説明

酸素分離膜モジュールおよびその製造方法ならびに酸素分離膜モジュール用シール材

【課題】酸素分離膜モジュールの使用温度域以上(例えば1200〜1300℃)の高温下においても、高い耐熱性を有して気密に接合されたシール部(接合部)が形成されてなる酸素分離膜モジュールを提供すること。
【解決手段】本発明によって提供される酸素分離膜モジュール100は、多孔質基材12上に酸素分離膜14を備える酸素分離膜エレメント10と、金属部材(ガス管20,30)とを備えており、酸素分離膜エレメント10とガス管20,30との接合部分には、該接合部分におけるガス流通を遮断するシール部40が、ガラスマトリックス中に少なくともフォーステライト結晶が析出している結晶含有ガラス、あるいはガラスマトリックス中にMgO結晶と、クリストバライト結晶、リューサイト結晶およびフォーステライト結晶から選択される少なくとも1種とが析出している結晶含有ガラスによって形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素分離膜エレメントと金属部材とを備えた酸素分離膜モジュール(酸素分離装置)に関する。詳しくは、酸素イオン伝導性の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を備えた酸素分離膜エレメントと、金属部材(例えば該エレメントにガスを供給する金属製ガス管)とを基本構成要素とするモジュール、および上記酸素分離膜エレメントと金属部材とを接合して該モジュールを製造する方法、ならびに上記エレメントと金属部材とを気密性を有してシール部(接合部)を形成するためのシール材(接合材)に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素イオン(典型的にはO2−;酸化物イオンとも呼ばれる。)伝導性を有する酸素イオン伝導体として、いわゆるペロブスカイト型構造の酸化物セラミックスが知られている。特に、酸素イオン伝導体であることに加え、電子伝導性を兼ね備えた酸素イオン−電子混合伝導体(以下、単に「混合伝導体」という。)であるペロブスカイト型酸化物から成る緻密なセラミック材、典型的には膜状に形成されたセラミック材は、その両面を短絡させるための外部電極や外部回路を用いることなく一方の面から他方の面に連続して酸素イオンを透過させることができる。このため、かかるセラミック材は、特許文献1〜3に記載されるように、一方の面に供給された酸素含有ガス(空気等)から酸素を他方の面に選択的に透過させる酸素分離膜材として、特に使用温度が800℃以上1000℃未満というような高温域で好適に利用することができる。
【0003】
例えば、ペロブスカイト型酸化物等の混合伝導体から構成される酸素分離膜は、多孔質基材(多孔質支持体)上に形成されて酸素分離膜エレメントとして用いられ、深冷分離法やPSA(Pressure Swing Adsorption)法に代わる有効な酸素精製手段として好適に使用することができる。また、かかる構成の酸素分離膜エレメントは、酸素含有ガス(空気)と炭化水素ガスとを隔絶し、酸素を選択的に透過させて炭化水素の部分酸化反応を行うための酸化反応装置、いわゆる隔膜リアクタの構成要素として好適に利用することができる。すなわち、酸素分離膜の一方側の表面に酸素含有ガス、他方側の表面に炭化水素ガス(例えばメタン)をそれぞれ接触させると、一方の表面から酸素分離膜内を透過して供給される酸素イオンによって、他方の面において炭化水素が部分酸化される。このように酸素分離膜を利用して炭化水素を部分酸化する技術は、合成液体燃料(メタノール等)を製造するGTL(Gas To Liquid)技術、あるいは燃料電池分野で好適に使用される。
この種の従来技術として、特許文献1〜4には、混合伝導体であるいくつかのペロブスカイト型酸化物が記載されている。また、特許文献5〜9には、ペロブスカイト型酸化物から構成された酸素分離膜を備える酸素分離材(膜エレメント)の例が開示されている。また、特許文献10〜11には、円筒状の酸素分離材(エレメント)と当該酸素分離材を備える装置(モジュール)が記載されている。
【0004】
ところで、上記円筒形状あるいはその他の形状の酸素分離材(膜エレメント)を基本構成要素として酸素分離装置(モジュール)を構築する場合、種々の部材が相互に接合される結果、酸素分離膜モジュールは気密性を保持するシール部(接合部)を伴う形態で構築される。
かかる酸素分離膜モジュールの中には、金属製の部材(金属部材、例えば所定のガスを酸素分離膜エレメントに供給するためのガス管)を備え、該金属部材とセラミック製の部材とが接合してシール部が形成されているものもある。金属部材は、セラミックス製のものと比べると多様な形状に成形し易く、安価に製造できるとともに、取り扱いも容易である。このため、最近では、酸素分離膜モジュールの実用化に伴って金属部材の使用が増加しており、酸素分離膜エレメントと金属部材とを、気密性高く接合するとともに、単純に直接的に、且つ安価に接合できる方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−251534号公報
【特許文献2】特開2000−251535号公報
【特許文献3】特表2000−511507号公報
【特許文献4】特開2001−93325号公報
【特許文献5】国際公開第WO2003/040058号パンフレット
【特許文献6】特開2006−82040号公報
【特許文献7】特開2007−51032号公報
【特許文献8】特開2007−51034号公報
【特許文献9】特開2007−51035号公報
【特許文献10】特開平11−70314号公報
【特許文献11】特開2002−292234号公報
【特許文献12】特開2004−39573号公報
【特許文献13】特開2007−149430号公報
【特許文献14】特表2008−527680号公報
【特許文献15】特表2008−529256号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のような酸素分離膜モジュールにおけるセラミック部材と金属部材とを接合する方法としては、所定の接合材(シール材)を用いる方法が典型的である。かかるシール材として、本願発明とは直接的な関係はないが、例えば上記特許文献12〜15に示されるように、種々のSOFC(固体酸化物形燃料電池)用接合材(シール材)が提案されている。特許文献12では、アルミナや安定化ジルコニア等のセラミックス粉や金属粉が混入しているシール材であって低温(650〜800℃)で作動するSOFC用ガラスシール材が提案されている。特許文献13では、ケイ素(Si)を含むガラス成分にマグネシアやマグネシウムのケイ酸塩が含まれる非晶質ガラスのシール材が提案されている。また、特許文献14および15では、アルミナ、安定化ジルコニア、白榴石がミル添加物としてガラスにブレンドされたシール材が提案されている。
しかし、上記のようなシール材は、セラミックスとガラスの混合物、あるいは金属とガラスの混合物から構成されているため、ガラス中へのセラミックスまたは金属の分散性によってシール性にばらつきが生じ得ることから上記シール材中のセラミックスや金属を良好に分散させる必要がある。また、上記シール材では、ガラスとセラミックスまたはガラスと金属の界面がクラックの発生起点になり易い虞がある。
【0007】
また、近年、酸素分離膜モジュールの製造にあたり、製造プロセスの効率化およびコスト削減を目的として、例えば、酸素分離膜エレメントの酸素分離膜の形成、ならびに、該エレメントと該エレメントに接続される金属部材との接合(スタッキング)を一回の焼成工程で同時に行う(すなわち同時に焼成する。)ことが検討されている。かかる同時焼成を実現するためには、酸素分離膜の焼成温度(例えば1200〜1300℃、より好ましくは1200〜1400℃)に曝されても溶出の虞のない高耐熱性のシール材が必要である。
したがって、酸素分離膜モジュールの使用高温域(例えば800℃以上1000℃未満)よりもさらに高温条件下(例えば酸素分離膜の焼成温度である1200〜1400℃)において接合対象の酸素分離膜エレメントおよび金属部材と同程度の熱膨張係数を有し得るシール部であって上記高温雰囲気に十分に耐え得る強度(耐熱性)と気密性(シール性)とを高い次元で実現し得るシール部(接合部)の形成を実現可能なシール材(接合材)が望まれていた。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、酸素分離膜モジュールの使用温度域(例えば800℃以上1000℃未満)およびそれ以上(典型的には1000℃以上、特に1200℃以上、例えば1200〜1300℃)の高温下においても、酸素分離膜エレメントと金属部材とが高い耐熱性を有して気密に接合(シール)されていることを特徴とする酸素分離膜モジュールを提供することである。また、そのような高い耐熱性と高い気密性とを高いレベルで両立するシール部(接合部)を形成するために用いるシール材を提供することを他の目的とする。さらに、そのようなシール材を用いて酸素分離膜モジュールを製造する方法を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、酸素分離膜モジュールの製造にあたり、酸素分離膜エレメントを構成する酸素分離膜の形成と、酸素分離膜エレメントと金属部材との接合とを一度の焼成で同時に行うことを実現するために鋭意検討を重ねた。その結果、酸素分離膜の形成に必要な焼成温度域(典型的には1000℃以上、特に1200℃以上)においても、酸素分離膜エレメントと金属部材とを気密に接合できる高耐熱性のシール材を見出した。かかるシール材を用いることにより、酸素分離膜の形成と、酸素分離膜エレメントと金属部材との接合を同時に行うことが実現されるに至った。また、かかるシール材を用いて製造された酸素分離膜モジュールは、該モジュールの使用温度域(例えば800〜1000℃未満)に曝されても上記シール材の溶出がなく、また上記使用温度域と非使用時の温度(室温)との間で昇温と降温とを繰り返して使用しても高いシール性を保持できるシール部であって耐熱性と耐久性(機械的強度)に優れたシール部を備える高性能の酸素分離膜モジュールを実現するに至った。
【0010】
すなわち、使用温度域およびそれ以上の高温下でも高い気密性が保持されるような酸素分離膜エレメントと金属部材との接合を実現するべく、本発明により提供される一つの態様の酸素分離膜モジュールは、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと、該酸素分離膜エレメントに接合された金属部材(例えば金属製ガス管)とを(主要構成要素として)備える。上記酸素分離膜エレメントと上記金属部材との接合部分には、該接合部分におけるガス流通を遮断する(すなわち該接合部分における気密性を保持する)シール部が形成されている。該シール部は、ガラスマトリックス中に結晶成分を含む結晶含有ガラスであって少なくともフォーステライトが析出している結晶含有ガラスによって形成されている。また、該結晶含有ガラスは、以下の5つの構成元素(必須構成元素であるSi、Al、Na、Kと、任意的構成元素であるCa)を、酸化物換算で該5つの構成元素全体を100質量%として以下の組成:
SiO 40〜72質量%;
Al 10〜22質量%;
NaO 8〜22質量%;
O 8〜22質量%;
CaO 0〜 4質量%;
で有している。また、上記結晶含有ガラスは、さらに構成元素としてMgを有しており、酸化物換算(MgO換算)で前記結晶含有ガラス全体を100質量%としてMgOの質量組成が1質量%以上13質量%未満であるとともに、このうちの少なくとも半分の量は上記ガラスマトリックス中に析出している結晶の構成成分として存在していることを特徴とする。
ここで開示される酸素分離膜モジュールとして好ましくは、さらに上記結晶含有ガラスの熱膨張係数の上記金属部材の熱膨張係数に対する比が0.7以上1以下であることを特徴とする。
なお、本発明の技術的範囲の説明において「〜」を使用した数値範囲は、当該「〜」の左右の数値を包含する範囲である(すなわち数値範囲「A〜B」は、A以上B以下をいう。)。また、本明細書中で「膜」とは特定の厚みに限定されず、上記酸素分離膜エレメントにおいて、少なくとも「酸素イオン伝導体(好ましくは混合伝導体)」として機能する膜状若しくは層状の部分をいう。
【0011】
本態様に係る酸素分離膜モジュールでは、酸素分離膜エレメント(例えば該酸素分離膜エレメントにおける酸素分離膜)と金属部材(例えば酸素分離膜にガスを供給するためのガス管)との接合部分が、ガラスマトリックス中に少なくともフォーステライト結晶が析出している結晶含有ガラス(例えばガラスマトリックス中に上記フォーステライトの微細結晶が分散状態で析出されるガラス組成物)によってシールされている。
かかるシール部を構成する結晶含有ガラスが上記のような結晶成分を含有することにより、当該酸素分離膜モジュールの使用温度域(例えば800℃以上1000℃未満)、およびそれ以上(典型的には1000℃以上、特に1200℃以上、例えば1200〜1300℃、より好ましくは1200〜1400℃)の高温域下に曝されても、該結晶含有ガラス中に析出している結晶の溶解が好ましく防止されて、流動し難い。したがって、本発明に係る酸素分離膜モジュールによると、上記のような高温域(特に1200℃以上)に到達しても、上記結晶含有ガラスにより形成された酸素分離膜エレメントと金属部材とのシール部が溶出する虞がなく、かかるシール部の耐熱性の向上を実現することができる。その一方、上記結晶含有ガラスは、上記温度域においても柔軟性を有する。このことにより、本態様に係る酸素分離膜モジュールによると、上記結晶含有ガラスにより形成されたシール部に応力が生じた場合であっても、該応力を緩和してクラックや剥離等の発生を抑制することができ、かかるシール部の機械的強度の向上を実現することができる。
