酸化物超電導薄膜の製造方法
【課題】MOD溶液の塗布膜を仮焼するに際して、ボイドの発生が抑えられた緻密な仮焼膜を作製することにより、その後の本焼により充分に優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を作製することができる酸化物超電導薄膜の製造方法を提供する。
【解決手段】超電導線材の製造に用いる酸化物超電導薄膜を金属有機化合物を原料として塗布熱分解法により製造する酸化物超電導薄膜の製造方法であって、基板上に有機金属化合物の溶液を塗布して塗布膜を作製する塗布膜作製工程と、塗布膜の金属有機化合物に含有される有機成分を熱分解、除去して仮焼膜を作製する仮焼熱処理工程と、仮焼膜を結晶化させて酸化物超電導薄膜を作製する本焼熱処理工程とを備えており、仮焼熱処理工程は、基板を加熱し、加熱された基板から伝えられる熱により、有機成分を熱分解、除去する仮焼熱処理工程である酸化物超電導薄膜の製造方法。
【解決手段】超電導線材の製造に用いる酸化物超電導薄膜を金属有機化合物を原料として塗布熱分解法により製造する酸化物超電導薄膜の製造方法であって、基板上に有機金属化合物の溶液を塗布して塗布膜を作製する塗布膜作製工程と、塗布膜の金属有機化合物に含有される有機成分を熱分解、除去して仮焼膜を作製する仮焼熱処理工程と、仮焼膜を結晶化させて酸化物超電導薄膜を作製する本焼熱処理工程とを備えており、仮焼熱処理工程は、基板を加熱し、加熱された基板から伝えられる熱により、有機成分を熱分解、除去する仮焼熱処理工程である酸化物超電導薄膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導薄膜の製造方法に関し、詳しくは、塗布熱分解法により超電導特性に優れた酸化物超電導薄膜を製造することができる酸化物超電導薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導薄膜を用いた超電導線材の一層の普及のため、臨界電流値Icをより高めた酸化物超電導薄膜の製造の研究が行われている。
【0003】
このような酸化物超電導薄膜の製造方法の1つに、塗布熱分解法(Metal Organic Deposition、略称:MOD法)と言われる方法がある。(特許文献1)
【0004】
この方法は、Y(イットリウム)などのRE(希土類元素)、Ba(バリウム)、Cu(銅)の各金属有機化合物を溶媒に溶解して製造された原料溶液(以下、「MOD」溶液ともいう)を基板に塗布して塗布膜を形成した後、例えば500℃付近で仮焼熱処理して金属有機化合物の有機成分を熱分解、除去して酸化物超電導薄膜の前駆体である仮焼膜を作製後、作製した仮焼膜をさらに高温(例えば750〜800℃付近)で本焼熱処理することにより結晶化を行って、REBa2Cu3O7−Xで表される酸化物超電導体からなる酸化物超電導薄膜を製造するものであり、主に真空中で製造される気相法(蒸着法、スパッタ法、パルスレーザ蒸着法等)に比較して製造設備が簡単で済み、また大面積や複雑な形状への対応が容易である等の特徴を有しているため、広く用いられている。
【0005】
このようなMOD法の従来の仮焼熱処理における仮焼方法を模式的に表した断面図を図8に示す。従来の仮焼熱処理においては、図8に示すように基板aに積層された中間層bの上に塗布された塗布膜cを形成させた塗布サンプルCを、例えば管状の雰囲気炉A内において、矢印で示すように全周から加熱することにより、塗布膜cに含有される金属有機化合物の有機成分を熱分解、除去して仮焼膜を作製していた。なお、図8において2は石英板、3はガイドである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−165153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような従来のMOD法による酸化物超電導薄膜の製造においては、仮焼熱処理工程において、図9に示すように塗布膜c中にボイド(空洞)eが発生するため、本焼熱処理を行っても、結晶のc軸成長が阻害されて、充分に優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を作製することができない場合が多かった。
【0008】
そこで本発明は、MOD溶液の塗布膜を仮焼するに際して、ボイドの発生が抑えられた緻密な仮焼膜を作製することにより、その後の本焼熱処理により充分に優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を作製することができる酸化物超電導薄膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来のMOD法において、仮焼膜中にボイドが発生する原因を調べるために種々の実験と検討を行った。その結果、仮焼熱処理工程において仮焼熱処理温度まで昇温する際、塗布膜の内部に、有機成分の熱分解生成物であるCO2ガスや溶剤の蒸気等の気体が発生していること、また、塗布膜の表面部分が比較的早い時期、即ち昇温過程における低温時に、熱分解温度が低いCuの金属有機化合物が熱分解して塗布膜の表層部にCuOが形成されていることが分かった。即ち、表層部に緻密なCuOが形成されるため、発生した気体が塗布膜の表面から充分に抜け出て行くことができず、塗布膜の内部にボイドが形成されることが分かった。
