説明

酸性水中油型乳化組成物

【課題】低温耐性を有する、ジアシルグリセロールを高濃度で含有する酸性水中油型乳化物の提供。
【解決手段】次の(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)ジアシルグリセロール含量が20質量%以上であり、かつジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の80質量%以上が不飽和脂肪酸である油脂
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル
(C)酵素処理卵黄油
(D)卵黄
を含有する酸性水中油型乳化組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性水中油型乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マヨネーズ類、ドレッシング類等の酸性水中油型乳化組成物は、通常、卵黄を乳化剤として使用し、卵黄を含有する水相を調製した後これに油相を添加し乳化させることにより製造されている。そして近年、ジアシルグリセロールが肥満防止作用、体重増加抑制作用等を有することが明らかにされるに至り(特許文献1〜3)、これを各種食品に配合する試みがなされている。
ジアシルグリセロールを高濃度に含むグリセリド混合物を油相に用いれば、脂肪量を低減した場合においても豊かな脂肪感を有し、風味が良好な食用水中油型乳化組成物が得られることが報告されている(特許文献4)。また、酸性水中油型乳化組成物中の全リン脂質に対しその15%(リン量基準)以上をリゾリン脂質とすることにより、安定的な水中油型乳化組成物が得られることが報告されている(特許文献5)。
【0003】
しかし、酸性水中油型乳化組成物の油相としてジアシルグリセロール高含有油を使用した場合、冷蔵庫内条件下(−5℃〜5℃)において乳化破壊を生じ、油水分離が発生する場合がある。原因としてジアシルグリセロールはトリアシルグリセロールよりも融点が高いため、冷蔵庫条件下ではジアシルグリセロールの一部が結晶化することによるものと考えられた。
そこで、冷蔵庫内条件下(−5℃〜5℃)での低温耐性を向上させるために、油脂の結晶抑制剤として用いられる乳化剤について検討し、特定範囲の乳化剤が結晶抑制剤として有効であることが報告されている(特許文献6)。
一方で、実用化を想定すると、冷蔵庫内条件下での低温耐性のみならず、寒冷地での冬季輸送を考慮した条件や、家庭用冷凍庫内条件についても耐性が求められる。すなわち、−5℃での低温耐性では不十分であり、たとえば−10℃や−15℃での耐性など、更なる低温耐性の向上が求められる。
酸性水中油型乳化組成物の低温耐性向上を図った技術として、例えば、ポリグリセリン脂肪酸エステルと特定組成の植物ステロール類を併用する方法(特許文献7)等が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第99/48378号パンフレット
【特許文献2】特開平4−300826号公報
【特許文献3】特開平10−176181号公報
【特許文献4】特開平3−8431号公報
【特許文献5】特開2001−138号公報
【特許文献6】特開2002−176952号公報
【特許文献7】特開2006−087314号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献に記載されている乳化剤では−15℃での耐性が不十分な場合があり、乳化破壊を生じ、油水が分離してしまう場合があった。
従って、本発明の課題は、寒冷地の輸送等を想定した低温耐性を有する、ジアシルグリセロールを高濃度で含有する酸性水中油型乳化物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が検討した結果、ジアシルグリセロール高含有油脂と卵黄を用いた酸性水中油型乳化組成物において、酵素処理卵黄油を添加することにより、−15℃においても、品質劣化を起こさない安定な酸性水中油型乳化組成物が得られることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)ジアシルグリセロール含量が20質量%以上であり、かつジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の80質量%以上が不飽和脂肪酸である油脂
