説明

酸素同位体の濃縮方法および濃縮装置

【課題】酸素の安定同位体である17Oや18Oを酸素の状態で濃縮することができ、しかも、簡便な装置構成で容易にかつ工業的に実施することが可能な酸素同位体の濃縮方法及び装置を提供することを目的とする。
【解決手段】オゾン生成手段11にて原料酸素からオゾンを発生させ、生成した酸素とオゾンの混合ガスに光分解手段12にて光を照射して、分子中に目的の酸素同位体を含まないオゾンを選択的に酸素に分解し、オゾンが分解して生成した酸素と未分解のオゾンとをオゾン分離手段13で分離し、分離したオゾンをオゾン分解手段14において分解し、生成した酸素中に目的の酸素同位体を濃縮する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素同位体の濃縮方法及びその装置に関し、詳しくはレーザ光によるオゾンの光解離反応を利用したレーザ同位体分離と蒸留分離を組み合わせることによって、存在比の小さい酸素同位体17Oおよび18Oをそれぞれ高濃度に濃縮する方法とこの方法を実施するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
17Oは酸素同位体のうち唯一核スピンを有するため、その標識化合物を用いた構造解析や、医療分野におけるトレーサとして利用されている。また、18Oは、PET(Positron Emission Tomography:陽電子放射断層撮影法)診断薬の原料としての需要がある。
ところで、酸素同位体16O、17O、18Oのうち、17Oと18Oは、それぞれの天然存在率が0.037%、0.204%と非常に小さい。
【0003】
酸素同位体の濃縮方法には、光化学反応を利用した方法があり、例えば、特開2005−283333号公報には、ジメチルエーテルにレーザ光を照射して18Oを含むジメチルエーテルを選択的に光分解させることにより18Oを含む生成物を得る方法が開示されている。
また、オゾンの光分解を利用した方法として、例えば、特開2004−261776号公報には、オゾナイザによってオゾンを生成し、このオゾンにレーザ光を照射し、17Oを含むオゾン分子を選択的に光分解させることにより、17Oを含む生成物を得る方法が開示されている。この先行発明では、オゾンの光分解反応において解離した酸素原子が非選択的にオゾンに衝突する確率を下げるために、光反応の前に蒸留塔において蒸留操作を行ない、オゾンと未反応の酸素を分離する工程が設けられている。
【特許文献1】特開2005−28333号公報
【特許文献2】特開2004−261776号公報
【特許文献3】特開2005−40668号公報
【特許文献4】特開2005−93067号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特開2005−28333号公報に開示の光化学反応を利用した酸素同位体濃縮方法では、低濃縮率、反応に寄与する光の低利用効率、レーザ光の発振エネルギーの低効率、濃縮した化学種を抽出するための後処理が必要などの問題があり、工業的に確立されたものではなかった。
【0005】
また、特開2004−261776号公報に示されたオゾナイザと蒸留操作を組み合わせた方法では、現行のオゾナイザにおけるオゾンの生成効率が15%程度であるため、オゾンと未反応酸素の分離を行うと、流体処理量が少なくなる。光反応の前段階で、オゾンと未反応の酸素を分離するための低温蒸留が必要なため、蒸留の操作性が悪くなるという問題があった。
さらに、操作性向上のため、希ガスやCF等の不活性ガスを加える方法も提案されているが、これらの不活性な物質であっても、オゾンの存在下においてレーザ光を照射した場合、予期せぬ副生成物の発生が懸念される。
【0006】
よって、本発明における課題は、酸素の安定同位体である17Oや18Oを酸素の状態で濃縮することができ、しかも、簡便な装置構成で容易にかつ工業的に実施することが可能な酸素同位体の濃縮方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
よって、かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、酸素を原料としてオゾンを生成するオゾン生成工程と、