【0010】
図10に、アルコール溶解後、溶媒を蒸発させたMOD溶液(大気中)の示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)を行った結果を示すと共に、仮焼熱処理の様子を模式的に示す図11を用いて、この仮焼熱処理工程につき詳しく説明する。
【0011】
図10に示すように、Cu有機化合物は、Y有機化合物やBa有機化合物に比べ、250℃付近の低い温度で熱分解をし、CuはCuOを形成する。しかし、その後も塗布膜は加熱され、440℃付近でY有機化合物やBa有機化合物が熱分解してCO2やH2O(水蒸気)等の気体を発生する。
【0012】
この発生した気体は、図11に示すように、表層部c1が既に熱分解しCuOが形成され緻密になっているため、外に抜け出すことができず、内部c2に閉じ込められてボイド(図9参照)が形成されることとなる。内部にボイドが形成された仮焼膜に対して本焼熱処理を行っても、ボイドにより結晶のc軸成長が阻害されるため、優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を得ることができない。
【0013】
また、本発明者が、このボイドが形成された仮焼膜について、その断面を観察したところ、図6(b)のオージェ電子分光測定画像に示すように、仮焼膜を形成するY、Ba、Oの分布は、全体に亘ってほぼ均一であるのに対して、Cuの分布は均一ではなく表層部に偏析していることが分かった。
【0014】
このように、元素が偏析した仮焼膜を積層して厚膜化した後、本焼熱処理を行っても、偏析部において結晶のc軸成長が阻害されるため、充分に優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を得ることができない。
【0015】
以上の知見に基づき、本発明者は、仮焼熱処理段階における塗布膜の表層部の熱分解を抑制することにより、ボイドの発生を抑制すると共に、元素の偏析のない仮焼膜を作製する方法につきさらに検討を行い、本発明を完成するに至った。以下、各請求項の発明について説明する。
【0016】
請求項1に記載の発明は、
超電導線材の製造に用いる酸化物超電導薄膜を、金属有機化合物を原料とし、雰囲気炉を用いて塗布熱分解法により製造する酸化物超電導薄膜の製造方法であって、
基板上に前記有機金属化合物の溶液を塗布して塗布膜を作製する塗布膜作製工程と、
前記塗布膜の前記金属有機化合物に含有される有機成分を熱分解、除去して、仮焼膜を作製する仮焼熱処理工程と、
前記仮焼膜を結晶化させて、酸化物超電導薄膜を作製する本焼熱処理工程と
を備えており、
前記仮焼熱処理工程は、前記基板を加熱し、加熱された前記基板から伝えられる熱により、前記有機成分を熱分解、除去する仮焼熱処理工程である
ことを特徴とする酸化物超電導薄膜の製造方法である。
【0017】
本請求項の発明においては、従来のような全周加熱ではなく、基板を加熱し、加熱された基板から塗布膜cに伝えられる熱により塗布膜を加熱(以下、「底面加熱」ともいう)しているため、従来と異なり、塗布膜の熱分解が基板側から順次進み、その間において、表層部が先に熱分解し緻密になることがないため、内部で発生したCO2やH2O等の気体が塗布膜外に容易に排出され、ボイドの発生を抑制することができる。
【0018】
また、塗布膜の熱分解が基板側から順次進むため、元素の偏析が抑制され、各組成元素の分布が均一化した仮焼膜を得ることができる。
【0019】
このように、ボイドの発生が抑制されると共に、元素の偏析が抑制された緻密な仮焼膜を積層して厚膜化した後、本焼熱処理を行うと、積層した仮焼膜においても、結晶のc軸成長が阻害されることがないため、臨界電流値Icの高い優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を得ることができる。
【0020】
請求項2に記載の発明は、
前記仮焼熱処理工程は、前記基板に対向して設けられた熱源により前記基板を加熱する仮焼熱処理工程であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導薄膜の製造方法である。
【0021】
本請求項の発明においては、基板に対向して設けられた熱源により基板を加熱するため、確実に基板だけを加熱することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、MOD溶液の塗布膜を仮焼熱処理するに際して、ボイドの発生が抑えられた緻密で、さらに元素の偏析が抑制されて各組成元素の分布が均一化した仮焼膜を得ることができ、その後の本焼により充分に優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の仮焼熱処理に用いる底面加熱方式の雰囲気炉の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の仮焼熱処理の方法を模式的に示す拡大断面図である。
【図3】本発明の仮焼熱処理を説明するための図であって、仮焼サンプルの断面を模式的に示す図である。
【図4】本発明の仮焼サンプルの断面を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の一実施例および比較例の仮焼膜の断面のSEM画像およびS−TEM画像である。
