて、液体窒素中における臨界電流密度Jcが高く、磁場特性も優れており、Ni系の基材を用いて作製される薄膜状線材であるため、低コスト化が期待されている。
【0003】
RE123系超電導材の作製方法としては、RE123系超電導材の原料の溶液を線状基板、特にテープ状基板上に塗布した後、熱処理(焼成)を行いRE123系超電導材の薄膜を形成するMOD法(Metal Organic Deposition:有機金属塗布熱分解法)が広く知られている(例えば、特許文献1)。MOD法によれば、成膜の高速化が容易であり、又原理的に非真空プロセスで行うことができるため、製造設備の低価格化が可能であり、この点からも低コスト化が期待される。
【0004】
上記のMOD法は、具体的には、超電導材原料溶液として、トリフルオロ酢酸等のフッ素含有有機酸の金属化合物溶液や、RE、Ba、Cuを含む金属のアセチルアセトナート等の有機金属化合物のアルコール溶液等を用い、これらの原料溶液を配向金属基板上に塗布した後、熱処理(焼成処理)を行うことにより、基板上に酸化物超電導薄膜の層を形成させるものである。
【0005】
MOD法により作製されたRE123系超電導材の一例を図8に示す。図8においては、テープ状の基板A12(幅:10mm)上に超電導層A3が形成されている。そして、テープ状の基板A12は、Ni合金等からなる厚さ80〜120μmの基材A1と、その表面に形成されて面内配向度と方位を向上させる中間層(セラミックスの薄膜)A2からなっている。
【0006】
この中間層A2は、基材A1側より順に、厚さ0.1μmのCeO膜A2(1)、厚さ0.3μmのYSZ(Yttria Stabilized Zirconia:イットリア安定化ジルコニア:YとZrOとの固溶体)膜A2(2)、厚さ0.1μmのCeO膜A2(3)の3層よりなっている。なお、これらの各薄膜は、MOD法による超電導層A3の形成に先立って、RFスパッタ法を用いて成膜されている。
【0007】
そして、基板A12の中間層A2上に、厚さ1〜3μmのRE123系超電導材料よりなる超電導層A3がMOD法を用いて成膜されることにより、RE123系超電導材Aが得られる。なお、図8に示すRE123系超電導材Aにおいては、基材A1の裏面(中間層A2を設けた側とは反対側の面)に、Agの薄膜が保護層A4として設けられている。
【0008】
前記のRE123系超電導材は、従来、図6に示す製造装置を用いて作製されている。図6に示すように、従来の酸化物超電導線材の製造装置は、基板のパスラインに固定ガイドロール51及びダンシングガイドロール52を配置し、固定ガイドロール51の上方に溶液塗布部53を配置して構成され、基板は固定ガイドロール51及びダンシングガイドロール52によって案内されると共に、固定ガイドロール51で基板が支持された状態で溶液塗布部53により超電導材原料溶液を塗布するようになっている。塗布された超電導材原料溶液は、所定の温度で仮焼きされることにより超電導材原料の薄膜が形成される。
【0009】
上記により形成される超電導材原料の薄膜の厚さは、0.15μm程度であるため、所定の厚さとなるまで、超電導材原料溶液の塗布、仮焼きを繰り返す。その後、本焼成を行うことにより、所定の厚さのRE123系超電導材が得られる。
【0010】
上記の製造方法の場合、固定ガイドロール51では基材上に設けられた中間層が外曲げ状態になり、中間層に引張歪がかかる。しかし、この中間層はセラミックスの薄膜であり、引張歪に対しては弱いため、この状態は望ましくない。
【0011】
また、固定ガイドロール51の断面形状は真円とは言えず、多少のブレがあるため、溶液塗布時、基板にブレが生じ、固定ガイドロール51による基板の支持を一定状態に保つことができない。その結果、安定した塗布状態を得ることが困難となり、均一な厚さで品質の安定した酸化物超電導薄膜を得られないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2007−165153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
そこで、本発明は、これらの問題に鑑み、中間層が外曲げの状態になることなく基板を搬送することが可能で、また、溶液塗布時、基板を一定状態に支持して超電導材原料溶液を安定的に均一に塗布することが可能であり、安定した品質の酸化物超電導線材を製造することができる製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、鋭意検討の結果、以下に示す各請求項の発明により、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
