説明

酸性の乳成分入り起泡性飲料

【課題】 酸性の乳成分入り飲料について、その飲料の安定性を損なうことなく、乳成分入り飲料を振盪して形成させた飲料溶液内の気泡を、内部に安定的に保持することが可能な飲料を提供する。
【解決手段】 発酵セルロース複合体を0.1〜0.35重量%含む飲料であって、(A)該複合体を添加することにより飲料中における発酵セルロースの含有量が0.06〜0.2重量%となり、かつ(B)飲料を入れた容器を振盪して起泡化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、容器を振盪することにより気泡を有する酸性の乳成分入り飲料に関する。より詳細には、飲料を振盪して形成させた飲料溶液内の気泡を、飲料上層だけでなく飲料内部にも安定的に保持する酸性の乳成分入り飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
カップチーノコーヒーやミルクセーキといった飲料において、緻密な泡をコーヒーやミルクの上層や内部に形成することで食感(口当たり)が滑らかになり、優れたテクスチャーを与えることができる。そのため、飲料の食感を改良する目的で、飲料へ泡を付与するための方法が種々検討されている。
【0003】
起泡性飲料の例として、動植物由来の蛋白質を起泡剤として含有し、カラギーナン、ファーセレラン及び寒天からなる群から選択される1種以上を安定剤として用いる飲料(特許文献1)、乳化剤とエチルアルコールを添加することで、気体と強制的に混和して気泡を得ている飲料(特許文献2)、乳化剤として(a)ソルビタンモノ飽和脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステルの何れか一方または双方、及び(b)グリセリン二塩基酸脂肪酸エステル、クエン酸モノグリセリンエステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、蔗糖脂肪酸エステルより選択される1種以上を用いる飲料(特許文献3)、コーヒー抽出液に、コーヒー飲料全量中の乳脂肪分が0.05重量%以上となる量の乳成分を起泡剤とともに添加する方法(特許文献4)、乳入り飲料の製造工程において、飲料全量中の乳脂肪分が0.1重量%以下となる量の乳成分を、起泡剤とともに原料液に添加する方法(特許文献5)、乳ペプチドと水溶性ヘミセルロースを飲料に添加して容器に充填した後、振盪して泡立たせた飲料(特許文献6)などが知れられている。
【0004】
しかし、微細で緻密な気泡を飲料の上層のみならず内部にも形成させ、且つ形成した気泡を飲料溶液内部に安定的に維持するための方法としては、いずれも満足のいくものではなかった。すなわち、これらの方法では、飲料溶液内に形成された気泡が速やかに飲料表面に上昇し、飲料溶液内部に気泡が残存しにくいという問題、また飲料をコップに注いだり、また飲もうとしたりするとき、溶液だけが出て肝心の気泡が容器内に残留するため、滑らかな食感が得られないといった問題があった。
【0005】
また、乳原料中のタンパク質は酸性条件に曝すと飲料の内部で凝集や沈殿を起こしてしまうため、酸性の乳飲料を製造する際、乳タンパク質の凝集や沈殿を抑える安定化剤の配合が必要である。その解決策として、ハイメトキシルペクチンや大豆多糖類等の増粘多糖類による安定化剤を配合することが実施されている。また、その安定化効果を強化させた一例として、(a)平均直径0.01〜0.1μmのミクロフィブリル化された発酵セルロースなどの不溶性セルロース、及び(b)ハイメトキシルペクチン、大豆多糖類及びカルボキシメチルセルロースから選択される1種又は2種以上を含有する酸性乳飲料(特許文献7)が挙げられる。
【0006】
上述の通り、酸性乳飲料において、乳タンパク質の凝集や沈殿を解決させる技術はいくつか存在しているが、そこからさらに酸性の乳飲料を起泡化させたという例はほとんど存在しない。上記の例では、特許文献1が酸性の乳飲料を起泡化させているが、飲料内部に気泡が含有されないために、飲料をコップに移すときや、コップから飲もうとする時に、元の容器に気泡が残留してしまい、気泡の食感を味わうことができないといった問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開昭58−155041号公報
