説明

酸性ガス吸収体及び該吸収体を含む空気浄化装置

【課題】省スペースでも二酸化炭素などの酸性ガスを多く除去することのできる酸性ガス吸収体、及び、該吸収体を含む空気浄化装置を提供する。
【解決手段】強塩基性陰イオン交換樹脂に、(ポリ)アルキレン(ポリ)アミンなどの有機アミンが吸着されてなることを特徴とする酸性ガス吸収体、及び、該酸性ガス吸収体が充填されてなる充填塔と該充填塔に酸性ガス含有気体を供給し得るポンプ等の送風機器とを含むことを特徴とする空気浄化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素などの酸性ガスによって汚染された空気から酸性ガスを除去する酸性ガス吸収体及び該吸収体を含む空気浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、快適な生活環境を追求しつつ、冷暖房の省エネルギーを図るために、高気密化が進んでいる。このような中、本発明者らが検討したところ、高気密化された6畳間において、一晩、石油ストーブで暖房すると、長期安全限界の0.5%に近い0.45%程度の二酸化炭素濃度に達することが観測され、新幹線の喫煙車両では0.35%まで達する場合があり、東京の満員電車内では0.44%まで達する場合があることが観測される等、居住空間における空気の汚染が懸念されている。かかる状況下で、例えば、室内の二酸化炭素濃度の基準である「0.10%以下」の基準を確保にするために、高気密化された居住空間の空気浄化の必要性が叫ばれている。
既に、潜水艇、宇宙ステーションなどの密閉空間において汚染された空気から二酸化炭素を除去して密閉空間の空気を浄化する吸収体及び該吸収体を含む空気浄化装置として、弱塩基性陰イオン交換樹脂及び該樹脂の充填塔を含む空気浄化装置が知られている(特許文献1)。
【0003】
【特許文献1】特公平2−51655号公報 (従来技術及びその問題点)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、本発明者らが検討したところ、弱塩基性陰イオン交換樹脂1Lあたりの二酸化炭素吸収量は約0.01モルにとどまり、イオン交換樹脂容積あたりの二酸化炭素の吸着量が必ずしも十分ではなかった。
民間の住宅や交通機関等の居住空間においては、その利便性を維持するためには省スペースな空気浄化装置である必要があり、簡便に空気を浄化するためには、吸収体の交換が頻繁でないように長期間使用することができる空気浄化装置である必要がある。
本発明の目的は、省スペースでも多くの酸性ガスを除去することのできる酸性ガス吸収体及び該吸収体を含む空気浄化装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、強塩基性陰イオン交換樹脂に有機アミンが吸着されてなることを特徴とする酸性ガス吸収体、及び、該酸性ガス吸収体の充填塔と該充填塔に酸性ガス含有気体を供給し得る送風機器を含むことを特徴とする空気浄化装置である。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、酸性ガス吸収体の容積あたりの酸性ガス吸収量が大きいことから、省スペースでも多くの酸性ガスを除去することのできる空気浄化装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明における酸性ガスとは、水に溶解すると酸性を呈するガスであり、具体的には、硫黄酸化物(SOx)、窒素酸化物(NOx)、二酸化炭素などが挙げられる。中でも、燃焼によって生じたり、人間などの動植物の呼気によって多く生じる二酸化炭素は、本発明の酸性ガス吸収体によって好適に除去することができる。
【0008】
本発明の酸性ガス吸収体は、強塩基性陰イオン交換樹脂に有機アミンが吸着されたものである。
本発明に用いられる強塩基性陰イオン交換樹脂は、4級アンモニウム基を交換基とする強塩基性陰イオン交換樹脂であり、強塩基性陰イオン交換樹脂を用いることにより、酸性ガスが希薄な気体であっても、省スペースで酸性ガスをほぼ完全に吸収し得るのである。
強塩基性陰イオン交換樹脂は、通常、OH型として用いる。
