説明

酸水溶液の精製方法

塩素イオンを除去するなどの余分な工程を必要とせず、かつイオン交換体(カラムを含む)の損傷を低減して、イオン交換体を繰り返し使用することができ、イオン交換体の耐用寿命を長くして製造コストを低下させることのできる、酸(A)と不純物として酸(B)とを含有する被処理水溶液を、酸(A)と酸(B)とに対して陰イオンの吸着選択性を有する陰イオン交換樹脂(C)を充填したイオン交換塔に通液させることによる酸(A)水溶液の精製方法であって、上記被処理水溶液の濃度よりも希薄な濃度の酸(A)水溶液を通液した後に、上記被処理水溶液を通液することを特徴とする酸(A)水溶液の精製方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸水溶液の精製方法に関し、さらに詳しくは、イセチオン酸に代表されるヒドロキシアルカンスルホン酸や、アルカンスルホン酸などの酸水溶液に含有される硫酸などの不純物を効果的かつ効率的に除去する、これらの酸水溶液の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
イセチオン酸に代表されるヒドロキシアルカンスルホン酸や、アルカンスルホン酸などの水溶液は、その製造過程で不純物として硫酸を含んでしまうことから、従来より上記水溶液から硫酸を除去することが求められているが、これらの酸は硫酸と物性が類似していることから蒸留などの操作では分離することが難しいため、イオン交換樹脂を用いて上記被処理水溶液から硫酸を除去することが行われており、例えば、特許文献1では塩素型塩基性陰イオン交換樹脂を用いてメタンスルホン酸水溶液中に不純物として含まれる硫酸を除去している。
【0003】
しかしながら、この方法では塩素イオンが、得られる酸水溶液中に混入するので、ストリッピング処理などの工程を用いて上記得られた酸水溶液から塩素イオンを除去することが必要であり、また、上記得られた酸水溶液から完全に塩素イオンを除去することはできないものであった。
【0004】
一方、得られる酸水溶液中への塩素イオンの混入を避ける方法として、イオン交換樹脂としてOH型塩基性陰イオン交換樹脂を用いることが考えられるが、酸水溶液の精製にOH型塩基性陰イオン交換樹脂を用いると、該イオン交換樹脂と酸との中和熱による温度上昇を伴ってイオン交換体自身やカラムの損傷を来たし、イオン交換体(カラムを含む)の耐用寿命が短く、製造設備コストがかさみ、精製酸水溶液の工業化適性を欠くものであった。
【特許文献1】特開2001−64249公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、本発明の目的は、塩素イオンを除去するなどの余分な工程を必要とせず、かつイオン交換体(カラムを含む)の損傷を低減して、イオン交換体を繰り返し使用することができ、イオン交換体の耐用寿命を長くして製造コストを低下させることのできる、酸水溶液の精製方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記に鑑み鋭意研究の結果本発明に到達した。すなわち、本発明は、酸(A)と不純物として酸(B)とを含有する被処理水溶液を、酸(A)と酸(B)とに対して陰イオンの吸着選択性を有する陰イオン交換樹脂(C)を充填したイオン交換塔に通液させることによる酸(A)水溶液の精製方法であって、上記被処理水溶液の濃度よりも希薄な濃度の酸(A)水溶液(以下単に「希薄な酸(A)水溶液」と称する)を通液した後に、上記被処理水溶液を通液することを特徴とする酸(A)水溶液の精製方法を提供する。
【0007】
上記本発明においては、陰イオン交換樹脂(C)が、OH型塩基性陰イオン交換樹脂であること;希薄な酸(A)水溶液の酸濃度が、30質量%以下である序と;希薄な酸(A)水溶液が、被処理水溶液を希釈したものであること;被処理水溶液が、陰イオン交換樹脂(C)に対して不純物としての酸(B)の吸着が飽和した後に、イオン交換塔から流出した液であること;希薄な酸(A)水溶液が、被処理水溶液を精製処理後にイオン交換塔に純水を通液して流出した酸(A)水溶液であること;希薄な酸(A)水溶液の通液量が、希薄な酸(A)水溶液中の酸の総量がイオン交換塔内の陰イオン交換樹脂(C)の総イオン交換基量を下回らない量であること:希薄な酸(A)水溶液の通液量が、希薄な酸(A)水溶液中の酸の総量がイオン交換塔内の陰イオン交換樹脂(C)の総イオン交換基量の当量となる量であること;希薄な酸(A)水溶液の通液、および被処理水溶液の通液をアップフローにて行うこと;酸(B)が、硫酸であり、酸(A)が、アルカンスルホン酸であること;酸(A)が、ヒドロキシアルカンスルホン酸、特にイセチオン酸であることが好ましい。
【0008】
