説明

酸性塩化浴での銅電解方法

【課題】銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液から平滑性に優れた電着物を得ることができる安全性と経済性に優れた銅電解方法を提供する。
【解決手段】銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液から平滑性に優れた電着物を得る銅電解方法であって、前記電解液をカソードとアノードを備えた電解槽へ給液し、電解槽への通電を断続通電とするとともに、1周期での通電時間と停電時間の合計時間で通電時間を除して求めた有効通電率が50〜90%であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性塩化浴での銅電解方法に関し、さらに詳しくは、銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液から平滑性に優れた電着物を得ることができる安全性と経済性に優れた銅電解方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、銅電解方法は、鉱石から熔錬などの乾式銅製錬法により得られた粗銅を精製する際に、不純物元素を分離して高純な銅を得る方法として用いられてきた。また、最近では、乾式銅製錬法によるエネルギーや環境面への配慮から湿式法による製錬も試みられている。ここで、湿式製錬法では、鉱石から硫酸や塩酸を用いて銅分を浸出し、浸出液から電解採取法によって銅を回収している。
【0003】
このような湿式製錬法の浸出液としては、通常硫酸をベースとする硫酸浴と、塩酸や塩化物をベースとする塩化浴が用いられている。ここで、硫酸浴で浸出した場合、浸出液中の銅イオンは2価の形態である。一方、塩化浴の場合は、浸出液中の銅イオンは、1価と2価の両方の形態をとることができる。ところで、電解においては、1価銅イオンは、2価銅イオンの場合の半分の電力で金属化することができることから、省エネルギー効果は著しく大きい。しかしながら、その反面、硫酸浴での電解析出の場合は、適量の添加剤の使用により平滑な電着面を有する電着物が得られるのに対し、塩化浴からの電解析出は、針状や粒状の電着物となり、特に生産性を上げるため高電流密度での電解を行なう際には、平滑な電着面を有する電着物は得られないという問題点があることが知られている。
【0004】
このため、デントライト上の電着物を製造する方法(例えば、特許文献1参照。)が開示されているが、このような針状や粒状の電着物の電解析出は、電解中にショートを生じやすく電力ロスをもたらし、また検槽作業の手間を増すことになる。また、このような電着物はカソードから落下して槽底に沈積するため、槽底からの回収設備が必要となり、また取り扱い時に手に刺さる可能性があることなど、安全管理上も問題となる。さらに、現在、電気銅は、市場ではカソードの形状で取引されることが一般的であるので、針状や粒状の電気銅では、ケースに収納する、又は再熔解する等の手間が必要となり、コスト上も有利とはいえなくなる。
【0005】
一般的に、平滑な電着面を有する電着物を得るためには、電解液中に添加剤を使用することがおこなわれるが、電解採取法、特に塩化浴の電解液の場合には、有機物添加剤はアノードから発生する塩素ガスなどによる酸性雰囲気下で速やかに分解されるため、有機物添加剤の使用は効果的でないとされてきた。しかも、分解された有機物と塩素ガスの反応により有害物が生成する可能性も完全には否定できず、また分解された有機物が不溶性電極の表面を覆うことによる特性の低下などの懸念もある。ところで、一般的に硫酸浴で用いられるニカワなどの添加剤は、数mg/Lレベルの微量で効果があるものの、その過不足に敏感であり、その管理は難しかった。しかも、添加剤以外にも電着状態に及ぼす要因は多くあるので、添加剤の使用には、分析等による有効性の確認と管理に多くの課題が残されていた。
【0006】