【図6】本発明の一実施例および比較例の仮焼膜の断面のオージェ電子分光測定画像とEDS測定画像である。
【図7】本発明の他の実施例の仮焼膜の断面のS−TEM画像とオージェ電子分光測定画像である。
【図8】従来の仮焼熱処理の方法を模式的に示す断面図である。
【図9】従来の仮焼熱処理の仮焼サンプルの断面を模式的に示す断面図である。
【図10】Y、Ba、Cuの有機化合物を含有する塗布膜の示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)の測定結果を示す図である。
【図11】従来の仮焼熱処理を説明するための図であって、仮焼サンプルの断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0025】
本実施の形態では、まず、酸化物超電導薄膜の製造方法に用いられる雰囲気炉について説明した後、仮焼処理工程および本焼熱処理工程について説明する。
【0026】
1.雰囲気炉
図1は、本発明の一実施例の仮焼熱処理に用いる底面加熱方式の雰囲気炉の構成を模式的に示す断面図である。図2は、本発明の仮焼熱処理の方法を模式的に示す拡大断面図である。図1に示すように、雰囲気炉Aは管状の炉体A1を備えており、炉体A1内には、塗布サンプルB1を所定の温度で底面加熱するためのセラミックヒータ5が配置されている。また、塗布サンプルB1の塗布膜3(図2参照)表面にガスを吹付けるためのガス供給管6が炉体A1内に導入され、ガス供給管6の基端側は図外のガス供給源に接続され、ガス供給管6の先端にはガス吐出口7が設けられている。また、炉体A1には、ガスの排気管8が設けられている。さらに、ガス供給管6Aが炉体A1内に導入され、ガス供給管6Aの基端側は図外のガス供給源に接続されている (図1参照)。
【0027】
2.仮焼熱処理工程
仮焼熱処理工程では、図1に示すように、雰囲気炉Aのセラミックヒータ5の上に、塗布サンプルB1を載置し、セラミックヒータ5により仮焼熱処理を行う。
【0028】
図2に示すように、塗布サンプルB1は、基板1上に中間層2を介してMOD溶液の塗布膜3を形成して構成されており、セラミックヒータ5が塗布サンプルB1の基板1を白抜き矢印で示す熱により加熱することにより、基板1側から塗布膜3に向けて熱が伝わる。このため、塗布膜3の基板側から塗布膜3の表層部に向けて金属有機化合物の熱分解が進行し、塗布膜3の表層部で最後の熱分解が行われる。
【0029】
この結果、有機成分の熱分解により発生するCO2などのガスや水蒸気は、図3の波線矢印で示すように、塗布膜3の基板側から表層部に向けて移動して表層部から外に抜け出る。従って、従来と異なり、塗布膜3の表層部側からのCuの金属有機化合物の熱分解がなく、このため、ボイドが発生することもなく、表層部にCuが偏析することもない。
【0030】
また、仮焼中は、必要に応じて、図2に示すように、塗布膜3の表層部に向けて雰囲気炉Aの吐出口7からガスを吐出させて塗布膜3の表層部を冷却させることにより、前記のガスが抜け出る前に塗布膜3の表層部が熱分解することを、より確実に抑えることができる。
【0031】
3.本焼熱処理工程
本焼熱処理工程では、図4に示す仮焼熱処理工程で作成された仮焼膜4を有する仮焼サンプルBを、所定のガス雰囲気下で、所定の温度まで昇温した後、所定時間保持して酸化物超電導薄膜を作製する。
【実施例】
【0032】
次に、単層タイプおよび3層タイプの実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
【0033】
1.単層タイプ
本実施例は、底面加熱方式により単層タイプの仮焼膜を作製し、この仮焼膜を用いてYBCO(Y123)酸化物超電導薄膜を作製した例である。
【0034】
(1)仮焼膜の作製
(実施例)
イ.MOD溶液の作製
まず、Y、Ba、Cuの各アセチルアセトナート塩から出発してY:Ba:Cu=1:2:3の比率で合成し、アルコールを溶媒としたMOD溶液を作製した。なおMOD溶液のY3+、Ba2+、Cu2+を合わせた総カチオン濃度を1mol/Lとした。
【0035】
ロ.塗布
次に、1cm角のYSZ単結晶製の基板1上にエピタキシャル成長させたCeO2製の中間層を形成し、中間層の上に、前記MOD溶液をスピンコート法で塗布して塗布膜を形成し、塗布サンプルを作製した。
【0036】
ハ.仮焼熱処理
次に、図1に示した雰囲気炉を用いて塗布サンプルの仮焼熱処理を行った。具体的には、塗布サンプルをセラミックヒータの上に載置して大気圧の大気雰囲気下で、基板1側から500℃で120分間加熱して厚さ200nmの仮焼膜を形成し、実施例の仮焼サンプルを作製した。
【0037】
(比較例)
比較例は、図8に示す全周加熱方式により仮焼熱処理を行った以外は、実施例と同じ方法で仮焼膜を形成し、比較例の仮焼サンプルを作製した。
【0038】
(2)仮焼膜の観察
イ.観察項目および観察方法
a.断面状態の観察
実施例および比較例の仮焼膜の断面をS−TEMにより観察した。
b.断面における各元素の分布状況の観察
実施例および比較例の仮焼膜の断面における各元素の分布状況を観察した。
【0039】
ロ.観察結果
a.断面状態の観察結果