請求項1に記載の発明は、
中間層と線状薄板とを積層して成る基板が巻かれた巻出しリールが配置されるサプライ部と、
前記巻出しリールから巻出される前記基板の前記中間層の表面に超電導材原料溶液を塗布する溶液塗布部と、
前記超電導材原料溶液の塗膜を所定ガス雰囲気下で加熱することにより前記基板上に酸化物超電導薄膜を形成させて酸化物超電導線材とする雰囲気制御炉と、
前記酸化物超電導線材を巻取る巻取りリールが配置される巻取り部と、
を備えた酸化物超電導線材の製造装置において、
前記巻出しリールから巻出される前記基板を前記中間層が内側となるように曲げて前記溶液塗布部の方向に案内する巻出し側ガイドロールと、
前記酸化物超電導線材を前記酸化物超電導薄膜が内側となるように曲げて前記巻取りリールの方向に案内する巻取り側ガイドロールと、
前記中間層の表面である塗布面とは反対側に位置する前記基板の下表面を吸着した状態で前記基板を搬送する吸引搬送機構とを備え、
前記吸引搬送機構で前記基板の動きを規制した状態で超電導材原料溶液を塗布するように構成されていることを特徴とする酸化物超電導線材の製造装置である。
【0016】
本発明者は、前記した各問題点を解決するために、最初に、図7に示すように、基板の中間層が外曲げにならないようにガイドロール61を配置して、パスラインを内曲げで構成させることにより、中間層に引張歪がかかることを回避させることを考案した。
【0017】
しかし、この場合には、溶液塗布部62のダイに対向して基板を支持する部材がなくなるため、基板のブレにより溶液塗布部62と基板との間隔が変動しやすく、超電導材原料溶液の塗膜の膜厚を均一に保つことが困難になり、安定した塗布が困難になることが分かった。なお、図中の符号63は巻出し側リールであり、64は巻取り側リールである。
【0018】
これに対して、本請求項の発明においては、巻出しリールから巻出される基板を、基板上の中間層が内側となるように曲げて溶液塗布部の方向に案内する巻出し側ガイドロールと、酸化物超電導線材を酸化物超電導薄膜が内側となるように曲げて巻取りリールの方向に案内する巻取り側ガイドロールとを備えているため、全てのパスラインが内曲げで構成され、基板が外曲げの状態になることがなく中間層に引張歪が生じることがない。
【0019】
また、中間層の表面である塗布面とは反対側に、基板の下表面を吸着した状態で基板を搬送する吸引搬送機構を備えているため、超電導材原料溶液の塗布時に基板がブレることを防止することができる。
【0020】
吸引搬送機構としては、例えば、サクションコンベアと真空チャンバーとを組み合わせたものが好ましい。
【0021】
請求項2に記載の発明は、
前記溶液塗布部の下方に位置して前記基板を下から支持する支持部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造装置である。
【0022】
本請求項の発明においては、溶液塗布部の下方に位置して基板を下から支持する支持部を備えているため、溶液塗布時、より基板がブレることなく、より一定状態に支持することができる。その結果、より安定した塗布状態を得ることができ、より均一な厚さで品質の安定した酸化物超電導薄膜を得ることができる。即ち、安定した品質の酸化物超電導線材を製造することができる。
【0023】
前記支持部としては、加工精度の面より金属製の支持体が好ましく使用できるが、前記真空チャンバーの上面部を支持部として兼用して使用することもできる。
【0024】
請求項3に記載の発明は、
前記サプライ部には、中間層の上表面を第一の保護テープで被覆された基板が巻かれた巻出しリールと、巻出し側ガイドロールと、前記巻出し側ガイドロールを通過した後に前記第一の保護テープを前記基板から引き剥がして巻取る巻取りボビンとが備えられており、
前記巻取部には、第二の保護テープが巻かれた巻出しボビンと、巻取り側ガイドロールと、前記巻取り側ガイドロールにおいて酸化物超電導薄膜の上表面を前記第二の保護テープで被覆された前記基板を巻取る巻取りリールとが備えられている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物超電導線材の製造装置である。
【0025】
本請求項の発明においては、基板の中間層や酸化物超電導薄膜が第一または第二の保護テープにより被覆されているため、ガイドロールを通過する際に、基板の中間層や形成された酸化物超電導薄膜の上表面が直接ガイドロールと接触することがない。このため、基板の中間層や酸化物超電導薄膜の上表面を傷つけることなく、基板を溶液塗布部まで搬送することができ、より品質が安定した酸化物超電導薄膜を製造することができる。
