説明

酸素分離膜

本発明は膜、特に酸素分離膜に関連し、この膜は費用、価格、サイズ、重量及び雑音に関して、改善されるガス分離条件を可能にする。本発明による膜、特に酸素分離膜は、支持層28及び分離層30を有し、分離層30は酸素に対し透過性であり、少なくとも1つの他のガス、例えば窒素に対し吸着親和性であり、前記膜は加熱装置により実質的に分離層30だけが加熱可能であるように設計される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素分離の分野に関する。特に、本発明は、特に在宅医療の分野における治療応用のための酸素分離に関する。
【背景技術】
【0002】
酸素療法は、治療モダリティとしての酸素の投与である。それは、細胞の代謝にとって不可欠であり、同様に組織酸素化は全ての生理学的機能にとって不可欠であるため、慢性的な及び急性の患者の両方において様々な目的のために広く使用される。酸素療法は、特に患者が低酸素症及び/又は低酸素血症で苦しんでいるとき、肺への酸素の供給を増大させること、及びそれにより身体組織に酸素の利用率を増大させることにより患者に利益をもたらすように使用されるべきである。酸素療法は、病院又は在宅医療における応用の両方に使用されてもよい。酸素療法の主な在宅医療の応用は、重度の慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者のためである。
【0003】
酸素は、多くの方法で投与されてもよい。酸素投与の好ましい方法は、いわゆる要求に応じた(オンデマンドの)酸素の発生を使用することである。これに関して、商業的な解決法、いわゆる酸素濃縮器又は分離器夫々が広く知られている。これら酸素濃縮器は、好ましくは酸素に対しては透過性であるが、他のガス、特に窒素を選択的に吸着する、特別に設計された膜を使用することにより、酸素含有ガスから酸素を殆ど分離する。最もよく知られる酸素濃縮器は、酸素含有ガスを圧縮して、大気圧で毎分約1リットルの要求される酸素流量を作り出す圧縮器を必要とする。
【0004】
いわゆるスイング処理、すなわち圧力スイング吸着法(PSA)又は真空スイング吸着法(VSA)を使用することにより純酸素(pure oxygen)を形成することが広く知られている。スイング処理は通例、2つのステップ、すなわち吸着ステップ及び再生ステップに分けられることができる。吸着ステップでは、主として物理的吸着材を有する膜を持つ層(bed)が酸素含有ガスの供給ガス混合物と接する。この酸素含有ガスは主に酸素及び窒素を有する。この酸素含有ガスから酸素を分離するために、前記物理的吸着材は、この成分を吸着するために窒素に対する吸着親和性(sorptive affinity)を持っているのに対し、吸着されない成分(酸素)は、純ガスの流れを形成する。前記吸着材が窒素で飽和するのを回避するために、窒素は再び前記吸着材から脱着されなければならない。層又は膜夫々の脱着手続きは、前記再生ステップの初歩的な方法である。この再生ステップは、圧力を減少させる及び/又は新鮮なガス、例えば空気を前記吸着材に流すことにより実現される。
【0005】
スイング処理において、少なくとも2つの層、すなわち膜を夫々設けることがさらに有利である。これは、異なる吸着材料が反循環的な方法で動作されることを可能にして、それにより酸素含有ガス及び結果として形成される純酸素の一定の流れを可能にする。
【0006】
開示したPSA及びVSAに加え、いわゆる温度スイング吸着(TSA)を利用することによりガスを分離することも知られている。TSAにおいて、TSAを向上させるために、脱着ステップ中は膜に熱が供給されるのに対し、吸着ステップ中は熱が供給されない。
【0007】
他のガス分離方法として、温度−圧力スイング吸着(TPSA)として知られる複合技術が開発されている。これは、ハイブリッド型の再生サイクルであり、このサイクルは、PSA及びTSAの多くの利点を兼ね備える一方、関連する費用を最小にする。このTPSA処理は、膜から不純物を除去するために熱パルスを供給することによりTSAと類似の方法で働く。しかしながら、TPSAの場合、この熱パルスのエネルギーは、不純物全てを膜から脱着するのに必要とされるエネルギーよりも低い。熱パルスが消えた後、冷たい再生ガスを供給し続けることにより残りの不純物が除去される。膜がたとえガスの供給温度よりも上に加熱されなくても、乾燥した再生ガス流は熱エネルギーを含んでいるので、この第2のステップは実現される。条件を適切に調節することにより、再生ガスを加熱することで供給される僅かな脱着の熱だけで、繰り返される吸着及び再生のサイクルを達成することが可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、PSA及び/又はVSAを組み合わせたTSAが医療応用のための移動式の酸素発生器に使用されない理由は電力消費量である。
