説明

酸素同位体標識用試薬

【課題】酸素同位体標識化合物を合成する際に反応が進行しやすく、多種類の酸素同位体標識化合物が得られ、しかも合成反応時に酸素同位体の濃縮度の低下の恐れがない酸素同位体標識化合物を得るための酸素同位体の供給源となる酸素同位体標識用試薬を得る。
【解決手段】ベンジルアルコール−18O、ベンジルアルコール−17O、p−メトキシベンジルアルコール−18O、p−メトキシベンジルアルコール−17Oなどの酸素同位体で標識された酸素同位体標識ベンジルアルコール類からなる酸素同位体標識用試薬である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、18Oまたは17Oの酸素同位体で標識された有機化合物を得るための酸素同位体標識用試薬およびこの試薬を得る方法ならびにこの試薬を用いて酸素同位体標識化合物を得る方法およびこの方法によって得られた酸素同位体標識化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
質量分析法により定量分析する際の内部標準物質やタンパク質などのNMRによる構造解析などのために酸素同位体標識化合物が用いられている。
この種の酸素同位体標識化合物を得る方法として、特開2006−8666号公報には、H17OまたはH18Oとアミノ酸などのカルボキシル基含有化合物とを活性剤の存在下に反応させて、カルボキシル基の酸素が17Oまたは18Oで標識されたカルボキシル基含有化合物を得る方法が開示されている。
【0003】
しかしながら、この合成方法では酸素同位体標識水とカルボキシル基含有化合物とをモル比で1:1で反応させた場合に反応が進行しにくい。大気中の軽水が混入する恐れがあり、酸素同位体濃縮度が低下する。酸素同位体で標識される化合物の種類が限定される。次反応を行うためには続けて保護基を挿入する必要があるなどの不都合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−8666号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明における課題は、酸素同位体標識化合物を合成する際に反応が進行しやすく、多種類の酸素同位体標識化合物が得られ、しかも合成反応時に酸素同位体の濃縮度の低下の恐れがない酸素同位体標識化合物を得るための酸素同位体の供給源となる化合物を得ることにある。
本発明では、酸素同位体標識化合物を得るための酸素同位体の供給源となる化合物を「酸素同位体標識用試薬」と称する。
【0006】
また、本発明における課題は、この酸素同位体標識用試薬を用いて酸素同位体標識化合物を合成する方法を得ることにある。
さらに、本発明における課題は、酸素同位体標識用試薬を合成する方法を得ることにもある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するため、
請求項1にかかる発明は、化学式(1)または(2)で表される酸素同位体標識ベンジルアルコール類からなる酸素同位体標識用試薬である。
【0008】
【化1】

【0009】
但し、化学式(1)および(2)において、Rは水素、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子または有機基であり、nは1〜5である。
【0010】
請求項2にかかる発明は、酸素同位体18Oまたは17Oの濃縮度が90atm%以上である請求項1記載の酸素同位体標識用試薬である。
請求項3にかかる発明は、請求項1または2記載の酸素同位体標識用試薬と有機化合物とをエーテル合成反応させて酸素同位体標識化合物を得る方法である。
請求項4にかかる発明は、エーテル合成反応させたのち、脱ベンジル化する請求項3記載の酸素同位体標識化合物を得る方法である。
【0011】
請求項5にかかる発明は、化学式(3)または(4)で表される酸素同位体標識化合物である。
【0012】
【化2】

【0013】
但し、化学式(3)および(4)において、Rは水素、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子または有機基であり、nは1〜5であり、Rは任意の有機基である。
【0014】
請求項6にかかる発明は、化学式(5)で表される化合物と酸素同位体標識水とを酸の存在下反応させて化学式(6)または(7)で表される酸素同位体標識ベンズアルデヒド類を得たのち、これを還元して前記化学式(1)または(2)で表される酸素同位体標識ベンジルアルコール類からなる酸素同位体標識用試薬を得る方法である。
【0015】
【化3】