【0026】
なお、第一の保護テープが巻取られた巻取りボビンを巻出しボビンとして使用し、第一の保護テープと第二の保護テープを共用しても良い。
【0027】
請求項4に記載の発明は、
前記基板のパスラインに沿って配置されるサプライ部、溶液塗布部、吸引搬送機構、支持部、雰囲気制御炉、巻取部をカバーで一体的に覆ってサプライ室、塗布室、加熱炉室及び巻取室を形成していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造装置である。
【0028】
本請求項の発明においては、各部をカバーで一体的に覆っているため、製造装置内を真空引きして、ガスの置換やフローを行うことにより、製造装置内の雰囲気を精度良く制御することができ、さらに品質が安定した酸化物超電導線材を製造することができる。
【0029】
また、超電導材原料溶液の溶剤や加熱時に発生する有機物の熱分解生成物による爆発などを防止することができる。
【0030】
請求項5に記載の発明は、
前記吸引搬送機構は、駆動ロールと従動ロールとの間に無端ベルトを掛け渡してなる搬送機構と、前記無端ベルトに基板を吸着させる吸引機構とを備えたサクションコンベアであり、
前記サクションコンベアが前記基板を搬送しようとする速度を計測する第1計測部と、
前記基板の実際の搬送速度を計測する第2計測部と、
前記第1計測部による計測速度と、前記第2計測部による計測速度との間に差異が生じたときには、搬送異常として前記搬送機構を停止させる制御部と
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造装置である。
【0031】
超電導材原料溶液を基板に塗布する際、超電導材原料溶液が基板とサクションコンベアとの間に入り込むと、吸引機構が上手く作動せず、基板を上手く吸引できなくなる。その結果、基板が滑ってサクションコンベアだけが空回りして、基板を設定搬送速度で搬送することが困難となり、塗膜の厚さのバラツキを招き、規格の膜厚とは異なる不良品が製造されてしまう恐れがある。
【0032】
しかし、本請求項の発明においては、サクションコンベアが基板を搬送しようとする速度(設定搬送速度)を計測する第1計測部と、基板の実際の搬送速度を計測する第2計測部とを設け、各計測部における計測値に差異が生じた場合には、搬送異常が発生したと判断して、搬送機構を停止させるように構成されているため、サクションコンベアの空回りによる不良品の発生を防止することができる。
【0033】
第1計測部における計測方法としては、例えば、サクションコンベアの駆動軸にロータリーエンコーダーを取付け、その回転速度を計測することによりサクションコンベアによる基板の搬送速度を計測する方法を挙げることができる。
【0034】
また、第2計測部における計測方法としては、例えば、サプライ部あるいは巻取り部に、基板が接触することにより回転するプーリーを設け、このプーリーに取付けられたロータリーエンコーダーの回転速度を計測することにより基板の実際の搬送速度を計測する方法を挙げることができる。
【0035】
また、レーザードップラー効果を利用するレーザー表面速度計を用いて、基板表面にレーザー光を照射することにより、基板の実際の搬送速度を計測する方法も挙げることができる。
【0036】
請求項6に記載の発明は、
前記吸引搬送機構は、駆動ロールと従動ロールとの間に無端ベルトを掛け渡してなる搬送機構と、前記無端ベルトに基板を吸着させる吸引機構とを備えたサクションコンベアであり、
前記サクションコンベアが前記基板を搬送しようとする速度を計測する第1計測部と、
前記基板の実際の搬送速度を計測する第2計測部と、
前記第1計測部による計測速度と、前記第2計測部による計測速度との間に差異が生じたときには、搬送異常として、前記第1計測部による計測速度が、前記第2計測部による計測速度とほぼ一致するまで前記搬送機構の搬送速度を一時的に低下させ、その後徐々に設定搬送速度まで上昇させる制御部と
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造装置である。
【0037】
本請求項の発明においては、第1計測部による計測速度と、第2計測部による計測速度との間に差異が生じたときには、搬送異常が発生して、吸引機構の吸引不良により基板が無端ベルト上を滑っていると判断して、第1計測部による計測速度が、第2計測部による計測速度とほぼ一致する速度、即ち基板が滑らなくなる速度まで、搬送機構の搬送速度を一時的に低下させ、その後、搬送機構の搬送速度を設定搬送速度まで徐々に上昇させるように構成されているため、搬送異常の発生(サクションコンベアの空回り)を検知した場合であっても、搬送機構を停止させることなく、正常な搬送に戻すことができ、効率的な作業が可能になる。