【0009】
ここに使用されるような"酸素含有ガス"という言葉は、酸素を少なくとも一部含んでいる何れかのガスを指している。
【0010】
ここに使用されるような圧力容器の"内側"という言葉は、収容した酸素含有ガスに向けられる圧力容器の面を指している。
【0011】
ここに使用されるような圧力容器の"外側"という言葉は、一次側と反対側の圧力容器の面、故にその外側を指している。
【0012】
ここに使用されるような膜の"一次側"という言葉は、圧力容器の内側に向けられる、及び酸素含有ガスのガス吸気口に向けられる膜の面を指している
【0013】
ここに使用されるような膜の"二次側"という言葉は、前記一次側と反対側の膜の面を指している。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の目的は、上述したような制限を克服することを可能にする膜、特に酸素分離膜を供給することである。
【0015】
本発明の他の目的は、酸素分離処理がエネルギーを節約することを可能する、及び例えば在宅医療応用の分野のような、特に移動式の酸素分離器において上手く応用可能である膜を供給することである。
【0016】
本発明の他の目的は、保守及び雑音に関して便宜性を向上させる膜を供給することである。
【0017】
これらの目的は、支持層及び分離層を有する膜、特に酸素分離膜により達成され、ここで分離層は、酸素に対し透過性であり、少なくとも1つの他のガス、特に窒素に対し吸着親和性であり、前記膜は、実質的に分離層だけが加熱装置により加熱可能であるように設計される。
【0018】
本発明の基本的な考えは、PSA処理のある期間中、膜の特定部分だけを加熱することを可能にすることである。分離層が選択的に加熱可能であるような膜を構築することにより、非常に有益な改善が達成される。加熱されなければならない体積は大きく減少する。これは、膜がより短い時間で加熱されることを可能にする。膜の加熱処理は再生ステップにおいて特に重要であるため、膜の再生サイクルは短くなり、より多くの純酸素の流れをもたらす。さらに、膜を通る酸素の拡散速度が大幅に改善されることができる。
【0019】
さらに、膜は一部しか加熱されないので、脱着ステップは、その膜の体積全体を規定した高温まで加熱される膜に対して、より少ないエネルギーを必要とする。従って、本発明による膜は、エネルギー効率が良く、費用の節約である。システムが重量及びサイズの改善となるより小さなバッテリーで構成されるので、これは在宅医療応用の分野において特に有利である。
【0020】
さらに、より迅速な脱着ステップによって、膜の一次側にあるガスの流れは大幅に低下することができる。これは、費用の節約であり、さらに雑音を低減する、より小さく、より安価な圧縮器ユニットが使用されるという効果がある。
【0021】
加えて、本発明による膜は、減少したサイズで形成されたときでさえも、十分に高い酸素流量を可能にする。再び、これは、システムのサイズ及び重量に関して改善につながる。
【0022】
結果として、本発明による酸素分離膜は、費用、価格、サイズ、重量及び雑音に関して有利である。
【0023】
本発明の好ましい実施例において、分離層は、絶縁層によって少なくとも一部が支持層から分離されている。この分離層は、以下に説明されるように、熱的絶縁層及び/又は電気絶縁層として設計されてもよい。熱的絶縁層が設けられる場合、この絶縁層は分離層と支持層との間にある熱流束を最小にする又は完全に防ぐ。従って、加熱された分離層が支持層にエネルギーを放つことを確実に防がれる。エネルギーはそれ故に、エネルギーが必要とされる場所に留まり、それが再生ステップのためのエネルギー入力をさらに減少させる。これに関して、熱的絶縁層は、多孔質構造、特にエーロゲル(earogel)として設計されることが特に有利である。これは、熱流束を防ぐための非常に効果的な配置である。特に良好な多孔質構造は、支持層が分離層により加熱されること、故にエネルギーを失うことを確実に防ぐ。