また、本発明は、イセチオン酸と不純物として硫酸とを含有する被処理水溶液を、イセチオン酸と硫酸とに対してOH型塩基性陰イオン交換樹脂を充填したイオン交換塔に通液させることによるイセチオン酸水溶液の精製方法であって、上記被処理水溶液の濃度よりも希薄な濃度のイセチオン酸水溶液を通液した後に上記被処理水溶液を通液することを特徴とするイセチオン酸水溶液の精製方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の効果は、塩素イオンを除去するなどの余分な工程を必要とせず、かつイオン交換体(カラムを含む)の損傷を低減して、イオン交換体を繰り返し使用することができ、イオン交換体の耐用寿命を長くして製造コストを低下させることのできる、酸水溶液の精製方法を提供したことにある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において精製の対象となる被処理水溶液、すなわち、酸(B)を不純物として含む酸(A)水溶液は特に限定されるものではなく、被処理水溶液中に不純物として含有されている酸(B)を蒸留などの操作で除去することの難しい酸(A)水溶液であればよく、具体的には、例えば、アルカンスルホン酸やヒドロキシアルカンスルホン酸を主成分とし、さらに硫酸を含有している水溶液を挙げることができる。さらに上記被処理水溶液は、以下に説明する本発明の方法において、陰イオン交換樹脂(C)に対して不純物としての酸(B)の吸着が飽和した後に、イオン交換塔から流出した液であってもよい。
【0011】
上記のアルカンスルホン酸やヒドロキシアルカンスルホン酸水溶液は、その製造方法に起因して微量の硫酸を不純物として含有しているものであり、硫酸は、これらアルカンスルホン酸やヒドロキシアルカンスルホン酸と性質が似ており、蒸留などの操作によって当該水溶液から上記不純物としての硫酸を除去することは困難である。
従って、本発明において被処理水溶液に不純物として含まれる酸(B)としての具体例としては、例えば、硫酸を挙げることができる。
【0012】
本発明は、酸(A)と不純物として酸(B)とを含有する被処理水溶液を、酸(A)と酸(B)とに対して陰イオンの吸着選択性(すなわち、酸(A)と酸(B)とを吸着する能力が異なる)を有する陰イオン交換樹脂(C)を充填したイオン交換塔に通液させることによって、酸(A)水溶液を精製するものである。すなわち、被処理水溶液中の酸(B)の含量を著しく低減した酸(A)水溶液を得んとするものである。
【0013】
本発明に使用する、陰イオン交換樹脂(C)としては特に限定されるものではなく、酸(A)と酸(B)とに対して陰イオンの吸着選択性を有するものであればどのようなものであっても使用することができるが、塩素イオンを除去する工程を要しないなどの目的からOH型塩基性陰イオン交換樹脂が好ましく、例えば、OH型弱塩基性アニオン交換樹脂などを使用することができる。具体的には、例えば、ロームアンドハース社製のデュオライトA−561(商品名)、三菱化学製のダイヤイオンWA−20(商品名)、および類似の性質の市販のOH型弱塩基性アニオン交換樹脂などを好ましく使用することができる。
【0014】
本発明の精製方法は、イオン交換体(カラムを含む)の損傷を低減して該イオン交換体を繰り返し使用することができ、イオン交換体の耐用寿命を長くして、精製酸(A)水溶液の製造コストを低下させる観点から、上記被処理水溶液を、陰イオン交換樹脂(C)を充填したイオン交換塔に通液させるにあたり、まず希薄な酸(A)水溶液をイオン交換塔に通液した後に被処理水溶液をイオン交換塔に通液するものである。
【0015】
希薄な酸(A)水溶液としては、特に限定されないが、例えば、酸(A)濃度として30質量%以下、好ましくは20質量%以下とすることがよい。30質量%を超える濃度の酸(A)水溶液であると、陰イオン交換樹脂、特にOH型塩基性陰イオン交換樹脂が酸(B)と反応して発熱したり膨張するなどの現象を起こし、イオン交換体やカラムの損傷、ひいては装置寿命を短くしてしまう。なお、酸(A)濃度は極端に薄いと産業的な精製効率を低下させるので、好ましくは5質量%以上とするのがよい。
【0016】
希薄な酸(A)水溶液としては、純粋な若しくは高純度の酸(A)水溶液であってもよいが、被処理水溶液を希釈した水溶液であってもよい。さらに希薄な酸(A)水溶液は、後述するように、被処理水溶液を精製処理後にイオン交換塔に純水を通液して流出した酸(A)水溶液であってもよい。
本発明の精製方法は、上記希薄な酸(A)水溶液をイオン交換体に通液した後、被処理水溶液をイオン交換体に通液するものである。
【0017】