【0012】
また、上記シール部を形成する結晶含有ガラスが上記のような質量組成で実質的に構成されているので、かかる結晶含有ガラス(からなるシール部)は、酸素分離膜エレメントおよび金属部材(もしくは該酸素分離膜エレメントと金属部材との接合体全体)の熱膨張係数(熱膨張率)に近似した熱膨張係数を有し得る。好ましくは、かかる結晶含有ガラスの熱膨張係数Cが上記金属部材の熱膨張係数Cの0.7〜1の割合を満たしている(すなわち0.7≦Z≦1、ここでZ=C/C)。このため、かかるシール部を備える酸素分離膜モジュールでは、上記使用温度域(例えば800℃以上1000℃未満、さらに高温域、例えば1000〜1200℃を包含し得る。)で長時間使用したり、上記使用温度域と非使用時の温度(室温)との間で昇温と降温とを繰り返して使用したりしても、あるいは上記使用温度域以上の高温下に曝す処理を施した場合があっても、上記シール部からのガスのリークが防止され、長期にわたり高い気密性と機械的強度を保持することができる。またガスリークの防止により上記酸素分離膜モジュールの性能も向上させることができる。
さらに、上記ガラスマトリックス中に析出するフォーステライト結晶、あるいは該フォーステライト結晶とともに上記ガラスマトリックス中に析出し得る結晶、例えばクリストバライト(SiO)結晶、リューサイト(KAlSi)結晶等は、いずれもイオン伝導性も導電性も有さない絶縁体であることから、上記結晶含有ガラスとして好適な態様のものは、完全な絶縁性を有し得る。このことにより、かかる態様の酸素分離膜モジュールによると、絶縁性を有するシール部の形成を実現でき、該シール部を通じたイオン伝導や電子伝導を回避することができる。
したがって、かかる態様の酸素分離膜モジュールによると、耐熱性と耐久性(機械的強度)に優れた絶縁性のシール部を備える高性能の酸素分離膜モジュールを実現することができる。
【0013】
本発明により提供される別の一態様の酸素分離膜モジュールは、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと、該酸素分離膜エレメントに接合された金属部材とを(主要構成要素として)備える。上記酸素分離膜エレメントと上記金属部材との接合部分には、該接合部分におけるガス流通を遮断する(すなわち該接合部分における気密性を保持する)シール部が形成されている。該シール部は、ガラスマトリックス中に結晶成分を含む結晶含有ガラスであって酸化マグネシウム(MgO)からなる結晶と、クリストバライト結晶、リューサイト結晶およびフォーステライト結晶から選択される少なくとも1種の結晶とが析出している結晶含有ガラスによって形成されている。また、該結晶含有ガラスは、以下の5つの構成元素(必須構成元素であるSi、Al、Na、Kと、任意的構成元素であるCa)を、酸化物換算で該5つの構成元素全体を100質量%として以下の質量組成:
SiO 40〜72質量%;
Al 10〜22質量%;
NaO 8〜22質量%;
O 8〜22質量%;
CaO 0〜 4質量%;
で有している。また、上記結晶含有ガラスは、さらに構成元素としてMgを有しており、酸化物換算(MgO換算)で上記結晶含有ガラス全体を100質量%としてMgOの質量組成が13質量%以上30質量%以下であるとともに、このうちの少なくとも半分の量は上記ガラスマトリックス中に析出している結晶の構成成分として存在していることを特徴とする。
ここで開示される酸素分離膜モジュールとして好ましくは、上記結晶含有ガラスの熱膨張係数の上記金属部材の熱膨張係数に対する比が0.7以上1以下であることを特徴とする。
【0014】
本態様に係る酸素分離膜モジュールでは、酸素分離膜エレメント(典型的には該膜エレメントにおける多孔質基材および/または酸素分離膜)と金属部材(例えば該酸素分離膜エレメントにガスを供給するためのガス管)との接合部分が、ガラスマトリックス中にMgOからなる結晶に加え、クリストバライト結晶、リューサイト結晶、フォーステライト結晶のうちの少なくとも1種が析出している結晶含有ガラス(例えばガラスマトリックス中に上記各種の微細結晶が分散状態で析出されるガラス組成物)からなるシール材によってシールされている。かかるシール材を構成する結晶含有ガラスが上記のような結晶成分を含有することにより、当該酸素分離膜モジュールの使用温度域(例えば800℃以上1000℃未満)およびそれ以上(典型的には1000℃以上、例えば1200〜1300℃、より好ましくは1200〜1400℃)の高温域下に上記モジュールのシール部が曝されても、該シール材に析出している結晶の溶解が好ましく防止されて、流動し難い。また、上記のような質量組成の結晶含有ガラスが形成するシール部は、該シール部によってシールされている酸素分離膜エレメントおよび金属部材の熱膨張係数(熱膨張率)に近似した熱膨張係数を有し得る。また好ましくは、該シール部を形成する結晶含有ガラスの熱膨張係数の上記金属部材の熱膨張係数に対する比が0.7以上1以下である関係を満たしている。このことにより、上記シール部からのガスのリークが防止され、長期にわたり高い気密性と機械的強度を保持することができる。さらに、MgO結晶を始めとする上記結晶はイオン伝導性も導電性も有さない絶縁体であることから、上記結晶含有ガラスは、完全な絶縁性を有する。
したがって、本態様に係る酸素分離膜モジュールによると、上記のような高温域に到達しても、上記結晶含有ガラスからなるシール材を用いて形成されたシール部が溶出する虞がない一方、該シール部におけるクラックや剥離等の発生が抑制されてガスリークが防止され、耐熱性の向上と機械的強度の向上を実現するとともに絶縁性を有するシール部を備えた高性能の酸素分離膜モジュールが提供される。
【0015】
ここで開示される酸素分離膜モジュールのより好ましい一態様では、上記シール部を構成する結晶含有ガラスは、少なくとも1200℃の温度下に曝された後も10×10−6−1〜14×10−6−1の熱膨張係数を維持する。
かかる熱膨張係数(典型的には、一般的な示差膨張方式(TMA)に基づく室温(25℃)〜ガラス軟化点以下の温度(例えば500℃)の間の平均値)は、例えば酸素分離膜材料として好適に用いられ得るペロブスカイト型酸化物等の熱膨張係数と近似する。また、かかる熱膨張係数は、金属部材に用いられ得る典型的な金属材料種の熱膨張係数との間で上記関係(すなわち0.7≦Z≦1)を好ましく満たすことができる。したがって、かかる構成の酸素分離膜モジュールによると、上記熱膨張係数を有して気密性と機械的強度とを高い次元で保持し得るシール部を備えた高性能の酸素分離膜モジュールを実現することができる。
【0016】
上記熱膨張係数を有する結晶含有ガラスによって形成されるシール部を備えた酸素分離膜モジュールの好ましい一態様では、上記金属部材の熱膨張係数が、10×10−6−1〜17×10−6−1である。
かかる構成の酸素分離膜モジュールによると、上記金属部材が上記のような範囲の熱膨張係数を有するため、上記シール部を形成する結晶含有ガラスと上記関係(すなわち0.7≦Z≦1)をより一層好ましく満たしており、より優れた耐熱性と耐久性を有するシール部を備えた高性能の酸素分離膜モジュールを実現することができる。
【0017】
ここで開示される酸素分離膜モジュールの別の好ましい一態様では、上記酸素分離膜は、一般式(1):Ln1−xMO3−δで表される組成のペロブスカイト構造を有する酸化物セラミックスにより構成されている。ただし、式中のLnはランタノイドから選択される少なくとも1種であり、AはSr、CaおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、Mは、ペロブスカイト型構造を構成し得る1種または2種以上の金属元素であり、0≦x<1であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。
かかる構成の酸素分離膜モジュールでは、かかる酸化物セラミックスから構成される酸素分離膜と上記金属部材との間を、上記結晶含有ガラスによって特に好ましく接合してシール部を形成させることができる。したがって、かかる構成の酸素分離膜モジュールによると、さらに優れた耐熱性と耐久性を有するシール部を備えた酸素分離膜モジュールを実現することができる。
【0018】
本発明は、他の側面として、上記のような酸素分離膜モジュールのシール部を形成するために用いられるシール材を提供する。すなわち、本発明により提供される一つの態様のシール材は、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと該膜エレメントに接合された金属部材とを備える酸素分離膜モジュールにおいて上記酸素分離膜エレメントと上記金属部材とをシールして接合するための酸素分離膜モジュール用シール材(接合材)である。このシール材は、以下の5つの構成元素(必須構成元素であるSi、Al、Na、Kと、任意的構成元素であるCa)を、酸化物換算で該5つの構成元素全体を100質量%として以下の質量組成:
SiO 40〜72質量%;
Al 10〜22質量%;
NaO 8〜22質量%;
O 8〜22質量%;
CaO 0〜 4質量%;
で有する結晶含有ガラスであってガラスマトリックス中に少なくともフォーステライト結晶が析出している結晶含有ガラスを主体としている。また、上記結晶含有ガラスは、さらに構成元素としてMgを有しており、酸化物換算で前記ガラス全体を100質量%としてMgOの質量組成が1質量%以上13質量%未満であるとともに、このうちの少なくとも半分の量は上記ガラスマトリックス中に析出している結晶の構成成分として存在していることを特徴とする。
ここで開示されるシール材として好ましくは、上記結晶含有ガラスの熱膨張係数の上記金属部材の熱膨張係数に対する比が0.7以上1以下を満たすように調製されていることを特徴とする。
本態様に係るシール材によると、酸素分離膜モジュールの使用温度域(例えば800℃以上1000℃未満)、およびそれ以上(典型的には1000℃以上、特に1200℃以上、例えば1200〜1300℃、より好ましくは1200〜1400℃)の高温域にも耐え得る優れたシール材が提供されるとともに、かかるシール材を用いることによって、高い耐熱性と耐久性を有するシール部(接合部)が形成された高性能の酸素分離膜モジュールを提供することができる。
【0019】
また、本発明により提供される別の一態様のシール材は、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと該酸素分離膜エレメントに接合された金属部材とを備える酸素分離膜モジュールにおいて上記酸素分離膜エレメントと上記金属部材とをシールして接合するためのシール材である。このシール材は、以下の5つの構成元素(必須構成元素であるSi、Al、Na、Kと、任意的構成元素であるCa)を、酸化物換算で該5つの構成元素全体を100質量%として以下の質量組成:
SiO 40〜72質量%;
Al 10〜22質量%;
NaO 8〜22質量%;
O 8〜22質量%;
CaO 0〜 4質量%;
で有する結晶含有ガラスであってガラスマトリックス中に酸化マグネシウム(MgO)からなる結晶と、クリストバライト結晶、リューサイト結晶およびフォーステライト結晶から選択される少なくとも1種の結晶とが析出している結晶含有ガラスを主体としている。また、上記結晶含有ガラスは、さらに構成元素としてMgを有しており、酸化物換算で上記結晶含有ガラス全体を100質量%としてMgOの質量組成が13質量%以上30質量%以下であるとともに、このうちの少なくとも半分の量は上記ガラスマトリックス中に析出している結晶の構成成分として存在していることを特徴とする。
ここで開示されるシール材として好ましくは、上記金属部材の熱膨張係数に対する上記結晶含有ガラスの熱膨張係数の比が0.7以上1以下を満たすように調製されている。
本態様に係るシール材によると、酸素分離膜モジュールの上記使用温度域およびそれ以上の高温域にも耐え得る優れたシール材が提供されるとともに、かかるシール材を用いることによって、高い耐熱性と耐久性を有するシール部(接合部)が形成された高性能の酸素分離膜モジュールを提供することができる。
【0020】
ここで開示される酸素分離膜モジュール用シール材の好ましい一態様では、少なくとも1200℃の温度下に曝された後も熱膨張係数が10×10−6−1〜14×10−6−1を維持するように調製されている。
かかる熱膨張係数は、酸素分離膜モジュールの構成部材(例えば酸素分離膜やガス管等)の熱膨張係数に近似する。また、好ましくは、金属部材に用いられ得る典型的な金属材料種の熱膨張係数との間で上記関係(すなわち0.7≦Z≦1)を好ましく満たすことができる。したがって、かかる構成のシール材を使用することにより、高い耐熱性および耐久性を有するシール部(接合部)の形成を実現するとともに、該シール部を備えた高性能の酸素分離膜モジュールを提供することができる。
【0021】
また、本発明は、他の側面として、上記のような酸素分離膜モジュール用シール材を製造する方法を提供する。すなわち、本発明により提供される製造方法の一つの態様は、以下の工程を包含する。すなわち、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40〜70質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 8〜20質量%;