【0024】
他の利点は、分離層がドープされていることである。これは、規定した放射線を分離層が選択的に吸着すること、故に加熱装置により任意に放出される放射線と選択的に相互作用することを、加熱装置が放射線放出手段を有する場合に可能にする。これは、空間的加熱の特に簡単な方法を可能にする。これに関して、前記絶縁層はミラーを有することが特に好ましい。これは、支持層の加熱をもたらす放射線の支持層への浸透が確実に防がれるように、放射線は、支持層に入る前にミラーで反射されることを可能にする。
【0025】
本発明の他の好ましい実施例は、分離層に加熱コイルが設けられる。これは分離層における空間的加熱のかなり費用を節約する方法である。さらに、加熱コイルが分離層と直に接するので、エネルギーの入力は最小となり、加熱する時間は大幅に減少する。
【0026】
本発明の他の好ましい実施例において、分離層は導電性である。これは、加熱装置に含まれるオーム加熱手段を使用することを可能にする。これは、分離層に熱が直に生じるので、非常に効率のよい加熱手段である。故に、熱流束により引き起こされるエネルギーの損失は減少することができる。この点に関し、前記絶縁層は電気絶縁層として設計されることが特に好ましい。前記オーム加熱手段は、電流を分離層に通すことにより有利に実現される。例示的に、コネクタを介した外部電源との分離層の電気接続が使用される、すなわち、電磁場を印加することにより分離層に電流が誘導されてもよい。
【0027】
本発明の他の好ましい実施例において、第2の絶縁層は、前記分離層に隣接して配され、前記支持層の反対側に位置決められる。この配置はさらに、分離層の絶縁を改善し、それ故に加熱時間及びエネルギーの入力を改善する。従って再生時間はさらに短くなる。
【0028】
本発明はさらに、酸素分離システムにも関し、このシステムは、酸素含有ガスを収容するため、並びに内側及び外側を持つ圧力容器、前記酸素含有ガスから酸素を分離するための膜、前記膜を加熱するための加熱装置、並びに前記圧力容器の内側と外側との間に圧力差を作り出すための手段を有し、前記膜は本発明による膜である。
【0029】
前記加熱装置は、放射線放出手段、特に発光ダイオード(LED)、又はレーザ、特に固体レーザ(solid state)を有する。放射線に基づく加熱手続きによって、良好なエネルギーの節約及び方向性を持った加熱処理を実現し、前記分離層が空間的方法で加熱されることを可能にする。本実施例は特に、分離層が上述したようにドープされる場合に有利である。
【0030】
本発明の他の好ましい実施例において、分離層を冷却するための冷却装置が設けられる。これは、吸着ステップ前及び/又はステップ中に分離層を冷却することを可能にして、窒素の吸着により生じる熱を打ち消すことを可能にする。それ故に、この吸着処理は改善される。
【0031】
本発明の他の好ましい実施例において、圧力容器の内側と外側との間に圧力差を作り出すための手段が圧縮器、特にプラズマ圧縮器として設計される。プラズマポンプを設けることは、圧縮器から来るガスは高温であり、それ故に吸着ステップ中に膜を加熱する効果がある。再生ステップが始まるとき、前記膜は高温であり、改善される脱着処理を可能にする。加熱要素は、圧力容器の内側と外側との間に圧力差を作り出すための前記手段と直に組み合わされる。これは非常に効率がよく、費用を節約した配置である。
【0032】
本発明の他の好ましい実施例において、前記加熱手段を選択的にオン又はオフにする手段が設けられる。これは、本発明によるシステムが膜を加熱せずに"通常"モードで働くことを可能にする。この加熱装置は、改善される性能が必要とされるとき、単にオンになるだけである。これはかなりの費用の節約であり、さらに、エネルギーの節約であり、より小さなバッテリーで作業することを可能にする。これは本発明によるシステムの取扱特性も加えて改善する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明による酸素分離システムを吸着モードで示す。
【図2】本発明による酸素分離システムを再生モードで示す。
【図3】本発明による膜のある実施例を示す。