ここで、本発明における酸(A)水溶液の精製の機構について説明する。なお、酸(A)としてヒドロキシアルカンスルホン酸であるイセチオン酸を、酸(B)として硫酸を例にとり、被処理水溶液として微量の硫酸を含有するイセチオン酸水溶液を、そして希薄な酸(A)水溶液として該被処理水溶液の希釈液を例にとって説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0018】
最初に上記希薄なイセチオン酸水溶液を、陰イオンの吸着選択性を有する陰イオン交換樹脂(C)を充填したイオン交換塔に通液すると、硫酸とイセチオン酸では硫酸の方が陰イオン交換樹脂による吸着選択性が高いので、イオン交換塔内の導入口側に近い方の陰イオン交換樹脂のイオン交換基から順に硫酸で置換されていく。硫酸は不純物でありその量は少ないことと、イオン交換塔内での移動速度は硫酸よりイセチオン酸の方が速いので、導入口付近のイオン交換基を除いてそれ以降、イオン交換塔の流出口までのイオン交換基は全てイセチオン酸にて置換される。
【0019】
この際、希薄な酸(A)水溶液の通液量が、希薄な酸(A)水溶液中の酸(A)の総量がイオン交換塔内の陰イオン交換樹脂(C)の総イオン交換基量を下回ると、イオン交換塔の流出口側に未置換のイオン交換基が残存することとなり、後から通液される被処理水溶液中の硫酸との反応によってイオン交換体などが損傷を受けることがあるので、好ましくは、希薄な酸(A)水溶液の通液量を、希薄な酸(A)水溶液中の酸(A)の総量が、イオン交換塔内の陰イオン交換樹脂(C)の総イオン交換基量を下回らない量にするのがよい。なお、産業的な精製効率を考慮して許容される範囲内であれば、酸(A)の総量が多少総イオン交換基量を下回っても差し支えなく、このような範囲が上記好ましい範囲に含まれることは言うまでもない。
【0020】
また、希薄なイセチオン酸水溶液を大量に通液して希薄なイセチオン酸水溶液中のイセチオン酸の総量が、イオン交換塔内の陰イオン交換樹脂(C)の総イオン交換基量を超えると、希薄なイセチオン酸水溶液がそのままイオン交換塔外に流出されてイセチオン酸水溶液の工業的な精製効率を低下させ、また、不純物として含有される硫酸によって置換されるイオン交換樹脂の量も増加するので、より好ましくは、希薄な酸(A)水溶液の通液量を、希薄な酸(A)水溶液中の酸の総量が、イオン交換塔内の陰イオン交換樹脂(C)の総イオン交換基量に対して当量となる量にするのがよい。なお、イセチオン酸の産業的な精製効率を考慮して許容される範囲内であれば、上記イセチオン酸が多少当量を超えても差し支えなく、このような範囲が上記好ましい範囲に含まれることは言うまでもない。
【0021】
このように希薄なイセチオン酸水溶液を通液することにより、陰イオン交換樹脂は一旦イセチオン酸によって置換されるので、その後に被処理水溶液を通液しても陰イオン交換樹脂などが損傷を受けることは殆どないものである。
【0022】
次に、この状態のイオン交換塔に被処理水溶液としての硫酸を含むイセチオン酸水溶液を通液する。なお、被処理水溶液のイセチオン酸の濃度は、上記の通り既に陰イオン交換樹脂は一旦イセチオン酸によって置換されているので、特に限定されるものではなく、希薄なイセチオン酸水溶液でも高濃度イセチオン酸水溶液でもよいが、産業的な精製効率の観点から高濃度イセチオン酸水溶液を用いることが好ましく、具体的には、30質量%を超える濃度であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上がよい。被処理水溶液のイセチオン酸濃度の上限は特にないが、極端に高濃度であると産業的な精製効率を低下させるので、好ましくは60質量%以下がよい。
【0023】
被処理水溶液としてのイセチオン酸水溶液をイオン交換塔に通液すると、移動速度の速いイセチオン酸がイオン交換塔の流出口に先に到達する(この時点は、例えば、流出液のpHを測定してpH3以下になることを確認するなどして知ることができる)ので、ここから流出液を採取すれば硫酸含量の極めて少ない精製イセチオン酸水溶液を得ることができる。
【0024】
イオン交換樹脂のイオン交換基は、被処理水溶液である硫酸を含有するイセチオン酸水溶液を通液していくに従って、イオン交換塔の導入口側から流出口側に向けて順次、イオン交換樹脂に吸着されているイセチオン酸が硫酸により置換されていくので、全てのイオン交換基が硫酸に置換された時点でイセチオン酸水溶液の採取を停止すればよい。なお、この時点は、随時採取液を分析して硫酸濃度を分析すれば知ることができ、条件を整えて再現性を担保すれば予備実験することにより、被処理水溶液中の硫酸濃度を分析し、被処理水溶液の通液量をカウントすることにより、採取停止時点を知ることもできる。
採取を停止したイオン交換樹脂は、公知の方法で、例えば、水酸化ナトリウム水溶液を通液するなどして再生して上記操作を繰り返し行うことができる。