このオゾン生成工程で生成したオゾンを含むオゾン含有ガスに光を照射し、分子中に目的の酸素同位体を含まないオゾンを選択的に酸素に分解する光分解工程と、
この光分解工程で生成した酸素と未分解のオゾンとを分離するオゾン分離工程と、
このオゾン分離工程において分離したオゾンを分解して生成した酸素中に目的の酸素同位体を濃縮するオゾン分解工程を備えた酸素同位体の濃縮方法である。
【0008】
請求項2にかかる発明は、前記光分解工程が、原料酸素および前記オゾン生成工程において生成したオゾンのみを含む系で実施される請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法である。
請求項3にかかる発明は、前記オゾン分離工程において、不活性ガスを添加して分離する請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法である。
請求項4にかかる発明は,前記光分解工程において、分子中に16Oを含むオゾンを分解することで、17O及び/または18Oを濃縮する請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法である。
【0009】
請求項5にかかる発明は、原料酸素からオゾンを発生させるオゾン生成手段と、
このオゾン生成手段で生成した酸素とオゾンの混合ガスに光を照射して分子中に目的の酸素同位体を含まないオゾンを選択的に酸素に分解する光分解手段と、
この光分解手段においてオゾンが分解して生成した酸素と未分解のオゾンとを分離するオゾン分離手段と、
このオゾン分離手段において分離したオゾンを分解し、生成した酸素中に目的の酸素同位体を濃縮するオゾン分解手段を有してなり、
前記オゾン生成手段と前記光分解手段との間に、オゾンと酸素を分離する手段を有しない酸素同位体濃縮装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、酸素の安定同位体である17Oや18Oを酸素の状態で濃縮することができ、しかも、簡便な装置構成で容易にかつ工業的に実施することが可能となる。また、光分解工程では、酸素原子から構成される酸素分子のみ(オゾンと原料酸素の残部)を供給し、濃縮目的の酸素同位体を含まないオゾンのアイソトポマーを選択的に光分解にするようにすることで、予期しない希釈ガスとの副反応のおそれもなく、特定の酸素同位体を含む酸素を効率よく得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
図1は、本発明の酸素同位体濃縮装置の一例を示したものである。
酸素同位体には、16O、17O、18Oが存在するが、ここでは、この中から、17Oを濃縮する場合について以下に説明する。
原料酸素GOを、例えば無声放電式オゾナイザなどのオゾン生成手段11に導入してオゾンを生成する(オゾン生成工程)。原料酸素としては、純度99.99体積%以上の高純度酸素が好ましい。
オゾンのアイソトポマー(同位体を含む分子種)には、酸素同位体の種類及びその組み合わせから、161616O、161617O、161716O、161618O、161816O、161717O、171617O、161718O、171618O、161817O、171717O、161818O、181618O、171718O、171817O、171818O、181718O、181818Oの18種類が存在する。
【0012】
次に、生成したオゾンOZ1と未反応の原料酸素との混合ガスを光分解手段12に導入し、ここで特定波長の光L1を照射し、分子中に17Oを含まないオゾンのアイソトポマーを選択的に酸素に分解する(光分解工程)。この光分解手段12には、例えば上記混合ガスを貯留する容器と、この容器内の混合ガスに特定波長の光を照射する光源を少なくとも備えた光照射装置などが用いられる。
【0013】
オゾンに対し波長1180nm以下の光を照射することで、オゾンが分解することが知られており、18種のオゾンのアイソトポマーの種類によって光分解する波長がわずかに異なることも知られている。このため、照射波長を、例えば991〜993nmの範囲から選択することによって、分子中に17Oを含まないオゾンのアイソトポマーを選択的に光分解することができる。