【0038】
請求項7に記載の発明は、
前記溶液塗布部から前記基板上に供給される前記超電導材原料溶液の液量を、前記第2計測部による計測速度の変動に応じて調整する制御部を備えていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の酸化物超電導線材の製造装置である。
【0039】
搬送異常により実際の基板の搬送速度が低下した場合、基板上に供給される超電導材原料溶液の液量がそのままであると、塗布膜の膜厚が所定の膜厚に比べ厚くなる。本請求項の発明においては、第2計測部による計測速度(実際の基板の搬送速度)に合わせて、液量を制御するよう構成されているため、搬送異常が発生しても、所定の膜厚を維持することができ、不良品の発生を防止しつつ効率的な製造が可能となる。
【発明の効果】
【0040】
本発明によれば、中間層が外曲げの状態になることなく基板を搬送することが可能で、また、溶液塗布時、基板にブレが生じることなく、基板を一定状態に支持して超電導材原料溶液を安定的に均一に塗布することが可能であり、安定した品質の酸化物超電導線材を製造することができる製造装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造装置の概略図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造装置の吸引搬送機構の平面図及び側面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造装置の基板の巻出し部分及び吸引搬送機構の斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造装置の基板の巻出し部分の側断面図である。
【図5】本発明の実施の形態に係る酸化物超電導線材の製造装置の搬送制御手段の説明図である。
【図6】従来の酸化物超電導線材の製造装置の概略図である。
【図7】従来の酸化物超電導線材の製造装置の概略図である。
【図8】RE123系超電導材の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0042】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、以下の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【0043】
本実施の形態に係る製造装置につき図1〜5を用いて説明する。なお、図1は本実施の形態に係る製造装置の概略図であり、図2は前記製造装置の吸引搬送機構の平面図及び側面図である。また、図3は前記製造装置の基板の巻出し部分及び吸引搬送機構の斜視図であり、図4は前記製造装置の基板の巻出し部分の側断面図であり、図5は前記製造装置の搬送制御手段の説明図である。なお、図2(b)には、溶液塗布部も併せて示されている。
【0044】
1.製造装置の構成について
最初に、本装置の構成についてその概略を説明する。
【0045】
図1に示すように、本装置のサプライ部は、基板A12の巻出しリール1が配置される巻出し部2と、基板A12の巻取りリール3が配置される巻取り部4とを有している。巻出しリール1には中間層A2の上表面が第一の保護テープB1で被覆された状態で基板A12が巻かれている。なお、第一の保護テープB1は基板A12の中間層がガイドロール等に接触することを防止するためのものであって、例えば、ポリイミドテープ(カプトン:商標名)が使用される。
【0046】
巻出し部2には、巻出し側ガイドロール5と、第一の保護テープB1の巻取りボビン6と、巻取りボビン6を回転駆動させるボビン駆動部(図示省略)が配置されている(図4参照)。
【0047】
一方、巻取り部4には、巻取り側ガイドロール7と、基板A12の巻取りリール3を回転駆動させるリール駆動部(図示省略)と、第二の保護テープB2の巻出しボビン8が配置されている。
【0048】
巻出し側ガイドロール5は、巻出しリール1から巻出される基板A12を内曲げにして溶液塗布部9の方向に案内し、巻取り側ガイドロール7は、酸化物超電導薄膜が形成された基板A12を内曲げにして巻取りリール3の方向に案内する。
【0049】
そして、巻取りリール3を回転駆動させることにより、基板A12を巻出しリール1から巻出すと共に、後述する吸引搬送機構11による基板A12の搬送動作中は、基板A12に所定のテンション(張力)を加えて基板A12の弛みを防止する。