【図4】本発明による膜の他の実施例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明のこれら及び他の態様は、以下に記載の実施例から明らかであると共に、これら実施例を参照して説明される。
【0035】
図1において、本発明による酸素分離システム10が概略的に示される。このシステム10は、例えば在宅医用応用における酸素療法に非常によく適している。しかしながら、本発明のシステム10が治療応用に限定されるのではなく、酸素を発生する全ての種類にもさらに適している。他の例示的な応用として、飛行機又は潜水艦における酸素の発生にも言及される。
【0036】
図1によれば、本発明によるシステム10は吸着モードで示されている。これは、酸素が酸素含有ガスから分離される一方、窒素は吸着され、それ故に夫々のガス流から取り除かれていることを意味している。
【0037】
酸素分離システム10は、酸素含有ガスをシステム10に誘導するためのガス吸気口12を有する。この酸素含有ガスは、酸素を少なくとも一部有する全ての種類のガスでもよい。しかしながら、空気を酸素含有ガスとして使用することが最も好ましい。ガス吸気口12の下流では、前記酸素含有ガスは、導管(conduct)16を通り、酸素含有ガスを収容する圧力容器18に誘導される。
【0038】
この圧力容器18は、前記導管16に対してより大きなサイズを持つ容器として形成される。しかしながら、それ自体は本発明から外れていない圧力容器18として他の導管を使用することも可能である。他の導管の場合、圧力容器18は、導管16と比べて同じ又は略同じサイズを持ち、この導管16と1つの部品で形成されてもよい。結果的に、例えば圧力容器18として導管16を使用することが可能である。この圧力容器は、酸素含有ガスを収容するための如何なる種類の容器であってもよい。
【0039】
好ましくは、圧力容器18は、以下に説明されるような本発明による膜20により少なくとも一部が閉じられている。この膜20は、上に規定したような一次側及び二次側を有する。この膜20は、酸素に対し透過性であるが、使用される酸素含有ガスに依存して、少なくとも他のガスに対し吸着親和性を持つ。しかしながら、酸素含有ガスとして空気が好ましく、それを理由に膜20は窒素に対し吸着親和性を持つ。これは、窒素が膜20により吸着される、故に前記ガス流から取り除かれることを可能にする一方、酸素は膜20を通過し、純酸素ガスの流れが形成される。この形成されるガス流は次いで、すぐに使用される、例えば患者に投与される、又は保存及び後で使用される。
【0040】
前記ガス流が膜20を通過することを可能にするために、圧力容器18の内側と外側との間に圧力差を形成するための手段が設けられる。都合よくはこの手段は圧縮器14であり、この圧縮器はガス吸気口12の下流、及び圧力容器18の上流に置かれる。圧縮器14は、酸素含有ガスを圧縮し、この圧縮ガスを導管16を介して圧縮容器18に搬送する。それ故に、圧縮器14を用いて、酸素含有ガス、例えば空気の超過圧力がこの圧力容器18内に作り出される。好ましくは、酸素含有ガスは、1バール(bar)又は1バールよりも大きな超過圧力を持つ。圧縮器が圧力容器18に夫々の超過圧力を作り出すのに利用可能である限り、従来知られる如何なる種類の圧縮器14も使用することが可能である。
【0041】
代わりに、膜20に酸素を通させる、故に所望する純酸素の流れを作り出させるために、圧縮容器18の外側、故に膜20の二次側に圧力不足を作り出すことが可能である。この場合、規定の体積が膜20の前記二次側に設けられる。圧力容器18の内側と外側との間に圧力差を設けるための手段は、真空ポンプとして設計されてもよい。しかしながら、純酸素又は少なくとも略純酸素の適切な流れを得るために、圧力容器18の内側と外側との間に圧力差を作り出すことが不可欠である。
【0042】
発生した吸着エネルギーを打ち消すために、膜20を冷却するための冷却手段を供給することにより吸着ステップを改善することが有利である。しかしながら、膜20が新鮮な酸素含有ガスの流れにより冷却されるので、厳密には冷却手段は必要ない。この冷却効果は、幾つかの応用にとって十分である。
【0043】