【0016】
但し、化学式(5)において、Rは水素、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子または有機基であり、nは1〜5であり、Rは有機基である。
化学式(6)および(7)において、Rは水素、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子または有機基であり、nは1〜5である。
請求項7にかかる発明は、前記化学式(6)または(7)で表される酸素同位体標識ベンズアルデヒド類からなる酸素同位体標識用試薬である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の酸素同位体標識用試薬によれば、この試薬と任意の有機化合物とを効率よく等モル反応させることができ、酸素同位体を高い濃縮度を保ちつつ酸素導体標識化合物を合成できる。また、反応には有機溶媒を用いるため、大気中の軽水(H16O)の混入による同位体濃縮度の低下がない。
【0018】
さらに、その反応が加水分解反応ではないので軽水が反応系に混入しても不都合を生じることがない。
また、酸素同位体標識用試薬と反応させる有機化合物として、様々な化合物が使用可能で限定が少ない。また、ベンジル基が反応時に保護基としても機能するので、改めて保護基を導入する必要がない。
【0019】
本発明の酸素同位体標識化合物にあっては、酸素同位体濃縮度が高く、これを質量分析の内部標準物質やトレイサーなどとしたときに検出感度が高くなる。
本発明の酸素同位体標識用試薬を得る方法によれば、酸素同位体標識用試薬を効率よく合成することができる。
本発明の酸素同位体標識化合物を得る方法によれば、酸素同位体標識用試薬から効率よく酸素同位体標識化合物を合成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】ベンズアルデヒド−18Oとベンズアルデヒドのマススペクトルである。
【図2】ベンジルアルコール−18Oとベンジルアルコールのマススペクトルである。
【図3】3,6−ビスベンジキシピリダジン−18と3,6−ビスベンジキシピリダジンのマススペクトルである。
【図4】マレイン酸ヒドラジン−18とマレイン酸ヒドラジンのマススペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下の実施形態での説明においては、酸素同位体として酸素18を用いたものを代表例として例示して記述するが、酸素17を用いたものでも同様であるのでその記載は省略する。
【0022】
本発明の酸素同位体標識用試薬は、前記化学式(2)で表される酸素同位体標識ベンジルアルコール類からなるものである。
化学式(2)におけるRとして有機基としては、本発明の効果を妨げないものであれば特に限定さない。
具体的には、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシアルキル基、アリールオキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルボニルオキシアルキル基、アルキルカルボニルオキシ基、アリールカルボニルオキシ基、ヒドロキシアルキル基、ヒドロキシアリール基が例示できる。
【0023】
前記Rとしてのアルキル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良い。直鎖状及び分岐鎖状のアルキル基は、炭素数が1〜5であることが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基が例示できる。
なかでも、炭素数が1〜3であるものがより好ましく、メチル基が特に好ましい。環状のアルキル基は、単環式及び多環式のいずれでも良く、炭素数が5〜10であることが好ましく、炭素数が5〜7であることがより好ましい。
【0024】
前記Rとしてのアルケニル基及びアルキニル基は、直鎖状、分岐鎖状及び環状のいずれでも良い。直鎖状及び分岐鎖状のものは、炭素数が2〜4であることが好ましい。環状のものは、単環式及び多環式のいずれでも良く、炭素数が5〜10であることが好ましく、炭素数が5〜7であることがより好ましい。
前記Rとしてのアリール基は、単環式及び多環式のいずれでも良いが、単環式のものが好ましく、フェニル基又はトリル基が特に好ましい。
前記Rとしてのアリールアルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも一つの水素原子が前記アリール基で置換されたものが例示できる。前記アリール基で置換される水素原子の数は、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
前記Rとしてのアルコキシ基としては、前記アルキル基の炭素原子が酸素原子に結合したものが例示できる。具体的にはメトキシ基、エトキシ基が例示できる。
【0025】
前記Rとしてのアリールオキシ基としては、前記アルコキシ基の酸素原子に結合しているアルキル基が前記アリール基で置換されたものが例示できる。
前記Rとしてのアルコキシアルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも一つの水素原子が前記アルコキシ基で置換されたものが例示できる。前記アルコキシ基で置換される水素原子の数は、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。
前記Rとしてのアリールオキシアルキル基としては、前記アルコキシアルキル基の酸素原子に結合しているアルキル基が前記アリール基で置換されたものが例示できる。
前記Rとしてのアルコキシカルボニルアルキル基としては、前記アルコキシアルキル基の「−O−」が「−O−C(=O)−(ただし、炭素原子に単結合で結合している酸素原子はアルキル基に、炭素原子はアルキレン基にそれぞれ結合する)」で置換されたものが例示できる。
【0026】
前記Rとしてのアルコキシカルボニル基としては、前記アルコキシ基の酸素原子がカルボニル基に結合したものが例示できる。
前記Rとしてのアリールオキシカルボニル基としては、前記アルコキシカルボニル基のアルキル基が前記アリール基で置換されたものが例示できる。
前記Rとしてのアルキルカルボニルオキシアルキル基としては、前記アルコキシカルボニルアルキル基の「−O−C(=O)−」が「−C(=O)−O−」で置換されたものが例示できる。