【特許文献2】特開平4−356160号公報
【特許文献3】特開平10−295339号公報
【特許文献4】特開平11−56244号公報
【特許文献5】特開2000−60507号公報
【特許文献6】特開2000−157232号公報
【特許文献7】特開2005−245217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる事情に鑑みて開発されたものであり、酸性の乳成分入り飲料に対して、飲料の安定性を損なうことなく、飲料溶液内部に形成された気泡が、飲料溶液内部に安定的に保持されている酸性の乳成分入り起泡性飲料に関する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記従来技術の問題点に鑑み鋭意研究を重ねていたところ、乳タンパク質が凝集・沈殿せずに安定化された酸性乳飲料に、発酵セルロース複合体を配合して調製した飲料は、振盪することによって、飲料の上層のみならず溶液内部に微細で緻密な気泡を形成することができ(起泡化)、しかも、形成された気泡が飲料溶液内部に長時間にわたって安定的に保持されることを見出した。さらに、気泡を形成させた当該乳成分入り飲料は、別の容器に移すときやそのまま口に入れたときに、内部の気泡も飲料とともに出てくることを確認した。
【0010】
これらの知見から、本発明者らは、かかる技術により調製した酸性の乳成分入り飲料によれば、微細で緻密な気泡を含む状態で飲用(摂取)することができるため、口当たりが滑らかな飲料を調製し提供できることを確認して、本件発明を完成するにいたった。
【0011】
本発明は下記の実施態様を包含するものである:
項1.発酵セルロース複合体を0.1〜0.35重量%含む飲料であって、(A)該複合体を添加することにより飲料中における発酵セルロースの含有量が0.06〜0.2重量%となり、かつ(B)飲料を入れた容器を振盪して起泡化することにより、飲料上層だけでなく飲料内部にも気泡を安定的に保持することを特徴とする、酸性の乳成分入り起泡性飲料。
項2.前記発酵セルロース複合体が、グァーガム、及び/又は、カルボキシルメチルセルロース若しくはその塩によって発酵セルロースを複合化したものである、項1に記載の酸性の乳成分入り起泡性飲料。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、酸性の乳成分入り飲料の気泡保持能力を増強することができるため、乳成分を含有する飲料の溶液内部に微細でかつ緻密な気泡を形成することができ、しかも形成された気泡を溶液の内部に長く安定的に保持することができる。さらに本発明の酸性の乳成分入り飲料は、酸性乳飲料として起こりがちな乳タンパク質の凝集や沈殿が生じることなく、気泡を含み口当たりのよい飲料を簡単に調製することが可能になる。また、果汁を加える等、味質を調製することにより、スムージーのような食感の飲料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の飲料は、乳成分入り飲料の調製に、原料の一つとして発酵セルロース複合体を用いることによって実施することができる。
【0014】
本発明で用いられる発酵セルロースは、セルロース生産菌が生産するセルロースであればよく、特に限定されない。通常、発酵セルロースは、セルロース生産菌を既知の方法、例えば特開昭61−212295号公報、特開平3−157402号公報、特開平9−121787号公報に記載される方法に従って培養し、得られた培養物からセルロース生産菌を単離するか、または所望に応じて適宜精製することによって製造することができる。
【0015】
ここでセルロース生産菌としては、アセトバクター属、シュードモナス属、アグロバクテリウム属等に属する細菌が挙げられるが、好適にはアセトバクター属である。発酵セルロースを生産するアセトバクター属の細菌として、より具体的には、アセトバクター・パスツリアヌス株(例えば、ATCC10245等)、アセトバクター・エスピーDA株(例えば、FERM P−12924等)、アセトバクター・キシリナム株(例えば、ATCC23768、ATCC23769、ATCC10821、ATCC1306−21等)を挙げることができる。好ましくは、アセトバクター・キシリナム株である。