【0050】
巻出し部2と巻取り部4との間には基板A12のパスラインに沿って、上流側から順に巻出し側ガイドロール5、溶液塗布部9、雰囲気制御炉10及び巻取り側ガイドロール7が配置され、溶液塗布部9の下方には、吸引搬送機構11及び支持部12が配置されている。
【0051】
なお、リール駆動部、ボビン駆動部、溶液塗布部9、吸引搬送機構11及び雰囲気制御炉10は制御部によって総括的に制御されている。
【0052】
また、各部はカバー13で一体的に覆われることにより、サプライ室14、塗布室15、加熱炉室及16及び巻取室17が形成されている。
【0053】
2.溶液塗布部
次に、溶液塗布部につき説明する。図2に示すように、溶液塗布部9は、超電導材原料溶液を吐出部9aから吐出するダイ9bと、ダイ9bの超電導材原料溶液を供給する溶液供給手段9cと、ダイ9bの塗布量制御機構(図示省略)などを備え、搬送途中の基板A12の中間層A2の上表面にダイ9bから所定量の溶液を塗布することにより超電導材原料溶液の膜A30を形成する。なお、吐出部9aは基板A12の幅方向に複数設けられている。
【0054】
支持部12は、金属製であって、溶液塗布部9の下方に位置して基板A12を下から支持するものである。平板状の固定台12aに取付部12bを設けて構成され、取付部12bは真空チャンバー11eの外壁面に固定されている(図3参照)。基板A12は、支持部12の平板状の固定台12aの上で安定して支持されるため、ブレることなく、超電導材原料溶液を安定して均一に塗布することができる。
【0055】
支持部12は吸引搬送機構11から離して配置しても良く、また、例えば真空チャンバー11eの上面部で基板A12を支持することにより、吸引搬送機構11と支持部12を兼ねるようにしても良い。
【0056】
3.吸引搬送機構
次に、吸引搬送機構につき説明する。図2に示すように、吸引搬送機構11は、吸引機構と搬送機構からなるサクションコンベアである。搬送機構は、駆動ロール11aと従動ロール11bとの間に吸引穴11cがあけられた無端ベルト11dを掛け渡して構成されるベルトコンベアを備えたサクションコンベアである。
【0057】
吸引機構は、以下のように構成されている。無端ベルト11d内に真空チャンバー11eが配置され、真空チャンバー11eは上方に向けて開口する開口部11fを有するNCナイロン(商標名)等のプラスチック製の箱体であって、吸引管11gを介して真空ポンプ(図示省略)に接続されている。また、真空チャンバー11eの開口部11fは無端ベルト11dが密着して塞がれている。なお、吸引穴11cは、無端ベルト11dの全周に渡って形成され、その配置の形態は一列でも千鳥状に配置しても良く、また小径で多数設けるのが好ましい。
【0058】
そして、駆動ロール11a及び前記真空ポンプを駆動させることにより、バキューム作用によって基板A12の下表面(中間層A2の上表面である塗布面とは反対側に位置する基板A12の下表面)が吸引穴11cに吸い寄せられて基板A12を無端ベルト11dに吸着した状態で、基板A12を支持部12へ搬送することができる。その結果、超電導材原料溶液の塗布エリアにおいて基板A12のブレを防止することができ、安定して均一な塗布を行うことができる。
【0059】
なお、真空チャンバー11eの開口部11fにメッシュ(図示省略)を張設することにより、開口部11f上に位置する無端ベルト11dをよりフラットな状態にすることができる。
【0060】
また、吸引搬送機構11には、図5に示すように、基板A12が無端ベルト11d上を滑って吸引搬送機構11が空回りすることに伴う不良品の発生を防止するための搬送制御手段が備わっている。
【0061】
この搬送制御手段は、ロータリーエンコーダーCを駆動ロール11aの駆動軸に取り付け、駆動軸の回転速度を計測することにより、吸引搬送機構11による基板A12の搬送速度を割り出す第1計測部と、基板A12の実際の搬送速度を計測する第2計測部と、第1計測部からの計測信号と第2計測部からの計測信号に基づいて、第1計測部による計測速度と、第2計測部による計測速度との間に差異が生じたときには、搬送異常として吸引搬送機構11を停止させると共に溶液塗布部9からの超電導材原料溶液の供給を停止させる制御部Dとを備えている。
【0062】
第2計測部は、ロータリーエンコーダーE1を巻出し側ガイドロール5の回転軸に取り付け、回転軸の回転速度を計測することにより、基板A12の実際の搬送速度を割り出す。なお、ロータリーエンコーダーE2を巻取り側ガイドロール7の回転軸に取り付けても良い。