【0027】
前記Rとしてのアルキルカルボニルオキシ基としては、前記アルコキシカルボニル基の「−O−C(=O)−」が「−C(=O)−O−」で置換されたものが例示できる。
前記Rとしてのアリールカルボニルオキシ基としては、前記アルキルカルボニルオキシ基のアルキル基が前記アリール基で置換されたものが例示できる。
前記Rとしてのヒドロキシアルキル基としては、前記アルキル基の少なくとも一つの水素原子が水酸基で置換されたものが例示できる。水酸基で置換される水素原子の数は、1又は2であることが好ましく、1であることがより好ましい。なかでも、炭素数が1〜3であるものが好ましく、ヒドロキシエチル基が特に好ましい。
前記Rとしてのヒドロキシアリール基としては、前記ヒドロキシアルキル基のアルキレン基が、前記アリール基から水素原子を一つ除いたアリーレン基で置換されたものが例示できる。
【0028】
前記Rとしては、水素、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子のいずれであってもよい。
前記Rとしてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子が例示できる。
は1個でも、2個ないし5個でも構わない。
【0029】
これらの酸素同位体標識ベンジルアルコール類のなかでも、ベンジルアルコール−18O、p−メトキシベンジルアルコール−18Oが実用上好適である。
【0030】
また、本発明の酸素同位体標識用試薬の酸素同位体濃縮度は、90atm%以上、このましくは95atm%以上、より好ましくは98atam%以上であることが望ましく、この酸素同位体標識用試薬を用いて合成される酸素同位体標識化合物の酸素同位体濃縮度が高くなり、これを各種トレイサー、内部標準物質などに用いた場合の検出感度等が高くなって好適である。
本発明での酸素同位体濃縮度は、質量分析計(EI−MS)によるマススペクトルデータにより各フラグメントピーク強度に基づいて算出したものを言う。
【0031】
本発明の酸素同位体標識用試薬を得る方法は、前記化学式(5)で表される化合物(シッフ塩基)と酸素同位体標識水(H18O)とを酸の存在下に加水分解反応させて前記化学式(7)で表される酸素同位体標識ベンズアルデヒド類を得る。ついで、これを還元することによって化学式(2)で表される標識用試薬を得ることができる。
化学式(5)で表される化合物におけるRは、任意の有機基でよいが、例示するならば、炭化水素基、ヘテロ原子含有基であり、これらは少なくとも1つの水素原子が任意の炭化水素基または後述するヘテロ原子含有基で置換されてもよい。炭化水素基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基が挙げられる。具体的にはフェニル基、ナフチル基が例示できる。
ヘテロ原子含有基としては、酸素原子、窒素原子、イオウ原子を含む基が挙げられ、少なくとも1つの水素原子が任意の炭化水素基またはヘテロ原子含有基で置換されてもよい。具体的なヘテロ原子含有基としてはヒドロキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロアリール基、スルホニル基、ニトロ基、アミノ基、シアノ基、カルボニル基が挙げられる。
【0032】
化学式(5)で表される化合物の具体例としては、α−ベンザルドオキシム、ベンジリデンアニリン、ベンズアルデヒド−4−ニトロフェニルヒドラゾン、ベンズアルデヒドフェニルヒドラゾン、4−ベンジリデンアミノフェノール、N−ベンジリデンベンゾスルホンアミド、ベンジリデン−2−ナフチルアミン、ベンズアルデヒドフェニルヒドラゾン、ベンズアルデヒド−2,4−ジニトロフェニルヒドラゾンなどが挙げられる。
【0033】
また、反応に用いられる酸素同位体標識水の酸素同位体濃縮度は、90atm%以上、好ましくは95atm%以上、より好ましくは98atam%以上であるものが用いられる。
【0034】
酸としては、酸であれば何でもよいが、好ましくは交換性の16Oを含有しない酸が用いられる。例えば、18O酸素水の塩酸、18O酸素水の硫酸、18Oメタノール塩酸、ジオキサン塩酸、エーテル塩酸、その他無機酸、また水と反応して酸素を発生する化合物、アセチルクロライド、五塩化りん、インモニウムクロライド、ホスゲンインモニウムクロライド、チオニルクロライド、クロロメチレンジメチニウムクロリドなどが用いられる。
【0035】
加水分解反応時に用いる溶媒は、化学式(5)で表される化合物を溶解可能な有機溶媒であれば特に限定されない。例えばメタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール、ジクロロメタン、ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン、ジエチルエーテルなどが用いられる。
加水分解反応の条件は、温度範囲20℃〜100℃、時間30分〜12時間、モル比1〜10モル程度とされるがこの範囲で限定されることはない。
【0036】
化学式(7)で表される酸素同位体標識ベンズアルデヒド類の還元は、還元剤と反応させることで行うことができる。
還元剤としては、公知の還元剤を適宜用いることができる。例示するならば、ジボラン(B)、水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、シアノ水素化ホウ素ナトリウム(NaBHCN)、水素化トリエチルホウ素リチウム(LiBH(C)、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素リチウムLiBH(sec−C)、水素化トリ(sec−ブチル)ホウ素カリウム(KBH(sec−C)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL−H)、水素化アルミニウムリチウム(LAH)、(LiAlH)、LiBH(OCH、NaBH、AlH(i−Bu)、LiCuH−n−Buあるいは化学式(8)、(9)で示される化合物などが挙げられる。
還元条件は公知の条件でよい。例示するならば、温度:−78℃〜25℃、時間:数分〜10時間、モル比:還元剤/アルデヒド=0.3〜1.0程度とされる。
【0037】
【化4】

