説明

酸素ストレージ材

【課題】400℃程度の低温域における酸素吸蔵性能を改善した酸素ストレージ材を提供する。
【解決手段】組成式ATO3(ただしTは遷移元素)においてAをアルカリ土類金属のみで構成したペロブスカイト型複合酸化物を用いた酸素ストレージ材。Tは遷移元素であるが、例えばその全部をFeで構成してAFeO3組成とすることができる。好適な例として、SrFeO3、あるいはCaFeO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物を用いた酸素ストレージ材が挙げられる。これらの酸素ストレージ材は、Pdなどの触媒金属と接触させた状態とし、エンジン排ガスの浄化用途に使用すると好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン排ガス浄化装置等において触媒作用を高めるための「助触媒」として好適なペロブスカイト型複合酸化物を用いた酸素ストレージ材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジンの排ガス浄化装置においては、酸素ストレージ材を触媒金属とともに使用することにより触媒作用を高めたものが知られている。例えば、Pt等の触媒金属とセリア等の酸素ストレージ材をアルミナに担持させた三元触媒が挙げられる。この酸素ストレージ材は、排気ガスの酸素濃度が高いときには該ガス中の酸素を吸蔵し、酸素濃度が低いときには吸蔵していた酸素を放出して、触媒の雰囲気を理論空燃比付近に保つ働きをする。
【0003】
すなわち、排ガス浄化のメカニズムは、触媒金属表面上で排ガス成分のNOがN2になる還元反応と、COがCO2に、及びHCがH2OとCO2とになる酸化反応を同時に進行させるものであるが、低温条件下では排ガス中の酸素濃度が高いことが知られており、その結果、上記酸化・還元反応は起こりにくくなる。酸素ストレージ材は、酸素の授受を通じて上記酸化・還元反応を円滑に進める手助けをする。
【0004】
特許文献1には、エンジン排ガス用触媒に関し、ペロブスカイト型複合酸化物をO2ストレージ材として、アルミナ担体に混合することが記載されている。特許文献1に開示されるペロブスカイト型複合酸化物はLaとSrを構成元素とするものであり、具体的にはLa0.6Sr0.4FeO3、あるいはLa0.6Sr0.4CoO3の組成において500℃といった比較的低温での酸素吸収・放出量が改善され、触媒活性の向上に有利であるとされる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−41946号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、自動車エンジンの排ガス規制が厳しくなり、排ガス浄化装置には浄化性能の一層の向上が求められている。これに伴い、特にエンジン始動直後の低温下における触媒活性向上技術の確立が急務になっている。上記特許文献1のペロブスカイト型複合酸化物は500℃程度の低温活性の向上には有効である。しかし、エンジン始動直後のできるだけ早い段階から優れた触媒活性を得るためには、400℃程度の低温排ガスに対して、更なる酸素吸蔵性能の向上を実現する必要がある。特許文献1のものではこのような低温下での酸素吸蔵性能が十分とは言えない。
【0007】
本発明は、このような現状に鑑み、400℃程度の低温排ガス環境下において酸素吸蔵性能を大幅に改善し得る酸素ストレージ材を開発し提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは種々検討の結果、組成式ATO3(ただしTは遷移元素)においてAをアルカリ土類金属のみで構成したペロブスカイト型複合酸化物を用いたとき、上記目的に叶う酸素ストレージ材が達成できることを見出した。Tは遷移元素であるが、例えばその全部をFeで構成してAFeO3組成とすることができる。好適な例として、SrFeO3、あるいはCaFeO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物を用いた酸素ストレージ材が挙げられる。