O 8〜20質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
から実質的に構成されるように調製されたガラス原料粉末を用意し、該原料粉末を溶融してガラス(ガラス質中間体)を調製すること、上記調製したガラス(ガラス質中間体)を粉砕後、MgO粉末を上記ガラス原料粉末全体の1質量%以上10質量%未満に相当する量で添加して上記ガラス(ガラス質中間体)と上記MgOとの混合粉末を調製すること、および、上記混合粉末を結晶化処理することにより、上記ガラスのマトリックス中に結晶成分として少なくともフォーステライト結晶を析出させること、を包含する。
本態様に係るシール材の製造方法では、ガラスマトリックス中に結晶成分を析出させる結晶化処理を実施する前に、ガラスマトリックスを構成し得るMgOとは別に、(主として結晶を構成し得るMgとして)MgO粉末をガラス(ガラス質中間体)に添加しておくことにより、上記混合粉末から少なくともフォーステライト結晶を析出させることができる。
また、かかる方法によって得られるシール材は、上記結晶化処理後にMgO粉末を添加することにより得られるシール材に比べて、1200℃以上(例えば1200℃)の高温域においてもその熱膨張係数を10×10−6−1〜14×10−6−1の範囲内に維持し得るため、酸素分離膜モジュールの各構成材料等の熱膨張係数により近似させることができ、酸素分離膜モジュール用シール材として好ましく用いることができる。したがって、かかる態様の製造方法によると、上記高温域下でも高い気密性と機械的強度を備えるとともに絶縁性を有するシール部を形成可能なシール材であって酸素分離膜モジュールに好適なシール材を提供することができる。
【0022】
また、本発明により提供される別の一態様の酸素分離膜モジュール用シール材の製造方法は、以下の工程を包含する。すなわち、酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40〜70質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 8〜20質量%;
O 8〜20質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
から実質的に構成されるように調製されたガラス原料粉末を用意し、該原料粉末を溶融してガラスを調製すること、上記調製したガラスを粉砕後、MgO粉末を上記ガラス原料粉末全体の10質量%以上30質量%以下に相当する量で添加して上記ガラスと上記MgOとの混合粉末を調製すること、および、
上記混合粉末を結晶化処理することにより、上記ガラスのマトリックス中に結晶成分として酸化マグネシウム(MgO)からなる結晶と、クリストバライト結晶、リューサイト結晶およびフォーステライト結晶から選択される少なくとも1種の結晶とを析出させること、を包含する。
かかる構成のシール材の製造方法では、ガラスマトリックス中に結晶成分を析出させる結晶化処理を実施する前に、ガラスマトリックスを構成し得るMgOとは別に、(主として結晶を構成し得るMgとして)MgO粉末をガラス(ガラス質中間体)に添加しておくことにより、上記混合粉末からMgOからなる結晶と、クリストバライト結晶、リューサイト結晶およびフォーステライト結晶から選択される少なくとも1種の結晶とを析出させることができる。
また、かかる方法によって得られるシール材は、上記結晶化処理後にMgO粉末を添加することにより得られるシール材に比べて、1200℃以上(例えば1200℃)の高温域においてもその熱膨張係数を10×10−6−1〜14×10−6−1の範囲内に維持し得るため、酸素分離膜モジュールの各構成材料等の熱膨張係数により近似させることができる。したがって、かかる製造方法によると、高温域下でも高い気密性と機械的強度を備えるとともに絶縁性を有するシール部を形成可能なシール材であって酸素分離膜モジュールに好適なシール材を提供することができる。
【0023】
また、かかる製造方法の好ましい一態様では、上記結晶化処理として、上記混合粉末を、結晶化を誘起し得る温度域(典型的には1000℃以下、例えば800〜1000℃)で適当な所定時間(例えば800〜1000℃の温度域では30分間〜60分間)加熱する処理が挙げられる。
かかる構成の製造方法によると、上記のような加熱条件で結晶化処理を行うことにより、ガラスマトリックス中に各種結晶が析出した結晶含有ガラスからなるシール材であって酸素分離膜モジュール用シール材として好適なシール材を提供することができる。
【0024】
また、本発明は、他の側面として上記のようなシール材を用いて酸素分離膜エレメントと金属部材(例えばガス管)とを接合(シール)することにより酸素分離膜モジュールを製造する方法を提供する。すなわち、本発明に係る酸素分離膜モジュールの製造方法は、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと該膜エレメントに接合された金属部材とを備える酸素分離膜モジュールを製造する方法である。この方法は、以下の工程(1)〜(4)を包含する。すなわち、(1)上記ペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜用材料が上記多孔質基材上に塗布されてなる塗布膜が形成されている膜エレメントを用意すること、(2)上記金属部材を用意すること、(3)ここで開示されるいずれかのシール材であってガラスマトリックス中に少なくともMgを構成元素として含む結晶が析出しているガラスからなるシール材を、上記塗布膜が形成された膜エレメントと金属部材とを接続した部分に付与すること、および(4)上記シール材が付与されて互いに接続している上記膜エレメントと上記金属部材とを、上記塗布膜の焼成温度域で焼成することによって、上記塗布膜が焼成されてなる酸素分離膜を上記多孔質基材上に形成すること、および上記膜エレメントと上記金属部材との接続部分に該シール材からなるガス流通を遮断するシール部を形成して互いに接合することを同時に行うこと、を包含する。
【0025】
本発明に係る酸素分離膜モジュールの製造方法では、該モジュールを構成する酸素分離膜エレメント(例えば該酸素分離膜エレメントにおける酸素分離膜、または該酸素分離膜と多孔質基材)と金属部材との接続部分を接合してシール部を形成するのにここで開示されるシール材を用いる。かかるシール材の使用により、上記未焼成状態の塗布膜を焼成して酸素分離膜を形成する際に、上記塗布膜の焼成温度域(例えば1200〜1400℃)でも上記シール材が溶出することなく、上記シール部を気密性高く好ましく形成することができる。これによって、上記酸素分離膜の形成と上記シール材によるシール部の形成(上記酸素分離膜エレメントと金属部材との接合)とを一度の焼成で同時に行うことができる。したがって、かかる製造方法によると、酸素分離膜の形成と製造プロセスの効率化とコスト削減を実現できるとともに、耐熱性と耐久性に優れる高性能の酸素分離膜エレメントの提供を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】酸素分離膜エレメントと該エレメントに接合された金属部材としてのガス管とを備えた酸素分離膜モジュールの一形態を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、シール材を構成する結晶含有ガラスの調製方法)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(原料粉末の混合方法、ガス管や多孔質基材の成形方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0028】
ここで開示される一態様の酸素分離膜モジュール用シール材(以下、「シール材1」という場合がある。)は、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと該酸素分離膜エレメントに接合された金属部材とを(基本構成要素として)備える酸素分離膜モジュールに用いるためのシール材であって、特に、上記酸素分離膜エレメントと上記金属部材とをシールして接合するためのシール材である。また、かかるシール材は、ガラスマトリックス中に結晶成分を含む結晶含有ガラスであって少なくともフォーステライト(MgSiO)結晶が析出している結晶含有ガラス(以下、「結晶含有ガラス1」という場合がある。)を主体とすることによって特徴づけられるものであある。また、該結晶含有ガラス1は、Si、Al、Na、K、Caの5つの構成元素を、酸化物換算で該5つの構成元素全体を100質量%としてSiOが40〜72質量%、Alが10〜22質量%、NaOが8〜22質量%、KOが8〜22質量%、CaOが0〜4質量%となる質量組成で有しており、さらに構成元素としてMgを有しており酸化物換算でMgOの質量組成が上記結晶含有ガラス1全体を100質量%として1質量%以上13質量%未満であるとともに、このうちの半分の量は上記ガラスマトリックス中に析出している結晶の構成成分として存在していることを特徴としている。また、上記金属部材の熱膨張係数に対する上記結晶含有ガラス1の熱膨張係数の比が0.7以上1以下を満たすように調製されていることが好ましい。
【0029】
ここで開示される他の一態様の酸素分離膜用モジュール用シール材(以下、「シール材2」という場合がある。)は、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと該酸素分離膜エレメントに接合された金属部材とを(基本構成要素として)備える酸素分離膜モジュールに用いるためのシール材であって、特に、上記酸素分離膜エレメントと上記金属部材とをシールして接合するためのシール材である。また、かかるシール材は、ガラスマトリックス中に結晶成分を含む結晶含有ガラスであって酸化マグネシウム(MgO)からなる結晶と、クリストバライト(SiO)結晶、リューサイト(KAlSiあるいは4SiO・Al・KO)結晶およびフォーステライト(MgSiO)結晶から選択される少なくとも1種の結晶とが析出している結晶含有ガラス(以下、「結晶含有ガラス2」という場合がある。)を主体とすることによって特徴づけられるものである。また、該結晶含有ガラス2は、Si、Al、Na、K、Caの5つの構成元素を、酸化物換算で該5つの構成元素全体を100質量%としてSiOが40〜72質量%、Alが10〜22質量%、NaOが8〜22質量%、KOが8〜22質量%、CaOが0〜4質量%となる質量組成で有しており、さらに構成元素としてMgを有しており酸化物換算でMgOの質量組成が上記結晶含有ガラス2全体を100質量%として13質量%以上30質量%以下であるとともに、このうちの半分の量は上記ガラスマトリックス中に析出している結晶の構成成分として存在していることを特徴としている。また、上記金属部材の熱膨張係数に対する上記結晶含有ガラス1の熱膨張係数の比が0.7以上1以下を満たすように調製されていることが好ましい。
【0030】
かかる特徴を有するガラスシール材1および2を用いることにより、上記構成の酸素分離膜モジュールを製造する際には、多孔質基材上に酸素分離膜を形成すること、および酸素分離膜エレメント(典型的にはその酸素分離膜)と金属部材とを気密に接合する(すなわち接合部分にシール部を形成する)ことを一度の焼成で同時に行うことが実現される。
すなわち、ここで開示される酸素分離膜モジュールの製造方法は、以下の工程、
(1)ペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜用材料が多孔質基材上に塗布されてなる塗布膜が形成されている膜エレメントを用意すること、
(2)金属部材を用意すること、
(3)ガラスマトリックス中に上記シール材1または2を、上記塗布膜が形成された膜エレメントと金属部材とを接続した部分に付与すること、および
(4)上記シール材1または2が付与されて互いに接続している上記膜エレメントと上記金属部材とを、上記塗布膜の焼成温度域で焼成することによって、上記塗布膜が焼成されてなる酸素分離膜を多孔質基材上に形成すること、および上記膜エレメントと上記金属部材との接続部分に該シール材からなるガス流通を遮断する(該接合部分における気密性を保持する)シール部を形成して互いに接合することを同時に行うこと、を包含することを特徴としている。
【0031】
また、ここで開示される一態様の酸素分離膜モジュール(以下、「第1の酸素分離膜モジュール」という場合がある。)は、上記シール材1を用いることにより酸素分離膜エレメントと金属部材とが接合されて該接合部分にシール部が形成されていることを特徴としている。すなわち、第1の酸素分離膜モジュールは、その主要構成要素(部材)である酸素分離膜エレメントと金属部材との接合部分が、上記結晶含有ガラス1によって形成されていることによって特徴づけられるものである。
また、ここで開示される他の一態様の酸素分離膜モジュール(以下、「第2の酸素分離膜モジュール」という場合がある。)は、上記シール材2を用いることにより酸素分離膜エレメントと金属部材とが接合されて該接合部分にシール部が形成されていることを特徴としている。すなわち、第2の酸素分離膜モジュールは、その主要構成要素(部材)である酸素分離膜エレメントと金属部材との接合部分が、上記結晶含有ガラス2によって形成されていることによって特徴づけられるものである。
したがって、その他の構成成分の内容や組成については、種々の基準に照らして任意に決定することができる。
【0032】
ここで開示される上記第1および第2の酸素分離膜モジュールは、典型的には上述の製造方法によって好ましく製造される。