強塩基性陰イオン交換樹脂としては、例えば、デュオライトA113、A113LF、A109D、A116、A116LF、UP5000、A161TRSO4、A162LFなど(以上、ローム・アンド・ハース社登録商標、住化ケムテックス(株)から入手可能)、アンバーライトIRA400、IRA410、IRA900、IRA910など(以上、ローム・アンド・ハース社登録商標)、ダイヤイオンSA10A、SA20A、PA314、PA418など(以上、三菱化学社登録商標)、レバチットM500、M600、MP500、MP600など(以上、ランクセス社登録商標)、ダウエックスA、A2、MSA−1、MSA−2など(以上、ダウケミカル社登録商標)などの市販品を用いればよい。
【0009】
本発明で用いられる有機アミンとしては、例えば、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、ポリイミンなどの(ポリ)アルキレン(ポリ)アミン、トリエチルアミン、ピリジンなどが挙げられ、臭いなどの観点から(ポリ)アルキレン(ポリ)アミンが好ましく、とりわけ、平均分子量が300以下の(ポリ)アルキレン(ポリ)アミンが、吸着量の観点から好ましい。
有機アミンには、(ポリ)アルキレンポリアミンの粘度を調整するために、水を加えてもよい。有機アミンは、通常アルカリ性に調整され、塩を含有しないことが好ましい。
【0010】
酸性ガス吸収体の製造方法は、強塩基性陰イオン交換樹脂に有機アミンを吸着させればよく、具体的には、例えば、強塩基性陰イオン交換樹脂と有機アミンの液とを混合する方法、例えば、強塩基性陰イオン交換樹脂が充填された層に有機アミンの液を通液する方法などが挙げられる。
有機アミンの吸着量は、できるだけ吸着することが好ましい。強塩基性陰イオン交換樹脂が充填された層に有機アミンの液を通液する方法であれば、通常、通液前の有機アミン濃度と通液後の有機アミン濃度が変化しない程度まで吸着される。
酸性ガス吸収体の製造温度としては、強塩基性陰イオン交換樹脂の安定性から、通常、40℃以下で実施され、好ましくは、0〜30℃程度で実施される。
【0011】
本発明の空気浄化装置は、前記酸性ガス吸収体が充填された充填塔と該充填塔に酸性ガス含有気体を供給し得る送風機器とを含む装置であり、本発明の除去方法は、例えば、該充填塔に該送風機器から酸性ガスを含む気体を供給する等によって、酸性ガスを含む気体を酸性ガス吸収体に接触させて酸性ガスを除去する方法である。
ここで、送風機器としては、例えば、ポンプ、コンプレッサー、ファン、ブロワーなどが挙げられる。
【0012】
さらに、本発明の実施の一形態である図1の空気浄化装置を用いて以下に説明する。
酸性ガス吸収体(1)は、底部に多孔板(1−3)を有する充填塔(1−1)に充填されている。
酸性ガスを含む気体(1−2及び破線の流れ)は、送風機器の1種であるポンプ(2)によって充填塔(1−1)の入口に供給される。
酸性ガスを含む気体は、酸性ガス吸収体の充填塔を通過する際に酸性ガス吸収体と接触する。酸性ガスは酸性ガス吸収体の有機アミンに吸収されると考えられる。
【0013】
酸性ガスが低減した若しくはほとんど含まない、浄化された気体が充填塔出口(1−5)から排出される。気体出口(1−5)には、有機アミンの飛沫同伴を除去するためや、強塩基性陰イオン交換樹脂に含まれる4級アンモニウム基が分解して得られるトリメチルアミンなどの臭気物を除去するために、活性炭による吸着部、陽イオン交換樹脂による吸着部、吸収塔、全縮器、フィルターなどの脱臭部(1−4)が具備されていることが好ましい。中でも活性炭による吸着部、フィルターは設備が簡便であることが好ましい。図1では充填塔(1−1)と脱臭部(1−6)が離れて記載されているが、脱臭部は充填塔と直結されていてもよい。
【0014】
酸性ガスを含む気体及び酸性ガス吸収体の接触は、イオン交換樹脂の安定性から、通常、40℃以下で実施され、好ましくは、0〜30℃程度で実施される。この温度を維持するために充填塔(1−1)には、断熱材、ジャケット、ヒーターなどの保温手段がさらに具備されていてもよい。
また、酸性ガスを含む気体は、図1のように、酸性ガス吸収体に対して、通常一方向から供給される。
充填塔(1−1)には、SV値(1時間あたり充填塔を通過した気体の体積/酸性ガス吸収体が占める体積)が10L/(L・Hr)以上であれば、十分な酸性ガス吸着速度を確保しつつ、酸性ガスを該吸収体に吸収させることができる。また、20000L/(L・Hr)以下であれば、酸性ガスを該吸収体に吸収させることができる傾向があることから好ましい。
【0015】