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル
(C)酵素処理卵黄油
(D)卵黄
を含有する酸性水中油型乳化組成物を提供するものである。
また、本発明は、(A)ジアシルグリセロール含量が20質量%以上であり、かつジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の80質量%以上が不飽和脂肪酸である油脂、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル及び(C)酵素処理卵黄油を混合して油相を調製した後、(D)卵黄を含有する水相に添加混合する酸性水中油型乳化組成物の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明の酸性水中油型乳化組成物は、ジアシルグリセロールを高濃度に含有しながら、−15℃での低温耐性を有し、亀裂や離水等の外観変化のない安定した品質を有する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
マヨネーズ類、ドレッシング類等の酸性水中油型乳化組成物には、低温で保存された場合でも、結晶化、固化が起こらないように、一般には低融点油脂を使用することが好ましい。本発明において用いるジアシルグリセロールも、低融点であることが好ましい。具体的には、油脂を構成する脂肪酸残基の炭素数が8〜24、特に16〜20であることが好ましい。また、不飽和脂肪酸残基の量は、全構成脂肪酸残基の80質量%(以下、単に「%」と記載する)以上であるが、更に80〜100%、特に90〜100%、殊更93〜98%であるのが好ましい。
【0010】
ジアシルグリセロールは、植物油、動物油等とグリセリンとのエステル交換反応、又は上記油脂由来の脂肪酸組成物とグリセリンとのエステル化反応等任意の方法により得られる。反応方法は、アルカリ触媒等を用いた化学反応法、リパーゼ等の油脂加水分解酵素を用いた生化学反応法のいずれでもよい。
【0011】
本発明の酸性水中油型乳化組成物で使用する(A)油脂において、ジアシルグリセロールの含有量は、脂質代謝改善食品又は体脂肪蓄積抑制食品としての有効性、工業的生産性の観点から、20%以上であり、好ましくは35〜99.9%、特に49〜95%であることが好ましい。油脂にはジアシルグリセロール以外に、トリアシルグリセロール、モノアシルグリセロール、遊離脂肪酸等を含有させることができる。
【0012】
(A)油脂中のトリアシルグリセロールの含有量は、乳化性、風味、生理効果、工業的生産性の点で80%以下であるのが好ましく、更に0.1〜65%、特に5.0%〜51%であるのが好ましい。
【0013】
(A)油脂中のモノアシルグリセロールの含有量は、乳化性、風味、工業生産性の点から5%以下であるのが好ましく、更に0〜2%、特に0.1〜1.5%であるのが良い。モノアシルグリセロールの構成脂肪酸は、工業的生産性の点でジアシルグリセロールの構成脂肪酸と同じであるのが好ましい。
【0014】
(A)油脂中の遊離脂肪酸(塩)の含有量は、乳化性、風味、工業的生産性の点で1%以下であるのが好ましく、更に0〜0.5%、特に0.05〜0.2%であるのが好ましい。
【0015】
酸性水中油型乳化組成物中の油脂(A)の含有量は、脂質代謝改善食品又は体脂肪蓄積抑制食品としての有効性と食品としての風味の点から8〜80%、更に15〜75%、特に30〜75%、殊更50〜70%であることが好ましい。
【0016】
本発明で使用する(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルは、特に限定されないが、構成脂肪酸中の不飽和脂肪酸含量が50〜95%、好ましくは55〜90%、更に60〜85%、特に65〜82%、殊更70〜80%であるのが、低温耐性の点から好ましい。
【0017】
また、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、構成脂肪酸中の飽和脂肪酸含量は5〜50%、好ましくは10〜45%、更に15〜40%、特に18〜35%、殊更20〜30%であるのが、低温耐性の点から好ましい。
【0018】
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、構成脂肪酸中のエルシン酸含量は50〜90%であるのが好ましく、より好ましくは55〜90%、更に60〜85%、特に65〜82%、殊更70〜80%であるのが、低温耐性の点から好ましい。