【0016】
かかるセルロース生産菌を培養する培地及び条件としては、特に限定されず、常法に従うことができる。例えば、培地は、基本的に窒素源、炭素源、水、酸素及びその他の必要な栄養素を含有しており、上記微生物が増殖して目的の発酵セルロースを産生することができるものであればよく、例えばHestrin−Schramm培地を挙げることができる。なお、セルロースの生産性を向上させるために、培地中にセルロースの部分分解物、イノシトール、フィチン酸等を添加することもできる(特開昭56−46759号公報、特開平5−1718号公報)。培養条件としては、例えばpH5〜9、培養温度20〜40℃の範囲が採用され、発酵セルロースが十分産生されるまで培養が続けられる。培養方法は、静置培養、攪拌培養、通気培養のいずれでもよいが、好適には通気攪拌培養である。
【0017】
発酵セルロースを大量生産するためには、多段階接種法が好ましい。この場合、通常、2段階の予備接種プロセス、一次接種発酵プロセス、二次接種発酵プロセス及び最終発酵プロセスからなる5段階の発酵プロセスが採用され、各プロセスで増殖された細菌について細胞の形態およびグラム陰性であることを確認しながら、次プロセスの発酵器に継代される。
【0018】
発酵後、産生された発酵セルロースは培地から分離処理され、洗浄されて、適宜精製される。精製方法は特に限定されないが、通常、培地から回収した発酵セルロースを洗浄後、脱水し、再度水でスラリー化した後に、アルカリ処理によって微生物を除去し、次いで該アルカリ処理によって生じた溶解物を除去する方法が用いられる。具体的には、次の方法が例示される。
【0019】
まず、微生物の培養によって得られる培養物を脱水し、固形分約20%のケーキとした後、このケーキを水で再スラリー化して固形分を1〜3%にする。これに水酸化ナトリウムを加えて、pH13程度にして攪拌しながら数時間、系を65℃に加熱して、微生物を溶解する。次いで、硫酸でpHを6〜8に調整し、該スラリーを脱水して再度水でスラリー化し、かかる脱水・スラリー化を数回繰り返す。精製された発酵セルロースは、必要に応じて乾燥処理を施すことができる。乾燥処理としては特に制限されることなく、自然乾燥、熱風乾燥、凍結乾燥、スプレードライ、ドラムドライ等の公知の方法を用いることができる。好ましくはスプレードライ法、ドラムドライ法である。
【0020】
かくして得られる発酵セルロースは、白色から黄褐色の物質であり水に急速に分散できる非常に繊細な繊維性粒子からなる。なお、本発明で用いられる発酵セルロースは、上記方法で調製される発酵セルロースと同一若しくは類似の性質を有し、本発明の目的を達成しえるものであれば、その調製方法によって限定されるものではない。
【0021】
本発明において、酸性の乳成分入り飲料に配合する発酵セルロースの割合は、本発明の効果が得られる範囲であればよく、飲料の種類に応じて適宜調整することができる。通常、最終飲料100重量%中、0.06〜0.2重量%の範囲から適宜選択調整することができる。好ましくは0.1〜0.2重量%である。
【0022】
本発明において発酵セルロースは、他の高分子物質と組み合わせて用いることでその効果をより高めることができる。高分子物質と組み合わせて用いる態様としては、発酵セルロースと高分子物質とを混合状態で用いる態様、または発酵セルロースと高分子物質とを複合化状態で用いる態様を挙げることができるが、好ましくは高分子物質と複合化状態で用いる態様である。
【0023】
なお、発酵セルロースを高分子物質と複合化させる方法としては、特開平9−121787号公報に記載される2種類の方法を挙げることができる。
【0024】
ここで第一の方法は、微生物を培養して発酵セルロースを産生させるにあたり、培地中に高分子物質を添加して培養を行い、発酵セルロースと高分子物質とが複合化した発酵セルロース複合化物として得る方法である。
【0025】
