説明

酸性ガス吸収剤、および混合ガスからの酸性ガス分離方法

【課題】従来の吸収剤より実用上の酸性ガスの吸収量が多く、かつ脱離が容易で、再生するに優れ、腐食性が低く、経済的に優れた新規の酸性ガス吸収剤、及び混合ガスからの酸性ガス分離方法を提供する。
【解決手段】酸性ガスの吸収剤は、グリシン酸ナトリウムを含む水溶液、好ましくは10〜60重量%のグリシン酸ナトリウム水溶液であり、酸性ガス分離方法は、グリシン酸ナトリウムを含む水溶液、好ましくは10〜60重量%のグリシン酸ナトリウム水溶液を吸収剤として用い、混合ガスと接触させて酸性ガスを吸収分離することにある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は製油所工程、火力発電所、燃焼炉、ゴミ焼却炉、窯炉等で発生する混合ガスから二酸化炭素(CO)、硫化水素(HS)などの酸性ガスを除去するために使用される新規の酸性ガス吸収剤、および混合ガスからの酸性ガス分離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
産業の発達と共に大気中の二酸化炭素濃度の増加による地球温暖化が問題視され、この解決の方策が切実になってきた。大気中の二酸化炭素濃度増加の原因の中で一番大きい要因とされるのはエネルギー産業で用いる石炭、石油、液化天然ガス(LNG)等の化石燃料の使用である。そこで化石燃料の使用により発生する二酸化炭素を分離回収することで大気中の二酸化炭素濃度を減少させようとする技術開発が活発に行われている。二酸化炭素の分離技術は大きく吸収法、吸着法、膜分離法、深冷法などがあるが、発電所など大規模プラントでの適用が比較的容易であることから、吸収法が最も現実的な方法として認識されている。
【0003】
吸収法においては、二酸化炭素など酸性ガスを吸収する吸収剤が重要であり、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどのアルカノールアミンの水溶液を吸収剤として使用することは早くから知られている。アルカノールアミンはアルカリ度が高く〔例えば、モノエタノールアミンでは、K:3.3×10−10(25℃)〕、酸性ガスの吸収力が大きいことから優れた吸収剤であるが、逆に次のような問題点が指摘されている。
【0004】
1)温度差による二酸化炭素の単位吸収量の差が小さいことから、吸収した酸性ガス成分を脱離して吸収剤を再生する段で多くのエネルギーを要する。
2)金属部位に腐食をもたらすことから、実用上は低濃度水溶液としての使用に限られる。
3)強いアンモニア性臭いがあり、取り扱いし難い。
4)二酸化炭素を吸収した水溶液から加熱して再生する時、環状カルバメート(carbamate)や尿素(urea)(二分子のアミンと二酸化炭素との縮合による)結合を形成する反応が進み、吸収力の劣化があり繰返し使用に難点がある。
5)広く研究されて来て、特許上の制約がある。
【0005】
酸性ガスの吸収剤については、吸収速度を増大するために吸収促進剤を加える事が検討され、メチルジエタノールアミン水溶液にピペラジンを併用する方法〔特許文献1参照〕、メチルジエタノールアミン水溶液にイミダゾール、或いはイミダゾール誘導体を併用する方法〔特許文献2参照〕、三級アルカノールアミン水溶液にエチレンアミン類を併用する方法〔特許文献3参照〕、メチルジエタノールアミンに低級アルキルピペラジンを含有させる方法〔特許文献4参照〕などがある。また、1−アミノ−2−ブタノール、ビス(1−ヒドロキシブチル)アミン、N−メチル−2−ヒドロキシブチルアミン、N−エチル−2−ヒドロキシブチルアミンのブチルアミン類を用いる吸収剤の提案〔特許文献5参照〕もある。
【0006】
【特許文献1】米国特許第4336233号公報
【特許文献2】米国特許第4775519号公報
【特許文献3】米国特許第4814104号公報
【特許文献4】特開平06−198120号公報
【特許文献5】特表2002−525195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記問題点を解決するために本発明の目的は、従来の吸収剤より酸性ガスの吸収量が多く、かつ脱離が容易で再生するに優れ、腐食性が低く、経済的に優れた新規の吸収剤、及び混合ガスからの酸性ガス分離方法を提供するにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
かかる目的を達成するため、本発明は酸性ガス吸収剤であり、グリシン酸ナトリウムを含む水溶液、好ましくは10〜60重量%のグリシン酸ナトリウム水溶液である。
また、本発明は酸性ガス分離方法であり、グリシン酸ナトリウムを含む水溶液、好ましくは10〜60重量%のグリシン酸ナトリウム水溶液を吸収剤として用い、混合ガスと接触させて酸性ガスを吸収分離することにある。
【発明の効果】
【0009】
本発明のグリシン酸ナトリウム水溶液は、従来のモノエタノールアミン水溶液に比べて酸性ガスの吸収量が大きく、酸性ガスを吸収した状態から酸性ガスを脱離する再生が容易であり、酸性ガス吸収剤として効率がよい。さらに吸収剤による金属部位の腐食が少なく抑えられる利点もある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は酸性ガス吸収剤、および混合ガスからの酸性ガス分離方法であり、その吸収剤はグリシン酸ナトリウム(Sodium Glycinate;HNCHCONa)の水溶液である。また、酸性ガス分離方法は、グリシン酸ナトリウムの水溶液を吸収剤として用いることにある。グリシン酸ナトリウムの濃度は、水に対する溶解度を考慮して処理される混合ガス中の二酸化炭素など酸性成分濃度により適宜選択し使用されるが、好ましくは10〜60重量%である。
【0011】
酸性ガスの代表例として二酸化炭素を例にとり、従来のモノエタノールアミン水溶液と本発明のグリシン酸ナトリウム水溶液による吸収を比較しつつ本発明を説明する。二酸化炭素のモノエタノールアミン水溶液、あるいはグリシン酸ナトリウム水溶液への吸収量を比較すると、実施例に示したように同じ濃度ではグリシン酸ナトリウム水溶液の方が大きい。一方、同じ水溶液で75℃と50℃の吸収量の差を比較すると、グリシン酸ナトリウム水溶液の方が大きい。すなわち、二酸化炭素の吸収量が大きく、しかも温度差による吸収量の差が大きいことは、二酸化炭素が吸収された後、温度を上げて二酸化炭素を脱着させ吸収剤として再生するに有利である。しかも、同じ濃度の水溶液におけるアルカリ度を比べると、グリシン酸ナトリウム水溶液の方が低く、このことは金属部位に対して腐食が小さいことを意味している。
【0012】
二酸化炭素とモノエタノールアミンとの反応を反応式1に示した。モノエタノールアミンを吸収剤としたとき、二酸化炭素の吸収で生成する炭酸塩がアミド結合を有するN−(ヒドロキシエチル)カルバミン酸となり、再生時の加熱により分子内のヒドロキシ基がカルボニル基を攻撃して分子内環化し安定な環?カルバメートを形成する。N−ヒドロキシエチルカルバミン酸は、加水分解でエタノールアミンに戻り得るが、環状カルバメートになると容易に戻り得ない。しかも環状カルバメートは、二酸化炭素の吸収能がないため吸収剤としては二酸化炭素吸収力の減少となる。二酸化炭素吸収力の減少を回復するには、環状カルバメートをエタノールアミンに戻さなくてはならず、苛性ソーダを加えて加水分解させることが必要である。
【0013】
【化1】