【0019】
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、エルシン酸以外の構成不飽和脂肪酸としては、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エライジン酸等が挙げられ、オレイン酸、リノール酸が好ましい。オレイン酸の含有量は39%以下であるのが好ましく、更に0〜20%であるのが好ましい。
【0020】
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、構成飽和脂肪酸としては、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸等が挙げられ、ミリスチン酸、アラキジン酸が好ましい。
【0021】
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルのエステル化率は80%以上が好ましく、更に85〜100%、特に90〜100%であるのが、低温耐性の点から好ましい。ここで、エステル化率とは、ポリグリセリン1分子中の全水酸基数に対する、ポリグリセリン脂肪酸エステル1分子中のエステル化された水酸基数を百分率で表した数値(%)のことである。
【0022】
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルにおいて、グリセリンの平均重合度は2〜12であるのが好ましく、更に2〜10であるのが、低温耐性の点から好ましい。本発明において、グリセリンの平均重合度は、ポリグリセリン脂肪酸エステルの原料であるポリグリセリンの水酸基価から算出したものである。
【0023】
本発明において、油相中の(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルの含有量は、0.05〜2%であるのが好ましく、更に0.1〜1.5%、特に0.3〜1.2%、殊更0.5〜1%であるのが、低温耐性改善効果及び食品としての風味の観点から好ましい。
【0024】
本発明に用いる(C)酵素処理卵黄油とは、卵黄から抽出され、かつ、酵素処理がなされているものである。(C)酵素処理卵黄油は、酵素処理された卵黄と抽出溶媒を混合し、卵黄タンパク質を除去した後、溶媒を留去して得ることができる。卵黄は、生、凍結、粉末、加塩、加糖等任意の形態でよい。また、これらの生卵黄等から同様にして卵黄油を得、これを酵素処理してもよい。
【0025】
抽出に用いられる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、n−ブタノール、2−ブタノール、t−ブタノール等の低級アルコール類;ケトン類;ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等のエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素類等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。なかでも、抽出効率の点から、メタノール、エタノール、アセトン、ヘキサン、クロロホルムを単独で又は2種以上を組み合わせて用いることが好ましい。
溶媒の使用量は、特に限定されないが、酵素処理された卵黄又は卵黄1質量部に対して、1〜100質量部の比率が好ましい。
【0026】
酵素処理された卵黄等と溶媒を混合した際の混合液の温度は、0〜80℃であることが好ましく、20〜65℃であることがより好ましい。
次いで、混合液を静置分離、遠心分離等により溶媒層と水層に分離させ、溶媒層を分取する。この溶媒層にさらに溶媒を加え当該操作を複数回繰り返すのが好ましい。次いで、溶媒を留去して得ることによって酵素処理卵黄油を得ることができる。
酵素処理卵黄油は特に限定されず、液状、ペースト状、粉末等任意の形態で用いることができる。
【0027】
卵黄の酵素処理に用いる酵素としては、エステラーゼ、リパーゼ、ホスホリパーゼが好ましく、リパーゼ、ホスホリパーゼがより好ましく、ホスホリパーゼが特に好ましい。ホスホリパーゼの中でも、ホスホリパーゼA、すなわちホスホリパーゼA1及びA2が好ましく、特にホスホリパーゼA2が好ましい。
【0028】