【0063】
また、第2計測部は、レーザー光を基板A12表面に照射してレーザードップラー効果を利用して基板A12の実際の搬送速度を計測するレーザー速度計Fとしても良い。
【0064】
制御部Dは、上記のように吸引搬送機構11を停止させるのではなく、第1計測部による計測速度と、第2計測部による計測速度との間に差異が生じたときには、基板A12が無端ベルト11d上を滑っていると判断して、第1計測部による計測速度が、第2計測部による計測速度と一致するまで吸引搬送機構11の搬送速度を一時的に落とし、その後徐々に上げて設定搬送速度とし、それと同時に、溶液塗布部9から供給される超電導材原料溶液の液量を、第2計測部による計測速度の変動に応じて調整するようにしても良い。この場合には、吸引搬送機構を停止することなく所定の膜厚を維持することが可能となる。
【0065】
4.雰囲気制御炉
次に、雰囲気制御炉につき説明する。雰囲気制御炉10は、加熱炉室内を窒素100%雰囲気にしながら、超電導材原料溶液の膜A30を、500℃程度に加熱して仮焼きを行い、その後700〜800℃程度に加熱して本焼成を行うことにより酸化物超電導線材Aが作製される(図1参照)。
【0066】
また、加熱炉室16には雰囲気ガスのガス供給機構及びガス排出機構(共に図示省略)が設けられている。
【0067】
5.酸化物超電導線材の製造
次に、上記のように構成された製造装置を用いて、例えば、厚さが約100μmで幅が10mmの基板A12に酸化物超電導薄膜層が形成された酸化物超電導線材を製造する方法について説明する。
【0068】
まず、第一の保護テープB1により被覆された基板A12が巻出しリール1より巻出され、内曲げの状態で、第一の保護テープB1側が巻出し側ガイドロール5に接するようにして巻出し側ガイドロール5を通過する。
【0069】
巻出し側ガイドロール5を通過後、第一の保護テープB1は基板A12から剥がされて巻取りボビン6に回収される。
【0070】
基板A12が塗布室15に到達すると、基板A12は吸引搬送機構11によって動きが規制され、かつ溶液塗布部9のダイ9bの下では支持部12によって支持された状態で、超電導材原料溶液が塗布される。なお、本実施の形態においては、吸引搬送機構11では、幅30mmで、直径3mmの吸引穴11cが2cm間隔で設けられた無端ベルト11dが直径5cmの駆動ロール11aと従動ロール11bとの間に掛け渡されている。
【0071】
その後、雰囲気制御炉10で酸化物超電導薄膜が形成された基板A12は酸化物超電導線材Aとして巻取りリール3に巻取られる。このとき、巻出し時とは逆に、第二の保護テープB2が巻出され、酸化物超電導線材Aは第二の保護テープB2に被覆されて巻取られる。
【0072】
なお、酸化物超電導線材Aを作製する場合には、通常、仮焼きにより酸化物超電導薄膜を形成した後、この酸化物超電導薄膜上にさらに超電導材原料溶液の膜を形成しその後仮焼きを行う工程を数回繰り返し、その後本焼成を行うことは、従来と同様である。
【符号の説明】
【0073】
A RE123系超電導材
A1 基材
A2 中間層
A2(1) CeO
A2(2) YSZ膜
A2(3) CeO
A3 超電導層
A4 保護層
A12 基板
A30 超電導材原料溶液の膜
B1 第一の保護テープ
B2 第二の保護テープ
C、E1、E2 ロータリーエンコーダー
D 制御部
F レーザー速度計
1 巻出しリール
2 巻出し部
3 巻取りリール
4 巻取り部
5 巻出し側ガイドロール
6 巻取りボビン
7 巻取り側ガイドロール
8 巻出しボビン
9 溶液塗布部
9a 吐出部
9b ダイ
9c 溶液供給手段
10 雰囲気制御炉
11 吸引搬送機構
11a 駆動ロール
11b 従動ロール
11c 吸引穴
11d 無端ベルト
11e 真空チャンバー
11f 開口部
11g 吸引管
12 支持部
12a 固定台
12b 取付部
13 カバー
14 サプライ室
15 塗布室
16 加熱炉室
17 巻取室
51 固定ガイドロール
52 ダンシングガイドロール
53、62 溶液塗布部
61 ガイドロール
63 巻出し側リール
64 巻取り側リール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中間層と線状薄板とを積層して成る基板が巻かれた巻出しリールが配置されるサプライ部と、
前記巻出しリールから巻出される前記基板の前記中間層の表面に超電導材原料溶液を塗布する溶液塗布部と、
前記超電導材原料溶液の塗膜を所定ガス雰囲気下で加熱することにより前記基板上に酸化物超電導薄膜を形成させて酸化物超電導線材とする雰囲気制御炉と、