【0038】
本発明では、前記化学式(2)で表される酸素同位体標識ベンジルアルコール類を酸素同位体標識用試薬として用い、反応式(10)に示すように、任意のハロゲン化有機化合物と反応させてエーテルを生成させ、その後、脱ベンジル化することにより前記化学式(4)で表される酸素同位体標識化合物を合成することができる。
【0039】
【化5】

【0040】
但し、反応式(10)において、Rは任意の有機基であり、Xはハロゲン原子である。
アルコール類中の酸素は比較的安定であり、数多くの既知有機合成方法により酸素導体標識化合物を合成することができる。
例えば、エーテル合成反応では、アルキル化剤を用いた反応、不飽和結合への付加反応ハロゲンによる縮合反応など、公知の反応を適用できる。
【0041】
エーテル合成反応の後の脱ベンジル化は公知の条件で行うことができる。
以下に本発明の酸素同位体標識化合物を得るための反応例を反応式(11)〜(14)に示す。反応式(11)〜(14)で合成された化合物が本発明での前記化学式(4)で表される酸素同位体標識化合物の具体例となる。
【0042】
【化6】

【0043】
但し、反応式(11)〜(14)において、Bnはベンジル基、Arはアリール基、Het−Arはヘテロアリール基を示す。ヘテロアリール基とは、環中の1つ以上の炭素原子が例えば窒素、酸素またはイオウのような炭素以外の元素(1つまたは複数)で置き換えられ、約5〜10員の芳香族単環式炭化水素基または多環式炭化水素基を言う。
【0044】
また、本発明では、酸素同位体標識用試薬である酸素同位体標識ベンジルアルコール類を合成する過程で得られる酸素同位体標識ベンズアルデヒド類(前記化学式(7)で表される化合物)を用いても、各種酸素同位体標識化合物を合成することも可能である。
以下の反応式(15)〜(19)にその具体例を示す。
【0045】
【化7】