また第二の方法は、微生物の培養によって生産された発酵セルロースのゲルを高分子物質の溶液に浸漬して、高分子物質を発酵セルロースのゲルに含浸させて複合化する方法である。発酵セルロースのゲルは、そのままか、あるいは常法により均一化処理を行ったのちに高分子物質の溶液に浸漬する。均一化処理は、公知の方法で行えばよく、例えばブレンダー処理や500kg/cmで40回程度の高圧ホモジナイザー処理、1000kg/cmで3回程度のナノマイザー処理などを用いた機械的解離処理が有効である。浸漬時間は、制限されないが、30分以上24時間程度、好ましくは1晩を挙げることができる。また、浸漬終了後は遠心分離や濾過などの方法で浸漬液を除去することが望ましい。さらに、水洗いなどの処理を行って過剰の高分子物質を除去すると、高分子物質と複合化された状態の発酵セルロースを取得することができ、複合化に利用されないで残存する高分子物質の影響を抑えることができる。
【0026】
発酵セルロースとの複合化に使用される高分子物質としては、例として、キサンタンガム、カラギーナン、ガラクトマンナン(グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム等)、カシアガム、グルコマンナン、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル型ジェランガム、タマリンドシードガム、ペクチン、サイリウムシードガム、ゼラチン、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、ガティガム、マクロホモプシスガム、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、カードラン、プルラン、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)の塩、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、微結晶セルロース、水溶性ヘミセルロース、大豆多糖類、加工・化工でん粉、未加工でん粉(生でん粉)といった各種高分子物質を挙げることができる。これらは一種単独で使用してもよいし、または2種以上を任意に組み合わせて使用することもできる。
【0027】
高分子物質として、好ましくは、ガラクトマンナン、カルボキシメチルセルロース(CMC)またはその塩を挙げることができる。ここでガラクトマンナンとして好ましくはグァーガムを、CMCの塩として好ましくはCMCのナトリウム塩を挙げることができる。
【0028】
本発明において、発酵セルロースは、より好ましくは前述するグァーガム、及び/又は、カルボキシメチルセルロース(CMC)若しくはその塩からなる群から選択される少なくとも1種を複合化させた状態で用いられる。さらに好ましくは、グァーガムとCMCのナトリウム塩を組み合わせて使用する態様である。かかる複合化された発酵セルロースを用いることにより、より好適に、乳成分入り飲料の内部に微細で緻密な気泡を形成することができ、かつ形成された気泡を飲料溶液内に安定して保持させることができる。
【0029】
なお、上記高分子化合物と複合化された発酵セルロースは商業的に入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のサンアーティスト[登録商標]PG(グァーガムおよびCMCのナトリウム塩と発酵セルロースとの複合体の製剤)などを挙げることができる。
【0030】
本発明において、酸性の乳成分入り飲料に配合する発酵セルロースと高分子物質の複合化物の添加量は、最終飲料100重量%中、通常0.1〜0.35重量%、好ましくは0.15〜0.3重量%を挙げることができる。発酵セルロース複合体の添加量が0.1重量%より少ないと起泡性が乏しく、濃度を上げるにつれて起泡性が向上し、気泡の長期安定能も強化されるのであるが、0.35重量%より高いと飲料に粘り気が生じて口当たりが悪くなってしまう。高分子物質の割合としては、最終飲料100重量%中、0.04〜0.14重量%、好ましくは0.05〜0.12重量%を挙げることができる。高分子物質として、グァーガムおよびCMCのナトリウム塩の少なくとも一方を使用する場合、最終飲料100重量%中、グァーガムの割合として0.02〜0.07重量%、好ましくは0.025〜0.06重量%、またCMCのナトリウム塩の割合として0.02〜0.07重量%、好ましくは0.025〜0.06重量%を挙げることができる。