圧力容器18はさらに、図2に関して説明される第2のガス吸気口22及びガス排気口24を有する。第2のガス吸気口22及びガス排気口24は、吸着モードでは閉じられ、これは、圧力容器18に前記超過圧力を作り出すのに重要である。ガス吸気口22及びガス排気口24を閉じるのは、それ自体は知られているバルブにより実現される。
【0044】
図2において、本発明によるシステムは再生モードで示される。上述したように、本発明による膜20は窒素を吸着するように設計される。動作中、膜20は、減少する吸着容量となる時点に窒素で飽和され、酸素分離システムの分離性能の低下をもたらす。従って、吸着した窒素を脱着することにより、膜20を再生することが不可欠である。
【0045】
適切な窒素の脱着を得るために、圧力容器18の内部の圧力は、例えば大気圧まで減少され、この圧力容器18は、新鮮な空気で流される。従って、好ましくはガスポンプを装備したガス吸入口22を通り、圧力容器18内に空気が誘導され、それにより、圧縮器14を圧力容器18から分離する。代わりに、新鮮な空気が吸入口12及び導管16を通り圧力容器18内に誘導されてもよい。これは、吸着処理中に膜20に吸着した窒素が膜20から脱着されること、並びに圧力容器18の内側にある体積内に及びさらに圧力容器18からガス排気口24を通り拡散することを可能にする。膜20の再生はさらに、新鮮な空気を膜20の二次側から膜20を通りその膜の一次側に誘導することにより達成される。
【0046】
膜20が十分に再生される場合、新しい吸着サイクルが再び始まり、本発明によるシステム10は再び吸着モードで動作する。
【0047】
脱着ステップを改善するために、膜20を加熱し、必要な脱着エネルギーを供給することが必要である。しかしながら、この加熱処理は、エネルギー及び時間を消費する。加熱処理を改善するために、本発明に従い、膜20は複合膜であり、層状構造で形成される。これが図3に示される。
【0048】
図3によれば、膜20は任意にキャリア層26を有する。このキャリア層26は、織布又は不織布でもよく、膜20の機械的強度及び取扱性(handability)を改善する。キャリア層26は、妨害されないガス流を可能にする比較的大きな細孔(pore)を示す。優先的には、膜20の他の部分として、キャリア層26は、化学薬品及び高温に対し耐久性がある。
【0049】
ガス分離の処理のために、優先的に多層膜が利用され、これら膜は、任意のキャリア層26に加え、異なる化学成分からなる少なくとも2つの層を有する。一般に、このような複合膜20は、主に膜20の機械的強度を決定する第1の多孔質副層(porous sublayer)を有する。この層は支持層28である。この支持層28にとって有利な厚さは、30μmから70μmまでの範囲、特に約50μmである。支持層28及びキャリア層26は通常50%未満の多孔性の標準値を持つ。前記副層に隣接して、主に膜20の分離特性を決定する化学的に異なる材料からなる第2の層が設けられる。この層は分離層30である。この分離層30は、微孔性又は高密度及び無孔性である。この分離層30は、0.25μmから10μm、特に0.5μmから5μmの厚さを持つ。上述したように、分離層は、酸素以外の少なくとも1つのガス、特に窒素に対し、ガス流から窒素を取り除くための吸着親和性を持つ。
【0050】
脱着ステップの前及び/又はその間に単に分離層を加熱するだけで十分である。この選択的及び空間的な加熱により、より小さな体積が加熱されなければならず、必要とされるエネルギーを少なくする、及び必要な時間を少なくすることになる。それにより、この加熱は、脱着ステップの直前に又はそのステップの始まりで開始して、吸着ステップが終わる前に終了すべきである。分離層30は、新しい吸着フェーズが開始する前に、冷却する時間を持っている。一般的な吸着温度は、150℃から200℃の範囲である。1μmの厚さ及び1mの表面を持つ分離層30を参照すると、例示的な値で、分離層30のΔT=100Kの温度上昇が1秒未満の時間範囲で実現される。これは、最新式に対し卓越した改善である。さらに、窒素の脱着速度は、2倍より大きく増大し、これはさらに大幅な増大である。
【0051】
上記空間的な加熱を達成するために、膜20は、加熱装置により実質的に分離層30だけが加熱可能であるように設計される。それ故に、膜20は加熱装置に合わせて調整される。幾つかの別々の加熱要素が設けられてもよい。本発明によれば、これら加熱要素は、分離層30だけの選択的及び空間的加熱のために設計されることが不可欠である。その一方、支持層28及び任意にキャリア層26は加熱されない。