【0046】
反応式(15〜(19)において、R、R、Rは有機基である。
【0047】
以下、具体例を示す。
<実施例1>
1)ベンジルアルコール−18Oの合成例
1)−1 工程1
ベンジリデンアニリン49.4g、H18O(商品名Water−18O(98.9atom%18O))30g、4M塩酸/1、4−ジオキサン溶液68.1mL、ジクロロメタン300mLをフラスコに入れ、50度にて2時間反応させた。分液後、蒸留により透明液体を得た。
H−NMR、EI−MSでベンズアルデヒド−18Oと同定した。収量24.7g(収率83.8%)18O濃縮度95.5atom%
H−NMR:(270MHz,DMSO−d6)ppm:10.0(s,1H、CHO),7.89(d,J=7.56Hz、2H)、7.64(t、J=7.02Hz、1H)、7.56(t、J=7.08Hz、2H)
EI−MS:m/e for C18O,calculated 108.12 ,found 108.1
図1にベンズアルデヒド−18Oのマススペクトルを示した。比較のためにベンズアルデヒドのマススペクトルも示した。
【0048】
1)−2 工程2
ベンズアルデヒド−18O(95.5atom%)5.3g(0.049mol)、メタノール50mLをフラスコに入れ攪拌中に水素化ホウ素ナトリウム0.945gを添加した。反応後、塩酸で中和し、分液により抽出した。蒸留精製により透明液体を得た。
H−NMR、EI−MSでベンジルアルコール−18Oと同定した。収量3.96g(収率73.5%)、18O濃縮度96.5atom%
H−NMR:(270MHz,DO)ppm:7.4−7.19(m,Ph−H、5H),4.50(s,CH2、2H),
EI−MS:m/e for C18O,calculated 110.14,found 110.0
図2にベンジルアルコール−18Oのマススペクトルを示した。比較のためにベンジルアルコールのマススペクトルも示した。
【0049】
以上の反応を下記反応式(20)に示す。
【0050】
【化8】

【0051】
<実施例2>
シアノエタノール−18O(Cyanoethanol−18O)の合成
ベンジルアルコール−18O(95.7atom%18O)1.6g、水素化ナトリウムinオイル(50%)16.6mgをフラスコに入れ撹拌しながら、アクリロニトリル1.59gを滴下した。反応終了後、シリカゲルカラムで精製を行い、淡黄色透明液体を得た。
H−NMR、EI−MSで3−ベンゾキシプロピオニトリル−18Oと同定した。収量2.1g(収率85.2%)18O濃縮度94.12atom%
H−NMR:(270MHz,CDCl3) ppm:7.2−7.3(m,Ph−H、5H),3.58(t,J=6.48Hz,2H), 2.52(t,J=6.21Hz,2H)
EI−MS:m/e for C101118O,calculated 163.20,found 163.0
【0052】
ついで、3−ベンゾキシプロピオニトリル−18O(95.7atom%18O)163mg、トリメチルシリルヨージド200mg、アセトニトリル10mlをフラスコに入れ、70度にて一晩反応させた。反応終了後、ヘキサンと水で分液を行い、透明液体を得た。
H−NMR、EI−MSでシアノエタノール−18Oと同定した。18O濃縮度95.3atom%
H−NMR:(270MHz,CDCl3) ppm:3.84(t,J=6.21Hz,2H),2.60(t,J=6.21Hz,2H),
EI−MS:m/e for C18O,calculated73.08 ,found 73.0
【0053】
以上の反応を下記反応式(21)に示す。
【0054】
【化9】