【0031】
通常、乳成分を含有する酸性の飲料は、乳タンパク質の凝集や沈殿を生じることが知られている。これを防止するために、酸性乳飲料用安定剤として、水溶性大豆多糖類やハイメトキシルペクチン、CMCのナトリウム塩等を使用するのが一般的である。本発明においても同様の問題が生じうるため、安定剤として水溶性大豆多糖類を添加することが好ましい。
【0032】
前記水溶性大豆多糖類とは、大豆由来のラムノース、ガラクトース、アラビノース、キシロース、グルコース、ウロン酸の1種もしくは2種以上を含むものであればよいが、大豆のなかでも子葉由来のものが好ましい。酸性乳飲料用安定剤として使用する水溶性大豆多糖類は、その分子量がどのような物でも使用可能であるが、高分子であることが好ましく、平均分子量が数千から数百万、具体的には5千〜100万であるのが好ましい。なお、この水溶性大豆多糖類の平均分子量は標準プルラン(昭和電工株式会社)を標準物質として0.1MのNaNO溶液中の粘度を測定する極限粘度法で求めた値である。かかる水溶性大豆多糖類は商業的に入手可能であり、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社製のSM−660,SM−700、SM−900、SM−1200を挙げることができる。
【0033】
本発明において、酸性の乳成分入り飲料に配合する水溶性大豆多糖類の添加量は、酸性条件下においても飲料中の乳タンパク質を安定にさせることができる範囲であれば適宜調整することができ、通常、最終飲料100重量%中、0.1〜1.0重量%、好ましくは0.3〜0.8重量%を挙げることができる。
【0034】
また本発明の効果を妨げない範囲において、酸性の乳成分入り飲料の調製に際して、原料に発酵セルロースの他、任意で次のような多糖類を用いることもできる。かかる多糖類としては、キサンタンガム、カラギーナン、ガラクトマンナン(グァーガム、ローカストビーンガム、タラガム等)、カシアガム、グルコマンナン、ネイティブ型ジェランガム、脱アシル型ジェランガム、タマリンドシードガム、ペクチン、サイリウムシードガム、ゼラチン、トラガントガム、カラヤガム、アラビアガム、ガティガム、マクロホモプシスガム、寒天、アルギン酸類(アルギン酸、アルギン酸塩)、カードラン、プルラン、メチルセルロース(MC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)の塩、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)等のセルロース誘導体、微結晶セルロース、水溶性ヘミセルロース、大豆多糖類、加工・化工でん粉、未加工でん粉(生でん粉)を挙げることができる。
【0035】
かかる多糖類を用いる場合、酸性の乳成分入り飲料に配合する多糖類の割合としては、最終飲料100重量%中、0.01〜0.5重量%、好ましくは0.1〜0.3重量%を挙げることができる。
【0036】
また本発明の効果を妨げない範囲において、酸性の乳成分入り飲料の調製に際して、飲料の食感や口当たり、若しくは、気泡の長期保持を目的として、原料に発酵セルロースの他、乳化剤を用いることもできる。かかる乳化剤としては、グリセリン脂肪酸エステル(モノグリセリン脂肪酸エステル、ジグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、蒸留モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル)、ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、レシチン、サポニン、ポリソルベートを挙げることができる。この内好適なものとして、耐酸性を有する乳化剤が挙げられ、ポリグリセリン脂肪酸エステル、レシチンを例示することができる。
【0037】
かかる乳化剤を用いる場合、酸性の乳成分入り飲料に配合する乳化剤の割合としては、最終飲料100重量%中、0.01〜1.0重量%、好ましくは0.1〜0.5重量%を挙げることができる。
【0038】