図5に断面状態の観察結果を示す。図5の(a)(b)は、それぞれ実施例および比較例のSEM画像とS−TEM画像である。図5(a)より、実施例の場合は、ボイドが観察されず、緻密な仮焼膜が形成されていることが分かる。一方、図5(b)より、比較例の場合は、仮焼膜に多くのボイドが生成されていることが分かる。
【0040】
b.断面における各元素の分布状況の観察結果
図6に断面における各元素の分布状況の観察結果を示す。図6(a)は、実施例のY、Ba、Cuそれぞれ、およびこれら3元素すべての分布状況を示すオージェ電子分光測定画像である。図6(b)は、比較例のY、Cu、Ba、Oそれぞれの分布状況を示すEDS測定画像である。図6(a)より、実施例の場合は、Cuも含めていずれの元素も均一に分布していることが分かる。一方、図6(b)より、比較例の場合は、表層部にCuが偏析していることが分かる。
【0041】
(3)YBCO超電導薄膜の作製
イ.本焼熱処理
実施例および比較例の仮焼サンプルを、酸素濃度25ppmのアルゴン/酸素混合ガス雰囲気下で、770℃まで昇温した後、そのまま90分間保持することにより本焼熱処理を実施した。本焼熱処理を実施後、500℃まで降温した時点で、ガス雰囲気を酸素濃度100%ガスに切り替え、室温まで炉冷し、厚さ150nmのYBCO超電導薄膜を作製した。
【0042】
ロ.YBCO超電導薄膜の評価
a.評価方法
77K、自己磁場下において作製したYBCO超電導薄膜の超電導特性(Ic)を測定した。また、X線回折(XRD)によりYBCO(005)ピーク強度を測定した。
【0043】
b.評価結果、
表1に上記の測定結果を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1より、比較例の場合は、Icが低く、また、YBCO(005)ピーク強度(cps)も低くC軸配向していないことが分かる。これに対して、実施例の場合は、Icが高く、またYBCO(005)ピーク強度も高く、表面までC軸配向していることが分かる。
【0046】
2.3層タイプ
(1)仮焼膜の作製
(実施例)
単層タイプの実施例と同じ方法で、図1に示す底面加熱方式の雰囲気炉を用いて、塗布と仮焼熱処理を3回繰り返して実施し、厚さ600nmの仮焼膜を作製した。
【0047】
(比較例)
単層タイプの比較例と同じ方法で、図8に示す全周加熱方式の雰囲気炉を用いて、塗布と仮焼熱処理を3回繰り返して実施し、厚さ600nmの仮焼膜を作製した。
【0048】
(2)仮焼膜の観察
イ.観察項目および観察方法
単層タイプと同じ方法で観察した。
【0049】
ロ.観察結果
図7に実施例および比較例の観察結果を示す。図7(a)は、実施例のSEM画像を示し、図7(b)は、実施例のCuの分布を示すオージェ電子分光測定画像である。
【0050】
図7(a)より、実施例の場合は、ボイドが発生しておらず、緻密な仮焼膜が形成されていることが分かる。また、図7(b)より、仮焼膜を多層化した場合でもCuの大きな偏析は観察されず、ほぼ均一な組成の仮焼膜が形成されていることが分かる。
【0051】
(3)YBCO超電導薄膜の作製
イ.本焼熱処理
実施例と比較例の仮焼膜を、それぞれ単層タイプと同じ方法で本焼熱処理し、厚さ450nmのYBCO超電導薄膜を作製した。
【0052】
ロ.YBCO超電導薄膜の評価
a.評価方法
実施例および比較例について、単層タイプと同じ方法で評価した。
【0053】
次に、表2に実施例および比較例のIcおよびYBCO(005)ピーク強度の測定結果を示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2より、比較例の場合は、Icが低く、また、YBCO(005)ピーク強度も低くC軸配向していないことが分かる。これに対して、実施例の場合は、Icが高く、またYBCO(005)ピーク強度も高く、表面までC軸配向していることが分かる。
【0056】
以上より、本発明によれば、単層タイプ(薄膜)、3層タイプ(厚膜)いずれの場合にも、MOD法によりc軸配向が良好で高いIcを有する酸化物超電導薄膜を作製することができることが分かる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、前記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、前記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1、a 基板
2、b 中間層
3、c 塗布膜
4、d 仮焼膜
5 セラミックヒータ
6、6A ガス供給管
7 吐出口
8 排気管
A 雰囲気炉
A1 炉体
B 仮焼サンプル
B1、C 塗布サンプル
c1 表層部
c2 内部
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導薄膜の製造方法に関し、詳しくは、塗布熱分解法により超電導特性に優れた酸化物超電導薄膜を製造することができる酸化物超電導薄膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化物超電導薄膜を用いた超電導線材の一層の普及のため、臨界電流値Icをより高めた酸化物超電導薄膜の製造の研究が行われている。
【0003】