【0014】
一方、本発明に使用するグリシン酸ナトリウムでは、二酸化炭素との反応を考察すると反応式2のようになる。すなわち、グリシン酸ナトリウムはモノエタノールアミンにおけるヒドロキシ基の代わりに親核性の小さいカルボキシ基であるために環化しても酸無水物であるため容易に加水分解してグリシン酸(あるいは、グリシン酸ナトリウム)に戻り得る。
【0015】
【化2】

【0016】
上記の反応で考察したように、グリシン酸ナトリウムの方が再生時に吸収能力の劣化が少なく、工業的に再生を繰り返しても長期にわたり安定に使用でき、加えてグリシン酸ナトリウムは工業的な生産が可能であり、比較的安価に入手できることも都合がよい。
【実施例1】
【0017】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。以下の実施例は本発明を説明するためのものであり、以下の実施例で本発明を限定するものではない。
〔アルカリ度の比較〕
アルカリ度は、アルカリ性またはアルカリとは異なってある水系に酸が流入される時、これを中和させる能力の尺度として表示され、水酸化イオン(OH)、重炭酸イオン(HCO)、炭酸イオン(CO2−)等がアルカリ度を高めるものである。アルカリ度の測定は日本では、JIS K0400−15−10、K0400−15−20に記載されている。
モノエタノールアミン(MEA)とグリシン酸ナトリウム(SG)それぞれについて、10〜50重量%水溶液の20℃、40℃、60℃でのアルカリ度を表1に示した。これからわかるように、温度によりアルカリ度の変化は大きくない。濃度によるアルカリ度の変化をみると、モノエタノールアミンはグリシン酸ナトリウムよりアルカリ度が高くなることがわかる。従って、同一濃度で用いられる場合、グリシン酸ナトリウムのアルカリ度が低くて腐食性が小さくなる。
【0018】
【表1】