例えば、ハロゲン系銅電解液からの銅電解採取工程において、ハロゲン系電解液に平滑化添加剤としてポリエチレングリコールを添加し、かつカソード面近傍のハロゲン系電解液をガス又は機械攪拌しながら電解することにより、緻密な板状の電気銅を製造する方法(例えば、特許文献2参照。)においては、ポリエチレングリコールの使用や攪拌の強化により塩化浴からでも板状の銅を製造することができることが開示されている。しかしながら、ポリエチレングリコールは分子量が安定な反面、それがかえって災いして、過剰に入った時には現状に復旧し難いなど、液状態の制御が困難となる短所もあるため、硫酸浴での銅電解では工業的には使用されていないものである。また、この方法では、電極近傍の電解液を1m/秒もの大流量で攪拌しているが、工業的な電解槽の構造と槽内の電極数などを考慮すると、そのような大流量に要する動力コストが無視できなくなり、1価電解による電力コスト削減の効果が減少するなどの課題があった。
【0007】
以上のような状況から、塩化浴から平滑な電着面を有する電着物を得ることは、未だに実用化されておらず、銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液から平滑性に優れた電着物を安全性と経済性に優れた方法で製造することが求められていた。
【0008】
【特許文献1】特開2005−105351号公報(第1頁、第2頁)
【特許文献2】特開2006−97128号公報(第1頁、第2頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上記の従来技術の問題点に鑑み、銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液から平滑性に優れた電着物を得ることができる安全性と経済性に優れた銅電解方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成するために、銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液からの銅電解方法について、鋭意研究を重ねた結果、電解槽への通電を特定の有効通電率に制御した断続通電としたところ、銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液から平滑性に優れた電着物を安全上の問題もなく、低コストで製造することができることを見出し、本発明を完成した。なお、前記断続通電とは、定期的に停電しながら、通電と停電を各所定時間毎に周期的に行なうもので、これにより所謂パルス電解が行なわれる。
【0011】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液から平滑性に優れた電着物を得る銅電解方法であって、
前記電解液をカソードとアノードを備えた電解槽へ給液し、電解槽への通電を断続通電とするとともに、1周期での通電時間と停電時間の合計時間で通電時間を除して求めた有効通電率が50〜90%であることを特徴とする銅電解方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記断続通電に用いる停電時間は30秒〜1分であることを特徴とする銅電解方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は2の発明において、前記電解液は、銅濃度が40g/L以上、溶解限度以下である酸性塩化銅水溶液(A)であることを特徴とする銅電解方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第4の発明によれば、第1又は2の発明において、前記電解液は、前記電解液は、銅濃度が40g/L以上、溶解限度以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)が4万以下であるニカワ又はゼラチンを0.1〜1g/Lの濃度で含有する酸性塩化銅水溶液(B)であることを特徴とする銅電解方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第5の発明によれば、第1〜4いずれかの発明において、前記電解槽は、カソードとアノードを濾布製の隔膜で仕切ったカソード室とアノード室から構成されることを特徴とする銅電解方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第6の発明によれば、第5の発明において、前記アノード室への給液は、酸性塩化銅水溶液(A)であり、一方カソード室への給液は、酸性塩化銅水溶液(B)であることを特徴とする銅電解方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第7の発明によれば、第1〜6いずれかの発明において、前記カソードの材質は、銅であり、かつその表面粗さは、5点標準粗さ(Rz)で表した値で5〜20μmであることを特徴とする銅電解方法が提供される。