このような酸化物超電導薄膜の製造方法の1つに、塗布熱分解法(Metal Organic Deposition、略称:MOD法)と言われる方法がある。(特許文献1)
【0004】
この方法は、Y(イットリウム)などのRE(希土類元素)、Ba(バリウム)、Cu(銅)の各金属有機化合物を溶媒に溶解して製造された原料溶液(以下、「MOD」溶液ともいう)を基板に塗布して塗布膜を形成した後、例えば500℃付近で仮焼熱処理して金属有機化合物の有機成分を熱分解、除去して酸化物超電導薄膜の前駆体である仮焼膜を作製後、作製した仮焼膜をさらに高温(例えば750〜800℃付近)で本焼熱処理することにより結晶化を行って、REBa2Cu3O7−Xで表される酸化物超電導体からなる酸化物超電導薄膜を製造するものであり、主に真空中で製造される気相法(蒸着法、スパッタ法、パルスレーザ蒸着法等)に比較して製造設備が簡単で済み、また大面積や複雑な形状への対応が容易である等の特徴を有しているため、広く用いられている。
【0005】
このようなMOD法の従来の仮焼熱処理における仮焼方法を模式的に表した断面図を図8に示す。従来の仮焼熱処理においては、図8に示すように基板aに積層された中間層bの上に塗布された塗布膜cを形成させた塗布サンプルCを、例えば管状の雰囲気炉A内において、矢印で示すように全周から加熱することにより、塗布膜cに含有される金属有機化合物の有機成分を熱分解、除去して仮焼膜を作製していた。なお、図8において2は石英板、3はガイドである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−165153号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、このような従来のMOD法による酸化物超電導薄膜の製造においては、仮焼熱処理工程において、図9に示すように塗布膜c中にボイド(空洞)eが発生するため、本焼熱処理を行っても、結晶のc軸成長が阻害されて、充分に優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を作製することができない場合が多かった。
【0008】
そこで本発明は、MOD溶液の塗布膜を仮焼するに際して、ボイドの発生が抑えられた緻密な仮焼膜を作製することにより、その後の本焼熱処理により充分に優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を作製することができる酸化物超電導薄膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、従来のMOD法において、仮焼膜中にボイドが発生する原因を調べるために種々の実験と検討を行った。その結果、仮焼熱処理工程において仮焼熱処理温度まで昇温する際、塗布膜の内部に、有機成分の熱分解生成物であるCO2ガスや溶剤の蒸気等の気体が発生していること、また、塗布膜の表面部分が比較的早い時期、即ち昇温過程における低温時に、熱分解温度が低いCuの金属有機化合物が熱分解して塗布膜の表層部にCuOが形成されていることが分かった。即ち、表層部に緻密なCuOが形成されるため、発生した気体が塗布膜の表面から充分に抜け出て行くことができず、塗布膜の内部にボイドが形成されることが分かった。
【0010】
図10に、アルコール溶解後、溶媒を蒸発させたMOD溶液(大気中)の示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)を行った結果を示すと共に、仮焼熱処理の様子を模式的に示す図11を用いて、この仮焼熱処理工程につき詳しく説明する。
【0011】
図10に示すように、Cu有機化合物は、Y有機化合物やBa有機化合物に比べ、250℃付近の低い温度で熱分解をし、CuはCuOを形成する。しかし、その後も塗布膜は加熱され、440℃付近でY有機化合物やBa有機化合物が熱分解してCO2やH2O(水蒸気)等の気体を発生する。
【0012】
この発生した気体は、図11に示すように、表層部c1が既に熱分解しCuOが形成され緻密になっているため、外に抜け出すことができず、内部c2に閉じ込められてボイド(図9参照)が形成されることとなる。内部にボイドが形成された仮焼膜に対して本焼熱処理を行っても、ボイドにより結晶のc軸成長が阻害されるため、優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を得ることができない。
【0013】
また、本発明者が、このボイドが形成された仮焼膜について、その断面を観察したところ、図6(b)のオージェ電子分光測定画像に示すように、仮焼膜を形成するY、Ba、Oの分布は、全体に亘ってほぼ均一であるのに対して、Cuの分布は均一ではなく表層部に偏析していることが分かった。
【0014】
このように、元素が偏析した仮焼膜を積層して厚膜化した後、本焼熱処理を行っても、偏析部において結晶のc軸成長が阻害されるため、充分に優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を得ることができない。
【0015】
以上の知見に基づき、本発明者は、仮焼熱処理段階における塗布膜の表層部の熱分解を抑制することにより、ボイドの発生を抑制すると共に、元素の偏析のない仮焼膜を作製する方法につきさらに検討を行い、本発明を完成するに至った。以下、各請求項の発明について説明する。