【0052】
1つの好ましい加熱装置は、放射線放出手段である。特に好ましい手段は、発光ダイオード(LED)又は例えば固体レーザのようなレーザである。そのような放射線源を使用することにより、放射線は分離層30に焦点が合わされ、それ故に膜20のこの部分だけを選択的に加熱する。この効果は、分離層30をドープすることにより、さらにもっと改善されることができる。例示的に、分離層30が無機材料である場合、それはレアアース要素でドープされてもよい。これは、前記分離層30が放射線源に合わせて調節される明確に定義された吸着範囲を持つことを可能にする。故に、分離層30は支持層28又はキャリア層26夫々に如何なる影響も及ぼすことなく、選択的に加熱される。適切な及び効率的な加熱処理を達成するために、分離層30は、25%以上、100%以下の放射線の吸着の効率を持ってもよい。
【0053】
放射線放出手段が分離層30を加熱するのに使用される場合、当てられる放射線に対し透光性(translucent)であるべき1つ以上の別の層を設計する必要がある。例として、放射線が膜20の上から当てられる場合、任意の絶縁層34は透光性でなければならない。分離層30が下から照射される場合、支持層28及びキャリア層26は透光性でなければならない。当てられる放射線に対し透光性である別の層全てを設計することも同様に可能である。この場合、加熱要素の設計は、あまり制限されない。実際に、当てられる放射線、すなわち放射線の波長は、例えばキャリア層26及び支持層28に使用される層に従って夫々選択されてもよい。これは、夫々の層(例えばキャリア層26及び支持層28)によって吸着されるのではなく、分離層30のみにより吸着される放射波長を利用することができる。
【0054】
本発明の他の実施例において、前記加熱装置は、分離層30に設けられる加熱コイルを有する。オーム加熱手段を備えることもさらに可能である。この場合、分離層30は、所望の効果を達成するように導電性である。さらに、熱交換器が分離層30を加熱することが可能である、すなわち電流が導電性の分離層30を流れて、さらに所望の加熱効果も有する。
【0055】
他の実施例において、分離層30は、圧縮器14の排気口から来るガスにより加熱される。これは、ガスを加熱してガスの圧縮が起こるために実現される、つまりこの加熱したガスは、分離層30の温度を上昇させることができる。このガスの大幅な温度上昇となる圧縮器14の例として、プラズマポンプは、このプラズマポンプ圧縮器の排気口から熱い空気を供給する。この熱い圧縮空気は、吸着ステップ中に膜20の分離層30を加熱し、この吸着処理の終わりに最大温度に達する。再生ステップはそれ故に、適切な温度を持つ膜20で開始する。しかしながら、この吸着ステップ中に新鮮な冷気を膜20に流すことにより、膜20は再び急速に冷却される。それ故に、この吸着処理の終わりに、膜20は適切な吸着処理を保証するのに十分に低い温度を持つ。
【0056】
しかしながら、加熱要素は、上述した実施例に限定されない。説明したように、分離層30を空間的に加熱することが可能である如何なる加熱要素が使用されてもよく、膜20は、夫々に使用される加熱要素に合わせて調節されてもよい。
【0057】
前記空間的な加熱処理をさらに改善するために、分離層30は、特別な絶縁層32により支持層28から隔てられてもよい。この絶縁層32は夫々、電気絶縁層又は熱絶縁層、すなわち断熱体として形成されてもよい。この絶縁層32は、対象として加熱処理を分離層30に集中させることを支援しなければならない。この点において、絶縁層32は大きな熱抵抗を持つ層である。
【0058】
何れの場合においても、絶縁層32は分離層30から支持層28への熱流束を完全に防ぐこと、又は分離層30から支持層28への熱の流れが少なくとも略無視できることが利点である。これは、分離層30に導入される全てのエネルギーが支持層28を加熱するためだけに使用されることを保証している。その結果として、エネルギーを損失せず、これが熱処理の効率を向上させる。
【0059】