本発明に用いる(C)酵素処理卵黄油は、卵黄の全リン脂質に対するリゾリン脂質の質量比率(以下「リゾ比率」と記載する)が15%以上、更に25%以上であることが好ましく、より好ましくは25〜75%、更に29〜70%、特に45〜70%、殊更50〜70%とすることが、乳化安定性の点から好ましい。リゾリン脂質は、卵黄由来であることが好ましいが、大豆由来のものを用いることもでき、また卵黄由来のものと大豆由来のものを併用することもできる。
【0029】
酵素処理条件は、リゾ比率が15%以上となるような条件を適宜選択するのがよい。具体的には、酵素添加量は、酵素活性が10,000IU/mLの場合、卵黄液に対して0.0001〜0.1%、特に0.001〜0.01が好ましい。反応温度は20〜60℃、特に30〜55℃が好ましい。反応時間は1時間〜30時間、特に5時間〜25時間が好ましい。
【0030】
本発明において、(C)酵素処理卵黄油の含有量は、油相質量に対して0.05〜4.5%であるのが好ましく、更に0.5〜4%、特に1〜4%、殊更1.7〜3.6%であるのが、低温耐性改善効果及び食品としての風味の観点から好ましい。
【0031】
また、本発明においては、酸性水中油型組成物中の卵黄タンパク質に対するリゾリン脂質の質量比(リゾリン脂質/卵黄タンパク質)が0.4〜0.72、更に0.45〜0.7、特に0.5〜0.65とすること好ましい。かかる範囲とすることで、組成物の低温耐性が向上する。
【0032】
本発明に用いる(D)卵黄は、生、凍結、粉末、加塩、加糖等任意の形態でよく、卵白を含んだ全卵の形態で配合してもよい。また、酵素処理されたものを用いてもよい。酵素処理の方法は前記と同様の方法が挙げられる。卵黄は、リゾ比率が15%以上、更に25%以上であることが好ましく、より好ましくは25〜75%、更に29〜70%、特に45〜70%、殊更50〜70%とすることが、乳化安定性の点から好ましい。リゾリン脂質は、卵黄由来であることが好ましいが、大豆由来のものを用いることもでき、また卵黄由来のものと大豆由来のものを併用することもできる。
卵黄の一部に酵素処理卵黄を用いる場合、酵素未処理卵黄と酵素処理卵黄の合計のリゾ比率が上記と同様の範囲となるように酵素処理条件を選択するのが好ましい。また、卵黄全体に対する酵素未処理卵黄の含有量を1〜85%、更に10〜70%、特に15〜50%、殊更20〜40%とすることが、低温耐性の点から好ましい。
【0033】
酸性水中油型組成物中の(D)卵黄の含有量は、風味向上の観点から、液状卵黄換算で5〜20%であるのが好ましく、更に7〜17%、特に8〜15%、殊更10〜15%であるのが好ましい。
【0034】
本発明においては、血中コレステロール低下作用を有する植物ステロール(PS)及び/又は植物ステロール脂肪酸エステル(PSE)を含有することができる。ジアシルグリセロールと植物ステロール類との併用により、脂質代謝改善食品としての有用性を更に高めることができる。ここで植物ステロール(PS)とは遊離体のことで、例えばα−シトステロール、β−シトステロール、ブラシカステロール、スチグマステロール、エルゴステロール、カンペステロール、α−シトスタノール、β−シトスタノール、ブラシカスタノール、スチグマスタノール、エルゴスタノール、カンペスタノール、シクロアルテノール等が挙げられる。また、植物ステロール脂肪酸エステル(PSE)は、上記植物ステロールと脂肪酸とのエステル化反応、上記植物ステロールと油脂又は部分グリセライドとのエステル交換反応により得られたものを用いることができるが、天然油脂からの抽出濃縮生成物なども挙げられる。本発明においては、これらのフェルラ酸エステル、桂皮酸エステルなどのエステル体、配糖体、及びそれらの混合物を一種又は二種以上用いることができる。
【0035】
上記PSEを構成する脂肪酸は、温度変化耐性、加圧シェア耐性、融点、扱いやすさ、価格などの点から、大豆油脂肪酸、ナタネ油脂肪酸、ひまわり油脂肪酸、コーン油脂肪酸、分別物、これらの混合物などの植物油を由来とする脂肪酸であるのが好ましい。PSEの脂肪酸組成において、不飽和脂肪酸の含量は80%以上、好ましくは85〜100%、更に88〜99%、特に90〜98%であるのが好ましい。また、PSEの構成脂肪酸中、オレイン酸の含量は15〜75%であるのが好ましく、更に20〜70%、特に25〜65%であるのが好ましい。リノール酸の含量は10〜60%であるのが好ましく、更に12〜45%、特に15〜30%であるのが好ましい。リノレン酸の含量は0〜15%以下であるのが好ましく、更に1〜12%、特に3〜9%であるのが好ましい。