以下、上記第1および第2の酸素分離膜モジュールについて、上記製造方法の工程に沿って説明する。なお、以下の説明において上記第1の酸素分離膜モジュールか第2の酸素分離膜モジュールかを特定していない記載は、これら酸素分離膜モジュールに共通する説明である。
【0033】
まず、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜用材料が多孔質基材上に塗布されてなる塗布膜が形成されている膜エレメントを用意する。
酸素分離膜の支持体として機能する多孔質基材としては、従来のこの種の膜エレメント(例えば酸素分離膜エレメント)で採用されている種々の性状のセラミック多孔質体を使用することができる。上記酸素分離膜モジュールの使用温度域(典型的には800℃以上1000℃未満)および典型的には該温度域より高温である酸素分離膜の焼成温度域(典型的には1000℃以上、特に1200℃以上、例えば1200〜1300℃、好ましくは12000〜1400℃)において安定な耐熱性を有する材質からなるものが好ましく用いられる。例えば、酸素分離膜と同様の組成を有するセラミック多孔質体、あるいはマグネシア(酸化マグネシウム;MgO)、ジルコニア(酸化ジルコニウム;ZrO)、窒化ケイ素(Si)、炭化ケイ素(SiC)等を主体とするセラミック多孔質体を用いることができる。あるいは、金属材料を主体とする金属質多孔体を用いてもよい。本実施形態では、安価で入手し易く、機械的強度に優れるMgOを用いる。
かかる多孔質支持体の形状は特に限定されず、例えば、板状(平面状、球面状等を含む。)や、管状(両端が開口した開管状、一端が開口し他端が閉じている閉管状等を含む。)等が挙げられ、その所定部分の一部または全面に酸素分離膜を形成させることができる。また、かかる多孔質基材の気孔率(水銀圧入法に基づく)についても特に限定されないが、例えば凡そ80体積%以下(典型的には凡そ5〜80体積%)が適当であり、好ましくは60体積%以下(典型的には50〜60体積%)である。また、かかる多孔質基材の平均細孔径(水銀圧入法に基づく)としては、例えば20μm以下(典型的には0.1μm〜20μm)が好ましい。このような気孔率および平均細孔径を有する多孔質基材は、酸素含有ガス等の気体の透過を妨げることがなく、またその表面により薄い酸素分離膜を好適に形成することができる。
【0034】
酸素分離膜を構成する酸化物セラミックスは、酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造をとるものであればよく、特定の構成元素のものに限られないが、酸素イオン伝導性と電子伝導性の両方を有する優れた混合伝導体となるような元素で構成されることが好ましい。かかる酸素分離膜が混合伝導性を有する場合には、酸素分離膜の一方の側(酸素含有ガスが供給される側)と他方の側(酸素分離膜材を透過した酸素イオンが酸素に酸化される側、あるいは供給された炭化水素ガスと反応する側)とを短絡させるための外部電極や外部回路を用いることなく、一方から他方へと連続的に酸素イオンを透過させることができるとともに、酸素イオンの透過速度を上げることができるため好ましい。
【0035】
この種の酸化物セラミックスとしては、一般式(1):Ln1−xMO3−δで表わされる組成のペロブスカイト型酸化物が好ましい。ここで、式中のLnは、ランタノイドから選択される少なくとも1種(典型的にはランタン(La))である。Aは、ストロンチウム(Sr)、バリウム(Ba)およびカルシウム(Ca)のうちの1種または2種以上の元素であり、特に好ましくはSrである。また、Mは、ペロブスカイト型構造を構成し得る金属元素であり、例えばマグネシウム(Mg)、マンガン(Mn)、ガリウム(Ga)、チタン(Ti)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、鉄(Fe)、銅(Cu)、インジウム(In)、錫(Sn)、ジルコニウム(Zr)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、亜鉛(Zn)、ゲルマニウム(Ge)、スカンジウム(Sc)およびイットリウム(Y)のうちの1種または2種以上である。
また、上記一般式(1)における「x」は、このペロブスカイト型構造においてLn(典型的にはLa)がAによって置き換えられた割合を示す値である。このxの取り得る範囲は、ペロブスカイト型構造を崩すことなく該構造を維持し得る限りにおいて特に限定されないが、0≦x<1が適当であり、好ましくは0.4≦x≦0.6である。
なお、上記δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。上記一般式(1)における酸素原子数は、ペロブスカイト型構造の一部を置換する原子の種類および置換割合その他の条件により変動するため正確に表示することが困難である。このため、電荷中性条件を満たすように定まる値として、1を超えない正の数δ(0<δ<1)を採用し、酸素原子数を3−δと表示するのが妥当であるが、以下では便宜的に3と表示することもある。ただし、該酸素原子の数を便宜的に3として表示しても、異なる化合物を表しているわけではない。
【0036】
また、上記のようなペロブスカイト型酸化物としては、上記一般式(1)のM(すなわちペロブスカイト型酸化物のBサイトを構成する金属元素)としてCo、Ti、Ni、Feのうちのいずれかが含まれているものがより好ましい。特に好ましくは、触媒金属としても用いられ得る程度に反応性の高いCoが含まれているペロブスカイト型酸化物である。このようなペロブスカイト型酸化物としては、例えば、La1−xSrCo1−yTi(LSCT酸化物)、La1−xSrCo1−yNi(LSCN酸化物)、La1−xSrCo1−yFe(LSCF酸化物)で示される複合酸化物が挙げられる。ここで、上記「x」は、0≦x<1(例えば0.4≦x≦0.6)である。また、上記「y」は、かかるペロブスカイト型構造においてCoがTiやFe等の他の金属元素によって置き換えられた割合を示す値であり、上記のようなペロブスカイト型コバルト酸化物の「y」の取り得る範囲は、0≦y<1が適当であり、好ましくは0.1≦y≦0.5である。
【0037】
セラミックス製(ここではMgO製)の多孔質基材を製造する方法は、従来のこの種の膜エレメント(例えば酸素分離膜エレメント)で採用されている種々の性状のセラミック多孔質体を製造する方法と同様でよく、特に限定されない。例えば一軸圧縮成形、静水圧プレス、押出成形等の従来公知の成形法を採用することができる。具体例としては、所定の材料(例えば平均粒径0.1μm〜10μm程度のMgO粉末等の粉末材料、バインダー、分散剤、溶媒)からなるスラリー状の成形材料を調製する。次いで、かかる成形材料を用いて所定形状(典型的には管状または円筒状)およびサイズに押出成形する。得られた成形体を酸化性雰囲気(例えば大気中)または不活性ガス雰囲気で適当な温度域(例えば1300〜1600℃)で焼成することにより、多孔質基材を製造することができる。なお、かかる多孔質基材として市販品(既製品)を用いてもよい。
【0038】
上記得られた多孔質基材上にペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を形成する手法は特に限定されず、従来公知の種々の手法を採用することができる。一好適例としては、まず、製造しようとするペロブスカイト型酸化物(例えばLSCN酸化物やLSCT酸化物)からなる酸素分離膜用材料(典型的には粉末状)を用意する。次に、適当なバインダー、分散剤、可塑剤、溶媒等と混合してスラリーを調製し、一般的なディップコーティング等の手法によって該スラリーを多孔質基材表面(例えば管状の多孔質基材の外周表面)に付与(塗布)することができる。多孔質基材表面に付与された塗布物(塗布膜)の厚さ寸法については、該塗布膜を焼成して得られる酸素分離膜の所望する膜厚に応じて適宜設定される。かかる酸素分離膜の膜厚としては、1000μm以下の範囲内が適当であり、好ましくは200μm以下(典型的には、凡そ5μm〜200μm)の範囲であり、より好ましい態様では凡そ100μm以下(典型的には、凡そ5μm〜100μm)の範囲であり、薄いものほど好ましい。このため、上記塗布膜の膜厚は該塗布膜の焼成後に上記範囲の厚さ寸法の酸素分離膜が得られるように設定される。ここで開示される酸素分離膜は多孔質基材に支持されているので、該酸素分離膜自体に機械的強度は要求されず、該酸素分離膜の緻密性が維持される範囲にあれば上記塗布膜の厚さ寸法の下限は特に限定されない。
以上により、多孔質基材(支持体)上にペロブスカイト構造の酸化物セラミックス(例えばLSCN酸化物またはLSCT酸化物)からなる塗布膜(未焼成状態の酸素分離膜)を形成することができる。なお、多孔質基材上に形成された塗布物(塗布膜)を適当な温度(典型的には60〜100℃)で乾燥させてもよい。あるいは、後述のように、ガス管との接合部分にシール材を付与した後に、上記塗布膜とシール材とを両方まとめて乾燥させてもよい。
【0039】
また、上記酸素分離膜用材料としては、予め所定の組成に調製されている市販のペロブスカイト型酸化物粉末(例えばLSCN酸化物)を用いてもよい。あるいはまた、製造しようとするペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素(例えばLSCN酸化物を構成するLa、Sr、CoおよびNi)を含む酸化物あるいは加熱により酸化物となり得る化合物(当該金属原子の炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物、水酸化物、オキシハロゲン化物等)がそれぞれ該ペロブスカイト型酸化物の組成比に対応するような配合比で配合されたものを出発原料(粉末)とし、これを焼成(仮焼)することにより得られたものを上記酸素分離膜用材料(粉末)として用いることもできる。かかる出発原料は、上記ペロブスカイト型酸化物を構成する金属元素のうち2種以上の金属元素を含む化合物(複合金属酸化物、複合金属炭酸塩等)を含有してもよい。また、上記酸素分離膜用材料粉末に、水、有機バインダー等の成形助剤、および分散剤を添加・混合してスラリーを調製し、スプレードライヤー等の造粒機を用いることにより、所望する粒径(例えば平均粒径が10μm〜100μm)に造粒してもよい。
以上のようにして、ペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる塗布膜(未焼成状態の酸素分離膜)が多孔質基材上に形成されている膜エレメントを得ることができる。
【0040】
次に、金属部材を用意する。
かかる金属部材を構成する金属材料としては、酸素分離膜モジュールの使用温度域およびそれ以上の温度域(酸素分離膜の焼成温度域)下でも変質または変形することない耐久性(耐熱性、耐食性、耐酸化性等を含む。)を有するとともに、該酸素分離膜モジュールの構成部材として所定形状に成形可能な材料であることが好ましい。また、熱膨張係数が10×10−6−1〜17×10−6−1である金属材料が好ましい。さらに、かかる金属材料の熱膨張係数Cについては、ここで開示されるシール材を構成する結晶含有ガラスの熱膨張係数Cとの関係において、該金属材料の熱膨張係数Cに対する該結晶含有ガラスの熱膨張係数Cの比(すなわちC/C)をZとすると、0.7≦Z≦1を満たしていることが好ましい。より好ましくは0.7≦Z≦0.9であり、例えば0.7≦Z≦0.85である。
上記このような熱膨張係数を有する金属種として一典型的な群としては、少なくともニッケル(Ni)とクロム(Cr)を含む合金材料であって該合金材料中のNiとCrの合計の含有率が該合金全体を100質量%として30質量%以上(例えば30〜95質量%、好ましくは50〜95質量%、より好ましくは70〜95質量%)の合金材料が挙げられる。かかる合金材料としては、例えば、Ni基の合金であるインコネル(登録商標)やハステロイ(登録商標)、Crを含む合金鋼であるステンレス鋼(SUS)、ニッケル−鉄−コバルト(Ni−Fe−Co)系合金であるインコロイ(登録商標)、あるいはNi−Cr合金のニモニック(登録商標;ナイモニックともいう。)等が挙げられ、上記各合金材料においてNiとCrの含有率が上記範囲を満たすような組成を有する番号のものを好ましく選択して用いることができる。
このような金属材料を用いて形成される金属部材であって上記構成の酸素分離膜エレメントに接合される金属部材の一つの好適例として、酸素分離膜エレメントにガス(例えば酸素含有ガス、典型的には空気)を供給するためのガス管が挙げられる。かかるガス管の形状、サイズについては、連結される酸素分離膜エレメントのサイズや接合部分の大きさに合わせて適宜設定され、金属製のガス管を製造する一般的な方法を用いることによりかかるガス管(金属部材)が製造される。以下、特に制限することを意図しないが、金属部材がガス管である場合を例として、酸素分離膜モジュールを説明する。
【0041】
次に、ここで開示されるシール材を、上記塗布膜が形成された多孔質基材と金属部材とを接続した部分に付与する。
まず、ここで用いられる酸素分離膜モジュール用シール材について説明する。
ここで開示されるシール材は、上述のように、上記のような構成の酸素分離膜エレメントとガス管等の金属部材とを互いにシールして接合するためのガラスを主体とするシール材(接合材)である。
ここで開示される一態様のシール材(シール材1)は、上述のように、該シール材1を構成するガラスが上述の結晶含有ガラス1、すなわちガラスマトリックス中に少なくともフォーステライト(MgSiO)結晶が析出しているガラス組成物であることによって特徴づけられるものである。また、ここで開示される他の一態様のシール材(シール材2)は、該シール材2を構成するガラスが上述の結晶含有ガラス2、すなわちガラスマトリックス中に酸化マグネシウム(MgO)結晶からなる結晶と、クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶とが析出しているガラス組成物であることによって特徴づけられるものである。