特に熱絶縁層32の可能な実施例は、非常に多孔質な構造である。これらの構造は、支持層28又はキャリア層26夫々に比べ、より多くの多孔質及び結果としてより低い密度を持っている。支持層28又はキャリア層26とは対照的に、前記絶縁層は機械的強度を供給する必要はなく、分離層を絶縁するだけなので、このような多孔質構造が実現される。この絶縁層の多孔率は、50%から99.9%の範囲、特に80%から99.8%の範囲、特に90%から99.8%の範囲にあり、かさ密度(bulk density)は好ましくは、0.1g/cmが標準値の0.5g/cmより下の範囲にある。
【0060】
絶縁層に使用可能な好ましい材料はエーロゲルである。エーロゲルは、何れかの既知の多孔質な固体の可能な最も低いかさ密度を持つ材料である。それは、液体成分がガスと置き換わったゲルから得られる。エーロゲルは従って、幾つかの顕著な特徴、とりわけ熱絶縁体としての効率及び極めて低い密度を持つ極めて低い密度の液体である。他の可能な熱絶縁層32は、前記多孔質構造がガス透過性であるように開放されている発泡性石英ガラス又は分離層30と支持層28との間に設けられる空隙である。
【0061】
分離層30が放射線により加熱される場合、絶縁層32はミラーを有することがさらに有利である。ミラーは、前記放射線を反射し、放射線が支持層に入ることなく、支持層を加熱するのを防ぐことを保証する。それ故に、ミラーは、放射線源から放出される波長を反射することが要求される。さらに、分離層30により吸着されなかった放射線がこの分離層を再び横断する。それによりエネルギーの入力はさらに最小化される。これは少なくとも50%の吸着効率となる。しかしながら、放射線源の位置に依存して、放射線源が放射線を分離層に入れることを可能にするので、ミラーは不適切であることが分かる。実際、絶縁層32及び/又は34にミラーを使用することは、放射線放出手段の位置に従わなければならない。
【0062】
図4に示されるように、第2の絶縁層34を設けることがさらに有利である。この絶縁層34は、絶縁層32と比べ、例えば多孔性又は含まれる構成要素に関して同じ特徴を持つ。この第2の絶縁層34は、分離層30が2つの絶縁層の間にサンドイッチ構造で組み込まれるという効果を持つ。このサンドイッチ構造によって、分離層30は、特に両方の絶縁層32及び34が熱絶縁層である場合、その周囲から実質的に熱的に切り離される。これはエネルギー損失を最小にする。絶縁層23及び/又は34が設けられる場合、放射線放出手段を用いて分離層30を任意に加熱することにより使用される放射線に対し透過性であるべきである。この場合、使用される波長は、絶縁層32及び/又は34で夫々吸着されないように選択される場合にもちろん有利である。絶縁層34は、酸素に対し透過性であるが、他のガスに対しても透過性であってもよい。
【0063】
膜20が少なくとも一部が圧力容器18を閉じている場合、この膜20は、図3及び4に示されるように、層状構造を持つシート状の複合膜でもよい。この場合、吸着又は脱着処理は夫々、上述したように実現されてもよい。
【0064】
しかしながら、幾つかの応用において、充填層の形式で圧力容器18内に置かれる小粒子として、平坦な層状構造に対し説明したような、本発明による膜20を配することが好ましい。この膜20は故に、物理的吸着材の層を形成する。この場合、分離層30は、前記粒子の外周面に位置決められるのに対し、支持層28は、分離層30の下に核として配される。この場合、吸着処理は以下の通り実現されてもよい。圧力容器18において、酸素含有ガスの超過圧力が上述したように供給される。これは、ガスを膜20の分離層30内に浸透させ、それにより、酸素含有ガスに含まれる窒素を吸着する。酸素は吸着されず、膜20の下流において、圧力容器18は排気口を有し、この排気口を介して純酸素の流れが実現される。この膜から窒素を脱着するために、再び圧力は大気圧まで減少し、圧力容器18及び膜20は新鮮な空気で流される。
【0065】
本発明の他の態様において、所望の動作モードに依存して、加熱装置をオン又はオフにするための手段が供給される。この手段は、制御ユニットであるが、この例に限定はされない。本実施例において、本発明によるシステム10は、加熱装置をオフにした"通常"モードで実行し、それにより毎分1リットルの例示的な範囲で純酸素の流れを供給する。この流れは、大部分の応用にとって十分である。しかしながら、より多くの流れが必要とされる場合、加熱装置がオンになり、上述したように一種の"バースト動作モード"で加熱される分離層30を生じる。これは、より多くの純酸素の流れを必要とするときにだけ、毎分2又は3リットルの例示的な範囲でこのより多くの純酸素の流れを可能にする。本発明によるシステム10のエネルギー消費はそれ故に、毎分2−3リットルの酸素流を供給するように設計したシステムで大幅に減少する。特に、ポータブル式の在宅医療システムにおいて、取扱特性を大幅に向上させるより小さなバッテリーをこのシステムが装備することが可能である。