酸性ガスを含む気体は、そのまま充填塔に供給して酸性ガス吸収体に接触させてもよいが、好ましくは、水と接触させたのち充填塔に供給して酸性ガス吸収体に接触させることが好ましい。水と予め接触させることにより、水を十分に含む気体として供給され、このことにより、酸性ガス吸収体の乾燥を緩和させ、該吸収体の減容が防止できる傾向があることから好ましい。
酸性ガスを含む気体と水との接触方法としては、図1の如く、水が充填された気泡塔3に酸性ガスを含む気体を供給する方法などが挙げられる。
【0016】
酸性ガス吸収体の酸性ガス吸収能が低下した場合、酸性ガス吸収体から有機アミンとともに酸性ガスを脱離させ、再び強塩基性陰イオン交換樹脂に有機アミンを吸着し、酸性ガス吸収体として使用することができる。この工程を再生工程と呼び、以下に再生工程について説明する。
酸性ガス吸収体の再生は、通常の強塩基性陰イオン交換樹脂の再生の如く、酸性ガス吸収体と塩基性水溶液とを接触させて該酸性ガス吸収体に含まれる酸性ガス及び有機アミンを塩基性水溶液に溶出させる方法である。
酸性ガス吸収体の再生に用いられる塩基性水溶液は、通常、苛性ソーダ、苛性カリウム等のアルカリ金属水酸化物水溶液である。該水溶液において、アルカリ金属水酸化物の濃度は、通常、2〜10重量%程度である。
例えば、酸性ガスが二酸化炭素であれば、酸性ガス(二酸化炭素)は炭酸塩水溶液として酸性ガス吸収体から溶出され、酸性ガスが亜硫酸であれば、亜硫酸塩水溶液として溶出され、酸性ガスが亜硝酸であれば、亜硝酸塩として溶出される。
尚、酸性ガス吸収体の再生は高濃度の強塩基性水溶液が好適に用いられることから、空気浄化装置から充填塔を取り外して、専門業者によって再生することが推奨される。
得られた強塩基性水溶液に含まれる酸性ガスが二酸化炭素である場合、温室効果ガスである二酸化炭素を固定化するために、塩化カルシウムと混合して、炭酸カルシウム塩として固定化してもよい。
塩基性水溶液と接触した酸性ガス吸収体は、通常、水洗したのち有機アミンを吸着させて、再び、酸性ガスを吸着させる酸性ガス吸収体として、再度使用できる。
【0017】
さらに異なる再生工程として、酸性ガス吸収体から酸性ガスを速やかに放出させるために、酸性ガス吸収体に酸を接触させて、酸性ガスを気体として取り出す方法について説明する。
酸としては、塩酸、硫酸、リン酸、などの鉱酸が使用され、好ましくは酸性ガス吸収体1Lに対して酸を1モル以上の量、酸性ガス吸収体に接触させることが好ましい。

酸によって酸性ガスが除去された陰イオン交換樹脂を前記と同様に、アルカリ金属水酸化物水溶液で再生すると、再び、酸性ガスを吸着させることができる。
【実施例】
【0018】
次に、実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例により限定されるものではない。
【0019】
(実施例1)
<酸性ガス吸収体の製造例1>
OH型4級アンモニウム基の強塩基性陰イオン交換樹脂(デュオライト UP5000
、ローム・アンド・ハース社(R&H社)登録商標)130mlが充填された充填塔(1、高さ50cm、内径2.6cmの塩ビ製塔、ニッコー社製)に25重量%ジエチレントリアミン水溶液を25℃程度の室温下でSV(1時間あたり通過したアミン溶液の体積/樹脂が占める体積)=1の流速で約2時間、下向きに流下し、酸性ガス吸収体を得た。
流下30分後の溶出液のアミン濃度は2重量%であったが、1時間で23.5重量%、1.5時間及び2時間で25重量%であったことから、1.5時間で十分に有機アミンが吸着されたことがわかる。
【0020】
<装置の調整>
水が充填された気泡塔(3、加湿部、高さ5cm)と、前記酸性ガス吸収体が充填された充填塔(1)と気体出口(1−4)に活性炭脱臭装置(1−6、脱臭部)を図1の如く組み立てた。気体のラインは内径2mmのチューブを用い、ポンプ(2、送風機器)は、エアーポンプニッソー社製α4000を用いた。
【0021】
<二酸化炭素の除去>
ポンプ(2)を起動させて、室内の空気(二酸化炭素含有量390ppm)をエアーポンプ(5)にて2000ml/分(923L/(L・Hr))供給し、これを160時間継続した。この間、間欠的に気体出口(1−5)から排出される気体を採取してJIS K2301に準じて二酸化炭素の含有量を測定した。結果を表1に表す。
表1の結果に基づいて、通気時間と酸性ガス吸収体の出口二酸化炭素濃度との関係を図2に示した。
【0022】
【表1】

DETA :ジエチレントリアミン25重量%水溶液
SP−012:ポリエチレンイミン(日本触媒製、平均分子量1200)
25重量%水溶液