【0036】
本発明の酸性水中油型乳化組成物において、PS及び/又はPSEの含有量は、成分(A)に対して、遊離の植物ステロールに換算して1〜10%、更に1.2〜10%、特に2〜5%であるのが好ましい。また、植物ステロール(PS)と植物ステロール脂肪酸エステル(PSE)に対するPSEの質量比(PSE/(PS+PSE))は、0.3より大であるのが好ましく、更に0.7〜1、特に0.8〜1、殊更0.9〜0.99であるのが、風味、温度変化耐性、加圧シェア耐性の点で好ましい。また、PSの含量を、成分(A)に対して0.001〜0.3%、更に0.01〜0.2%、特に0.05〜0.15%とするのが、風味、温度変化耐性、加圧シェア耐性の点で好ましい。
【0037】
本発明の水中油型乳化組成物の水相には、水;米酢、酒粕酢、リンゴ酢、ブドウ酢、穀物酢、合成酢等の食酢;食塩;グルタミン酸ナトリウム等の調味料;砂糖、水飴等の糖類;酒、みりん等の呈味量;各種ビタミン;クエン酸等の有機酸及びその塩;香辛料;レモン果汁等の各種野菜又は果実の搾汁液;キサンタンガム、ジェランガム、グァーガム、タマリンドガム、カラギーナン、ペクチン、トラガントガム等の増粘多糖類;馬鈴薯澱粉等の澱粉類、それらの分解物及びそれらを化工処理した澱粉類;ショ糖脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート等の合成乳化剤;レシチン又はその酵素分解物等の天然系乳化剤;牛乳等の乳製品;大豆タンパク質、乳タンパク質、小麦タンパク質等のタンパク質類、あるいはこれらタンパク質の分離物や分解物等のタンパク質系乳化剤;各種リン酸塩等を含有させることができる。本発明においては、目的とする組成物の粘度、物性等に応じて、これらを適宜配合できる。
【0038】
かかる水相のpHは、風味と保存性の観点から酸性であるが、好ましくは2〜6、特に3〜5であるのが好ましい。水相のpH調整には、上記した食酢、有機酸、有機酸の塩類、果汁類等の酸味料を使用できる。
【0039】
本発明の酸性水中油型乳化組成物における油相と水相の配合比(質量比)は、10/90〜80/20であるのが好ましく、更に20/80〜75/25、特に35/65〜72/28、殊更60/40〜70/30であるのが好ましい。
【0040】
本発明の酸性水中油型乳化組成物の製品形態としては、例えば日本農林規格(JAS)で定義されるドレッシング、半固体状ドレッシング、乳化液状ドレッシング、マヨネーズ、サラダクリーミードレッシング等が挙げられるが、特にこれらに限定されるものではなく、広くマヨネーズ類、マヨネーズ様食品、ドレッシング類、ドレッシング様食品といわれるものが該当する。
【0041】
本発明の酸性水中油型乳化組成物は、油相と水相を混合し、必要により予備乳化を行い、均質化することにより製造することができる。
本発明においては、酸性水中油型乳化組成物を製造する際に、(C)酵素処理卵黄油を水相成分と共に配合して水相を調製しても、油相と水相を混合する際に配合してもよいが、低温耐性が向上する点から、(C)酵素処理卵黄油を油相成分、すなわち(A)ジアシルグリセロール高含有油脂、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステルと共に混合して油相を調製した後、(D)卵黄、その他の水溶性原料を混合して調製した水相に添加混合することにより製造するのが好ましい。さらに、水溶性原料のうち食酢は、乳化安定性の観点から、油相と水相を混合した後に混合するのが好ましい。また、必要に応じて、PS/PSE等の成分を油相に混合してもよい。
均質機としては、例えばマウンテンゴウリン、マイクロフルイダイザーなどの高圧ホモジナイザー、超音波式乳化機、コロイドミル、アジホモミキサー、マイルダー等が挙げられる。
【0042】
このようにして製造された酸性水中油型乳化物は容器に充填され、容器入り乳化食品として、通常のマヨネーズ、ドレッシング等と同様に使用することができる。例えば、タルタルソース等のソース、サンドイッチ、サラダの他、焼き物、炒め物、和え物といった調理に使用できる。
【0043】