本発明が対象とする飲料は、酸性でかつ乳成分を含有する飲料であればよく、特に制限されるものではない。ここで乳成分としては、乳タンパク質を含有するものであればよく、例えば、牛乳、脱脂粉乳、全脂粉乳、加糖粉乳、調製粉乳、ホエイパウダー、バターミルクパウダー、クリームパウダー、濃縮乳、生クリーム、無糖練乳、加糖全脂練乳、加糖脱脂練乳、バター、脱脂乳、豆乳などの植物由来乳成分を挙げることができる。かかる乳成分の中で本発明における起泡性の効果を最も発揮できるものとして、脱脂粉乳、ホエイパウダー、加糖脱脂練乳、脱脂乳など、いずれも乳脂肪分の少ないものが挙げられる。
【0039】
なお、飲料中に含まれる乳成分の割合としては、無脂乳固形分に換算して0.5〜6重量%、好ましくは1〜5重量%、より好ましくは2〜4重量%を挙げることができる。また、本発明は、酸性の乳成分入り飲料中に脂肪分含量が0〜0.2重量%、好ましくは0〜0.1重量%である飲料に好適に用いることができる。
【0040】
本発明が対象とする好適な酸性の乳成分入り飲料は、pHが3〜5
、好ましくは3.5〜4.2の飲料であれば制限されるものでなく、具体例として、(殺菌)乳酸菌飲料、はっ酵乳、あるいは乳原料に乳酸やクエン酸のような有機酸等を添加することで酸性化した飲料(直接酸乳タイプ)等が挙げられる。
【0041】
また、本発明の効果を妨げない範囲において、前述の乳成分に加えて、別途タンパク質成分もしくはタンパク質誘導体成分を酸性の乳成分入り飲料に配合することができる。かかるタンパク質成分として、コラーゲン、ゼラチン、カゼインナトリウム、小麦タンパク質、卵白ペプチドなどを挙げることができる。
【0042】
ここで上記飲料を充填する容器の種類としては、特に限定されるものではないが、スチール缶、紙パック、ガラス瓶、ポリエチレンテレフタレートボトル(PETボトル)、アルミ缶等が挙げられる。通常、容器への食用液、好ましくは飲料の充填量を、容器の全容量の30〜90容量%、好ましくは50〜70容量%程度とし、空隙を設けておくことで、容器を振った際に気泡を容易に形成することができる。かかる充填量は、調製する飲料に応じて適宜変更することが可能である。例えば、起泡性を有する酸性乳飲料を調製する場合の容器への充填量は70〜90容量%程度でよい。なお、本発明の飲料を容器に充填する場合、容器にできる空隙は通常に比べて広くするため、容器のへこみ防止と飲料の酸化抑制を目的として、窒素ガスによる置換・充填を行うことが好ましい。
【0043】
本発明が対象とする飲料の製造は、制限されないが、例えば、前述する少なくとも発酵セルロースと酸性乳飲料用の安定剤を水などの溶媒に、他の原料とともに溶解し、これに乳成分を加え、次いで果汁成分など飲料の種類に応じた原料や、pHを調整するためにクエン酸などの有機酸を添加した後に均質化処理を施す。また通常、酸性乳飲料で行う殺菌処理は、約100℃で数秒程度処理した上述調製の飲料を、予め殺菌処理した容器に充填する方法が実施されている。
【0044】
本発明の飲料は、これが充填された容器を飲食時に振盪することによって、飲料の表面だけでなく、内部にも微細で緻密な気泡、形状保持性に優れた気泡を形成することができる。振盪方法は、特に制限されないが、例えば、容器を手にとって10秒〜1分間上下に振る方法を挙げることができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の内容を以下の実施例、比較例等を用いて具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。また、特に記載のない限り「部」とは「重量部」を、「%」は「重量%」を意味するものとする。文中「*」印のものは、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の製品を表し、文中の「※」印は、三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の登録商標であることを意味する。
なお、実施例において使用する「サンアーティスト[登録商標]PG」(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)は、発酵セルロースを20%、グァーガムを6.7%、CMCのナトリウム塩を6.7%(即ち発酵セルロース複合体として33.4%)およびデキストリンを66.6%の割合で含む粉末状の製剤である。