【0018】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7いずれかの発明において、前記カソードの幅は、アノードの幅に対して10〜30%の割合で増加させることを特徴とする銅電解方法が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明の酸性塩化浴での銅電解方法は、電解槽への通電を特定の有効通電率に制御した断続通電とすることにより、銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液から平滑性に優れた電着物を得ることができる安全性と経済性に優れた銅電解方法であるので、その工業的価値は極めて大きい。また、上記断続通電とともに、添加剤として特定の重量平均分子量であるニカワ又はゼラチンの特定量を添加することを併用すれば、さらに有利である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の酸性塩化浴での銅電解方法を詳細に説明する。
本発明の酸性塩化浴での銅電解方法は、銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液から平滑性に優れた電着物を得る銅電解方法であって、前記電解液をカソードとアノードを備えた電解槽へ給液し、電解槽への通電を断続通電とするとともに、1周期での通電時間と停電時間の合計時間で通電時間を除して求めた有効通電率が50〜90%であることを特徴とする。
【0021】
本発明において、銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液からの銅電解方法において、電解槽への通電を特定の有効通電率に制御した断続通電とすることが重要である。これによって、銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液から平滑性に優れた電着物を安全性と経済性に優れた方法で製造することができる。すなわち、通電を一般的に行われる連続通電ではなく、定期的に停電しながら行うパルス電解とすることで、通電によって生じた電着の突起部分を停電時に溶解することを繰り返すことにより、電析の成長速度を均一化し、全体として平滑な電着面を得ることができる。
【0022】
上記銅電解方法に用いる断続通電での有効通電率としては、50〜90%であり、60〜90%であることが好ましい。すなわち、有効通電率が小さい程、電着物の結晶粒が小さくなり、電着面の平滑性が向上し、さらにカソード周辺部の針状結晶の発生も抑えられるので望ましいが、有効通電率が50%未満では、電解槽の半分以上が休止しているのと同じであり、これでは電力は2倍以上かかるものの、平滑な電着の得られる一般的な硫酸浴による電着に比べて生産性での優位性がなくなってしまう。また有効通電率の60%と50%では平滑性にほとんど差が見られなかった。一方、有効通電率が高い方が生産性からは好ましいが、実際には90%を超えると、カソード周辺部に針状結晶の発生が見られ、中央部も粒による凹凸が目立つようになる。
【0023】
上記断続通電に用いる停電時間としては、特に限定されるものではないが、30秒〜1分であることが好ましい。すなわち、停電時間が30秒未満では、電極表面での液流れの解消などの初期化が充分に終了できず、平滑化の効果が不十分である。一方、停電時間が1分を超えても平滑化への効果がなく無駄な停電となるなど生産性が低下してしまう。
【0024】
上記銅電解方法に用いる電解液としては、特に限定されるものではないが、銅濃度が好ましくは40g/L以上、溶解限度以下の範囲であり、より好ましくは60g/L以上、溶解限度以下の範囲である塩酸を含有する酸性塩化銅水溶液(A)が用いられる。すなわち、銅濃度が40g/L未満では、平滑な電着面を得ることが困難であり、一方、銅濃度が溶解限度を超えると、電解液中に析出物が発生したりカソード表面で塩として析出し電解できなくなる。なお、銅濃度と平滑性の関係については、下記のハルセル試験においても説明する。