容器としては通常、マヨネーズ、ドレッシング等の酸性水中油型乳化食品に用いられるものであれば、いずれでも良い。特に、瓶に比べて使い勝手の良い可撓性容器、例えばプラスチック製のチューブ式容器が好ましい。プラスチック製容器の材質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン性酢酸ビニル、エチレン・ビニルアルコール共重合体、ポリエチレンテレフタレート等の熱可塑性プラスチックの一種又は二種以上を混合して中空成型したものや、これらの熱可塑性プラスチックからなる層を二層以上に積層して中空成形したもの等を用いることができる。
【実施例】
【0044】
〔分析方法〕
(1)グリセリド組成
ガラス製サンプル瓶に、油脂サンプル約10mgとトリメチルシリル化剤(「シリル化剤TH」、関東化学製)0.5mLを加え、密栓し、70℃で15分間加熱した。これに水1.0mLとヘキサン1.5mLを加え、振とうした。静置後、上層をガスクロマトグラフィー(GLC)に供して分析した。
【0045】
(2)脂肪酸組成
日本油化学会編「基準油脂分析試験法」中の「脂肪酸メチルエステルの調製法(2.4.1.−1996)」に従って脂肪酸メチルエステルを調製し、得られたサンプルを、American Oil Chemists. Society Official Method Ce 1f−96(GLC法)により測定した。
【0046】
(3)卵黄タンパク質
卵黄タンパク質量は、ケールダール法により測定した。なお、リゾリン脂質/卵黄タンパク質の値(質量比)は、Lタイプワコーリン脂質を用いた市販の測定キット(和光純薬工業(株)製)により測定した総リン脂質量と、後述のリゾ比率測定方法で得られたリゾ比率から次式を用いて求めたものである。
リゾリン脂質/卵黄タンパク質=(総リン脂質量×リゾ比率)÷卵黄タンパク質量
【0047】
〔酵素処理卵黄の調製〕
食塩濃度10%の卵黄液750g、水150g及び食塩15gを混合し、希釈加塩卵黄を得た。次いで、反応温度で十分予備加熱後、卵黄液に対して酵素活性10,000IU/mLのホスホリパーゼA2を0.02%添加し、50℃にて20時間反応を行い、酵素処理卵黄Aを得た。後述の方法にてリゾ比率を求めたところ90%であった。
食塩濃度10%の卵黄液750g、水150g及び食塩15gを混合し、希釈加塩卵黄を得た。次いで、反応温度で十分予備加熱後、卵黄液に対して酵素活性10,000IU/mLのホスホリパーゼA2を0.004%添加し、50℃にて20時間反応を行い、酵素処理卵黄Bを得た。後述の方法にてリゾ比率を求めたところ55%であった。
【0048】
〔リゾ比率測定方法〕
試料を3g秤量し、約30gの硫酸ナトリウムを加え混練した。その後、クロロホルム/メタノール(3/1)溶液にて4回抽出を行った。抽出溶媒は硫酸ナトリウムを乗せたろ紙上に通ずることで脱水し、エバポレーターにて乾固後、30mlのクロロホルムに再溶解した。次に、このクロロホルム溶液15mlを、あらかじめクロロホルムでコンディショニングしておいたSep-Pack silicaカートリッジにチャージした。20mlのクロロホルムで単純脂質を流出させた後、30mlメタノールでリン脂質を回収し、0.45μmのメンブランフィルターでろ過後、HPLC分析に供した。
【0049】
<HPLC分析条件>
分析装置:LC−VPシリーズ(SHIMADZU);検出器:ELSD2000(Alltech)、インパクターオフ、ガス流量2.4 l/min、チューブ温度 82℃;カラム:Atlantis HILIC Silica 5μm 4.6×250mm(Waters);溶離液:アセトニトリル:メタノール:水=7:1:2(0.1%酢酸); 量:1.0 ml/min;注入量:30μl;カラム温度:40℃、分析時間:15分
【0050】
リゾ比率は標品PC(Epikuron(登録商標)200、Lucus Meyer)及びLPC(卵黄レシチンLC−100、キユーピー株式会社))を用い、外部検量線にて定量し、次式にてリゾ比率を算出した。
リゾ比率(%)=LPC/(PC+LPC)×100
(LPC:リゾリン脂質画分中のリン質量、PC+LPC:全リン脂質中のリン質量)
【0051】
〔卵黄油Iの調製方法〕
上記の酵素処理卵黄Bを250質量部を凍結乾燥後、ヘキサン/エタノール(2:1、v/v)混合溶媒350質量部を加え混合した。遠心分離後溶媒相を回収し、さらにヘキサン/エタノールを220質量部加え混合・遠心分離後、溶媒相を分取し、もう4回ヘキサン/エタノール抽出(220質量部ずつ)を行った。エバポレータ等を用い回収分画から溶媒を留去し、酵素処理卵黄油(卵黄油I)50質量部(リゾ比率55%)を得た。
【0052】
〔卵黄油IIの調製方法〕