【0042】
上記シール材1および2をそれぞれ構成する結晶含有ガラス1および2について説明する。なお、以下の説明において結晶含有ガラス1か結晶含有ガラス2かを特定していない記載は、これら結晶含有ガラスに共通する説明である。シール材の第1か第2かを特定していない場合についても同様である。
ここで開示される結晶含有ガラスは、酸素分離膜モジュールの使用温度域(典型的には800℃以上1000℃未満、例えば900℃以上1000℃未満)およびそれ以上(典型的には1000℃以上、特に1200℃以上、例えば1200〜1300℃、より好ましくは1200〜1400℃あるいはそれ以上)の高温域で溶融し難い組成のガラスが好ましい。この場合、ガラスの融点(軟化点)を上昇させる成分の添加または増加により、所望する高融点(高軟化点)を実現することができる。
このような結晶含有ガラスは、その必須構成元素としてSi、Al、Na、Kを含んでおり、また、任意的(付加的)な構成元素としてCaを含み得る。これらの5つの構成元素を該元素の酸化物状態(すなわち酸化ケイ素(SiO)、酸化アルミニウム(Al)、酸化ナトリウム(NaO)、酸化カリウム(KO)ならびに所望により酸化カルシウム(CaO))として含んでいる酸化物ガラスであることが好ましい。本発明の実施に適する結晶の析出を妨げない範囲においてこれら成分のほか目的に応じて種々の成分(典型的には種々の酸化物成分)をさらに付加的に含むことができる。
また、結晶含有ガラスに含まれる結晶成分のうちMgを構成元素として含まない結晶(すなわちクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶)については、かかる結晶の析出量は、結晶含有ガラスにおける上記構成元素(必須構成元素)の酸化物換算での含有率(配合比)によって適宜調整することができる。
このような結晶が析出し得る結晶含有ガラスの質量組成としては、酸化物換算で上記5つの構成元素全体(すなわち、SiO、Al、NaO、KOおよびCaO)を100質量%として、SiOが40〜72質量%、Alが10〜22質量%、NaOが8〜22質量%、KOが8〜22質量%、およびCaOが0〜4質量%であることが好ましい。
【0043】
SiOはクリストバライト結晶およびリューサイト結晶、ならびにフォーステライト結晶を構成する成分であり、接合部のガラス層(ガラスマトリックス)の骨格を構成する主成分である。SiO含有率が高すぎると融点(軟化点)が高くなりすぎてしまい好ましくない。一方、SiO含有率が低すぎると、クリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶ならびにフォーステライト結晶の析出量が減少し得る。また、耐水性や耐化学性が低下する。SiO含有率は、酸化物換算で上記5つの構成元素(Si、Al、Na、KおよびCa)全体のうちの40〜72質量%であることが好ましい。
【0044】
Alはリューサイト結晶を構成する成分であり、ガラスの流動性を制御して付着安定性に関与する成分である。Al含有率が低すぎると付着安定性が低下して均一な厚みのガラス層(ガラスマトリックス)の形成を損なう虞があるとともにリューサイト結晶析出量が減少し得る。一方、Al含有率が高すぎると、接合部の耐化学性を低下させる虞がある。Al含有率は、酸化物換算で上記5つの構成元素(Si、Al、Na、KおよびCa)全体の10〜22質量%であることが好ましい。
【0045】
Oはリューサイト結晶を構成する成分であり、NaOとともに熱膨張係数(熱膨張率)を高める成分である。KO含有率が低すぎるとリューサイト結晶析出量が減少し得る。また、KO含有率およびNaO含有率が低すぎると熱膨張係数が低くなりすぎる虞がある。一方、KO含有率およびNaO含有率が高すぎると熱膨張係数が過剰に高くなるため好ましくない。KO含有率は、酸化物換算で上記5つの構成元素(Si、Al、Na、KおよびCa)全体の8〜22質量%であることが好ましい。また、NaO含有率は酸化物換算で上記5つの構成元素(Si、Al、Na、KおよびCa)全体の8〜22質量%であることが好ましい。
【0046】
アルカリ土類金属酸化物であるCaOは、熱膨張係数の調整を行うことができる任意添加成分である。CaOはガラス層(ガラスマトリックス)の硬度を上げて耐摩耗性を向上させ得る成分であり、CaOの含有率であって酸化物換算で上記5つの構成元素(Si、Al、Na、KおよびCa)全体に占める割合は、それぞれ、ゼロ(無添加)かあるいは4質量%以下が好ましい。より好ましくは、上記CaO含有率は0.5〜2.5質量%程度である。
【0047】
また、上述した酸化物成分以外の、本発明の実施において本質的ではない成分(例えばB、ZnO、LiO、Bi、SrO、SnO、SnO、CuO、CuO、TiO、ZrO、La)を種々の目的に応じて添加することができる。
【0048】
ここで開示される結晶含有ガラスは、結晶含有ガラス1と結晶含有ガラス2のいずれにおいても上記構成元素以外にMgを必須構成元素として含むことを特徴とする。また、かかる結晶含有ガラスでは、少なくともMgの半分(半量)以上を結晶成分の構成成分として含有すればよく、ガラスマトリックスの構成成分としてMgを含むか含まないかは任意である。例えば、ガラスマトリックスの構成成分としてMg(典型的にはMgO)を含有させる場合には、上記アルカリ土類金属酸化物のCaOとともに、熱膨張係数の調整を行うことができる成分となり、特にMgOの場合にはガラス溶融時の粘度調整により熱膨張係数を調整することができる。
【0049】
また、ここで開示される結晶含有ガラスでは、該ガラスに含まれるMgの含有率(質量組成)によって、ガラスマトリックス中に析出し得る結晶成分の種類が異なり得る。すなわち、かかる結晶含有ガラスにおいて、上記Mgの質量組成が、酸化物換算(MgO換算)で該結晶含有ガラス全体(Mgを含む上記構成元素全て、例えば、上述したSi、Al、Na、K、Ca、およびMgが構成元素である場合は、これら元素の酸化物換算における総量)を100質量%としたときの1質量%以上13質量%未満である場合には、ガラスマトリックス中に少なくともフォーステライト結晶が析出する組成を有する結晶含有ガラス1となる。また、上記のような質量組成(含有率)で結晶含有ガラス1に含まれるMgOのうち少なくとも半分の量は、該結晶含有ガラス1中に析出し得る結晶(主としてフォーステライト結晶)の構成成分として含まれ、残りのMgは結晶含有ガラス1のガラス成分(ガラスマトリックスの構成成分)として含まれ得ることが好ましい。より好ましくは、上記結晶含有ガラス1中に含まれるMgのうちの50〜75質量%程度が上記析出結晶の構成元素(成分)として寄与し得る。なお、上記結晶含有ガラス1は、フォーステライト結晶以外の結晶として、例えばクリストバライト結晶、リューサイト結晶等を含み得る。
【0050】
一方、上記Mgの質量組成が、酸化物換算で上記結晶含有ガラス全体(Mgを含む上記構成元素全て、例えば、上述したSi、Al、Na、K、Ca、およびMgが構成元素である場合は、これら元素の酸化物換算における総量)を100質量%としたときの13質量%以上30質量%以下である場合には、上記結晶含有ガラスは、ガラスマトリックス中にMgOからなる結晶と、クリストバライト結晶、リューサイト結晶、およびフォーステライト結晶のうちの少なくとも1種の結晶とが析出し得る組成の結晶含有ガラス2となる。また、上記のような質量組成(含有率)で結晶含有ガラス2に含まれるMgOのうち少なくとも半分の量は、該結晶含有ガラス2中に析出し得る結晶(主としてMgO結晶)の構成成分として含まれることが好ましい。より好ましくは、上記結晶含有ガラス2中のMgのうちの75〜90質量%程度が上記結晶の構成元素(成分)として寄与し得る。さらに、上記Mgの質量組成(含有率)の範囲内においては、該含有率が増加するに連れて上記析出結晶のうちMgO結晶の占める割合が高まり得る。
【0051】
上記のように、上記結晶含有ガラスのガラスマトリックス中に析出し得る複数の結晶のうち、フォーステライト結晶またはMgO結晶がその他の結晶とともに存在し得ることにより、このような結晶含有ガラスからなる上記シール材を用いて形成されたシール部は、例えば1200℃以上の高温に曝されても、ガラスマトリックス中に析出している各結晶(例えばクリストバライト結晶やリューサイト結晶)の再溶解が防止され、かかるシール部の熱膨張係数の低下が抑制され得る。したがって、耐熱性と気密性とを高いレベルで両立する酸素分離膜モジュール用シール材として好適な結晶含有ガラスが得られる。ここで、上記結晶含有ガラスにおけるMgの質量組成は、上述のように、酸化物換算(MgO換算)で該結晶含有ガラス全体の1質量%以上13質量%未満であるか、13質量%以上30質量%以下であることが好ましい。かかる質量組成が1質量%よりも少なすぎると、上記結晶含有ガラスからなるシール材において、該結晶含有ガラス中の各種結晶が再溶解し得る虞がある。かかる観点からはMgの質量組成は、酸化物換算で結晶含有ガラス全体の3質量%以上がより好ましい。
また、少なくとも1200℃の温度下に曝された後の上記シール材の熱膨張係数(一般的な示差膨張方式(TMA)に基づく室温(25℃)〜ガラス軟化点以下の温度(例えば500℃)の間の平均値)が大幅に低下して接合対象部分の熱膨張係数との差が広がり、シール部に剥離やクラック等が生じてシール部の機械的強度が低下する虞がある。一方、上記質量組成が30質量%よりも大きすぎると、結晶含有ガラス中の結晶成分(主にはMgO結晶)の含有量が多すぎてガラス成分が減少するとともに、MgOが焼結しきれないことから、シール部の緻密性が確保できず、高い気密性を有するシール部を形成できない虞がある。かかる観点からはMgの質量組成は、酸化物換算で結晶含有ガラス全体の20質量%以下がより好ましい。例えば、Mgの質量組成は、酸化物換算で結晶含有ガラス全体の3質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
【0052】
上記のような組成の結晶含有ガラスからなるシール材の調製は、好ましくは、該シール材の熱膨張係数が接合対象(酸素分離膜エレメントとガス管等の金属部材)の熱膨張係数に近似するように該結晶含有ガラスの各構成(組成)成分を調合して行う。かかる熱膨張係数が10×10−6−1〜14×10−6−1となるように組成を調整して上記結晶含有ガラス(からなるシール材)を調製することが好ましい。また、かかる結晶含有ガラスの熱膨張係数と上記金属部材の熱膨張係数とが以下の関係を満たすように調製することが適当である。すなわち、上記金属部材(金属材料)の熱膨張係数Cに対する上記結晶含有ガラス(上記シール材)の熱膨張係数Cの比(すなわちC/C)をZとすると、0.7≦Z≦1を満たすような金属材料とシール材の組み合わせであることが好ましい。より好ましくは、0.7≦Z≦0.9であり、例えば0.7≦Z≦0.85である。
【0053】
ここで、ガラスマトリックス中にクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶を含むがMgO結晶やフォーステライト結晶は含まないガラス組成物からなるシール材では、酸素分離膜モジュールの典型的な使用温度域(800℃以上1000℃未満)に曝される場合には、上記結晶成分は再溶解せず、また熱膨張係数についても酸素分離膜モジュールの構成部材の熱膨張係数(例えば10×10−6−1〜14×10−6−1)と同程度になり得る。しかし、上記使用温度域以上、例えば1000℃以上、特に1200℃以上(例えば1200〜1300℃、より好ましくは1200〜1400℃)の高温域に曝される場合には、上記結晶成分が再溶解し得るとともに、熱膨張係数が大幅に低下(例えば6×10−6−1〜9×10−6−1)し得る。このため、かかるシール材を用いて形成されるシール部(接合部)は、1200℃以上のような高温域での優れた耐熱性を実現することが難しかった。
【0054】
これに対して、ここで開示される結晶含有ガラスから構成されるシール材は、例えば酸素分離膜の焼成時に1200℃以上(例えば1200〜1300℃、好ましくは1200〜1400℃あるいはそれ以上)の高温域に曝されても、上記結晶成分が再溶解して接合部分から溶出することなく、また熱膨張係数も10×10−6−1〜14×10−6−1を保持することができるので、優れた耐熱性を備えたシール部の形成が実現される。したがって、ここで開示される結晶含有ガラスからなるシール材を用いることにより、1200℃以上の高温域に曝されても高い気密性と機械的強度を有するシール部が形成されて、長期にわたりガスリークが高い次元で防止され得る高性能の酸素分離膜モジュールの製造を実現することができる。
【0055】
次に、このようなシール材を製造する方法について説明する。
ここで開示される一態様のシール材の製造方法は、結晶含有ガラス1から構成されるシール材1を製造する方法であって、以下の工程を包含することが好ましい。すなわち、かかる製造方法は、まず、(1)酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40〜70質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 8〜20質量%;
O 8〜20質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