【0025】
上記銅電解方法に用いる電解液としては、酸性塩化銅水溶液(A)中に、さらに、平滑剤を添加した酸性塩化銅水溶液、例えば重量平均分子量(Mw)が4万以下であるニカワ又はゼラチンを0.1〜1g/Lの濃度で含有する酸性塩化銅水溶液(B)を用いることができる。これによって、前記平滑剤、例えばニカワ又はゼラチンの平滑効果により、酸性塩化銅水溶液(A)を用いた場合に比べて平滑性が向上する。すなわち、上記断続通電とともに、添加剤としてこのようなニカワ又はゼラチンの特定量を添加することを併用すれば、さらに平滑性が向上する。
【0026】
ここで、上記平滑剤の効果について、ハルセル試験を用いて説明する。
前述のように、塩化浴での添加剤の使用には、分析等による有効性の確認と管理に多くの課題が残されており、その液管理は硫酸浴の場合に比べて著しく困難とされ、適切な手法がなかった。ところで、硫酸浴での電解精製では、電着状態を管理する方法のひとつとしてハルセル試験を用いた方法、例えば、特許第3148115号が開示されており、それによると電着銅の表面状態とハルセル表面粗さには良い相関が見られることが示されている。これを応用し、ハルセル試験を用いて、カソード上の表面状態の粗さを測定し、幅広い電流密度範囲で表面粗さがもっとも小さくなる電解条件を見出すことにより、それが平滑な電着面を得るために適した条件であると考え、それに基づいて、平滑な電着面を得るために必要な電解要因を検討した。
【0027】
その結果、平滑剤を適切な濃度で含有させれば、例えば、重量平均分子量(Mw)が4万以下であるニカワ又はゼラチンを0.1〜1g/Lの濃度で含有するように電解液に添加することにより、塩化浴中でも、平滑剤としての効果が発揮できることを見出した。以下に、その詳細を次の[塩化浴の電解液でのハルセル試験]で説明する。
【0028】
[塩化浴の電解液でのハルセル試験]
試験液として、試薬1級の塩化第1銅を用いて銅濃度が20〜60g/Lに、塩化ナトリウムにより塩化物濃度が100g/Lに、さらにpHが1になるように塩酸で調整した塩酸酸性塩化銅水溶液を用いた。これに、試験条件に応じて、所定の濃度にニカワ等の添加剤を溶解しよく攪拌してからハルセル槽(電解槽)に入れた。ハルセル槽としては、市販の267mL容量の槽を使用した。アノードには、厚さ0.6mmの銅板を65×65mmの大きさに切断したものを使用した。カソードには、市販のハルセル試験用の銅板を使用した。
試験では、液温を60℃に維持しながら、2Aの電流で1時間通電した。通電中は攪拌を行わなかった。通電後カソードを引き揚げ、表面を純水とエチルアルコールで洗浄し、カソード上の電流密度が20〜800A/mに相当する位置の表面粗さを、触針式表面粗さ計(最大測定粗さ30μm)で測定し、ハルセル粗さと電流密度の関係を求めた。
【0029】
図1は、工業用ニカワが無添加とニカワ濃度1g/Lの電解液を用いた場合のカソードの表面粗さと電流密度の関係を示す。ここで、銅濃度は、20、40、60g/Lとし、参考のために硫酸浴の結果も示した。なお、工業用ニカワは、硫酸浴の銅電解精製で通常使用するものである。また、図1より、ニカワが無添加では、銅濃度が20g/Lでは、表面粗さを測れないほどの粗い電着状態となった。これに対して、銅濃度が40〜60g/Lでは、工業的な操業で使われる電流密度がおおむね100〜400A/m付近での表面粗さが低下し、銅濃度の上昇が平滑な電着を得るために不可欠であること分かる。また、ニカワ1g/Lを添加した場合では、表面粗さが顕著に低下し、硫酸浴での表面粗さと同程度の平滑さが得られた。特に、銅濃度を60g/Lと高くすると、400A/mを超える高電流密度側でも平滑性が保たれ、硫酸浴の場合とまったく同等の外観が得られた。なお、60g/Lを超える銅濃度では、さらなる平滑性の向上も期待できるが、上限は、銅の溶解度や槽電圧の上昇を考慮して選ばれる。
【0030】