【0016】
請求項1に記載の発明は、
超電導線材の製造に用いる酸化物超電導薄膜を、金属有機化合物を原料とし、雰囲気炉を用いて塗布熱分解法により製造する酸化物超電導薄膜の製造方法であって、
基板上に前記有機金属化合物の溶液を塗布して塗布膜を作製する塗布膜作製工程と、
前記塗布膜の前記金属有機化合物に含有される有機成分を熱分解、除去して、仮焼膜を作製する仮焼熱処理工程と、
前記仮焼膜を結晶化させて、酸化物超電導薄膜を作製する本焼熱処理工程と
を備えており、
前記仮焼熱処理工程は、前記基板を加熱し、加熱された前記基板から伝えられる熱により、前記有機成分を熱分解、除去する仮焼熱処理工程である
ことを特徴とする酸化物超電導薄膜の製造方法である。
【0017】
本請求項の発明においては、従来のような全周加熱ではなく、基板を加熱し、加熱された基板から塗布膜cに伝えられる熱により塗布膜を加熱(以下、「底面加熱」ともいう)しているため、従来と異なり、塗布膜の熱分解が基板側から順次進み、その間において、表層部が先に熱分解し緻密になることがないため、内部で発生したCO2やH2O等の気体が塗布膜外に容易に排出され、ボイドの発生を抑制することができる。
【0018】
また、塗布膜の熱分解が基板側から順次進むため、元素の偏析が抑制され、各組成元素の分布が均一化した仮焼膜を得ることができる。
【0019】
このように、ボイドの発生が抑制されると共に、元素の偏析が抑制された緻密な仮焼膜を積層して厚膜化した後、本焼熱処理を行うと、積層した仮焼膜においても、結晶のc軸成長が阻害されることがないため、臨界電流値Icの高い優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を得ることができる。
【0020】
請求項2に記載の発明は、
前記仮焼熱処理工程は、前記基板に対向して設けられた熱源により前記基板を加熱する仮焼熱処理工程であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導薄膜の製造方法である。
【0021】
本請求項の発明においては、基板に対向して設けられた熱源により基板を加熱するため、確実に基板だけを加熱することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、MOD溶液の塗布膜を仮焼熱処理するに際して、ボイドの発生が抑えられた緻密で、さらに元素の偏析が抑制されて各組成元素の分布が均一化した仮焼膜を得ることができ、その後の本焼により充分に優れた超電導特性を有する酸化物超電導薄膜を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の仮焼熱処理に用いる底面加熱方式の雰囲気炉の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の仮焼熱処理の方法を模式的に示す拡大断面図である。
【図3】本発明の仮焼熱処理を説明するための図であって、仮焼サンプルの断面を模式的に示す図である。
【図4】本発明の仮焼サンプルの断面を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明の一実施例および比較例の仮焼膜の断面のSEM画像およびS−TEM画像である。
【図6】本発明の一実施例および比較例の仮焼膜の断面のオージェ電子分光測定画像とEDS測定画像である。
【図7】本発明の他の実施例の仮焼膜の断面のS−TEM画像とオージェ電子分光測定画像である。
【図8】従来の仮焼熱処理の方法を模式的に示す断面図である。
【図9】従来の仮焼熱処理の仮焼サンプルの断面を模式的に示す断面図である。
【図10】Y、Ba、Cuの有機化合物を含有する塗布膜の示差熱−熱重量同時測定(TG−DTA)の測定結果を示す図である。
【図11】従来の仮焼熱処理を説明するための図であって、仮焼サンプルの断面を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。
【0025】
本実施の形態では、まず、酸化物超電導薄膜の製造方法に用いられる雰囲気炉について説明した後、仮焼処理工程および本焼熱処理工程について説明する。
【0026】
1.雰囲気炉
図1は、本発明の一実施例の仮焼熱処理に用いる底面加熱方式の雰囲気炉の構成を模式的に示す断面図である。図2は、本発明の仮焼熱処理の方法を模式的に示す拡大断面図である。図1に示すように、雰囲気炉Aは管状の炉体A1を備えており、炉体A1内には、塗布サンプルB1を所定の温度で底面加熱するためのセラミックヒータ5が配置されている。また、塗布サンプルB1の塗布膜3(図2参照)表面にガスを吹付けるためのガス供給管6が炉体A1内に導入され、ガス供給管6の基端側は図外のガス供給源に接続され、ガス供給管6の先端にはガス吐出口7が設けられている。また、炉体A1には、ガスの排気管8が設けられている。さらに、ガス供給管6Aが炉体A1内に導入され、ガス供給管6Aの基端側は図外のガス供給源に接続されている (図1参照)。
【0027】
2.仮焼熱処理工程
仮焼熱処理工程では、図1に示すように、雰囲気炉Aのセラミックヒータ5の上に、塗布サンプルB1を載置し、セラミックヒータ5により仮焼熱処理を行う。
【0028】