から実質的に構成されるように調製されたガラス原料粉末を用意し、該原料粉末を溶融してガラス(ガラス質中間体)を調製すること、(2)上記調製したガラスを粉砕後、MgO粉末を上記ガラス原料粉末全体の1質量%以上10質量%未満に相当する量で添加して上記ガラスと上記MgOとの混合粉末を調製すること、および(3)上記混合粉末を結晶化処理することにより、上記ガラスのマトリックス中に結晶成分として少なくともフォーステライト結晶を析出させること、を包含する。
【0056】
また、ここで開示される他の態様のシール材の製造方法は、結晶含有ガラス2から構成されるシール材2を製造する方法であって、以下の工程を包含することが好ましい。すなわち、かかる製造方法は、(1)酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40〜70質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 8〜20質量%;
O 8〜20質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
から実質的に構成されるように調製されたガラス原料粉末を用意し、該原料粉末を溶融してガラス(ガラス質中間体)を調製すること、(2)上記調製したガラスを粉砕後、MgO粉末を上記ガラス原料粉末全体の10質量%以上30質量%未満に相当する量で添加して上記ガラスと上記MgOとの混合粉末を調製すること、および(3)上記混合粉末を結晶化処理することにより、上記ガラスのマトリックス中に結晶成分としてMgOからなる結晶と、クリストバライト結晶、リューサイト結晶およびフォーステライト結晶から選択される少なくとも1種の結晶とを析出させること、を包含する。
【0057】
上記製造方法では、MgO粉末を添加する工程において、結晶化処理を実施する前のガラス(ガラス質中間体)粉末にMgO粉末を添加し、該MgO粉末の添加後の混合粉末に対して結晶化処理を行う。このようにMgO添加後に結晶化処理して結晶成分を析出(典型的には複数の結晶成分を同時に析出)させてなるシール材では、予め上記ガラス(ガラス質中間体)を結晶化処理により結晶成分を析出させたガラスにMgOを添加(典型的には添加後に熱処理を実施)して得られるシール材に比べて、1200℃以上(例えば1200〜1300℃)のような高温域下での熱膨張係数の低下を抑制する効果が向上し得る。
【0058】
以下、ここで開示されるシール材の製造方法の一好適例について説明する。
まず、かかるシール材(結晶含有ガラス)の各構成元素の酸化物成分を得るための化合物(例えば各成分を含有する酸化物、炭酸塩、硝酸塩、複合酸化物等を含む工業製品、試薬、または各種の鉱物原料)および必要に応じてそれ以外の添加物をガラス原料粉末として用意する。かかる各粉末の平均粒径としては、凡そ1μm〜10μm程度が好ましい。このような各化合物を上記組成比(すなわち、実質的に酸化物換算の質量比でSiOが40〜70質量%、Alが10〜20質量%、NaOが8〜20質量%、KOが8〜20質量%、CaOが0〜3質量%(より好ましくは0.5〜2質量%)、およびMgOが0〜3質量%(より好ましくは0.5〜2質量%)となるような組成)となるように乾式または湿式のボールミル等の混合機にその他の添加物とともに投入し、数〜数十時間混合する。このようにして得られた混和物(粉末)を、乾燥後、耐火性の坩堝に入れ、適当な高温(典型的には1000〜1500℃)条件下で加熱・溶融させる。このようにして上述のような組成からなるガラス(ガラス質中間体)を調製する。
【0059】
次に、得られたガラス(ガラス質中間体)を適当な大きさ(粒径)となるまで粉砕し、ガラス(ガラス質中間体)粉末を作製する。このガラス粉砕処理後に分級処理も実施することが好ましい。ガラス(ガラス質中間体)粉末の粒径(平均粒径)としては、後に添加されるMgO粉末と均一に混和し易く、また扱い易い粒径である限りにおいて特に制限されないが、例えば0.5μm〜50μmの範囲が適当であり、好ましくは1μm〜10μmである。
この粉砕により得られたガラス(ガラス質中間体)粉末に対して、MgO粉末を所定の添加量で添加する。ここで添加するMgO粉末は、最終的に得られる結晶含有ガラス1または結晶含有ガラス2におけるガラスマトリックスの構成成分としても寄与し得るが、主としてガラスマトリックス中に析出し得るMgを構成元素として含む結晶(結晶含有ガラス1であれば少なくともフォーステライト結晶、結晶含有ガラス2であればMgO結晶および/またはフォーステライト結晶)の形成に寄与し得るものである。MgO粉末の平均粒径としては、上記ガラス粉末と均一に混合された混合粉末を形成し易く、また後の結晶化処理において、上記各種結晶とともに好ましく析出し得るような大きさが好ましい。このような平均粒径としては、0.1μm〜10μmが好ましく、より好ましくは0.5μm〜5μmである。
【0060】
上記MgO粉末の添加量としては、上述のように、酸化物換算で上記ガラス原料粉末全体の質量に対して1質量%以上30質量%以下(好ましくは3質量%以上20質量%以下)の割合で添加することが適当である。ここで、かかる添加量が1質量%以上10質量%未満である場合には、最終的に得られる結晶含有ガラス(結晶含有ガラス1)には結晶成分として少なくともフォーステライト結晶を析出し得る(その他の結晶、例えばクリストバライト結晶やリューサイト結晶なども析出し得る)。また、上記MgO粉末の添加量が上記ガラス原料粉末全体の10質量%〜30質量%である場合には、得られる結晶含有ガラス(結晶含有ガラス2)には結晶成分としてMgO結晶と、該結晶に加えて、クリストバライト結晶、リューサイト結晶およびフォーステライト結晶のうちの少なくとも1種の結晶が析出し得る。
【0061】
上記添加されたMgO粉末と上記ガラス(ガラス質中間体)粉末とを、上記と同様にして乾式または湿式のボールミル等の混合機を用いて数時間〜数十時間混合する。このようにしてMgOとガラスとが満遍なく均一に混合された混合粉末を得る。かかる混合粉末としての平均粒径は、0.5μm〜10μmが好ましく、より好ましくは1μm〜5μmである。
次いで、上記のようにして得られた混合粉末に対して結晶化処理を行う。この結晶化処理としては、該混合粉末を、結晶化を誘起し得る温度域、例えば1000℃以下の温度域であって比較的高温域(例えば600〜1000℃、より好ましくは800〜1000℃)であって所定時間(典型的には30分間以上、例えば30分間〜60分間)加熱するとよい。一好適例としては、上記混合粉末を室温から約100℃まで約1〜5℃/分の昇温速度で加熱し、約100℃からは1〜10℃/分の昇温速度で加熱し、800〜1000℃の温度域で30分〜60分程度保持した後に、凡そ1〜5℃/分の降温速度で室温まで冷却することにより、ガラスマトリックス中に、上記各種結晶を同時に析出させる。このようにして、結晶含有ガラスを製造することができる。
こうして得られた結晶含有ガラスは、種々の方法で所望する形態に成形することができる。例えば、ボールミルで粉砕したり、適宜篩いがけ(分級)したりすることによって、所望する平均粒径(例えば0.1μm〜10μm)の粉末状結晶含有ガラス(ガラス組成物)を得ることができる。
また、得られた粉末状結晶含有ガラスに対して、水を適量加えて上記と同様のボールミルを用いて混合する。その後、所定時間の乾燥処理を実施することにより、ここで開示される粉末状のシール材を得ることができる。
【0062】
このようにして得られた粉末状のシール材は、従来のシール材(接合材)と同様に、典型的にはペースト状(スラリー状)に調製されて、上記塗布膜(未焼成の酸素分離膜)が形成されている膜エレメントと金属部材(ガス管)との接続部分(被接合部分)に塗布することができる。例えば、得られた上記シール材に適当なバインダーや溶媒を混合してペーストを調製することができる。なお、ペーストに用いられるバインダー、溶媒および他の成分(例えば分散剤)は、特に限定されるものではなく、ペースト製造において従来公知のものから適宜選択して用いることができる。
例えば、バインダーの好適例としてセルロースまたはその誘導体が挙げられる。具体的には、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシエチルメチルセルロース、セルロース、エチルセルロース、メチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、およびこれらの塩が挙げられる。バインダーは、ペースト全体の5〜20質量%の範囲で含まれることが好ましい。
【0063】
また、ペースト中に含まれ得る溶媒としては、例えば、エーテル系溶剤、エステル系溶剤、ケトン系溶剤、または他の有機溶剤が挙げられる。好適例としてエチレングリコールおよびジエチレングリコール誘導体、トルエン、キシレン、ターピネオール等の高沸点有機溶媒またはこれらの2種以上の組み合わせが挙げられる。ペーストにおける溶媒の含有率は、特に限定されないが、ペースト全体の1〜40質量%程度が好ましい。
【0064】
上記のようにしてペースト状に調製されたシール材は、従来のこの種のペースト状シール材と同様に用いることができる。すなわち、本実施形態では、接合対象である膜エレメント(上記未焼成状態の塗布膜が多孔質基材上に形成された膜エレメント)における塗布膜および/または多孔質基材)と金属部材(ガス管)の接続部分(被接合部分)を相互に接触・接続し、当該接続した部分にペースト状に調製されたシール材を付与(塗布)する。そして、かかる塗布物を適当な温度(典型的には60〜100℃、例えば80℃±10℃)で例えば1時間〜12時間程度乾燥させる。
次いで、上記多孔質基材上に塗布膜が形成されている膜エレメントと金属部材(ガス管)との間に上記シール材が付与されてなるモジュール(接続体)を所定の焼成温度で焼成する。
この焼成温度としては、上記ペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる塗布膜(未焼成の酸素分離膜)を焼成して酸素分離膜を形成するのに適する温度であるとともに、上記シール材が溶出しない温度であることが好ましい。このような温度としては、1200℃以上が適当であり、好ましくは1200〜1300℃であり、より好ましくは1200〜1400℃である。
また、このような温度域で3時間〜10時間(好ましくは4時間〜8時間、より好ましくは5時間〜7時間)程度酸化性雰囲気または不活性ガス雰囲気下で焼成することが好ましい。かかる焼成により、酸素分離膜エレメントと金属部材(ガス管)との接続部分においてガス流通を遮断する(すなわちガスリークが無い)接合部(シール部)が形成されるとともに、上記塗布膜が焼成されて酸素分離膜が多孔質基材上に形成される。すなわち、かかる焼成によって、上記酸素分離膜の形成と、酸素分離膜エレメントと金属部材との接合(すなわちシール部の形成)が同時に行われる。
以上より、酸素分離膜エレメントと金属部材(ガス管)との接合部が上記シール材(シール材1または2)によりシールされてなる接合体であって該接合体を基本(主要)構成要素として備える酸素分離膜モジュール(第1または第2の酸素分離膜モジュール)が製造される。
【0065】
以上のような酸素分離膜モジュールの製造方法は、上述のように、上記シール材の特性、すなわち1200℃以上(例えば1200〜1300℃、好ましくは1200〜1400℃あるいはそれ以上)の高温域でも溶出しないという高耐熱性を利用したものであり、かかるシール材を用いることにより、シール部の形成と酸素分離膜の形成とを、上記塗布膜の焼成工程で同時に行うことを可能としている。かかる製造方法により、酸素分離膜モジュールの製造プロセスの効率化およびこれに伴うコスト削減を実現することができる。また、かかるシール材がその他の特性として、該シール材の熱膨張係数が上記のような高温下でも上記酸素分離膜エレメントや金属部材(ガス管)の熱膨張係数に近似している特性(さらに好ましくは金属部材(金属材料)の熱膨張係数に対するシール材の熱膨張係数の比Zが0.7≦Z≦1を満たしている特性)を有することにより、上記高温域に曝されても該シール材によって形成されたシール部は高い気密性と耐久性を維持し、酸素分離膜エレメントに供給されるガス(例えば酸素含有ガス、典型的には空気)は該シール部からリークすることなく流通することができる。したがって、本発明によると、優れた耐熱性と耐久性を備えた高性能の酸素分離膜モジュールが提供される。
【0066】
ここで、上記酸素分離膜エレメントと金属部材(ガス管)との好適な接合部分であって上記シール材が好ましく用いられる接合部分としては、緻密膜である酸素分離膜と金属製のガス管との間がシールされることにより、例えばガス管内を流通するガス(例えば酸素含有ガス)がリークすることなく酸素分離膜エレメントに供給される限りにおいて、特に制限されない。
ガスリークすることなく酸素分離膜エレメントへのガス供給を実現する酸素分離膜モジュールの構成の一好適例としては、図1に示されるような構成の酸素分離膜モジュール100が挙げられる。かかる酸素分離膜モジュール100は、管状(円筒状)の多孔質基材12の外周表面13に酸素分離膜14が形成されている酸素分離膜エレメント10の軸方向の両端部15a,15bのそれぞれに管状(例えば該エレメントと同径)の金属製ガス管20,30が接合(連結)している構成を有する。また、各ガス管20,30の軸方向の端面と上記酸素分離膜エレメント10における多孔質基材12の軸方向の端面とが互いに当接して連結面25,35を形成している。また、該連結面25,35を介して両者が互いに接合するように上記シール材40が付与されてシール部(40)が形成されるとともに、かかるシール材40は上記連結面25,35を越えて酸素分離膜14の一部を覆うように付与されており、金属製ガス管20,30と緻密な酸素分離膜14との間(に生じ得る隙間)を該シール材40によって塞ぐようにしてシール部(40)が形成されている。