【実施例2】
【0019】
〔二酸化炭素の単位吸収量の比較〕
図1は、二酸化炭素の平衡吸収量を測定する方法を説明する概略図である。製油所や火力発電所等から排出された二酸化炭素、硫化水素などを含む混合ガスは、ガス入口(1)から圧力調節器(2)を通ってガス貯蔵槽(3)に導入され、水蒸気で飽和された後、空気恒温槽(10)内に設けられている管型の吸収槽(4)に導入される。一方、液体状の吸収剤は吸収剤入口(7)から流入され、ポンプ(8)により加圧されて吸収槽(4)に導入される。吸収槽(4)において、混合ガスと吸収剤が互いに接触され、混合ガス中の二酸化炭素など酸性ガスが吸収剤中に捕集される。吸収剤は吸収剤出口(9)を通して回収され、酸性ガスが除去された浄化混合ガスはガス流量測定器(5)を経由しガス出口(6)から外部に排出される。
【0020】
図2は、実験装置の概略図である。該測定装置は恒温室(23)〔ジェイオテック社、「OF−22」(型番)〕内に、二酸化炭素を注入するための貯蔵槽(21)と二酸化炭素と吸収剤を接触させる吸収槽(22)を設けている。吸収剤は、ポンプ〔ラボアライアンス社、「Series−1」(型番)〕(24)で正確な量を注入するようにし、吸収槽(22)中には攪拌翼(26)で二酸化炭素と吸収剤を円滑に接触させた。
吸収槽(22)には、ガス相と液体相の両方に温度計を、さらにガス相に圧力計を設けた。圧力計と温度計は記録計〔横河電機(株)、「ハイブリットレコーダー:DR−230」(型番)〕(27)に連結し、コンピューター(28)と結んでデータ・ファイルとして数値を記憶できるようにした。
【0021】
実験方法は、まず一定量の二酸化炭素をガス流入バルブ(31)を経て貯蔵槽(21)に充填し、吸収槽(22)には窒素ガスを流してガスクロマトグラフィー(29)で二酸化炭素が検出されなくなる迄充分パージした。次いで恒温室(23)の温度を所定温度にし、ポンプ(24)にて吸収剤を約100g注入し圧力を平衡にさせた。この圧力が窒素と吸収剤の基本圧力となる。貯蔵槽(21)から吸収槽(22)に通じるバルブ(30)を開き、二酸化炭素を吸収槽(22)に移送させる。吸収槽(22)の圧力が一定になったとき吸収が終了されたと判断する。この時の吸収槽(22)と貯蔵槽(21)の圧力変化を測定し、二酸化炭素の分圧を計算して溶解度を求めた。
【0022】
モノエタノールアミン20wt%水溶液とグリシン酸ナトリウム20wt%水溶液を吸収剤として、50℃、75℃のそれぞれについて二酸化炭素の単位吸収量を求めた結果を表2に示した。
【表2】

【0023】
この結果から、グリシン酸ナトリウムが低温(50℃)ではモノエタノールアミンより単位吸収量が多く、高温(75℃)と低温(50℃)での吸収量の差が大きいことが認められた。グリシン酸ナトリウムが、モノエタノールアミンより吸収能の点で、かつ再生する上でも有利であることを意味している。
【産業上の利用可能性】
【0024】
混合ガスから酸性ガスの吸収が効率よく実施でき、環境浄化に寄与し、さらに浄化に伴う経費節減に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】二酸化炭素の平衡吸収量を測定する方法を説明する概略図である。
【図2】二酸化炭素の平衡吸収量を測定する実験装置の概略図である。
【符号の説明】
【0026】
1:ガス入口
2:圧力調節器
3:ガス貯蔵槽
4:吸収槽
5:ガス流量測定器
6:ガス出口
7:吸収剤入口
8:ポンプ
9:吸収剤出口
21:貯蔵槽
22:吸収槽
23:恒温室
24:ポンプ
25:吸収剤
26:攪拌翼
27:記録計
28:コンピューター
29:ガスクロマトグラフィー
30:バルブ
31:流入バルブ
32:モーター
33:凝縮器
34:排出口
35:排出バルブ
36:排出バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリシン酸ナトリウムを含む水溶液でなることを特徴とする酸性ガス吸収剤。
【請求項2】
前記グリシン酸ナトリウムを含む水溶液が、10〜60重量%の水溶液であることを特徴とする請求項1記載の酸性ガス吸収剤。
【請求項3】
グリシン酸ナトリウムを含む水溶液を吸収剤として、混合ガスと接触させて前記混合ガス中の酸性ガスを吸収させることを特徴とする混合ガスからの酸性ガス分離方法。
【請求項4】
前記グリシン酸ナトリウムを含む水溶液が、10〜60重量%の水溶液であることを特徴とする請求項3記載の混合ガスからの酸性ガス分離方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−326570(P2006−326570A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−333399(P2005−333399)
【出願日】平成17年11月17日(2005.11.17)
【出願人】(595069594)韓国電力公社 (10)
【氏名又は名称原語表記】KOREA ELECTRIC POWER CORPORATION
【Fターム(参考)】