図2は、工業用ニカワが無添加とニカワ濃度1、0.1、0.01g/Lの電解液を用いた場合のカソードの表面粗さと電流密度の関係を示す。なお、銅濃度は60g/Lとし、参考のために硫酸浴の結果も示した。図2より、ニカワ濃度0.1〜1g/Lでは、平滑性は低下しないが、0.01g/Lでは、高電流密度から中電流密度領域での平滑性が低下することが分かる。なお、硫酸浴の場合での適切なニカワ濃度は、0.001〜0.002g/Lと推定されているので、塩化浴で効果を得るためには、かなり高濃度での使用が不可欠であることが分かる。
【0031】
図3は、工業用ニカワが無添加と濃度1g/Lでゼラチン、ニカワ、粗ニカワを含む電解液を用いた場合のカソードの表面粗さと電流密度の関係を示す。なお、銅濃度は40g/Lとし、参考のために硫酸浴の結果も示した。ここで、表1に、用いたニカワとゼラチンの重量平均分子量(Mw)を示す。なお、ニカワでは精製の度合いに応じた分子量があるが、その影響を評価したものである。ここで、ニカワの用語として、硫酸浴の銅電解精製で使用する粉状ニカワを工業用ニカワと称し、粒状の粗ニカワと区別して用いている。
図3より、重量平均分子量(Mw)が4万以下であるゼラチンでは、工業用ニカワのよりも高電流密度での平滑性が向上するが、通常の操業に用いられる電流密度の範囲では差が小さい。一方、重量平均分子量(Mw)がこれらより大きな粗ニカワでは、高電流密度側での平滑効果が低下することが分かる。また、重量平均分子量が概ね4万以下のニカワであれば高電流密度側でも平滑な電着が得られる。
【0032】
【表1】

【0033】
上記銅電解方法に用いる電解槽としては、特に限定されるものではないが、カソードとアノードを濾布製の隔膜で仕切ったカソード室とアノード室から構成される隔膜電解槽を用いることができる。
この際、アノード室への給液としては、酸性塩化銅水溶液(A)であり、一方カソード室への給液は、酸性塩化銅水溶液(B)であることが好ましい。すなわち、アノード室は酸化性が強いので、酸性塩化銅水溶液(B)を供給すると、液中のニカワ、ゼラチン等の有機物が酸化分解されてロスとなるのみならず、有害成分の生成の危険性もあるからである。
【0034】
上記銅電解方法に用いるカソードの材質としては、特に限定されるものではないが、銅が好ましい。すなわち、繰り返し利用することができるチタンからなるカソードの場合には、銅カソードに比べて均一な電着が得られにくい。ただし、チタンカソード上に、銅濃度40〜60g/L及び硫酸150〜200g/Lの液組成からなる硫酸浴を使用して、電流密度250A/mで1時間程度通電して銅メッキをつけたものは、塩化浴の電解採取に用いた際に、電着ムラの発生は防止できることを確認した。
【0035】
ここで、銅カソードの表面粗さとしては、特に限定されるものではないが、5点標準粗さ(Rz)で表した値で5〜20μmであることが好ましい。すなわち、表面粗さがこの範囲内では、電着物の平滑性が向上し、初期カソードの表面状態の影響も少ない。
【0036】
上記カソードの幅としては、特に限定されるものではないが、電解槽に用いるアノードの幅に対して10〜30%の割合で増加させることが好ましい。これによって、カソード端部に発生しやすい針状結晶の防止がさらに行なえる。すなわち、カソードの幅がアノードの幅に対して10%未満では、カソード端部での針状結晶の防止効果が小さい。一方、カソードの幅がアノードの幅に対して30%を超えると、針状結晶の発生は防止できるが、端部での電着が不足し、電着物が薄くなりすぎる。
【実施例】
【0037】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で用いた金属の分析は、ICP発光分析法で行い、ニカワ又はゼラチンの濃度は添加物量から求めた。
また、実施例及び比較例で用いた電解槽は、次の通りである。
【0038】
[電解槽]
形状は、長さ60mm、横幅90mm、及び深さ160mmの箱型とし、塩化ビニールで製作した。ここで、電解槽の長さ方向のアノード側で20mm、カソード側で40mmとなる位置で、電解槽にテトロン製濾布による仕切りを設けた。また、排液口を、電解槽上部から15mmとなる位置に取り付けた。また、アノードには、ペルメレック電極(株)製の塩素発生型不溶性アノードを、電極面積が65×120mmとなるように、テープでマスキングしたものを使用した。また、カソードには、厚さ0.7mmの銅種板を、電極面積がアノードと同じようになるようにマスキングしたもの使用した。それらを、極間の距離が60mmとなるように電解槽に装入し固定した。両電極の裏面はいずれも全面をマスキングした。