【0067】
このような構成の酸素分離膜モジュール100では、一方のガス管(例えばガス管20)から供給されたガスは、上記酸素分離膜エレメント10内(すなわち管状の多孔質基材12の内径を構成する内周壁面から形成される空洞部分17)を通り、他方のガス管(例えばガス管30)から排出される。かかる供給ガスが酸素含有ガスである場合には、ガス管20から供給されると、その一部は酸素分離膜エレメント10内(上記空洞部分17)を通過する際に、一部は多孔質基材12内を通って酸素分離膜14に到達し、残りはガス管30から排出される。酸素分離膜14に到達した一部の酸素含有ガスは、そのうちの酸素成分が該酸素分離膜14により分離されて酸素分離膜エレメント10の外周表面に透過する。酸素以外のガス成分はガス管30から排出される。
【0068】
このような構成の酸素分離膜エレメント10(における両端部15a,15b、厳密には多孔質基材12の軸方向の端面)とガス管20,30との接続部分(連結面25,35)をシール(接合)するにあたり、酸素分離膜エレメント10とガス管20,30とを直接連結させずに両者の間に図示しない接続部材(例えば多孔質基材12と同質のセラミック製またはガス管20,30と同質の金属製のリング部材)を挟み、酸素分離膜エレメント10と該リング部材とガス管との間をそれぞれ相互に上記シール材を用いてシールさせることもできる。また、かかる酸素分離膜モジュール100は、ガス管20,30のうちどちらか一方(例えばガス管30)を図示しない蓋状の金属部材(キャップ部材)に取り替えて上記酸素分離膜エレメント10のどちらかの一端を封じた構成でもよい。かかる蓋状の金属部材と酸素分離膜エレメント10と接合においても、ここで開示されるシール材を好ましく用いることができる。
以上のように、ガス管以外の種々の金属部材を備えた構成の酸素分離膜モジュールにおいても、上記シール材を用いることにより金属部材と酸素分離膜エレメント10との間を接合(シール)することができる。
また、かかる酸素分離膜モジュール100は、主要構成要素としての酸素分離膜エレメント10およびガス管20,30に加えて、例えば図1に示されるような上記酸素分離膜エレメント10を収容するチャンバー50を構成要素として備えることが好ましい。かかるチャンバー50を備えることにより、該チャンバー50内に他のガス(例えば炭化水素ガス)を供給することができる。かかる場合には上記他のガスと酸素分離膜14によって分離されて該酸素分離膜14の外周表面に透過してきた酸素とを上記チャンバー50内(典型的には上記酸素分離膜14の外周表面上)で反応(例えば部分酸化反応)させることができる。
【0069】
なお、ここで説明した製造方法では、塗布膜(未焼成の酸素分離膜)の焼成時に酸素分離膜の形成とシール部の形成を同時に行ったが、多孔質基材上の塗布膜を焼成して予め酸素分離膜を形成しておき、酸素分離膜エレメントとして製造し終えた後に、該酸素分離膜エレメントと金属部材(ガス管)とを接合する場合においても、ここで開示されるシール材(シール材1または2)を好ましく用いることができる。すなわち、すでに形成されている酸素分離膜を備えた酸素分離膜エレメントとガス管との接続(連結)部分に上記シール材を付与し、上記と同様の条件で乾燥させた後、所定の焼成温度で焼成してシール部を形成することにより、酸素分離膜エレメントと金属製ガス管とが接合されてなる酸素分離膜モジュールを製造することができる。かかる場合において、上記塗布膜を焼成して酸素分離膜を形成する際の焼成温度としては、上記シール材を使用可能な温度域により制限されることはなく、ペロブスカイト構造の酸化物セラミックスを焼成できる典型的な温度、例えば1000〜1800℃(好ましくは1200〜1600℃)でよい。また、酸素分離膜形成の後に行われる焼成であって上記シール部を形成するための焼成では、酸素分離膜モジュールの使用温度域(例えば800℃以上1000℃未満、あるいはそれよりも高い温度域、例えば1000〜1200℃)と同等、またはそれよりも高い温度域であってガラスが流出しない温度域(例えば使用温度域が800℃以上1000℃未満の場合、典型的には1000〜1200℃、使用温度域が1000℃を超えて概ね1200℃までの場合、典型的には1200〜1300℃または1400℃以下)で焼成すればよい。
【0070】
以下、図1を参照しつつ本発明に関する実施例を説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0071】
<MgOからなる多孔質基材の作製>
市販のマグネシア(MgO)粉末にバインダー等の成形助剤を混合し、ボールミル等で混練した。その後、100MPaの圧力下でプレス成形して外径20mm、厚さ(壁厚)約3mm程度の円筒状の成形体を得た。次に、当該成形体を大気中にて350℃で2時間程度の仮焼成を行って脱バインダーをした後、さらに大気中で1400℃で6時間程度の本焼成を行って、焼結体(多孔質基材)を得た。
【0072】
<ペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる塗布膜を備えた膜エレメントの作製>
酸素分離膜材料粉末として、平均粒径約1μmのLa0.5Sr0.5Co0.9Ni0.1(LSCN酸化物)粉末を用意した。この粉末に、適当量の一般的なバインダーと溶剤(水)をそれぞれ添加し、混合してスラリー状の酸素分離膜材料を調製した。
次いで、上記得られたMgOの多孔質基材の外周表面に、上記スラリー状酸素分離膜材料をディップコーティングにより付与した。そして、これを80℃で乾燥した。このようにしてLSCN酸化物からなる塗布膜が形成された膜エレメントを得た。
次に、酸素分離膜材料粉末として、平均粒径約1μmのLa0.6Sr0.4Co0.6Ti0.4(LSCT酸化物)粉末を用意した。この粉末を用いて、上記と同様にしてLSCT酸化物からなる塗布膜が形成された膜エレメントを作製した。
【0073】
<ガス管の用意>
上記膜エレメントに接合される金属部材としてのガス管を用意した。かかるガス管のサイズは、外径20mm、壁厚約3mm、長さ100mmであり、互いに異なる金属材料からなる3種類のガス管を2本ずつ用意した。かかる3種類の金属材料および該材料の主たる含有成分を各材料の熱膨張係数(C)とともに表1に示した。なお、かかる熱膨張係数は、後述のシール材における熱膨張係数評価と同様の方法を用いて測定して得た。なお、「ハステロイXR」については、表1に示した含有成分以外にCo(コバルト)とW(タングステン)を合計で約2質量%含有している。
ここで、上記金属材料は、いずれも12×10−6−1〜19×10−6−1の熱膨張係数を有していた。
【0074】
【表1】

【0075】
<ペースト状シール材の作製>
MgOの添加量の異なる8種類のペースト状シール材を以下のようにして作製した。
まず、平均粒径が約1μm〜10μmであるSiO粉末、Al粉末、NaCO粉末、KCO粉末、MgCO粉末、CaCO粉末およびB粉末を、それぞれ以下の配合比、すなわち酸化物換算でSiOが67.0質量%、Alが13.9質量%、NaOが8.5質量%、KOが9.1質量%、MgOが0.6質量%、CaOが0.8質量%となるような配合比で混合し、ガラス原料粉末を得た。
次いで、このガラス原料粉末を1000〜1500℃の温度域(ここでは1450℃)で溶融してガラス(ガラス質中間体)を形成した。
得られたガラス(ガラス質中間体)を平均粒径として2μm程度になるまで粉砕してガラス粉末を作製した。
MgO粉末(平均粒径:約1μm)を用意し、上記ガラス原料粉末の全質量に対して0〜40質量%の範囲内で添加量を変え、MgO粉末を各添加量(すなわち、0、1、3、5、10、20、30、および40質量%の計8種類)で上記ガラス(ガラス質中間体)粉末に添加し、十分に混合した。このときの混合粉末の平均粒径は1.5μm程度であった。このようにして、後から添加したMgO粉末の添加量が異なる組成の混合粉末を8種類調製した。
上記8種類の混合粉末に対して、結晶化処理として以下の処理を実施した。まず、上記混合粉末を室温から凡そ100℃まで約1〜5℃/分の昇温速度で加熱し、凡そ100℃からは1〜10℃/分の昇温速度で加熱して、800〜1000℃の温度域(ここでは850℃±50℃)で30分〜60分間程度保持した後に、1〜5℃/分の降温速度で室温まで冷却した。このようにしてMgOの含有率が互いに異なる計8種類の結晶含有ガラスを調製した。
【0076】
ここで、上記8種類の結晶含有ガラスのうち、MgOを添加していない結晶含有ガラスでは、クリストバライト結晶および/またはリューサイトの結晶が析出していた。また、MgOを添加した残りの結晶含有ガラスのうち、後から添加したMgOの添加量が1〜5質量%であったものでは、ガラスマトリックス中に分散するようにフォーステライト結晶が析出していた。その他の結晶成分としてはクリストバライト結晶および/またはリューサイト結晶が析出していた。また、上記MgOの添加量が10質量%の結晶含有ガラスでは、上記フォーステライト結晶およびMgO結晶が認められた。上記MgO添加量が20〜40質量%の結晶含有ガラスでは、ガラスマトリックス中に分散するようにMgO結晶が析出しているとともに、その他の結晶成分としてクリストバライト結晶、リューサイト結晶、フォーステライト結晶のうちの少なくとも1種が析出していた。また、上記MgOの添加量が増加するとともにMgO結晶の析出量が増加していることが認められた。
【0077】
次いで、得られた8種類の結晶含有ガラスを粉砕し、分級を行って、平均粒径約2μmの粉末状の結晶含有ガラス(すなわちシール材)を得た。
上記粉末状の各結晶含有ガラス(シール材)40質量部に、一般的なバインダー(ここではエチルセルロースを使用した。)3質量部と、溶剤(ここではターピネオールを使用した。)47質量部とを混合し、計8種類のペースト状シール材を作製した。
【0078】
<シール材の熱膨張係数評価>
上記得られた8種類のシール材について、それぞれ1200℃の焼成温度で2時間大気中で焼成した。焼成後の各シール材の熱膨張係数C(ただし、示差膨張方式(TMA)に基づく室温(25℃)〜500℃の間の平均値)を測定した。この結果を表2に示した。この結果、表2に示されるように、(後から添加した)MgOの添加量がゼロであるシール材の熱膨張係数は10×10−6−1を下回った。それ以外のシール材については、いずれもその熱膨張係数が10×10−6−1〜14×10−6−1の範囲内であった。
【0079】
<接合処理>
上記8種類のペースト状シール材を用いて接合処理を行った。具体的には、図1に示されるように、上記未焼成の塗布膜を備えた膜エレメント(図1では酸素分離膜エレメント10に相当)の両側に上記用意した2本の金属製ガス管20,30を配置した。該ガス管20を上記膜エレメントの一方の端部(図1の酸素分離膜エレメント10の端部15a)に配置するとともに該ガス管30を膜エレメントの他方の端部(図1の酸素分離膜エレメント10の端部15b)に配置し、上記膜エレメント(酸素分離膜エレメント10)における多孔質基材12の一方の端面にガス管20とを当接させて接続部分(連結面25)を形成した。同様に、上記膜エレメントにおける多孔質基材12の他方の端面にガス管30の一端面を当接させて接続部分(連結面35)を形成した。
次に、上記ガス管20,30に挟まれた膜エレメント(酸素分離膜エレメント10)における塗布膜(図1では酸素分離膜14に相当)とガス管20,30との各間の隙間を塞ぐようにして上記連結面25,35に上記ペースト状シール材(図1ではシール材40に相当)を塗布した。これを80℃で乾燥した後、大気中1200℃で2時間焼成した。これにより、膜厚約50μmの酸素分離膜12を多孔質基材14の外周表面13上に形成するとともに、ガス管20,30と酸素分離膜エレメント10とを接合させてシール部40を形成した。このようにして、金属製のガス管20,30と酸素分離膜エレメント10とが接合されてなる接合体(酸素分離膜モジュール100)を構築した。
以上のようにして、酸素分離膜の材質(LSCN酸化物またはLSCT酸化物)とMgOの添加量の異なる8種類のシール材、および金属材料の異なる3種類のガス管とを互いに組み合わせて合計11種類の接合体(酸素分離膜モジュール)を構築した。これらの接合体をサンプル1〜11とした。各サンプル1〜11と酸素分離膜およびガス管の材質およびシール材のMgO添加量との相関を表2に示した。
【0080】
また、各サンプル1〜11における上記シール材の熱膨張係数Cとガス管の金属材料の熱膨張係数Cとの比Z(すなわちC/C)をそれぞれ算出し、表2に示した。かかる熱膨張係数の比Zにおいて、サンプル1およびサンプル7がZ<0.7であった。それ以外のサンプル2〜6および8〜11については、いずれも0.7≦Z≦1(より厳密には0.7≦Z≦0.9)であった。
【0081】
【表2】

【0082】
<ガスリーク試験>
次に、上記構築した酸素分離膜モジュール100(酸素分離膜エレメント10とガス管20,30とが接合されてなるサンプル1〜11)について、シール部40からのガスリークの有無を確認するリーク試験を行った。酸素分離膜モジュール100の構成は、図1に示されるように、酸素分離膜エレメント10がチャンバー50の内部空間に配置されるとともに、ガス管20,30については該チャンバー50を貫通し、酸素分離膜エレメント10と接合している側のガス管20,30の各端部は該チャンバー50の内部空間、他方の各端部は該チャンバー50の外側にそれぞれ配置されるように、上記酸素分離膜モジュール100が収容されている。チャンバー50とガス管20,30との境界部分は密閉されている。