UP5000:強塩基性イオン交換樹脂 デュオライト UP5000(R&H社)、
A368S :弱塩基性イオン交換樹脂 デュオライト A368S(R&H社)、
AC :粒状活性炭 DIAHOPE (三菱化学社)、
【0023】
(実施例2、比較例1〜3)
有機アミンを表1に記載のものを用いる以外は実施例1と同様に実施して、結果を表1及び図2にまとめた。図2より、酸性ガス吸収体単位体積あたりの二酸化炭素累積吸収量を計算し、結果を表2にまとめた。尚、比較例1は、有機アミンを吸着させていない場合の結果を示した。
【0024】
【表2】

【0025】
本発明の実施例によれば、気体出口からはほとんど臭気は生じず、φ26mm×50cmHの小さな充填塔で100時間を越えても二酸化炭素の吸収が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0026】
従来の装置であるイオン交換樹脂塔と本発明の装置である実施例1とは樹脂単位体積あたり2.6倍程度の酸性ガスを吸収することができる。このように、本発明の装置は省スペースでも多くの二酸化炭素を吸収できるという優れた効果を有することから、潜水艇、宇宙船、航空機、新幹線などの交通機関の居住空間;高気密性住宅などの居住空間、電子機器製造業などのクリーンルームや防塵室、病院や研究機関などの無菌室、放射線物質取扱室、宇宙ステーションなどの空間から酸性ガスを除去することが可能な空気浄化装置として用いることができる。また、発電所、工場等の煙突から排出される燃焼ガス等に含まれる酸性ガス(主に二酸化炭素)の除去装置として使用することができ、固定化の処理を施すことにより二酸化炭素を環境に放出することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の装置の一実施態様。
【図2】実施例及び比較例における通気時間と酸性ガス吸収体の出口二酸化炭素濃度との関係
【符号の説明】
【0028】
1 :酸性ガス吸収体
1−1: 充填塔
1−2:(酸性ガスを含む気体の)気体入口
1−3:多孔板
1−4:活性炭脱臭装置、脱臭部
1−5:気体出口
2 :酸性ガスを含む気体を供給するポンプ、送風機器
3 :(水を含む)気泡塔、加湿部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
強塩基性陰イオン交換樹脂に有機アミンが吸着されてなることを特徴とする酸性ガス吸収体。
【請求項2】
酸性ガスが二酸化炭素であることを特徴とする請求項1に記載の酸性ガス吸収体。
【請求項3】
有機アミンが、(ポリ)アルキレン(ポリ)アミンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の酸性ガス吸収体。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の酸性ガス吸収体が充填されてなる充填塔と該充填塔に酸性ガス含有気体を供給し得る送風機器とを含むことを特徴とする空気浄化装置。
【請求項5】
酸性ガス吸収体の酸性ガス出口に、さらに脱臭部を含むことを特徴とする請求項4に記載の空気浄化装置。
【請求項6】
酸性ガス吸収体の酸性ガス入口に、さらに加湿部を含むことを特徴とする請求項4又は5に記載の空気浄化装置。
【請求項7】
酸性ガスを含む気体を、請求項1〜3に記載の酸性ガス吸収体に接触させることを特徴とする酸性ガス除去方法。
【請求項8】
酸性ガスを含む気体を、SV値 10〜20000 L/(L・Hr)にて接触させることを特徴とする請求項7に記載の除去方法。
【請求項9】
酸性ガスを含む気体を水と接触させたのち、酸性ガス吸収体に接触させることを特徴とする請求項7又は8に記載の除去方法。
【請求項10】
酸性ガスを吸着した請求項1〜3に記載の酸性ガス吸収体に、アルカリ金属水酸化物水溶液を接触させて、塩として酸性ガスを固定化することを特徴とする酸性ガス固定化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−190529(P2007−190529A)
【公開日】平成19年8月2日(2007.8.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−13454(P2006−13454)
【出願日】平成18年1月23日(2006.1.23)
【出願人】(501460383)住化ケムテックス株式会社 (10)
【Fターム(参考)】