なお、本発明の精製方法において、イオン交換塔への被処理水溶液の通液は、イオン交換体などの損傷をより低減する観点から、アップフロー(上向流)で行うことが好ましい。
【実施例】
【0025】
以下に本発明の実施例を挙げて本発明をさらに説明するが本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1]
容積31.4L(内径20cm、高さ1m)の塩化ビニル樹脂製の塔にOH型弱塩基性陰イオン交換樹脂(ロームアンドハース製、商品名:デュオライトA−561)を25.5L仕込み、イオン交換塔を構成した。被処理水溶液としてイセチオン酸濃度46質量%、硫酸濃度1.6質量%の水溶液を用意し、この被処理水溶液を純水で2倍に希釈した水溶液を希釈イセチオン酸水溶液とした。
【0026】
上記希釈イセチオン酸水溶液24.5Lを上記イオン交換塔にアップフローで通液(11L/hr)し、次いで上記被処理水溶液をアップフローで通液(16L/hr)した。塔からの流出液のpHを測定し、pH3未満となったところで流出液を採取し、分析したところイセチオン酸濃度が44質量%で、硫酸濃度が0.0034質量%である精製(高純度)イセチオン酸水溶液を80kg得た。
【0027】
その後、ダウンフロー(下向流)で純水を通液してイオン交換塔内のイセチオン酸水溶液の残液を洗い流した。次いで、1.5N水酸化ナトリウム水溶液をダウンフローで通液(60L/hr)して、イオン交換樹脂のイオン交換基をOH型に戻し、ダウンフローで流出液が中性になるまで純水を通液(60L/hr)してイオン交換樹脂を再生した。
【0028】
その後、上記の操作を同様に繰り返し、不純物である硫酸濃度が極めて低い高純度のイセチオン酸水溶液の製造を続けたところ、75バッチ目でもイセチオン酸濃度および硫酸濃度は殆ど変化が無く、高純度イセチオン酸水溶液も75kg得られ、イオン交換樹脂の損傷による高純度イセチオン酸水溶液の回収率の低下は10%未満であった。
【0029】
[実施例2]
実施例1と同様にして80kgの精製イセチオン酸水溶液(a)を得た後、さらに上記被処理水溶液をイオン交換塔に通液したところ、被処理水溶液を合計で144L通液した時点で、流出液の組成が通液前の被処理水溶液と同じ組成になることが確認され、この間にイセチオン酸濃度46質量%で硫酸濃度0.95質量%のイセチオン酸水溶液(b)78kgが得られた。その後、純水18Lをダウンフローでイオン交換塔に通液(16L/hr)したところ、イセチオン酸濃度46質量%で硫酸濃度1.6質量%のイセチオン酸水溶液(c)22kgが得られ、さらに純水25Lをダウンフローで通液(16L/hr)したところ、イセチオン酸濃度25質量%で硫酸濃度0.8質量%の希薄なイセチオン酸水溶液(d)28kgを得た。
【0030】
ここまでの操作においてイオン交換塔に通液した全イセチオン酸量と上記(a)〜(d)に含まれるイセチオン酸量からイセチオン酸の回収率を算出したところ99質量%であった。その後1.5N水酸化ナトリウム水溶液をダウンフローでイオン交換塔に通液(60L/hr)してイオン交換樹脂のイオン交換基をOH型に戻し、ダウンフローで流出液が中性になるまで純水を通液(60L/hr)してイオン交換樹脂を再生した。
【0031】
続いて、2回目の操作として、上記操作で得られた(b)〜(d)および上記被処理水溶液を用い、(d)、(b)、(c)および被処理水溶液の順序でイオン交換塔に通液して上記と同様の操作を行なったところ、イセチオン酸濃度が45質量%で硫酸濃度が0.020質量%のイセチオン酸水溶液(e)100kg、イセチオン酸濃度が46質量%で硫酸濃度が0.95質量%のイセチオン酸水溶液(f)78kgが得られ、さらに純水をイオン交換塔に通液してイセチオン酸濃度が46質量%で硫酸濃度が1.6質量%のイセチオン酸水溶液(g)22kgと、イセチオン酸濃度が23質量%で硫酸濃度が0.810質量%の希薄なイセチオン酸水溶液(h)28kgを得た。また、イセチオン酸の回収率は99質量%であった。
【0032】
その後、上記と同様にイオン交換樹脂の再生を行なった後、2回目と同様の操作を10回繰り返したところ、2回目と同様にイセチオン水溶液(e)〜(h)が得られ、また、イセチオン酸回収率は全て99質量%であった。
【0033】
〔比較例1〕