図2に示すように、塗布サンプルB1は、基板1上に中間層2を介してMOD溶液の塗布膜3を形成して構成されており、セラミックヒータ5が塗布サンプルB1の基板1を白抜き矢印で示す熱により加熱することにより、基板1側から塗布膜3に向けて熱が伝わる。このため、塗布膜3の基板側から塗布膜3の表層部に向けて金属有機化合物の熱分解が進行し、塗布膜3の表層部で最後の熱分解が行われる。
【0029】
この結果、有機成分の熱分解により発生するCO2などのガスや水蒸気は、図3の波線矢印で示すように、塗布膜3の基板側から表層部に向けて移動して表層部から外に抜け出る。従って、従来と異なり、塗布膜3の表層部側からのCuの金属有機化合物の熱分解がなく、このため、ボイドが発生することもなく、表層部にCuが偏析することもない。
【0030】
また、仮焼中は、必要に応じて、図2に示すように、塗布膜3の表層部に向けて雰囲気炉Aの吐出口7からガスを吐出させて塗布膜3の表層部を冷却させることにより、前記のガスが抜け出る前に塗布膜3の表層部が熱分解することを、より確実に抑えることができる。
【0031】
3.本焼熱処理工程
本焼熱処理工程では、図4に示す仮焼熱処理工程で作成された仮焼膜4を有する仮焼サンプルBを、所定のガス雰囲気下で、所定の温度まで昇温した後、所定時間保持して酸化物超電導薄膜を作製する。
【実施例】
【0032】
次に、単層タイプおよび3層タイプの実施例および比較例を挙げ、本発明を具体的に説明する。
【0033】
1.単層タイプ
本実施例は、底面加熱方式により単層タイプの仮焼膜を作製し、この仮焼膜を用いてYBCO(Y123)酸化物超電導薄膜を作製した例である。
【0034】
(1)仮焼膜の作製
(実施例)
イ.MOD溶液の作製
まず、Y、Ba、Cuの各アセチルアセトナート塩から出発してY:Ba:Cu=1:2:3の比率で合成し、アルコールを溶媒としたMOD溶液を作製した。なおMOD溶液のY3+、Ba2+、Cu2+を合わせた総カチオン濃度を1mol/Lとした。
【0035】
ロ.塗布
次に、1cm角のYSZ単結晶製の基板1上にエピタキシャル成長させたCeO2製の中間層を形成し、中間層の上に、前記MOD溶液をスピンコート法で塗布して塗布膜を形成し、塗布サンプルを作製した。
【0036】
ハ.仮焼熱処理
次に、図1に示した雰囲気炉を用いて塗布サンプルの仮焼熱処理を行った。具体的には、塗布サンプルをセラミックヒータの上に載置して大気圧の大気雰囲気下で、基板1側から500℃で120分間加熱して厚さ200nmの仮焼膜を形成し、実施例の仮焼サンプルを作製した。
【0037】
(比較例)
比較例は、図8に示す全周加熱方式により仮焼熱処理を行った以外は、実施例と同じ方法で仮焼膜を形成し、比較例の仮焼サンプルを作製した。
【0038】
(2)仮焼膜の観察
イ.観察項目および観察方法
a.断面状態の観察
実施例および比較例の仮焼膜の断面をS−TEMにより観察した。
b.断面における各元素の分布状況の観察
実施例および比較例の仮焼膜の断面における各元素の分布状況を観察した。
【0039】
ロ.観察結果
a.断面状態の観察結果
図5に断面状態の観察結果を示す。図5の(a)(b)は、それぞれ実施例および比較例のSEM画像とS−TEM画像である。図5(a)より、実施例の場合は、ボイドが観察されず、緻密な仮焼膜が形成されていることが分かる。一方、図5(b)より、比較例の場合は、仮焼膜に多くのボイドが生成されていることが分かる。
【0040】
b.断面における各元素の分布状況の観察結果
図6に断面における各元素の分布状況の観察結果を示す。図6(a)は、実施例のY、Ba、Cuそれぞれ、およびこれら3元素すべての分布状況を示すオージェ電子分光測定画像である。図6(b)は、比較例のY、Cu、Ba、Oそれぞれの分布状況を示すEDS測定画像である。図6(a)より、実施例の場合は、Cuも含めていずれの元素も均一に分布していることが分かる。一方、図6(b)より、比較例の場合は、表層部にCuが偏析していることが分かる。
【0041】
(3)YBCO超電導薄膜の作製
イ.本焼熱処理
実施例および比較例の仮焼サンプルを、酸素濃度25ppmのアルゴン/酸素混合ガス雰囲気下で、770℃まで昇温した後、そのまま90分間保持することにより本焼熱処理を実施した。本焼熱処理を実施後、500℃まで降温した時点で、ガス雰囲気を酸素濃度100%ガスに切り替え、室温まで炉冷し、厚さ150nmのYBCO超電導薄膜を作製した。
【0042】
ロ.YBCO超電導薄膜の評価
a.評価方法
77K、自己磁場下において作製したYBCO超電導薄膜の超電導特性(Ic)を測定した。また、X線回折(XRD)によりYBCO(005)ピーク強度を測定した。
【0043】
b.評価結果、
表1に上記の測定結果を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
表1より、比較例の場合は、Icが低く、また、YBCO(005)ピーク強度(cps)も低くC軸配向していないことが分かる。これに対して、実施例の場合は、Icが高く、またYBCO(005)ピーク強度も高く、表面までC軸配向していることが分かる。
【0046】
2.3層タイプ
(1)仮焼膜の作製
(実施例)
単層タイプの実施例と同じ方法で、図1に示す底面加熱方式の雰囲気炉を用いて、塗布と仮焼熱処理を3回繰り返して実施し、厚さ600nmの仮焼膜を作製した。