これらの酸素ストレージ材は、Pdなどの触媒金属と接触させた状態とし、エンジン排ガスの浄化用途に使用すると好適である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、400℃という低温環境でも酸素吸蔵性能を顕著に改善し得る酸素ストレージ材が提供された。本発明の酸素ストレージ材をエンジン排ガス浄化装置の助触媒として使用すると、触媒の排ガス浄化作用をエンジン始動直後の早い時期から急速に立ち上げることが可能になる。したがって本発明は、環境保全に貢献するとともに、自動車の製造においては、排ガス経路部材の過剰な保温対策を削減することによる設計自由度の向上とコスト低減に寄与し得るものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の酸素ストレージ材は、組成式ATO3(ただしTは遷移元素)においてAをアルカリ土類金属のみで構成したペロブスカイト型複合酸化物を用いたものである。このペロブスカイト型複合酸化物は、例えば以下のような方法で得られた前駆体を、当該組成のペロブスカイト型複合酸化物が単相化する温度域で焼成することによって製造することができる。以下、発明者らが行った前駆体の製造例を、SrFeO3組成のペロブスカイト型複合酸化物を得る場合を例に挙げて説明する。
【0011】
〔前駆体製造例1〕
硝酸ストロンチウムと硝酸鉄(II)を、SrとFeのモル比が1:1となるように秤量し、これらをイオン交換水と混合し、15℃で攪拌して充分に溶解させた。この液を攪拌しながら、炭酸アンモニウムを投入し、SrCO3とFe(OH)3の沈殿物を共沈させ、30分間熟成させた。その後、このスラリーを濾過、水洗して沈殿物を回収した。この沈殿物を大気中110℃で6時間乾燥し、アルミナ製乳鉢中で粉砕することにより前駆体を得た。
【0012】
〔前駆体製造例2〕
上記製造例1において、炭酸アンモニウムを投入する代わりに、アンモニウム溶液を投入したのちCO2暴気させる方法を採用し、前駆体を得た。
【0013】
〔前駆体製造例3〕
硝酸ストロンチウムと硝酸鉄(II)を、SrとFeのモル比が1:1となるように秤量し、これらをイオン交換水に混合し、前記各硝酸塩が完全に溶解するまで室温で攪拌し続けた。溶解終了後、クエン酸溶液を投入し、硝酸溶液またはアンモニア溶液を用いて溶液をpH7に保ちながら攪拌することで各金属塩をクエン酸に含浸させた(クエン酸錯体法)。含浸終了後、攪拌しながら80℃で2時間エバポレーターで加熱吸引して蒸発乾固させた。得られたゲルを大気中110℃で6時間乾燥し、アルミナ製乳鉢中で粉砕することにより前駆体を得た。
【0014】
その他、Sr、Feの各酸化物または炭酸塩をアルミナ乳鉢に入れ、充分に(例えば30分程度)攪拌混合する固相反応法によっても前駆体の製造が可能である。
【0015】
本発明に従う組成のペロブスカイト型複合酸化物は、Pdなどの触媒金属と接触させた状態において、酸素ストレージ材としての優れた「助触媒」の機能を発揮する。例えば、上記組成のペロブスカイト型複合酸化物を主体とする焼成体に、硝酸パラジウム水溶液を含浸させてスラリーとし、これをロータリー・エバポレーターで減圧しながら油浴中で蒸発乾固させ、更に大気雰囲気下で熱処理することによりPdを担持した酸素ストレージ材を製造することができる。触媒金属を担持した酸素ストレージ材は、エンジン排ガスの浄化装置用材料として好適に使用できる。
【実施例】
【0016】
〔実施例1〕
前記の「前駆体製造例1」の方法で前駆体を得た。この前駆体を大気中780℃で2時間焼成し、その後室温で放冷した。この焼成温度はSrFeO3が単相化する温度である。得られた焼成体をアルミナ乳鉢中で粉砕した。X線回折の結果、この粉砕品はペロブスカイト型複合酸化物であることが確認された。
【0017】
上記のようにして得られたSrFeO3組成のペロブスカイト型複合酸化物の粉体試料について、以下の方法で酸素吸蔵性能を調べた。
粉体試料0.100gをU字型の石英管に装填し、以下の各ガスを順次通気しすることにより前処理を行った。各ガスとも温度600℃、流速20〜40cm3/min、通気時間15分とした。
Heガス(水分除去)→O2ガス(酸化)→Heガス(脱気)→H2ガス(還元)→Heガス(脱気)。