【0014】
この光照射の際に、オゾンに電場を印加してシュタルク効果によりオゾンの吸収ピークをわずかにシフトさせ、光源の波長に合致させるようにすることもできる。また、温度100〜200K程度に冷却し、オゾンの自然分解を抑え、オゾンの吸収ピークを先鋭化して分解効率を高めてもよい。照射光源としては、上述の波長の光を発光する周知の発光ダイオード、半導体レーザ、YAGレーザなどが用いられる。
【0015】
光分解手段12から導出された、分子中に17Oを含むオゾンOZ2と酸素との混合ガスに、経路20からクリプトンなどの希ガスKGを添加し、オゾン分離手段13に導入する(オゾン分離工程)。
オゾン分離手段13は、分子中に17Oを含むオゾンOZ2と酸素と希ガスとの混合ガスから、酸素とオゾンOZ2および希ガスとを分離するもので、分離された酸素WOは、系外に排出される。オゾン分離手段13としては、低温蒸留を行う蒸留塔、シリカゲル等の吸着剤を充填した吸着塔などが用いられる。
【0016】
オゾン分離手段13によって分離された、分子中に17Oを含むオゾンOZ2と希ガスとの混合ガスを、オゾン分解手段14に導入する(オゾン分解工程)。オゾン分解手段14では、活性炭、金属触媒などを用いてオゾンOZ2を酸素に分解する。オゾン分解手段14に導入されるオゾンOZ2は分子中に17Oを含むから、特定のオゾンを選択的に分解する必要がないため、触媒などを用いた非選択的なオゾン分解が可能である。
【0017】
オゾン分解手段14から得られる酸素は、原料酸素GOよりも多くの17Oが含まれているため、目的の酸素同位体を濃縮できたことになる。
ここで、オゾン分解手段14から導出されるガスは、希ガスKGと分子中に17Oを含む酸素OCとの混合ガスである。この混合ガスを蒸留などの酸素濃縮手段15に導入し、希ガスKGと分子中に17Oを含む酸素OCとに分離することで、分子中に17Oを含む酸素OCの濃度を挙げることができる。この酸素濃縮手段15には、低温蒸留を行う蒸留塔や吸着塔などが用いられる。
【0018】
このとき、分離した希ガスKGを経路16、経路21を経由させ第1光分解手段12とオゾン分離手段13との間に導入すれば、希ガスを再利用することが可能になり、より経済的である。更に経路22から希ガスを補給することで、希ガスの量を調整することも可能である。
【0019】
この例のように、光分解手段12には、酸素原子から構成される酸素分子のみ(オゾンと原料酸素の残部)を供給し、特定の波長の光を照射して、濃縮目的の酸素同位体を含まないオゾンのアイソトポマーを選択的に光分解にするようにすることで、予期しない希釈ガスとの副反応のおそれもなく、特定の酸素同位体を含む酸素を効率よく得ることができる。
【0020】
以下、具体例を示す。
(実施例)
本発明の実施例として、図1に示す濃縮装置によって17Oおよび18Oを同時に濃縮した場合について示す。
原料として16O、17O、18Oの存在率が、それぞれ99.759%、0.037%、0.204%の高純度酸素を用い、以下のような操作を行った場合のシミュレーションを行った。
【0021】
(1)原料酸素をオゾン生成手段11でオゾンとする(オゾン生成効率10%)。
(2)得られたオゾンと酸素の混合ガスに、光分解手段12において特定の波長の光L1を照射し、17Oおよび18Oを含まないオゾン161616Oを選択的に分解する。
(3)光分解手段12からのオゾンと酸素の混合ガスに、希釈ガスKGとしてクリプトンを加え、オゾン分離手段13によって蒸留操作を行う。
(4)オゾン分離手段13から得たオゾンとクリプトンの混合ガスをオゾン分解手段14に導入し、全てのオゾンを酸素へと分解する。
(5)酸素濃縮手段15で蒸留操作を行ない、酸素OCとクリプトンKGを分離する。ただし、クリプトンKGはリサイクルせず、系外に排出するものとした。
シミュレーションの結果、天然存在比0.037%の17Oを約4.5%まで濃縮でき、天然存在比0.204%の18Oを、約25%まで濃縮できるという結果が得られた。
【0022】
(比較例)