希薄なイセチオン酸の通液を行わずに、最初から被処理水溶液を通液した他は実施例1と同様に行ったところ、イオン交換樹脂の発熱と膨張によりイオン交換塔に亀裂を生じ、被処理水溶液の精製処理を行うことができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明によれば、塩素イオンを除去するなどの余分な工程を必要とせず、かつイオン交換体(カラムを含む)の損傷を低減して、イオン交換体を繰り返し使用することができ、イオン交換体の耐用寿命を長くして製造コストを低下させることのできる、酸水溶液の精製方法を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸(A)と不純物として酸(B)とを含有する被処理水溶液を、酸(A)と酸(B)とに対して陰イオンの吸着選択性を有する陰イオン交換樹脂(C)を充填したイオン交換塔に通液させることによる酸(A)水溶液の精製方法であって、上記被処理水溶液の濃度よりも希薄な濃度の酸(A)水溶液を通液した後に、上記被処理水溶液を通液することを特徴とする酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項2】
陰イオン交換樹脂(C)が、OH型塩基性陰イオン交換樹脂である請求項1に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項3】
被処理水溶液の濃度よりも希薄な濃度の酸(A)水溶液の酸濃度が、30質量%以下である請求項1または2に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項4】
被処理水溶液の濃度よりも希薄な濃度の酸(A)水溶液が、被処理水溶液を希釈したものである請求項1〜3の何れか1項に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項5】
被処理水溶液が、陰イオン交換樹脂(C)に対して不純物としての酸(B)の吸着が飽和した後に、イオン交換塔から流出した液である請求項1〜3の何れか1項に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項6】
被処理水溶液の濃度よりも希薄な濃度の酸(A)水溶液が、被処理水溶液を精製処理後にイオン交換塔に純水を通液して流出した酸(A)水溶液である請求項1〜3の何れか1項に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項7】
被処理水溶液の濃度よりも希薄な濃度の酸(A)水溶液の通液量が、希薄な酸(A)水溶液中の酸の総量がイオン交換塔内の陰イオン交換樹脂(C)の総イオン交換基量を下回らない量である請求項1〜4の何れか1項に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項8】
被処理水溶液の濃度よりも希薄な濃度の酸(A)水溶液の通液量が、希薄な酸(A)水溶液中の酸の総量がイオン交換塔内の陰イオン交換樹脂(C)の総イオン交換基量の当量となる量である請求項1〜4の何れか1項に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項9】
被処理水溶液の濃度よりも希薄な濃度の酸(A)水溶液の通液、および被処理水溶液の通液をアップフローにて行う請求項1〜8の何れか1項に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項10】
酸(B)が、硫酸である請求項1〜9の何れか1項に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項11】
酸(A)が、アルカンスルホン酸である請求項1〜10の何れか1項に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項12】
酸(A)が、ヒドロキシアルカンスルホン酸である請求項1〜10の何れか1項に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項13】
酸(A)が、イセチオン酸である請求項12に記載の酸(A)水溶液の精製方法。
【請求項14】
イセチオン酸と不純物として硫酸とを含有する被処理水溶液を、イセチオン酸と硫酸とに対してOH型塩基性陰イオン交換樹脂を充填したイオン交換塔に通液させることによるイセチオン酸水溶液の精製方法であって、上記被処理水溶液の濃度よりも希薄な濃度のイセチオン酸水溶液を通液した後に上記被処理水溶液を通液することを特徴とするイセチオン酸水溶液の精製方法。

【国際公開番号】WO2005/102993
【国際公開日】平成17年11月3日(2005.11.3)
【発行日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−519501(P2006−519501)
【国際出願番号】PCT/JP2005/007612
【国際出願日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(000000387)株式会社ADEKA (987)
【Fターム(参考)】