上記構成の酸素分離膜モジュール100において、チャンバー50内の温度を1200℃に設定し該チャンバー50内に収容された酸素分離膜エレメント10を1200℃に加熱した。かかる温度条件下でチャンバー50内にヘリウム(He)ガスを0.2Paの圧力下100mL/分の流量で供給した。また、上記ガス管20から空気を0.2Paの圧力下で100mL/分の流量で上記酸素分離膜エレメント10に2時間供給し続けた。かかる空気は、酸素分離膜エレメント10の内径の空洞部分17を流通して、ガス管30を通って排出された。ガスクロマトグラフィによりチャンバー50の図示しない排出口から排出されるHe排ガスの組成を測定し、該He排ガスに含まれるNガスの量を求めることにより、シール部40から空気中のNがリークしているか否かを評価した。かかる評価試験をサンプル1〜11に対して実施した。
【0083】
ガスリークの評価結果を表2に示す。表2において、Nガスのリーク率(He排ガス中に含まれるNガスの体積含有率)が1%以下のものを「無」と表示し、実用的な気密性を有しているものとした。また上記リーク率が1%を上回るものを「有」と表示した。表2に示されるように、MgO添加量がゼロのシール材を用いているサンプル1では、シール部40にクラックが生じ、ガスリークが認められた。また、サンプル9ではシール材におけるMgOの添加量が多すぎてシール部40の緻密性が不十分であったためにガスリークが認められた。また、サンプル7においては、MgO添加量が20質量%のシール材であって熱膨張係数が10×10−6−1以上であるシール材を用いているものの、ガス管の金属材料(SUS304)の熱膨張係数が17×10−6−1より大きく、上記熱膨張係数の比Zが0.7を下回ったために、シール部40に剥離が発生してガスリークが認められた。上記サンプル1,7および9以外のサンプルでは、シール部40でのガスリークは好ましく防止されていた。
【0084】
以上の結果から、本実施例によると、ガラスマトリックス中に少なくともMgを構成要素として含む結晶が析出している結晶含有ガラスからなるシール材であって該ガラスの熱膨張係数の金属部材の熱膨張係数に対する比Zが0.7≦Z≦1を満たすように調製されているシール材を用いることによって、MgO多孔質基材上に形成されたペロブスカイト型酸化物からなる緻密な酸素分離膜と金属製ガス管との間を塞ぐようにして、酸素分離膜エレメントとガス管とを接合、連結することができた。そして、かかる接合部分において、少なくとも1200℃の高温条件に曝してもガスリークを生じさせることなく十分な気密性と機械的強度を保持したシール部を形成することができた。このため、本実施例によると、耐熱性と耐久性に優れるシール部を備えた高性能の酸素分離膜モジュールを実現することができる。
【符号の説明】
【0085】
10 酸素分離膜エレメント
12 多孔質基材
13 外周表面
14 酸素分離膜
15a,15b 酸素分離膜エレメントの軸方向の端部
20 ガス管
25 連結面
30 ガス管
35 連結面
40 シール部(シール材)
50 チャンバー
100 酸素分離膜モジュール


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと、
前記酸素分離膜エレメントに接合された金属部材と
を備える酸素分離膜モジュールであって、
前記酸素分離膜エレメントと前記金属部材との接合部分には、該接合部分におけるガス流通を遮断するシール部が形成されており、
前記シール部は、ガラスマトリックス中に結晶成分を含む結晶含有ガラスであって少なくともフォーステライト結晶が析出している結晶含有ガラスによって形成されており、
前記結晶含有ガラスは、以下の5つの構成元素を、酸化物換算で該5つの構成元素全体を100質量%として以下の組成:
SiO 40〜72質量%;
Al 10〜22質量%;
NaO 8〜22質量%;
O 8〜22質量%;
CaO 0〜 4質量%;
で有しており、
前記結晶含有ガラスは、さらに構成元素としてMgを有しており、酸化物換算で前記結晶含有ガラス全体を100質量%としてMgOの質量組成が1質量%以上13質量%未満であるとともに、このうちの少なくとも半分の量は前記ガラスマトリックス中に析出している結晶の構成成分として存在しており、
ここで、前記結晶含有ガラスの熱膨張係数の前記金属部材の熱膨張係数に対する比が0.7以上1以下である、酸素分離膜モジュール。
【請求項2】
酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと、
前記酸素分離膜エレメントに接合された金属部材と
を備える酸素分離膜モジュールであって、
前記酸素分離膜エレメントと前記金属部材との接合部分には、該接合部分におけるガス流通を遮断するシール部が形成されており、
前記シール部は、ガラスマトリックス中に結晶成分を含む結晶含有ガラスであって酸化マグネシウム(MgO)からなる結晶と、クリストバライト結晶、リューサイト結晶およびフォーステライト結晶から選択される少なくとも1種の結晶とが析出している結晶含有ガラスによって形成されており、
前記結晶含有ガラスは、以下の5つの構成元素を、酸化物換算で該5つの構成元素全体を100質量%として以下の質量組成:
SiO 40〜72質量%;
Al 10〜22質量%;
NaO 8〜22質量%;
O 8〜22質量%;
CaO 0〜 4質量%;
で有しており、
前記結晶含有ガラスは、さらに構成元素としてMgを有しており、酸化物換算で前記ガラス全体を100質量%としてMgOの質量組成が13質量%以上30質量%以下であるとともに、このうちの少なくとも半分の量は前記ガラスマトリックス中に析出している結晶の構成成分として存在しており、
ここで、前記結晶含有ガラスの熱膨張係数の前記金属部材の熱膨張係数に対する比が0.7以上1以下である、酸素分離膜モジュール。
【請求項3】
前記シール部を構成する結晶含有ガラスは、少なくとも1200℃の温度下に曝されても10×10−6−1〜14×10−6−1の熱膨張係数を維持する、請求項1に記載の酸素分離膜モジュール。
【請求項4】
前記金属部材の熱膨張係数が、10×10−6−1〜17×10−6−1である、請求項2に記載の酸素分離膜モジュール。
【請求項5】
前記酸素分離膜は、一般式:
Ln1−xMO3−δ (1)
(ただし、式中のLnはランタノイドから選択される少なくとも1種であり、AはSr、CaおよびBaからなる群から選択される少なくとも1種であり、Mは、ペロブスカイト型構造を構成し得る1種または2種以上の金属元素であり、0≦x<1であり、δは電荷中性条件を満たすように定まる値である。)で表される組成のペロブスカイト構造を有する酸化物セラミックスにより構成されている、請求項1〜4のいずれかに記載の酸素分離膜モジュール。
【請求項6】
酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと該酸素分離膜エレメントに接合された金属部材とを備える酸素分離膜モジュールにおいて前記酸素分離膜エレメントと前記金属部材とをシールして接合するためのシール材であって、
以下の5つの構成元素を、酸化物換算で該5つの構成元素全体を100質量%として以下の質量組成:
SiO 40〜72質量%;
Al 10〜22質量%;
NaO 8〜22質量%;
O 8〜22質量%;
CaO 0〜 4質量%;
で有する結晶含有ガラスであってガラスマトリックス中に少なくともフォーステライト結晶が析出している結晶含有ガラスを主体としており、
前記結晶含有ガラスは、さらに構成元素としてMgを有しており、酸化物換算で前記ガラス全体を100質量%としてMgOの質量組成が1質量%以上13質量%未満であるとともに、このうちの少なくとも半分の量は前記ガラスマトリックス中に析出している結晶の構成成分として存在しており、
ここで、前記結晶含有ガラスの熱膨張係数の前記金属部材の熱膨張係数に対する比が0.7以上1以下を満たすように調製されている、酸素分離膜モジュール用シール材。
【請求項7】
酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと該酸素分離膜エレメントに接合された金属部材とを備える酸素分離膜モジュールにおいて前記酸素分離膜エレメントと前記金属部材とをシールして接合するためのシール材であって、
以下の5つの構成元素を、酸化物換算で該5つの構成元素全体を100質量%として以下の質量組成:
SiO 40〜72質量%;
Al 10〜22質量%;
NaO 8〜22質量%;
O 8〜22質量%;
CaO 0〜 4質量%;
で有する結晶含有ガラスであってガラスマトリックス中に酸化マグネシウム(MgO)からなる結晶と、クリストバライト結晶、リューサイト結晶およびフォーステライト結晶から選択される少なくとも1種の結晶とが析出している結晶含有ガラスを主体としており、
前記結晶含有ガラスは、さらに構成元素としてMgを有しており、酸化物換算で前記結晶含有ガラス全体を100質量%としてMgOの質量組成が13質量%以上30質量%以下であるとともに、このうちの少なくとも半分の量は前記ガラスマトリックス中に析出している結晶の構成成分として存在しており、
ここで、前記金属部材の熱膨張係数に対する前記結晶含有ガラスの熱膨張係数の比が0.7以上1以下を満たすように調製されている、酸素分離膜モジュール用シール材。
【請求項8】
少なくとも1200℃の温度下に曝された後も熱膨張係数が10×10−6−1〜14×10−6−1を維持するように調製されている、請求項6または7に記載の酸素分離膜モジュール用シール材。
【請求項9】
酸素分離膜モジュール用シール材を製造する方法であって、
酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40〜70質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 8〜20質量%;
O 8〜20質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
から実質的に構成されるように調製されたガラス原料粉末を用意し、該原料粉末を溶融してガラスを調製すること、
前記調製したガラスを粉砕後、MgO粉末を前記ガラス原料粉末全体の1質量%以上10質量%未満に相当する量で添加して前記ガラスと前記MgOとの混合粉末を調製すること、および、
前記混合粉末を結晶化処理することにより、前記ガラスのマトリックス中に結晶成分として少なくともフォーステライト結晶を析出させること、
を包含する、製造方法。
【請求項10】
酸素分離膜モジュール用シール材を製造する方法であって、
酸化物換算の質量比で以下の組成:
SiO 40〜70質量%;
Al 10〜20質量%;
NaO 8〜20質量%;
O 8〜20質量%;
MgO 0〜 3質量%;
CaO 0〜 3質量%;
から実質的に構成されるように調製されたガラス原料粉末を用意し、該原料粉末を溶融してガラスを調製すること、
前記調製したガラスを粉砕後、MgO粉末を前記ガラス原料粉末全体の10質量%以上30質量%未満に相当する量で添加して前記ガラスと前記MgOとの混合粉末を調製すること、および、
前記混合粉末を結晶化処理することにより、前記ガラスのマトリックス中に結晶成分として酸化マグネシウム(MgO)からなる結晶と、クリストバライト結晶、リューサイト結晶およびフォーステライト結晶から選択される少なくとも1種の結晶とを析出させること、
を包含する、製造方法。
【請求項11】
前記結晶化処理として、前記混合粉末を1000℃以下の結晶化を誘起し得る温度域で所定時間加熱する、請求項9または10に記載の製造方法。
【請求項12】
酸素イオン伝導体であるペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜を多孔質基材上に備える酸素分離膜エレメントと該膜エレメントに接合された金属部材とを備える酸素分離膜モジュールを製造する方法であって、
前記ペロブスカイト構造の酸化物セラミックスからなる酸素分離膜用材料が前記多孔質基材上に塗布されてなる塗布膜が形成されている膜エレメントを用意すること、
前記金属部材を用意すること、
請求項6〜8のいずれかに記載のシール材であってガラスマトリックス中に少なくともMgを構成元素として含む結晶が析出している結晶含有ガラスからなるシール材を、前記塗布膜が形成された膜エレメントと金属部材とを接続した部分に付与すること、および
前記シール材が付与されて互いに接続している前記膜エレメントと前記金属部材とを、前記塗布膜の焼成温度域で焼成することによって、前記塗布膜が焼成されてなる酸素分離膜を前記多孔質基材上に形成すること、および前記膜エレメントと前記金属部材との接続部分に該シール材からなるガス流通を遮断するシール部を形成して互いに接合することを同時に行うこと、
を包含する、酸素分離膜モジュールの製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−45830(P2011−45830A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196101(P2009−196101)
【出願日】平成21年8月26日(2009.8.26)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【Fターム(参考)】