前記酸化物超電導線材を巻取る巻取りリールが配置される巻取り部と、
を備えた酸化物超電導線材の製造装置において、
前記巻出しリールから巻出される前記基板を前記中間層が内側となるように曲げて前記溶液塗布部の方向に案内する巻出し側ガイドロールと、
前記酸化物超電導線材を前記酸化物超電導薄膜が内側となるように曲げて前記巻取りリールの方向に案内する巻取り側ガイドロールと、
前記中間層の表面である塗布面とは反対側に位置する前記基板の下表面を吸着した状態で前記基板を搬送する吸引搬送機構とを備え、
前記吸引搬送機構で前記基板の動きを規制した状態で超電導材原料溶液を塗布するように構成されていることを特徴とする酸化物超電導線材の製造装置。
【請求項2】
前記溶液塗布部の下方に位置して前記基板を下から支持する支持部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造装置。
【請求項3】
前記サプライ部には、中間層の上表面を第一の保護テープで被覆された基板が巻かれた巻出しリールと、巻出し側ガイドロールと、前記巻出し側ガイドロールを通過した後に前記第一の保護テープを前記基板から引き剥がして巻取る巻取りボビンとが備えられており、
前記巻取部には、第二の保護テープが巻かれた巻出しボビンと、巻取り側ガイドロールと、前記巻取り側ガイドロールにおいて酸化物超電導薄膜の上表面を前記第二の保護テープで被覆された前記基板を巻取る巻取りリールとが備えられている
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の酸化物超電導線材の製造装置。
【請求項4】
前記基板のパスラインに沿って配置されるサプライ部、溶液塗布部、吸引搬送機構、支持部、雰囲気制御炉、巻取部をカバーで一体的に覆ってサプライ室、塗布室、加熱炉室及び巻取室を形成していることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造装置。
【請求項5】
前記吸引搬送機構は、駆動ロールと従動ロールとの間に無端ベルトを掛け渡してなる搬送機構と、前記無端ベルトに基板を吸着させる吸引機構とを備えたサクションコンベアであり、
前記サクションコンベアが前記基板を搬送しようとする速度を計測する第1計測部と、
前記基板の実際の搬送速度を計測する第2計測部と、
前記第1計測部による計測速度と、前記第2計測部による計測速度との間に差異が生じたときには、搬送異常として前記搬送機構を停止させる制御部と
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造装置。
【請求項6】
前記吸引搬送機構は、駆動ロールと従動ロールとの間に無端ベルトを掛け渡してなる搬送機構と、前記無端ベルトに基板を吸着させる吸引機構とを備えたサクションコンベアであり、
前記サクションコンベアが前記基板を搬送しようとする速度を計測する第1計測部と、
前記基板の実際の搬送速度を計測する第2計測部と、
前記第1計測部による計測速度と、前記第2計測部による計測速度との間に差異が生じたときには、搬送異常として、前記第1計測部による計測速度が、前記第2計測部による計測速度とほぼ一致するまで前記搬送機構の搬送速度を一時的に低下させ、その後徐々に設定搬送速度まで上昇させる制御部と
を備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の酸化物超電導線材の製造装置。
【請求項7】
前記溶液塗布部から前記基板上に供給される前記超電導材原料溶液の液量を、前記第2計測部による計測速度の変動に応じて調整する制御部を備えていることを特徴とする請求項5または請求項6に記載の酸化物超電導線材の製造装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−257844(P2010−257844A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−108234(P2009−108234)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成19年度 独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「超電導応用基盤技術研究開発」に関する委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(391004481)財団法人国際超電導産業技術研究センター (144)
【Fターム(参考)】