【0055】
<実施例3>
マレイン酸ヒドラジド−18O(Maleic acid hydrazide−18O)の合成
この化合物は農薬ポジティブリスト該当化合物(質量分析用内部標準物質用途)である。
水素化ナトリウムinオイル(50%)240mg、DMF5mlをフラスコに入れ氷冷しながら撹拌した。そこへベンジルアルコール−18O(95.7atom%18O)550mg、3,6−ジクロロピリダジン298mgを順に添加し、70度で3時間反応させた。反応終了後、ろ過及び再結晶により鱗片状白色結晶を得た。
H−NMR、EI−MSで3、6−ビスベンゾキシピリダジン−18Oと同定した。収量0.45g(収率76.1%)18O濃縮度 93.9atom%
H−NMR:(270MHz,CDCl3)ppm:7.24−7.48(m,10H),(6.98d,J=3.10Hz,2H)
EI−MS:m/e for C181618,calculated 296.33,found 296.0
図3に3、6−ビスベンゾキシピリダジン−18と3、6−ビスベンゾキシピリダジンとのマススペクトルを示す。
【0056】
ついで、3,6−ビスベンゾキシピリダジン−18O(93.9atom%)292mg、アセトニトリル2mlをフラスコに入れ撹拌しながら、トリメチルシリルヨージド600mg滴下し、室温にて30分間反応させた。反応終了後、メタノールを加え、ジエチルエーテルを用いて再結晶し、淡黄色結晶を得た。
H−NMR、EI−MSでマレイン酸ヒドラジド−18Oと同定した。収量65.8m g(収率57.5%)18O濃縮度 93.5atom%
H−NMR:(270MHz,CDCl3) ppm:6.90(br,2H),10.83(br、NH),11.89(br、OH)
EI−MS:m/e for C18,calculated 116.09,found 116.0
図4にマレイン酸ヒドラジド−18とマレイン酸ヒドラジド−18とのマススペクトルを示す。
【0057】
以上の反応を下記反応式(22)に示す。
【0058】
【化10】

【0059】
なお、図1ないし図4に示したマススペクトルの測定条件は以下の通りである。
分析計 二重収束型質量分析計(AX505W)
試料導入法 試料直接導入法
イオン化法 電子イオン化法
イオン化電圧 30eV
イオン源温度 250℃
測定モード SCAN測定
測定質量範囲 M/Z=40〜300

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式(1)または(2)で表される酸素同位体標識ベンジルアルコール類からなる酸素同位体標識用試薬。
【化1】

但し、化学式(1)および(2)において、Rは水素、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子または有機基であり、nは1〜5である。
【請求項2】
酸素同位体18Oまたは17Oの濃縮度が90atm%以上である請求項1記載の酸素同位体標識用試薬。
【請求項3】
請求項1または2記載の酸素同位体標識用試薬と有機化合物とをエーテル合成反応させて酸素同位体標識化合物を得る方法。
【請求項4】
エーテル合成反応させたのち、脱ベンジル化する請求項3記載の酸素同位体標識化合物を得る方法。
【請求項5】
化学式(3)または(4)で表される酸素同位体標識化合物。
【化2】

但し、化学式(3)および(4)において、Rは水素、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子または有機基であり、ハロゲン原子または有機置換基であり、nは1〜5であり、Rは任意の有機基である。
【請求項6】
化学式(5)で表される化合物と酸素同位体標識水とを酸の存在下反応させて化学式(6)または(7)で表される酸素同位体標識ベンズアルデヒド類を得たのち、これを還元して前記化学式(1)または(2)で表される酸素同位体標識ベンジルアルコール類からなる酸素同位体標識用試薬を得る方法。
【化3】

但し、化学式(5)において、Rは水素、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子または有機基であり、nは1〜5であり、Rは有機基である。
化学式(6)および(7)において、Rは水素、水酸基、カルボキシ基、アミノ基、シアノ基、ニトロ基、ハロゲン原子または有機基であり、nは1〜5である。
【請求項7】
前記化学式(6)または(7)で表される酸素同位体標識ベンズアルデヒド類からなる酸素同位体標識用試薬。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−57557(P2011−57557A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205306(P2009−205306)
【出願日】平成21年9月4日(2009.9.4)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】