これにより酸素が吸蔵されていない状態となった。その後、HeガスとともにO2ガスをパルス供給することにより、ガス温度400℃における酸素吸蔵量を測定した。パルス供給とは、吸着用ガス(ここではO2)を一定量ずつ複数回に分けて供給することを意味する。ここでは、供給ガス温度400℃、Heガス流速20〜40cm3/min、O2ガス供給量1000μL/回とした。パルス回数が多いと測定誤差が大きくなる傾向があるため、このO2供給量は、なるべく1回の供給量が多くなるようにする。試料を入れたU字管の中を通ったガスについて酸素センサーにて通過O2量を計測し、1回のO2ガス供給量とそのときの通過O2量が等しくなるまでパルス供給を続けた。初期のパルス回では酸素吸収速度が速いので通過O2量はほとんど検出されないが、吸収量が飽和量に近づくと通過O2量が検出されるようになる。その場合、その回の通過O2の検出量がゼロになってから次回の供給を行った。各パルス回の「O2ガス供給量−通過O2量」を積算して400℃における酸素吸蔵量を求めた。
結果を図1に示した(以下の実施例、比較例において同じ)。
【0018】
〔実施例2〕
前記の「前駆体製造例1」の方法において、原料の硝酸ストロンチウムの代わりに硝酸カルシウムを用い、CaとFeのモル比が1:1となるように秤量し、同様の方法でCaCO3とFe(OH)3の沈殿物を共沈させることにより、前駆体を得た。この前駆体を大気中1000℃で2時間焼成し、その後室温で放冷した。この焼成温度はCaFeO3が単相化する温度である。得られた焼成体をアルミナ乳鉢中で粉砕した。X線回折の結果、この粉砕品はペロブスカイト型複合酸化物であることが確認された。
このようにして得られたCaFeO3組成のペロブスカイト型複合酸化物の粉体試料について、実施例1と同様の方法で酸素吸蔵性能を調べた。
【0019】
〔比較例〕
組成式AFeO3においてAにLaを含む種々の組成のペロブスカイト型複合酸化物を製造し、その粉体試料について、実施例1と同様の方法で酸素吸蔵性能を調べた。
なお、比較例のペロブスカイト型複合酸化物は、蒸発乾固法により、特許文献1の実施例1に開示される方法に準じて製造した。
【0020】
〔試験結果〕
図1に、各例のO2吸蔵量(μmol/g)を示す。図中、左から比較例のLaFeO3、La0.8Sr0.2FeO3、La0.6Sr0.4FeO3、La0.5Sr0.5FeO3、La0.3Sr0.7FeO3、実施例1のSrFeO3、実施例2のCaFeO3である。
図1から判るように、組成式ATO3においてAをアルカリ土類金属のみで構成した本発明例のものは、Aに希土類元素を含ませた比較例のものと比べ、400℃という低温での酸素吸蔵性能が極めて高くなった。すなわち、本発明に従う組成のペロブスカイト型複合酸化物を用いると、低温特性に優れた酸素ストレージ材が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】実施例、比較例のペロブスカイト型複合酸化物について、酸素吸蔵量を比較したグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式ATO3(ただしTは遷移元素)においてAをアルカリ土類金属のみで構成したペロブスカイト型複合酸化物を用いた酸素ストレージ材。
【請求項2】
組成式AFeO3においてAをアルカリ土類金属のみで構成したペロブスカイト型複合酸化物を用いた酸素ストレージ材。
【請求項3】
組成式SrFeO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物を用いた酸素ストレージ材。
【請求項4】
組成式CaFeO3で表されるペロブスカイト型複合酸化物を用いた酸素ストレージ材。
【請求項5】
触媒金属と接触させた状態でエンジン排ガスの浄化に使用される請求項1〜4に記載の酸素ストレージ材。
【請求項6】
触媒金属がPdである請求項5に記載の酸素ストレージ材。

【図1】
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【公開番号】特開2006−176346(P2006−176346A)
【公開日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−369160(P2004−369160)
【出願日】平成16年12月21日(2004.12.21)
【出願人】(000224798)同和鉱業株式会社 (550)
【Fターム(参考)】