比較のため、図2に示す従来の濃縮装置によって、実施例と同じ組成の原料酸素から17Oと18Oを同時に濃縮する場合のシミュレーションを行った。図2に示した濃縮装置は、特開2005−40668号公報に開示されたものである。図2において、図1に示したものと同一構成部分には同一符号を付してその説明を省略する。
図2に示された装置による濃縮では、目的の酸素同位体17Oを含むオゾンのアイソトポマーを光分解する従来方法である。
【0023】
実施例と異なる点は、オゾン生成手段11で発生させたオゾンOZを光分解手段12に導入する前に、未反応の酸素をオゾン分離手段13によって蒸留分離する点である。
(1)原料酸素をオゾン生成手段11でオゾンとする(オゾン生成効率10%)。
(2)得られたオゾンOZと酸素の混合ガスを希釈ガスKG(クリプトン)とともにオゾン分離手段13へ導入し、蒸留によって酸素WOとオゾンOZに分離する。
(3)オゾン分離手段13からのオゾンOZは、光分解手段12において特定の波長の光Lを照射し、161617Oを選択的に分解する。
(4)得られたオゾン、酸素、クリプトンの混合ガスを、酸素濃縮手段15において蒸留し、酸素OCを分離する。
【0024】
シミュレーションの結果、17Oは3.1%、18Oは0.2%まで濃縮できるというシミュレーション結果が得られた。原料酸素中の存在率からすれば、18Oは比較例でも100倍まで濃縮できたと言えるが、本発明による実施例では、1万倍まで濃縮が可能という結果が得られた。
【0025】
実施例および比較例の結果をまとめて、以下に示す。
光分解手段でターゲットとする 1718
オゾンのアイソトポマー (%) (%)
実施例 161616O 4.5 24.9
比較例 161617O 3.1 0.2
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の酸素同位体濃縮装置の一例を示す概略構成図である。
【図2】従来の酸素同位体濃縮装置の例を示す概略構成図である。
【符号の説明】
【0027】
11・・オゾン生成手段、12・・光分解手段、13・・オゾン分離手段、14・・オゾン分解手段、15・・酸素濃縮手段


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素を原料としてオゾンを生成するオゾン生成工程と、
このオゾン生成工程で生成したオゾンを含むオゾン含有ガスに光を照射し、分子中に目的の酸素同位体を含まないオゾンを選択的に酸素に分解する光分解工程と、
この光分解工程で生成した酸素と未分解のオゾンとを分離するオゾン分離工程と、
このオゾン分離工程において分離したオゾンを分解して生成した酸素中に目的の酸素同位体を濃縮するオゾン分解工程を備えた酸素同位体の濃縮方法。
【請求項2】
前記光分解工程が、原料酸素および前記オゾン生成工程において生成したオゾンのみを含む系で実施される請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法。
【請求項3】
前記オゾン分離工程において、不活性ガスを添加して分離する請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法。
【請求項4】
前記光分解工程において、分子中に16Oを含むオゾンを分解することで、17O及び/または18Oを濃縮する請求項1記載の酸素同位体の濃縮方法。
【請求項5】
原料酸素からオゾンを発生させるオゾン生成手段と、
このオゾン生成手段で生成した酸素とオゾンの混合ガスに光を照射して、分子中に目的の酸素同位体を含まないオゾンを選択的に酸素に分解する光分解手段と、
この光分解手段においてオゾンが分解して生成した酸素と未分解のオゾンとを分離するオゾン分離手段と、
このオゾン分離手段において分離したオゾンを分解し、生成した酸素中に目的の酸素同位体を濃縮するオゾン分解手段を有してなり、
前記オゾン生成手段と前記光分解手段との間に、オゾンと酸素を分離する手段を有しない酸素同位体濃縮装置。




【図1】
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【図2】
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