【0039】
(実施例1〜3、比較例1)
上記電解槽を用いて、パルス電解(実施例1〜3)と連続電解(比較例1)を行ない、得られた電着状態を比較した。
ここで、カソードに給液する電解液としては、試薬1級の塩化第1銅と塩化ナトリウムを、銅濃度が60g/L、及び塩化物濃度が100g/Lになるように純水に溶解し、pHが1になるように塩酸で調整したものを用いた。なお、添加剤は添加しなかった。また、電解液の給液温度は60℃とした。
通電は、電流密度が300A/mとなる電流2.34Aで行なった。この間、パルス電解(実施例1〜3)では、通電と停電を一定の周期で繰り返す断続(パルス)通電をしながら、通常の連続通電で12時間通電した場合に相当する28AHの電流量に達する時間まで電解を行なった。ここで、断続通電のパターンとしては、通電150秒/周期及び停電30秒/周期からなる有効通電率83%(実施例1)、通電45秒/周期及び停電30秒/周期からなる有効通電率60%(実施例2)、及び通電30秒/周期及び停電30秒/周期からなる有効通電率50%(実施例3)を用いた。なお、有効通電率は、通電時間/(通電+停電時間)×100%で算出される。また、このときのそれぞれの通電時間は、15、20、及び24時間であった。また、連続電解(比較例1)では、有効通電率は100%であり、12時間の通電とした。
【0040】
電解終了後、得られたカソードの電着物の表面状態を観察したところ、外観上、パルス電解(実施例1〜3)では、連続電解(比較例1)に対し、カソード外周部での針状電着の発生が抑制され、かつ中心部の平滑性も向上することが分かった。結果の一例を、図4(比較例1)、図5(実施例1)又図6(実施例2)に示す。図4、5、6は、得られたカソードの電着物の表面状態を表す写真である。図5、6より、図4と比べて、断続通電することにより、カソード外周部での針状電着の発生が明らかに抑制され、中心部の平滑性も向上することが分かる。なお、図4では、カソード周辺部には多数の針状電着が発生し、中央部も粒による凹凸が目立つ。
【0041】
また、電着物を顕微鏡で観察し、電着結晶の大きさを読み取り、結晶粒の大きさに換算した結果を図7に示す。図7は、有効通電率と結晶粒の大きさ(mm)の関係を表す。図7より、有効通電率が減少するほど、結晶粒が小さい、すなわち平滑化されていることが分かる。
【0042】
(実施例4)
工業用ニカワ(重量平均分子量(Mw):36053)を1g/Lの濃度で添加した電解液を用いたこと以外は実施例3と同様に行い、電解終了後、得られたカソードの電着物の表面状態を観察したところ、外観上、ニカワを添加した電解液のパルス電解では、連続電解に対し、カソード外周部での針状電着の発生が抑制され、かつ中心部の平滑性も向上することが分かった。結果を図8に示す。図8は、得られたカソードの電着物の表面状態を表す写真である。図8より、図4(比較例1)と比べて、断続通電とニカワの添加により、カソード外周部での針状電着の発生が明らかに抑制され、さらに中心部の平滑性も向上することが分かる。
【0043】
(実施例5)
カソードの寸法をアノードよりも10%増加し、幅75mm×長さ90mmとしたものを用いたこと、及び電解液の塩化物濃度を200g/Lに調整したこと以外は実施例1と同様に行い、電解終了後、得られたカソードの電着物の表面状態を観察したところ、断続通電とカソード面積の拡大により、カソード外周部での針状電着の発生が抑制されることが分かった。結果を、図9に示す。図9は、得られたカソードの電着物の表面状態を表す写真である。図9より、断続通電とカソード面積の拡大により、カソード外周部での針状電着の発生が抑制されることが分かる。
【0044】
(実施例6)
カソードの寸法をアノードよりも10%増加し、幅75mm×長さ90mmとしたものを用いたこと、電解液の塩化物濃度を200g/Lに調整したこと、及び添加剤としてゼラチン(重量平均分子量(Mw):39166)を濃度1g/Lで添加した電解液を用いたこと以外は実施例1と同様に行い、電解終了後、得られたカソードの電着物の表面状態を観察したところ、断続通電、ゼラチLンの添加、及びカソード面積の拡大により、カソード外周部での針状電着の発生が抑制され、かつ中心部の平滑性も向上することが分かった。結果を、図10に示す。図10は、得られたカソードの電着物の表面状態を表す写真である。図10より、断続通電、ゼラチンの添加、及びカソード面積の拡大により、カソード外周部での針状電着の発生が抑制され、さらに中心部の平滑性も向上することが分かる。