【0066】
本発明は、図面及び上記記載においてより詳細に説明及び開示されたのに対し、このような説明及び開示は、説明的又は例示的であると考え、限定的であるとは考えるべきではない、つまり本発明は開示した実施例に限定されない。開示した実施例に対する他の変更例は、図面、本開示及び付随する特許請求の範囲を学ぶことにより、本発明を実施する当業者によって理解及び行われることができる。請求項において、"有する"という用語は、他の要素又はステップを排除するものではなく、複数あることを述べないことは、それらが複数あることを排除するものではない。一連の手続きが互いに異なる従属請求項に挙げられているという単なる事実がこれらの手続きの組み合わせが有利に使用されないことを示しているのではない。請求項における如何なる参照符号もこの請求項の範囲を限定するとは考えるべきではない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持層及び分離層を有する膜、特に酸素分離膜において、
前記分離層は、酸素に対し透過性であり、少なくとも1つの他のガス、特に窒素に対し吸着親和性である、並びに
前記膜は、実質的に前記分離層だけが加熱装置により加熱可能であるように設計される膜。
【請求項2】
前記分離層は、絶縁層により前記支持層から少なくとも一部が分離されている、請求項1に記載の膜。
【請求項3】
前記絶縁層は、熱的絶縁体として、特にエーロゲルのような多孔質構造として設計される請求項2に記載の膜。
【請求項4】
前記分離層はドープされている請求項1、2又は3に記載の膜。
【請求項5】
前記絶縁層はミラーを有する請求項2、3又は4に記載の膜。
【請求項6】
前記分離層に加熱コイルが設けられている請求項1乃至5の何れか一項に記載の膜。
【請求項7】
前記分離層は導電性である請求項1乃至6の何れか一項に記載の膜。
【請求項8】
第2の絶縁層が前記分離層に隣接して設けられ、前記支持層の反対側に位置決められている請求項2乃至7の何れか一項に記載の膜。
【請求項9】
酸素含有ガスを収容するための、並びに内側及び外側を有する圧力容器、
前記酸素含有ガスから酸素を分離するための膜、
前記膜を加熱するための加熱装置、並びに
前記圧力容器の内側と外側との間に圧力差を作り出すための手段
を有する酸素分離システムにおいて、
前記膜は請求項1乃至8の何れか一項に記載の膜である、酸素分離システム。
【請求項10】
前記加熱装置は、放射線放出手段、特に発光ダイオード、又はレーザ、特に固体レーザを有する、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
前記加熱装置は、オーム加熱手段を有する請求項9又は10に記載のシステム。
【請求項12】
前記分離層を冷却するための冷却装置が設けられる請求項9、10又は11に記載のシステム。
【請求項13】
前記圧力容器の内側と外側との間に圧力差を作り出すための前記手段は、圧縮器として、特にプラズマポンプとして設計される請求項9乃至12の何れか一項に記載のシステム。
【請求項14】
前記加熱装置を選択的にオン又はオフにするための手段が設けられる請求項9乃至13の何れか一項に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−521114(P2013−521114A)
【公表日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−555517(P2012−555517)
【出願日】平成23年2月4日(2011.2.4)
【国際出願番号】PCT/IB2011/050489
【国際公開番号】WO2011/107898
【国際公開日】平成23年9月9日(2011.9.9)
【出願人】(590000248)コーニンクレッカ フィリップス エレクトロニクス エヌ ヴィ (12,071)
【Fターム(参考)】