【0046】
実施例1 ペットボトル入り酸性乳飲料
表1の処方に従い、各種のペットボトル入り酸性乳飲料(pH3.7)を調製した。
<処方>
1.パイナップル5倍濃縮果汁・清澄 0.66(%)
2.砂糖 6.0
3.脱脂粉乳 3.0
4.50%W/Vクエン酸 pH3.7に調整
5.着色料 0.02
(サンエローNo.2SFU
6.香料 0.1
(パイナップルフレーバーNo.93614
7.酸性乳飲料用の安定剤 0.3
(水溶性大豆多糖類 SM−1200
8.添加剤 表1参照
水にて全量 100.0%
【0047】
【表1】

(1)「セオラスSC-900」(旭化成(株)製)
(微結晶セルロース73%、CMC-Na5%、キサンタンガム2.8%、デキストリン19%、食用油脂0.2%含有)
【0048】
<調製方法>
1)砂糖、脱脂粉乳、酸性乳飲料用の安定剤、および各種の添加剤を水に加え、80℃で10分間攪拌溶解する。
2)上記溶液に濃縮果汁を加えて、クエン酸溶液でpH3.7に調整する。
3)上記で調整した溶液を、75℃で均質化する(圧力:第一段10MPa、第二段5MPa)。
4)95℃の達温殺菌にて、ペットボトルにホット充填して、7℃以下に冷却保存する。
【0049】
<実験方法>
1)上記方法で調製した各種のペットボトル入り酸性乳飲料の95℃達温殺菌後の安定性について、目視で確認した。次に各種調製した飲料80mlを、容積100mlの蓋付き瓶に充填した。まず試料の中心部をピペットにて11ml採取し、その重量を測定する(起泡前11mL重量)。そして、激しく30回振って泡立て、15分間放置後、再度30回振って泡立てて、試料の中心部をピペットにて再度11ml採取し、その重量を測定する(起泡後11mL重量)。
2)起泡前11mL重量と起泡後11mL重量から、下式に従って飲料中に含有されている気泡の保持性を「オーバーラン率(%)」として求める。
【0050】
オーバーラン(OR)率
=〔(起泡前11mL重量−起泡後11mL重量)/起泡後11mL重量〕 × 100

3)上記で気泡を形成した後、室温放置から30分後に、飲料中の気泡を目視で確認し、瓶からコップに移し変えて泡の移動の様子を観察する。また、飲用して食感を評価する。
結果を表2および表3に示す。
【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
<結果>
上記表2に示すように、発酵セルロース複合体を含有するサンアーティストPGを添加して酸性乳飲料を調製することによって、飲料の気泡保持力を増強され、飲料内に気泡を安定に保持することができ、さらに、気泡形成後120分以上もの間、飲料上層および飲料中に気泡を保持することができた。また、表3に示すように、この飲料(30分後)を肉眼で観察すると微細で緻密な気泡が明瞭に飲料中に残っており、これをコップに注ぐと泡とともに飲料もコップへ移し替えることができた。そして、これを飲用すると、泡ごと飲料を飲んでいる食感があった。一方、添加剤無添加の飲料(対照例)ならびに他の添加剤を配合した飲料(比較例1〜5)はいずれも、飲料中の気泡が荒く消えやすいため、飲んだときに泡を感じることができなかった。
【0054】
実施例2〜11 ペットボトル入り酸性乳飲料
下記の処方に従い、各種のペットボトル入り酸性乳飲料(pH3.7)を調製した。なお、調製方法は、実施例1の乳飲料の方法に従った。
<処方>
1.パイナップル5倍濃縮果汁・清澄 0.66(%)
2.砂糖 6.0
3.脱脂粉乳 3.0
4.50%W/Vクエン酸 pH3.7に調整
5.着色料 0.02
(サンエローNo.2SFU
6.香料 0.1
(パイナップルフレーバーNo.93614
7.酸性乳飲料用の安定剤 0.3
(水溶性大豆多糖類 SM−1200
8.添加剤 表4参照
水にて全量 100.0%
【0055】
【表4】

【0056】
<実験方法>
1)上記方法で調製した各種のペットボトル入り酸性乳飲料の95℃達温殺菌後の安定性について、目視で確認した。次に各種調製した飲料80mlを、容積100mlの蓋付き瓶に充填した。まず試料の中心部をピペットにて11ml採取し、その重量を測定する(起泡前11mL重量)。そして、激しく30回振って泡立て、15分間放置後、再度30回振って泡立てて、試料の中心部をピペットにて再度11ml採取し、その重量を測定する(起泡後11mL重量)。