【0045】
以上より明らかなように、実施例1〜6では、所定の有効通電率で断続通電したので、連続通電(比較例1)と比べて、平滑性に優れた電着物を得ることができることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上より明らかなように、本発明の酸性塩化浴での銅電解方法は、特に湿式銅製錬分野で利用される銅の電解採取法において、平滑性に優れたカソードを効率よくかつ安全に製造する方法として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】工業用ニカワが無添加とニカワ濃度1g/Lの電解液を用いた場合のカソードの表面粗さと電流密度の関係を示す図である。
【図2】工業用ニカワが無添加とニカワ濃度1、0.1、0.01g/Lの電解液を用いた場合のカソードの表面粗さと電流密度の関係を示す図である。
【図3】工業用ニカワが無添加と濃度1g/Lでゼラチン、ニカワ、粗ニカワを含む電解液を用いた場合のカソードの表面粗さと電流密度の関係を示す図である。
【図4】電解で得られたカソードの電着物の表面状態を表す写真である。(比較例1)
【図5】電解で得られたカソードの電着物の表面状態を表す写真である。(実施例1)
【図6】電解で得られたカソードの電着物の表面状態を表す写真である。(実施例2)
【図7】有効通電率と結晶粒の大きさ(mm)の関係を表す図である。
【図8】電解で得られたカソードの電着物の表面状態を表す写真である。(実施例4)
【図9】電解で得られたカソードの電着物の表面状態を表す写真である。(実施例5)
【図10】電解で得られたカソードの電着物の表面状態を表す写真である。(実施例6)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅を含有する酸性塩化浴からなる電解液から平滑性に優れた電着物を得る銅電解方法であって、
前記電解液をカソードとアノードを備えた電解槽へ給液し、電解槽への通電を断続通電とするとともに、1周期での通電時間と停電時間の合計時間で通電時間を除して求めた有効通電率が50〜90%であることを特徴とする銅電解方法。
【請求項2】
前記断続通電に用いる停電時間は30秒〜1分であることを特徴とする請求項1に記載の銅電解方法。
【請求項3】
前記電解液は、銅濃度が40g/L以上、溶解限度以下である酸性塩化銅水溶液(A)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅電解方法。
【請求項4】
前記電解液は、銅濃度が40g/L以上、溶解限度以下であり、かつ重量平均分子量(Mw)が4万以下であるニカワ又はゼラチンを0.1〜1g/Lの濃度で含有する酸性塩化銅水溶液(B)であることを特徴とする請求項1又は2に記載の銅電解方法。
【請求項5】
前記電解槽は、濾布製の隔膜で仕切ったカソード室とアノード室から構成されることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の銅電解方法。
【請求項6】
前記アノード室への給液は、酸性塩化銅水溶液(A)であり、一方カソード室への給液は、酸性塩化銅水溶液(B)であることを特徴とする請求項5に記載の銅電解方法。
【請求項7】
前記カソードの材質は、銅であり、かつその表面粗さは、5点標準粗さ(Rz)で表した値で5〜20μmであることを特徴とする請求項1〜6に記載の銅電解方法。
【請求項8】
前記カソードの幅は、アノードの幅に対して10〜30%の割合で増加させることを特徴とする請求項1〜7に記載の銅電解方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−308744(P2008−308744A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158943(P2007−158943)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】