上記の酵素処理卵黄Bを250質量部とり海砂10質量部とよく混合した後、クロロホルム/メタノール(3:1、v/v)混合溶媒600質量部を加え混合した。静置後溶媒相を回収し、さらにクロロホルム/メタノールを400質量部加え混合・静置後、溶媒相を分取し、もう2回クロロホルム/メタノール抽出(400質量部ずつ)を行った。エバポレータ等を用い回収分画から溶媒を留去し、酵素処理卵黄油(卵黄油II)50質量部(リゾ比率55%)を得た。
【0053】
〔卵黄油IIIの調製方法〕
酵素処理卵黄Bの代わりに生卵黄を250質量部とり、上記処理を行い、未処理卵黄油(卵黄油III)50質量部を得た。
【0054】
〔マヨネーズの製造〕
表3に示す配合組成により、油相成分をそれぞれ混合し、70℃にて加熱溶解して油相を調製した。ジアシルグリセロール(DAG)高含有油脂のグリセリド組成及びジアシルグリセロールの脂肪酸組成を表1に示す。
【0055】
常法に従い、表2に示す配合組成により水相を調製した。水相I又はIIそれぞれ33質量部に対し、あらかじめ調製した油相67質量部を添加して、予備乳化したのち、コロイドミル(3,000rpm、クリアランス0.08mm)で均質化し、平均粒子径2.0〜3.5μmのマヨネーズを製造した。得られたマヨネーズを、100gプラスチック製のチューブ式容器に充填し、サンプルとした。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
〔低温耐性評価〕
サンプルを−15℃で1日間保存した後、約4時間室温に放置し、その外観を6名のパネラーにより、以下の評価基準に従って、目視で評価した。
(マヨネーズの外観)
○:良好、変化なし
○−:良好だが、若干の外観変化が認められる
△:やや不良、一部に割れ、分離等が認められる
×:不良、著しい割れ、分離等が認められる
(絞り出し後のマヨネーズの外観)
○:良好、変化なし
○−:良好だが、若干の外観変化が認められる
△:やや不良、一部に肌荒れ、離水、離油が認められる
×:不良、著しい肌荒れ、離水、離油が認められる
【0059】
【表3】

【0060】
実施例1〜4のように、ジアシルグリセロール高含有油脂、ポリグリセリン脂肪酸エステル、酵素処理卵黄油及び卵黄を含有する酸性水中油型乳化組成物(マヨネーズ)は、極めて優れた低温耐性を示した。
これに対し、酵素処理卵黄油を含有しないもの(比較例1、2)や、水相の卵黄を単に増量したもの(比較例3)は、−15℃の保存で乳化破壊が発生し、油水が分離した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の(A)、(B)、(C)及び(D):
(A)ジアシルグリセロール含量が20質量%以上であり、かつジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の80質量%以上が不飽和脂肪酸である油脂
(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル
(C)酵素処理卵黄油
(D)卵黄
を含有する酸性水中油型乳化組成物。
【請求項2】
(C)酵素処理卵黄油の含有量が油相質量に対して0.05〜4.5質量%である請求項1記載の酸性水中油型乳化組成物。
【請求項3】
卵黄タンパク質に対するリゾリン脂質の質量比が0.4〜0.72である請求項1又は2記載の酸性水中油型乳化組成物。
【請求項4】
(A)ジアシルグリセロール含量が20質量%以上であり、かつジアシルグリセロールを構成する脂肪酸の80質量%以上が不飽和脂肪酸である油脂、(B)ポリグリセリン脂肪酸エステル及び(C)酵素処理卵黄油を混合して油相を調製した後、(D)卵黄を含有する水相に添加混合する酸性水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項5】
油相に混合される酵素処理卵黄油の含有量が、油相質量に対して0.05〜4.5質量%である請求項4記載の酸性水中油型乳化組成物の製造方法。

【公開番号】特開2012−39907(P2012−39907A)
【公開日】平成24年3月1日(2012.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−182497(P2010−182497)
【出願日】平成22年8月17日(2010.8.17)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】