2)起泡前11mL重量と起泡後11mL重量から、下式に従って飲料中に含有されている気泡の保持性を「オーバーラン率(%)」として求める。
【0057】
オーバーラン(OR)率
=〔(起泡前11mL重量−起泡後11mL重量)/起泡後11mL重量〕 × 100

3)上記で気泡を形成した後、室温放置から30分後に、飲料中の気泡を目視で確認し、瓶からコップに移し変えて泡の移動の様子を観察する。また、飲用して食感を評価する。
結果を表5および表6に示す。
【0058】
【表5】

【0059】
【表6】

【0060】
<結果>
上記表5に示すように、酸性乳飲料へ添加するサンアーティストPG(発酵セルロース複合体を全体量の33.4%含む)の量を増やすことで飲料中の気泡含有量を増加することができた。飲料中の気泡含有量は、サンアーティストPG量0.8%をピークとして、その添加量に至るまで増加していき、その量を超えて加えると次第に減少していった。表5の結果からわかる範囲で、優れた飲料中の気泡含有量を示すサンアーティストPGの添加量は、最終飲料100%中、0.2%〜1.0%、好ましくは0.4%〜1.0%、最も好ましくは、0.5%〜1.0%である。
【0061】
そして、表6に示すように、サンアーティストPGの添加量は少量(0.1%)でも、起泡30分後の飲料中に気泡が存在していることがわかり、さらに、サンアーティストPGを0.3%以上添加することで、飲んだときの食感においても泡を明確に感じることができた。例えば、サンアーティストPGの添加量が0.3%(実施例2)の場合、OR率自体はサンアーティストPG無添加である対照例の2倍程度であったが、飲料時における泡の食感ははっきりと感じることができた。この時と同程度のOR率を示す比較例1〜6の飲料と比べると、泡の食感は、サンアーティストPGを0.3%添加した飲料(実施例3)の方が明確に感じることができた。さらに、サンアーティストPGを添加した飲料は、それをコップに注いだ時、飲料とともに泡も同時にコップへ移すことができた。
【0062】
また、商品として提供する飲料の重要な条件である、飲料時のさらりとして口当たりのよい食感の提供を考慮すると、サンアーティストPGの添加量が1.0%を超えると糊感がやや出てくるので、サンアーティストPGの添加量は1.0%を超えないことが好ましい。そして、表中には示していないが、発酵セルロース複合体を添加していない飲料では、気泡形成後10分に満たない時間で気泡が消えてしまっていた。一方で、サンアーティストPGを少量(0.1%)でも添加した飲料では、気泡形成後120分以上もの間気泡を保持することができ、さらに、サンアーティストPGを0.5%以上添加した飲料においては、気泡形成後24時間後も気泡が保持されていた。
【0063】
以上、表5,6の結果を総合すると、酸性の乳成分入り起泡性飲料において、飲料中における優れた気泡保持力を示すサンアーティストPGの添加量は、0.3〜1.0%(発酵セルロース複合体換算では、0.1〜0.35%)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発酵セルロース複合体を0.1〜0.35重量%含む飲料であって、(A)該複合体を添加することにより飲料中における発酵セルロースの含有量が0.06〜0.2重量%となり、かつ(B)飲料を入れた容器を振盪して起泡化することにより、飲料上層だけでなく飲料内部にも気泡を安定的に保持することを特徴とする、酸性の乳成分入り起泡性飲料。
【請求項2】
前記発酵セルロース複合体が、グァーガム、及び/又は、カルボキシルメチルセルロース若しくはその塩によって発酵セルロースを複合化したものである、請求項1に記載の酸性の乳成分入り起泡性飲料。

【公開番号】特開2009−291081(P2009−291081A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−145013(P2008−145013)
【出願日】平成20年6月2日(2008.6.2)
【出願人】(000175283)三栄源エフ・エフ・アイ株式会社 (429)
【Fターム(参考)】