【0047】
(比較例)
単層タイプの比較例と同じ方法で、図8に示す全周加熱方式の雰囲気炉を用いて、塗布と仮焼熱処理を3回繰り返して実施し、厚さ600nmの仮焼膜を作製した。
【0048】
(2)仮焼膜の観察
イ.観察項目および観察方法
単層タイプと同じ方法で観察した。
【0049】
ロ.観察結果
図7に実施例および比較例の観察結果を示す。図7(a)は、実施例のSEM画像を示し、図7(b)は、実施例のCuの分布を示すオージェ電子分光測定画像である。
【0050】
図7(a)より、実施例の場合は、ボイドが発生しておらず、緻密な仮焼膜が形成されていることが分かる。また、図7(b)より、仮焼膜を多層化した場合でもCuの大きな偏析は観察されず、ほぼ均一な組成の仮焼膜が形成されていることが分かる。
【0051】
(3)YBCO超電導薄膜の作製
イ.本焼熱処理
実施例と比較例の仮焼膜を、それぞれ単層タイプと同じ方法で本焼熱処理し、厚さ450nmのYBCO超電導薄膜を作製した。
【0052】
ロ.YBCO超電導薄膜の評価
a.評価方法
実施例および比較例について、単層タイプと同じ方法で評価した。
【0053】
次に、表2に実施例および比較例のIcおよびYBCO(005)ピーク強度の測定結果を示す。
【0054】
【表2】
【0055】
表2より、比較例の場合は、Icが低く、また、YBCO(005)ピーク強度も低くC軸配向していないことが分かる。これに対して、実施例の場合は、Icが高く、またYBCO(005)ピーク強度も高く、表面までC軸配向していることが分かる。
【0056】
以上より、本発明によれば、単層タイプ(薄膜)、3層タイプ(厚膜)いずれの場合にも、MOD法によりc軸配向が良好で高いIcを有する酸化物超電導薄膜を作製することができることが分かる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、前記の実施の形態に限定されるものではない。本発明と同一および均等の範囲内において、前記の実施の形態に対して種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1、a 基板
2、b 中間層
3、c 塗布膜
4、d 仮焼膜
5 セラミックヒータ
6、6A ガス供給管
7 吐出口
8 排気管
A 雰囲気炉
A1 炉体
B 仮焼サンプル
B1、C 塗布サンプル
c1 表層部
c2 内部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導線材の製造に用いる酸化物超電導薄膜を、金属有機化合物を原料とし、雰囲気炉を用いて塗布熱分解法により製造する酸化物超電導薄膜の製造方法であって、
基板上に前記有機金属化合物の溶液を塗布して塗布膜を作製する塗布膜作製工程と、
前記塗布膜の前記金属有機化合物に含有される有機成分を熱分解、除去して、仮焼膜を作製する仮焼熱処理工程と、
前記仮焼膜を結晶化させて、酸化物超電導薄膜を作製する本焼熱処理工程と
を備えており、
前記仮焼熱処理工程は、前記基板を加熱し、加熱された前記基板から伝えられる熱により、前記有機成分を熱分解、除去する仮焼熱処理工程である
ことを特徴とする酸化物超電導薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記仮焼熱処理工程は、前記基板に対向して設けられた熱源により前記基板を加熱する仮焼熱処理工程であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導薄膜の製造方法。
【請求項1】
超電導線材の製造に用いる酸化物超電導薄膜を、金属有機化合物を原料とし、雰囲気炉を用いて塗布熱分解法により製造する酸化物超電導薄膜の製造方法であって、
基板上に前記有機金属化合物の溶液を塗布して塗布膜を作製する塗布膜作製工程と、
前記塗布膜の前記金属有機化合物に含有される有機成分を熱分解、除去して、仮焼膜を作製する仮焼熱処理工程と、
前記仮焼膜を結晶化させて、酸化物超電導薄膜を作製する本焼熱処理工程と
を備えており、
前記仮焼熱処理工程は、前記基板を加熱し、加熱された前記基板から伝えられる熱により、前記有機成分を熱分解、除去する仮焼熱処理工程である
ことを特徴とする酸化物超電導薄膜の製造方法。
【請求項2】
前記仮焼熱処理工程は、前記基板に対向して設けられた熱源により前記基板を加熱する仮焼熱処理工程であることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導薄膜の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【図2】
【図3】
【図4】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図5】
【図6】
【図7】
【公開番号】特開2012−3961(P2012−3961A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−138201(P2010−138201)
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】
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